マレーシアにおける特許の新規性について
1.新規性の判断基準
マレーシアでは、発明が先行技術により予測されないものである時は、その発明は新規性を有すると判断される。ここでいう先行技術とは、具体的には、以下の(a)、(b)により構成されるものをいう(マレーシア特許法第14条第1項、第2項)。
(a)刊行物、口頭の開示、使用または他の方法によって、出願日もしくは優先日前に、世界のいずれかの場所において開示されたもの。
(b) 先行する出願日または優先日を有する国内特許出願に記載されている内容であって、マレーシア特許法第33Ð条に基づいて公開される特許出願に包含されているもの。
マレーシア特許法 第14条 新規性 (1) 発明が先行技術により予測されないものであるときは,その発明は新規性を有する。 (2) 先行技術は,次に掲げるものによって構成されるものとする。 (a) その発明をクレームする特許出願の優先日前に,世界の何れかの場所において,書面による発表,口頭の開示,使用その他の方法で公衆に開示されたすべてのもの (b) (a)にいう特許出願より先の優先日を有する国内特許出願の内容であって,その内容が前記の国内特許出願に基づいて33D条に基づいて公開される特許出願に包含されている場合のもの[法律A1649:5による改正] |
2.特許の新規性喪失の例外(グレースピリオド)
先行技術の開示が、次に掲げる事情(a)、(b)、(c)に該当している場合は、その開示は無視するものとされ(a disclosure・・・shall be disregarded)、その開示により特許出願は新規性を失わない(マレーシア特許法第14条第3項)。
(a) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の行為を理由とするものであったかまたはその行為の結果であったこと。
(b) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったかまたはその濫用の結果であったこと。
(c) その開示が、本法の施行日に、英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること。
マレーシア特許法 第14条 新規性 (3) (2)(a)に基づいてなされた開示が次に掲げる事情に該当している場合は,その開示は無視するものとする。 (a) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の行為を理由とするものであったか又はその行為の結果であったこと (b) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったか又はその濫用の結果であったこと (c) その開示が,本法の施行日に,英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること (4) (2)の規定は,先行技術に含まれる物質又は組成物の,第13条(1)(d)にいう方法における使用に関する特許性を排除するものではない。ただし,そのような方法におけるその使用が先行技術に含まれていないことを条件とする。 |
上述のグレースピリオドの適用を主張する場合、出願人は、出願時にまたはその他いつでも、上記の各理由によって先行技術としては無視されるべきと考える事項を、付属の陳述書(an accompanying statement)において明らかにしなければならない(マレーシア特許規則20)。
なお、証拠書類を陳述書と併せて提出する必要はなく、証拠の提出に関する具体的な日数制限があるわけでもないが、実務においては、拒絶理由通知を受けた後に補充することが行われている。
マレーシア特許規則 規則20 先行技術との関係で無視されるべき開示 出願人は,出願時に又はその他の何時であれ,自己が認識しかつ特許法第14条(3)に基づき先行技術としては無視されるべきと考える開示事項を述べるものとし,その事実を付属の陳述書において明らかにするものとする。 |
3.審査基準
マレーシア特許審査基準では、新規性に関して、D 7.0「新規性」に記載されている。
審査基準D 7.0冒頭に、前記特許法第14条第1項の条文を引用し、先行技術により予測されない発明は新規性を有する、と記載されている。
なお、先行技術とは、審査基準D 5.1において、マレーシア特許出願の出願日(または優先日)より前に、書面または口頭による説明、使用、またはその他の方法によって公衆に利用可能になったすべてのもの、と定義されている。
以下、審査基準D 7.1~7.9の各項における主な記載内容を紹介する。
3-1. マレーシア特許法第14条第2項に基づく先行技術(審査基準 D 7.1)
新規性の検討において、先行技術文献に記載された先行技術、または異なる実施形態の別個の項目を組み合わせることは認められない。文献内で明示的に否認されている事項や明示的に記載されている先行技術は、その文献に含まれているとみなされ、その範囲や意味を解釈し理解する際に考慮されるべきである。
新規性を評価する際、文献の教示に周知の同等物が含まれていると解釈することは不適切である。つまり、特許請求範囲に従来技術にはないマイナーな特徴(周知の同等物)が含まれている場合、その請求項は新規性があるとみなすことができる。先行技術からの発展が、技術的な問題を解決しない周知の同等物を代用するものである場合、既知のもの、または先行技術からの非発明的な発展については、独占を認めるべきではない。
3-2. 暗黙の特徴またはよく知られた同等物(審査基準 D 7.2)
発明または実用新案の新規性を評価するために先行技術が引用される場合、先行技術に記載された明示的な技術内容と、当業者が開示内容から直接的かつ曖昧さなく推測できる暗黙的な技術内容の両方が含まれる技術内容が使用される。先行技術に明示的または黙示的に開示されている特徴の周知同等物は、先行技術から「直接かつ曖昧さなく導出可能」とはみなされず、したがって、進歩性の評価のためにのみ考慮される。
3-3. 先行技術文献の関連日(審査基準 D 7.3)
新規性を判断するために、先行技術文献は、関連日において当業者によって読まれ理解されたであろうように読まれ考慮される。先行技術の検討における関連日とは、当該先行技術が公開された日を意味する。ただし、関連する先行技術が先の出願である場合を除く。この場合、関連する日は、当該先の出願の出願日、または特許法第14条第2項に該当する場合には優先日となる。
3-4. 先行技術文献における実施可能な開示(審査基準 D 7.4)
