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ブラジルにおいてOIモデル契約書ver2.0秘密保持契約書(新素材編、AI編)を活用するに際しての留意点

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ブラジルにおける商品・役務の類否判断について

1.はじめに
 日本では、先行商標と出願商標が非類似とされているケースで、ブラジルでは、同じ商標の出願について、同じ先行商標と類似と判断され、拒絶査定を受けることがある。この相違は、両国の指定商品・役務に関する審査実務の違いによって生じる場合がある。例えば、日本の商標審査では、「類似群」と呼ばれるグループ分けを採用しており、商品・役務が同じグループに属さない限り、原則として非類似とみなされる。しかし、ブラジルの商標審査ガイドライン(以下、「審査ガイドライン」という。)では、商品・役務を事前にグループ分けしていないため、判断が異なる可能性がある。そこで本稿では、審査ガイドラインに基づく商品・役務の類似・非類似の判断について紹介する。具体的には、審査ガイドラインに基づく商品・役務の類否判断の主となる市場親和性について概説し、具体的な併存登録例を紹介するとともに、日本の出願人に関心があると思われる類見出しと「小売」役務について述べ、日本の出願人がブラジルにおける商品・役務の類否を判断する際の一助としたい。

2.商標の審査方法について
 ブラジルにおける審査方法は、以下の順番で行われる。

 ① 商標の合法性、識別性、真実性の分析
 ② 商標の登録可能性の分析
 ③ 実体審査前の異議申立の有無および異議申立に対する反駁を考慮した評価
 ④ 商標の性質と表示形式による必須書類の評価

 ここで②の「商標の登録可能性の分析」について、ブラジル産業財産法第124条に、登録を受けることができない標識が列挙されているが、具体的には同条の(I)~(XXIII)項を順番に分析することになる。なお、商品・役務の相対的要件は、同条(XIX)項に規定されている。
 また、④は、商標見本の性質及び形状を理解するための必須書類の評価に加え、団体標章の禁止事項および使用規則ならびに証明標章の管理規約などの必須書類の評価を意味する。

3.商品・役務の類似・非類似について
 類否判断は、市場親和性の程度を評価することで行う。具体的には、商品・役務の以下の特徴が考慮される(審査ガイドライン5.11.2「市場親和性の検討」(Manual de Marcas » 05 Exame substantivo » 5.11.2 Exame da afinidade mercadológica))。
 商品・役務の間の親和性の評価における特徴について、各項目の重みづけは、商品・役務が位置する市場セグメントの特徴に従って評価され、公衆を混乱または不当な関連付けに導く能力の大小によって決まる。
 同一商品・役務間では当然であるが、異なる種類の商品・役務間であっても、それらが類似の特性を持っている場合、また、それらの間に密接な関係がある場合には、混同や不当な関連付けの危険性が生じるため、市場親和性の程度を評価するために、商品・役務についての以下の項目を観察する。

a) 性質
 性質とは、商品・役務について知られている本質的な性質、その種類、ジャンルまたは特定のカテゴリーを指す。商品の場合、性質は通常、組成(成分、構成要素、原材料など)、動作原理(電動、機械的、電気的、生物学的、化学的など)、物理的状態(液体/固体/気体、柔軟性/剛性など)といった要素の組み合わせによって評価される。役務の場合は、通常、その役務が該当するカテゴリーで評価される(金融関連、医療関連、輸送関連など)。

b) 使用目的および使用形態
 商品・役務に期待される効用および機能、ならびに使用、または、役務に関する契約の形態、その条件もしくはその状況を指す。

c) 補完性
 一方の商品・役務が、他方の商品・役務の使用にとって不可欠または重要である場合、補完性があるとみなされる。

d) 競争性または互換性
 互いに代替可能な商品・役務は、競争性または互換性があるとみなされる。一般的には、同じ目的を持ち、同じ対象者を対象とした商品・役務である。

e) 流通チャンネル
 流通チャンネルや販売・供給拠点が同じである商品・役務は、マーケティング上の親和性が高く、消費者に同じ出所から生まれたものとして認識されるリスクが高まる。ただし、この項目は、マーケティングの親和性の特徴づけにとって決定的なものとは考えられない。スーパーマーケットやデパートのような中・大規模の商業施設は、それらの間に類似性や市場親和性はなく、多様な性質の商品を提供しているからである。

f) 対象消費者
 同じ消費者(一般消費者または専門消費者)を対象とする商品・役務は、マーケティングの観点から類似していると考えられる。しかし、この項目は単独で、多くの全く異なる商品・役務が同じ一般消費者によって消費されたり、契約されたりするため、市場の親和性を特徴づける決定的な項目とはみなされない。

g) 注意の度合い
 商品購入時や役務契約時での対象消費者の注意の度合いも、商標間の競合の可能性を評価する上で重要である。対象となる一般消費者がほとんど注意を払わない場合、混同のリスクは増大する。例えば、日常的に使用される場合、商品・役務の購入時において計画をたてることはほとんど必要ないが、高額、購入頻度の低い商品・役務、リスクの高い商品・役務を購入する場合、一般消費者は購入時にその商品・役務に関する追加情報を求めて慎重に吟味する傾向がある。また、専門的な消費者は、その市場に関する経験や知識が豊富であるため、より高い注意を払って購入する傾向がある。

h) 通常の起源
 通常の起源とは、商品の製造、販売または役務の提供を担う出所を指す。ここで出所とは、実際の生産や供給の場所ではなく、商品・役務を一般的に担っている企業等の組織を指す。この項目は、特定の市場で活動する代理店が市場の拡大を図る慣行に加え、製造・供給方法や設備、関連する技術的知識などの要因に影響される。

4.同一商標について、指定商品・役務の類似および非類似の例
 市場親和性について理解を深めるため、審査ガイドラインにおいて示された、同一商標について指定商品・役務が類似とされる4例と非類似とされる1例を示す。

商品・役務 該当する市場親和性
牛乳 類似 チーズ 性質、通常の起源、流通経路
スポーツウェア 類似 テニスラケット 対象消費者、補完性、流通経路、
通常の起源
繊維産業機械 類似 産業機械の修理 対象消費者、通常の起源、補完性
タブレット 類似 電子機器用
皮革カバー
補完性、対象消費者、通常の起源
洗濯用洗剤
類似
牛乳 一般大衆を対象とし、同一の施設で販売されているが、性質、起源、使用目的が異なり、補完性、互換性がないことから、市場親和性はない。

5.Class Heading(類見出し)の取り扱いについて
 ブラジルでは、ニース国際分類の類見出しは分類適格性について事前承認されていることから、記載された表示をそのまま商品・役務として指定して出願し、それを登録することができる(審査ガイドライン5.4.3)。この場合、類見出しを指定するということは、その分類に含まれるすべての商品・役務の保護を求めるということである。一方、産業財産法第128条では「・・・事業に関連する標章に限り登録出願をすることができ,その事情を実際の請求において宣言しなければならない。当該宣言を実施しなかったときは,法律上の処罰が科せられる。」と規定されている。類見出しを指定することで関連しない事業について宣言することがないように留意しなければならない。

6.小売役務について
 先に示したブラジルの産業財産法第124条のとおり、先行商標と同一または類似の商標であって、商品・役務について同一または類似の出願商標が、混同を引き起こす可能性がある場合、当該出願商標の登録は禁じられている。したがって、「小売」役務の先行商標が存在すれば、その識別力によっては、商品商標に対して排他的になる可能性がある。
 不使用に基づく商標取消は、全てまたは一部の商品・役務について請求することができるが、商品名を限定しない「小売」役務の場合は、小売されていない商品については不使用による取消理由が存在することになる。

メキシコ商標制度概要

 メキシコにおける商標制度は、産業財産法およびその施行規則に準拠している。さらにメキシコは様々な国または地域との間で協定および条約を締結している。知的財産に関する規定を含む複数の自由貿易協定(FTA)に加え、1995年に知的所有権の貿易関連側面に関する協定(TRIPS協定)、2013年にマドリッド協定議定書に加盟している。なお、NAFTA(北米自由貿易協定)は廃止され、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)が2020年7月に発効した。商標については第II部第20章第C節第20.17条~第20.27条に記載されている。また、1976年に工業所有権の保護に関するパリ条約、1900年にメキシコ‐フランス間の工業所有権の相互保護に関する条約にも署名している。

