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インドにおける知的財産訴訟の統計データ

1. インドにおける知的財産専門部署の導入による知的財産訴訟の改革 
 2021年4月4日に施行された「2021年審判所改革(合理化および勤務条件)令」により、知的財産審判委員会(IPAB)は廃止された。IPABは、特許庁および商標登録官の決定に対する審判請求を審理するための審判機関として2003年に設立されたが、各種審判所の機能強化および合理化を目的とした広範な改革の一環として解散された。IPABの廃止および2021年審判所改革法の施行により、IPABに継続中の知的財産事件と、1999年商標法、2001年植物品種および農業者の権利保護法、1970年特許法、1957年著作権法および1999年商品の地理的表示(登録および保護)法に基づいてIPABに提起されたであろう新たな知的財産事件のすべてが、IPABの支所が所在していたデリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイ、アーメダバードを所管する各高等裁判所に移管されることとなった。 
 今後、新たに提起される知的財産審判事件については、対象とされる知的財産の出願された特許庁(デリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイ)を管轄する高等裁判所に属することとなった。これは、既存の司法システムの中で知的財産権紛争の専門的な知識を確保し、より効率的な解決を図ることを目的としている。また、2022年にデリー高等裁判所、2023年にマドラス高等裁判所(在チェンナイ)に知的財産部が設置され、最近では、コルカタ高等裁判所においても知的財産を所管するための規則案が通知されており、近いうちにコルカタ高等裁判所にも知的財産部が設置される予定である。なお、知的財産部が設置されていない高等裁判所では、通常の上訴法廷で審理される。

2. 分析方法および分析期間 
 インドの知的財産訴訟に関しては、すべての裁判所の訴訟情報を網羅した単一のデータベースが存在しないため、公開された報告書等により知的財産訴訟の進捗状況を確認するとともに、デリー高等裁判所とボンベイ最高裁判所の公式ウェブサイトで訴訟記録を調査した。両裁判所は、同国の知的財産訴訟の約85%を扱っていると推定されている。 
 なお、各裁判所の公式サイトにおける訴訟情報の公表状況は、全てのデータを考慮したものではなく、データの統計的な正確性を保証するものではない。また、複数の知的財産権が侵害されていると主張されている場合もあり、同一の訴訟が複数回計上されることによって、全体の数値が実際の件数と若干異なる場合がある。 
 データの集計期間は2014年1月から2023年12月までであるが、2021年から2023年までのデータは、デリー高等裁判所のみに関するものである。 
 また、デリー高等裁判所は、「デリー高等裁判所知的財産部門年次報告書2022-23」を公表しており、知的財産部門の導入後の訴訟動向が提供されている。 
 本稿で提供されたデータの分析は、インドにおける知的財産訴訟の成長について楽観的な見通しを与えてくれる。

3. 新たに提起された知的財産訴訟の分析 
3-1. 2014-2016年 
 2014、2015年および2016年に新たに提起された知的財産関連の訴訟件数は、以下のとおりである。

2014年2015年2016年
商標446440495
著作権141167230
特許154054
意匠301015
その他のIP209
合計634657803

 2014年、2015年、2016年には、毎年平均約697件の訴訟が提起され、そのピークは2016年であった。 
 2014年に新たに提起された知的財産に関する訴訟のうち、約7割が商標に関するもの(商標権侵害、詐称通用等)であったが、2015年には67%、2016年には62%となっている。 
 著作権および著作隣接権に関する訴訟の割合は、2014年の22%、2015年の25.4%から2016年には28.6%と大幅に増加している。 
 特許権および意匠権に関する訴訟は、商標および著作権に関する訴訟に比べて圧倒的に少ないが、2014年には7%であった特許権および意匠権に関する訴訟は、2015年には7.6%、2016年には8.6%と増加している。

3-2. 2017-2019年 
 2017、2018年および2019年に新たに提起された知的財産関連の訴訟件数は、以下のとおりである。

2017年2018年2019年
商標316598674
著作権182293368
特許5511844
設計151714
その他のIP974
合計57710331104

 毎年の訴訟件数は、2017年には若干減少したものの、2018年以降急速に増加しており、2019年の訴訟件数は、2014年の634件から1104件に増加している。 
 2017年に提起された知的財産権に関する新規訴訟のうち、商標(商標権侵害・詐称通用等)に関するものは約55%であったが、2018年には58%、2019年には61%と増加している。 
 著作権および著作隣接権に関する訴訟の比率は、2017年には31.5%、2018年には28.4%、2019年には33.3%と引き続き増加傾向にあり、特許および意匠に関する訴訟は、2017年には12%、2018年には13%と一貫して増加傾向にあったが、2019年には5.25%に減少している。

3-3. 2020-2023年 
 2020年以降に新たに提起された知的財産権に関する訴訟件数は、以下のとおりである。

2020年2021年2022年2023年
商標412379347513
著作権215164114227
特許43403855
設計14131228
その他のIP4321
合計688599514824

 毎年の訴訟件数は、2020年から2022年にかけて、世界的なCOVID-19の流行の影響もあり減少したが、2023年には若干ではあるが再び増加しており、今後さらに増加することが予想される。 
 2020年に新たに提起された知的財産権に関する訴訟のうち、商標(商標権侵害・詐称通用等)に関するものは約6割あり、2021年には63.3%、2022年には67.5%、2023年には62.2%となっている。 
 著作権および著作隣接権に係る訴訟の比率は、2020年には31.25%、2021年には27.3%、2022年には22.1%、2023年には27.5%と20~30%台で推移しているが、特許および意匠に係る訴訟の比率は、2020年以降増加傾向にあり、全知的財産訴訟のうち特許権および意匠権に係る訴訟の比率は8.3%であったが、2021年には8.8%に上昇し、2022年には更に増加して10%となり、2023年は横ばいであった。 
 上記の数字は、インドの知的財産環境が、成長過程にあり、かつイノベーションと知的資産の保護に積極的な姿勢であるというダイナミズムを示していることを表している。

4. 提起された知的財産訴訟において認められた仮差止命令の分析 
 2014年から2023年までの仮差止処分の内訳は、以下のとおりである。

仮差止処分命令(%)仮差止命令が認められなかった件数
2014年397(62.6)237
2015年334(50.8)323
2016年312(38.9)491
2017年205(35.5)372
2018年331(34.3)634
2019年306(27.7)798
2020年321(46.7)367
2021年263(23.8)841
2022年153(29.8)361
2023年314(38.1)510

 2014年に提起された知的財産訴訟のうち、裁判所が仮差止命令を発令したのは、62.6%である。 
 2015年には、判決が出るまでの間に、50.8%の事件が原告の権利を保護するために仮差止命令を発令したが、2016年には38.8%に減少し、2017年には35.5%にさらに減少し、2018年には34.3%に減少し、2019年には27.7%とさらに減少した。 
 2020年には、裁判所は46.7%の事件で仮差止命令の発令を支持しているようであるが、2021年には23.8%に、2022年には29.8%に、再び減少している。2023年には、裁判所は38%の事件で差止命令を発令した。 
 インドの裁判所は、知的財産訴訟における仮差止命令の発令には一般的に慎重であるが、権利保有者が一応の根拠に基づいて侵害を証明できる場合には、積極的かつ迅速に仮差止命令を発令し、調査活動を行う地方委員を任命する。調査活動は、当事者による調査、証拠調べ、物件への立ち入りなどの申請に基づいて、裁判所が任命した地方委員によって実施される。

5. 知的財産訴訟の最終処分の分析(2014-2023) 
 2014年から2023年までの裁判所による差止請求に対する最終処分結果を、以下に示す。

裁判所の最終処分和解/取り下げ合計
2014年217436653
2015年260424684
2016年251221472
2017年156334490
2018年149292441
2019年360204564
2020年411440851
2021年213179392
2022年11325138
2023年11473187

 インドの裁判所は、多くの事件において、早期の裁判外の和解を推奨する傾向が見られる。インドに提起された知的財産訴訟の大半は、当事者が望む場合には、調停その他の紛争解決手段に付託されている。2014年から2018年まで、処理された事件全体のおよそ2/3が和解または取り下げとなっている。2019年には、事件の和解または取下げは36%に減少したが、裁判所による事件の処理は増加しているようである。2020年から2023年にかけても同様の傾向が見られるが、事件が係属中であり、多くの事件について最終処分の結果が得られないため、データが正確でない可能性がある。
 しかし、2023年4月の「デリー高等裁判所知的財産部年次報告書2022-23」において、知的財産権問題におけるADRメカニズムの利用が極めて成功していることが報告され、統計によれば、デリー高等裁判所では斡旋・調停センター送致事件の80%から85%が解決されている。

6. まとめ 
 2005年の施策により特許訴訟が増加したが、インドにおける知的財産訴訟に関する統計データによれば、依然として商標権と著作権の行使に関しての知的財産訴訟の提起が多くを占めている。 
 裁判所はまた、長年にわたり、知的財産訴訟における紛争の早期解決のための調停手続を奨励してきており、この手続により、裁判所は、未決の訴訟の多くを解決することができている。 
 立法改革、規制調整、技術の進歩によって推進されたインドの知的財産環境のダイナミックな変化は、進化するグローバルなイノベーション環境に適応するためのインドの積極的な姿勢を示している。迅速な特許審査プログラムの実施と商標出願の合理化は、多様な産業にわたるイノベーションの育成と促進に対するインドの目指す姿勢の明確な表れである。裁判所の枠組みの中に知的財産部門(IPD)を設立することは、知的財産事件を解決する専門の手段を提供し、より強固で効率的な法的手段を確保するための重要な一歩である。インドが知的財産という複雑な分野を進み続ける中で、これらの進歩的なイニシアティブと戦略的発展は、インドを活気に満ちた包括的なイノベーション・エコシステムの育成の最前線に位置付ける。将来、インドが経済的・技術的発展をする上で、必ずや知的財産がより不可欠な役割を果たすことになるであろう。

マレーシアにおける特許の新規性について

1.新規性の判断基準
 マレーシアでは、発明が先行技術により予測されないものである時は、その発明は新規性を有すると判断される。ここでいう先行技術とは、具体的には、以下の(a)、(b)により構成されるものをいう(マレーシア特許法第14条第1項、第2項)。

