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ベトナムにおける特許制度のまとめ-実体編

1.特許制度の特徴
(1) 特許の種類
 ベトナム知的財産法(以下、「知的財産法」という。)では、「発明特許」と「実用新案特許」について規定されている。
 また、「発明の保護適格」について、新規性、進歩性、産業上の利用可能性が同法第58条に要件として記載されている。それらの新規性、進歩性、産業上の利用可能性の要件は、それぞれ第60条、第61条、第62条に規定されている。
 「発明特許」は、これらの3つの要件すべてが必要だが、「実用新案特許」は「新規性」と「産業上の利用可能性」の2つが要件となっている。

(2) 出願の変更
 発明特許出願から実用新案特許出願、実用新案特許出願から発明特許出願、といった出願種別の変更は、方式拒絶査定、登録査定、および拒絶査定の受領前であれば可能である。これについては、知的財産法第115条第1項(dd)、科学技術省令01/2007/TT-BKHCN(2016年改正)の17.3に規定がある。

(3) 秘密保持審査
 ベトナム国内で完成した発明は、ベトナムで特許(発明特許・実用新案特許)出願を行い、ベトナムの出願日から6か月の期間を経過した場合にのみ、外国において産業財産権保護登録出願を行うことができる。ただし、秘密特許の認定がされた場合には、外国において産業財産権保護登録出願を行うことができない。政府決議122/2010/NĐCPにより政府決議103/2006/NĐ-CPに修正・追加された「第3章a 秘密特許」に基づく規定である。なお、秘密特許は法律第 07/2022/QH15(2023年1月1日施行)の第4条第12a項に定義されている。

(4) コンピュータプログラム自体
 特許出願審査基準では、コンピュータプログラムは、知的財産法第59条に規定する「発明として保護されない主題」の一つとして説明されている(5.8.2.5 コンピュータプログラム)。

(5) 遺伝資源の出所開示
 科学技術省令01/2007/TT-BKHCN(2016年改正)第23.11条および法律第07/2022/QH15(2023年1月1日施行)の第100条第1項第dd1号には、特許出願における遺伝資源および伝統的知識の出所開示要件が定められている。発明がその遺伝資源・伝統的知識に直接的に基づく場合には、遺伝資源または伝統的知識、あるいはその両方に関する発明登録申請書には、発明者または出願人がアクセスした遺伝資源または伝統的知識、あるいはその両方の出所に関する説明資料を添付しなければならない。

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2.発明の保護対象
 「発明」とは、自然法則を利用して特定の課題を解決するための、製品または方法の態様に基づく技術的解決手段である(知的財産法第4条第12項)。

 特許審査ガイドラインでは、人間および動物の診断や治療の方法などは、知的財産法第59条に規定する「発明として保護されない主題」の一つであることを明確にしつつ、診断や治療を行うための器具や設備並びに物質や材料は、すべて特許の対象であるとして説明されている(5.8.2.9 人間・動物のための病気予防・診断・治療の方法)。

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3.特許を受けるための要件
積極的要件:一般的特許要件(知的財産法第58条)
 「発明特許」と「実用新案特許」に関して、知的財産法第58条に「保護適格条項」があり、「発明特許」出願については、知的財産法第60条に規定する「新規性」を満たすか、知的財産法第61条に規定する「進歩性」を満たすか、知的財産法第62条に規定する「産業上の利用可能性」を満たすかという3つの要件がある。また「実用新案特許」出願については、「新規性」と「産業上の利用可能性」そして「通常の知識によらないもの」が要件であり、「発明特許」に対して求められる「進歩性」は要求されない。

消極的要件:発明として保護されない主題(知的財産法第59条)
(1) 発見、科学的理論、数学的方法
(2) 精神活動の実行、飼育動物の訓練、ゲーム、事業遂行を行うための計画、企画、規則または方法、コンピュータプログラム
(3) 情報の提示
(4) 審美的特徴のみの解決
(5) 植物品種、動物品種
(6) 植物および動物の生産のための本質的に生物学的性質の方法であって、微生物学的方法以外のもの
(7) ヒトまたは動物のための疾病予防、診断および治療

手続的要件(知的財産法第100条、第101条、第102条)
 産業財産権登録出願に関する一般的な要件(第100条)、出願の単一性要件(第101条)、および特許出願に関する記載要件(第102条)を満たしていなければならない。

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4.職務発明の取り扱い
 知的財産法第86条に職務発明制度の規定がある。企業に雇用される従業員が職務上の発明をした場合、特許を受ける権利は、資金や開発手段を提供した企業に帰属するのが原則である。

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5.特許権の存続期間
(1) 存続期間
 発明特許の場合、保護証書発行日に権利が発生し、出願日より20年で権利満了、実用新案特許の場合、保護証書発行日に権利が発生し、出願日より10年で権利満了となる(知的財産法第93条第2項および第3項)。

(2) 特許権の存続期間の延長制度
 なし

(3) 審査の遅延による存続期間の延長補償
 なし

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韓国における特許制度のまとめ-手続編

1.出願に必要な書類
(1) 特許出願をする場合には、特許出願書、明細書、必要な図面及び要約書等を提出しなければならない(特許法第42条第1項及び第2項)。
(2) 個別委任状と包括委任状のうち、どちらか一つを提出しなければならない。

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2.記載が認められるクレーム形式
(1) 認められるクレーム形式
・多項制を採択しており、独立項と従属項を区分し記載する。
・プログラムの場合、“プログラムを記録した記録媒体”、“記録媒体に保存されたコンピュータプログラム(アプリケーション)”の形式が認められる。

(2) 認められないクレーム形式
・請求項の従属項の記載方法に関して、2以上の項を引用した請求項は、その請求項の引用された項が、更に2以上の項を引用する方式(マルチ-マルチクレーム)で記載することができない(特許法第42条第8項及び特許法施行令第5条第6項)。
・コンピュータプログラム言語自体、コンピュータプログラム自体、単純な情報が提示されたデータ、信号等は認められない。

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3.出願の言語
 特許出願に関する書類は原則として韓国語で記載しなければならない(特許法施行規則第11条)が、明細書及び図面(図面中の説明部分に限る。)については、英語で記載して提出することができる(特許法第42条の3第1項)。
 ただし、英語で特許出願をした場合には、出願日(最優先日)から1年2か月になる日まで明細書及び図面(図面中の説明部分に限る。)の韓国語翻訳文を提出しなければならない(特許法第42条の3第2項)。

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4.グレースピリオド
 特許を受けることができる権利を有する者の発明が、特許を受けることができる権利を有する者によって公知等がされている場合、または特許を受けることができる権利を有する者の意思に反して公知等がされた場合には、その日から12か月以内に特許出願をすれば特許出願された発明に対して新規性及び進歩性を適用する際に、その発明は公知等がされていないものとみなす(特許法第30条)。

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5.審査
(1) 実体審査
 特許出願は、審査請求があるときに限り審査する。審査請求は、誰でもすることができ、審査請求期間は出願日から3年(2017年2月28日以前に特許出願された場合には5年)である(特許法第59条)。

(2) 早期審査(優先審査)
 特許出願が出願公開後、第三者の特許出願された発明の無断実施が認められた場合、または以下の事由に該当する出願について優先審査を申請することができる(特許法第61条)。
 1)防衛産業分野の特許出願
 2)緑色技術(温室ガス減縮技術、エネルギー利用効率化技術、清浄生産技術、清浄エネルギー技術、資源循環および親環境技術(関連融合技術を含む)等、社会・経済活動の全過程にわたり、エネルギーと資源を節約して効率的に使用し、温室ガス及び汚染物質の排出を最小化する技術を言う)と直接関連した特許出願
 2の2)人工知能またはモノのインターネット(IoT)等、第4次産業革命と関連した技術を活用した特許出願
 3)輸出促進に直接関連する特許出願
 4)国家または地方自治団体の職務に関する特許出願
 5)ベンチャー企業の認定を受けた企業の特許出願
 5の2)技術革新型中小企業として選定された企業の特許出願
 5の3)職務発明補償優秀企業として選定された企業の特許出願
 5の4)知識財産経営認証を受けた中小企業の特許出願
 6)「科学技術基本法」による国家研究開発事業の結果物に関する特許出願
 7)条約による優先権主張の基礎となる特許出願
 7の2)特許庁が「特許協力条約」に基づく国際調査機関として国際調査を遂行した国際特許出願
 8)特許出願人が特許出願された発明を実施しているか、実施準備中である特許出願
 9)電子取引と直接関連した特許出願
 10)特許庁長が外国の特許庁長と優先審査することに合意した特許出願
 11)優先審査の申請をしようとする者が特許出願された発明に関して調査・分類専門機関のうち、特許庁長が定めて告示した専門機関に先行技術の調査を依頼した場合であって、その調査結果を特許庁長に通知するよう、該専門機関に要請した特許出願
 12)65歳以上の者、または健康に重大な異常がある者がした特許出願
※IP5 PPH、グローバルPPH、PCT-PPH等が利用可能である。