実施可能な開示を提供する先行技術文献は、その時点における当該分野の一般的な知識を考慮して、当業者が請求項に係る発明を実施することを可能にするのに十分な詳細さで請求項に係る発明を記載している場合、請求項に係る発明を予見させるものである。先行技術に名称または式が記載されている化学化合物は、先行技術に記載された情報と、先行技術の関連日において利用可能であった追加的な一般知識とによって、当該化合物の調製または天然に存在する化合物の場合には分離が可能とならない限り、自動的に公知とはならない。
3-5. 一般的な開示と具体例(審査基準 D 7.5)
請求項の範囲に含まれる内容が先に開示されている場合、請求項は新規性を欠く。従って、発明を代替案の観点から定義した請求項は、その代替案の一つが既に公知であれば新規性を欠くことになる。対照的に、先行技術の一般的な開示は、通常、より具体的な請求項を予見させることはない。
3-6. 暗黙の開示とパラメータ(審査基準 D 7.6)
新規性の欠如は、通常、先行技術の明示的な開示から明確に明白でなければならない。しかしながら、先行技術が、先行技術の内容およびその教示の実際的な効果に関して審査官に何の疑いも残さない暗黙的な方法でクレームされた主題を開示している場合、審査官は新規性の欠如に関する異議を提起することができる。
このような状況は、特許請求の範囲において、発明やその特徴を定義するためにパラメータが使用されている場合に起こり得る。関連する先行技術では、異なるパラメータが記載されているか、パラメータが全く記載されていない可能性がある。公知製品と特許請求の範囲に記載された製品が他の全ての側面において同一である場合、新規性欠如の異議を生じる可能性がある。しかし、出願人がパラメータの相違について立証可能な証拠を提出できる場合、請求項に係る発明が、指定されたパラメータを有する製品を製造するために必要なすべての必須特徴を十分に開示しているかどうか、を評価する必要がある。
3-7. 新規性の審査(審査基準 D 7.7)
新規性を評価するために請求項を解釈する場合、特定の意図された用途の非特徴的な特徴は無視されるべきである。他方、たとえ明示的に記載されていなくても、特定の用途によって暗示される特徴的な特性は考慮されるべきである。
異なる純度の公知化合物を有するだけでは、その純度が従来の方法によって達成可能である場合、新規性は付与されない。出願人は、新規性を克服するためには、請求項に係る発明の純度は、従来のプロセスでは得られないことを示すのではなく、その代わりに従来公知のプロセスや方法では達成不可能な結果であることを示す必要がある。
3-8. 選択発明(審査基準 D 7.8)
選択発明には、従来技術におけるより大きな既知の範囲では明確に言及されていない個々の要素、サブセット、または部分範囲を主張する発明が含まれる。これらの発明は、先行技術の開示の範囲内、またはそれをオーバーラップするものである。
請求項に係る発明が、具体的に開示された1つの要素リストから要素を選択したものであっても、新規性は立証されない。しかし、2つ以上のリストから選択された要素を、その組み合わせを明示的に開示することなく組み合わせることは、新規性があるとみなされる可能性がある。
従来技術のより広い数値範囲から選択された請求項に係る発明の部分範囲は、以下の場合に新規である。
- 既知の範囲と比較して狭い。そして
- 従来技術に開示されている特定の例および既知の範囲の終点から十分に離れている。
選択発明は、例えば、請求される主題と先行技術の数値範囲や化学式など、オーバーラップする範囲を含むこともできる。数値範囲がオーバーラップする物理パラメータの場合、既知の範囲の終点、中間値、またはオーバーラップする先行技術の具体例が明示されていれば、請求された主題は新規ではない。
先行技術の範囲から新規性を否定する特定の値を除外するだけでは、新規性の立証には不十分である。また、当該分野の当業者が、オーバーラップする領域内での作業を真剣に検討するかどうかも考慮する必要がある。
化学式がオーバーラップする場合、請求された主題が、新たな技術要素または技術的教示によって、オーバーラップする範囲において先行技術と区別されれば、新規性が立証される。
3-9. 数値の誤差範囲(審査基準 D 7.8.1)
関連分野の当業者であれば、測定に関連する数値は、その精度を限定する誤差の影響を受けることを考慮しなければならない。このため、科学技術文献における標準的な慣行が適用され、数値の最後の小数位がその精度のレベルを示す。他の誤差が指定されていない状況では、最後の小数位を四捨五入して最大誤差を決定すべきである。
3-10. リーチスルークレームの新規性(審査基準 D 7.9)
「リーチスルー(Reach-through)」クレームは、生物学的標的に対する製品の作用を機能的に定義することにより、化学製品、組成物または用途の保護を求めることを目的として策定される。これらのクレームは、基本的に明細書の開示事項を超えて拡張され、明示的に記載されていないが、本発明を使用して開発される可能性のある主題を包含する。
多くの場合、出願人は新たに同定された生物学的標的に基づいて化合物を定義する。しかし、これらの化合物が作用する生物学的標的が新しいからといって、必ずしも新しいとは限らない。実際、出願人は、既知の化合物が新しい生物学的標的に対して同じ作用を発揮することを示す試験結果を提示することが多い。その結果、このように定義された化合物に関するリーチスルークレームは、新規性を欠くことになる。
台湾における知財活動に有用なツール・支援策
「台湾における知財活動に有用なツール・支援策」(2022年3月、日本台湾交流協会)
目次
はじめに P.4
第1章 関連当局の職掌 P.7
(台湾において知財支援に携わっている行政機関や関連する非営利法人について、知財関連支援の機能とともに概要を紹介している。)
第1節 行政機関 P.7
(一) 経済部 P.7
(二) 文化部 P.8
(三) 法務部 P.9
(四) 投資台湾事務所 P.9
第2節 その他 P.11
(一) 財団法人工業技術研究院 P.11
(二) 財団法人中衛発展センター P.12
(三) 財団法人情報工業策進会 P.13
(四) 財団法人台湾経済研究院 P.13
(五) 文化コンテンツ策進院 P.14
(六) 台湾知財訓練学院 P.14
第2章 各論 P.16