1.未登録商標
(1) 未登録商標の保護
 メキシコにおいて、商標の使用は登録を得るための要件ではないが、未登録商標の使用は商標権侵害を提起されたときに先使用権の抗弁としての権利をもたらす(産業財産法第175条、第258条)。

(2) 未登録商標の使用の要件
 未登録商標の使用が、先使用権として商標権侵害への抗弁として認められるためには、未登録商標が継続的に善意で使用されていなければならない(産業財産法第175条(1))。産業財産法は、要求される使用期間について定めていないが、かかる使用が通常の取引慣行にしたがって行われており、抵触する登録商標の出願日または主張された使用開始日より前の少なくとも3から6か月間にわたり使用されていることが望ましい。

 未登録商標を根拠として第三者の登録商標の有効性を争う場合、その未登録商標の所有者は、登録商標の出願日または主張された使用開始日より前に、その未登録商標を継続的に使用していたことを立証しなければならない(産業財産法第258条(2))。この場合、当該所有者はその未登録商標の善意の使用を立証する必要はない。

2.登録商標
(1) 商標出願
 何人もメキシコにおいて商標出願することができる(産業財産法第170条)。ただし、メキシコでは一商標多区分出願(複数分類をカバーする出願)が認められていないため、同一商標を複数の分類に出願する場合は、各々の分類ごとに別々の出願をしなければならない(産業財産規則第57条)。

 メキシコで商標出願に必要な書類および情報は、以下のとおりである(産業財産法第31条、第214条、第219条)。

(a) 出願人の名前、国籍および住所
(b) 商標名およびカラーの商標見本(該当する場合)
(c) 指定商品または役務(ニース国際分類に準拠)
(d) メキシコにおける商標の使用開始日(該当する場合)
(e) 優先権を主張する場合、優先権情報(優先権の基礎となる出願番号および原出願国)
(f) 委任状

(2) 保護の範囲
 2018年の改正法までは、文字商標・図形商標・結合商標・立体商標という伝統的な商標以外は保護を受けることが困難であった。しかし、改正後、非伝統的商標(新しいタイプの商標)の保護について、従来の視覚による認識可能性(つまり、商標権の保護対象は目に見えるものでなければならない)という要件がなくなった。改正法には、視覚により認識可能なもの(ホログラムの図を含む)、音、匂い、トレードドレスが商標として登録されることが可能であることが明記された(産業財産法第172条第5項、第6項、第7項)。

 商標としての保護が認められない標章に関して、産業財産法第173条には、商標出願を拒絶する法律上の理由が規定されている。以下に拒絶理由の一部を示す。

・標章がその商品または役務の品質、原材料、効能、用途、数量等を表す記述的語句または一般名称である場合(第4項)
・標章が特定の商品の製造と関連する地理的表示または地名を含んでいる場合(第11項)
・標章が一般に使用されている形状・標識、または商品の性質もしくは機能から生じる形状のみからなる場合(第2項)

 ただし、多くの拒絶理由は、先行する類似商標(同一または密接に関連した商品または役務をカバーしている商標)の登録または出願による混同の虞に基づくものである(産業財産法第173条第18項)。

 特定の商標が先行商標と混同を生じるほど類似しているかどうかを判断する基準は、連邦裁判所の判例に示されている。したがって、審査官は判例に基づいた下記の6項目を考慮に入れなければならない。

 ・商標の外観上、称呼上および観念上の類似点
 ・全体として考慮した場合における商標の類似点
 ・指定商品または指定役務の類似点
 ・商品または役務と関連する分野の需要者
 ・流通経路
 ・図案と文字の組み合わせ商標の場合、図案より文字部分を重要な識別要素として考慮すること

 さらに、メキシコにおいて有名な商標は、認知度が高いレベルの「著名商標」と「著名商標」より認知度が低いレベルの「周知商標」のうち、いずれか一方のレベルで保護を受けることができる(産業財産法第190条)。メキシコにおいて一般的に有名な商標は、著名商標とみなされる。周知商標は、より限定された範囲で有名な商標であって、例えば特定の分野の需要者または取引業界においてのみ有名な商標が挙げられる。

 メキシコ産業財産庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial (IMPI))は、商標が著名または周知である旨の証明書を発行する権限を与えられている(産業財産法第191条)。

3.審査手続
 商標出願されると、審査官は最初に方式審査を行うが、その際に指定商品または役務の分類についても審査する。産業財産法では分類に関する最終決定権はIMPIにあるとしている。

 方式審査後、出願の公告が行われる。異議申立期間は、出願公告の翌日から1か月以内であり、利害関係人は異議を申し立てることができる(産業財産法第221条)。

 異議申立がなく異議申立期間が満了した場合、実体審査が開始される(産業財産法第225条)。実体審査において拒絶理由が見つかると、審査官は拒絶理由通知を送達し、出願人には応答書を提出するための期間が与えられる(産業財産法第225条)。

 IMPIは応答書を審査し、最終的に登録証または拒絶査定書を送達する(産業財産法第230条)。拒絶査定に対して不服がある場合、出願人はIMPIまたは裁判所のいずれかに不服申立を提起することができる(産業財産法第329条、第407条)。

 特筆すべき重要な点として、IMPIは可能な限り拒絶理由通知の送達回数を抑えようとしているものの、産業財産法には特段制限が設けられていないため、方式審査と実体審査のいずれの段階において何度も拒絶理由通知が送達される可能性がある。

4.異議申立
 出願の公告後、利害関係人は公告日から1か月以内に異議申立書を提出することができる(産業財産法第221条)。
 
 異議申立があった場合、出願人が妥当とみなす証拠を述べ、かつ、提示することができるように、異議申立について出願人にも通知される。出願人に、異議申立に関して出願人の権利が妥当なものであることを明示するために、出願人に2か月の期間が付与される(産業財産法第225条)。
 異議申立手続は、単独では審理されない。異議申立を受けた出願は、通常の審査手続が保留されることなく、異議申立人の異議理由および出願人の答弁に関しては通常の実体審査の中で検討される(産業財産法第224条、第225条)。

 当該出願が拒絶された場合、産業財産庁は異議申立人に対して当該出願の拒絶を通知する(産業財産法第230条)。当該出願が登録された場合も、産業財産庁は異議申立人に対して当該出願の登録を通知する。

5.登録
 商標出願に対して異議申立がなく異議申立期間が満了し、その後の実体審査において拒絶理由が発見されなかった場合、または出願に対して異議申立が行われたが出願が承認された場合、IMPIは、当該商標出願の出願日の日付で商標を登録し,登録証を出願人に交付する(産業財産法第230条、第231条)。商標出願に対する拒絶理由通知が送達されなかった場合、出願日から6か月以内に登録証が交付される。

 商標登録は登録日から10年間有効に存続し、10年毎に更新することができる(産業財産法第178条)。商標登録の更新出願は、満了日の6か月前から6か月後までの間に申請することができる(産業財産法第237条)。この期間内での申請であれば、満了日を過ぎていても公費の追加発生は無い。更新出願するには、更新出願時にメキシコにおいて当該商標が使用されていなければならない。

6.使用の宣誓
 商標の権利者は、IMPIに対して、商標が使用されている指定商品又は役務を示して、その実際かつ有効な使用を宣言し、この宣言には、所要な手数料の納付を伴わなければならない(産業財産法第233条)。宣言は、登録が付与された時点から第3年目の終了後、3か月以内に、IMPIに提出されなければならない。
 登録の保護範囲は、使用が宣言されている商品又は役務に限って存続し、権利者が使用の宣言を行わない場合、登録は、IMPIの処分を必要とすることなく法律により失効する。

7.登録の抹消
(1) 放棄
 商標権者は、IMPIに申請書を提出することにより、自己の商標登録を自発的に抹消することができる(産業財産法第262条)。

(2) 取消
 指定商品または指定役務に関して商標が継続して3年間使用されていない場合、下記の場合を除き、その登録は不使用を理由に取り消され、商標登録簿から抹消される(産業財産法第260条)。

・正式な使用許諾を受けた使用者(専用使用権者や通常使用権者)が、取消請求の提起日の直前の継続する3年間に当該商標を使用していた場合(産業財産法第235条)

・商標権者に不使用の正当な理由がある場合(例えば、当該商標の指定商品または指定役務に適用される輸入制限その他の行政規制)(産業財産法第235条)

・実際かつ有効な使用の宣言が、第233条の条件に基づいてなされていない場合(産業財産法第260条)