(3) 出願を維持するための料金:不要

関連記事:「韓国における審査官の職権再審査制度」(2018.10.02)
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6.出願から登録までのフローチャート
(1) 出願から登録までの特許出願のフローチャート

(*) 海外からの出願は、特許法第15条第1項の「交通が不便な地域」に相当するため、2回の延長が可能である。しかし、韓国国内からの出願は「交通が不便な地域」に相当する場合と相当しない場合があり、相当しない場合は1回しか認められない(特許法第15条第1項、実用新案は実用新案法第3条で準用、審判便覧第13編第2章第3節)。

(2)フローチャートに関する簡単な説明
i) 特許決定(査定)の謄本を送達するまで明細書または図面を自発補正することができるが、意見提出通知書(拒絶理由通知)が送達された場合には、意見書の提出期間にのみ補正をすることができる(特許法第47条第1項)。
ii) 意見提出通知書(拒絶理由通知)に対する意見書提出期限は、通知書の発送日から2か月であるが、4か月までの期間延長を申請することができる。期間延長は1か月単位で4回まで、または、必要であれば4か月を超過しない範囲で2か月以上を一括して申請することができる。さらにまた、やむを得ない事由の発生で4か月を超過して指定期間の延長を受けようとする場合には、その事由を記載した疎明書を添付して延長申請をする必要がある(特許法施行規則第16条、特許・実用新案審査事務取扱規定第23条)。
iii) 拒絶決定(査定)謄本の送達を受けた後、補正書を提出し再審査を請求すること(特許法第67条の2)、補正をせずに拒絶決定(査定)不服審判を請求することができる(特許法第132条の17)。再審査を請求した後、再拒絶決定(査定)を受けた場合には、再審査を請求することができず、補正なく拒絶決定(査定)不服審判を請求することができる。
iv) 拒絶決定(査定)謄本の送達を受けた日から3か月以内に再審査請求または拒絶決定(査定)不服審判を請求することができ、上記期間は30日ずつ2回の期間延長を申請することができる(特許法第15条第1項、同第186条第5項、特許法施行規則第16条第4項、同第16条第5項)。
v) 拒絶決定(査定)不服審判の棄却審決の後、審決の謄本の送達を受けてから30日以内に、拒絶されていない請求項のみを分離して出願(分離出願)することができる(特許法第52条の2)。
vi) 特許決定(査定)の謄本を受け取ったら、謄本を受けた日から3か月以内に最初の3年分の特許料を納付しなければならない(特許法第79条、特許料等の徴収規則第8条)。特許料納付期間が経過した後、6か月以内に追納することができるが、追納期間内にも納付しなければ特許出願は放棄したものとみなす(特許法第81条第3項)。

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関連記事:「韓国での特許出願における拒絶理由通知に対する対応」(2013.10.08)
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[権利設定前の争いに関する手続]

7.拒絶決定(査定)に対する不服
 特許出願の拒絶決定(査定)に不服がある場合に、決定謄本の送達を受けてから3か月以内に特許審判院に拒絶決定(査定)不服審判を請求することができる(特許法第132条の17)。

関連記事:「韓国における特許出願の拒絶査定不服審判請求時の留意点」(2023.02.14)
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8.異議申立制度
 権利設定前の異議申立制度はない。しかし、特許出願が公開された後であれば、その特許出願に関して誰でも拒絶理由に該当し特許されることができないという旨の情報を証拠とともに特許庁長に提供することができる(特許法第63条の2)。

9.上記7の審決に対する不服
 特許審判院の審決に対して不服がある場合には、特許法院に訴え(審決取消訴訟)を提起することができる(特許法第186条第1項)。
 また、特許法院の判決に不服がある場合には、判決が法令に違反したことを理由に大法院へ上告することができる(特許法第186条第8項)。

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[権利設定後の争いに関する手続]

10.権利設定後の異議申立
 誰でも、特許権の設定登録日から登録公告日後6か月になる日まで、その特許が特許取消事由に該当する場合、特許審判院に特許取消申請をすることができる(特許法第132条の2第1項)。
 特許取消申請の事由は、産業上の利用可能性、国内外の頒布された刊行物等による新規性、進歩性及び先願主義の違反等がある(特許法第132条の2第1項各号)。

関連記事:「韓国における特許取消申請について」(2020.11.12)
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11.設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度(無効審判)
 利害関係人または審査官は、設定登録された特許権が無効事由に該当する場合、特許審判院に無効審判を請求することができる(特許法第133条第1項)。
 無効事由:特許法第25条、第29条、第32条、第36条第1項から第3項、第42条第3項第1号または第4項、第33条第1項、第44条、第47条第2項前段、第52条第1項、第53条第1項、条約違反

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関連記事:「韓国における特許無効審判での証拠の取扱い」(2017.12.28)
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12.権利設定後の権利範囲の訂正審判
 特許権者は、請求の範囲を減縮する場合、誤って記載された事項を訂正する場合、または明確に記載されていない事項を明確にする場合に、明細書または図面について特許審判院に訂正審判を請求することができる(特許法第136条第1項)。
 特許取消申請、特許無効審判または訂正の無効審判が特許審判院に係属中である場合には、訂正審判を請求することができないが(特許法第136条第2項)、このときは訂正請求制度を利用して、補正が可能である(特許法第132条の3、第133条の2、第137条第3項及び第4項)。

関連記事:「韓国における補正および訂正に関連する制度ならびにその利用実態」(2018.01.16)
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13.その他の制度
・特許決定(査定)の謄本の送達を受けた日から3か月以内の期間内(特許料納付前)に分割出願が可能である(特許法第52条第1項第3号)。
・特許拒絶決定(査定)不服審判の審判請求が棄却された場合、審決の謄本の送達を受けた日から30日以内に、その特許出願の一部を新たな特許出願とする分離出願制度がある(特許法第52条の2)。

関連記事:「韓国における特許分割出願制度の活用と留意点」(2022.12.08)
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中国における特許制度のまとめ-手続編

1.出願に必要な書類
 特許出願するときは、願書、説明書(明細書)およびその概要(要約書)、権利要求書(特許請求の範囲)等の文書を提出する(専利法第26条)。
 優先権を主張して特許出願した場合は、最初の出願日(優先日)から16か月以内に、優先権主張の基礎とされた特許出願書類の副本を提出しなければならない(専利法第30条)。

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2.記載が認められるクレーム形式
(1) 認められるクレーム形式
 製品、方法、特定の方法による製品、装置、システム、プログラムの記録された記憶媒体

備考:2017年4月1日から、中国特許審査指南の改訂版の運用が開始され、媒体クレームが認められるようになった。コンピュータプログラムそれ自体のプログラムクレームは依然として認められていない。

(2) 認められないクレーム形式
 プログラム、データ、信号

関連記事:「中国におけるコンピュータプログラムに関わる特許出願」(2022.01.18)
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3.出願の言語
 すべての書類は中国語で提出する必要があり、中国語でない場合は不受理となる(実施細則第3条、第39条)。外国語出願制度はない。

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4.グレースピリオド
 出願日(優先権を享有する場合には、優先日を指す。)前6か月以内に以下のいずれかに該当する場合、新規性を喪失しない(専利法第24条、審査指南第1部分第1章6.3)。
(1) 国が緊急事態又は非常事態の情況下で、公共の利益のために初めて公開された場合 (2) 中国政府が主催する又は認める国際展示会で初めて展示された場合
(3) 規定の学術会議、あるいは技術会議上で初めて発表された場合
(4) 他者が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合

関連記事:「中国における特許出願における新規性喪失の例外について」(2022.11.10)
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5.審査
(1) 実体審査
 実体審査:あり
 審査請求制度:あり
   審査請求期間:出願日(優先日)から3年以内
   請求人:審査請求を行うことができるのは出願人のみである。

関連記事:「日本と中国における特許審査請求期限の比較」(2015.06.19)
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(2) 早期審査(優先審査)
 早期審査:あり
 次に掲げる事由のうちいずれかに該当する専利出願又は専利復審事件は、優先審査を請求することができる。
(一) 省エネルギー・環境保護、次世代情報技術、バイオ、ハイエンド設備製造、新型エネルギー、新材料、新型エネルギー自動車、スマート製造などの国の重点発展産業に関係する場合。
(二) 各省級および設区市級人民政府が重点的に奨励している産業に関係する場合。
(三) インターネット、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの分野に関わり、かつ技術又は製品の更新速度が速い場合。
(四) 専利出願人または復審の請求人が、実施の準備を完了している、またはすでに実施している、若しくは他人がその発明創造を実施中であることを証明する証拠を有している場合。
(五) 同じ主題について、初めて中国で専利を出願し、その他の国または地域に対しても出願する場合で、中国が最初の出願である場合。
(六) 国の利益または公共の利益にとって重要な意義があり、優先審査の必要があるその他の場合。

 利用可能なPPH:通常型、MOTTAINAI、PCT-PPH

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(3) 出願を維持するための料金:不要

6.出願から登録までのフローチャート
(1) 出願から登録までの特許出願のフローチャート

(2) フローチャートに関する簡単な説明
(A) 実体審査を請求する時および実体審査に入る旨の通知を受領した日より3か月以内に、特許出願を自発的に補正することができる。書類の補正は、元の明細書および特許請求の範囲に記載した範囲を超えてはならない(専利法第33条、実施細則第51条)。

