オーストラリアにおける商標異議申立制度
オーストラリア知的所有権保護局(IP Australia;IPA)への商標に関する直接出願またはオーストラリアを指定国とする国際出願に対する異議申立は、商標法および商標規則のいずれも第5部に規定されている。現在の異議申立手続は、2013年の商標法改正によって改正され、2013年4月15日以降の手続に適用されているものである。
商標出願に対する異議申立は、二段階の手続から成る。第一段階の手続は異議申立書(異議申立意図通知書)の提出であり、公告決定となった出願が商標公報に公告された日より2か月以内に異議申立書を提出しなければならない。異議申立書の提出時に、異議申立の手数料を納付する必要がある(商標法第52条、商標規則5.6および21.21A、知的財産局実務・手続便覧(以下「便覧」という。)47.1. 1.1.2)。
第二段階の手続は、異議申立人が異議申立の根拠となる理由を記載する異議理由書(理由および詳細陳述書)の提出であり、異議申立書の提出日より1か月以内に異議理由書を提出しなければならない。異議理由書は、全ての異議理由を適切に記載し、異議理由の根拠を詳細に提示しなければならない(商標規則5.7)。
異議申立書または異議理由書の提出に関する法定期限は、商標規則5.9(4)に定められている次の理由の一方または両方に基づいてのみ、延長することができる。
(1)異議申立人、異議申立人の代理人、登録官または職員による過誤または遺漏
(2)期限延長申請人の制御の及ばない状況
異議申立人が異議申立書および異議理由書を提出した場合、異議理由書の提出日より1か月以内に、出願人は異議申立に対抗するための答弁書(防御意図通知書)を提出することができる。出願人が答弁書を提出しなかった場合は、当該出願は失効する(商標法第52A条および第54A条、商標規則5.13)。
何人も、異議申立をすることができるので(商標法第52条(1))、異議申立人は、異議理由として第三者の先行権利または登録を援用することもできる。具体例としては、オーストラリアで名声を得ている登録または未登録の他人の商標と欺瞞または混同を生じる虞があることを異議理由とする場合などが挙げられ、この際、異議申立人に名声および虞の立証責任がある(商標法第60条、便覧46.4. 4.5)。
IPAでは、出願審査は審査官(Examiner)、異議手続の審査は登録官(Registrar)がそれぞれ行うことから、出願審査において審査官によって考慮されなかった理由の他に、出願に対する拒絶理由と同じ理由に基づき、異議申立を提起することができる(便覧46.4 第2段落)。また、異議理由としては、出願審査でも取り扱われる商標の絶対的拒絶理由(商標法第39条~第43条)および相対的拒絶理由(商標法第44条)に加え、異議申立人に先に使用されている類似商標、虚偽の地理的表示を含む商標、不正に出願された商標など、商標法第58条から第62A条に記載されている出願審査で取り上げられない理由が挙げられる。なお、商標法第40条に規定する、商標が視覚的に表示できないとの絶対的拒絶理由は、異議理由として認められない(商標法第57条)。
証拠は、原則、法定期限内に宣誓書の様式でIPAの電子通信手段(Objective Connect)を用いて提出しなければならない。両当事者は、当該手段を通じて証拠を受領する(商標法第213C条、商標規則21.6および21.7、便覧51.1)。
異議申立人は、異議理由の少なくとも1つについて立証責任を負っているために、答弁書の写しが異議申立人に送達されてから3か月以内に異議証拠を提出しなければならない(商標規則5.14(3))。
異議申立人が異議証拠を提出した場合、出願人は異議証拠が提出された旨の登録官からの通知から3か月以内に答弁証拠を提出することができる(商標規則5.14(4))。
出願人が答弁証拠を提出した場合、異議申立人は必要と判断した場合に弁駁証拠を提出することができる。この弁駁証拠は、答弁証拠に挙げられている争点に対する弁駁に限定されなければならない。弁駁証拠は、答弁証拠が提出された旨の登録官からの通知から2か月以内に提出されなければならない(商標規則5.14(6))。
異議申立人が弁駁証拠を提出した場合、または異議申立人が弁駁証拠を提出する意図を有していないことを登録官に通知した場合、異議申立手続における証拠手続は終了する。
両当事者は、証拠提出に関する法定期限の延長申請を行うことができる(商標規則5.15)。しかし、証拠提出期限の延長は、ほとんど認可されていないのが実情である。
両当事者は、和解交渉を行うために、異議手続を一時的に中断するためのクーリングオフ期間を申請することができる。クーリングオフ期間は、最初に6か月間認められるが、両当事者の合意に基づく延長申請があれば、登録官はさらに6か月間クーリングオフ期間を延長しなければならない。なお、両当事者は、いつでも一方的にクーリングオフ期間を解除することができる(商標規則5.16)。
証拠手続が終了した後、IPAは両当事者にヒアリング(口頭審理)の要否確認を行う。何れの当事者も口頭審理を請求しない場合、登録官は既に提出されている両当事者の証拠等に基づき、異議申立に対する裁定を行う(商標規則5.17および21.15、便覧51.5 後半部)。
口頭審理が請求された場合、通常、電話またはビデオ会議で実施される。対面での口頭審理は、証拠にビデオ接続では確認できない物理的な見本があるなどの例外的な場合に限られる(便覧52.2)。
登録官は、商標規則に規定された範囲内で、異議費用の裁定を行なう権限を有する。通常、異議に掛かる費用は、敗者側の負担として、異議申立に対する裁定後に勝者側に有利な裁定がなされる(商標法第221条、商標規則21.12、21.13)。
出願人または異議申立人は、登録官による異議決定に不服の場合、異議決定より21日以内に、連邦裁判所または連邦巡回控訴裁判所へ控訴することができる。控訴審において、両当事者は、異議手続においてIPAに提出していなかった新たな証拠を提出することができる(便覧52.5. 5.1)。