メキシコにおける特許の分割出願についての留意点
1.分割出願についての基本的な要件
2020年11月5日施行の改正産業財産法では、特許の分割出願について、その基本的な要件が第100条に定められている。
メキシコ産業財産法 第100条 自発的又は本庁の要請により分割出願を行う場合、出願人は以下の要件を充足しなければならない。 (1) 各出願に必要な、明細書、クレーム及び図面を提出する。ただし、原出願にすでに含まれている優先権主張に関する書類とその翻訳文、および、該当する場合は、権利の譲渡書ならびに代理人委任状は省略できる。 提出された図面及び明細書において、原出願で意図された発明を修正するような変更をしてはならない。 (2) 分割出願においては、追加の発明主題や最初に提出された範囲を超えた発明主題を含むことなく、原出願とは異なる発明をクレームしなければならない。 分割出願においてクレームされず、原出願にも分割出願にも含まれなくなった発明又はそのような一群の発明は、原出願又は当該分割出願において再びクレームすることはできない。 (3) 分割出願は、本法第111条に定める期間内、または自発的な分割の場合は本法第102条に定める期間内に提出しなければならない。 本法第113条の期間内において、本庁の意見で分割出願が適切であると認められるか、または出願人が要求するかのいずれかでない限り、分割出願に基づいて分割出願をすることはできない。 本法第105条に基づいて出願日とみなされる原出願日の利益は、分割出願が本条に定められた要件を充足しない場合には享受することができない。 |
※引用条文にいう「本庁」とは、「メキシコ産業財産庁」のことである。
産業財産法第100条の分割要件を満たしていない場合は、産業財産法第105条の出願日の認定要件を満たして認められた原出願の出願日の利益を享受できないことになるので、注意が必要である。
2.分割出願の方式要件
分割出願では、明細書、クレームおよび図面を提出する必要がある(産業財産法第100条(1))。ここで、明細書および図面において、原出願で意図された発明を修正するような変更をしてはならないことに留意しなければならない。
原出願にすでに含まれている優先権主張に関する書類とその翻訳文、権利の譲渡書ならびに代理人委任状は省略できる(産業財産法第100条(1))。
また、通常の出願において必要とされる要約(産業財産法第106条(6)(c))は、分割出願では必須ではないものと解される。
3.分割出願の時期的要件
3-1.自発的に提出される分割出願
従来から、特許出願の手続中および特許の付与まで、いつでも自発的な分割出願を提出できたものの、その明文規定がなかったところ、改正により自発的な分割出願が可能であること、および提出期限が明確に規定された(産業財産法第100条(3)、第102条)。
メキシコ産業財産法 第102条 出願人は、本法第100条の規定に従い、必要に応じて、優先権主張して原出願日を各分割出願の出願日として、係属中の原出願を自発的に分割することができる。 前項の目的のために、原出願が不受理、拒絶、放棄又は取下の査定発行前、若しくは、特許協力条約に基づく国際出願の取下とみなされる前、までは原出願は係属中であるとみなす。 出願人は、特許査定又は登録査定を通知された場合でも、本法第110条に規定されている2月以内に原出願を自主的に分割することができる。 |
出願人は、原出願が係属中は分割出願することができ、特許査定や登録処理が通知された場合でも、特許許可の通知から2か月以内であれば分割することができる。この2か月は、産業財産法第110条に規定されている、登録のために公報発行の料金および初年度の年金の支払証明を提出することができる期間である。
3-2.単一性欠如の拒絶に対する応答時に提出される分割出願
改正前の産業財産法第44条には、出願が発明の単一性を満たしていない場合に、分割出願の通知が出願人になされる旨が規定されていたが、改正された産業財産法では、当該規定は第113条に規定されている。
メキシコ産業財産法 第113条 本法第111条記載の拒絶理由が、発明の単一性要件を満たさない場合、本庁はクレームの第1クレーム記載の発明のみを主発明とみなし、それから、本法で定められた他の要件の充足性を評価する。 この場合、本庁は出願人に主発明のクレームに限定することを要求し、必要があれば、本法第111条に記載の期限内に対応する分割出願を要求する。 分割出願は、本法に定められた要件に準拠している場合、当初の出願日及び必要な場合には適切な優先権主張日を保持する。 |
産業財産法第111条に記載の期限とは、いわゆる拒絶理由通知の応答期限のことである。実体審査の結果、請求された特許の付与に対する拒絶理由が発見された場合、メキシコ産業財産庁は出願人に対して、2か月の期間内に応答することを要求することができる(産業財産法第111条)。
メキシコ産業財産法 第111条 実体審査の結果、請求された特許の付与に対する拒絶理由が発見された場合、本庁はその権限により、出願人に対して、2月の期間内に、応答すること、情報又は書類を提示することを要求することができ、必要な場合には、該当する補正箇所を示して補正することを要求することができる。(以下省略) |
また、産業財産法第113条に規定される単一性違反の拒絶理由通知を受けた場合にのみ、分割出願からさらに分割出願をすることが可能になった点に注意する必要がある(産業財産法第100条(3))。これは、分割出願を親出願とする分割は、自発的には行うことができなくなったことを意味し、分割出願の実務における大きな変更点の一つである。
