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ロシアにおける商標制度のまとめ-手続編

1. 出願に必要な書類
 商標出願の要件は、民法第1492条および商標出願書類の要件により定められている。
 商標出願には、出願人に関する情報、出願する商標、その説明、および、商標登録を目的とする商品およびサービスの国際分類(ニース分類)のクラスに従ってグループ化された、保護を求める商品またはサービスのリストが含まれなければならない。
 外国出願人は、ロシア特許庁(ロスパテント、Rospatent)に対して登録された商標弁護士を代理人とする必要がある。出願書類と共に委任状を提出することは必須ではないが、出願の手続中に要求される。委任状は、出願人により発行され、権限を有する者の署名がその者の氏名および職位とともに必要である。公証や認証の必要はない。委任状は、出願後、ロシア特許庁の求めから3月以内に提出する必要がある。
 従来の優先権(パリルート等)を主張する場合、最初の(第一国)出願の認証謄本を提出する必要がある。出願内容は、最初の出願のものと一致させる必要がある。最初の出願の認証謄本は、出願をロシア特許庁に提出した日から3月以内に提出する必要がある。

参考情報:
「商標出願書類の要件」(2020.11.23)
https://new.fips.ru/documents/npa-rf/prikazy-minekonomrazvitiya-rf/prikaz-ministerstva-ekonomicheskogo-razvitiya-rf-ot-20-iyulya-2015-g-482.php#II

関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/
「ロシアにおける法制度・代理人・知的財産権情報等」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13865/
「ロシアにおける指定商品または役務に関わる留意事項」(2016.05.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11152/
「ロシアにおける優先権主張の手続」(2020.12.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19645/
「ロシアにおける小売役務の保護の現状」(2018.06.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15358/

2. 登録できる商標/登録できない商標
2-1. 登録できる商標の種類
 文字列、図形、文字列と図形の要素からなる複合標章、非伝統的標章(立体標章、におい標章、動き標章、位置標章、音標章、色標章、その他標章)は、商標として登録することができる。商標として登録可能な標章のリストは、網羅的ではない。

1-2. 登録できない商標の種類
 ある事業者の商品または役務を他の事業者の商品または役務から識別することができないものは、商標として登録することができない。

1-3. 通常以外の商標の登録システム
 民法には、団体商標や周知商標の登録についても規定されている。
 団体商標とは、組合、事業者団体、事業関係者またはその他の任意事業団体の標章であって、その団体の構成員である者が生産しまたは販売する商品が、品質またはその他の特性において共通の特徴を有することを示すことが意図された標章と定義されている。
(民法第1510条および第1511条)
 団体商標の出願には、商標の使用に関する規則を定めた団体商標憲章を添付する必要がある。規則には、商標をその名で登録する権利を有する団体の名称、および商標を使用する権利を有する企業のリスト、商標の登録目的、商品のリストとその共通特性(品質またはその他に関する)の説明、商標の使用条件、商標の使用が管理される原則、規則違反に対する制裁を示さなければならない。商標を使用する権利を有する企業の名称と、商標が登録された商品の共通特性に関する規則からの抜粋は、ロシア特許庁の公式公報に掲載される団体商標の登録公報に記載される。登録権者は、規則の改正についてロシア特許庁に通知しなければならない。

 団体商標が共通の質的特性またはその他の共通特性を持たない商品に関して使用されている場合、利害関係者は知的財産権裁判所に団体商標の登録の全部または一部の取消を請求することができる。団体商標は第三者に譲渡または使用許諾することができない。
(民法第1514条第1項第2号)
 団体商標および団体商標の登録出願は、それぞれ商標または商標出願に変更することができる。
(民法第1511条第4項)

 ロシアでは周知商標が保護される。企業家または法人の要求により、無登録商標、登録商標またはその他の方法で保護されている商標として使用されている標識は、当該個人または法人の商品に関して消費者の関連部門で広く知られるようになった場合、ロシア連邦において周知であるとみなされる。ロシア特許庁によるしかるべき決定により、周知商標は周知商標リストに登録される。
(民法第1508条および第1509条)

関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/
「ロシアにおける商標の識別力」(2014.04.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/5841/
「ロシアにおける商標制度」(2013.09.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/3758/

3. 出願の言語
 出願の言語はロシア語でなければならない。
(民法第1492条第6項)

関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/

4. グレースピリオド
 商標について、特許法でいうようなグレースピリオドはない。
 ただし、商標に関連して、優先権と商標の出願期限について議論することは可能である。まず、商標の優先権は、パリ条約の加盟国における最初の商標登録出願の最初の出願日から6月以内にロシア特許庁に出願した場合に認められる。
(民法第1495条第1項)
 次に、パリ条約の加盟国のいずれか1つの領域内で開催された公式または公的に認められた国際的な展示会においてその商標が展示された日を基準とする商標の優先権が、その日から6月以内にロシア特許庁に商標出願をすることにより認められる。
(民法第1495条第2項)

関連記事:
「ロシアにおける優先権主張の手続」(2020.12.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19645/

5. 審査
5-1. 実体審査
 ロシアにおける実質的な審査は、申請された名称が登録可能要件に適合しているかどうかを確認するために行われる。商標出願は、絶対的もしくは相対的な理由のいずれかまたは絶対的もしくは相対的な理由の両方によって拒絶される可能性がある。

 絶対的理由とは、出願された標章の実質に関わるもので、基本的には、識別力の欠如、誤認のリスクや混同の可能性、国家の表象や標識との類似または同一による混同、国際機関や政府間組織の名称のフルネームもしくは略称または表象の複製、ロシアや世界の文化遺産の最も価値が高いものの正式名称や画像の複製などが含まれる。

 相対的な拒絶理由としては、以下のものがある。
・類似の商品、サービスに関して第三者が所有する先行商標(ロシアで登録または出願されたもの)との同一または混同する類似。
・ロシアにおける周知商標との同一または混同する類似。
・ロシアで保護されている第三者の工業デザイン、原産地呼称、会社名、商業表示との同一または混同する類似であって、混同する範囲のもの。