(a)刊行物、口頭の開示、使用または他の方法によって、出願日もしくは優先日前に、世界のいずれかの場所において開示されたもの。
(b) 先行する出願日または優先日を有する国内特許出願に記載されている内容であって、マレーシア特許法第33Ð条に基づいて公開される特許出願に包含されているもの。

マレーシア特許法
第14条 新規性
(1) 発明が先行技術により予測されないものであるときは,その発明は新規性を有する。

(2) 先行技術は,次に掲げるものによって構成されるものとする。
(a) その発明をクレームする特許出願の優先日前に,世界の何れかの場所において,書面による発表,口頭の開示,使用その他の方法で公衆に開示されたすべてのもの
(b) (a)にいう特許出願より先の優先日を有する国内特許出願の内容であって,その内容が前記の国内特許出願に基づいて33D条に基づいて公開される特許出願に包含されている場合のもの[法律A1649:5による改正]

2.特許の新規性喪失の例外(グレースピリオド)
 先行技術の開示が、次に掲げる事情(a)、(b)、(c)に該当している場合は、その開示は無視するものとされ(a disclosure・・・shall be disregarded)、その開示により特許出願は新規性を失わない(マレーシア特許法第14条第3項)。

(a) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の行為を理由とするものであったかまたはその行為の結果であったこと。
(b) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったかまたはその濫用の結果であったこと。
(c) その開示が、本法の施行日に、英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること。

マレーシア特許法
第14条 新規性
(3) (2)(a)に基づいてなされた開示が次に掲げる事情に該当している場合は,その開示は無視するものとする。
(a) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の行為を理由とするものであったか又はその行為の結果であったこと
(b) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったか又はその濫用の結果であったこと
(c) その開示が,本法の施行日に,英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること

(4) (2)の規定は,先行技術に含まれる物質又は組成物の,第13条(1)(d)にいう方法における使用に関する特許性を排除するものではない。ただし,そのような方法におけるその使用が先行技術に含まれていないことを条件とする。

 上述のグレースピリオドの適用を主張する場合、出願人は、出願時にまたはその他いつでも、上記の各理由によって先行技術としては無視されるべきと考える事項を、付属の陳述書(an accompanying statement)において明らかにしなければならない(マレーシア特許規則20)。

 なお、証拠書類を陳述書と併せて提出する必要はなく、証拠の提出に関する具体的な日数制限があるわけでもないが、実務においては、拒絶理由通知を受けた後に補充することが行われている。

マレーシア特許規則
規則20 先行技術との関係で無視されるべき開示
出願人は,出願時に又はその他の何時であれ,自己が認識しかつ特許法第14条(3)に基づき先行技術としては無視されるべきと考える開示事項を述べるものとし,その事実を付属の陳述書において明らかにするものとする。

3.審査基準
 マレーシア特許審査基準では、新規性に関して、D 7.0「新規性」に記載されている。
 審査基準D 7.0冒頭に、前記特許法第14条第1項の条文を引用し、先行技術により予測されない発明は新規性を有する、と記載されている。
 なお、先行技術とは、審査基準D 5.1において、マレーシア特許出願の出願日(または優先日)より前に、書面または口頭による説明、使用、またはその他の方法によって公衆に利用可能になったすべてのもの、と定義されている。
 以下、審査基準D 7.1~7.9の各項における主な記載内容を紹介する。

3-1. マレーシア特許法第14条第2項に基づく先行技術(審査基準 D 7.1)
 新規性の検討において、先行技術文献に記載された先行技術、または異なる実施形態の別個の項目を組み合わせることは認められない。文献内で明示的に否認されている事項や明示的に記載されている先行技術は、その文献に含まれているとみなされ、その範囲や意味を解釈し理解する際に考慮されるべきである。
 新規性を評価する際、文献の教示に周知の同等物が含まれていると解釈することは不適切である。つまり、特許請求範囲に従来技術にはないマイナーな特徴(周知の同等物)が含まれている場合、その請求項は新規性があるとみなすことができる。先行技術からの発展が、技術的な問題を解決しない周知の同等物を代用するものである場合、既知のもの、または先行技術からの非発明的な発展については、独占を認めるべきではない。

3-2. 暗黙の特徴またはよく知られた同等物(審査基準 D 7.2)
 発明または実用新案の新規性を評価するために先行技術が引用される場合、先行技術に記載された明示的な技術内容と、当業者が開示内容から直接的かつ曖昧さなく推測できる暗黙的な技術内容の両方が含まれる技術内容が使用される。先行技術に明示的または黙示的に開示されている特徴の周知同等物は、先行技術から「直接かつ曖昧さなく導出可能」とはみなされず、したがって、進歩性の評価のためにのみ考慮される。

3-3. 先行技術文献の関連日(審査基準 D 7.3)
 新規性を判断するために、先行技術文献は、関連日において当業者によって読まれ理解されたであろうように読まれ考慮される。先行技術の検討における関連日とは、当該先行技術が公開された日を意味する。ただし、関連する先行技術が先の出願である場合を除く。この場合、関連する日は、当該先の出願の出願日、または特許法第14条第2項に該当する場合には優先日となる。

3-4. 先行技術文献における実施可能な開示(審査基準 D 7.4)
 実施可能な開示を提供する先行技術文献は、その時点における当該分野の一般的な知識を考慮して、当業者が請求項に係る発明を実施することを可能にするのに十分な詳細さで請求項に係る発明を記載している場合、請求項に係る発明を予見させるものである。先行技術に名称または式が記載されている化学化合物は、先行技術に記載された情報と、先行技術の関連日において利用可能であった追加的な一般知識とによって、当該化合物の調製または天然に存在する化合物の場合には分離が可能とならない限り、自動的に公知とはならない。

3-5. 一般的な開示と具体例(審査基準 D 7.5)
 請求項の範囲に含まれる内容が先に開示されている場合、請求項は新規性を欠く。従って、発明を代替案の観点から定義した請求項は、その代替案の一つが既に公知であれば新規性を欠くことになる。対照的に、先行技術の一般的な開示は、通常、より具体的な請求項を予見させることはない。

3-6. 暗黙の開示とパラメータ(審査基準 D 7.6)
 新規性の欠如は、通常、先行技術の明示的な開示から明確に明白でなければならない。しかしながら、先行技術が、先行技術の内容およびその教示の実際的な効果に関して審査官に何の疑いも残さない暗黙的な方法でクレームされた主題を開示している場合、審査官は新規性の欠如に関する異議を提起することができる。
 このような状況は、特許請求の範囲において、発明やその特徴を定義するためにパラメータが使用されている場合に起こり得る。関連する先行技術では、異なるパラメータが記載されているか、パラメータが全く記載されていない可能性がある。公知製品と特許請求の範囲に記載された製品が他の全ての側面において同一である場合、新規性欠如の異議を生じる可能性がある。しかし、出願人がパラメータの相違について立証可能な証拠を提出できる場合、請求項に係る発明が、指定されたパラメータを有する製品を製造するために必要なすべての必須特徴を十分に開示しているかどうか、を評価する必要がある。

3-7. 新規性の審査(審査基準 D 7.7)
 新規性を評価するために請求項を解釈する場合、特定の意図された用途の非特徴的な特徴は無視されるべきである。他方、たとえ明示的に記載されていなくても、特定の用途によって暗示される特徴的な特性は考慮されるべきである。
 異なる純度の公知化合物を有するだけでは、その純度が従来の方法によって達成可能である場合、新規性は付与されない。出願人は、新規性を克服するためには、請求項に係る発明の純度は、従来のプロセスでは得られないことを示すのではなく、その代わりに従来公知のプロセスや方法では達成不可能な結果であることを示す必要がある。

3-8. 選択発明(審査基準 D 7.8)
 選択発明には、従来技術におけるより大きな既知の範囲では明確に言及されていない個々の要素、サブセット、または部分範囲を主張する発明が含まれる。これらの発明は、先行技術の開示の範囲内、またはそれをオーバーラップするものである。
 請求項に係る発明が、具体的に開示された1つの要素リストから要素を選択したものであっても、新規性は立証されない。しかし、2つ以上のリストから選択された要素を、その組み合わせを明示的に開示することなく組み合わせることは、新規性があるとみなされる可能性がある。
 従来技術のより広い数値範囲から選択された請求項に係る発明の部分範囲は、以下の場合に新規である。
 - 既知の範囲と比較して狭い。そして
 - 従来技術に開示されている特定の例および既知の範囲の終点から十分に離れている。
 選択発明は、例えば、請求される主題と先行技術の数値範囲や化学式など、オーバーラップする範囲を含むこともできる。数値範囲がオーバーラップする物理パラメータの場合、既知の範囲の終点、中間値、またはオーバーラップする先行技術の具体例が明示されていれば、請求された主題は新規ではない。
 先行技術の範囲から新規性を否定する特定の値を除外するだけでは、新規性の立証には不十分である。また、当該分野の当業者が、オーバーラップする領域内での作業を真剣に検討するかどうかも考慮する必要がある。
 化学式がオーバーラップする場合、請求された主題が、新たな技術要素または技術的教示によって、オーバーラップする範囲において先行技術と区別されれば、新規性が立証される。

3-9. 数値の誤差範囲(審査基準 D 7.8.1)
 関連分野の当業者であれば、測定に関連する数値は、その精度を限定する誤差の影響を受けることを考慮しなければならない。このため、科学技術文献における標準的な慣行が適用され、数値の最後の小数位がその精度のレベルを示す。他の誤差が指定されていない状況では、最後の小数位を四捨五入して最大誤差を決定すべきである。

3-10. リーチスルークレームの新規性(審査基準 D 7.9)
 「リーチスルー(Reach-through)」クレームは、生物学的標的に対する製品の作用を機能的に定義することにより、化学製品、組成物または用途の保護を求めることを目的として策定される。これらのクレームは、基本的に明細書の開示事項を超えて拡張され、明示的に記載されていないが、本発明を使用して開発される可能性のある主題を包含する。
 多くの場合、出願人は新たに同定された生物学的標的に基づいて化合物を定義する。しかし、これらの化合物が作用する生物学的標的が新しいからといって、必ずしも新しいとは限らない。実際、出願人は、既知の化合物が新しい生物学的標的に対して同じ作用を発揮することを示す試験結果を提示することが多い。その結果、このように定義された化合物に関するリーチスルークレームは、新規性を欠くことになる。