(3) 無効
 商標登録は、下記のいずれかの無効理由に基づき、商標登録簿から抹消される(産業財産法第258条)。

・登録商標が、当該商標の出願日より前にメキシコまたは外国において同一または類似の商品または役務に関して使用されていた別の商標と同一または混同を生じるほど類似している場合。ただし、先使用の権利を主張する当事者は、登録商標の出願日または主張された使用開始日より前にメキシコまたは外国において継続的に自己の商標を使用していたことを立証しなければならない(産業財産法第258条(2))。かかる訴訟の出訴期限は、当該登録の公告日から5年以内である。

・願書に宣言された最初の使用日の信憑性を登録の権利者が証明せず、出願書類に記載された虚偽の情報に基づいて登録が付与された場合(産業財産法第258条(3))。かかる訴訟の出訴期限は、当該登録の公告日から5年以内である。

・既に同一または類似の商標が、同一または類似の商品または役務に関して登録されていた場合(産業財産法第258条(4))。かかる訴訟の出訴期限は、当該登録の公告日から5年以内である。

・外国で登録されている商標の商標権者から同意を得ていない代理人、代表者、使用者または販売業者により、当該商標の登録が取得された場合(産業財産法第258条(5))。かかる訴訟に適用される出訴期限はない。

・産業財産法または登録付与時に有効な法律に違反して、登録が付与された場合は、当該登録を取り消す一般的根拠が存在するので、かかる訴訟に適用される出訴期限はない。

・2018年の改正は、商標登録の無効化の原因として、「不誠実に得られた商標出願」を理由の1つに加えた(産業財産法第258条(6))。どのような場合に、登録を失効させる原因としての「不誠実」とみなされるのかはまだ明確ではない。同一または類似の商品またはサービスに使用された同一または混同の虞のある商標の、メキシコまたは海外での早期および継続的使用に起因する無効化訴訟を提起する制限条項に規定されている期間は、メキシコの商標登録の官報の発行日から「3年以内」であったものが「5年以内」に延長された。期間の延長に起因する失効は、出願日に関係なく、2018年8月10日以降に官報が発行された商標登録にのみ影響する。

8.未登録商標の権利
 商標登録は、当該登録商標の出願日または宣誓された使用開始日より前に同一または類似の商標を継続的に善意で使用していた第三者に対しては、対抗力を有しない(産業財産法第175条(1))。

 第三者による無許可の使用に対して、未登録の権利を直接行使することはできない。ただし、トレードドレスなどの識別性のある標識に対する権利は、登録を得ずとも、不正競争行為を理由に、権利行使することができる。

9.所有権の変更
 メキシコにおいて、商標の所有権の変更を登録する場合、所有権の変更を証明する書類を提出する必要がある(産業財産法第250条)。

 メキシコで作成された書類については認証の必要はないが、外国で作成された書類や外国知的財産官庁において作成された書類は、当該国のメキシコ領事による認証またはアポスティーユによる認証が必要となる。ハーグ条約締約国で作成された書類の場合は、「外国公文書の認証を不要とする条約(略称:認証不要条約)」(1961年10月5日のハーグ条約)に基づく付箋(=アポスティーユ)による外務省の証明を以って、当該国にある大使館・(総)領事館の領事認証があるものと同等のものとして、提出先国で使用することができる。

 公的ではない私的な所有権の変更が記されたライセンス契約書および譲渡契約書のような書類は、形式を問わず有効である。ただし、外国で作成された場合は、公証人による認証のみならず、さらに当該国のメキシコ領事による領事認証またはアポスティーユによる認証が必要となる。

 所有権の変更の登録は、IMPIによる変更申請書類の受領通知から約2か月を要する。

ブラジルにおける商標出願の指定商品または役務についての取扱い

〔詳細〕
1.商標出願における商品および役務の記載要領
ブラジルにおいては多区分出願が認められず、区分毎に独立した出願を行わなければならない(*)。各出願には、INPIにより現在採用されているニース分類(第11版)に従った商品または役務の指定を記載しなければならない(INPIウェブサイト「商品およびサービスの分類」)。
一方、2019年10月2日にマドリッドプロトコルがブラジルにおいて発効した。マドリッドプロトコル経由で出願する場合は、複数区分(マルチクラス)の指定が可能である(INPIウェブサイト「マドリッドプロトコル」)。

(*) 2020年3月9日のINPI条例 第257号は、e-INPI商標出願システムにおける多区分制度(マルチクラスシステム)による商標出願の利用可能性を規定しているが、2023年1月時点では運用には至っていない。
https://www.gov.br/inpi/pt-br/servicos/marcas/arquivos/legislacao/copy_of_RES_2572020.pdf

 INPIへの商標出願は、現在INPIウェブサイトで利用可能なe-INPI商標出願システムによってインターネットを介してのみ可能となっている(商標マニュアル「3.登録出願又は商標申請を行う方法」)。電子商標出願書式への記入に際して、出願人は、(a)INPIにより公表されたリスト(ニース分類の商品および役務リストと一致する)から商品または役務を選択する、または、(b)出願人が固有に作成した商品または役務の記載を提出する、という2つのオプションがある(商標マニュアル「3.5.2 電子フォームへの記入」)。オプション(a)の場合には、INPIによる商品または役務の審査が不要となることから約15%手数料が低く抑えられる(INPIウェブサイト「商標手数料(Code389、394)」)、当該リストがINPIにより事前承認されていることから商品または役務の記載についてオフィスアクションの発生を回避できるという利点がある。

 INPIは、商品または役務の広範な記載を認めていない。類見出し(クラスヘディング)や広範な記載が出願に含まれている場合、拒絶理由が通知される可能性が高く、この対応のために意見書を送り再度審査を受けるために手続の遅延が生じるおそれがある。また、この手続のために新たな費用も生じる。

 商品または役務の適切な分類について疑義が生じた場合、所定の手数料(5つの商品または役務まで170レアル)を納付することにより(INPIウェブサイト「商標料金表(Code357)」)、商品および役務分類委員会(Goods and Services Classification Commission : CCPS)に照会することが可能である。照会内容を検討後、CCPSは、ブラジル産業財産権公報(RPI)においてその回答を公示する(商標マニュアル「10.1.1 商品および役務分類委員会への照会」)。

 出願がパリ条約の優先権を含む場合、商品または役務の記載は、海外の優先権基礎出願と同一または基礎出願の商品または役務記載に含まれる限定的記載でなければならないことにも注意を要する。

 なお、2000年以前に認可または更新された登録については、商品および役務の広範な記載を認める古い国内分類のままとなっている。

2.審査における商品および役務の取扱い
 INPIの審査官は、ニース分類を基準として、出願に示された商品または役務が、出願された区分にしたがっているか否かを確認する(商標マニュアル「5.4 商品及びサービス明細の分析」)。

 出願後、新たな商品または役務を追加する補正は認められない。しかし、商品または役務を減縮する補正は認められる(商標マニュアル「9.2 商品及びサービスの分類及び明細に関する変更」)。

 INPIの審査官は、審査の過程においてその職権により、出願された区分へ適合させるために指定商品または役務の記載にマイナーな変更を行うことができる(商標マニュアル「5.4.1 明細の変更」)。通常、これらの変更は何らかの表現を含めること(例えば「医療用」や「医療用を除く」など)、または、出願された区分に属さない一部商品または役務を除外することである。

 INPIの審査官が、出願区分と指定商品または指定役務との間の不一致を確認した場合(例えば、指定商品が2以上の区分を包含するなどの場合)、拒絶理由通知を発行し、出願人に対して不一致を明らかにし、不適切な商品または役務を除外するよう求める(商標マニュアル「5.4.2 請求されている分類に適合しない明細」)。除外された商品または役務を保護するには、新規出願を行わなければならない。分割出願による対応は認められていない。

 INPIの審査官は、職権により、ニース分類に適合させるために用語を十分に明確かつ正確になるまで変更することができるが(商標マニュアル「5.4.1 明細の変更」)、商品または役務に関してあいまいな記載がある場合に、拒絶理由通知を発行することもある(商標マニュアル「5.19.1 方式指令 a)商品またはサービスの不適切な明細」)。この場合、出願人は、拒絶理由通知に応じ、希望する商品または役務を明確に示さなければならない。

 また、商品または役務がブラジルの法律に基づき違法と考えられる場合、活動の合法性を明確にするように、または請求している分類に一致し、違法性条件を満たさない項目/説明に差し替えるようにとの拒絶理由通知が出願人になされる(商標マニュアル「5.4.6 違法と考えられる商品またはサービスに相当する用語を含む明細」)。