 また、第三者が所有する著作物、名前、ペンネーム(またはその派生物)、写真、著名人の複製画像、第三者が所有する工業デザインはもちろん、保護された他人の差別化手段(および紛らわしい類似標識)についても、これを商標の要素として含む場合は保護されない。
 出願の審査結果を決定する前に、審査結果の通知が出願人に送付され、通知に記載の理由に対する出願人の意見の提出が求められる。出願人への当該通知の発送後6月以内に提出された出願人の意見は、審査結果を決定する際に考慮される。
 実質的な審査の後、審査官の決定が行われるが、その形式は、完全な登録決定、申請された商品区分の一部の登録決定(結果として、残りの部分の商品については拒絶)、申請された商品区分すべてに及ぶ拒絶査定となる。
(民法第1231.1条、第1473条および第1483条)

5-2. 早期審査(優先審査)
 早期審査には、出願が45区分をカバーしていなくとも、これらすべての商標のサーチを揃える必要がある。ロシア特許庁の調査報告書(請求後2週間以内)を受領したら、早期審査請求書とともにロシア特許庁に提出しなければならない。請求書の提出後、数日間で審査結果が得られる。追加料金を支払わなければならない。
 審査の早期化にはリスクがあり、第三者が条約により先行する優先権を伴う出願をした場合には、審査結果および登録査定が将来ロシア特許庁によって修正される可能性があり(民法第1499条第4項)、また先行する権利者は、公開日から5年以内に登録異議の申立てをすることができる(民法第1512条第2項第2号)。したがって、早期審査は、できるだけ早く登録を取得する必要がある場合にのみ推奨される。

5-3. 商標の類否判断の概要
 審査により判明した出願商標と他の商標との類似性の評価は、商標登録のための提出書類の出願および審査に関する規則(ロシア連邦経済開発省、2015年7月20日命令第482号)の第42項から第45項に記載の基準に基づいて行われる。
 それらの類似性の基準は、音声的、図形的、意味的である。

5-3-1. 音声的類似性
 音声的類似性は、比較する称呼における近接音または同一音の存在、比較する称呼を構成する音の近接性、近接音および音の組み合わせの互いに対する位置、二重調音の存在およびその位置、比較する称呼の音節数、比較する称呼の二重調音の組み合わせの位置、母音の組み合わせの近接、子音の組み合わせの近接、比較称呼の併記部分の特徴、一方の称呼が他方に入るか否か、比較称呼におけるアクセントなどの基準に基づいて判定することができる。

5-3-2. 図形的類似性
 図形的類似性は、一般的な視覚的印象、印刷の種類、文字の特性(大文字または小文字または大文字)、互いに対する文字の位置、比較された指定が表現されるアルファベット、色または色の組み合わせからみた比較された指定の図形的実行などの基準に基づいて決定される。

5-3-3. 意味的類似性
 出願された商標と商標審査により判明した商標との意味的類似性は、比較された名称の観念の類似性(比較された名称の異なる言語での意味の類似性)、論理的に強調され独立した意味を有する比較された名称の要素の一つの類似性、比較された名称の観念を逆にしたものなどのいくつかの基準に基づいて判断される。

 ロシア特許庁の審査官は、これらの観点と基準を組み合わせて、またはそれぞれを別々に検討する。

関連記事:
「ロシアの商標関連の法律、規則、審査基準等」(2019.04.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16891/
「ロシアにおける商標制度および原産地(地理的)表示の保護」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13862/
「ロシアの知財関連の審査基準へのアクセス方法」(2019.08.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17642/
「ロシアにおける商標出願の拒絶理由通知に対する対応策」(2020.04.16)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18451/
「ロシアにおける物品デザインの商標的保護」(2018.08.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15640/
「ロシアにおける商標の重要判例」(2018.09.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15851/

6. 出願から登録までのフローチャート
6-1. 商標出願の出願から登録までのフローチャート

6-2. フローチャートの簡単な説明
 出願人が商標登録出願を行い(出願)、不受理の理由がなければ出願は受理され、ロシア特許庁から出願人に対し出願日および出願番号を記載した通知書が送付される。
 出願受理後、出願に関する情報は、ロシア特許庁のウェブサイトの公報に掲載される。
https://new.fips.ru/publication-web/bulletins/UsrTM?lang=en

 手数料の支払が確認される。
 受理された出願に基づき、提出書類の審査(方式審査)および出願指定の審査(絶対的・相対的根拠による実質審査)が行われる。
 方式審査または実体審査において、ロシア特許庁は申請者に対し、出願の審査に必要な追加情報または書類の提出を求めることができる。
 方式審査の過程で、必要な情報および書類の入手可能性と、それらが定められた要件に適合しているかどうかが確認される。
 方式審査の結果、次のいずれかの決定がなされる。(1) 申請を受理してさらに検討する(受理通知)、(2) 拒絶理由を明示して申請を受理しない(受理拒否)、(3) ロシア特許庁が要求した情報または書類を申請者が提出しない場合、申請を取り下げと認定する。

 絶対的拒絶理由と相対的拒絶理由の審査は、方式審査の結果、さらに検討することが認められた出願について行われる。実体審査の過程で、商標の先後願が決定され、出願された商標が登録要件に適合しているかどうかが確認される。
 実体審査の結果を決定する前に、出願された名称が登録要件に適合していない旨の意見を含む第三者の情報提供を受領した場合、これらの意見は審査中に考慮される。
 商標登録の拒絶または商品リストに含まれる商品の一部についての商標登録の決定を行う前に、出願人に対し出願された指定の要件への適合に関する審査結果の通知(拒絶理由通知)が送付され、通知に示された理由に関して意見を述べるよう求められる。出願人の見解は、通知後6月以内に提出された場合、請求された指定の審査結を決定する際に考慮される。
 審査の結果、商標の国家登録の決定(登録査定)またはその国家登録における拒絶の決定(全拒絶査定)が行われる。出願された指定が、商品リストに含まれる商品の一部についてのみ要件を満たすことが立証された場合、その商品の一部についての商標の国家登録に関する決定(部分登録査定)が行われる。

「ロシアにおける商標制度の運用実態」(2016.01.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10246/