ニュージーランドにおける分割出願に関する留意事項

1.特許法および特許規則改正とその適用
1-1.特許法

 ニュージーランドでは2013年に特許法が改正され(2013年特許法、以下、「新法」という)、2014年9月13日以降に出願された出願および国内移行されたPCT出願に適用される。2014年9月12日以前に出願された出願および国内移行されたPCT出願には、1953年に制定された特許法(1953年特許法、以下、「旧法」という)が適用される。

 分割出願については、親出願に新法が適用されている場合に新法が適用され、親出願に旧法が適用されている場合に旧法が適用される(新法第258条)。

1-2.特許規則
 1954年特許規則(以下、「旧特許規則」という)が改正され、2014年特許規則(以下、「新特許規則」という)が2014年8月11日から施行されている。また、分割出願に関する規定の改正が2018年4月5日に施行された。具体的には、規則52(3)「親出願でクレームされている事項と実質的に同じクレームで分割出願をすることができない」 を廃止、規則82を置き換え、下記2-2記載を含む規定がされた。

2.新法下の分割出願
2-1.時期的要件

 新法下では、分割出願は、親出願が認可(*)される前であればいつでも行うことができる(新法第34条)。ただし、以下の審査請求期限に注意を要する。

(*)ニュージーランドでは、出願が特許法で要求される要件を全て満足すると認可(Acceptance、アクセプタンス)され、認可通知が発行される。認可通知発行後、その旨が官報に公告され(新法第74条)、公告日から3か月が異議申立期間となる(新法第92条(1)、新特許規則92、規則93)。この期間内に異議申立がない場合、または異議申立があった場合でも異議理由なしの決定がされた場合には、特許が付与される(旧法下でも同様)。

 ニュージーランドでは、2013年特許法改正により審査請求制度が導入された(新法第64条)。分割出願の審査請求期限は、親出願の出願日から5年と定められている(新特許規則71(a))。審査請求制度の導入により、分割出願が可能な期間は、親出願の出願日から5年に制限されることとなった。審査請求期間が出願日より5年と定められているため、この期間内に審査請求がなされない場合には、出願は放棄されたものとみなされるからである。

 分割出願の出願日は親出願の出願日まで遡る(新法第34条(4))。

2-2.実体的要件
 分割出願は、親出願の出願時に開示されていた内容に関するものでなければならない(新法第34条(1))。分割出願が、親出願に開示されていない内容を含む場合、出願日は親出願の出願日まで遡らず、実際に分割出願が出願された日となる。

 分割出願と親出願とは同一の事項に係るクレームを含んではならない。分割出願が認可されるためには、分割出願のクレームが親出願のクレームとは異なる必要があり、同様に、親出願が認可されるためには、親出願のクレームが分割出願のクレームと異なっている必要がある(新特許規則82)。なお、新特許規則82は、出願の完全明細書の許可(Acceptance of complete specification)の要件である。

2-3.公開
 公開済みの親出願に基づく分割出願がなされた場合、その分割出願は公報において公告される(新法第77条)。

3.旧法下の分割出願
3-1.時期的要件

 旧法下では、分割出願は親出願が認可される前であればいつでも行うことができる(旧特許規則23(1))。

 分割出願の出願日は、親出願の出願日まで遡る(旧特許規則23(1))。

3-2.実体的要件
 分割出願は、親出願に開示される内容に関するものでなければならない。分割出願が、親出願に開示されていない内容を含む場合、出願日は親出願の出願日まで遡らず、実際に分割出願が出願された日となる。

 分割出願と親出願とは、同じ内容のクレームを含んではならない。一方の出願のクレームを他方の出願のクレームとは異なるように補正することが要求される(旧特許規則23(2))。

3-3.公開
 旧法下では出願公開制度はなく、旧法が適用される分割出願は特許付与されるまで公開されない。

4.認可期間の延長のための分割出願の利用
 旧法下では、親出願が認可される前であれば、いつでも分割出願を行うことができる。しかも、分割出願の期限はその直接の親出願が認可前であるかどうかで決まる。したがって、分割出願から分割出願を繰り返し行うことにより、全て同じ出願日(最初の親出願の出願日)が与えられた一連の分割出願を作り出すことができる。また、親出願の内容全体を引き継いだ分割出願を行った後で親出願を放棄することにより、出願が認可されるのが保留され、認可されるまでの期間(**)を実質的に延ばすことができる。

 親出願の内容全体を引き継いだ分割出願を提出した後で親出願を放棄するという手法は新法下でも可能であるが、分割出願の審査請求期限が親出願の出願日から5年と定められている以上、この5年を経過している場合には、分割出願を行うことにより認可されるまでの期間を更に延ばすことはできない。

(**)認可期間(アクセプタンス期間)

 ニュージーランドでは出願日から一定の期間内に出願が認可される必要がある。この一定の期間は、旧法下では出願日から15か月であり(旧特許規則27)、新法下では最初の審査報告書(拒絶理由通知)の発行から12か月である(新法第75条、新特許規則83)。

インドにおける特許異議申立制度-付与前異議申立と付与後異議申立

1.付与前異議申立
 付与前異議申立は、対象特許出願の公開の日から登録の日まで提出可能である。ただし、申立てられた異議について審査管理官(Controller)が検討するのは、当該出願について審査請求がなされた後である。付与前異議申立の制度は、特許に対して異議を申立てる機会を公衆に与えることを意図しているため、「何人も」申立てることができる(特許法第25条(1))。異議申立人が付与前異議申立を提出する十分な時間を確保するため、特許出願の公開から6か月間は特許権が付与されないことが、インド特許規則(以下、特許規則)に規定されている(特許規則55(1A))。

1-1.付与前異議申立の理由
 付与前異議申立は特許法第25条(1)に規定された11項目の異議理由に基づき、申立てが可能である。このうち代表的な異議理由として、以下の4点が挙げられる。

・出願の請求項に開示された発明が、出願人によって不正に取得された
・何れかの請求項で請求される発明が、当該請求項の優先日の前に公開されていた
・発明が、進歩性を有さない
・出願人が、インド特許法第8条の要求(たとえば、他国で出願された同一または実質的に同一発明に関する詳細情報のインド特許意匠商標総局への提出)を順守していない

1-2.付与前異議申立の手続
 付与前異議申立は、所定の書式(Form 7A)を用いて、インド特許意匠商標総局長官宛に提出する(特許法第25条、特許規則55(1))。申立を考慮した長官が当該出願を拒絶すべきという見解を持った場合、異議申立人が作成した異議申立書の副本を添えて出願人へ通知される(特許規則55(3))。出願人は異議の通知に対して、通知の発行日から3か月以内に、応答書を(証拠と共に)提出しなければならない(特許規則55(4))。出願人は、長官の付与前異議申立に対する決定が下されて手続が終了する前に口頭手続の機会を求めることができる(特許法第25条(1))。
 出願人の意見を考慮した後、長官は、出願の特許付与を拒絶するか、または、特許付与前に出願の補正を求めるか、あるいは異議申立を棄却するか、のいずれかを行う事ができ、通常、長官は、付与前異議申立手続の終了から1か月以内に、決定を下さなければならない(特許規則55(5))。長官による決定に対して、高等裁判所への不服申立が可能である(特許法第117A条、Tribunals Reforms Act 2021第13条)。

図1. 付与前異議申立の手続フロー

2.付与後異議申立
 付与後異議申立は、特許法第25条(2)に規定されている。付与後異議は、特許登録の公開の日から1年以内に申立てなければならない。付与前異議申立と異なり、付与後異議申立は、「利害関係人」のみが申立てることができる。特許法第2条(1)(t)によれば、「利害関係人」とは、当該発明が関係する同一分野の研究に従事している、または、これを促進する業務に従事する者を含む。Ajay Industrial Corporation v. Shiro Kanao of Ibaraki City事件(1983)においてデリー高等裁判所は、「利害関係人」とは、「登録された特許の存続によって、損害その他の影響を受ける、直接的で現実の、かつ具体的な商業的利害を有する」者と解釈している。付与後異議申立の異議理由は、付与前異議申立の異議理由と同様である(特許法第25条(2))。

2-1.付与後異議申立の手続
 付与後異議申立は、所定の書式(Form 7)を用いて、特許意匠商標総局長官宛に異議申立書を提出する(特許規則55A)。異議申立書の受領後、長官は付与後異議申立の合議体として審査管理官3名からなる異議委員会(異議部)を設置する(特許法第25条(3)、特許規則56(1))。当該出願を審査した審査官は、委員会メンバーとしての適格性をもたない(特許規則56(3))。通常は、次席審査管理官(Deputy Controller of Patents)または審査管理官補(Assistant Controller of Patents)が異議委員会の委員長として任命され、2名の上級審査官が残りのメンバーとして任命される。付与後異議申立手続において、異議申立人は、自らの利害や基礎となる事実、求める救済措置について述べる異議申立陳述書を作成し、証拠(ある場合)とともに異議申立書に添付して、長官宛に提出し、その異議申立陳述書と証拠(ある場合)の写しを特許権者に送付しなければならない(特許規則57)。
 特許権者が異議申立に対して争う場合、異議申立人から異議申立書を受領した日から2か月以内に、所轄庁に、証拠(ある場合)とともに異議に争う理由を記述した答弁書を提出し、その写しを異議申立人に送付しなければならない(特許規則58(1))。特許権者が答弁書を提出しない場合、特許は取り消されたものとみなされる(特許規則58(2))。特許権者の答弁書を受領した異議申立人は、受領の日から1か月以内に、弁駁書を提出できるが、そのような異議申立人の弁駁書は、特許権者が提出した証拠に関する内容に厳しく限定される(特許規則59)。両者(特許権者、異議申立人)からのさらなる答弁は、長官が許可した場合にのみ提出可能である(特許規則60、62)。答弁書の提出完了後3か月以内に、異議委員会は、異議委員会の勧告を長官に提出する(特許規則56(4))。
 その後、長官は、口頭手続の期日を指定する(特許法第25条(4))。口頭手続の通知は、口頭手続期日の10日以上前に両者(特許権者、異議申立人)に送付されなければならず、また、異議委員会の勧告について、審査管理官が口頭手続の期日を設定する前に、異議申立人と特許権者に通知しなければならない(特許規則62(1))。この異議委員会に対する手続上の要件は、知的財産審判部(IPAB、現在は廃止)の過去の決定で示されたものである(M/s. Diamcad N.V. v. Asst. Controller of Patent and Ors. (2012))。また、知的財産審判部(IPAB)は、異議申立手続における異議委員会の勧告および審査管理官の決定には、充分な理由づけが必要、と示した決定もある(Sankalp Rehabilitation Trust v. F Hoffmann-LA Roche AG (2012))。長官は、異議委員会メンバーに口頭手続への同席を指示することができる(特許規則62(1))。口頭審理後、長官は決定を下す(特許規則62(5))。決定に対しては、高等裁判所への不服申立が可能である(特許法第117A条、Tribunals Reforms Act 2021第13条)。