 さらに、ブラジルの商標出願では、出願時に事業内容を宣誓するが、INPIの審査官は、審査の過程において、指定商品または指定役務が、出願人が出願時に宣言した事業内容に沿うものであるか否かについても審査する(ブラジル産業財産法第128条(1)、商標マニュアル「5.5 出願人の合法性の分析」)。指定商品または役務と事業内容とが一致しない場合も拒絶理由通知が発行され、出願人に対して、自身の事業内容に関する証拠を提出するよう要求されることがある。

 拒絶理由通知が発行された理由にかかわらず、期限内に応答がない、または期限内に指令内容に応じない場合、当該出願は失効したものとみなされ、拒絶査定が発行される(商標マニュアル「5.実体審査」)。

3.指定商品または指定役務が費用に与える影響
 商品または役務の数により、出願手数料が変わることはない(INPIウェブサイト「商標料金表」)。つまり、例えば指定商品が1つの出願と指定商品が15個の出願はそれらが同一の区分内であれば、同じ出願手数料を納付することになる。

 電子出願では、INPIにより公表されたリスト(ニース分類の商品および役務リストと一致する)を使うか、または、出願人が固有に作成した商品または役務の表記を使うか、自由である(商標マニュアル「3.5.2 電子フォームへの記入」)。費用を比較すると、前者は355レアルであるが、後者は415レアルなので、公表リストを使用する方が15%程度安価となる(INPIウェブサイト「商標料金表(Code389、394)」)。

 CCPS(商品および役務分類委員会)に対する商品または役務記載に関する相談は有料であり、その相談に対する手数料は、照会する商品または役務の数に応じて異なる(INPIウェブサイト「商標料金表(Code357)」)。

〔留意事項〕
 商品の補正に起因する手数料や代理人費用の新たな発生、拒絶理由対応などオフィスアクションによる余分な時間の経過を回避するため、希望する商品または役務を正確に記載することが推奨される。INPIにより公表されたリスト(ニース分類の商品および役務リストと一致する)に従うことが望ましい。これにより、オフィスアクションの回数が増えることを避け、手数料を必要最小限に抑えることができる。

 なお、ブラジルでは、商標登録出願、商標登録更新のいずれにおいても、商標の使用証拠の提出は要求されない。

メキシコにおける特許の補正の制限

1.パリ条約優先権出願およびPCT出願の国内移行前の内容変更
 メキシコでは、産業財産法および同規則に、先に提出された出願(パリ条約優先権出願またはPCT出願)の修正・内容変更に関する規定がなく、メキシコは、PCT出願の国内移行に際して、国際出願から内容を変更して移行手続をすることが認められる中南米では数少ない国の一つである。メキシコの実務では、対応する国際出願の国際公開から明細書およびクレームの内容を変更した出願書類の提出が認められる。つまり、パリ条約優先権出願およびPCT出願のメキシコ国内移行に際して、明細書およびクレームとして、優先権出願時またはPCT出願時の明細書およびクレームに基づいて手続できるだけでなく、優先権の基礎となる出願(日本企業の多くの場合は日本出願)の明細書およびクレーム、または、それらの内容に変更を加えた書面で移行手続を行うことも可能である。ただし、メキシコへの国内移行手続時の内容の変更は、優先権の基礎となる出願の当初の開示範囲を超えてはならず、優先権出願またはPCT出願に対して追加された場合、追加された事項については優先権の恩恵は受けられない。

2.特許付与前の補正
 出願が提出された後、自発的に、あるいは、IMPIからの庁指令に応じて特許要件を満たすため、特許付与前に補正を行うことができる。自発補正の場合も、庁指令に対する補正の場合も、特許付与通知が発行される前であれば、出願の係属中はいつでも、特許出願における明細書、クレーム、図面または配列表などのあらゆる特許付与前補正を行うことができる。ただし、原出願の全体に含まれる開示範囲を拡大するような新規事項の追加や、クレームの追加は認められない。これらの制限は、産業財産法第116条に規定されている

2-1.自発補正
 自発補正は、主として出願の本文もしくはデータにおける誤りを訂正するために、または出願を特許可能な状態にする目的でクレームを減縮するために、出願人により自発的に行われる補正である。この自発補正は特許査定または拒絶査定が発せられる前までに限り、行うことができる(産業財産法第116条)。一方、特許の存続期間中のあらゆる時点で、修正または訂正を申請することが可能である(産業財産法第121条)。
 出願を早期に権利化するための手続として、PPH申請の他、自発補正の活用が挙げられる。前述のとおり、出願人は出願係属中、いつでも自発補正を提出することができる。審査開始前に、出願の本文もしくはデータの誤りの訂正や、出願を特許可能な状態にする目的でクレームを減縮する補正を行うことが、出願の早期権利化に有効な場合が多い。

2-2.IMPIからの庁指令に対する補正
 補正は通常、IMPIにより行われた方式および実体審査の結果として生じる庁指令に応じて出願人が提出する。メキシコの実務によれば、方式要件に関する庁指令は最大で2回、実体要件を満たすための庁指令は最大4回発行され、その応答として出願を補正する機会が与えられる。かかる庁指令への応答期限は2か月であり、2か月の延長が可能である。これらの期限は、産業財産法第106条および第117条に規定されている。
 自発補正の場合と同様に、IMPIからの要求に対する明細書、図面またはクレームの補正は、出願当初の開示の範囲を拡大するような新規事項を含めてはならない(産業財産法第116条)。つまり補正後の記載内容が、優先権の基礎となる出願当初の明細書によって完全に裏づけられていなければならない。

2-3.PPH申請時の補正
 出願の早期権利化を目的として提出される特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway:PPH)での補正は、基本的に出願クレームを優先権の基礎となる出願のクレームと一致させるために行われるものであり、PPHプログラム参加国の特許庁により認められている。なお、メキシコは、JPO(日本特許庁)の他、USPTO(米国特許商標庁)、EPO(欧州特許庁)、KIPO(韓国特許庁)、CNIPA(中国国家知識産権局)、CIPO(カナダ知的財産局)およびIPOS(シンガポール知的財産庁)などとPPH協定を結んでいる。
 IMPIに出願し、さらにPPH申請により国外へ出願する場合に適用される要件の概略は、以下のとおりである。
・メキシコ出願の審査が始まっていてはならない。つまり、実体審査に対応する庁指令がIMPIにより発行された後は、PPH申請は認められない。
・メキシコ特許出願の公開日から2か月の第三者情報提供期間(observation period)の後に、PPH申請しなければならない。
・ビジネス方法、コンピュータプログラムまたは手術、診断もしくは治療方法といった、メキシコ特許法上では特許されない主題が、クレームに含まれていてはならない。

関連情報:特許審査ハイウェイのガイドライン(JPO、メキシコ編)
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/document/guideline/mexico_impi_ja.pdf

3.特許付与後の訂正および減縮
 特許付与後の訂正および減縮は、特許権が付与された後に提出するものであり、明白な誤りもしくは方式上の誤りの訂正、または特許付与された主題の範囲の減縮のみに制限されている。これらの制限は、産業財産法第121条、第122条および第123条に規定されている。

第121条
特許又は登録の所有者は,その権利の存続期間内であれば,本法の施行規則に定める条件で,本庁宛の申請書及び対応する手数料証明書とともに,権利について,放棄,訂正及び減縮を申請することができる。
申請が受理されれば,本庁は申請者に通知し,対応する権利の,放棄,訂正及び減縮を公報に掲載する。
本庁が申請書に不備があると認めた場合,所有者に必要とみなすものを特定又は明確にして不備の解消を求めることができる。申請者が上記不備を2月以内に解消しない場合,申請は却下される。

第122条
本法第119条に規定されている,特許又は登録における正式な名称の誤記を訂正することは承認される。
訂正がクレーム又はそれらを解釈するために供される要素に関連する場合,誤記は当該技術の熟練者にとって明白でなければならない。
名称の訂正は,与える保護を拡張するような方法であってはならない。

第123条
特許又は実用新案登録によって付与される権利の減縮が次のような場合,承認される。
(1) 1つ以上のクレームの削除,又は
(2) 独立クレームに従属するように1以上の従属クレームを含めること。
減縮案が特許又は登録によって付与された保護を拡張する場合,当該減縮案は認められない。減縮の前に発せられた,特許又は実用新案登録の侵害に関する強制力のある処分は,減縮によって損なわれることはない。