[登録前の不服申立手続]
7. 拒絶査定不服審判
 商標出願に関するロシア特許庁の査定に対して、出願人は対応する査定の日から4月以内に審判を請求することができる。
 この期限は延長することができないが、出願人が期限内に審判請求できなかったことをについて正当な理由を説明できる場合、かつ、手数料が支払われた場合は、請求期限を延長できる。復活は、請求の期限を過ぎた日から6月以内である。
 審判請求は、出願されたすべての商品・サービスに関わる拒絶査定(全部拒絶査定)に対しても、商品・サービスの一部に関わる拒絶査定(一部登録査定)に対しても、ロシア特許庁に提出することができる。さらに、出願人が、商標の特定要素の放棄を条件として請求された名称が登録されることを審判請求した場合に、審判が行われることがある。
 審判の審理において、出願人は、商標出願に対する拒絶理由を解消できるものならば、出願を分割したり、補正したりすることができる。

関連記事:
「ロシアにおける商標制度および原産地(地理的)表示の保護」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13862/

8. 付与前の異議申立
 法律では、付与前の異議申立手続きは規定されていない。しかし、商標出願の公開後(合理的に可能な限り早く)、何人もロシア特許庁に商標の登録可能性に関する意見を提出することができる。これは出願の審査で考慮されるが、提出者に手続上の権利はない。

9. 前記7.の判断に対する不服申立
 審判請求を審理して出されたロシア特許庁の審決に対し、3月以内に知的財産権裁判所に出訴することができる。
 仮にロシア特許庁の審決が覆された場合、知的財産権裁判所はロシア特許庁に審判請求の再審理または単に商標登録するよう義務付けることになる。

関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/

[登録後の争いに関する手続]
10. 登録後の異議申立
 存在しない。

11. 商標を無効にする制度
 利害関係人は商標の登録に対する無効審判を請求することができる。請求理由が他人の商標または原産地表示との類似性に基づく場合は、商標登録に関する公告の日から5年以内に提訴しなければならない。その他の理由、例えば、周知商標との類似、絶対的拒絶理由(識別力の欠如、記述性、欺瞞性もしくは誤認の可能性等)または真の所有者の許可を得ずに代理人の名義で商標を違法登録した場合は、商標登録の存続期間中に無効審判を請求できる。
 無効が認められると、商標登録は取消され、初めから登録がなかったものとされる。
 無効審判の請求は、係争中の商標が登録された時点における法律の規定違反を根拠としなければならない。適用可能な複数の理由に基づいて、同時に無効審判を請求することもできる。
 無効審判におけるロシア特許庁の審決については、3月以内に知的財産権裁判所に出訴可能である。
 もしロシア特許庁の審決が覆された場合、知的財産権裁判所はロシア特許庁に対して、事案に応じて登録の回復または取消および/または無効審判の再審理を義務付ける。
(民法第1512条)

関連記事:
「ロシアにおける第三者による商標の不正登録に対する対応策」(2014.05.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/5939/

12. 商標の不使用取消制度
 登録後3年間連続した不使用を理由として、商品区分の全部または一部の商標の保護を終了させることができる。ただし、請求の直前まで使用されていないことが条件となる。
(民法第1486条)

 不使用取消訴訟は、知的財産権裁判所に提訴する。
 商標権者は、その商標が適切に使用されていたことについて立証責任を負う。
 商標は、商標権者またはそのライセンシーによって、商標登録されている商品および/またはその商品の包装に使用されていれば、適切に使用されていたとみなされる。また、「所有者の管理下にある」他の個人または団体によって使用されていた場合も、商標が使用されていたとみなされる。加えて、若干の変更が加えられた商標の使用も、商標の適正な使用とみなされる。
 不使用が所有者の管理できない理由(不可抗力)により生じた事実に関する証拠が商標権者から提出された場合は、取消訴訟の審理における判断において考慮することができる。
(民法第1486条)

 不使用に基づく取消訴訟を提起する当事者は、当該訴訟における利害関係を示さなければならない。現行の実務によれば、取消の利益は、申立対象の商標が他の係属中の商標の登録の障壁になっているという事実だけでは立証できない。不使用を理由に先行商標を取り消す出願人の利益を確認する追加書類(他の管轄地で登録されている事実や、ロシアでの商標の使用意思など)を知的財産権裁判所に提出する必要がある。

関連記事:
「ロシアにおける「商標の使用」と使用証拠」(2016.05.01)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11150/
「ロシアにおける商標の重要判例」(2018.09.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15851/

13. その他の制度
13-1. 国際登録
 ロシア連邦における商標の保護は、マドリッドシステムに基づく国際商標出願によって得ることができる。

13-2. ユーラシア経済連合における商標保護の地域システム
 2021年4月26日、ユーラシア経済連合(EAEU)の商標、サービスマークおよび原産地呼称に関する条約(関連情報参照)が発効した。
 同条約では、特に以下のことが規定されている。
・EAEU商標という概念の導入。
・EAEU商標をEAEU加盟国の特許商標庁に1回出願し、その後EAEU加盟国すべてで同時に法的保護を受けることができること。
・出願人は1つの官庁としかやり取りをしない-ワンストップ原則。
・ユーラシア経済委員会の公式ウェブサイトに掲載されるEAEU商標の統一登録簿の維持。

関連記事:
「ロシアにおけるマドリッド協定議定書の基礎商標の同一性の認証と商品・役務に関する審査の在り方」(2017.05.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13673/
「ロシアの知的財産関連機関・サイト」(2020.06.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/link/18773/
「ロシアにおける法制度・代理人・知的財産権情報等」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13865/
「ロシア特許庁の組織と審査体制」(2018.04.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/14814/
「ロシアにおける商標制度の運用実態」(2016.01.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10246/

関連情報:
ユーラシア経済連合の商標、サービスマーク、および商品の原産地の表示に関する合意(Договор о товарных знаках, знаках обслуживания и наименованиях мест происхождения товаров Евразийского экономического союза)
https://docs.eaeunion.org/docs/en-us/01426627/itia_03022020
上記リンクが開けない場合、下記リンクに同じものが掲載されている。
http://www.eurasiancommission.org/ru/act/finpol/dobd/intelsobs/Documents/%D0%94%D0%9E%D0%93%D0%9E%D0%92%D0%9E%D0%A0%20%D0%BE%20%D1%82%D0%BE%D0%B2%D0%B0%D1%80%D0%BD%D1%8B%D1%85%20%D0%B7%D0%BD%D0%B0%D0%BA%D0%B0%D1%85%20%D0%95%D0%90%D0%AD%D0%A1.pdf