(各機関による知財支援の形式と内容を、第1章より詳しく説明している。第1節では台湾経済部が提供する費用面に対する支援について、第2節では、台湾経済部工業局や国税局が外国企業・台湾企業に提供している知財権関連の租税優遇措置について、第3節では、台湾の各機関が提供している知財検索データベースや知財情報プラットフォーム、技術マッチングプラットフォーム等の知財リソースの集約化について、第4節では、知的財産局が提供している専利早期審査や商標ファストトラック審査等の制度について、第5節では、台湾当局が制定した知財管理行動規範について、第6節では、台湾当局や非営利法人が専利や商標・著作権等について提供している知財関連の窓口コンサルティングや指導、個別支援について、第7節は、企業や法人からヒアリングで得られた実際の事例に基づき、支援策の運用状況を紹介している。)
第1節 費用面に対する支援(減免・補助) P.19
(一) 専利料減免 P.19
(二) 商標登録出願費用の減免 P.21
(三) 経済部主催の補助プログラムにおける知財経費の補助 P.22
第2節 税制上の優遇措置 P.24
(一) 外国企業に対する租税優遇 P.24
(二) 台湾企業(外国企業の台湾法人を含む)に対する租税優遇 P.33
第3節 知財情報の提供 P.41
(一) 知財関連検索 P.42
(二) 知財情報の発信 P.51
(三) 技術の需給マッチング及び取引プラットフォーム P.62
(四) 研修、セミナー関連情報 P.67
第4節 早期審査及び権利化 P.70
(一) 特許出願早期審査プログラム P.70
(二) 特許審査ハイウェイプログラム P.73
(三) 特許審査ハイウェイ利用サポート審査作業プログラム P.74
(四) 商標登録出願のファストトラック審査 P.78
(五) スタートアップ企業積極型特許審査試行プログラム P.80
第5節 知財管理体制の整備 P.82
(一) 台湾知財管理制度(TIPS) P.82
(二) IP プロモート推進・教育訓練課程 P.91
(三) 知的財産局による営業秘密保護ガイドライン P.91
(四) 情報策進会による営業秘密管理ガイドライン P.93
(五) 専利出願及び管理実務ハンドブック P.94
第6節 知財コンサルティング・権利運用 P.97
(一) 知財(専利・商標)窓口コンサルティングサービス P.97
(二) 中小企業外国出願専利コンサルティング支援事業 P.98
(三) 知財価値アップグレードプログラム P.99
(四) ブランディング・タイワン・プログラム P.101
(五) 産業専利知識プラットフォーム(IPKM)活用指導 P.107
(六) 中小企業知財価値アップグレードプログラム P.109
(七) 文化コンテンツ策進院による支援 P.112
(八) 工研院関連会社(IPIC)による知財管理支援 P.117
(九) 無形資産融資 P.121
第7節 成功事例 P.124
(一) 各支援策から生み出された商品・サービス等の成果 P.124
(二) 台湾技術取引情報サイト(TWTM)を介した知財マッチングの成功事例 P.130
(三) 中小企業 IP コンサルティングセンターの指導を受けた成功事例 P.131
(四) 「研究開発センター設立奨励プログラム」と「ブランディング・タイワン・プログラム」による指導を受けた成功事例 P.131
(五) 科研成果価値創造プログラム(価創プログラム)による指導を受けた成功事例 P.134
第3章 結論 P.137
(第2章で紹介した台湾当局の企業支援やその利用の方法を、知的財産権のライフサイクルに対応させながら説明している。また、企業が、最も効率的な形で最も適切な支援サービスを見つけ出す上で留意すべき原則を紹介している。)
(一) 台湾当局が知財権に関して行っている企業支援 P.137
(二) 知財権の支援を求める原則と方法 P.140
(三) ステップと戦略 P.143
(四) おわりに P.146
別添1 日本語・中国語用語対照表 P.147
別添2 経済部主催の補助プログラムの詳細 P.151
別添3 各検索システムの使用方法 P.177
トピック 目次
(第2章で紹介されているトピックの目次を提示している。)
トピック1 適切な支援サービスを見つけるための手引き P.16
トピック2 各専利検索システムの使い分け P.46
トピック3 台湾技術取引情報サイト(TWTM)を介したマッチングの流れ P.66
トピック4 審査迅速化に関する各プログラムの違い P.77
トピック5 台湾知財管理制度の認証を取得するメリット P.89
トピック6 知財関係の相談体制の使い分け P.119
韓国における審査官との面接(または電話面接)
1.面接(韓国語「면접(面談)」)申請が可能な者
出願人またはその代理人(特許・実用新案審査事務取扱規定(以下「規定」)第17条、韓国特許・実用新案審査基準(以下「審査基準」)第5部第3章10)。
2.面接申請を行うべき場合
面接申請を行うべき場合として、以下のような場合が想定される。
(1) 拒絶理由の把握
代理人(または出願人)が拒絶理由通知書(韓国語「의견제출통지서(意見提出通知書)」)を受けたけれども、拒絶理由を明確に把握することができない場合。
(2) 技術内容の説明
代理人(または出願人)が拒絶理由通知書を受け、意見書提出後に審査官に技術内容を説明する必要があると考えた場合。
なお、審査官が審査中に内容把握が難しいと感じた場合、または内容が理解不能な場合には、代理人(または出願人)に面接要請をすることができるが、通常は電話により説明を求める(規定第17条、審査基準第5部第3章10)。
3.面接申請の手続
面接申請書を作成し、郵便またはFAX等により面接を申し込む。電話で面接申請をすることも可能であり、その場合は審査官と日時等について事前協議をした後、面接までに面接申請書を提出する(審査基準第5部第3章10.1)。
なお、面接が必要である場合、通常はまず審査官と電話で話すことが多い。
4.面接の実施
4-1.面接
面接は、対面、テレビ電話またはオンライン面接で行われる。
(1) 対面面接
対面での面接の場合は、特許顧客相談センター内の審査官面談室を利用することが原則である(審査基準第5部第3章10.2)。
(2) テレビ電話面接
テレビ電話面接は、ソウル事務所のマルチメディアセンター(13階)の遠隔テレビ会議施設と本庁のテレビ会議施設を利用する、またはその他テレビ電話ができる施設を活用する(審査基準第5部第3章10.2)。テレビ電話面接の時間は、2000年度に画像電話面接を施行した際には1時間以内で終了すると制限されていたが、現在では制限がなくなっている。
(3) オンライン面接
特許庁ソウル事務所の他に全国8箇所の知識財産センター(江原、慶南、慶北、光州、蔚山、仁川、全南、釜山)の面接指定場所で出願人(代理人)が審査官とオンライン面接が可能である(韓国特許庁報道資料2017.6.7)。
テレビ電話面接とは異なり、高解像度ウェブカメラや音響システムが採用され、また、資料の提示等も可能となり、審査官に実際に面接して対話しているような環境で面接を行うことが可能である。