(B) 1回目の拒絶理由通知には、4か月以内に応答しなければならない。2回目の拒絶理由通知には2か月以内に応答しなければならない(専利法第37条、審査指南第2部分第8章4.10.3、専利審査指南第2部分第8章4.11.3.2)。これらの期間は、手数料を支払うことで、1か月単位で2か月まで1回のみ延長することができる(審査指南第5部分第7章4.2)。書類の補正は、元の明細書および特許請求の範囲に記載した範囲を超えてはならない(専利法第33条、実施細則第51条)。

(C) 特許査定の通知の日から2か月以内に、登録手続を行わなければならない。期限内に登録手続をしなかった場合は、権利を放棄したものとみなされる(実施細則第54条)。登録手続を行う際には、特許登録料、公告印刷料および特許付与年の年金を納付しなければならない(実施細則第97条)。

(D) 発明専利権の期限は20年とし、実用新案専利権の期限は10年、意匠専利権の期限は15年とし、いずれも出願日から起算する。
 発明専利の出願日から起算して満4年、かつ実体審査請求日から起算して満3年後に発明専利が付与された場合、国務院専利行政部門が専利権者の請求に応じて、発明専利の権利付与プロセスにおける不合理的な遅延について専利権の期間の補償を与える。ただし、出願人に起因する不合理的な遅延は除外する。
 新薬の発売承認審査にかかった時間を補償するために、中国で発売許可を得られた新薬に関連する発明専利について、国務院専利行政部門は専利権者の請求に応じて専利権の存続期間の補償を与える。補償の期間は5年を超えず、新薬発売承認後の専利権の合計存続期間は14年を超えないものとする(専利法第42条)。

関連記事:「中国における特許出願制度概要」(2020.03.17)
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関連記事:「日本と中国の特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較」(2019.10.08)
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関連記事:「(中国)応答期間の延長」(2012.08.21)
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[権利設定前の争いに関する手続]

7.拒絶査定不服審判請求
 審査部の決定に不服の場合は、国務院専利行政部門に対して、審判請求をすることができる(専利法第41条)。

関連記事:「中国における特許・実用新案・意匠(中国語「専利」)の拒絶査定不服審判制度概要(中国語「専利復審請求制度」)」(2021.05.20)
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8.権利設定前の異議申立
なし

関連記事:「中国知財法と日本知財法の相違点」(2022.11.22)
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9.上記7.の判断に対する不服申立
 国務院専利行政部門による判断の結果に不服がある場合は、中級人民法院に相当する北京知識産権法院に訴えることができる。
 さらに、北京知識産権法院の判決に不服がある場合には、北京市高級人民法院に上訴できる。

関連記事:「中国における知的財産裁判所(知識産権法院)」(2016.03.11)
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関連記事:「中国における知的財産法院の最新動向」(2016.05.26)https://www.globalipdb.inpit.go.jp/trend/11218/

関連記事:「中国における最新の審判・裁判に関する情報の比較分析」(2015.03.20)
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[権利設定後の争いに関する手続]

10.権利設定後の異議申立
なし

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11.設定された特許権に対して、権利の無効を申し立てる制度
 専利権(特許権・実用新案権・意匠権)の無効を請求する者は、何人も、国務院専利行政部門に対して、無効宣告請求書を提出することにより無効宣告を請求することができる(専利法第45~47条)。
 請求できる期間:いつでも可能
 無効理由:専利法2、5、9、19.1、22、23、25、26.3、26.4、27.2、33、および専利法実施細則20.2、43.1

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12.権利設定後の権利範囲の修正
 無効審判において、特許権者は、特許請求の範囲を訂正することができる。
 ただし、訂正の目的は、請求項の削除、技術方案の削除、請求項の更なる限定および明らかな誤記の訂正に限られる(「専利審査指南」2017.04.01施行)。明細書・図面の訂正はできない(実施細則第69条)。
 日本の訂正審判に相当する制度は存在しない。

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関連記事:「中国における特許権取得後の訂正」(2014.06.03)
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13.その他の制度
 実用新案と意匠について、権利の有効性に関する評価報告書制度がある(実施細則第56条)。

中国における特許制度のまとめ-実体編

1.特許制度の特徴
(1) 特実同日出願
 中国では、同一の発明創造には1つの専利権のみが付与されるが、同一の出願人が同一の発明創造について特許と実用新案を同日に出願する場合(以下、「特実同日出願」という。)、出願人は、先に取得した実用新案専利権が終了する前に当該実用新案専利権を放棄すれば、特許出願について権利付与を受けることができ(専利法第9条第1項)、特許出願の内容を適切に補正すれば、特許と実用新案の両方を維持することもできる(専利実施細則第41条、専利審査指南第二部分第3章6.2.1.1)。

関連記事:「中国における特許/実用新案の同日出願について」(2021.05.25)
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(2) 出願の変更
 特許から実用新案、実用新案から特許、といった出願種別の変更はできない。

関連記事:「中国における特許出願制度概要」(2020.03.17)
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(3) 秘密保持審査
 いかなる機関、組織又は個人も、中国国内で完成した発明を外国に出願する場合、先ず国務院専利行政部門による秘密保持審査を受けなければならない(専利法第19条)。

関連記事:「中国で完成した発明に関する秘密保持審査制度」(2013.04.16)
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(4) コンピュータプログラム自体
 「コンピュータプログラム自体」は特許を受けることができないが、コンピュータソフトウェア関連発明等は特許可能な発明として認められ得る(専利法第2条第2項、専利審査指南第二部分第1章4.2、同第9章序文第4段落)。

関連記事:「中国におけるコンピュータプログラムに関わる特許出願」(2022.01.18)
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関連記事:「中国におけるコンピュータソフトウェア関連発明等の特許保護の現状および出願実務について」(2019.01.08)
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関連記事:「中国におけるコンピュータソフトウェア発明およびビジネスモデル発明の特許性」(2018.07.03)
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(5) 遺伝資源の出所開示
 遺伝資源に依存して完成した発明創造に関する特許出願は、出所を開示する必要がある(専利法第5条第2項、第26条第5項)。

関連記事:「中国特許出願における遺伝資源の出所開示の制度」(2014.01.28)
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2.発明の保護対象
 発明とは、製品、方法又はその改善に対して行われる新たな技術方案を指す(専利法第2条第2項)。

関連記事:「中国知財法と日本知財法の相違点」(2022.11.22)
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 コンピュータソフトウェアに関する発明、ビジネスモデルに関する発明については、発明の従来技術からの改良部分に関係しているものが方法である場合、専利法第2条、同第5条、同第22条、同第25条の要件を満たさず特許性を有さない。

関連記事:「中国におけるコンピュータソフトウェア発明およびビジネスモデル発明の特許性」(2018.07.03)
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 医薬分野の発明は製品と方法の2つのクレームで保護される。製品には化合物および医薬組成物を含み、方法には製造方法および医薬用途が含まれる。

関連記事:「中国における医薬用途発明の保護制度」(2018.02.22)
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3.特許を受けるための要件
 専利法第2章に特許権付与の要件が規定されている。

積極的要件:特許要件(専利法第22条)
 新規性、創造性(進歩性)、実用性(産業上利用可能性、自然法則利用性)を具備していなければならない。

消極的要件:不特許事由(専利法第25条)
(一)科学上の発見
(二)知的活動の規則及び方法
(三)疾病の診断及び治療方法
(四)動物と植物の品種
(五)原子核変換方法及び原子核の変換方法を用いて取得した物質
(六)平面印刷物の図案、色彩又は両者の組み合わせによって作成され、主に表示を機能とする設計

手続的要件(専利法第26条、専利法実施細則第15条から第22条)
 記載要件を満たしていなければならない。

関連記事:「中国における特許出願制度概要」(2020.03.17)
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関連記事:「中国における特許・実用新案の実用性要件」(2012.10.09)
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4.職務発明の取り扱い
 当該部門の職務を遂行して、又は主に物質・技術条件を利用して完成した発明創造は職務発明創造とする(専利法第6条)。
 専利権を付与された部門は、職務発明創造の発明者又は創造者に対し奨励を与える。発明創造が許諾され、実施された後は普及・応用の範囲及び獲得した経済効果に応じて発明者又は創造者に合理的な報酬を与える(専利法第15条)。

関連記事:「中国における職務発明制度」(2014.01.14)
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関連記事:「中国における職務発明の奨励金、報酬についての法律問題」(2014.02.03)
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関連記事:「中国における日本企業および外国企業が直面している問題-職務発明規程の作成と見直し」(2015.05.08)
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関連記事:「中国における職務発明条例(草案)と科学技術成果転化促進法(改正)の解説」(2016.04.13)
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5.特許権の存続期間
(1) 存続期間
 発明専利権の存続期間は、出願日から20年である(専利法第42条第1項)。
 実用新案専利権の存続期間は、出願から10年である(専利法第42条第1項)。
 意匠専利権の存続期間は、出願から15年である(専利法第42条第1項)。

