韓国における安全保障に係る発明の保全と保全に関する対価について
1.安全保障に係る発明の保全に関する制度の法的枠組み
1-1.特許法上の国防関連条文の歴史的変遷
安全保障に係る発明、すなわち国防上必要な発明に関する規定の歴史的な変遷は、次のとおりである。
1952年4月13日当時(法律第238号一部改正時)の韓国特許法(以下「特許法」という。)第34条によると、発明が公益上または軍事秘密上、有害であると思われるときには秘密保持を命じ、特許を保留できると規定している。
1961年12月31日当時(法律第950号全部改正時)の特許法第17条によると、国防上、公益上で必要な場合に制限、収用、取消しできるように規定していた。つまり、国防上だけでなく公益上で必要な場合も含まれていた。
1990年1月13日当時(法律第4207号全部改正時)の特許法第41条で、公益上が削除され、国防上に必要な場合にのみ制限、収用、取消しできるよう変更された。
そして、2014年6月11日当時(法律第12753号一部改正時)の特許法第41条において修正はなく、国防上で必要な場合にのみ適用されるように規定されており、現行法と同一である。
1-2.特許法および施行令等の関連規定
国防関連特許の規定は、特許法および実用新案法、特許法施行令、特許庁訓令および告示、審査基準等において詳細事項を定めており、列挙すると下記の規程がある。特に特許・実用新案審査基準(特許庁例規第131号/2023.03.22改正)に総合整理されている。
・国防上必要な発明等(特許法第41条)
・特許権の収用(特許法第106条)
・政府等による特許発明の実施(特許法第106条の2)
・補償金又は対価に関する不服の訴え(特許法第190~191条)
・国防関連特許出願の秘密取扱等(特許法施行令第3章第11~16条)
・特許・実用新案審査基準(第7部第3章 国防関連出願審査)(特許庁例規第131号,2023.03.22改正)
・国防関連特許出願の分類基準(特許庁訓令第822号,2015.07.25改正)
・特許実用新案審査事務取扱規定(第3節 国防関連出願)(特許庁訓令第665号,2010.04.28)(同令第866号,2017.03.01)
・出願関係事務取扱規定(第14条)(特許庁訓令第814号,2015.05.07)
・登録事務取扱規定(第17条)(特許庁訓令第792号,2014.12.01)
・特許権の収用実施等に関する規定(大統領令第23488号,2012.01.06日改正)
・保安業務規程(大統領令第31354号,2020.12.31日改正)
・特許庁保安業務規程施行細則(特許庁訓令第641号,2009.11.02一部改正)
・大韓民国の政府とアメリカ合衆国の政府間の特許出願がされた国防関連発明の秘密保護に関する協定(1992.01.06署名,1993.07.29発効)
・上記協定および同施行手続の細部施行要領(特許庁告示第2009-19号,2009.08.24改正)
2.発明の保全に関する制度の内容
2-1.保全対象となる出願に係る発明のスクリーニング方法(明細書等に保全対象となる発明が開示されているかの判断基準(特定技術分野等)、判断手法)
国防関連出願の分類基準は、特許庁長(特許庁長官)が防衛産業庁長と協議して定めることになっている。
国防関連出願は、韓国特許庁訓令第822号(国防関連特許出願の分類基準)に該当するとして、審査官が国防関連出願で確定分類した後、防衛事業庁でも同一に認められた出願である。
国防関連出願に該当する国際特許分類は、航空、潜水艦、ミサイル、装甲車等の機械関連分類8つと爆薬、起爆装置等の化学関連分類の4つがある(特許庁訓令822号別表参照)。
上記国防関連分類基準に該当するとしても、国内の住所または営業所を持つ者の出願でない場合、防衛事業法等の規定による主要防産物資に該当しない場合、国防性秘密にならないものと認められる場合は除外される(特許庁訓令822号第2項参照)。
特許協力条約による国際出願が、国防関連特許出願の分類基準に該当するときは、特許協力条約第12条の規定による記録原本および調査用写本を国際事務局および管轄国際調査機関へ送付することを保留し、管掌審査局へ国際出願書類一切を移送する。
2-2.保全対象となるかの審査取扱手続(専門審査機関及び審査の内容等)