図2. 付与後異議申立の手続フロー

3.異議申立と取消手続との違い
 「利害関係人」は、特許法第64条に基づき特許の取消しを求めることができる。異議申立と取消手続との主な違いは、以下の通りである。

・異議申立の異議理由とは別に、取消手続には、取消理由が規定されており、異議理由には該当しないが、取消理由に該当する場合もある。たとえば、秘密保持指令(特許法35条)への違反は、異議理由とはならないが、取消理由となる。
・付与前異議申立は特許の登録前の申立てが必要であり、付与後異議申立は特許登録の公開の日から1年以内に申立てが必要となる。一方、取消手続は、特許の登録の後、いつでも申請が可能である。
・インド政府は、異議を申立てることができない(長官の指示・指令に対して、インド政府が異議を申立てる理由がない)。一方、取消手続はインド政府も申請することができる、例えば、原子力関連発明が誤って特許になった場合など、政府が自分で取り消すことができる(特許法第65条)。
 なお、異議申立(付与前、付与後)は、インド特許意匠商標総局(IPAB)への申請であったが、IPAB廃止後は高等裁判所への提訴となった。

オーストラリアにおける分割出願に関する留意事項

1.はじめに
 オーストラリアにおける標準特許出願とイノベーション特許出願を説明する。標準特許出願とは、実体審査を経て標準特許が付与される特許出願であり、標準特許の権利期間は特許の日(”date of the patent”、完全明細書の提出日、特許法第65条)から20年である(特許法第67条)。イノベーション特許出願とは、実体審査を経ずにイノベーション特許が付与される特許出願であり、イノベーション特許の権利期間は特許の日(完全明細書の提出日)から8年である(特許法第68条)。イノベーション特許は実体審査を経ずに付与されるが、権利行使をするには、審査請求を行い実体審査されたことの証明(certificate)(以下、「審査証明」)を得る必要がある(特許法第120条1A)。
 なお、イノベーション特許出願制度は段階的な廃止が決定されており、2021年8月26日以降は、分割出願としてのみ出願することができ、すべてのイノベーション特許が期限切れとなる2029年8月26日までに段階的に廃止される(イノベーション特許の段階的廃止法)。

 オーストラリアでは、下記の理由により分割出願が行われる。
 ・発明の単一性に係る拒絶理由への対応のため
 ・出願認可後に、より狭いクレームまたは代替のクレームでの権利化を目指すため
 ・侵害者への権利行使を行う目的で、速やかにイノベーション特許の付与とその審査証明を得るため

 オーストラリアの分割出願は、標準特許出願、イノベーション特許出願、標準特許出願に基づく分割出願、およびPCT出願に基づき出願することができる。分割出願には、親出願の種類と出願日に応じて異なる法律や規則が適用される。これらの点について以下で詳しく解説する。

2.標準特許出願に基づく分割出願を行うことができる時期
 標準特許出願に基づく分割出願の出願期限は、標準特許出願の許可通知が公表される日から3か月であり、この期限を延長することはできない。分割出願は、標準特許出願として出願することができる(特許法第79B条、特許規則6A.1)。また、親出願の標準特許が2021年8月26日より前に出願された場合、イノベーション特許として出願することもできる。
 分割出願の出願期限は、特許付与に対する異議申立人からの異議申立期限と同じである。なお、異議申立人が異議申立を行った際に、出願人に代替のクレーム(例えば、より広範なクレーム)で分割出願を行うことができる機会を与えないために、実務上、異議申立は期限当日に行うのが一般的である。

3.イノベーション特許出願に基づく分割出願を行うことができる時期
 イノベーション特許の審査の実行通知が、公表される日から1か月以内の期間、分割出願を行うことができる。
 この期間はイノベーション特許出願としてのみ分割出願を行うことができる期間であり、親出願に開示されていた発明についてのみ(例えば、出願人が、親出願に対して発明の単一性に係る拒絶理由を受けた場合に)分割出願を行うことができる(特許法第79C条、特許規則6A.2)。

4.PCT出願に基づく分割出願を行うことができる時期
 PCT出願は、標準特許の完全出願として扱われ、したがって、オーストラリアを指定国とするPCT出願は、分割出願の出願時に、PCT出願が失効、拒絶または取下げられていないことを条件として、分割出願の親出願とすることができる(特許法第29A条)。
 また、PCT出願が2021年8月26日より前に出願されていた場合、PCT出願の分割出願をイノベーション特許として出願することもできる。

5.分割出願の出願要件
 分割出願として認められるためには、分割出願の出願時点において親出願が有効に存続している(すなわち、親出願が、失効しておらず、拒絶または取り下げもされていない)必要がある。しかし、分割出願の出願日以降に親出願が失効、拒絶または取り下げられても、分割出願は無効とはならない(特許法第79B条、第79C条)。
 また、分割出願は、親出願に含まれる開示によって裏付けられるクレームを少なくとも1つ含む必要がある(特許審査基準2.10.5a)。

6.分割出願における主題の追加(新規事項)
 オーストラリアではクレームごとに優先日が決定される(特許法第43条)。
 分割出願には新規事項を含めることを禁止する条項は無い。しかし、この新規事項に関するクレームは、親出願に含まれていないため、分割出願された日が当該クレームの優先日となる(特許規則2.3、3.12、3.13D、特許審査基準2.10.5a)。

7.その他―追加特許
 特許出願の出願日以降に発明に軽微な改良または変更が行われた場合、出願人は、これらの改良または変更を保護するために、当該特許出願に基づき追加特許出願を行うことができる。追加特許出願のクレームは、親特許および親特許出願の開示に対して新規性がなければならないが、進歩性を有する必要はない(特許法第25条、特許規則2.4)。
 追加特許出願については、下記の点に注意する必要がある。
 (a)親出願でクレームされた発明の改良または変更に関するものでなくてはならない。
 (b)標準特許または標準特許出願に基づき出願できる。
 (c)親特許の付与後に権利が付与される。
 (d)親特許が有効に存続している間のみ、効力を維持する。
(特許法80条、81条、82条、83条)

マレーシアにおける2022年特許法改正の概要(後編)

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オーストラリアにおける特許出願書類

1.パリルート出願
 オーストラリアにおいてパリルート出願として特許出願を行う際に必要な書類は、以下の2つである(特許法第29条、特許規則3.1)。
・特許願書(出願人の氏名および住所、発明者の氏名、優先権出願の情報を含む)  下記URLの「P00001_0316」を参照
 https://www.ipaustralia.gov.au/tools-and-research/forms/Apply-for-a-standard-patent-patent-of-addition
・英語の明細書(クレームおよび要約書を含む)および図面(該当する場合)

 なお、オーストラリア特許庁に要求されない限り、優先権証明書の提出は不要である*1。また、出願人または発明者が特許願書に署名をする必要はない。

第29条 特許出願
(1) 何人も、規則に従って特許願書および所定の他の書類を提出することにより、発明に係わる特許出願をすることができる。
(2) 出願は、仮出願または完全出願とすることができる。
(3) 仮出願に関する特許願書は、次のものでなければならない。
(a) 承認様式によるものとすること、
(b) 英語で記載されていること、および
(c) 仮明細書が添付されていること
(4) (3)(c)に言及されている仮明細書は、次のものでなければならない。
(a) 承認様式によるものとすること、および
(b) 英語で記載されていること
(4A) 完全出願に関する特許願書は、次のものでなければならない。
(a) 承認様式によるものとすること、
(b) 英語で記載されていること、
(c) 完全明細書が添付されていること、および
(d) 第229条の方式要件を満たしていること
(4B) (4A)(c)に言及されている完全明細書は、次のものでなければならない。
(a) 承認様式によるものとすること、
(b) 英語で記載されていること、および
(c) 第229条の方式要件を満たしていること
(5) 本条においては、「何人も」は、それが法人であるか否かを問わず、団体を含む。

規則3.1 所定の書類:特許出願
(1) 法律第29条(1)の適用上、完全出願に関して作成された特許願書と共に、要約を提出しなければならない。
(2) 法律第29条(1)の適用上、標準特許*2を求める完全出願をする場合は、受理前に、次の書類を提出しなければならない。
(c) 微生物が所定の寄託機関に寄託されている場合において、
(i) その寄託が、ブダペスト条約の規則7.3の意味での原寄託または同条約の規則7.4の意味での再寄託であるとき-同条約の規則7に基づいて所定の機関が交付した受託証の写し、
(ii) 微生物の試料が、同条約の規則5.1(a)(i)に基づいて所定の機関に移送されたとき-同条約の規則7に基づいて当該機関が交付した受託証の写し、および
(iii) (i)または(ii)にいう受託証が英語によるものでないとき-受託証の英語翻訳文、
(d) 出願が法律第6条に依拠している場合-法律の適用上寄託に依拠することについての名義人の権原を記載した出願人による通知、
(e) 出願が法律第34条(2)の適用対象である出願である場合-出願人が明細書のクレームにおいてクレームされている範囲での発明に関する有資格者である旨を宣言する裁判所の命令の写し、
(f) 出願が法律第36条(4)の適用対象である出願である場合-出願人が明細書に開示された発明に関する有資格者である旨の局長の宣言書の写し、および
(g) 願書が追加特許に対するものであり、出願人または特許権者によって権原を付与された者によって作成されている場合-出願人または特許権者からの陳述であって、前記の者に権原を付与する旨のもの。

*1: 特許法、特許規則のいずれにも優先権証明書の提出を求める記載がない。ただし、オーストラリア特許庁から要求があった場合はこの限りではない。
*2: オーストラリアの「特許」には、「標準特許」と「イノベーション特許」があり、日本の「特許」に対応するものは、「標準特許」である。