4.分割出願のクレームに関する要件
従来から、分割出願は、原出願にて開示された事項のみを含むものでなければならず、さらに、分割出願でクレームされる発明は親出願でクレームされる発明とは異なるものでなければならないとされていた。この点が改正法では明確にされ、分割出願においては、追加の発明主題や最初に提出された範囲を超えた発明主題を含むことなく、原出願とは異なる発明をクレームしなければならないとされた(産業財産法第100条(2))。
さらに、分割出願のクレームに関する実務における留意点は、分割出願においてクレームされず、原出願にも分割出願にも含まれなくなった発明またはそのような一群の発明は、原出願または当該分割出願において再びクレームすることはできないと条文に明記されたことである(産業財産法第100条(2))。したがって、例えば、発明の単一性違反の拒絶理由通知を受けて分割出願を検討する際に、事業との関連で発明の保護を求める範囲が変動する可能性のある場合は、分割出願において必要なクレームを全て記載しておくことが望ましい。
5.分割出願の公開
分割出願の公開は、方式審査が承認された後、出願日または場合によっては優先日から18か月の期間が経過した後に行われる(産業財産法第107条)。
6.分割出願と無効理由
分割出願の結果、産業財産法第100条の規定に違反して行われた事項に対応するクレームを含む場合、特許は無効とされる(産業財産法第154条(4))。無効審判は、公報で特許が公示された日からいつでも請求することができる。
オーストラリアにおける分割出願に関する留意事項
1.はじめに
オーストラリアにおける標準特許出願とイノベーション特許出願を説明する。標準特許出願とは、実体審査を経て標準特許が付与される特許出願であり、標準特許の権利期間は特許の日(”date of the patent”、完全明細書の提出日、特許法第65条)から20年である(特許法第67条)。イノベーション特許出願とは、実体審査を経ずにイノベーション特許が付与される特許出願であり、イノベーション特許の権利期間は特許の日(完全明細書の提出日)から8年である(特許法第68条)。イノベーション特許は実体審査を経ずに付与されるが、権利行使をするには、審査請求を行い実体審査されたことの証明(certificate)(以下、「審査証明」)を得る必要がある(特許法第120条1A)。
なお、イノベーション特許出願制度は段階的な廃止が決定されており、2021年8月26日以降は、分割出願としてのみ出願することができ、すべてのイノベーション特許が期限切れとなる2029年8月26日までに段階的に廃止される(イノベーション特許の段階的廃止法)。
オーストラリアでは、下記の理由により分割出願が行われる。
・発明の単一性に係る拒絶理由への対応のため
・出願認可後に、より狭いクレームまたは代替のクレームでの権利化を目指すため
・侵害者への権利行使を行う目的で、速やかにイノベーション特許の付与とその審査証明を得るため
オーストラリアの分割出願は、標準特許出願、イノベーション特許出願、標準特許出願に基づく分割出願、およびPCT出願に基づき出願することができる。分割出願には、親出願の種類と出願日に応じて異なる法律や規則が適用される。これらの点について以下で詳しく解説する。
2.標準特許出願に基づく分割出願を行うことができる時期
標準特許出願に基づく分割出願の出願期限は、標準特許出願の許可通知が公表される日から3か月であり、この期限を延長することはできない。分割出願は、標準特許出願として出願することができる(特許法第79B条、特許規則6A.1)。また、親出願の標準特許が2021年8月26日より前に出願された場合、イノベーション特許として出願することもできる。
分割出願の出願期限は、特許付与に対する異議申立人からの異議申立期限と同じである。なお、異議申立人が異議申立を行った際に、出願人に代替のクレーム(例えば、より広範なクレーム)で分割出願を行うことができる機会を与えないために、実務上、異議申立は期限当日に行うのが一般的である。
3.イノベーション特許出願に基づく分割出願を行うことができる時期
イノベーション特許の審査の実行通知が、公表される日から1か月以内の期間、分割出願を行うことができる。
この期間はイノベーション特許出願としてのみ分割出願を行うことができる期間であり、親出願に開示されていた発明についてのみ(例えば、出願人が、親出願に対して発明の単一性に係る拒絶理由を受けた場合に)分割出願を行うことができる(特許法第79C条、特許規則6A.2)。
4.PCT出願に基づく分割出願を行うことができる時期
PCT出願は、標準特許の完全出願として扱われ、したがって、オーストラリアを指定国とするPCT出願は、分割出願の出願時に、PCT出願が失効、拒絶または取下げられていないことを条件として、分割出願の親出願とすることができる(特許法第29A条)。
また、PCT出願が2021年8月26日より前に出願されていた場合、PCT出願の分割出願をイノベーション特許として出願することもできる。
5.分割出願の出願要件
分割出願として認められるためには、分割出願の出願時点において親出願が有効に存続している(すなわち、親出願が、失効しておらず、拒絶または取り下げもされていない)必要がある。しかし、分割出願の出願日以降に親出願が失効、拒絶または取り下げられても、分割出願は無効とはならない(特許法第79B条、第79C条)。
また、分割出願は、親出願に含まれる開示によって裏付けられるクレームを少なくとも1つ含む必要がある(特許審査基準2.10.5a)。