(2) 特許権の存続期間の延長制度
 中国で発売許可を得られた新薬に関連する発明専利において、新薬の発売承認審査にかかった期間について、国務院専利行政部門は専利権者の請求に応じて専利権の存続期間の補償を与える。補償の期間は5年を超えず、新薬発売承認後の専利権の合計存続期間は14年を超えないものとする(専利法第42条第3項)。

(3) 審査の遅延による存続期間の延長補償
 発明専利の出願日から起算して満4年、かつ実体審査請求日から起算して満3年後に発明専利が付与された場合、国務院専利行政部門が専利権者の請求に応じて、発明専利の権利付与プロセスにおける不合理的な遅延について専利権の期間の補償を与える。ただし、出願人に起因する不合理的な遅延は除外する(専利法第42条第2項)。

関連記事:「中国における専利(特許・実用新案・意匠)の存続期間」(2015.05.26)
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関連記事:「中国における医薬品等の特許権の延長登録制度と関連制度」(2016.02.19)
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シンガポールにおける特許制度のまとめ-手続編

1.出願に必要な書類
 シンガポールでは特許出願時の手続の方法が「特許方式マニュアル(Patents Formalities Manual)」にまとめられており、必要な書類は「特許様式」として定められている。

・特許付与申請時-「特許様式1(Patents Form1)」を使用(特許方式マニュアル2.1.2)
 必要書類は、明細書、クレーム、要約、図面および配列リスト(あれば)である(特許方式マニュアル2.1.1項を参照)。

・シンガポールでのPCT国内段階への移行時-「特許様式37」を使用(特許方式マニュアル3.1.3)
 原出願の言語が英語の場合、提出が必要な書類はない。

 英語以外の言語による出願の場合、明細書、クレーム、要約の英語翻訳および翻訳の確認書(特許方式マニュアル3.4.1参照)の提出が必要である。必要な文書の詳細は、特許方式マニュアル3.4に記載されている。

関連記事:「シンガポールにおける特許出願制度概要」(2019.7.25)
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関連記事:「シンガポールの特許関連の法律、規則、審査基準等」(2021.5.11)
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2.記載が認められるクレーム形式
(1) 認められるクレーム形式
 シンガポールの法律は、特許性のある発明のリストを提供しておらず、特許性に対する特定の限定的な除外のみを提供している。特許法第13条(1)は、特許性のある発明は、新規性、進歩性、および産業上の利用可能性の基準を満たす発明であると述べている。
 製品の構造、組成、または、製造または製造方法以外の手段を参照して、製品を正確に説明できない場合は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが許可される(特許審査ガイドライン2.72~2.75を参照)。
 ソースコードに加えて、技術的特徴を有するソフトウエアに対するクレームは許可されている(特許審査ガイドライン8.34(f)を参照)。

(2) 認められないクレーム形式
 許可されないクレームには、発見、科学理論と数学的方法、美的創造、精神的行為または計画、および情報の提示に関連するものが含まれる(特許審査ガイドライン8.9~8.34)。ただし、このリストはすべてを網羅しているわけではない。
 さらに、医療の方法は特許法第16条「産業上の利用」(2)に規定されている除外項目であるため、医療の方法のクレームは許可されない。
 また、特許法第13条(2)では、公開や活用を通じて、攻撃的、不道徳、または反社会的行為を助長すると一般に予想される発明は特許性がないとされる。

関連記事:「シンガポールにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.5.23)
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3.出願の言語
 英語のみが出願言語として認められる。英語以外の言語の場合は、2か月以内に証明付き英訳文を提出する必要がある。(シンガポール特許方式マニュアル2.2.40)

4.グレースピリオド
 出願の前に発明が開示されている場合、通常、新規性は失われているとみなされる。ただし、特許法第14条(4)に基づき、出願日から12か月前のグレースピリオドの期間内に、発明者によって直接的にまたは間接的に行われた発明の開示は、新規性を評価する目的において除外される。除外されるための特定の条件は、前記第14条で説明されている。

 直接の国内出願またはパリ条約出願の場合、「出願日」はシンガポールでの特許出願の実際の出願日を指す(もしあったとしても、最も早い優先権主張日ではない)。PCT国際出願の国内移行出願の場合、国内段階の出願に割当てられる「出願日」は国際出願日となる。
 法改正の施行日は2017年10月30日であるため、第14条(4)(e)に基づく現行の規定が適用されるためには、開示が同施行日以降になされたものでなければならない。

関連記事:「シンガポールにおける特許新規性喪失の例外」(2019.9.05)
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5.審査
(1) 実体審査
 実体審査には3つの主要なルートがある。第1は、出願人が、調査と審査を組み合わせて請求をする。第2は、出願人が、対応する出願、対応する国際出願または関連する国内段階出願の調査結果に基づいて審査請求をする。第3は、出願人が、シンガポール出願の元となるPCT国際出願の調査結果に基づいて審査請求をする。ただし、出願が特許法第86条(3)に基づいてシンガポールで国内段階に入った国際出願である場合にのみ適用される。(特許法第29条(b)および(c))。

(2) 早期審査(優先審査)
 ASEAN特許審査協力(ASPEC)、特許審査ハイウェイ(PPH)およびシンガポール知財ファーストトラック(SG IP Fast Track)を介して、早期審査を請求できる(特許様式11)。ASPECはインダストリー4.0の特許出願を優先し、最初のオフィスアクションが6か月以内に発行される。また、シンガポールIPファーストトラックでは、最短6か月以内に登録される(特許法式マニュアル7.1-7.2、7.4)。

詳細については次のURLを参照のこと。
https://www.ipos.gov.sg/about-ip/patents/how-to-register/acceleration-programmes

(3) 出願を維持するための料金:不要

関連記事:「シンガポールの庁指令に対する応答期間」(2019.10.17)
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関連記事:「シンガポールにおける特許審査ハイウェイ(PPH)の利用」(2016.1.19)
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関連記事:「シンガポールにおける特許審査基準関連資料」(2016.2.9)
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6.出願から登録までのフローチャート
 出願から登録までの特許出願のフローチャート(特許方式マニュアルp34(図1 国内出願)、p45(図2 国内移行)参照)

 出願人は、調査および審査について、①調査の請求後、実体審査の請求、②調査および実体審査の同時請求、③所定の特許庁に行われた対応外国出願またはPCT出願の調査結果に基づく実体審査の請求の3つのオプションから1つを選択できる(特許法第29条(1))。
①の場合、出願人に調査報告書が送付され、出願人はこれを基に審査請求を行う。その結果、書面による審査官の見解が送付され、出願人は、通知から5か月以内に補正等により応答することができる(特許規則46(4))。
②の場合、出願人に調査報告書および書面による審査官の見解が送付され、①と同様に、出願人は、通知から5か月以内に補正等により応答することができる。
③の場合、出願人に書面による審査官の見解が送付され、①と同様に、出願人は、通知から5か月以内に補正等により応答することができる。

 審査官は上記の応答に基づいて審査報告書を作成し、登録官は、審査報告書または補充審査報告書が未解決の拒絶理由を含む場合には、特許出願を拒絶する旨の通知(Notice of Intention to Refuse)を発行する(特許法第29A条(3))。

 出願人は、特許出願を拒絶する旨の通知を受けた場合、再審理(review of examination report)を請求できる(特許法第29A条(4))。再審理の請求は、通知の日から2か月以内に拒絶理由を覆すための書面を提出し、明細書の補正を含めることができる(特許法第29B条(1)~(4)、特許規則46A(2))。

 再審理でも拒絶理由が解消されない場合、出願拒絶の通知(Notice of Refusal of application、日本の拒絶査定に相当)が発行される(特許法第29B条(5)(b)(ii))。

図1 シンガポール国内出願フロー

図2 国際出願シンガポール国内移行フロー

関連記事:「シンガポールにおける特許出願制度概要」(2019.7.25)
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[権利設定前の争いに関する手続]
7.拒絶査定に対する不服

 シンガポール知的財産庁(以下、「IPOS」という。)には登録官の拒絶査定を不服とする査定不服審判制度はない。
 なお、以下の9.にしめすとおり、裁判所への上訴は可能である。

8.権利設定前の異議申立
 書面による意見で提起された拒絶査定に対して異議申立する制度はないが、2021年9月13日の改正により「第三者情報提供制度(Third Party Observations)」が導入され、第三者が係属中(出願公開後特許付与前)の特許出願に対し、その特許性についての情報を公式に提供できる(特許法第32条、特許規則45A、特許法式マニュアル6.5)。