4-2.面接可能回数
同一案件については、面接は原則として1回限りとされている(審査基準第5部第3章10.3(5))。
4-3.面接時提示書類
出席者は身分証明書と印鑑(署名に代えることができる)と必要な場合には委任状を持参する(審査基準第5部第3章10.2(3))。
4-4.面接記録
面接後に、審査官は面接記録書を作成し、出願人は内容を確認して捺印する(規定第17条(5)、審査基準第5部第3章10.2(4))。
5.特許行政サービス(“特許審査3.0”)
2015年から、特許行政サービス“特許審査3.0”が実施され、審査着手前の予備審査制度、補正案レビュー制度、一括審査制度が導入された(特許審査3.0の概要)。
5-1.予備審査制度
予備審査は、出願人の申請により、審査着手前に出願人と審査官が面接し、審査官に技術を理解してもらい、正確な審査および早期の権利化をめざすための制度である。出願人が、審査着手前に拒絶理由の可能性と補正による回避の方向について審査官と協議する機会となり、これによって早期の権利化が可能となる制度である(予備審査)。
5-2.補正案レビュー制度
補正案レビュー制度は、出願人が拒絶理由通知書を受領した後、出願人の申請により、拒絶理由通知書に対する応答を提出する前に、補正案を提出し審査官との面接を行う制度である。面接で補正案についての意見交換と補正の方向の議論を行った後、出願人が補正書を提出することで、特許決定の可能性を高め、正確な審査を可能とするための制度である(補正案レビュー)。
5-3.一括審査制度
一括審査制度とは、2015年に導入された制度であって、一つの製品に関連した特許・実用新案登録・商標・デザイン出願について、出願人が望む時期に一括的に審査する制度で、新製品の発売時期前に製品に係る知的財産権ポートフォリオを形成するために、企業の事業戦略に従って望む時期に関連出願を一括的に権利化することを可能とするための制度である(一括審査)。
一括審査制度において、申請が所定の要件を満たす場合、審査着手前に一括審査説明会を開催し、申請人が、担当審査官に一括審査申請出願について説明し、その出願が一つの製品に関連した出願であるということを説明する。
これらの制度が導入されたことにより、従前からの拒絶理由通知書の受領後の面接の他にも、面接を行う機会や方法の選択肢が増えた。
【留意事項】
(1) 面接は必ず代理人または出願人が行わなければならないが、必要に応じて発明者や技術担当者が同行することも可能である(審査基準第5部第3章10.2(3))。
(2) 外国人が面接に同行する場合、パスポートを持参する必要がある。パスポートがないと、特許庁に出入りすることができない(保安業務実務規定(第1編第4章3.訪問者の出入統制))。
(3) 外国人が面接に同席する場合、外国人の発言については通常出願人側において韓国語への通訳をする。
(4) 面接前には、あらかじめ面接内容をまとめておき、面接時に審査官に正確に伝達し、また審査官の意見を十分に聞いて、これに対応することが望ましい(審査基準第5部第3章10.3)。
タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)
1.記載個所
1-1.目次
新規性の審査基準は、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」第1章第3部「3.3.4 第5条に定める実体審査」において、進歩性などとともに記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。
3.3.4 第5条に定める実体審査 3.3.4.1 第5条に定める検討に用いられるための先行技術の規定 3.3.4.1.1 先行技術及びその記載に関する法令及び規則 3.3.4.1.2 先行技術の決定に適用する出願日を決定する場合の原則 3.3.4.2 新規性及び進歩性の審査手順 3.3.4.3 発明の新規性(Novelty)の審査 3.3.4.3.1 新規性の検討手順 3.3.4.3.2 新規性の検討例 |
1-2.日本の審査基準との対応関係
特許・実用新案審査基準(日本)との対応関係は、概ね、以下のとおりとなる。
特許・実用新案審査基準(日本) 第III部第2章 |
特許及び小特許審査マニュアル(タイ) |
第1節 2. 新規性の判断 |
第1章第3部 3.3.4.3.1 新規性の検討手順 |
第3節 2. 請求項に係る発明の認定 |
対応する記載なし(第1章第3部 3.3.4.3に関連記載あり) |
第3節 3.1 先行技術 |
第1章第3部 3.3.4.1.1 先行技術およびその記載に関する法令および規則 |
第3節 3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号) |
対応する記載なし(第1章第3部 3.3.4.3.1(i)に関連記載在り) |
第3節 3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号) |
対応する記載なし |
第3節 3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号) |
対応する記載なし |
第3節 3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号) |
第1章第3部 3.3.4.3.1.i 発明の新規性の検討に用いられる発明と先行技術との比較の指針 |
第3節 3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い |
第1章第3部 3.3.4.3.2 新規性の検討例 |
第3節 4.1 対比の一般手法 |
第1章第3部 3.3.4.3.1新規性の検討手順 |
第3節 4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法 |
対応する記載なし |
第3節 4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法 |
対応する記載なし |
第4節 2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合 |
対応する記載なし |
第4節 3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合 |
対応する記載なし |
第4節 4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合 |
対応する記載なし |