6.分割出願における主題の追加(新規事項)
オーストラリアではクレームごとに優先日が決定される(特許法第43条)。
分割出願には新規事項を含めることを禁止する条項は無い。しかし、この新規事項に関するクレームは、親出願に含まれていないため、分割出願された日が当該クレームの優先日となる(特許規則2.3、3.12、3.13D、特許審査基準2.10.5a)。
7.その他―追加特許
特許出願の出願日以降に発明に軽微な改良または変更が行われた場合、出願人は、これらの改良または変更を保護するために、当該特許出願に基づき追加特許出願を行うことができる。追加特許出願のクレームは、親特許および親特許出願の開示に対して新規性がなければならないが、進歩性を有する必要はない(特許法第25条、特許規則2.4)。
追加特許出願については、下記の点に注意する必要がある。
(a)親出願でクレームされた発明の改良または変更に関するものでなくてはならない。
(b)標準特許または標準特許出願に基づき出願できる。
(c)親特許の付与後に権利が付与される。
(d)親特許が有効に存続している間のみ、効力を維持する。
(特許法80条、81条、82条、83条)
韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)
新規性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定については「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点((前編)」をご覧ください。
5.請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1.対比の一般手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3 新規性の判断方法」
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
5-2.上位概念または下位概念の引用発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.4 新規性の判断時の留意事項」(1)
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
5-3.請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
請求項に記載された事項が実施例より包括的な場合、発明の説明に記載された特定の実施例に制限解釈して新規性、進歩性等を判断してはならない(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.1(2))。
すなわち、上位概念である請求項に記載された事項と引用発明を対比して新規性を判断することになる(**)。
機能・特性等を利用して物を特定する場合と数値限定発明の新規性判断においても、請求項に記載された事項で発明を特定して引用発明と対比する。
(**) 請求項に記載された発明が包括的であり上位概念で表現され、引用発明が下位概念で表現されている場合に、請求項に記載された発明の新規性が否定される点は、韓国においても同様である(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.4 新規性の判断時の留意事項」(1)①)。
5-4.対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
対比時に本願の出願時の技術常識を参酌する方法に関して、特許・実用新案審査基準(韓国)に対応する記載はないが、数値限定発明の新規性の判断について、特許・実用新案審査基準(韓国)には、「出願時の技術常識を参酌したとき、数値限定事項が通常の技術者にとって任意的に選択可能な水準に過ぎない、又は引用発明中に暗示されているとみなされる場合には、新規性が否定されることがある」と記載されている(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.3.1(1))。また、請求項に記載された発明が下位概念で表現されており引用発明が上位概念で表現されている場合、「出願時の技術常識を参酌して判断した結果、上位概念で表現された引用発明から下位概念で表現された発明を自明に導き出すことができる場合には、下位概念で表現された発明を引用発明に特定して、請求項に記載された発明の新規性を否定することができる。このとき、単に概念上、下位概念が上位概念に含まれる、又は上位概念の用語から下位概念の要素を列挙することができるという事実だけでは、下位概念で表現された発明を自明に導き出すことができるとはいえない」と記載されている(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(1)②)。
以上のとおり、新規性判断時に出願時の技術常識を参酌していることを、特別な場合に適用している。
6.特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1.作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