2.PCTルート出願
 オーストラリアにおいてPCTルートを利用して特許出願を行う際に必要な書類は、以下の4つである(特許法第29A条、特許規則3.5AB、3.5AC)。
・PCT特許願書(国際出願番号または国際公開番号、国際予備審査請求の有無)
 【ソース】PCT特許願書(PCT Request)参照
・国際予備審査報告書(報告書がある場合)および付随書類として添付された補正(国際予備審査が請求された場合)
・明細書の英語の翻訳文(PCT出願が英語以外の言語で公開された場合)。なお、翻訳が正しい旨の宣誓書は不要である*3。ただし、オーストラリア特許庁が翻訳の品質に懸念を持った場合は、後日翻訳を確認するよう求められる場合がある。
・国際予備審査請求の際の条約第34条における補正(国際予備審査報告書の附属書類として添付された補正)の英語の翻訳文(補正が英語以外の言語の場合)。

 また、出願人または発明者が特許願書に署名をする必要はない。

第29A条 特許出願-PCT出願の特別規則
(1) PCT出願は、標準特許についての本法に基づく完全出願として扱われる。
(2) PCT出願に含まれる発明の説明、図面、グラフィックス、写真およびクレームは、出願に関して提出された完全明細書として扱われる。
(3) PCT出願の明細書は、規則に定める日におよび規則に定める方法で、状況により補正されるものとする。
(4) PCT出願は、標準特許出願に関する本法の所定の要件を満たすものとみなされるが、(1)または(2)を理由とするのみでは、本法の他の要件を満たすものとはみなされない。
(5) PCT出願の出願人は、所定の期間内に次のことをしなければならない。
(a) 受理官庁に英語で提出されなかった場合は、出願の英語翻訳文を提出すること
(b) 何れの場合にも、所定の書類を提出し、所定の手数料を納付すること
(6) 出願人は、(5)の下記要件が満たされていない限り(要件の適用を受ける事情にある場合)、PCT出願に関し、手続が行われることまたは同人が手続することを許容されるよう要求する権利を有さない。
(a) 出願に関する英語翻訳文が提出されていること
(b) 所定の書類が提出されていること
(c) 所定の手数料が納付されていること

規則3.5AB PCT出願:法律に基づく出願とみなされる国際出願
(1) 本規則は、次の場合は、PCT第4条(1)(ii)に基づいて、オーストラリア国を指定国として特定している国際出願に適用される:
(a) 受理官庁が、国際出願が取下げられたものとみなす旨を宣言した場合、または
(b) 国際事務局が、PCT第12条(3)に基づく認定をした場合。
(2) 国際出願は、宣言または認定がなされない場合のように、次の場合には、PCT出願とみなされる:
(a) 出願人が、PCTの規則51.1に特定されている期限内に、PCT第25条(1)(a)において言及された請求を行った場合、
(b) 局長が、PCTの規則51.3に特定されている期限内に、次のものを受領した場合:
(i) 法律第29A条(5)(b)に定める手数料、および
(ii) 出願が英語で提出されておらず、かつ、PCT第2条に基づいて英語で公開されていない場合-(PCT規則91に基づく訂正の有無に拘らず)提出されたPCT出願の明細書の英語翻訳文が提出されている、
(c) 局長が、次の事項について、合理的な根拠で信じていること:
(i) 宣言は、受理官庁の側における過誤または遺漏の結果であったこと、または
(ii) 認定は、国際事務局の側における過誤または遺漏の結果であったこと。

規則3.5AC PCT出願:補正
(1) 法律第29A条(3)に関して、本規則は、PCT出願の明細書が補正されたものとみなされる状況、方法およびその日付について規定する。
出願の英語翻訳
(2) 法律第29A条(5)(a)が、PCT出願に適用される場合:
(a) その出願に含まれる明細書、図面、グラフィックス、写真およびクレームは、翻訳文における明細書、図面、グラフィックス、写真およびクレームを差し替えることにより、補正されたものとみなされる、および
(b) その補正は、翻訳文が提出された日に発生したものとみなされる。

PCT第19条に基づいて補正された出願
(3) (3A)に従うことを条件として、次の場合:
(a) PCT出願がPCT第19条に基づいて補正された場合、および
(b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、出願が補正された場合は、その出願に含まれる明細書、図面、グラフィックス、写真およびクレームは、補正がなされた日に補正されたものとみなされる。

第19条補正の英語翻訳
(3A) 次の場合:
(a) PCT出願がPCT第19条に基づいて補正された場合、
(b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、出願が補正された場合、
(c) その補正が、PCT第21条に基づいて英語で公開されていない場合、および
(d) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす時以前に、補正の英語翻訳文が提出された場合は、その出願に含まれる明細書、図面およびクレームは、補正の英語翻訳文が提出された日に補正されたものとみなされる。

PCT規則91に基づく訂正
(4) 次の場合:
(a) PCT出願が、PCT規則91に基づいて訂正された場合、および
(b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、訂正がなされた場合は、その出願に含まれる明細書、図面、グラフィック、写真およびクレームは、訂正が有効となった日に補正されたものとみなされる。ただし、局長が、PCT規則91.3(f)に基づく訂正を無視する場合は、この限りではない。

PCT第34条に基づく補正
(5) (5A)および(6)に従うことを条件に、次の場合、
(a) PCT第II章に基づいてオーストラリア国が選択されているPCT出願が、PCT第34条に基づいて補正された場合、および
(b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、国際予備審査報告書が作成された場合は、その出願に含まれる明細書、図面、グラフィック、写真およびクレームは、補正がなされた日に補正されたものとみなされる。

第34条補正の英語翻訳
(5A) 次の場合:
(a) PCT第II章に基づいてオーストラリア国が選択されているPCT出願が、PCT第34条に基づいて補正された場合、
(b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、国際予備審査報告書が作成された場合、
(c) その補正が、PCT第21条に基づいて英語で公開されていない場合、および
(d) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす時以前に、補正の英語翻訳文が提出された場合は、その出願に含まれる明細書、図面およびクレームは、補正の英語翻訳文が提出された日に補正されたものとみなされる。
(6) しかしながら、次の場合は、(5)は適用されない:
(a) 局長が規則3.17Cまたは10.2(1)(d)に基づいて、出願人に対し通知した場合、および
(b) 出願人が、次を行う場合:
(i) 3.17B(2)(b)または10.2(3)(c)(ii)に記述された通知を提供すること、または
(ii) 3.17B(2)(c)または10.2(3)(c)(iii)に基づいて、PCT第34条に基づいてなすことができた補正を放棄することを選択すること。

PCT規則13の2.4の表示
(7) 寄託された微生物に関する表示が、PCT出願にかかわるPCT規則13の2.4に従って提供される場合:
(a) 出願に含まれる寄託は、当該表示を含むように訂正されたものとみなされる、および
(b) その補正は、表示が国際事務局に提供された日に発生したものとみなされる。

不正確な翻訳文の訂正
(8) (3A)または(5A)に記述された補正の翻訳文における過誤または遺漏にPCT出願の出願人が気づく場合は、出願人は、補正の訂正翻訳文を提出することができる。
(9) 局長は、(3A)または(5A)に記述された補正の翻訳文が当該補正を正確に反映していないと合理的に信じる場合は、出願人宛の通知によって、出願人に対し、次の何れかを実行するよう要求することができる:
(a) 補正の訂正翻訳文および当該訂正翻訳文の確認証明書を提出すること、
(b) 翻訳文の確認証明書を提出すること。
(10) 出願人に対して、(9)に基づく通知が出された場合は、出願人は、当該通知が出された日から2月以内に当該通知を遵守しなければならない。
(11) 法律第142条(2)(f)の適用上、PCT出願は、次の場合は失効する:
(a) PCT出願の出願人に対して、(9)に基づく通知が出された場合、および
(b) 出願人が、(10)によって要求される期間内に当該通知を遵守しない場合。

訂正の効果
(12) 本規則に従うPCT出願の補正の訂翻訳文の提出は、法律第29A条(3)の適用上の補正ではない。

*3:知的財産法改正(PCT翻訳等)規則2019年版 規則3.5AF(2D)

3.標準特許明細書
 特許(特許書類様式要件)決定2022(Patents (Formalities Requirements for Patent Documents) Determination 2022、以下「様式要件」という。)では、出願書類に記載すべき要件が列挙されている。願書及び明細書の要件は以下のとおりである(様式要件11(1))。
(1) 特許願書
(2) 配列表を除く、発明の詳細な説明
(3) クレーム
(4) 要約
(5) 図面
(6) 該当する場合、配列表

 特許法第40条2項によると、標準特許の明細書は、当業者により実施されるのに十分明確で完全に発明を開示し、出願人の知る限り最良の発明の実施形態を開示しなければならない。

第40条 明細書
仮明細書に関する要件
(1) 仮明細書は、関連技術の熟練者が発明を実行するのに十分明瞭で、かつ、十分完全な方法で当該発明を開示しなければならない。

完全明細書に関する要件
(2) 完全明細書は次のとおりでなければならない。
(a) 関連技術の熟練者が発明を実行するのに十分明瞭で、かつ、十分完全な方法で当該発明を開示すること
(aa) 出願人が知る、発明実行の最善の方法を開示すること
(b) 標準特許出願に関係する場合は、発明を定義する1以上のクレームで終わること、および
(c) 革新特許出願に関係する場合は、発明を定義する少なくとも1で、5以下のクレームで終わること
(3) クレームは、明瞭、かつ、簡潔で、明細書に開示された事項により裏付けられていなければならない。
(3A) クレームは、発明を定義するために絶対的に必要な場合を除き、説明、図面、グラフィックスまたは写真を参照してはならない。
(4) クレームは、1の発明のみに係わるものでなければならない。

3-1.発明の詳細な説明
 詳細な説明の各ページには、ページの上部中央にアラビア数字で1から始まる連続した番号(1,2,3,…)を振らなければならない(様式要件11(2))。
 特許明細書の書き方(How to write a specification for your patent application)によれば、詳細な説明は、通常、以下の情報を(以下の順序で)含める。
・発明の題名
・分野(発明が関連する分野)
・発明の背景
・発明の要約
・図面の簡単な説明(図面がある場合)
・実施例の説明
・配列表(配列表がある場合)
・引用文献(引用文献がある場合)
 詳細な説明は図面を含んではならないが、化学式、数式、および表は含んでも良い(様式要件13(2))。