特許庁長は、国内に住所または営業所を持つ者の特許出願が国防関連分類基準に該当される場合には、防衛事業庁長へ秘密として分類し取り扱う必要があるか否かを照会しなければならず、照会事実を発明者·出願人·代理人へ通知して保安を維持するよう要請しなければならない。
特許庁長は、防衛事業庁長に照会した場合には、その特許出願の発明者、出願人、代理人およびその発明を知っていると認められるものに、その事実を通知して保安を維持するように要請しなければならない。
防衛事業庁長は、照会を受けた場合、2か月以内に返信しなければならず、その特許出願について秘密の取り扱いが必要であると認める場合には、特許庁長に秘密として分類し取り扱うよう要請しなければならない。
特許庁長は、秘密として分類し取り扱うことの要請を受けた場合には、「保安業務規程」に従って必要な措置を取り、その特許出願の発明者等へ秘密として分類し取り扱うよう命じなければならない。秘密に取り扱うことの要請を受けなかった場合には、その特許出願の発明者等には、保安維持要請の解除通知をしなければならない。
特許庁長は、秘密からの解除、秘密保護期間の延長または秘密等級の変更要否を年2回以上防衛事業庁長と協議して必要な措置をとらなければならない(特許法施行令第12条、第13条参照)。
2-2-1.出願人が国防関連出願として表示した場合の審査取扱手続
出願人が、国防関連出願として表示した場合、該当出願を対外秘として受付した後、防衛事業庁長に出願書類の副本を送付し、秘密取扱が必要であるかを協議する。
当該発明についての出願人の代理人へ、保安を維持するよう要請する。
防衛事業庁に協議した結果、秘密取扱として要請を受けた場合、出願人等に秘密取扱命令等の保安業務規程により措置をとる。
該当出願は、書誌事項のみ電算入力後、特許審査企画課に移管して特許分類を確定した後、該当分類審査局に移管する。
秘密出願に対する審査過程は、一般出願の審査過程と同一であり、審査順位が来たら審査する。ただし、秘密として管理されるため、秘密出願書類を審査局で貸し出し審査進行をする等の関連秘密維持規定に従う。
2-2-2.国防関連出願として表示ない場合の審査取扱手続
出願人が、国防関連出願として表示しない場合、出願分類表示において主分類または部分類が国防関連特許分類として確定される場合、審査官は国防関連出願として管理すべきか否かを決定しなければならない。
出願が、国防関連分類基準に適合すると判断される場合、防衛事業庁に送付し秘密取扱の是非を照会し、上記1項のような手続を踏んでいるか審査する。
2-3.保全対象と判断された場合の措置
2-3-1.特許出願の非公開(公開禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)
防衛事業庁に協議した結果、秘密として取扱要請を受けた場合、出願人等に秘密取扱命令および保安業務規程により秘密として取扱うよう命じなければならない。(特許法41条1項、施行令12条)
秘密として分類された出願に対しては、秘密取扱の解除時まで出願公開または登録公告を保留しなければならず、その秘密取扱が解除されたときには、遅滞なく出願公開または登録公告をしなければならない。
審査官が、秘密として分類された出願を審査した結果、技術内容が秘密として維持する必要がないと認められる場合には、秘密解除の可否を防衛事業庁と協議することができる。
秘密として分類された出願に対する通知書は、対外秘で作成し、決裁、発送等は書面により行わなければならない。
秘密として分類された出願の登録書類は、秘密が解除される前までに特許審査企画課で管理し、秘密が解除される場合は一般出願書類として取り扱い、拒絶決定された出願書類は情報管理課長が管理番号を付与して一般秘密文書と同一の規定により保管、管理する(特許庁例規第131号参照)。
2-3-2.外国出願の禁止(外国出願禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)
特許出願が、国防上必要な場合と確定された場合、外国出願の禁止を命ずることができる(特許法41条1項)。
国内に住所または営業所を有する者が、特許出願した発明が特許庁長から保安維持の要請を受けたり、秘密として分類し取り扱うよう命令を受けた場合であっても、特許庁長の許可を受けた場合には、外国に特許出願をしたりすることができる(特許法施行令第15条)。