ロシアにおける特許制度のまとめ-手続編

1. 出願に必要な書類

 発明または実用新案に関する出願は、以下を含まなければならない。
・特許付与を求める請求書(願書、弁理士が作成する。)
・クレームされた発明(または実用新案)を実施できるよう十分詳細に開示する明細書
・発明(実用新案)の本質的な特徴を記載し、明細書によって完全に裏付けられた特許請求の範囲
・発明(実用新案)を理解するために必要な図面その他の資料
・要約
(連邦民法第4法典第1375条、第1376条)

 出願は、1つの発明のみ、または単一の一般的な発明概念を形成するために関連付けられた一群の発明についてのみ行うことができる(発明の単一性の要件)。実用新案登録出願は、1つの実用新案(1つの独立請求項)についてのみ行うことができる。
(連邦民法第4法典第1375条、第1376条)

 出願日は、付与を求める請求書、明細書および明細書に図面の記載がある場合は図面を提出した日に成立するものとする。前述の書類が同時に提出されない場合、出願日は、それらの書類のうち最後のものを受領した日に与えられる。
 優先権書類の認証謄本は、優先日から16月以内にロシア特許庁に提出しなければならない。
(連邦民法第4法典第1375条、第1376条、第1382条)

関連記事:
「ロシアにおける優先権主張の手続」(2020.12.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19645/
「ロシアにおける特許・実用新案出願制度の概要」(2019.11.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17907/
「日本とロシアにおける特許出願書類・手続の比較」(2019.09.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17715/

2. 記載が認められるクレーム形式

2-1. クレームの許容される形式
 以下の請求項が認められる。
・デバイス(装置・製品)のクレーム
・組成物(化合物)のクレーム
・方法(プロセス)クレーム
・プロダクト・バイ・プロセス・クレーム
・用途クレーム

 単一請求項と複数請求項の両方が認められる。請求項は、発明の目的を反映した前文と、発明の特徴を含む本文を含むべきである。本文は、特徴の前提部分と特徴部分から構成されてもよい(義務ではない)。特許請求の範囲は、発明の本質を定義し、明細書によって完全に裏付けられなければならない。発明の単一性の要件を満たせば、複数の独立請求項を記載することができる。

 独立請求項の数に制限はない。1つの独立請求項は、1つの発明のみを特定すべきである。代替的特徴(マーカッシュ形式による発明特定事項の記載)は、独立請求項と従属請求項の両方で使用することができる。1つの独立請求項は、1文であるべきである。プロダクト・バイ・プロセス・クレームが許容される。
 先行する独立請求項を引用する従属請求項が認められる。複数の請求項を引用する請求項は、他の複数の請求項を引用する請求項を引用してはならない(マルチ-マルチクレームは許容されない)。従属請求項は、付加的な特徴および/または詳細化した特徴を含むことができ、詳細化した特徴は、独立請求項の一部の特徴および/または特徴の前提部分の特徴を発展させたものである。従属請求項の数には制限はない。
(2016年5月25日付のロシア連邦経済開発省の命令第316号(以下「命令第316号」という) I.申請書を提出するための一般的な要件、IV.請求項の要件、発明の国家登録と発明特許の付与という公共サービスの提供の枠内での行政手続と行為に関するガイドライン 第5節(発明の単一性))

関連記事:
「ロシアにおけるプロダクト・バイ・プロセスクレーム解釈のプラクティス」(2017.05.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13689/
「ロシアにおける特許の審査基準・審査マニュアル」(2014.11.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/7134/

2-2. 認められないクレーム形式
 複数の請求項を引用する請求項は、他の複数の請求項を引用する請求項を引用してはならない。
(2016年5月25日付のロシア連邦経済開発省の命令第316号 IV.請求項の要件)

関連記事:
「ロシアにおける特許および実用新案登録を受けることができる発明とできない発明」(2020.12.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/19643/

3. 出願の言語

 特許出願は、外国語で行うことができる。ロシア語の翻訳文は、出願と一緒に提出することができ、正式なオフィスアクションに対応して後から提出することもできる。
(連邦民法第4法典第1374条、第1384条、命令第316号 II.申請書類の審査(第28条))

関連記事:
「日本とロシアにおける特許出願書類・手続の比較」(2019.09.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17715/

4. グレースピリオド

 出願日の6月前までのグレースピリオドが適用される。発明者、出願人、または発明者もしくは出願人から直接もしくは間接に情報を得た者による発明に関する情報の公開は、その情報が公開されてから6月以内に特許庁に発明が出願されれば、その発明の特許性を喪失させない。立証責任は出願人にある。
(連邦民法第4法典1350条第3項)

関連記事:
「ロシアにおける特許新規性喪失の例外」(2017.05.30)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13706/

5. 審査

5-1. 方式審査
 特許出願は、方式審査の対象となる。方式審査では、以下の要件がチェックされる。
a) 必要な出願書類がすべて提出されており、すべての書類が方式要件を満たしていること。いずれかの要件が満たされていない場合、出願人に通知され、不備を修正するための3月の期間が与えられる(手数料の支払いで、期間延長を請求することができる)。出願人が期限内に不備を修正できない場合、修正または不足する書類を提出できない場合、出願は取下げられたものとみなされる。
b) 手数料が正しく支払われていること。
c) 発明の単一性の要件が満たされていること(発明の内容は確認されず、明らかな矛盾点のみが判断される)。発明の単一性の要件が満たされない場合、出願人は、審査官の要請により3月以内に請求された発明のどれを審査すべきかを示すことができる。この期間内に出願人が審査すべき発明を示さない場合、審査は最初にクレームされた発明に関してのみ行われる。
d) IPC(国際特許分類)が付されている場合、正しく付されていること(付されていない場合は、審査官が付与する)。
(連邦民法第4法典第1384条、命令第316号 II.申請書類の審査(第23条、第31条、第32条)およびIII.規則第3条に基づく請求書の審査(第108条))

関連記事:
「ロシアにおける特許・実用新案出願制度の概要」(2019.11.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17907/