発明の特定については、特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(1) 作用、機能、性質又は特性(以下、「機能・特性など」という)を利用して物を特定する場合」において、「請求項に記載された機能・特性などが発明の内容を限定する事項として含まれている以上、これを発明の構成から除外して解釈することはできない。請求項に機能・特性などを用いて物を特定しようとする記載がある場合、発明の説明において特定の意味を有するよう、明示的に定義している場合を除き、原則としてその記載はそのような機能・特性などを有するすべての物を意味していると解釈する」と記載されているが、新規性の判断については、特別な方法は記載されていない。
機能・特性等を利用して物を特定する場合にも、新規性判断の原則に従って審査される。
6-2.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(2) 用途を限定して物を特定する場合」
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
6-3.サブコンビネーションの発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
特許・実用新案審査基準(韓国)では、発明の単一性判断時にサブコンビネーションの発明について説明しているが、新規性についてはその記載がなく、一般的な新規性の判断方法により審査している。
6-4.製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(3) 製造方法により物を特定する場合」
(2) 異なる事項または留意点
製法限定物発明において、製造方法が物の構造や性質等に影響を与える場合には、製造方法により特定される構造や性質等を持つ物で新規性を判断し、物発明の請求項のうちに製造方法による記載があっても製造方法が物の構造や性質等に影響を与えないならば、製造方法を除いて最終的に得られた物自体を新規性判断対象と解釈する。
例えば、アルミニウム合金形状物を請求しながら請求項には上記合金形状物が特定の工程を経て形成されると記載する場合、技術常識を参酌する際に結合構造や形状または強度等に対して上記特定工程により特定される構造や性質等を持つ形状物は他の工程では得られないために製造方法により特定される形状物を出願前に公知された先行技術と比較して新規性等を判断する。
6-5.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3.1 数値限定発明の新規性の判断」
(2) 異なる事項または留意点
数値限定事項を除いた残りの技術的特徴のみで引用発明と比べたときに、同一でなければ新規性のある発明である。また、数値限定事項を除いた残りの技術的特徴のみで請求項と引用発明が同一の場合は、以下のように判断する。
(a) 引用発明に数値限定がなく請求項に記載された発明が新たに数値限定を含む場合には原則的に新規性が認められるが、出願時の技術常識を参酌するときに数値限定事項が通常の技術者が任意に選択可能な水準にすぎなかったり、引用発明中に暗示されたと見なされる場合に新規性が否定されることがある。
(b) 請求項に記載された発明の数値範囲が引用発明の記載している数値範囲に含まれる場合、数値限定の臨界的意義により新規性が認められる。
(c) 請求項に記載された発明の数値範囲が引用発明の数値範囲を含んでいる場合には、直ちに新規性を否定できる。
(d) 請求項に記載された発明と引用発明の数値範囲が互いに異なる場合には、通常、新規性が認められる。
7.その他
7-1.特殊パラメータ発明
特許・実用新案審査基準(日本)には特殊パラメータ発明に関する記載はないが、特許・実用新案審査基準(韓国)には以下のとおり、特殊パラメータ発明に関する記載がある。
(1) 特殊パラメータ発明について記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3.2 パラメータ発明の新規性の判断」
(2) 説明
(a) パラメータ発明の新規性は発明の説明または図面および出願時の技術常識を参酌して発明が明確に把握できる場合に限り判断する(大法院2007ホ81(*))。
(*) 大法院の判決は、以下のリンク先で検索できる。(「ホ」は「허」に変更)
http://glaw.scourt.go.kr/
関連記事:「韓国の判例の調べ方」(2017.07.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13872/
(b) パラメータ発明はパラメータ自体を請求項の一部として新規性を判断するが、請求項に記載されたパラメータが新規だとして、その発明の新規性が認められるものではない。パラメータによる限定が公知された物に内在された本来の性質または特性等を試験的に確認したことにすぎなかったり、パラメータを使用して表現方式のみ異なったものであれば請求項に記載された発明の新規性は否定される。
(c) パラメータ発明は一般的に先行技術と新規性判断のための構成の対比が困難であるために両者が同一の発明という「合理的な疑い」がある場合には先行技術と厳密に対比せず新規性がないという拒絶理由を通知した後、出願人の意見書および実験成績書等の提出を待つことができる。出願人の反論により拒絶理由を維持できない場合には拒絶理由が解消されるが、合理的な疑いが解消されない場合には新規性がないという理由で拒絶決定(拒絶査定)する。
合理的な疑いがある場合は、
1)請求項に記載された発明に含まれたパラメータを他の定義または試験・測定方法に換算してみると、引用発明と同一となる場合、