9.上記7.の判断に対する不服申立
 登録官の決定に不服がある場合、裁判所へ上訴することができる(特許法第90条)。

[権利設定後の争いに関する手続]
10.権利設定後の異議申立

 シンガポールでは、特許出願または登録特許に対する異議申立の制度はない。

11.設定された特許権に対して、権利の無効を申立てる制度
a)無効申立が可能な者
 何人も、シンガポール特許法第80条(1)に記載のいずれかの理由により、IPOSに対して発明の特許の無効化または取消しを求める申立てを行うことができる。

b)時期および手順(特許法第83条、特許規則80-85、88、88B)
 特許の無効を求める申請書(特許様式35)は、特許付与日以降いつでも提出可能であり、申請理由の陳述とともに提出する必要がある。申請書を提出する場合、申請書および申請理由の陳述の両方のコピーを特許権者に送付する。特許権者は、申請に異議を唱える場合、3か月以内に反論文(様式HC6)を提出しなければならず、そのコピーを申請者に送付する(特許規則80)。IPOSは、反論を受け取った後、最初の事件処理会議を開催し、事件処理の実施方法を議論する。申請者は、反論を受け取ってから3か月以内に申請を裏付ける証拠を示す法定宣言書を提出し、権利者にコピーを送付する。権利者は、申請者の法定宣言書を受け取ってから3か月以内に特許付与を裏付ける証拠を示す法定宣言書を提出し、同時に写しを申請者に送付する。その後2回目の事件処理会議が開催され、事件処理の進め方について議論する。必要に応じて、登録官は、指示の日から2か月以内に再審査を要求するように再審査請求(特許様式36)の提出を指示することができる。再審査が請求された場合、再審査報告書に照らし、3回目の事件処理会議が開催される。聴聞が行われる場合があり、その場合、聴聞の決定に対して不服がある場合、決定後6週間以内に上訴することができる。

関連記事:「シンガポールにおける特許無効手続に関する統計データ」(2018.2.20)
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12.特許付与後の再審査請求制度
 特許が付与された後、いつでも、特許の明細書の再審査を登録官に依頼することができる。提起された取消申請に正当な理由がある場合、登録官は特許を取り消すことができる。(特許法第38A条、特許規則第52A)

13.権利設定後の権利範囲の訂正
 権利者は特許様式17とともに訂正の理由をサポートする文書を提出することにより、特許の付与後に明細書を訂正することができる。訂正を行う場合には、訂正に至る状況およびそれを裏付ける証拠を含む訂正の理由を完全に説明する十分な証拠を提出する必要がある。なお、訂正の申請に不当な遅延が認められる場合、権利者は修正が遅れた理由を提出することを求められる(特許方式マニュアル9.3)。

 訂正の承認は、登録官による裁量権の行使に依存する。訂正申請は、2か月間、異議申立のために公示される。登録官は通常、第三者から異議が申立てられていない場合、訂正を許可する裁量権を行使する(特許法第38条、特許規則52)。

 ただし、特許の有効性が争点となる可能性のある手続が裁判所または登録官の下で係属中である場合、上記手続による訂正は許可されない(特許法第38条(2))ので、特許法第83条に基づいて訂正を行う必要がある。

14.その他の制度
 補充審査ルートは、2020年1月1日以降の出願日を有する特許出願では利用できなくなった。

ロシアにおける特許制度のまとめ-実体編

1. 特許制度の特徴
1-1. 特許と実用新案の同日の出願について
 連邦民法第4法典第1383条2項により、同一の出願人、同一の優先権を有する2つの特許(一方が発明のもので、他方がこれと同一の実用新案のもの)を取得することはできない。第二特許は、出願人が第一特許を放棄した後にのみ付与される。
 先の特許は,連邦民法第4法典第1394条に基づき,他方の出願に基づくその特許付与に関する情報の公告日に終了する。発明または実用新案の特許付与に関する情報と先の特許の終了に関する情報とは,同時に公表されるものとする(連邦民法第4法典第1383条第2項)。

1-2. 出願の補正
 審査中であっても最終的な付与または拒絶の決定がなされる前に、出願人は、発明の本質を変更しない限り(「新規事項」を導入しない限り)、出願内容の手続補正書を提出する権利を有する。
 補正が、当初提出された明細書および請求項に欠けている新規事項を請求項に含んでいる場合には、発明の本質が変更された(「新規事項」が導入された)とみなされる。
 連邦民法第4法典1390条第2項に規定された予備調査機関が認可されていないため、予備調査に基づく実用新案登録出願の自発的な補正は認められない。補正は、審査官の要求があった場合にのみ可能であり、補正は審査官の要求に沿ったものでなければならない(連邦民法第4法典第1378条第1項、第1390条第2項)。加えて、補正は、実用新案の本質を変更しない場合のみ、すなわち、「新規事項」の特徴を導入せず、係属中の独立請求項を他の独立請求項で補充したり、置き換えたりせず、最初に開示された技術的結果に関連しない新しい技術的結果の記載や言及さえもしない場合のみ、認められる(連邦民法第4法典第1378条第2項)。

 オフィスアクションに対して、反論と補正の両方を提出することができるが、自発的な補正は、以下の段階においてのみ提出することができる。

  • 特許協力条約出願のロシア国内段階に入るとき(4月以内に提出可能)。
  • 実体審査請求時
  • 最初のオフィスアクションまたは通知に添付された情報調査報告書を受領したとき。
     補正は、新規事項の有無を確認し、新規事項がある場合は認められない。すべての補正は出願期間中のみ認められ、特許請求の範囲に対する付与後の補正(明らかな誤りやタイプミスの訂正を除く)は認められない。

1-3. 秘密特許の審査
 連邦民法第4法典第1401条第3項により、発明出願の審査の過程で、その出願に秘密情報が含まれていることが判明した場合、その出願は秘密に分類され、秘密発明の出願とみなされることになる。
 ロシアで発案された発明または実用新案の出願に関する秘密保持審査手続は、政府によって承認された規則により定められている。
 外国人または外国法人からの出願を秘密として分類することは認められていない。

参考資料:
「ロシア連邦政府令第928号」(2007.12.24)
https://new.fips.ru/documents/npa-rf/postanovleniya-pravitelstva-rf/postanovlenie-pravitelstva-rf-ot-24-12-2007-g-928.php#pravila

1-4. コンピュータ・プログラムそれ自体の特許性
 コンピュータ・プログラムそれ自体は、特許を受けることができない(連邦民法第4法典第1350条第5項)。しかし、コンピュータ関連発明に用いられる慣例の主題(方法、装置)は、クレームされた事項の具体的実施形態が明らかとなり、独立請求項に記載された構成全体によって奏される技術的効果との因果関係により特徴付けられている場合、潜在的に認められる可能性がある。
 特許出願の審査を規定する特許規則(2016年)には、法定除外(特許を受けることができない発明)をさらに説明するために、いくつかの基準と事例が示されている。特に、同規則には、発明としてクレームされた主題の特許適格性の審査に関する基準が示されている。
「49. クレームされた発明が特許適格性基準に適合しているかどうかの確認は、以下の分析を含むものとする。

  • クレームされた発明の特徴
  • クレームされた発明が解決した問題
  • クレームされた発明が提供する結果
  • 特徴と結果の間の因果関係
    (…中略…)発明の意図を反映した総称(すなわち、発明の名称)または請求項に記載された発明の特徴のすべてが、これらの(除外された)主題の特徴である場合、または発明の特徴のすべてが技術的ではない結果をもたらす場合、請求項に係る発明は発明ではない主題に関連していると認識されなければならない。」

参考資料:
「規則第49項」(2016.05.25)
https://new.fips.ru/documents/npa-rf/prikazy-minekonomrazvitiya-rf/prikaz-ministerstva-ekonomicheskogo-razvitiya-rf-ot-25-maya-2016-g-316.php#I
※2021年3月31日付でリバイスされている。

 さらに、特許出願審査基準(2018年版)には、クレームされた発明の特許適格性および特許保護から除外されるものへの分類を確認するためのさらなる指針および事例が示されている。例えば、同審査基準は以下を示す;
 コンピュータ・プログラム(オペレーティングシステムおよびソフトウェアパッケージを含む)は、任意の言語(プログラミング言語)およびソースコードやオブジェクトコードを含む任意の形態で記述できる。コンピュータ・プログラムは著作権の対象であり、文学の著作物として保護される(…中略…)。
 特許出願においてコンピュータ・プログラムに関する情報を発明と認める形で記載した場合は、連邦民法第4法典第1350条第5項に違反する。この場合、クレームされた主題は特許の保護を受ける資格がないとされ、特許の付与を拒否する根拠が存在することになる。
 しかしながら、特許出願は、技術的効果を得ることを目的とし、コンピュータのハードウェア(物質的手段)を用いて実行される信号(物質的対象)を用いた一連の命令として記述されたコンピュータ・プログラムのアルゴリズムに関連している場合がある。この場合、クレームされた発明の主題は技術的解決手段にあるとして、特許性のさらなる審査(進歩性等の審査)に進む根拠が存在することになる。

参考資料:
「審査基準 第V章 2.4.34-2.4.36」(2018.12.27)
https://new.fips.ru/to-applicants/inventions/ruc-iz.pdf#page=158

関連記事:
「ロシアにおける特許のクレームの変更」(2014.06.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/6179/
「ロシアにおける第一国出願義務」(2016.05.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11172/
「ロシアにおけるコンピュータ・プログラムの保護」(2014.05.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/5935/
「ロシアにおけるコンピュータソフトウェア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16387/