5-2. 実体審査
 出願が方式審査に合格すると、出願人は実体審査請求書を提出し、手数料を支払わなければならない。ロシアでは、発明の繰延べ審査制度がある。
 審査請求は、出願人または第三者が行う。審査請求は、出願時または出願日(PCTの場合は国際出願日)から3年以内に行わなければならない。審査請求期間は,2月延長することができる。前記期間内に審査請求が行われなかった場合、出願は放棄される。期間徒過は、期間徒過の日から1年間は回復することができる。
 再審査および異議申立は行われない。しかし、ロシア特許庁によって出願中の発明に関する情報が公表された後、何人もロシア特許庁に対して発明の特許性に関する意見を提供する権利を有し、意見は出願の実体審査において考慮される。ただし、当該意見の提出は、出願の審査における手続上の権利を当該者に与えるものではない。
(連邦民法第4法典第1386条、1389条、命令第316号 I.発明の国家登録に関する法的措置の根拠となる文書の作成および提出(第8条))

関連記事:
「日本とロシアの特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較」(2019.08.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17659/
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

5-3. 早期審査(優先審査)
 特許出願から特許権取得までの期間は、短縮される傾向にあるが、案件によって大きく異なる。平均では、1年またはそれ以下となる場合もある。
 ロシアはPPH(特許審査ハイウェイ)制度に加盟している。ロシア特許庁は、オーストリア、カナダ、中国、デンマーク、ドイツ、エストニア、欧州(EPO)、ハンガリー、イスラエル、チリ、ペルー、ポルトガル、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、アイスランド、日本、韓国、ノルウェイ、ポーランド、フィンランド、スウェーデン、コロンビア、スペイン、トルコ、英国、米国の27か国・地域の特許庁と、PPH協定およびPPH-MOTTAINAI協定を締結している。また、上記27か国・地域から中国を除く26か国・地域の特許庁とPCT-PPH協定を、上記27か国・地域から中国、欧州(EPO)、トルコを除き北欧特許庁およびヴィシェグラード特許機構を加えた26か国・地域の特許庁とGlobal PPH協定を締結している。

注)2022年5月10日、日本国特許庁(JPO)は、ロシア連邦知的財産・特許・商標庁(ROSPATENT) の間の特許審査ハイウェイ(PPH)を一時停止することを決定いたしました。

参考情報:https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/japan_russia_highway.html

関連情報:
「PPHプログラム」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20)
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/patent-prosecution-highway
「PCT-PPHプログラム」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20)
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/pct-pph
「PPH-MOTTAINAIプログラム」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20)
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/pph-mottainai
「グローバルな優先特許手続(Global PPH)」(ロシア特許庁の公表、ロシア語)(2021.02.20)
https://rospatent.gov.ru/ru/activities/inter/bicoop/pph/gpph
「PPHネットワーク」(JPOの公表、日本語)(日付不明)
https://www.jpo.go.jp/toppage/pph-portal-j/network.html
※Global PPH加盟国については次の情報を参照されたい。
「PCT-特許審査ハイウェイプログラム(PCT-PPHおよびグローバルPPH)」(WIPOの公表、英語)(2022.01.26)
https://www.wipo.int/pct/en/filing/pct_pph.html

関連記事:
「ロシアにおける特許権早期取得のテクニック」(2016.06.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11804/
「ロシアにおける特許および実用新案に関する統計」(2018.06.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/15360/

6. 出願から登録までのフローチャート

6-1. 出願から登録までの特許出願のフローチャート

フローチャート

6-2. フローチャートの簡単な説明
 発明に対する特許は、発明毎にされた特許出願の審査の肯定的な結果に基づいて、連邦知的財産庁(ロスパテント、ロシア特許庁、RUPTO)により特許証が発行される。特許出願は、一般に、出願に応じて作成された願書、明細書、図、請求の範囲および要約書を含み、願書はすべてロシア語で、その他の出願書類はロシア語または他言語(ロシア語による翻訳文を添付)で作成されなければならない(連邦民法第4法典第1374条)。
 出願は、ロシア特許庁に直接、郵送またはオンラインで行うことができる。

 発明の出願がロシア特許庁に受理された後、その出願は審査に付される。審査は、方式審査(連邦民法第4法典第1384条)および実体審査(連邦民法第4法典第1386条)から構成される(上記5.を参照)。
 発明の出願は、ロシア特許庁への出願日から18月を経過した後に公開される(連邦民法第4法典1385条)。実用新案出願は公開されず、方式審査を通過後、直ちに実体審査に移行する。
 出願公開後は、誰でも出願書類(審査経過を含む)を閲覧することができ、出願書類の写しを取り寄せることができる。
 特許審査ハイウェイ(PPH)は、ロシアで利用できる効率的な早期審査の機会であり、よく利用されている。PPHは、実体審査前または実体審査請求時に請求することが望ましい。

 最終的な決定に先立ち、通常、1~2回のオフィスアクションまたは通知が行われ、最初のオフィスアクションまたは通知(または、それがない場合は、肯定的な決定自体)は、通常、実体審査の開始から6~7月で行われる。前記早期審査を採用した場合、ロシア特許庁からの最初のコミュニケーションは2~3月で行われる。
 特許付与または拒絶の最終決定(および出願を取下げたとみなす決定)は、出願に関するそれぞれの決定の送付日から7月以内にロシア特許庁に審判請求することにより争うことができる(連邦民法第4法典第1387条第3項)。
 ロシアの法律では、実体審査の請求、オフィスアクションに対する応答の提出、またはロシア特許庁の決定に対する審判の提出のための期間を、期間徒過時から1年以内に再び延長するオプションがある(連邦民法第4法典第1389条第1項、2項)。
(連邦民法第4法典第1374条、第1384条~第1387条、第1389条)

関連記事:
「ロシアにおける特許制度の運用実態」(2015.11.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10074/
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

[権利設定前の争いに関する手続]

7. 拒絶査定に対する手続

 審査官の決定に対する不服審判は、決定の日から7月以内にロシア特許庁に提出できる。不服審判は、審判部のメンバーおよびロシア特許庁の対応する審査部の審査官の双方から選ばれた3~5名の審査官/審判官で構成される審判体により審理される。ヒアリングには、出願人および審判請求された決定を出した審査官の双方が参加する。