2)引用発明のパラメータを発明の説明に記載された測定・評価方法に従って評価したら、請求項に記載された発明が限定するものと同一の事項が得られると予想される場合、
3)発明の説明に記載された出願発明の実施形態と引用発明の実施形態が同一の場合である。
7-2.留意点
特許・実用新案審査基準(韓国)のうち新規性に関する事項について、その他留意すべき点として以下の事項がある。
(a) 新規性の判断時には請求項に記載された発明を一つの引用発明と対比しなければならず、複数の引用発明を結合して対比してはならないが、引用発明が再び別個の刊行物等を引用している場合には、別個の刊行物は引用発明に含まれるものとして扱い新規性判断に引用することができる。
また、引用発明に使用された特別な用語を解釈する目的で辞典または参考文献を引用する場合にも、辞典または参考文献は引用発明に含まれるものと扱い、新規性判断に引用できる(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(2)) 。
(b) 1つの引用文献に2以上の実施例が開示されている場合、2以上の実施例を引用発明でそれぞれ特定し相互結合して請求項に記載された発明の新規性を判断してはならない(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(4))。
(c) 審査の対象となる出願の明細書中に背景技術として記載された技術の場合、出願人がその明細書または意見書等においてその技術が出願前に公知されたことを認めている場合には、その技術の公知性を事実上推定し、請求項に記載された発明の新規性を判断することができる(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(5))。
フィリピンにおける分割出願に関する留意点
【詳細】
1.自発的な分割出願
自発的な分割出願は、親出願が取り下げられるか、または特許が付与される前であればいつでも行うことができる。特許に関する改正施行規則規定(IRR)の規則611では、自発的な分割出願が以下のように規定されている。
「規則611 自発的な分割出願
出願人は、親出願が取り下げられる前か、または特許が付与される前に、係属中の出願に基づき自発的に分割出願を行うことができる。ただし、分割出願の内容は親出願の内容を超えてはならない。
自発的な分割出願は、親出願と同じ出願日が付与され、優先権の利益が得られる。(以下、省略)」
2.庁指令に応じて行う分割出願
フィリピン知的財産権局(IPOPHL)の局長は、発明の単一性を満たさない出願に対して単一の発明に限定するよう要求する庁指令(限定要求)を発することができる。限定要求に応じて、出願人は分割出願をすることができるが、その分割出願は限定要求が確定した(*)日から4か月以内に行わなければならない。限定要求に応じて行う分割出願については、IRRの規則604に以下のように規定されている。
「規則604 発明の単一性
(a)出願は、一の発明または単一の発明概念を形成する一群の発明に関連しなければならない。(フィリピン知的財産法(IP法)第38条1)
(b)単一の発明概念を形成しない複数の独立した発明が一の出願においてクレームされている場合、局長は、当該出願を単一の発明に限定するよう要求することができる。分割した発明についてなされる後の出願は、最初の出願と同日に出願されたものとみなされる。ただし、分割の要求が確定した後4か月以内、または4か月を超えない範囲で認められる追加期間内に、後の出願がなされることを条件とする。更に、各分割出願は、当初の出願における開示の範囲を超えてはならない。(IP法第38条2)」
(*)出願人は限定要求に対して、理由を挙げて、その再考を請求することができる。再考の結果、限定要求が繰り返された場合には、当該限定要求は確定する。(IRR規則606)
3.分割出願における審査請求の期限
IP第44条によれば、分割出願は、実体審査段階の手続に入る前に、IPOPHLの公報において公開される。IP法第48条に基づき、公開から6か月以内に、出願人は書面による実体審査の請求をしなければならない。出願人が6か月以内に実体審査の請求をしなかった場合、分割出願は取り下げられたものとみなされる。
4.更なる分割出願
一つの親出願から複数の分割出願(子出願)を行うことができる。ただし、フィリピンにおける実務では、これら複数の分割出願は全て、親出願の係属中に行わなければならず、分割出願(子出願)から更なる分割出願(孫出願)を行うことは認められていない。
5.分割出願のクレーム範囲および二重特許に関する問題
IRRの規則604および611に従い、分割出願のクレーム範囲は、親出願に開示される範囲、すなわち、親出願の出願時の内容を超えてはならない。
親出願と同一のクレームを含む分割出願は、原則として上記の要件には違反しない。ただし、フィリピンでは、二重特許、すなわち、一つの発明に対して二つの特許を同一の者に付与することは認められていないので、親出願のクレーム範囲と同一範囲のクレームを含む分割出願を行っても、これらの親出願と分割出願の審査は並行して進めることはできない。
したがって、分割出願のクレーム範囲は、親出願のクレーム範囲と重複しないようにすべきである。もし親出願と同一のクレームで分割出願が行う場合には、親出願との二重特許の問題を避けるために、親出願のクレームを補正する必要がある。
オーストラリアにおける分割出願に関する留意事項
【詳細】