2. 発明の保護対象
 連邦民法第4法典第1350条によると、製品(特に装置、物質、微生物株、植物または動物の細胞培養)または方法(有形的手段を用いて有形的対象に影響を与えるプロセス)に関するあらゆる分野の技術的解決は、発明として保護されなければならない。
 発見、科学理論、数学的方法、ゲームのルール、知的または事業活動のルール、コンピュータソフトウェア、情報の提示に関するアイデア(各場合とも「それ自体」)は特許されない。
 植物品種、動物品種(育種の成果)、およびそれらの生産のための生物学的方法は、特許の保護から除外される。ただし、微生物学的方法および微生物学的方法により得られた製品は保護される。
 連邦民法第4法典第1351条によると、装置に関する技術的解決策のみが実用新案として保護される。
連邦民法第4法典第1349条4項によると、人間のクローンを作る手段、人間の胚系統の細胞の遺伝的完全性を修正する手段、産業・商業目的での人間の胚の使用、公共の利益や人道・道徳の原則に反する解決策は、特許されない。

関連記事:
「ロシアにおける特許および実用新案登録を受けることができる発明とできない発明」(2020.12.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/19643/

3. 特許を受けるための要件
 特許を受けるためには、新規性、進歩性、産業上の利用可能性に関する特許要件に適合する必要がある(連邦民法第4法典第1350条)。
 実用新案については、産業上の利用可能性と新規性の要件のみが適用される。実用新案に進歩性が適用されないこととバランスをとるため、新規性の審査では本質的な特徴のみが考慮される。ロシアの特許実務によれば、本質的な特徴とは、他の本質的な特徴との組み合わせにより実用新案による技術的結果の達成(課題の解決)を保証する特徴であり、本質的な特徴がなければ技術的結果を達成できないものである。請求項に含まれる非本質的特徴は、実用新案の新規性を考慮する際に考慮されない(連邦民法第4法典第1351条)。

関連記事:
「ロシアにおける特許・実用新案出願制度の概要」(2019.11.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17907/
「ロシアにおける特許および実用新案の特許事由と不特許事由」(2015.11.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/9166/

4. 職務発明の取扱い
 法律には、発明に関する特許を受ける権利は発明者に帰属するとの一般原則が定められている。ただし、使用者のための労務または特定の仕事を遂行する過程でなされた従業員の発明の場合、従業員と使用者の間の労働契約等の契約に別の定めがない限り、この権利は使用者に帰属することが、法律により定められている(連邦民法第4法典1370条3項)。
 従業員は、両者間の合意により別の定めがある場合を除き、職務発明を発案したことを書面で使用者に通知しなければならない(連邦民法第4法典第1370条第4項)。

 従業員が使用者に通知した日から6月以内(2020.12.22 N456-FZで「4月以内」から「6月以内」に改正された)に、使用者が当該発明についてロシア特許庁に特許出願を行わず、職務発明について特許を受ける権利を第三者に譲渡せず、情報についての秘密保持の要件を従業員に通知しなかった場合、当該発明について特許を受ける権利は、従業員に返還される。この場合、使用者は、単純な通常実施権または契約もしくは紛争が生じた場合には裁判によって合意された報酬を特許権者に支払うことを条件に、特許権の存続期間中、自己の事業で職務発明を使用する権利を有する(連邦民法第4法典1370条4項)。

 職務発明の特許を譲り受けた使用者は、早期に特許を終了することを決定した場合、その旨を従業員に通知し、従業員の求めに応じて特許を無償で譲渡する義務がある。
 使用者が特許の早期終了を発明者に通知しなかった場合、従業員は使用者に対して、使用者の費用負担で特許回復の申立を行うよう強制する訴訟を提起する権利を有する。
 使用者が職務発明の特許を取得した場合、情報を秘密にすることを決定した場合、特許を受ける権利を第三者に譲渡した場合、または自己の管理責任により出願について特許を取得できなかった場合、従業員は報酬を受ける権利を有する。報酬の額およびその支払方法は、従業員と雇用主との間の契約、または紛争の場合には裁判所により定められる(連邦民法第4法典第1370条第4項)。

 職務発明、実用新案、工業意匠に対する報酬の支払い率や手続きを政府が規定できることが法律により定められている。これらの料金および手続きは、使用者と従業員が報酬に関する合意を結んでいない場合に適用される(連邦民法第4法典第1246条第5項)。

 従業員が使用者の財政的、技術的またはその他の物質的資源を利用して創作した発明であるとしても、雇用義務の履行または使用者からの特定の任務の遂行に関連していないものは、職務発明とはならない。そのような発明の特許を受ける権利は、従業員に帰属することになる。この場合、使用者は、ロイヤルティ不要の非独占的ライセンスで必要に応じ発明を使用する権利、または当該発明の創出に関して使用者が負担した費用の補償を要求する権利をオプションとして有する(連邦民法第4法典1370条5項)。

関連記事:
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/
※添付マニュアルの11頁に職務発明について説明が記載されている。

5. 特許権の存続期間
5-1. 存続期間
特許権の保護期間は、連邦民法第4法典第1363条第1項により以下のとおりである:

  • 発明の特許は出願日から20年
  • 実用新案は出願日から10年

5-2. 特許権の存続期間の延長制度
 販売・マーケティングについて規制当局による許可を得る必要がある医薬品または農薬に関連する発明の保護期間は、5年を超えない範囲で延長することができる。このような発明の特許期間の延長は、許可を得た製品の使用を特徴づける特許発明の特徴の組合せを含む請求項を有する補足特許証明書が発行されることで達成される(連邦民法第4法典1363条2項)。
 実用新案特許の延長はできない。

5-3. 審査の遅延による存続期間の延長補償
 そのような補償は存在しない。

関連記事:
「ロシアにおける特許制度」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13867/

ブラジルにおける特許制度のまとめ-実体編

1. 特許制度の特徴

(1) 同日出願の特許および実用新案
 ブラジル産業財産庁(INPI)による、産業財産法第6条の現在の解釈によると、異なる特許(または実用新案)に同一の主題が含まれていてはならない。また実用新案も特許とみなされるため、INPIの産業財産法第6条の現在の解釈によれば、同じ出願人が同じ日に同一の主題について(複数の)特許出願または実用新案出願を行った場合、二重保護として拒絶される。
 一方、産業財産法第7条に規定されているように、もし異なる出願人が同一の特許出願または実用新案出願を行った場合、特許を受ける権利は、発明または創出をした日に拘りなく、最先の出願日を証明した者に与えられる。
 これに対して、異なる出願人が同じ日に同一の特許出願または実用新案出願をした場合については規定がないことから、訴訟が行われる可能性があることに留意されたい。

(2) 出願変更
 ブラジルの規範指示第30/2013号第31条では、文書の管理処理中に、特許出願を実用新案出願へ、または、実用新案出願を特許出願へ、変更することが認められている。この変更の手順は「性質の変更(“change of nature”)」と呼ばれ、出願人が自発的に要求するか、審査中にINPIが提案する。

(3) 公開制度
 産業財産法第30条に規定されるように、特許出願は、出願日からまたは優先日がある場合は最先の優先日から18月の間は秘密にしておくものとし、その後は、第75条に定める事情の場合を除き、公開される。
 なお、産業財産法第6条(4)に規定されるように、発明または実用新案の創作者は、その名称を表示して特定するものとするが、ただし、創作者は、自身が創作者であることを表示しないよう請求することができる。

(4) コンピュータプログラムの特許性
 産業財産法第10条(V)に規定されるように、コンピュータプログラムそれ自体は、発明又は実用新案とみなされないため特許されない。

 コンピュータに実装されている産業的創作(処理または製品と関係した処理)であって、コンピュータプログラムの書き方だけに関係せず、先行技術に存在する課題を解決するものは、発明とみなされる可能性がある。
 なお、コンピュータプログラムそれ自体は、ブラジルの1998年付け第9,609号ソフトウェア法で保護される。

(5) 遺伝資源の出所開示
 産業財産法第24条に規定されるように、出願の対象の実施にとって不可欠である生物学的材料が、産業財産法第24条に規定する様式で記載をすることができず、かつ、公衆が入手することのできないものである場合、明細書は、INPIにより認可されまたは国際協定で指示された機関に、その材料を寄託することによって補充されなければならない。

関連記事:
「ブラジルにおける知的財産の保護方法に関する基本情報」(2020.02.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18254/
「ブラジルの知的財産権の法令および審査基準へのアクセス方法-ブラジル産業財産庁(INPI)ウェブサイト」(2019.08.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17652/
「ブラジルの特許・実用新案関連の法律、規則、審査基準等」(2019.02.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16536/
「ブラジルにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16389/

2. 発明の保護対象

 産業財産法は、特許される主題について定義していないものの、産業財産法第10条において特許されない主題について定義している(1. 特許制度の特徴 1-4. コンピュータプログラムの特許性、参照)。