 審理の結果、以下のような決定がされる。
拒絶査定に対して不服がある場合:

  • 請求を認容し、既存の請求項に対し特許の決定を下す。
  • 請求を不成立とし、ロシア特許庁の決定を維持する。
  • 請求を認容し、補正された請求項に対し特許の決定を下す。

特許査定に対して不服がある場合:

  • 請求を認容し、付与決定を取り消し、出願を追加審査に付す。
  • 請求を不成立とし、ロシア特許庁の決定を維持する。
  • 請求を一部認容し、補正された請求項に対し特許の決定を下す。

取り下げ決定に対して不服がある場合:

  • 請求を認容し、出願を回復させる。
  • 請求を不成立とし、ロシア特許庁の決定を維持する。

 決定は、ヒアリングにおいて審判部によって言い渡され、その後、ロシア特許庁の書面による決定が2月以内に作成されて出願人に送付される。
(連邦民法第4法典第1387条、第1389条)

8. 権利設定前の異議申立

 法律には、特許出願に対する異議申立に関する規定はない。しかし、出願公開後、何人もファイルを閲覧し、出願の特許性に関して意見をロシア特許庁に提出することができる。意見書を提出するための手数料はかからない。これらの意見は、審査官が審査手続において考慮する。意見の提出をした者は、出願を審査する際の手続には参加しない。
(連邦民法第4法典第1386条第5項)

9. 上記7.の判断に対する不服申立

 審決は、3月以内に知的財産権裁判所(IPR裁判所)で争うことができる。その結果、知的財産権裁判所は決定を支持するか、破棄することができる。破棄する場合、知的財産権裁判所は通常、ロシア特許庁に各請求を再度審理するよう命ずる。
(連邦憲法(ロシア連邦の仲裁裁判所について)第43条第4項、ロシア連邦仲裁手続法第198条)
 なお、上記「仲裁裁判所」(арбитражный суд)および上記「ロシア連邦仲裁手続法」(арбитражный процессуальный кодекс российской федерации)は、英語では、それぞれ「Commercial Court」および「Commercial Procedure Code」と表記される。

[権利設定後の争いに関する手続]

10. 権利設定後の異議申立

 ロシアには、付与後の異議申立制度はない。特許付与後、特許を無効とすることができる。

関連記事:
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

11. 設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度

 連邦民法第4法典第1398条によれば、発明に対する特許は、以下の場合に、その有効期間中いつでも、全部または一部を無効とすることができる。
(a) 特許された主題が特許性の条件を満たさないとき。
(b) 付与された特許請求の範囲が、当初の明細書および特許請求の範囲に出願日時点で存在しなかった特徴を含んでいる場合。
(c) 特許が、同一の優先日を有する同一の発明に対する複数の出願に対して付与された場合。
(d) 発明者または特許権者の表示を誤ったまま特許が付与された場合。

 (a)、(b)、(c)を理由とする無効の提起は、ロシア特許庁に提出する。
 (d)の無効の提起は、知的財産権裁判所に提出する。

 当事者(特許権者、異議申立人)および特許付与決定を行った審査官もヒアリングに参加する。
無効の提起を検討した結果、以下の決定を下すことがでる。

  • 無効の提起を不成立とし、特許を全て有効なまま残す。
  • 無効の提起を認容し、特許を全て無効とする。
  • 無効訴訟を一部認容し、特許を一部無効とする。特許が一部無効となった場合、新たな特許が付与される。  このような無効関連の審理期間の目安は、4~6月である。
     無効に関するロシア特許庁の決定は、知的財産権裁判所に出訴することができる。その結果、知的財産権裁判所は決定を支持するか、破棄することができる。破棄する場合、知的財産権裁判所は通常、ロシア特許庁に各請求を再度審理するよう命ずる。
    (連邦民法第4法典第1398条)

関連記事:
「ロシアにおける権利無効手続の統計データ」(2018.02.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/14554/

12. 権利設定後の権利範囲の修正

 無効の提起の審理中(上記11.参照)、特許権者は、それによって定義された範囲を拡張することなく、請求項を訂正する権利を有する。訂正された請求項が認容されると確認された場合、提起された特許の代わりに、上記請求項を有する新たな特許が付与されたものとする。
(ロシア特許庁による紛争の検討および解決のための規則、パラグラフ40)。

関連記事:
「ロシアにおける特許のクレームの変更」(2014.06.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/6179/

13. その他の制度

 ロシアで技術的解決策に対して得ることができるもう一つのタイプの法的保護は、実用新案特許(UM)である。このような特許の有効期間は10年であり、延長の可能性はない。実用新案として保護されるのは、デバイス/装置のみである(空間的に分散したシステム(例:構造的に一体でない装置)は、実用新案として保護されるデバイス/装置として識別されてはならないことに留意されたい)。すべての実用新案特許出願のクレームは、1つの実用新案にのみ関係するものでなければならない(すなわち、代替語句のない1つの独立請求項のみが認められる)。一般的に、実用新案特許出願と特許は、基本的には発明に関する要件と同様の要件に従い、その詳細はすでに述べたとおりである。両者の根本的な違いは、実用新案の特許性基準には産業上の利用可能性と新規性だけが含まれることであり、すなわち、進歩性がない実用新案特許もあり得る。

 ロシアの現行法は以下のようなオプションを提供しており、これらは柔軟に利用することができる。

  • 未公開の発明の出願を実用新案出願に変更することができる(例:発明の進歩性に疑問がある場合)。
  • ロシア特許庁が発明に対する特許の無効審判を検討している間、所定の基準を満たせば、その特許を実用新案特許に変更するよう請求することができる。

 ロシアはユーラシア特許条約(EAPC)およびユーラシア特許条約の工業意匠の保護に関する議定書に加盟しており、ユーラシア特許庁(EAPO)が発行するユーラシア発明特許およびユーラシア意匠特許は、国内(RU)の発明特許および意匠特許と同様にロシアで有効である。
(連邦民法第4法典第1351条、第1363条、第1376条、第1379条)

関連記事:
「ロシアにおける実用新案制度の運用実態」(2016.01.12)
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「ロシアにおける特許取得-ユーラシア特許制度」(2017.07.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13889/