最初に、オーストラリアにおける標準特許出願とイノベーション特許出願を説明する。標準特許出願とは実体審査を経て標準特許が付与される特許出願であり、標準特許の権利期間は出願から20年である。イノベーション特許出願とは実体審査を経ずにイノベーション特許が付与される特許出願であり、イノベーション特許の権利期間は出願から8年である。イノベーション特許は実体審査を経ずに付与されるが、権利行使をするには、審査請求を行い実体審査されたことの証明(certificate)(以下、「審査証明」と称する)を得る必要がある。
オーストラリアでは、下記の理由により分割出願が行われる。
・発明の単一性に係る拒絶理由への対応のため
・出願認可後に、より狭いクレームまたは代替のクレームでの権利化を目指すため
・侵害者への権利行使を行う目的で、速やかにイノベーション特許の付与とその審査証明を得るため
・出願が認可期限(最初の審査報告書の日から12か月)までに認可されなかった場合に審査を継続するため
オーストラリアの分割出願は、標準特許出願、イノベーション特許出願、分割出願(標準特許)、分割出願(イノベーション特許)、およびPCT出願に基づき出願することができる。親出願が標準特許出願であるかイノベーション特許出願であるかに応じて、分割出願に適用される法律や規則が異なる。以下、これらの点について詳細に論じる。
1.標準特許出願に基づく分割出願を行うことができる時期
標準特許出願に基づく分割出願の出願期限は、標準特許出願の認可の公告日から3ヶ月である。この期限を延長することはできない。分割出願は、標準特許出願として行うこともできるし、またはイノベーション特許出願として行うこともできる。
この出願期限は、特許付与に対する異議申立人からの異議申立期限と同じである。なお、異議申立を行った際に、出願人に代替のクレーム(例えば、より広範なクレーム)で分割出願を行うことができる期間を与えないために、実務上、異議申立は期限当日に行うのが一般的である。
2.イノベーション特許出願に基づく分割出願を行うことができる時期
イノベーション特許出願に基づく分割出願を行うことができる時期としては、下記の2つの期間が存在する。
(1)イノベーション特許出願の出願から特許付与までの期間
この期間は標準特許出願またはイノベーション特許出願として分割出願を行うことができる期間である。イノベーション特許出願は、通常極めて迅速に(例えば、若干の方式審査の後、出願から2~4週間で)権利付与されるため、分割出願を希望する場合には、親イノベーション特許出願後、直ちに分割出願を行う必要がある。なお、親出願が下記(2)に示す期間に出願された分割イノベーション特許出願である場合、この(1)に示される期間は適用されない。
(2)イノベーション特許の審査請求後から審査証明の公告後1ヶ月間
この期間はイノベーション特許出願としてのみ分割出願を行うことができる期間であり、親出願に開示されていた発明についてのみ分割出願を行うことができる(例えば、出願人が、親出願に対して発明の単一性に係る拒絶理由を受けた場合)。
3.分割出願の出願要件
分割出願としての地位が認められるためには、分割出願の出願時点において親出願が有効に存続している(すなわち、親出願が、失効しておらず、拒絶または取り下げもされていない)必要がある。しかし、分割出願の出願日以降に親出願が失効、拒絶または取り下げられても、分割出願は無効とならず、分割出願としての地位を失うことはない。
また、分割出願は、親出願に対して優先権の主張ができるクレームを少なくとも1つ含む必要がある。
4.分割出願における主題の追加(新規事項)
分割出願には新規事項を含めることが可能である。しかし、この新規事項に関するクレームには、分割出願の優先日が適用され、親出願の優先日は適用されない。
5.その他
特許出願の優先日以降に発明に小さな改良または変更が行われた場合、出願人は、これらの改良または変更を保護するために追加特許出願を行うことができる。追加特許出願のクレームは、親特許および親特許出願の開示に対して新規性がなければならないが、親特許および親特許出願の開示に対して進歩性を有する必要はない。
追加特許出願については、下記の点に注意する必要がある。
(a)親出願でクレームされた発明の改良または変更に関するものでなくてはならない。
(b)標準特許または標準特許出願に基づき出願できる。
(c)親特許の付与後に権利が付与される。
(d)親特許が有効に存続している間のみ、有効に存続する。
インドネシアにおける特許の分割出願に関する留意点
【詳細】
1. 分割出願に関する特許法上の規定
2001年8月1日付で施行された特許法(2001年法律第14号)では、第36条において分割特許出願が以下のように規定されている。
「第36条
- 出願が第21条にいう発明の単一性を構成しない複数の発明を含んでいる場合、出願人は、出願の分割を請求することができる。
- (1)にいう出願の分割は、一以上の出願として別々に提出できるが、各出願において求められる保護範囲が原出願において求められる保護範囲を拡大していないことを条件とする。
- (1)にいう出願の分割は、原出願について第55条(1)または第56条(1)に示した決定が下されるまで請求することができる。
- (1)または(2)に定める出願の分割の請求が、第21条および第24条の要件を満たしている場合、当該請求は原出願日と同じ日に提出されたものとみなされる。
- 出願人が(3)に定める期間内に出願の分割を請求しない場合、原出願のクレームに記載された発明についてのみ実体審査が行われるものとする。」
2. 分割出願における留意点