関連記事:
「ブラジルにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16389/

3. 特許を受けるための要件

 産業財産法第8条に規定されるように、新規性、進歩性および産業上の利用可能性の要件を満たす発明は、特許を受けることができる。
 また、産業財産法第11条、第13条、第15条に規定されるように、新規性の要件を満たすためには、発明が、出願日前にどこかの国で公知にされたものである先行技術に含まれていない必要がある。進歩性の要件を満たすためには、発明が、当業者によって先行技術に基づいて明白な方法で導き出されない必要がある。産業上の利用可能性の要件を満たすためには、発明が、何らかの種類の産業で使用または製造される必要がある。
 また産業財産法第9条、第14条に規定されるように、実用物品またはその一部は、産業上の利用可能性を有し、その使用または製造における機能的改良をもたらす新規の形態または構造を有し、かつ、進歩性を有している場合は、実用新案として特許を受けることができる。ここでいう「進歩性」は、「小さな進歩性」と実務上解釈される。
 なお、産業財産法第12条に規定されるように、発明または実用新案の開示は、その特許出願の出願日または優先日前12月間に、次の者によってなされた場合は、技術水準の一部であるとみなされない。
(I)発明者によるもの
(II)産業財産庁(INPI)によるものであって、発明者から取得した情報に基づきまたは発明者が行った行為の結果として、発明者の同意を得ることなくなされた特許出願を公開したことによるもの、または
(III)第三者によるものであって、発明者から直接若しくは間接に取得した情報に基づきまたは発明者が行った行為の結果として生じたもの。

関連記事:
「ブラジルの知的財産権の法令および審査基準へのアクセス方法-ブラジル産業財産庁(INPI)ウェブサイト」(2019.08.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17652/
「ブラジルにおける特許制度の運用実態」(2015.12.01)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10060/

4. 職務発明の取り扱い

 職務発明の取り扱いは、産業財産法第88条~93条に規定されている。産業財産法第88条に規定されるように、発明または実用新案が、ブラジルにおいて履行される雇用契約であって、研究若しくは発明のための活動を目的としているものに起因している場合、または従業者の雇用目的である役務の性質に起因している場合は、その発明および実用新案は排他的に使用者に帰属する。一方、産業財産法第90条に規定されるように、従業者が開発した発明または実用新案が、雇用契約に関係なく、かつ、使用者の資源、資産、資料、原料、施設または器具を使用したことの成果でない場合は、当該発明または実用新案は専ら従業者に属する。

関連記事:
「ブラジルにおける職務発明制度」(2015.10.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/license/8614/

5. 特許権の存続期間

 産業財産法第40条によると、出願日から起算して、発明特許は20年の期間、実用新案特許は15年の期間、存続する。
 特許権の存続期間の延長を請求する規定は存在しないものの、審査遅延による存続期間の延長補償の規定が産業財産法第40条補項に存在する。産業財産法第40条補項によれば、特許存続期間は、特許付与日から起算して、発明特許の場合は10年未満、実用新案特許の場合は7年未満であってはならない。ただし、INPIが、係属中であることが確認されている訴訟または不可抗力のために、出願の実体審査をすることができなかったときは、この限りでない
 しかしながら、ブラジル最高裁判所は、2021年5月12日に産業財産法第40条補項に規定されている、上述した特許付与日から10年の特許存続期間の最低期間の提供は違憲である旨の判決を下した。したがって、この判決の公表日以降、発明特許は、一般規則に基づいて出願日から20年期間存続する。換言すれば、現在、審査遅延による特許権の存続期間の延長補償はない。
 なお、最高裁判所は、上記判決において、下記の2つの例外を除いて、追加の期間が既に付与されている全ての特許が保護され、価値が保たれ、かつ有効となることを決定した。
 例外1. 2021年4月7日までに提起された訴訟により、既にその存続期間が争点となっている特許。
 例外2. 医薬品、製薬プロセス、医療機器などの健康関連製品や健康関連材料について、出願から10年を超える期間で付与された特許。この例外に該当する特許の場合、有効期限は出願から20年に短縮される。例えば、2006年5月26日に出願され、2020年12月29日に付与された医薬品等に関する特許の場合、判決前には付与から10年後の2030年12月29日までとされた存続期間が、判決により2026年5月26日までと短縮される。
 これらの2つの例外のいずれかに該当する特許の存続期間は、それぞれの出願日から20年に短縮される。

関連記事:
「ブラジルにおける特許出願から特許査定までの期間の現状と実態に関する調査」(2018.01.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14432/
「ブラジルにおける特許・実用新案制度概要」(2019.10.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17820/

関連情報:
「医薬品などの特許の延長期間が失効、ブラジル最高裁が判断」(2021.05.14)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/05/8712377a965a3f88.html

フィリピンにおける特許制度のまとめ-実体編

1. 特許制度の特徴

(1)同日出願の特許および実用新案
 知的財産法第111条に規定されるように、出願人は、同時であるか逐次的であるかを問わず、同一の対象について実用新案登録出願と特許出願の2つの出願をすることはできない。
 また知的財産法第29条に規定されるように、2以上の者が相互に別個にかつ独立して発明をした場合は、特許を受ける権利は、その発明について出願をした者に帰属し、同一の発明について2以上の出願があった場合は、特許を受ける権利は最先の出願日または優先日を有する出願の出願人に帰属する。さらに知的財産法第108条第2項に規定されるように、知的財産法第29条の規定にいう場合において特許を受ける権利が実用新案登録を受ける権利と抵触するときは、同条は、「特許」を「特許または実用新案登録」と読み替えて適用する。したがって、異なる出願人が同一の対象について特許出願または実用新案登録出願を行った場合、特許または実用新案登録を受ける権利は最先の出願日または優先日を有する出願の出願人に帰属する。

(2)出願変更
 知的財産法第110条に規定されるように、特許出願人は、特許の付与または拒絶の前のいつでも所定の手数料を納付することにより特許出願を実用新案登録出願に変更することができ、当該変更された実用新案登録出願には当初の出願の出願日が付与される。また実用新案登録出願人は、実用新案登録の付与または拒絶の前のいつでも所定の手数料を納付することにより実用新案登録出願を特許出願に変更することができ、当該変更された特許出願には当初の出願の出願日が付与される。

(3)守秘義務
 知的財産法第44条第1項に規定されるように、特許出願は、出願日または優先日から18月を経過した後、庁によりまたは庁のために作成された先行技術を記載した文献を引用する調査書とともにIPO公報において公開される。また同条第3項に規定されるように、長官は、通商産業大臣の承認を得ることを条件として、公開することがフィリピン共和国の国家の安全および利益を害することとなると認める場合は、出願の公開を禁止しまたは制限することができる。

(4)コンピュータープログラムの特許性
 知的財産法第22条第2項に規定されるように、コンピュータープログラムそれ自体は、特許を受けることができない。

(5)遺伝資源の出所開示
 発明に関する規則第408に規定されるように、出願が微生物学的方法またはこれにより得られる物に関連し、かつ、微生物の使用を必要とする場合において、その発明を当該技術の熟練者が実施することができるような方法では、その微生物を出願に十分に開示することができず、また、その微生物を公衆の利用に供することができないときは、発明は、次の状況においてのみ開示されたものとみなされる。
(a)微生物の培養体が出願前に寄託機関に寄託されていること。
(b)寄託機関および培養体寄託番号が出願書類に記載されていること。この情報が出願の時点で未だ入手可能でない場合は、当該情報は、審査官の請求から2月以内に提出しなければならない。知的財産法第44条に基づく出願の公開は、当該情報の提出を待って行われる。
(c)なされた出願が、微生物の特性に関して、出願人による入手が可能な関連情報を与えること。
 また発明に関する規則第409に規定されるように、微生物学的方法またはこれにより得られる物に関連し、かつ、微生物の新種の株の使用を必要とする出願は、次の条件が満たされた場合にのみ許可される。
(a)寄託が公認の国際寄託機関になされたこと
(b)当該寄託の証拠および寄託機関が割り当てた適切な識別または寄託番号が提出されたこと、および
(c)寄託機関が、培養体を永続的に保管し、公開された特許出願に関する事項について利害を有する者に当該培養体を分譲する契約上の義務を負っていること

関連記事:
「フィリピンにおける特許および実用新案登録を受けることができる発明とできない発明」(2020.07.30)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/19370/
「フィリピンにおける特許出願制度概要」(2019.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17565/
「フィリピンにおける実用新案登録出願制度概要」(2019.07.23)
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「フィリピンの知財関連の法令等へのアクセス方法」(2019.05.07)
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「フィリピンにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16395/
「フィリピン知的財産権庁の特許審査体制」(2018.08.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15666/
「フィリピンにおける実用新案/小特許に関する制度」(2014.11.13)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/7071/
「フィリピンにおける遺伝資源の出所開示に関する制度・運用・実施状況」(2014.10.01)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/6691/

2. 発明の保護対象

 発明に関する規則第201に規定されるように、発明は、有用な機械、物、前記の何れかの方法または改良、微生物、および非生物学的および微生物学的方法のいずれかであるか、これらのものに関連するものとされる。
 また知的財産法第22条に規定されるように、発見、科学の理論および数学の方法並びに薬剤製品に関して、既知物質の新たな形式若しくは性質であって、当該物質の既知の効力の向上をもたらさないものの発見にすぎないもの、既知物質の何らかの新たな性質若しくは新たな用途の発見にすぎないものまたは既知方法の使用にすぎないもの、精神的な行為の遂行、遊戯または事業活動に関する計画、規則および方法並びにコンピュータープログラムそれ自体、手術または治療による人体または動物の体の処置方法および人体または動物の体の診断方法、植物の品種、動物の品種並びに植物および動物の生産の本質的に生物学的な方法、美的創作物、公序良俗に反するものは、特許による保護から除外される。