3-2.クレーム
 クレームは発明を規定する(特許法第40条2項(b))。クレームは詳細な説明とは別の用紙から始めなければならない(様式要件9(1))。各クレームは、1から連続して番号を振らなければならない(様式要件11(4))。クレームは図面を含んではならないが、必要に応じて化学式、数式、および表は含んでも良い(様式要件13(3))。
 特許法第40条3項、3A項および4項によると、クレームは、(a)明瞭かつ簡潔であり、明細書に開示された事項によりサポートされていなければならない(3項)。(b)発明を規定するために絶対的に必要でないかぎり、詳細な説明または図面を参照してはならない(3A項)。(c)単一の発明のみに関連するものでなければならない(4項)。
 なお、マルチクレームは、オーストラリアでは許可されている。

3-3.要約書
 要約書は別の用紙から始めなければならず(様式要件9(1))、規則3.3(1)および(2)によれば、要約書は好ましくは50語ないし150語であり、詳細な説明、クレームおよび図面に含まれる技術的な開示の簡潔な要約でなければならない。図面により記載される各主要な技術的特徴は、括弧に入れた参照符号を付さなければならない(例えば、「部材(10)」)(規則3.3(4))。さらに、要約書は図面を含まなくても良いが、必要に応じて化学式、数式、および表は含んでも良い(様式要件13(2))。

規則3.3 要約
(1) 要約は、次のものをもって構成しなければならない。
(a) 発明の説明、クレームおよび図面(あれば)に記載されている開示の概要であって、次の内容を有するもの
(i) その発明が属する技術分野を表示していること、および
(ii) 技術的課題、当該発明による課題解決についての要旨および当該発明の主要用途が明瞭に理解することができるように作成されていること、ならびに
(b) 該当する場合は、明細書に記載されている全ての化学式のうちで、発明の特徴を最も良く示しているもの
(2) 要約は、開示内容に応じてできる限り簡潔にし、望ましくは50語から150語までとしなければならない。
(3) 要約には、クレームされた発明について主張される長所若しくは価値、または推測的な用途に関する陳述を含めてはならない。
(4) 要約に記載され、かつ、明細書の図面に図示されている主要な技術的特徴の各々には、括弧に入れた参照記号を付さなければならない。
(5) 要約は、特定の技術分野を調査するための探査手段として有効に役立つように、特に前記の目的で明細書自体を検討する必要があるか否かについての意見を形成する上での支援になるように、作成されていなければならない。
(6) 要約は、その要約が関係する明細書の主題である発明の内容を解釈するに際しては、考慮に入れられない。
(7) 完全出願と共に提出された要約における情報は、法律第102条(1)の適用上、ある事項が提出された明細書に実質的に開示されていたか否かの決定に際しては、考慮に入れることができる。

3-4.図面
 図面は別の用紙から始めなければならない(様式要件9(1))。図面のページは、ページ番号と全体のページ数を示さなければならない(例えば1/5、2/5等)(様式要件11(3))。各図面は、詳細な説明とは別に1から番号を振らなければならない。(様式要件16(17))。
 図面は、耐久性があり、濃く、均一な太さおよび鮮明な線で作成しなければならない(様式要件16(1))。オーストラリア特許庁がデータ取り込みのためにスキャンした際に情報が失われる可能性があるので、グレースケールの画像は通常使用すべきではない。図面の各要素は、他の要素と互いに同じ寸法比率にしなければならない(様式要件16(11))。
 図面は、理解に必要な語以外の文言を含んではならない(様式要件14)。図面において参照符号が付される場合、その参照符号は発明の詳細な説明において言及されなければならない(様式要件16(18))。逆に図面に付されていない参照符号は発明の詳細な説明において言及されてはならない(様式要件16(19))。

4.イノベーション特許
 オーストラリアには、イノベーション特許と呼ばれる、標準特許とは異なる権利保護の制度が存在する。イノベーション特許は、通常短い商品サイクルの発明を保護するもので、20年間保護する標準特許と比較して、8年間という短い保護期間となっている。イノベーション特許は、最大で5つのクレームまでしか含むことはできず、上述の標準特許の書類に関する全ての要件を満たさなければならない。
 イノベーション特許には、特許査定前の審査制度がないため、通常は出願から1か月以内で特許査定される。イノベーション特許を権利行使するには、査定後に「認定」審査が必要となる。イノベーション特許は、進歩性に準ずる革新性を有するか評価はされるが、革新性のレベルは、標準特許で求められる進歩性よりも低い。イノベーション特許が「認定」されると、出願人は権利行使することができる。この認定審査のプロセスに通常およそ6か月かかる。
 なお、イノベーション特許出願制度は段階的な廃止が決定されており、2021年8月26日以降は新規の出願ができなくなっているが、存続している登録されたイノベーション特許については、引き続き審査請求可能である。

日本とマレーシアにおける特許出願書類の比較

1.日本における特許出願の出願書類
1-1.出願書類

 所定の様式により作成した以下の書面を提出する。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書

特許法第36条 特許出願
 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 発明者の氏名及び住所又は居所
2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。
3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
7 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。

1-2.手続言語
 手続言語は、日本語である。

特許法施行規則 第2条
 書面(次項に規定するものを除く。)は、法令に別段の定めがある場合を除き、日本語で書かなければならない。
2 委任状、国籍証明書その他の書面であつて、外国語で書いたものには、その翻訳文を添附しなければならない。

1-3.手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
 外国語により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる。その特許出願の日から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。

特許法第36条の2
 特許を受けようとする者は、前条第二項の明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書に代えて、同条第三項から第六項までの規定により明細書又は特許請求の範囲に記載すべきものとされる事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面及び必要な図面でこれに含まれる説明をその外国語で記載したもの(以下「外国語書面」という。)並びに同条第七項の規定により要約書に記載すべきものとされる事項をその外国語で記載した書面(以下「外国語要約書面」という。)を願書に添付することができる。
2 前項の規定により外国語書面及び外国語要約書面を願書に添付した特許出願(以下「外国語書面出願」という。)の出願人は、その特許出願の日(第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、同項に規定する先の出願の日、第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、最初の出願若しくはパリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願の日、第四十一条第一項、第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による二以上の優先権の主張を伴う特許出願にあつては、当該優先権の主張の基礎とした出願の日のうち最先の日。第六十四条第一項において同じ。)から一年四月以内に外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。ただし、当該外国語書面出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願である場合にあつては、本文の期間の経過後であつても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から二月以内に限り、外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出することができる。
3 特許庁長官は、前項本文に規定する期間(同項ただし書の規定により外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を提出することができるときは、同項ただし書に規定する期間。以下この条において同じ。)内に同項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出がなかつたときは、外国語書面出願の出願人に対し、その旨を通知しなければならない。
4 前項の規定による通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、第二項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
5 前項に規定する期間内に外国語書面(図面を除く。)の第二項に規定する翻訳文の提出がなかつたときは、その特許出願は、同項本文に規定する期間の経過の時に取り下げられたものとみなす。
6 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第四項に規定する期間内に当該翻訳文を提出することができなかつたことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、第二項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
7 第四項又は前項の規定により提出された翻訳文は、第二項本文に規定する期間が満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなす。
8 第二項に規定する外国語書面の翻訳文は前条第二項の規定により願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲及び図面と、第二項に規定する外国語要約書面の翻訳文は同条第二項の規定により願書に添付して提出した要約書とみなす。

特許法施行規則 第25条の4 外国語書面出願の言語
 特許法第三十六条の二第一項の経済産業省令で定める外国語は、英語その他の外国語(*)とする。

(*) 外国語書面出願の言語は、「英語その他の外国語」であり、英語以外の言語も可能である。

1-4.優先権主張手続
 優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書類を出願と同時に最先の優先権主張日から1年4か月以内に特許庁長官に提出しなければならない。
 なお、2022年9月1日現在、マレーシア知的財産公社(MyIPO)はデジタルアクセスサービス(DAS)に参加していない。

特許法第43条
 パリ条約第四条D(1)の規定により特許出願について優先権を主張しようとする者は、その旨並びに最初に出願をし若しくは同条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし又は同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の国名及び出願の年月日を記載した書面を経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出しなければならない。
2 前項の規定による優先権の主張をした者は、最初に出願をし、若しくはパリ条約第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし、若しくは同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面、その出願の際の書類で明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲及び図面に相当するものの謄本又はこれらと同様な内容を有する公報若しくは証明書であつてその同盟国の政府が発行したものを次の各号に掲げる日のうち最先の日から一年四月以内に特許庁長官に提出しなければならない。
一 当該最初の出願若しくはパリ条約第四条C(4)の規定により当該最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により当該最初の出願と認められた出願の日
二 その特許出願が第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う場合における当該優先権の主張の基礎とした出願の日
三 その特許出願が前項、次条第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による他の優先権の主張を伴う場合における当該優先権の主張の基礎とした出願の日
3 第一項の規定による優先権の主張をした者は、最初の出願若しくはパリ条約第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願の番号を記載した書面を前項に規定する書類とともに特許庁長官に提出しなければならない。ただし、同項に規定する書類の提出前にその番号を知ることができないときは、当該書面に代えてその理由を記載した書面を提出し、かつ、その番号を知つたときは、遅滞なく、その番号を記載した書面を提出しなければならない。
4 第一項の規定による優先権の主張をした者が第二項に規定する期間内に同項に規定する書類を提出しないときは、当該優先権の主張は、その効力を失う。
5 第二項に規定する書類に記載されている事項を電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。)によりパリ条約の同盟国の政府又は工業所有権に関する国際機関との間で交換することができる場合として経済産業省令で定める場合において、第一項の規定による優先権の主張をした者が、第二項に規定する期間内に、出願の番号その他の当該事項を交換するために必要な事項として経済産業省令で定める事項を記載した書面を特許庁長官に提出したときは、前二項の規定の適用については、第二項に規定する書類を提出したものとみなす。
6 特許庁長官は、第二項に規定する期間内に同項に規定する書類又は前項に規定する書面の提出がなかつたときは、第一項の規定による優先権の主張をした者に対し、その旨を通知しなければならない。
7 前項の規定による通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、第二項に規定する書類又は第五項に規定する書面を特許庁長官に提出することができる。
8 第六項の規定による通知を受けた者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に第二項に規定する書類又は第五項に規定する書面を提出することができないときは、前項の規定にかかわらず、経済産業省令で定める期間内に、その書類又は書面を特許庁長官に提出することができる。
9 第七項又は前項の規定により第二項に規定する書類又は第五項に規定する書面の提出があつたときは、第四項の規定は、適用しない。