 特許出願に対して特許付与通知が発行された後、特許登録料の納付とともに、特許付与前に訂正および減縮を提出したとしても、この段階での訂正および減縮は、特許付与後の訂正および減縮と同様に取り扱われる。すなわち、この段階の訂正および減縮は、明白な誤りもしくは方式上の誤りの訂正、または特許付与された主題の範囲の減縮のみに制限される。特許権存続期間中は、特許付与後の訂正および減縮を提出することができる。
 ただし、特許の無効手続が係属中の場合、付与後の訂正および減縮は認められない(産業財産法第125条)。

第125条
本節に関する如何なる申請書も,次の場合は拒絶される。
(1) 特許又は登録の有効性に関する手続の審査が係属中である場合。
本節に基づく申請書の提出後に行政処分手続が開始された場合,それぞれの申請書に係わる許容性に関する審査が決定されるまで,当該手続は一時停止される。
(2) 特許又は登録の名称の訂正に関する申請を除き,特許若しくは登録の所有権又はそれらに対する他の権利の承認を主張する訴訟がある場合。

【留意事項】
 産業財産法等に明文規定は無いが、メキシコにおいて特許出願の補正を行う際には、補正の提出書面、または発行された庁指令に対する応答書において、特許出願の補正を裏づける明確な正当性および根拠を明示することが必要である。特許出願の補正が、優先権基礎出願の明細書(パリルートおよびPCTルートの場合いずれも)により適正に裏づけられていることは、修正案が承認される可能性を最大化するためには、重要である。その他の内容的な制限は、その提出時期によっても異なるので注意が必要である。

ブラジルにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)

(前編から続く)

5.請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1.対比の一般手法

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.85
 関連する条文:ブラジル産業財産法第25条

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル産業財産法第25条は、請求項は明細書に基づいて、出願の特徴付け、明確かつ正確な方法で保護の対象となる事項を定義しなければならないと規定している。これは、各請求項の主題について明細書に根拠がなければならず、請求項の範囲は、明細書および図面がある場合にはその内容よりも広くてはならず、また先行技術への寄与に基づくものでなければならないことを意味している。

5-2.上位概念または下位概念の引用発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念または下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.11~12

(2) 異なる事項または留意点
 内容が一般的かつ広範に請求されている場合において、当該内容が審査中の特許出願で請求されたパラメータ内で具体的に開示されている先行技術文献があるときは、新規性の欠如を指摘しなければならない。一方、一般的な用語での開示は、具体的な用語で定義された発明の新規性に影響を与えない。

5-3.請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.11~16

(2) 異なる事項または留意点
 異なる事項、留意すべき事項は特にない。

5-4.対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.37
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.10~21

(2) 異なる事項または留意点
 異なる事項、留意すべき事項は特にない。

6.特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1.作用、機能、性質または特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質または特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.15

(2) 異なる事項または留意点
 特徴や性能パラメータによって定義される請求項は、そのような用語でしか発明を定義できない場合や、請求項の範囲を不当に制限することなくより正確に定義できない場合に、認められる場合がある。
 このタイプの請求項では、審査官は、請求項中の特徴または性能パラメータが、請求対象製品がある特定の構造および/または組成を有することを示唆しているかどうかを検討しなければならない。特徴または性能パラメータが、請求された製品が先行技術文献に記載された製品とは異なる構造および/または組成を有することを示唆している場合、その請求項は新規であるといえる。
 一方、当業者が特徴や性能パラメータから、請求項に係る製品を先行技術文献に記載されたものと区別できない場合、請求項に係る製品は先行技術文献の製品と同一であると考えられ、したがって、請求項は新規性がないと判断される。

6-2.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.16

(2) 異なる事項または留意点
 製品が先行技術から既に知られている場合、その用途を特徴とする請求項は、新規性の欠如を理由に受理されない。製品が技術的特徴において定義されなければならないため、製品が技術水準から知られていない場合、そのような請求項の表現は明確さに欠けるため、産業財産法第25条に従って明確性の欠如を理由として認められない。その一例として、抗ウイルス剤として使用することを特徴とする化合物Xの請求項は、技術水準の文献に記載された染料として使用される同じ化合物Xとの関係では、新規性があるとはみなされないことになった。化合物Xの用途は新しくても、その特性を決定する化学式は変わっていないためである。したがって、抗ウイルス剤である化合物Xの発明は新規ではない。

6-3.サブコンビネーションの発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載がない。

6-4.製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.17

(2) 異なる事項または留意点
 製造方法で定義された請求項は、製品が特許性の要件、すなわち、新規事項かつ非自明であり、また、他の方法で説明できないことを満たす場合にのみに認められる。このタイプの請求項について、審査官は、製造プロセスの特徴が製品の特定の構造および/または組成をもたらすかどうかを考慮しなければならない。当業者が、当該製造プロセスが、先行技術文献に開示された製品とは異なる構造および/または組成を有する製品を必然的にもたらすと結論付けることができる場合、当該請求項は新規性があるといえる。一方、概製造プロセスで製造された製品を先行技術文献の製品と比較した場合、製造プロセスが異なるにもかかわらず、同じ構造および組成を有する場合、その請求項に新規性はない。

6-5.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.14

(2) 異なる事項または留意点
 請求された発明が、部品の寸法、温度、圧力、組成物中の成分の含有量などの数値または連続した数値範囲によって定義される技術的特徴を含む場合、もしくは、他のすべての技術的特徴が先行技術文献のものと同一であるかどうかは、以下の規則に従って新規性の判定を行う必要がある。

(i) 先行技術文献に記載された数値または数値範囲が技術的特徴の請求範囲に完全に含まれる場合、先行技術文献は請求事項の新規性に影響を与える。
(ii)先行技術文献に記載された数値範囲と技術的特徴の数値範囲が部分的に重なるか、少なくとも一つの終点が共通する場合、先行技術文献が発明の新規性に影響を与える。
(iii)先行技術文献に記載された数値範囲の2つの極点は、当該技術的特徴が当該極点の1つを含む離散的な数値を示す場合に発明の新規性に影響を与えるが、当該技術的特徴が当該2つの極点の間の任意の点における数値である場合に発明の新規性に影響を与えない。
(iv)当該技術的特徴の数値または数値範囲が先行技術文献に記載された範囲に含まれ、それと共通する極点を有しない場合、先行技術文献は請求項に係る発明の新規性に影響を与えない。

7.その他
7-1.特殊パラメータ発明

 特許・実用新案審査基準(日本)には特殊パラメータ発明に関する記載はないが、ブラジル特許出願の審査基準には以下のとおり、特殊パラメータ発明に関する記載がある。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.56

(2) 説明
 たとえ十分に説明されていても一般的でないパラメータが採用されているケースは、従来の技術との有意義な比較ができず明確さに欠けるため、一般に認められない。また、このようなケースでは、出願人は、一般的でないパラメータは技術水準において使用されているパラメータと同等であること、またはそれは主題に対する追加を構成しないことを証明しなければならない。

7-2.留意点
 ブラジル特許出願の審査基準のうち新規性に関する事項について、その他留意すべき点として以下の事項がある。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.10

(2) 説明
 新規性要件の評価のために、2つの異なる技術水準文献を組み合わせることはできない。そのような組み合わせが必要な場合は、進歩性のみが論じられるべきである。しかし、2以上の技術水準文献は、以下の場合において、請求項を裏付けるために先行技術が必要とされないことを条件として、関連主題の新規性に反する意見のために引用することができる。
(i) 異なる請求項の事項の新規性を議論するために、異なる文献を使用してもよい。
(ii)マーカッシュ構造のような同一の独立形式請求項における異なる選択肢について、各技術水準文献が、請求項が提供する可能性の範囲内で異なる選択肢に言及している場合、同一の請求項の事項の新規性に着目して、異なる先行技術文献を使用することができる。なお、代替案を有する請求項の評価では、代替案の一つを開示する先行技術文献があれば、請求項全体としての新規性を解消するのに充分であると判断されることがある。しかし、先行技術に見出された事項を除外するために、請求項の再形成を認めることができる。
(iii)請求項に係る事項の新規性の議論において、特定の用語の意味を解釈するために、辞書または同様の参照文献などの第2の文献を引用し、最初に言及した先行技術文献のみで請求項に係る事項の新規性が否定されることを強調することができる。
(iv)先行技術文献が第二公開文献を参照している場合、この第二公開文献は第一公開文献に参照により組み込まれたものとみなされる。

ブラジルにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

1.記載個所
 ブラジル特許出願の審査基準準第2部第4章、その概要(目次)は以下のとおり。

 関連する条文:ブラジル産業財産法第11条

第4章 新規性
概念
4.1~2
新規性を評価するための諸段階
4.3
技術的詳細及び一般的所見
4.4~10
特定的及び一般的な用語
4.11~13
数値及び数値の範囲
4.14
性能、使用又は製造方法の特徴又はパラメータによって定義される物のクレーム
4.15
用途によって特徴づけられる物のクレーム
4.16
製造方法によって特徴づけられる物のクレーム
4.17
第2用途クレーム
4.18
選択特許
4.19~25

2.基本的な考え方
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.1~10、および
 ブラジル特許出願の審査基準第1部第2章2.10

(2) 異なる事項または留意点
<審査基準第2部第4章4.1~10>
 新規性の判断に関する、日本の審査基準(第III部第2章第1節2.)では、「審査官は、請求項に係る発明が新規性を有しているか否かを、請求項に係る発明と、新規性の判断のために引用する先行技術(引用発明)とを対比した結果、請求項に係る発明と引用発明との間に相違点があるか否かにより判断する。相違点がある場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していると判断する。相違点がない場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断する」としている。
 新規性の評価に関して、ブラジル産業財産庁は、日本の審査基準に加え、各請求項の評価も考慮する。例えば、独立形式請求項に新規性がある場合、その従属請求項も全て新規性があるため、従属請求項を審査する必要はない。一方、独立形式請求項に新規性がない場合、従属請求項には、先行技術を考慮して当該事項を新規性があるとする特定の要素が含まれている可能性があるため、従属請求項を審査する必要がある。
 新規性は、請求項全体の評価によって決定されなければならず、請求項の特徴的な部分だけでは決定できない。したがって、請求項の前置き部分で構成要件AとBを定義し、特徴付け部分で構成要件CとDを定義している場合、Cおよび/またはDが既知であるかどうかそれ自体は問題ではない。問題は、それらがAおよびBと関連して、つまりAだけでもBだけでもなく、両方と関連して既知であるかどうかが重要である。
 ある請求項のすべての特徴(例えば、製品の要素またはプロセスのステップ)が、明示的または本質的に、単一の先行技術に開示されている場合、新規性は認められない。すなわち、新規性要件の評価において、異なる先行技術文献を組み合わせることはできない。

<審査基準第1部第2章2.10>
 「固有の」という用語は、記載されていない事項が出願時の出願に必ず暗示されていること、およびそれが当業者によって認識されることを意味する。固有性は、確率や可能性によって確立することはできない。与えられた一連の状況から何かが生じる可能性があるという事実だけでは十分ではない。

3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.37

(2) 異なる事項または留意点
 請求項は、出願時の当業者の一般的な知識だけでなく、明細書と図面(および配列表がある場合は配列表)に基づいて解釈される。明細書が請求項の特定用語を定義する場合、その定義は請求項を解釈するために使用される。

3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.40

(2) 異なる事項または留意点
 明細書と請求項の間に矛盾がある場合、保護範囲に疑問を生じさせ、請求項が不明確になり、明細書ではサポートされないため、認められない場合があることがポイントである。このような矛盾に関し、以下のような例が挙げられる。

(i) 単純な言葉の矛盾
 明細書が保護を求める主題を限定的に開示しているが、一連の請求項の対応する事項が広い場合、明細書を考慮して請求項の事項を限定することにより、矛盾を解決することができる。
(ii)明らかに本質的な特徴に関する矛盾
 明細書に記載されたある技術的特徴が、当該技術分野における確立された知識または発明に開示されたものに基づいて、発明の達成に必須であると考えられるが、独立形式請求項に記載されていない場合、当該請求項は、ブラジル産業財産法第25条の規定に反して、明確性および正確性の欠如を理由にブラジル産業財産庁から異議を唱えられることになる。

4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.1~5、3.60
 関連する条文:ブラジル産業財産法第11条、第12条、第16条、第17条

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル産業財産法第11条によれば、ブラジル産業財産法第12条(猶予期間)、第16条(優先権)、第17条(内部優先権)の規定を除き、先行技術とは、特許出願日前に、ブラジル国内外において書面または口頭による説明、使用、その他の手段により公衆に提供されたすべてのものを含むことがポイントである。
 さらに、同第11条第2項によれば、新規性の有無を判断するために、ブラジルで出願されたがまだ公開されていない出願の内容全体は、後に公開されていれば、出願日または主張された優先日から技術水準とみなされる。また、同第11条第3項は、国内手続が行われることを条件に、ブラジルで有効な条約または協定に基づいて行われた国際特許出願に第2項の規定が適用されることを定めている。
 さらに、ブラジルの特許出願の審査基準では、先行技術調査の際に使用する日付は、関連日、すなわち、出願日または優先日がある場合には、その日とみなすべきであると定めている。また、異なる請求項や請求項中の異なる選択肢は、異なる関連日を有する可能性がある。
 先行技術の決定は、開示の時期(時分秒)を考慮することはなく、その日付のみが考慮される。
 ブラジルでは、先行技術とみなされるものの例外を構成する猶予期間の恩恵を受けることができる(グレースピリオド)。特許出願の発明者の同意なしにブラジル産業財産庁が行った開示、発明者から直接または間接的に得た情報に基づく第三者による開示は、出願日または優先日に先立つ12か月間に行われた場合に限り、先行技術として考慮されない。
 審査中の出願より前に、発明者自身の特許出願が何処かの国で公開されたことは、猶予期間の条件に該当する開示とはみなされない。

4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.7および3.17~23

(2) 異なる事項または留意点
 漫画に稚拙に記載された発明のような、一般に入手可能な事柄に基づく単なる抽象化またはその範囲内のものは先行技術として認められず、当業者がその発明を実施するのに十分な記述が必要である。

4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.22

(2) 異なる事項または留意点
 公開日が開示日となる。公開日として特定の月または年のみが記載されている場合は、その月または年の最終日を公開日とみなす。ただし、公開日を特定できるような記載がない場合、出版物の編集者に対する調査をブラジル産業財産庁の図書館に依頼することができる。

4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.31~35、3.39

(2) 異なる事項または留意点
 インターネット上の資料は、公開日を証明できる場合に限り先行技術として認められる。原則として、利用されるサイトの機密度は問わず、利用可能であれば十分である。
 特許出願日または優先権主張日前に、インターネット上に公開され、ネットアドレスを通じてアクセス可能な文書が、公共のインターネット検索ツールにより一つまたは複数のキーワードを通じて発見でき、誰もが文書を秘密にする義務がなく、文書に直接かつ明確にアクセスできるようにある程度の期間そのアドレスのアクセスが維持されている場合、文書が公開されているといえるから、その文書は先行技術とみなすことができる。
 一方、電子メールで開示された事項は機密文書とみなされるため、公衆がアクセスできる文書とはみなされない。
 インターネット上での開示は、ブラジル産業財産法第11条第1項に従い、先行技術に含まれる。インターネットやオンラインデータベース上で開示された情報は、その情報が公に開示された日から公開されたものとみなされる。
 また、特許出願や特許に対してインターネット上の文書が引用されている場合、公開日を証明する必要がある。多くの場合、インターネット文書は明示的な公開日を提供し、それがまず受入れられる。そうでない場合は、立証責任は出願人にあり、公開日を立証または確認するために状況証拠が必要となる。

4-1-5.公然知られた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載が無い。

4-1-6.公然実施をされた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.26~30

(2) 異なる事項または留意点
 実施(使用)による開示とは、技術的解決策の使用が公衆によって評価される状態に置かれることを意味する。実施(使用)による開示の手段には、技術情報を一般に公開する可能性のある生産、使用、販売、輸入、交換、提示、実演、展示が含まれる。製品またはプロセスが公衆に利用可能となった日を、実施(使用)による開示の日と考えるべきである。

(後編に続く)

ブラジルにおける非アルファベット文字を含む商標の取り扱いについて

1.記載個所
 商標審査基準「2.3 提出の様式」には以下が規定されている。

2.3 提出の様式
図表形式の提出に関して,標章は,文字的なもの,図形的なもの,混合されたもの及び立体のものに分類される。
(中略)