第4節 5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合 |
第5章第1部 6.3 化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査 |
第4節 6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合 |
第5章第1部 6.3 化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査 |
2.基本的な考え方
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)(タイ)第1章第3部3.実体審査 3.3.4.3.1 新規性の検討手順
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、新規性の検討手順が以下のとおり、日本の審査基準と比較してより具体的に記載されている。
1. 各クレームの構成要素を分節する。 2. 第1項で分類した各構成要素の範囲を決定する。 3. 最も関連性の高い先行技術における第2項に関連する構成要素の範囲を決定する。 4. 以下の原則に従って検討を行い、クレームと最も関連性の高い先行技術との間で構成要素の範囲が相違するか比較する。 4.1 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一の場合、当該構成要素は相違しないとみなす。 4.2 クレームの構成要素の範囲が先行技術より広い場合、当該組成又は構成要素は相違しないとみなすが、クレームの構成要素が先行技術より狭い場合、当該構成要素は相違するとみなす。 4.3 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一及び相違の両方がある場合は、当該構成要素は相違するが、相違する部分についてのみ保護を求めることができるとみなす。 5. 構成要素全てについて先行技術と相違する部分があるかあらゆる部分を検討する。相違する部分がある場合、クレームは新規性を有するものとし、相違する部分が無い場合、クレームは新規性を欠いていると判断する。 |
3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、請求項に記載された発明の認定に関する記載は以下のとおりである。
「審査官は、記述されている用語又は文言に常に留意しながら、権利が発生する範囲を規定するクレームにおいて保護を受けたいと希望する発明を解釈する(特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)第1章第3部3.3.4.3)。」
しかしながら、日本の審査基準に記載されているような「請求項に記載された発明の認定」に該当する記載はない。
3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)に対応する記載はないが、クレームの記載と発明の詳細な説明の記載との関係について、以下の点に留意する必要がある。
クレームには、保護を求める発明の技術的特徴を明確かつ簡潔に記載しなければならない(タイ特許法第17条(4))。また、クレームに一般的でない技術用語が記載されている場合には、その定義や説明が、発明の詳細な説明の中に明確に記載されなければならない。
重要なことは、クレームに記載された用語が、発明の詳細な説明の用語と一致していなければならないことである。審査官は、発明の詳細な説明に一語一句の裏付けが存在しない場合、クレームの記載不備を指摘する傾向がある。
明確性要件の詳細については、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」第1章第3部3.3.2.2に記載されている。
4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)(タイ)第1章第3部 3.発明の審査3.3.4.1 第5条に定める検討に用いられるための先行技術の規定3.3.4.1.1 先行技術およびその記載に関する法令および規則
(2) 異なる事項または留意点
先行技術は検討する特許出願の出願日前に存在している技術であると定義されている(「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部3.3.4.1)。また、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部3.3.4.1.1において、先行技術を具体的に次のように説明している。
タイ特許法第6条に規定されているように、先行技術とは以下の発明を意味する。
(1) 特許出願日より前に,国内で他人に広く知られていた発明又は用いられていた発明 (2) 特許出願日より前に,国内外でその主題が文書若しくは印刷物に記載されていたか,又は展示その他の方法で一般に開示されていた発明 (3) 特許出願日より前に,国内外で特許又は小特許の付与を受けていた発明 (4) 特許出願日の18月より前に外国で特許又は小特許が出願されたが,かかる特許又は小特許が付与されなかった発明 (5) 国内外で特許又は小特許が出願され,その出願が国内の特許出願日より前に公開された発明 特許出願日前の12月間に,非合法的に主題が取得されて行われた開示,又は発明者が国際博覧会若しくは公的機関の博覧会での展示により行った開示は,(2)でいう開示とはみなされない。 |
なお、日本の審査基準では「本願の出願時より前か否かの判断は、時、分、秒まで考慮してなされる」が、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には「本願の出願時より前か否かの判断は、時、分、秒まで考慮してなされる」旨に関連するような記載はない。
4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
刊行物公知に関して、タイ特許法第6条(2)に規定されている。しかしながら、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「頒布された刊行物に記載された発明」、「頒布」、「刊行物」、「刊行物に記載された発明」の定義に関連する記載はない。