関連情報:
・優先権書類の提出省略について(優先権書類データの特許庁間における電子的交換について)(特許庁)
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/yusen/das/index.html

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2.マレーシアにおける特許出願の出願書類(パリルート)
2-1.出願書類

 特許法および特許規則にて規定された以下の書面を提出する。
・願書(様式1)
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約
・委任状(様式17)
・陳述書(様式22)(出願人が発明者でない場合)

マレーシア特許法第28条 出願日
(1) 登録官は,出願書類受領の日を出願日として記録するものとする。
ただし,出願書類が次に掲げる事項を含んでいることを条件とする。
(a) 出願人の名称及び宛先
(b) 発明者の名称及び宛先
(c) もしあれば配列表を含む明細書
(d) 1又は複数のクレーム,及び
(e) 出願書類の受領時に所定の手数料が納付されていることを示すもの
(1A) (1)項(d)の目的のため,出願が10個を超えるクレームからなる場合,各請求項について所定の手数料を納付しなければならない。
(2) 登録官が,出願書類の受領時に(1)項(a),(b),(c),又は(d)に基づく要件が満たされていないと認定したときは,登録官は出願人に対し,必要な訂正を所定の期限内に行うよう要求するものとする。
(2A) 登録官は、申請者による申請が(1A)項に基づく要件を満たしていないことを発見した場合、所定の期間内に超過したクレームごとに所定の手数料を支払うよう申請者に要求するものとする。
(3) 出願人が-
(a) (2)項に基づく必要な訂正を提出するための登録官の要求を遵守したときは,登録官は,要求した訂正を受領した日を出願日として記録するものとする。
(b) (2)項に基づく必要な訂正を提出するための登録官の要求に従わない場合,出願は放棄されたものとして扱われるものとする。
(c) (2A)項に基づく超過したクレームごとに所定の手数料を支払うという登録官の要求に従う場合、登録官は(1)項に基づく出願の受領日を出願日として記録するものとする。また、
(d) (2A)項に基づく超過したクレームごとに所定の手数料を支払うという登録官の要求に従わない場合、最初の10個のクレームのみ、(1)項に基づく出願の受領日を出願日として記録するものとする。
(4) 出願人が,実際には出願書類に含まれていない図面に言及している場合は,登録官は出願人に対し,欠落している図面を所定の期限内に提出するよう要求するものとする。
(5) 出願人が(4)項にいう要求を遵守したときは,登録官は,欠落していた図面を受領した日を出願日として記録しなければならず,かつ,出願人がそのように遵守しなかったときは,登録官は,出願書類受領の日を出願日として記録しなければならず,前記図面へは言及しないものとする。
(6) (2)項,(2A)項及び(4)項にいう所定の期限は、第82条に基づいて、登録官は延長してはならない。

マレーシア特許規則5 特許付与出願
(1) 特許付与の出願を行うには,次のものを提出しなければならない。
(a) 願書
(b) もしあれば配列表を含む明細書
(c) 1又は複数のクレーム
(d) 必要な場合は,1又は複数の図面,及び
(e) 要約
(2) 特許付与の出願は,特許登録局に対して行うものとする。

マレーシア特許規則7 特許付与請求
(1) 特許付与請求は,所定の手数料を納付し,登録官によって決定された様式により登録官に対して行うものとする。
(2) 発明の名称には,発明の対象が明確かつ具体的に表示されなければならない。

マレーシア特許規則10 出願人の特許を受ける権利
(1) 出願人が発明者である場合は,規則7(1)に基づく特許の付与のための願書においてその事実を述べなければならない。
(2) 出願人が発明者でない場合は,出願人が当該特許を受ける権利を有することを正当化する旨の陳述書を,規則7(1)に基づく特許の付与のための願書に,登録官が定める様式により,所定の手数料を添えて,添付しなければならない。
(3) (1)及び(2)の規定の適用上,特許代理人を選任する場合,特許付与のための願書には,登録官が定める様式による特許代理人の選任請求書を所定の手数料の支払いとともに添付しなければならない。

2-2.手続言語
 手続言語は、マレー語または英語である。

マレーシア特許規則18 物的要件
(1) 別段の定めがない限り,願書及び付属の陳述書その他の書類は各1通提出するものとする。ただし,登録官は,必要に応じて,1通以上を提出するよう要求することができる。
(1A) 出願書類及び付随する陳述書又は文書は,次の順序で提出する必要がある。
(a) 願書
(b) 明細書
(c) 1又は複数のクレーム
(d) 要約
(e) 必要な場合は,1又は複数の図面,及び
(f) もしあれば配列表
(1B) (1A)で言及されるすべての出願書類及び付随する陳述書又は文書は,新しいページから始めるものとする。
(2) すべての出願書類は,写真,静電印刷法,写真オフセット印刷法及びマイクロフィルムによる直接の複製が可能なように提出されなければならない。
(3) 出願を構成する各紙面のすべてのページに裂け目,しわ及び折り目があってはならず,かつ,片面にのみ記載がなされなければならない。
(4) すべての出願書類は丈夫で白くなめらかな無光沢で耐久力のあるA4の用紙(29.7cm×21cm)を使用しなければならない。
(5) (4)の規定に拘らず,登録官は,A4版以外の用紙の使用を許すことができる。
(6) 各用紙の最低余白は2cmとする。
(7) 明細書,1又は複数のクレーム,及び要約には,頂部中央にアラビア数字で続き番号を付さなければならない。
(7A) (7)に記載される要件に加え,出願に1又は複数の図面及び配列表が含まれる場合,1又は複数の図面及び配列表には,ページ内の上部に,(7)に述べるように,明細書,クレーム,要約とは別の独立した続き番号を付さなければならない。
(8) 出願の本文は,消去不能な暗色で,かつ,少なくとも1.5行の行間スペースを取ってタイプ又は印刷するものとする。ただし,図式記号,化学式,数学式及び若干の文字については,必要な場合,手書きすることが認められる。
(9) 出願の中で,明細書及びクレームについては,各ページの5行ごとに,該当行の左部,余白の右側にアラビア数字で行番号が付されなければならない。
(10) 図面は,耐久性のある,十分な緻密性を有する黒色の,一様な厚みの明確な線と筆法で,着色せずに作成するものとする。
(11) 願書及び付属の陳述書その他の書類は,マレーシア国語又は英語で作成し提出しなければならない。
(12) 配列表は,登録官によって決定された基準及び以下の基準に従って,配列表の複写を含む物理的なコンピューター記録媒体で特許登録局に提出されなければならない。
(13) (12)に基づいて,登録官に提出された物理的なコンピューター記録媒体は,登録官によって決定された要件に準拠する必要がある。

2-3.手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
 外国語書面出願制度は設けられていない。

2-4.優先権主張手続
 優先権証明書およびその翻訳文は、登録官から要求があった場合に提出が必要である。提出期限は、登録官による要求の日から3か月以内である。

マレーシア特許法第27条
(1) 出願は,国際条約に基づき,出願された発明と同一の発明に関して,出願人又はその前任者が,当該国際条約に基づく出願日の直前12箇月の間に行った1又は複数の国内,地域又は国際出願について優先権を主張する宣言を含むことができる。出願人又はその前任者が、その宣言を含む出願の出願日の直前の12箇月の間に,当該国際条約又は条約の締約国において又は締約国のためにした1つ以上の国内出願、地域出願又は国際出願について,国際条約に基づく優先権を主張する宣言を含むことができる。
(1A) (1)に記載した12月の期間は、第82条の規定に基づく延長を受けることができない。
(1B) 出願人が(1)に記載した12箇月の期間中に優先権を主張しなかった場合、優先権は以下の場合に回復することができる。
(a) 優先権の回復の請求が,登録官が定める様式により,所定の手数料の支払いとともに出願人により登録官に対して行われること;及び
(b) (a)に基づく請求が所定の条件を満たすこと。
(2) 出願が(1)に基づく申立を含んでいるときは,登録官は出願人に対し,先の出願の謄本であって,出願先の当局によって,又は,先の出願が国際条約に基づいてなされた国際出願である場合は,世界知的所有権機関の国際事務局によって,正しいものとして認証されたものを,所定の期間内に提出するよう要求することができる。
(3) (1)にいう申立の効果は,同項にいう条約が定めているところによる。
(4) 本条又はそれに付属する規則の要件の何れかが遵守されていないときは,(1)にいう申立は,無効とみなす。

マレーシア特許規則第21条 優先権を主張する申立
(1) 特許法第27条(1)に基づく優先権主張の申立においては、次の事項を記載しなければならない。
(a) 各先願の日付
(b) (2)の規定に従うことを条件として、各先願の出願番号
(c) (3)の規定に従うことを条件として、各先願に付された国際特許分類記号(ある場合)
(d) 各先願が提出された国の名称または、先願が地域出願または国際出願であるときは、当該出願に関して指定された国の名称、および
(e) 先願が地域出願または国際出願である場合は、それが提出された官庁の名称
(2) (1)にいう申立の時に、先願の番号が不明な場合は、その番号は、当該優先権申立を含む出願がなされた日から3月以内に通知されるものとする。
(3) 国際特許分類記号が先願に付されない場合または(1)に述べる申立の時に未だ割り当てられていない場合は、出願人は申立中でこの事実を陳述するものとする。
(4) (1)の規定に従い複数の先願の優先権が主張される場合、それら複数の先願に関する情報を1個の申立において提供することができる。

マレーシア特許規則第22条 先願の謄本
(1) 特許法第27条(2)の規定が適用になる場合、出願人は、登録官による要求の日から3月以内に、各先願の認証謄本を提出しなければならない。
(2) (1)にいう認証謄本が他の出願において既に提出されている場合は、出願人はかかる他の出願に言及することができる。
(3) (1)にいう先願がマレーシア国語または英語以外の言語で作成されている場合は、登録官は、出願人に対して、登録官による要求の日から3月以内に、当該先願のマレーシア国語または英語による翻訳文を提出するよう出願人に求めることができる。