ロシアにおける権利無効手続の統計データ

    特許、実用新案および意匠は、以下のいずれかに該当する場合には、存続期間中いつでも全体的または部分的に無効にされる可能性がある(ロシア連邦民法第IV部の第1398条1項)。

 

(a) 権利付与された客体が、民法に定められた所定の要件を満たしてない(特許の場合は新規性、進歩性および産業上の利用可能性、実用新案の場合は新規性および産業上の利用可能性、意匠の場合は新規性および独創性)。

(b) 特許または実用新案のクレームが、出願時の明細書およびクレームに存在していなかった特徴を含む。意匠の視覚的表現物が、出願時の表現物にはなかった本質的特徴を含んでいる、または出願時の表現物にあった本質的特徴を含んでいない。

(c) 同一の発明、実用新案または意匠に関して同一の優先日を有する複数の出願が存在する状況において、ロシア連邦民法第IV部の第1383条の条件に違反して、権利が付与された。

(d) 誤った発明者/考案者/創作者または権利者により権利が付与された。

 

 上記(a)、(b)および(c)の理由に基づく無効審判請求は、ロシア特許庁に提出され、ロシア特許庁における連邦産業財産権機関の審判部によって審理される。双方の当事者(権利者および無効請求人)および権利付与の決定を下した審査官が、この審理に参加できる。審理において審判部により審決が告知された後、2か月以内に審決書が作成され、両当事者に送付される。

 

 上記(d)の理由に基づく無効審判請求は、知的財産権裁判所(IPR Court)に直接提出する。

 

 審判部は2種類の審判請求を審理する。1つ目は、特許、実用新案および意匠出願ならびに商標出願に対する審査官の決定を不服とする出願人の審判請求であり、2つ目は、特許権、実用新案権および意匠権付与ならびに商標登録に対する無効審判請求である。無効審判請求は、審判部に提出される審判請求の30~40%を占めている。特許権に対する無効審判請求は、審判部により審理される無効審判請求全体の12~16%を占めている。

 

 ロシア特許庁は、審判請求に関する年次報告データを公表している。ただし、データ構造は年によってまちまちであり、また、入手できないデータもある点に注意が必要である。例えば、審判請求が提出された理由に関する情報がない。また、審判請求人に関する情報もないため、居住者または非居住者によりそれぞれ提出された審判請求の件数を判断することはできない。

 

 以下の各表は、ロシア特許庁の年次報告、ロシア連邦最高裁判所の司法部門により公表された報告、および知的財産権裁判所の報告から収集したデータに基づくものである。

 

29RU12-1

審判部に提出され、審判部により審理された審判請求の件数

 

29RU12-2

審判部に提出され、審判部により審理された審判請求の件数(続き)

 

 無効審判請求の審理後、ロシア特許庁は以下の審決を下すことができる。

  • 無効審判請求を棄却し、権利全体を有効に維持する。
  • 無効審判請求を認容し、権利全体を無効にする。
  • 無効審判請求を部分的に認容し、権利を一部無効にする。

 

 権利が一部無効にされた場合、有効な部分について新たに権利が付与される。

 

 以下の表は、審判部による無効審判請求の審理結果を示している。

 

29RU12-4

審判部による無効審判請求の審理結果

 

 統計データから、無効審判を請求された権利の半数以上が全体的または部分的に無効にされていることがわかる。

 

 ロシア特許庁における無効審判請求の所要期間は、2015年は12.5か月、2016年は10.3か月、2017年前期は7.1か月であった。

 

 無効審判請求に関する特許庁審決を不服とする場合は、知的財産権裁判所に上訴できる。

29RU12-3

特許庁審決に対する上訴の統計データ

 

 上記の表から、知的財産権裁判所は、無効審判請求の特許庁審決を不服とする上訴の17~20%を認容していることが分かる。

 

 知的財産権裁判所の判決に対し、知的財産権裁判所の破棄審に上訴することができ、さらにロシア連邦最高裁判所へ上訴することもできる。特許権、実用新案権および意匠権の無効審判請求に関して知的財産権裁判所の破棄審へ上訴された事件の約11~15%が認容されている。

ロシアにおける知的財産権訴訟件数

1.ロシアの裁判所制度

 

 ロシアの裁判所制度は、商事裁判所および一般的管轄権を有する普通裁判所で構成されている。裁判所の各支部は、控訴審および破棄審を有する。どちらの支部も最高裁判所を頂点とし、最高裁判所は双方の支部にとって、第二破棄審および監督審となる。知的財産事件が増えるにつれて、より高い権限を有する裁判所が必要となったため、商事裁判所制度に組み込まれた知的財産権裁判所(IPR Court)が2013年に設立された。

 

2.カテゴリー毎の知財事件数

 

 知財訴訟は三つのカテゴリーに分けることができる。即ち、侵害事件(民事、刑事および行政)、不使用商標事件、および特許庁の決定に対する上訴に関連した事件である。

28BR06-1

 上図を見ると、侵害事件が年を追って減少していることが分かる。その理由として、法制度の改善、裁判所の権限強化に加え、処罰を免れることはできないという侵害者側の理解が進んだことが挙げられるだろう。

 

3.侵害事件

 

 知財権の侵害事件には、商事裁判所および普通裁判所において審理される民事事件および行政事件に加えて、普通裁判所において審理される刑事事件も含まれている。

28BR06-2        

3-1.民事事件

 

 民事知財権侵害事件の構成を詳しく調べると、商事裁判所により審理された事件の数が、普通裁判所により審理された事件をはるかに凌ぐことが分かる。

28BR06-3

 その理由は、商事裁判所が営利企業または個人事業者の間における事件を審理することにある。普通裁判所は、少なくとも一方の当事者が個人である(事業者ではない)事件を審理する。商標権は事業者ではない個人による所有が認められていないため、実際問題として全ての商標権事件は商事裁判所によって審理される。特許権は法人または個人による所有が可能である。個人が所有する特許権は、法人と比べて数が少なく、そのことが図に反映されている。年数の経過に伴い事件の数が増えているのは、ロシアにおいて知的財産が比較的新しい分野であり(最初の知財法は1992年に民法典に導入された)、知財事件が年々増加してきたことを示している。数年後には事件の数は年間1万から1万5000件あたりで落ち着くと予想される。