4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、刊行物の頒布時期の推定に関する記載はないが、タイ特許法第6条(2)に規定されている先行技術を証明する書類について、「特許出願人が審査のために提出した特許文献の第一頁目におけるINID CODE(43)を検討して、(審査前の)特許出願の公開日が本願の出願日前であるか、又は公開された新聞又は公開文書、学術文書等の証拠書類は、本願の出願日前に開示されたか確認する」旨が記載されている(第1章第3部3.3.4.3.1(i))。
4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」に関連する記載はないが、実務上、以下の留意点がある。
出願に対して異議申立を行う場合、実務上、申立人は開示された資料を先行技術として提出することができる。開示された資料には、電気通信回線を通じて公開されたものも含まれる。ただし、そのような先行技術の場合、公開日が明確に示されていることが必要とされる。したがって、公開日が信頼できないと判断した場合、審査官は、当該先行技術を証拠として却下する。
4-1-5.公然知られた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「公然知られた発明」の定義に関連する記載はないが、「公然知られた発明」は、「特許出願日より前に、国内で他人に広く知られていた発明」をいう(タイ特許法第6条(1))。ただし、「公然知られる状態にある発明」が「公然知られた発明」に含まれるのか否かは不明である。
4-1-6.公然実施をされた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部 3.発明の審査 3.3.4.3.1.i 発明の新規性の検討に用いられる発明と先行技術との比較の指針
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には「公然実施をされた発明」の定義に関連する記載はないが、「公然実施をされた発明」は、「特許出願日より前に、国内で用いられていた発明」をいう(タイ特許法第6条(1))。「国内で用いられていた発明」であるか否かを証明する書類として、注文書、納品書、製品の広告宣伝チラシ等が挙げられている(第1章第3部 3.3.4.3.1.i)。
請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意事項については「タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(特殊技術分野を除く)後編」をご覧ください。
タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)
新規性に関する特許法および審査基準の記載個所、基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定については、「タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」をご覧ください。
5.請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1.対比の一般手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部 3.発明の審査 3.3.4.3.1新規性の検討手順
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、「請求項に係る発明と引用発明との対比」ついて、以下のとおり記載されている(第1章第3部 3.3.4.3.1)。
4. 以下の原則に従って検討を行い、クレームと最も関連性の高い先行技術との間で構成要素の範囲が相違するか比較する。 4.1 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一の場合、当該構成要素は相違しないとみなす。 4.2 クレームの構成要素の範囲が先行技術より広い場合、当該組成又は構成要素は相違しないとみなすが、クレームの構成要素が先行技術より狭い場合、当該構成要素は相違するとみなす。 4.3 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一及び相違の両方がある場合は、当該構成要素は相違するが、相違する部分についてのみ保護を求めることができるとみなす。 5. 構成要素全てについて先行技術と相違する部分があるかあらゆる部分を検討する。相違する部分がある場合、クレームは新規性を有するものとし、相違する部分が無い場合、クレームは新規性を欠いていると判断する。 |
また、新規性の判断における「審査官は、独立した二以上の引用発明を組み合わせて請求項に係る発明と対比してはならない」に関連する記載として、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「・・・最も関連性の高い先行技術の一つを選んで、全ての発明の構成要素または工程との比較を実行し、先行技術において全ての本質な内容が開示されているかどうか検討する(第1章第3部 3.3.4.3)」と記載されており、独立した二以上の先行技術を組み合わせて対比を行うことはない。
5-2.上位概念又は下位概念の引用発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部 3.発明の審査 3.3.4.3.1新規性の検討手順、3.3.4.3.2 新規性の検討例
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、「上位概念又は下位概念の引用発明」ついて、以下のとおり記載されている(第1章第3部 3.3.4.3.1)。
4. 2 クレームの構成要素の範囲が先行技術より広い場合、当該組成又は構成要素は相違しないとみなすが、クレームの構成要素が先行技術より狭い場合、当該構成要素は相違するとみなす。 |
なお、タイの審査基準では、「技術常識を参酌することにより、下位概念で表現された発明が導き出される場合には、審査官は、下位概念で表現された発明を引用発明として認定することができる」か否かは不明である。
新規性の検討例(第1章第3部3.3.4.3.2)として、「先行技術として開示されている化合物の化学式が、特許出願された発明のクレームにある化学式より広い場合、範囲の広い化学式はより範囲の狭い化学式の新規性を損なわないため、当該発明の化学式は新規性を有するとみなされる。他方、先行技術として開示されている化合物の化学式が特許出願された発明のクレームにある化学式より狭い場合、狭い化学式はより広い化学式の新規性を損なうため、当該発明の化学式は新規性に欠けているとみなされる。」旨が紹介されている。