2-5.その他の書類
 出願人が発明者でない場合は、出願人が当該特許を受ける権利を有することを正当化する旨の陳述書を添付しなければならない。また、出願人が代理人を通じて手続を行う場合は、委任状を提出する。

マレーシア特許規則第10条 出願人の特許を受ける権利
(1) 出願人が発明者である場合は,規則7(1)に基づく特許の付与のための願書においてその事実を述べなければならない。
(2) 出願人が発明者でない場合は,出願人が当該特許を受ける権利を有することを正当化する旨の陳述書を,規則7(1)に基づく特許の付与のための願書に,登録官が定める様式により,所定の手数料を添えて,添付しなければならない。
(3) (1)及び(2)の規定の適用上,特許代理人を選任する場合,特許付与のための願書には,登録官が定める様式による特許代理人の選任請求書を所定の手数料の支払いとともに添付しなければならない。

マレーシア特許規則第45B条 手続における代理
(1) 特許法または特許法に基づき制定される規則において別段の定めがなされない限り、または登録官が別段の指示をしない限り、何人も、特許登録局における手続を特許代理人に委任することができ、委任を受けた特許代理人は、本人に代わって手続に出席し、書類を提出し、また書類に署名することができる。
(2) 特許代理人の任命および変更は、委任者が署名した登録官が定める様式により、登録官の定める所定の手数料の支払いとともに、登録官に提出して行わなければならない。

日本とマレーシアにおける特許出願書類の比較

日本 マレーシア
手続言語 日本語 マレー語または英語
手続言語以外の明細書での出願日確保の可否
その特許出願の日から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出しなければならない。
不可
優先期間内に英語(またはマレー語)で出願書類作成しなければならない。また、陳述書や委任状の手配も必要。
優先権主張手続 優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を出願と同時に提出し、最先の優先権主張日から1年4か月以内に特許庁長官に提出しなければならない。 優先権証明書およびその翻訳文は、登録官から要求があった場合に提出が必要である。提出期限は、登録官による要求の日から3か月以内である。

シンガポールにおける特許、意匠年金制度の概要

1.特許権
 シンガポールにおける特許権の権利期間は、出願日(PCT条約に基づく特許出願の場合は国際出願日)から20年である。年金は出願日(PCT条約に基づく特許出願の場合は国際出願日)を起算日として5年次に発生するが、出願が特許査定を受けた場合のみ納付が求められる。したがって、出願から4年以上経過した案件であっても、審査中には年金は発生しない。出願から特許査定まで4年以上を要した場合は、特許登録手続の際に5年次から査定を受けた年までの年金を納付する必要がある。これを累積年金(*)という。その後の年金納付期限日は、出願応当日である。
 特許権の存続期間の延長制度として、特許が認可になるまでにシンガポール知的財産庁(IPOS)側に不合理な遅延があった場合、特許権者の申請により存続期間の延長を認める制度がある。
 また、特許出願に係る発明が市場売買にあたって承認を要する医薬品であり、当該承認を得るまでに不合理な遅延があった場合には、権利期間の延長申請を行うことが可能である。
(特許法第36条、第36A条、第85条、特許規則51、51A)

 シンガポール特許法第29条(1)(d)に規定される他国特許庁の出願の審査結果に基づくシンガポール特許出願(補充審査、外国ルート)の審査手続オプションについても存続期間の延長を認める制度があるが、本オプションによる出願は2020年1月1日以降の出願には適用されない。
(特許法第29条、特許規則43)

 納付期限日までに年金が納付されなかった場合、年金納付期限日から6か月以内であれば年金の追納が可能である。その場合、所定の年金金額に加えて追徴金を同時に納付しなければならない。追納期間を超えて年金納付がされなかった場合、権利は失効するが、納付期限日から18か月以内であれば回復の申請を行うことができる。回復の申請の際には、年金の未納付が特許権者の意図しないものであることを示す必要がある。
(特許法第36条、第39条、特許規則51、53)

 また、追納期間経過までに年金を納めない場合、特許権は失効するが、権利を放棄したい旨を記した書面をシンガポール知的財産庁に提出することにより、積極的に放棄を行うことも可能である。
(特許法第40条、特許規則54)

(*) 累積年金とは、年金納付義務が特許査定前から存在し、かつ特許査定が下されてから納付が開始される場合において、登録の手続の際に納付すべき年金のことを指す。指定された年次から査定された年次までをカバーする年金をまとめて納付し、それ以降は年払いに移行する。なお、査定された時期と年金納付日の関係によっては、指定された年次から査定された年次の次の年次の分までを納付することになる場合もある。

2.意匠権
 意匠権の権利期間は出願日から15年である。シンガポールの意匠は出願日が登録日とみなされるため、登録日も出願日と同日として取り扱われる。まず、意匠が登録になると出願日(登録日)を起算日として5年の権利期間が与えられる、その後、6年次と11年次に年金の納付を行うことで、計15年の権利期間を得ることができる。年金納付期限日は出願応当日(登録応答日)である。
(意匠法第21条、意匠規則35)

 追納制度は特許と同様である。追納期間を超えて年金納付がされなかった場合、権利は失効するが、納付期限日から12か月以内であれば回復の申請を行うことができる。
(意匠法第21条、意匠規則35C)

 また、追納期間経過までに年金を納めない場合、意匠権は失効するが、権利を放棄したい旨を記した書面をシンガポール知的財産庁に提出することにより、積極的に放棄を行うことも可能である。
(意匠法第26条、意匠規則39)

3.年金の納付者
 年金の納付は、国籍は居住地によらず、だれでも可能であるが、シンガポール居住者ではない場合、シンガポール知的財産庁からの通信を受け取れるシンガポール国内の住所の提供が必要である。また、支払いにはシンガポール知的財産庁に登録されたアカウントが必要である。
 年金を誤納付した場合、返金の申請を行うことができる。

オーストラリアにおける庁指令に対する応答期間

 オーストラリアにおける実体審査においては、実体審査の結果、拒絶理由が見出された場合、拒絶理由を指摘する第一回庁指令の日付から起算する所定期間内(以下、「受理期限」)に、全ての拒絶理由を解消し、出願が受理されなければならない。この受理期限までに、全ての拒絶理由が解消されない場合、受理期限の経過後、出願は失効する。庁指令毎に応答期間は定められていない。庁指令の発行とそれに対する応答を受理期限までに複数回行う場合にも、受理期限までに全ての拒絶理由を解消し、出願が受理されなければならない。従って、受理期限までに出願が受理されるように、全ての拒絶理由に対する応答を受理期限より前に十分余裕をもって出願人は提出する必要がある。
(特許法第49条、第49A条)

 実体審査は、審査請求により開始される。審査請求は、標準特許出願(存続期間:20年間)においては出願人が、登録されたイノベーション特許(存続期間:8年間、無審査登録主義)においては特許権者および第三者が行い得る。なお、イノベーション特許出願制度は段階的な廃止が決定されており、2021年8月26日以降は新規の出願ができなくなっているが、存続している登録されたイノベーション特許については、引き続き審査請求可能であり、関係条文が残っている。実体審査において、標準特許出願については出願の受理を、イノベーション特許についてはイノベーション特許が特許要件を満たしていることを決定する審査証明書を、下記期限までに受けなければならない。

 (1)標準特許出願:2013年4月15日より前に審査請求された場合は第一回庁指令の日から21か月、2013年4月15日以降に審査請求された場合は第一回庁指令の日から12か月(2013年4月15日、2012年法律第35号で改正された1990年特許法が施行)。
 (2)イノベーション特許:第一回庁指令の日から6か月。
(特許法第44条、第49条、第67条、第68条、第101B条、第101E条、特許規則9A.4、規則13.4)

 標準特許の付与を受けるためには、付与前の審査請求が必要である。イノベーション特許は、実体審査を経ずに登録されるが、登録後に実体審査を受け、特許要件を満たしていることを決定する審査証明書を受けた後でなければ権利行使をすることができない。イノベーション特許の登録後の審査の請求は、特許権者だけでなく第三者も請求することができる。
(特許法第44条、第101A条)

 標準特許出願では、当該受理期限までに、審査官が提起する全ての拒絶理由を解消し、審査官がその出願を受理できる状態にしないと標準特許出願は失効する。また、イノベーション特許は、所定期間内に特許要件を満たしている旨の「認証(審査証明書)」を取得できないと失効する。
(特許法第101E条、第142条、特許規則9A.4、規則13.4)

 いずれの場合も、特許庁による拒絶に対して裁判所に不服申立をすると、受理期限は延長される。なお、受理期限は、後述する場合を除き、期間延長の請求や料金の支払いをしても延長することはできない。
(特許法第51条、第142条、第223条、特許規則13.4)

 なお受理期限が第一回庁指令の日から21か月の場合(すなわち、2013年4月15日より前に審査請求した場合)、第一回庁指令の日付から12か月以降に庁指令への応答書を提出する際には、応答の遅延による手数料が必要となるが、延長申請は必要ではない。
(特許規則13.4)

 受理期限の延長に関する規定は、受理期限までに全ての拒絶理由を解消し、出願の受理を受けることができなかったことが、故意によるものではないと立証できる場合にのみ適用される。「故意によるものではない」事情としては、例えば、「自然災害のように出願人が制御することができない状況」または「過誤または遺漏」が挙げられる。延長のためには、証拠の提出を伴った詳細な理由を提示しなければならず、証拠の準備および詳細な理由の作成のために費用と労力を要する。
(特許法第223条、特許規則22.11))

 また受理期限までに全ての拒絶理由を解消し、出願の受理を受けることが困難であることが事前に判断できる場合には、受理期限までに分割出願を行い、分割出願において審査を継続することが、出願の権利化を進めるための安全な方法である(イノベーション特許出願についても、分割出願は可能である)。一方、上述の「故意によるものではない」事情がある場合には、受理期限の経過後に延長に関する規定を適用することもできる。この際に申請する延長期間の長さは制限されていない。ただし、受理期限の経過を知った後、延長申請までに不当な遅延がある場合、これは延長申請の却下理由となる。
(特許法第79B条、第79C条、特許規則2.3、規則6A.1、規則6A.2)