図形的商標(Figurative Trademark)
図形的又は紋章的商標は,次からなる記号である:
意匠,画像,図及び/又は標章;
単独又は描画,画像,図又は標章を伴う,形象的若しくは図形的な文字又は数字の形態;
ヘブライ,キリル,アラビア語,などのようなその土地特有の言語の異なるアルファベット
文字からなる言葉;
日本語及び中国語のような表意文字
上記に掲載した後者の2例の場合では,法的な保護は,それらが示す言葉又は表現ではなくて,文字の図表形式の表示及び表意文字自体にあるのであるが,出願において出願人が表意文字を示す言葉又は用語を提示した場合を除き,それが大多数の公衆消費者にとって理解できる限り,その場合には,混成商標と解釈されることになる。

 商標審査基準「3.5.2 電子様式への入力」には以下が規定されている。

3.5.2 電子様式への入力
(前略)
フィールドへの記入に対する指示
標章の言葉の要素

(中略)
標章が外国語の要素を含む場合には,同標章は,利用者によって示された訳語を有さなければならない。
(後略)

 商標審査基準「5.11.3 第三者の登録商標」には以下が規定されている。

5.11.3 第三者の登録商標
LPI 第 124 条第 XIX 項に従って,次のものは,商標としての登録を受けることができない:
「同一,類似又は関連の商品又はサービスを識別又は証明するために第三者の登録商標の全部又は一部,さらに付加があればそれを含めて複製又は模造したものであって,第三者の商標と混同又は連携を生じさせる虞があるもの」。
本法的規則の適用上,次の事項が考慮される:
(中略)

LPI第124条第XIX項の侵害の審査についての指針
記号の抵触

LPI 第 124 条第 XIX 項の侵害の審査時には,全体的,部分的又は付加的な模造又は複製の発生が,次の規準に則って確認される:
・セット中の抵触記号が人間の感覚(視覚及び聴覚)に与える印象;
・文言が,外国語で綴られている場合であっても,類似しているが,その独自の識別的意味を有するか否か;
・クレームされた記号が,先の商標との観念的又は知的抵触を有するか否か;
・当該商標が,先の商標を部分的に複製しているが,その文脈を考慮して,先の商標と異なるか否か。
商標記号間の抵触の可能性の分析は,項目 5.11.1 記号間の抵触の分析において取り上げている。
(後略)

 商標審査基準「5.11.1 記号間の抵触の分析」には以下が規定されている。

5.11.1 記号間の抵触の分析
抵触している記号間の衝突の可能性の分析は,類似性により混同又は不当な連携の危険性が生じることを検証するために,その外観,称呼及び観念の局面を評価することを含む。したがって,この工程は,項目5.11.2市場親和性の審査において論じている市場親和性の分析とともに,利用可能性要件を審査するために不可欠である。
原則として,記号間の抵触の分析は,比較される標章の外観,称呼及び観念の局面の何れをも考慮して,その個別要素のみではなく,セットの全体的印象を評価することに基づく。

図形的局面
類似の幾何学的形状,画像,色彩及び/又は色彩の組合せの使用は,商標セット間の混同又は不当な連携の危険性を生じ,又は高める一因となり得る。したがって,記号の図形的局面の比較は,抵触の可能性を検討する際に極めて重要である。
図形的類似性の評価は図形的商標,混成商標及び立体商標の審査において明らかに重要であるが,また,文字記号の審査においても関連性があり,この場合,文字配列の繰返し,単語数並びに文の構造及び文言が,場合によっては混同又は不当な連携の一因となり得る。

音声的局面
音声的な複製又は模造の発生は,2つのセット間の抵触を特徴付ける際の決定要因の1である。商標は,混成表現の商標であっても,その言語的形態で記憶され,言及されることが多いことに留意されたい。
音声的比較においては,照合される記号中に存在する音節の配列,単語のイントネーション並びに語句及び文言のリズムにおける類似性及び相違が評価される。しかしながら,視覚的に類似の用語又は文言が,全く異なる音声的印象を与え得ることに留意すべきである。

観念的局面
聴覚的及び/又は図形的に識別的であるにも拘らず,同一又は類似の思想を喚起する記号が,公衆消費者の混同又は不当な連携を招く虞もある。この現象は,概念の複製又は模造であることから,異なる表現形式を有する商標(文字記号X図形的記号)の場合であっても生じ得る。
異なる言語の単語又は語句の場合には,関連する公衆の言語領域並びに記号及び喚起される思想の類似性を検討することが必要である。
(後略)

 商標審査基準「5.16 調査」には以下が規定されている。

5.16 調査
(前略)
インターネットによる調査
インターネットは,商標登録出願の審査のための別の有益な情報源であり,疑義を解決し,又は理解を強化することができる。しかしながら,多くの結果は誤ったデータを提供し,誤解を生じ得ることから,この手段によって得られた情報の関連性及び信頼性を常に観察することが必要である。

辞書による調査
外国語による記号の場合には,その登録可能性を分析する際にその意味が考慮される。特に拒絶の場合には,標章が識別しようとする商品又はサービスに関する平均的な消費者の知識のレベルが考慮される。この推奨は,一般に使用され,標章が対象とする公衆に知られている言語についてのみ有効であることに留意することが重要である。

(「辞書による調査」について、実務上はあまり重視されず、実質的に需要者がどのようにその文字を認識しているかの方が重視される。)

 産業財産法第2節 登録を受けることができない標識 第124条として以下が規定されている(識別力に関する産業財産法上の規定(抜粋))。

第124条
次のものは,標章としての登録を受けることができない。
(中略)
(II) 単独の文字,数字及び日付。ただし,十分に識別的形状を具えているものを除く。
(中略)
(VI) 識別の対象とする商品又は役務に関連する,一般的な,必然的な,共通の,通常の,若しくは単に説明的性格の標識,又は商品若しくは役務について,その性質,原産国,重量,価格,品質及び商品の生産若しくは役務提供の時期に係わる特徴を示すために通常使用される標識。ただし,十分に識別的形状を具えているものを除く。
(VII) 単に宣伝手段としてのみ用いられる標識又は文言
(VIII) 色彩及びその名称。ただし,独特でかつ識別的方法により配置又は結合されているものを除く。
(中略)
(XVIII) 識別対象とする商品又は役務に関連する産業,科学又は技術において使用されている技術用語
(中略)
(XIX) 同一,類似又は同種の商品又は役務を識別若しくは証明するために第三者が登録している標章の全部又は一部,更に付加があればそれを含めて複製若しくは模造したものであって,第三者の標章と混同又は関連を生じさせる虞があるもの。
(中略)
(XXI) 商品若しくはその包装に係わる必然的な,共通の若しくは通常の形状,又は,さらに,技術的効果の観点から不可欠な形状
(後略)

2.標章の類否判断に関する基本的な考え方
 ブラジルにおける標章の類否判断基準は,ブラジル商標審査基準5.11.1にあるように、日本と同様、外観、称呼、観念を考慮し,その個別要素のみではなく、標章の全体的印象を評価することになっている。

3.外観の類否について
 ブラジル商標審査基準5.11.1の規定から、外観についての判断基準は日本と大差ないと考えられる。「標識の外観の比較は,抵触の可能性を検討する際に極めて重要」「文字標識の審査においても関連性がある」との記載から、外観が重要であり、文字商標についても外観が考慮されることに留意する必要がある。
 日本語の文字からなる商標に関する外観の判断について判例を見つけることができなかったが、最近の判例としてサン・パウロ州裁判所が以下の商標が非類似と判断した(2021年8月9日判決、訴訟番号:1008042-04.2017.8.26.0009)*1。服(原告は第25類の「帽子、Tシャツ、靴、短パン、靴下、ズボン」を指定)について双頭の鷲の外観について独占権を与えることができず、被告側の商標は原告よりも現実的な描写していることからその他の異なる部分に照らして、両方の双頭の鷲には総合的な印象が非類似と判断された。

*1:判例は各裁判所のウェブサイトの検索ツールを通してアクサスすることができるが、判例毎に固定のリンクが存在しない。以下の判決も同様である。

関連記事:
「(ブラジル)判例の調べ方ーサン・パウロ州司法裁判所(TJSP)ウェブサイト(2019.8.27)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/17648/

4.称呼の類否について
 審査基準5.11.1によれば、称呼の類否判断基準についても日本と大差がないと考えられる。なお、「組合せの表現であっても、その言語的形態で記憶され、言及されることが多い」と記載されていることに留意する必要がある。
 最近の判決において、サン・パウロ州裁判所が飲食店の提供の役務(第43類)について、称呼「Makoto」は同一としてもその識別力が低いとし、非類似と判断した(訴訟番号:1008342-08.2022.8.26.0003*2)。