出願人は、インドネシアでの分割出願にあたって以下の点に注意すべきである。
- 出願が発明の単一性を満たしていない複数の発明が含まれる場合、その出願からの分割出願を行うことができる。一方、発明の単一性の要件が満たされている場合には、製造物クレームと方法クレームの両方を一つの出願に含めることができるが、それらのクレームを分割出願によって分割することも可能である。
- 出願人は自発的に分割出願を行うこともできる(特許規則(1991年政府規則第34号)第7条(a))、審査官が実体審査報告書の中で挙げた発明の単一性欠如の拒絶理由に応じて分割出願を行うこともできる(特許規則第10条(1))。
- 分割出願は、原出願に対して特許付与の決定(第55条(1))または拒絶の決定(56条(1))が下される前であれば、いつでも行うことができる。
- 分割出願では、原出願の開示の範囲の拡大や、原出願に開示されない新規事項の追加は認められない。
- 分割出願では、以下の書類の提出が要求される。
- 願書(特許規則第4条)
- 委任状(特許規則第2条)。委任状について公証人認証は必要ない。署名済みの委任状であれば十分である。新たな(分割でない)出願の場合と同様、この委任状は、出願日から3か月以内であれば出願後に提出することができる。
- 英語の明細書(クレーム及び要約を含む)および発明の説明に必要な図面があれば図面(特許規則第17条)。
- インドネシア語の明細書(クレーム及び要約を含む)および発明の説明に必要な図面があれば図面(特許規則第2条、第4条)。新たな出願の場合と同様、インドネシア語の明細書及び図面は、出願日から1か月以内であれば出願後に提出することができる。
- 実体審査請求書。インドネシア知的財産権総局(DGIPR)が2011年9月5日付で発行した通達HKI-77.OT.03.01号によれば、実体審査請求は分割出願の願書と同時に提出されなければならない。
3. 特許出願戦略としての分割出願
分割出願は、発明者や企業にとって、自らの発明を有利な権利として保護するための特許出願戦略としても利用することができる。
例えば、原出願でのクレームよりも広い範囲のクレームに基づき、分割出願を行うことができる。原出願の明細書には記載されているが、原出願のクレームに含まれていない別の発明を分割出願することで、さまざまな観点での権利化を図ることができる。
また、複数の関連する発明を含む明細書で1件の出願として出願し、出願後、特許付与までの期間をインドネシアでの対象製品の市場動向を見極め、権利化すべき発明を選択するための準備期間として利用することもできる。出願人はこの期間に、自発的に分割出願を行うことや、または実体審査における発明の単一性欠如の拒絶理由に対しする応答として分割出願を行うことが可能である。これにより、重要度が高い発明のみを権利化し、出願後に重要度の低下した発明に対しては別途権利化しないという判断を行うことができる。このような手続きの進め方であれば、同時に複数の出願を行う場合と比較して手続き費用の削減が期待できる。
メキシコにおける特許の分割出願についての留意点
【詳細】
メキシコ産業財産法には、特許の分割出願に関して詳細な規定はない。実務上、出願の分割の根拠として言及されるのは、以下に示す第43条および第44条のみである。
・第43条 特許出願は、単一の発明に関するもの、または相互に関連して単一の発明概念を構成する複数の発明に関するものでなければならない。
・第44条 出願が第43条の要件を満たさない場合、産業財産庁は、出願人が2ヶ月以内に当該出願を複数の出願に分割し、分割された各出願の出願日および優先日として当初の出願日および優先日を維持できることを、出願人に書面により通知する。この2ヶ月の期間内に出願人が出願を分割しなかった場合、当該出願は放棄されたものとみなされる。
1. 分割出願の提出期限
メキシコにおける分割出願は、下記の期間内に提出することができる。
・単一性欠如の拒絶理由が指摘された庁指令への応答時に提出できる。期限は、庁指令の受領から2か月以内であり、出願人からの申請により、さらに2か月の延長が可能である。
・メキシコ特許出願の手続中および特許の付与までいつでも、自発的な分割出願を提出できる。
自発的な分割出願の提出期限について、メキシコ産業財産法に明文規定はないものの、現行のメキシコ特許実務では、元のメキシコ特許出願の最終的な特許料納付まで、すなわち、特許認可通知の発行後、特許料納付の期間として与えられる2ヶ月の期間内に、分割出願を提出することができるとされている。
2. 単一性欠如の拒絶に対する応答時に提出される分割出願
出願が発明の単一性の要件を満たしていない場合、メキシコ産業財産法第44条の規定に基づき、審査官は、出願に含められている複数の発明を特定し、単一性欠如の拒絶理由に基づく庁指令を発行する。出願人は、審査官により特定された発明について、当該出願から、1つあるいは複数の分割出願を提出する判断が求められる。
メキシコ産業財産法第44条によれば、単一性欠如の拒絶を含む庁指令への応答の際に、または当該庁指令への応答期間内に、出願人は1つあるいは複数の分割出願を提出しなければならない。分割出願を提出しなければならない時期に関して、この第44条の規定には、複数の解釈が可能である。第44条を最も厳格に解釈した場合には、庁指令の応答時に、親出願で選択されない発明を、その数に応じてそれぞれ、1つあるいは複数の分割出願として提出しなければならない。