 

 上記の統計データを知財権の種類別に再分類する。

28BR06-4

 図から分かるように、著作権の侵害事件が突出しており、次に商標権、その後に特許権が続いている。その理由として、著作権は最も侵害しやすいことが挙げられる。商標もまた、侵害者にとって魅力がある。商標は経済生活の基盤である商取引において活用されており、非常に多くの人たちが商取引に関与しており、商標権を比較的侵害しやすい。特許発明は基本的に、高度な工業設備を必要とする複雑な技術的考案物であるため、特許権侵害に関与できる人は限られている。

 

 知財権の侵害は、侵害が行われた場所の地方裁判所によって審理される。上訴されると、その事件は、より広範な地域を管轄する地方控訴裁判所によって審理される。さらに上訴されると、その事件は知的財産権裁判所により破棄審の立場で審理される。

 

 提起された訴訟数と訴えが認められた訴訟数の関係を下記の図に示す。

28BR06-5

3-2.行政事件

 

 行政事件の大半は、税関および警察により独自に、または知財権所有者の要求に応じて提起される。税関および警察は独自に決定を下す権限はなく、捜査を行い、証拠を集めるだけである。例外として、連邦反独占庁は商標の不正な登録および使用に関する事件を審理し、反独占庁の決定が不服であれば、知的財産権裁判所に上訴することができる。ただし、かかる上訴の件数は無視できるほど極めて少ない。

28BR06-6

 国境地帯または地域市場における知財権侵害が絡む多くの事件において、知財権所有者は民事訴訟より行政訴訟を起こす方を選択する。その主な理由は、法執行機関(税関、警察)により大半の作業が遂行されるため、訴訟費用が安くすむことにある。行政手続は通常、知財権侵害に気づいた知財権所有者の訴状により開始される。訴状に基づいて、法執行機関は侵害の証拠を集めるために必要な措置(販売場所または施設の捜索、押収など)を講じ、捜査を行う。民事事件において証拠を集め、事件を処理する費用の大半は、知財権所有者が負担する。一方、行政事件では、法執行機関が自ら証拠を集めて、事件を裁判所に渡し、原告として訴訟に参加する。知財権所有者は第三者である。

 

 上記の図を見ると、著作権の行政事件の数が減少している。法執行機関の努力の結果として、より多くの人たちが合法的なコンテンツを使用し始めたためである。商標権の行政事件の数が2010年から横ばいを続けているのは、並行輸入に関する司法実務が変更された結果といえる。最高商事裁判所は2010年に、並行輸入事件を行政手続ではなく、民事手続においてのみ審理すべきであると命じた。特許権の行政事件は実質上存在しない。その件数は総じて低く、ほとんどは民事訴訟手続の枠内で審理されている。

 

3-3.刑事事件

 

 知財権侵害が生じた場合、刑事事件を提起することもできる。ロシアでは個人(自然人)に対してのみ刑事責任を問うことができるため、刑事事件は警察および検察庁により処理され、普通裁判所によって審理される。

28BR06-7

 図から分かるように、著作権の刑事事件の数は、著作権の行政事件と同様に推移しており、合法的なコンテンツが選択されるようになってきたことを表わしている。商標権の刑事事件は過去数年で増加しているが、その理由の一つは、刑事訴訟を提起するための最低損害額が法律により150万ルーブルから25万ルーブルに引き下げられたことにある。特許権の刑事事件の数が極端に少ない理由は、全体的に特許権侵害事件の数が少ない上に、民事または行政手続の枠内にあるためである。また、刑事訴訟を提起するための最低損害額は法律により定められておらず、裁判所の裁量に委ねられている。

 

4.不使用商標事件

 

 不使用商標事件は、2012年まで行政手続の枠内でロシア特許庁により審理されていたため、2009年から2011年にかけては特許庁における行政手続の一部として示されている(かかる期間において、特許庁は年間約1,000件の不使用商標事件を審理していた)。2012年に、不使用商標事件はモスクワ市商事裁判所に移管され、その後2013年に業務を開始した知的財産権裁判所に移管された。下記の図は、審理された上訴事件および訴えが(全体的または部分的に)認められた上訴事件の数を示している。

28BR06-8

5.特許庁の決定に対する上訴

 

 特許庁の決定を不服とする上訴事件は、ここ数年にわたりさほど変化していない。知的財産権裁判所が創設される前は、これらの上訴事件はモスクワ市商事裁判所により審理されていた。

28BR06-9

6.知的財産権裁判所

 知的財産権裁判所は第一審としての立場で、不使用商標事件および特許庁の決定に対する上訴事件を審理する。知的財産権裁判所の創設前は、これらの上訴事件はモスクワ市商事裁判所により審理されていた。また、少数ではあるが、特許庁の規制文書に対する上訴事件も知的財産権裁判所において審理されている。

 

6.1.知的財産権裁判所の審理件数

 

 知的財産権裁判所により審理された事件の数を下記の図に示す。知的財産権裁判所は2013年半ばに設立されたため、初年度の件数は少ない。この数字は、翌数年で急速に伸びている。

28BR06-10

6.2.第一審としての知的財産権裁判所

 

 知的財産権裁判所は第一審としての立場で、不使用商標事件、特許権侵害事件、特許庁の決定に対する上訴事件、および知財分野における規範法の有効性について審理する。その内訳の比率は、不使用商標事件60.2%、特許権侵害事件2.2%(どちらも民事訴訟)、特許庁の決定に対する上訴37.2%(公益に関する訴訟)、および規範法に対する上訴0.4%未満(同じく公益に関する訴訟)である。

 

6.3.第二審としての知的財産権裁判所

 

 第一審としての知的財産権裁判所の判決の一部は、同裁判所の破棄審に上訴され、ここでは侵害破棄審事件も審理される。知的財産権裁判所の破棄審により審理される事件には、二つのカテゴリーがある。即ち、地方商事控訴裁判所からの上訴事件と、第一審としての知的財産権裁判所からの上訴事件である。このため、破棄審における事件数は、第一審における事件数よりも多い。

28BR06-11