特許庁長は、秘密として取り扱われている発明の一定範囲の公開または実施許可、外国への特許出願の許可をしようとする場合には、あらかじめ防衛事業庁長と協議しなければならない(特許法施行令第16条)。
韓国は、米国と国防関連発明の秘密保護に関する協定を締結し、両国間における国防関連発明の秘密保障、および両国間に対しての出願を許可している。ただし、秘密取扱認可を受けた代理人の指定等、上記協定内容を遵守しなければならない(大韓民国の政府とアメリカ合衆国の政府間の特許出願がされた国防関連発明の秘密保護に関する協定および同施行手続の細部施行要領第6条)。
2-3-3.その他の保全措置(実施及び実施許諾の制限等)
特許発明が戦時、事変またはこれに準ずる非常時に国防上必要な場合には、特許権を収用することができ、特許権外の専用実施権・通常実施権も消滅する(特許法第106条第1、2項)。
2-4.保全対象とされた場合の補償(補償制度の有無、主体的要件、補償請求理由及び補償請求額)
出願人は、外国への特許出願が禁止されたことによる損失または秘密として取り扱うことによる損失に対する補償金を防衛事業庁長に請求することができ、請求する場合、補償金請求書と損失を立証できる証拠資料を提出しなければならない(特許法施行令第14条第1項、第2項)。
防衛事業庁長は、出願人から補償金の請求を受けた場合には、補償額を決定し支給しなければならず、必要な場合には特許庁長と協議することができる(特許法施行令第14条第3項)。
特許権を収用する場合には、特許権外の権利も消滅するため、特許権者、専用実施権者または通常実施権者に対して正当な補償金を支給しなければならない。(特許法第106条第3項)
政府または第一項による政府外の者は、第一項により特許発明を行う場合には、特許権者、専用実施権者または通常実施権者に正当な補償金を支給しなければならない(特許法第106条の2第3項)。ただし、上記秘密取扱命令に違反した場合、また外国出願禁止命令に違反した場合、特許を受ける権利および損失補償金の請求権も放棄したものとみなす(特許法41条5項、6項)。
2-5.保全措置に対する不服申立(不服申立手段の有無、主体的要件、申立の内容・手続)
特許が国防上必要な場合、政府は外国へ特許出願することを禁止すること(特許法第41条第1項)や、特許しないことができ(特許法第41条第2項)、戦時、事変またはこれに準ずる非常時には、特許を受けられる権利または特許権を収用できる(特許法第41条第2項、第106条第1項)。または、特許発明が国家非常事態、極度の緊急状況または公共の利益のために非商業的に実施する必要がある場合には、政府がその特許発明を実施すること、政府外の者に実施させることができる(特許法第106条の2)。このような決定等は、一般的に主務部長官の申請により特許庁長の決定という行政処分により行われ(特許権の収用実施等に関する規定第2条第1項)、該当決定は行政処分に該当するため行政審判または行政訴訟を介して不服申立ができる。
一方、国防上の必要性による海外への特許出願禁止や特許等の収用および実施については、政府が正当な補償金を支給するよう規定しているが、特許法では別途の規定を介して補償金または代価に対する不服訴訟を提起できるように定めている(特許法第190条)。このとき、(ⅰ)外国への特許出願禁止および特許しなかったり、収用したりした場合に対する補償金については、中央行政機関の長または出願人、(ⅱ)特許権の収用や政府の特許実施等による補償金に対しては、中央行政機関の長、特許権者、専用実施権者または通常実施権者を被告にするよう定めている(特許法第191条)。
3.まとめ及び留意点
特許庁は、国防関連機関とのMOU契約(基本合意書)を締結しながら、国防特許技術の導入を願う企業に先端技術協力および活性化のために積極支援するものと見られ、これにより関連特許技術の高度化も期待している。
また、半導体分野技術を核心産業育成技術と定め、先端技術流出の防止策とともに、国家経済安保に関連する技術に対しても秘密特許制度適用対象に拡大する等の多様な政策と関連特許法等の改正の動きも見られる。
したがって、今後は、日本等の国際的趨勢に合わせた法改正に注視する必要があると思われる。