5-3.請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「請求項に係る発明の下位概念に、発明の詳細な説明又は図面中に請求項に係る発明の実施の形態として記載された事項がある場合、実施の形態とは異なるものも、請求項に係る発明の下位概念である限り、対比の対象とすることができる」旨に関連する記載はみあたらない。
5-4.対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
6.特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1.作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
6-2.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、用途発明に関連する記載はみあたらない。しかしながら、実務上、医薬品の技術分野において、公知物質の第2医薬用途に基づく医薬品の発明は、医薬品が公知物質であるという理由により、審査官は発明の新規性を否定する。
6-3.サブコンビネーションの発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
6-4.製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第5章第1部6.化学分野の新規性審査 6.3化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「製造工程の特徴を説明した化学製品をクレームとした場合、新規性の審査では、・・・得られた製品から審査を行う。・・・説明された製造工程が、製品の明確に特別な新規の構造又は組成物を生み出すかどうかを検討しなければならない。当業者が、前述の工程が参照文献に開示された製品と異なる構造及び/又は組成物を生み出すと結論づけることができる場合、当該クレームは新規性があるとみなされる。一方、出願人が、当該製品の構造及び/又は組成物が変化したことを示す、当該工程における従来製品とは異なる構造及び/又は組成物を有する製品を生みだす、又は異なる能力を持つ製品を生み出すことを証明できない場合、製造工程が異なる場合であっても、出願する製品が参照文献で開示された製品と比較して、構造的に又は組成において相違がなければ、当該製品は新規性を有するとはみなされない。」旨が記載されている(第5章第1部 6.3.1)。
6-5.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ) 第5章第1部6.化学分野の新規性審査 6.3化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査
(2) 異なる事項または留意点
「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、「既に説明したパラメータ値について、出願する製品と参照文献に開示された製品のパラメータ値を説明することが不可能で、又、双方の製品の間に違いを見つけることができない場合、出願する製品は新規性がないと結論づけることができる。」旨が記載されている(第5章第1部 6.3.1)。
なお、タイの審査基準では、「請求項に係る発明の数値範囲が引用発明の数値範囲に含まれる場合」や、「引用発明が数値範囲の構成を含まない場合」に関連する記載は、見つけられない。
7.その他
7-1.特殊パラメータ発明
特許・実用新案審査基準(日本)には特殊パラメータ発明に関する記載はないが、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)にも、特殊パラメータ発明に関する記載はない。
7-2.留意点
実務上、優先権主張を伴う特許出願等の対応する外国出願がある場合、出願人は、対応する外国出願に対して付与された特許(対応特許)の特許文献とその審査書類 (審査報告書、意見書、拒絶理由通知) を提出する必要がある。その際、特許を受けるために、タイ特許出願の係属中のクレームを、対応特許の特許クレームにあわせるよう補正する必要がある。
なお、審査官が提出された対応特許の審査結果が信頼できないと判断した場合、さらに調査を行うことができる。
一方、タイ特許出願に対応する外国出願がない場合、審査官は、出願人に対し、オーストラリア特許庁またはタイ行政機関のいずれかによって行われる新規性および進歩性に関する調査請求を命令するオフィスアクションを発行する(「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部3.2.1.2および3.2.2)。
インドの特許権侵害訴訟におけるクレーム解釈および特許発明と被疑侵害製品の比較について
「インドの特許侵害訴訟におけるクレーム解釈および特許発明と被疑侵害製品の比較に関する調査報告」(2020年3月、日本貿易振興機構 ニューデリー事務所(知的財産権部))
1.クレーム解釈手法及びその根拠条文/主要判例 P.3
(インド特許法には、特許権侵害を定義する明確な規定およびクレームの解釈手法に係る特定の規定はない。特許権侵害とクレーム解釈について、インド特許法第48条および第10条の規定ならびに主要な判例を用いて解説している。)
1.1.特許侵害とクレーム解釈 P.3
1.1.1.特許権/特許侵害 P.3
1.1.2.クレーム解釈 P.3
1.2.「備える」対「…から成る」の範囲 P.5
1.3.マークマンヒアリング: P.6
1.4.明細書とクレームの関係: P.7
2.特許発明と被疑侵害製品の比較 P.9
(侵害訴訟の立証責任について、該当するインド特許法第104A条および第106条の規定ならびに判例を紹介し解説している。また、特許発明と被疑侵害製品との比較法、クレーム解釈について、判例を用いて解説している。)
2.1.立証責任 P.9
2.2.「製品特許」対「製法特許」 P.9
2.3.特許発明と被疑侵害製品との比較法 P.11
2.4.クレーム解釈:文言解釈or意図的解釈 P.13
3.特許審査段階でのクレーム解釈 P.17
(審査段階と訴訟段階のクレーム解釈を比較し、審査段階では有効とされた特許が訴訟段階によって無効とされる可能性があることを説明している。なお、2020年の報告書のため2021年4月に廃止されたIPABが訴訟段階に含まれている。)
4.侵害訴訟を見越した現地専門家からのアドバイス P.18
(現地専門家からのクレームや明細書の記載、侵害立証の証拠に関する7つのアドバイスを紹介している。)