*2:関連情報:
TJSPの検索サイト:https://esaj.tjsp.jus.br/cpopg/open.do;jsessionid=DC22D3D74E10A131F44E0D106AE66459.cpopg8にアクセスし、左から2番目の入力欄に訴訟番号「1008342-08.2022」を入力、左から3番目の欄が「8.26」であることを確認、左から4番目の欄に「0003」を入力し、右端の「Consultar」をクリックすると判決例(ポルトガル語)が閲覧できる。
検索方法の詳細については、以下を参照してください。
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/01/75008ca25f18a44957d8bf25c8e4acf1.pdf

5.観念の類否について
 審査基準5.11.1から、規定上は日本と大差がないと考えられる。「異なる表現形式を有する商標(文字商標と図形商標)の場合であっても」類似とされ得ること、「異なる言語の単語又は語句の場合には,関連する公衆の言語領域並びに記号及び喚起される観念の類似性を検討することが必要である。」旨の記載に留意する必要がある。
 通常、外観の類否によって決した判決例が多く評価されているが、観念としては、2012年の第2巡回区連邦高等裁判所*3において、飲食の提供について称呼および外観が異なっても観念が類似することで総合的に商標が類似するとした判決がある(訴訟番号:0523618-64.2008.4.02.5101)。

*3:関連記事:
「(ブラジル)判例の調べ方ー第2巡回区連邦高等裁判所(TRF2)ウェブサイト(2019.6.4)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/17398/

6.審査官による日本語の調査について
 商標審査基準「3.5.2 電子様式への入力」には標章に外国語の要素を含む場合,その訳語を記すこと、商標審査基準「5.16 調査」において、インターネットや辞書による調査が含まれるものの、平均的な消費者の知識レベルが考慮される旨が規定されている。また、日本語は審査基準2.3にあるように原則、図形商標として取り扱わる。
 つまり、日本語からなる商標であっても、称呼、観念を一般的な消費者が認識することが可能な場合、文字と図形からなる結合商標として取り扱われる可能性があるものの、作成者の知り得る限り、日本語からなる商標について日本語本来の意味を調査し、それに基づいて類否判断した例は見当たらなかった。

7.外国語商標、非アルファベット文字商標及びカタカナ商標の識別力について
 識別力は、ブラジルにおいて商標が効力を有するための根本的な条件の1つであり、産業財産法第124条の規定から、識別力については日本と大差はない。
 前項に述べたように、例外的なケース以外は、日本語の商標は図形商標として取り扱われる。なお、上記の「Makoto」は英文として識別力を失ったものと考えられる。

ブラジルにおける特許出願の補正の時期的・内容的制限について

 補正手続については、産業財産権法第32条および2013年6月10日発令のブラジル産業財産庁(INPI)決議第93/2013号に定めがある。全ての補正は、書類FQ002で申請する。また、補正が可能な範囲は、補正の時期によって異なる。なお、下記の記載はいずれも実用新案にも適用される。

1.審査請求前の自発的な補正
(産業財産権法第32条および2013年6月10日発令のブラジル産業財産庁(INPI)決議第93/2013号)
 この場合に補正ができるのは、出願時の明細書、図面に最初に記載された範囲に限られる。その範囲内であれば、補正は原則として自由に行うことができる。
 例えば、請求項の変更、カテゴリーの変更、請求項のタイプ(クレームの記載形式)の変更等が可能である。

2.審査請求後の自発的な補正、またはINPIからのオフィスアクションと拒絶理由通知対応時、または拒絶査定への不服申立時の補正
(産業財産権法第32条および2013年6月10日発令のブラジル産業財産庁(INPI)決議第93/2013号)
 これらの場合に補正ができるのは、出願時の明細書、図面に最初に記載された範囲に限られる。
 ただし、原則として、審査請求後の自発補正は、軽微な誤記・誤訳訂正、出願に記載された実施例に限定する補正のみ可能である。カテゴリーの変更は原則として認められないが、審査官の裁量で認められる場合もある。
 なお、オフィスアクションへの対応期限は90日であり、この期間は外国の出願人であっても延長できない(産業財産法第36条)。

3.特許付与後
 根拠規定は存在しないが、実務上、誤記の訂正のみ認められている。

4.留意事項
 ブラジルでは、特許出願に関して、審査請求後に補正を行う場合、一般的に、クレームの補正は、出願に記載された実施例に限定する補正に限られる。なお、「出願に記載された」とは、PCT出願の場合は、国際出願書類ではなく、ポルトガル語で提出した書類が基準となる。ただし、単純な誤記については、国際出願書類に基づいて訂正することが認められる。

ブラジルにおける特許年金制度の概要

1.特許権
 ブラジルにおける特許権の権利期間は、出願日(PCT条約に基づく特許出願の場合は国際出願日)から20年である(産業財産法第40条、特許協力条約第11条)。登録後最低10年間の権利期間を保障する条項は、2021年に違憲と判断され、廃止された(関連記事1参照)。特定条件を満たす特許権に対して存続期間の延長を認める制度はない。年金は出願日を起算日として、3年次から発生する(産業財産法第84条)。年金は一年ごとに納付し、特許登録前、出願が係属中にも納付しなければならない。各年の年金納付期限日は出願応当日である(産業財産法第84条)。

 電子出願様式での年金の納付にはGRU(Guia de Recolhimento da União:ユニオン・コレクション・ガイド、料金徴収システム)への登録が必要である(関連記事2参照)。
 このシステムへの登録は、「Cadastro no e-INPI(e-INPIへの登録、https://www.gov.br/inpi/pt-br/cadastro-no-e-inpi)」へアクセスして実行できるが、登録の対象者はブラジル居住者か代理人のみとされている。

 意図しない特許権や特許出願に対して年金を誤って納付してしまった場合、庁内で納付金を正しい納付先に変更することはシステム上対応されておらず、誤納付の返金のための手続を行い、期限内に改めて正しい年金納付手続をする必要がある。
 年金納付金額に不足があった場合は、不足分のみを追加で納付し手続を補完することができる(決議第113/2013年 第7条)。

 納付期限内に年金の納付が行われなかった場合、期限日から9か月以内であれば追納が可能である(産業財産法第84条第2項)。最初の3か月間に限り追徴金が発生しないため、通常納付時の金額の年金を追納すれば権利を維持することができる。年金納付期限日から4か月目からは追徴金が発生し、所定の年金に加えて追徴金も同時に納付しなければならない(産業財産法第84条第2項)。追納期間を超えて年金納付がされなかった場合や追徴金の支払いがなされなかった場合、特許権については失効し、特許出願については出願が取下げられたものとみなされる(産業財産法第86条)。ただし、ブラジル産業財産庁から発行される失効通知から3か月以内であれば特許権の回復、特許出願の再開が可能である。回復手続の際には、所定の年金と追徴金に加えて回復費用も支払う必要がある(産業財産法第87条)。

 上記のとおり、追納期間を超えて年金納付がされなかった場合に特許権は失効するが、権利を放棄したい旨を記した書面をブラジル産業財産庁に提出することにより、積極的に放棄を行うことも可能である。

関連記事:
1.「ブラジルにおける特許権の存続期間に関する連邦最高裁判所判例」(2022.03.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/22841/
2.「ブラジルにおける特許制度のまとめ-手続編」(2022.06.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/23704/

2.実用新案権
 実用新案権の権利期間は、原則として、出願日(PCT条約に基づく実用新案登録出願の場合は国際実用新案登録出願日)から15年である(産業財産法第40条)。登録後最低7年間の権利期間を保障する条項は、2021年に違憲と判断され、廃止された。特定条件を満たす登録実用新案権に対して存続期間の延長を認める制度はない。年金は出願日を起算日として3年次から発生する(産業財産法第84条)。年金は一年ごとに納付され、各年の年金納付期限日は出願応当日である(産業財産法第84条)。

 年金の納付、追納、権利の回復については特許権の場合と同様である。

3.意匠権
 意匠権の権利期間は出願から10年であり、5年ごとに連続して3回の更新が可能である(産業財産法第108条)。年金は出願日から起算し、特許権や実用新案権とは異なり、権利期間中は5年ごとに更新でき、更新する場合は更新の都度年金を納付する必要がある。各納付年次の年金納付期限日は出願応当日である(産業財産法第120条)。

 年金の納付、追納、権利の回復については特許権の場合と同様である。