しかしながら、現在のメキシコ産業財産庁の運用は、上記よりは寛容な解釈に基づくものとなっている。例えば、3つ以上の発明が含まれているという単一性欠如の拒絶理由に基づく庁指令の場合には、庁指令への応答時に、選択されなかったその他複数の発明に関するクレームをすべて含めて一つの分割出願として提出することを認めている。その後、分割出願の審査において、複数の発明が含まれていると認められる場合は、単一性欠如の拒絶理由に基づく庁指令が新たに発行され、更なる分割出願の提出期限が設定される。この時点で、出願人が複数の発明の保護を望む場合には、庁指令への応答として再び発明のうちの1つを本分割出願の発明として選択し、選択しなかったその他発明に関して更なる分割出願を提出することができる。
3. 分割出願での審査対象クレームと重複特許の問題
メキシコにおいて、分割出願は、原出願にて開示された事項のみを含むものでなければならないが、さらに、分割出願でクレームされる発明は親出願でクレームされる発明とは異なるものでなければならない。すなわち、分割出願は、原出願に含まれていた1以上のクレームにより提出することも可能であるが、既に実体審査の対象とされたクレーム(親出願または先の分割出願のクレーム)と同一のクレームを含む分割出願を提出した場合には、出願人は、後の審査において、既に審査されたクレームとは異なる発明を記載するようにクレームの補正を要求されることとなる。最近の審査では、分割出願における発明が親出願または先の分割出願で既に審査されたものと同じ発明である場合には、新たな審査を行わない審査官もいる。しかし、出願人は、他の出願(親出願または先の分割出願)において未審査のクレーム(既に親出願または分割出願において削除されたクレームを含む)に記載された発明の権利化を分割出願で求めることができる。
したがって、メキシコにおいて特許の分割出願を提出する際、出願人は、親出願または先の分割出願において既に審査された発明を考慮して、分割出願として提出すべきクレームを検討することが望ましい。一方、出願人は、原出願時に提出したすべてのクレームを単一の分割出願として提出した後、手続中または庁指令への応答時に自発的にクレームを補正することも、手続き上は可能である。
4. 分割出願の提出要件
分割出願を提出するには、下記の書類が必要である。
・明細書、図面(必要な場合)、塩基配列またはアミノ酸配列に関する配列表(必要な場合)
・1つ以上のクレーム
・正式に署名された譲渡証および委任状(出願人が特許出願に関する権利を第三者に譲渡または移転した場合のみ)
5. 分割出願の審査および公開
分割出願は、通常提出日の古い順に審査されるが、親出願で行われた審査の影響を受け、分割出願が比較的早く審査されることがある。
なお、分割出願は、特許付与まで公開されることはない。そのため、メキシコの実務上、出願から分割出願が提出されているかどうかを、第三者が出願公開の情報から知ることはできない。
タイにおける特許分割出願
【詳細】
分割出願の根拠は、発明の単一性に関する法理に由来する。ゆえに発明の単一性に関連する規定をまず検討すべきである。
○発明の単一性
発明の単一性はタイにおける特許付与の要件の一つである。特許法B.E. 2522 (1979)第18条に基づき、特許出願は単一の発明もしくは単一の発明概念を構成する関連性のある発明の一群を対象とするものでなければならない。
実体審査請求がなされた後、審査官は審査ガイドラインの第4.1項に基づき当該出願が単一の発明もしくは単一の発明概念を構成する関連性のある発明の一群を対象としているか審査しなければならない。発明の単一性を判断する際、審査官は独立クレームを検討する。
○分割出願
審査の過程で、出願が単一の発明概念を構成せず、関連性を持たない複数の異なる発明に係ると判断された、すなわち発明の単一性が満たされない場合、審査官は拒絶理由通知を発行し、その出願を個々の発明に分割するよう出願人に通知する。つまり、特許法B.E. 2522(1979)第26条第1項に従って分割出願を行うよう指示するのである。上述のように、この指示は実体審査段階でなされる。
拒絶理由通知を受領した出願人がこれに同意し、当該の通知受領から180日以内に分割出願の申請を行った場合、特許法B.E. 2522(1979)第26条第2項に従い、当該分割出願の出願日は最初の出願の出願日とみなされる。
特許法 B.E. 2522(1979)第26条第3項に従い、分割出願に適用される手続や料金は通常の出願と同じとなる。
なお、出願人が拒絶理由通知によって指示された分割出願に同意しない場合、特許法B.E. 2522(1979)第26条第4項に従い、出願人は当該通知の受領から120日以内に審査官の認定に対する不服審判請求を長官に提出することができる。
なお、特許法B.E. 2522(1979)には、出願人が自発的に分割出願を行うことを認める規定はない。
○まとめ
前述したように、タイにおいて自発的に分割出願を行うことは不可能である。出願人が分割出願を行うことができるのは、審査官から指示された場合のみである。分割出願には最初の出願の出願日が与えられること、また特許期限を延長することはできないので、分割が指示された場合、出願人は可及的速やかに分割出願を行うべきである
自発的に分割出願は行えないが、当該出願に対応する外国特許で分割出願が指示されたものがあれば、その審査結果を提出することによりタイでの分割出願を試みることは可能である。とはいえ、発明の単一性の欠如は特許無効事由にならないため、対応外国特許での認定に基づき分割出願の提出を出願人に指示するよう審査官に促す上記の方法は推奨できない。それにより特許付与が遅れる結果になりがちだからである。