シンガポールにおける均等論に対する裁判所のアプローチ
1.シンガポールには、均等論に関する確立された理論があるか
均等論の起源は米国であり、被告製品が特許権者のクレームを侵害したか否かを評価するにあたり米国裁判所が取るアプローチである。この法理に基づき、被告製品が、実質的に同一の結果を達成するために、実質的に同一の方法で実質的に同一の機能を果たす場合、被告製品は、特許権者のクレーム範囲内にあたるとみなされる。
米国とは異なり、シンガポールには、制定法であるか判例法であるかを問わず、均等論がない。代わりに、シンガポール裁判所は、クレーム解釈に対して、イギリスで採用されている目的論的アプローチを支持してきた。
実際、Bean innovation Pte Ltd & Anor v. Fexon (Pte) Ltd事件において、シンガポール控訴裁判所は、均等論を暗に拒絶したものと見受けられる。問題の特許は、個人向け郵便受け用のセントラル施錠システムを備えた郵便受けアセンブリ施錠システムに関するものであった。被告の郵便受けも、同一の結果を達成するセントラル施錠システムを有していた。特許権者は、被告製品が特許製品と同一の機能を果たすため侵害があったと主張した。控訴裁判所は、そのアプローチはクレームにおいて述べられていることを無視することと同等であるとして、本件クレーム全体を機能的に解釈する特許権者のアプローチに同意しなかった。
2.シンガポールにおける特許クレーム解釈に対する目的論的アプローチ
クレーム解釈に関する法律は、シンガポール特許法第113条(1)に規定されており、特許により付与された保護範囲は、特許明細書に含まれる説明および図面により解釈された、明細書中のクレームにおいて指定されたものであると解されるものとすると定められている。本条に基づくクレーム解釈に際して、目的論的アプローチが採用される。
目的論的アプローチはまた、Genelabs Diagnostics Pte Ltd v. Institut Pasteur(「Genelabs事件」)において、シンガポール控訴裁判所により支持された。本件特許におけるクレームは、ヒト免疫不全ウイルス2型(「HIV-2」)レトロウイルスに対する抗体との特定免疫反応を生じる18merのアミノ酸配列をカバーするものであった。被告の試験キットは、完全に同一の18mer配列と追加の5つのアミノ酸から成る23mer配列を含んでいた。侵害があったか否かの判断に際して、控訴裁判所は、Improver Corp v. Remington Consumer Products Ltdにおいて定められた精巧なテストにおいて要約された以下のプロトコルの質問事項に導かれた、Catnic Component Ltd v. Hill & Smith Ltdにおいて提示された目的論的解釈の法理を適用した。
(1)この異形は、本発明の作用方法に重大な効果を有するか。
Yesの場合、この異形はクレームの範囲外である。
Noの場合:(2)
(2)このこと(すなわち、この異形が重大な効果を有さない)は、当業者である読者にとって、特許の公開日時点において自明であったか。
Noの場合、この異形はクレームの範囲外である。
Yesの場合:(3)
(3)このこと(すなわち、この異形が重大な効果を有さない)にもかかわらず、当業者である読者は、クレームの文言から、特許権者が、主たる意味の厳格な遵守が本発明の重要な要件であることを意図していたと理解したか。
Yesの場合、この異形はクレームの範囲外である。
控訴裁判所は、5つの追加のアミノ酸は、ニトロセルロース片上における18mer配列にとっての固着剤および安定剤以上のものではないため、23mer配列は、取るに足らない異形であると判断した。よって、裁判所は、被告の診断キットが本件特許を侵害したと判示した。
3.目的論的アプローチの制限
しかし、採用されたクレーム解釈に対する目的論的アプローチには制限がある。
(1)クレームの本質的特徴を説明するために使用される用語が明確で明瞭な用語である場合、これら用語は無視されない。
(2)クレームが平易な意味を有する場合、クレームに異なる別の意味を持たせるように、明細書の本文において使用されている文言に依拠すべきではない。
4.包袋禁反言の法理
米国裁判所によりやはり採用されている包袋禁反言の法理の存在および範囲は、均等論と関係がある。包袋禁反言の法理は、特許審査に際して縮減補正を行う特許権者が、当該補正により譲り渡した主題をカバーすべく自らのクレーム範囲を拡大するために均等論を発動し、特許付与を受けることを禁止するものである。
シンガポールは、包袋禁反言を正式に認めていないが、Genelabs事件において、シンガポール控訴裁判所は、特許クレームの範囲を評価するにあたり、審査経過を考慮に入れた。
Genelabs事件は、シンガポールで再登録された欧州(イギリス)登録特許の侵害認定に関するものであった。本件特許は、特に、HIV-2、その抗原、ならびにヒトHIV-2レトロウイルスに感染したヒト中で発現した抗原の存在にかかるin vitro検出の方法をカバーするものであった。控訴人は、HIV-2を検出する診断キットを製造、販売した。
被告は、自身の診断キットはSIV抗原のアミノ酸配列を使用しているため、本件特許を侵害しないと主張した。この主張の裏付けとして、被告は、欧州特許庁(「EPO」)の通知書に対する特許権者の応答書の一部に裁判所の注意を向けさせ、この応答書に鑑みて、本件特許の範囲はHIV-2に限定されており、SIVを含むべきではないと主張した。
特許によりクレームされた独占の範囲を決定するにあたり、控訴裁判所は、特許権者の応答書を検討し、特許権者の完全な応答書を審査した結果、特許権者の権利をHIV-2抗原のみに縮減し、SIV抗原を排除するようなものは応答書には一切ないと結論付けた。よって、裁判所は、被告の診断キットが本件特許を侵害したと判示した。
まとめると、シンガポールにおいては、正式な包袋経過禁反言の法理はないが、裁判所は、特許クレームの範囲を決定するにあたり、審査経過を検討する用意があると考えられる。
タイ特許庁の特許審査体制
記事本文はこちらをご覧ください。
インド特許庁の特許審査体制
記事本文はこちらをご覧ください。
台湾における特許審査ハイウェイ(PPH)の利用
【詳細】
海外での早期権利取得を支援する特許審査の運用に関する調査研究報告書(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)III-3【台湾】
(目次)
III 調査結果(PPH)
3 外国におけるPPHの利用
【台湾】 P.229
V.調査結果の考察と概括
3 概括表
【台湾】 P.284