関連記事:
「フィリピンにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16395/

3. 特許を受けるための要件

 知的財産法第21条に規定されるように、人間の活動のすべての分野における課題についての、新規であり、進歩性を有し、かつ、産業上の利用可能性を有する如何なる技術的解決も特許を受けることができる。それは、物、方法若しくはその何れかの改良であってもよいしまたはそれらに関連するものであってもよい。
 ここで知的財産法第23条、第24条に規定されるように、発明は、それが先行技術の一部である場合は新規であるとはみなされず、先行技術は、発明を請求する出願の出願日または優先日の前に世界の何れかの場所において公衆が利用することができるようにされているすべてのもの、および、本法の規定に従って公開され、フィリピンにおいて出願されまたは効力を有し、かつ、当該出願の出願日または優先日より前の出願日または優先日を有する特許出願、実用新案登録または意匠登録の全内容を指す。
 また、知的財産法第26条第1項に規定されるように、発明を請求する出願の出願日または優先日において当該発明が先行技術に照らして当該技術の熟練者にとって自明でない場合は、その発明は進歩性を有する。
 また、知的財産法第27条に規定されるように、何れかの産業において製造しおよび使用することができる発明は、産業上の利用可能性があるものとされる。
 なお、知的財産法第25条に規定されるように、当該出願の出願日または優先日の前12月の間における当該出願に含まれている情報の開示は、その開示が当該発明者によってなされた場合、特許庁によってなされ、当該情報が、当該発明者がした別の出願に記載され、かつ、当該庁によって開示されるべきではなかったかまたは当該発明者から直接または間接に当該情報を得た第三者により当該発明者の認識若しくは同意なしになされた出願に記載されている場合、または、その開示が当該発明者から直接または間接に当該情報を得た第三者によってなされた場合に該当するときは新規性の欠如を理由として当該出願人を害さない。

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「フィリピンにおける特許審査基準関連資料」(2016.02.16)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10272/

4. 職務発明の取り扱い

 知的財産法第30条第2項に規定されるように、従業者がその雇用契約の期間内に発明をした場合、発明行為がその正規の職務の一部ではない場合は、従業者が使用者の時間、設備および材料を使用する場合であっても特許は従業者に帰属し、発明が従業者に正規に課された職務の遂行の結果である場合は、別段の明示のまたは暗黙の合意がない限り特許は使用者に帰属する。

5. 特許権の存続期間

 知的財産法第54条に規定されるように、特許権の存続期間は、出願日から20年である。また、知的財産法第109条第3項に規定されるように、実用新案登録は、出願日から7年目の末日に満了し、更新することはできない。特許権や実用新案権の存続期間を延長する規定は存在しない。

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「フィリピン知的財産権庁の特許審査体制」(2018.08.21)
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香港における特許制度のまとめ-実体編

1. 特許制度の特徴

 香港には、(1)再登録による標準特許(「標準特許(R)」)、(2)香港独自の付与による標準特許(「標準特許(O)」)、(3)短期特許の3種類の特許がある。

(1)標準特許(R)
 標準特許(R)を取得するための再登録システムには、2つの段階がある。
 第1段階では、保留中の下記指定特許庁への出願に基づいて香港特許登録簿に「記録請求」を提出する必要がある。
・中華人民共和国国家知識産権局への出願
・英国を指定する欧州特許庁への出願
・英国特許庁への出願
 香港での記録請求の提出は、指定特許庁への出願の公開から6か月以内に行う必要がある(特許条例第15条)。
 第2段階として、指定特許庁への出願に対して特許が付与された後、6か月以内に「登録付与請求」を提出する必要がある(特許条例第23条)。
 指定特許出願に対する各特許庁での審査に依存しているため、香港での標準特許(R)の出願については、実体審査は行われない。

(2)標準特許(O)
 香港は2019年に独自の特許付与(OGP:Original Grant Patent)システムを導入し、出願人は、方式審査および実体審査を通過すれば、標準特許(O)を取得できる(特許条例第37P条、第37T条、第37U条)。出願から付与までの通常の審査プロセスには少なくとも2~3年かかると予想されるが、出願人は、出願の早期公開の要求を提出し、可能な限り早く審査官の指令に対応することにより、審査期間全体を短縮することができる(特許条例第37Q条および特許規則第31Z条)。

(3)短期特許
 短期特許は、国際調査機関または(1)に示した3つの指定特許庁のいずれかからの調査報告に基づいて付与される(特許条例第113条)。通常、付与前の実体審査は行われない。特許権者または第三者は、付与後に実体審査の実施を請求することができる。この実体審査は、裁判所での執行措置を開始するための前提条件となっている(特許条例第127B条および第129条)。

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「香港における特許出願制度概要」(2019.07.02)
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「香港の特許・実用新案関連の法律、規則等」(2019.02.14)
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「香港における特許制度、登録意匠制度、および特許制度の改革、ならびに香港における産業財産権の各種統計」(2018.05.01)
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「香港における特許権の共有と共同出願」(2018.04.12)
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「香港における微生物寄託に係る実務」(2018.04.10)
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「香港における医薬用途発明」(2018.03.29)
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「香港におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.05.18)
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「日本と香港における特許分割出願に関する時期的要件の比較」(2015.11.20)
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「日本と香港における特許出願書類の比較」(2015.11.20)
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「香港におけるパリ条約ルートおよびPCTルートの特許出願の差異【その2】」(2015.09.15)
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「香港におけるパリ条約ルートおよびPCTルートの特許出願の差異【その1】」(2015.09.08)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8683/
「香港における特許制度の見直し動向」(2015.09.01)
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「香港における譲渡および実施許諾」(2014.10.24)
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2. 発明の保護対象

 特許条例第9A条(1)に次の規定がある。
 (1)以下の条件を満たす発明は特許可能である。
  (a)新規であり、
  (b)進歩性を伴い、
  (c)産業上の利用が可能である。

 特許条例第9A条(2)(3)に次の規定がある。
 (2)以下は、(1)にいう発明とはみなさない。
  (a)発見、科学理論または数学的方法、
  (b)美的創造、
  (c)精神的行為を実行するため、ゲームをするため、またはビジネスをするためのス
  キーム、ルール、または方法、あるいはコンピュータプログラム、
  (d)情報の提示
 (3)(2)の除外は、特許または特許出願が除外された主題自体に関連する範囲にのみ適用
 される。
 特許条例第9A条(4)~(6)に次の規定がある。
 (4)手術または治療による人体または動物の体の治療方法、または人体または動物の体
 に対して実施される診断方法は、産業利用可能性がある発明とはみなされない。ただし、これらの方法に使用される製品、物質、組成物には適用されない。
 (5)公序良俗または道徳に反する出版物または著作物の発明は特許性がない。
 (6)以下は特許性がない。
  (a)植物または動物の品種、
  (b)植物または動物の生産のための本質的に生物学的なプロセス(ただし、微生物学
  的なプロセスまたはその製品を除く)。

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3. 特許を受けるための要件
3.1 一般要件(特許条例第9A条(1))
・新規である、すなわち最新技術の一部を形成していない(特許条例第9B条)。
・進歩性を伴う、すなわち最新技術を考慮した場合にも当業者に明らかでない(特許条例第9C条)。
・産業上の利用が可能である、すなわち農業を含むあらゆる種類の産業で製造または使用が可能である(特許条例9D条)。

3.2 説明要件
 特許規則第31N条および第59条は、それぞれ標準特許(O)および短期特許を出願するための説明要件を規定している。また、特許規則第31O条および第60条は、出願に含まれる図面の要件を規定している。

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4. 職務発明の取り扱い
4.1発明の所有権
 特許条例第57条(1)によると、従業員の発明は、次の場合に雇用主に帰属するものとされる。
(a) 従業員の通常の職務の過程または通常の職務の範囲外の職務の過程で行われたが、特にその従業員に割り当てられたものであり、いずれの場合も、発明が合理的に期待されるような状況であった職務の遂行による場合;また
(b) 発明が従業員の職務の過程で行われ、発明を行う時点で、職務の性質および職務の性質から生じる特定の責任のため、従業員が使用者の事業利益を促進する特別な義務を負っていいた場合。

 それ以外の従業員による発明はすべてその従業員に帰属するものとする。

 特許条例第60条に基づき、従業員の発明に関連する雇用主と従業員との間の契約の条項は、発明またはそれらの発明の特許またはそれらの特許の出願における従業員の権利を減少させる場合、強制力を持たない。

4.2特定の発明に対する従業員の報酬
 使用者が被用者所有の従業員の発明から顕著な利益を得る場合、または従業員がその発明を使用者に譲渡または独占的にライセンス供与した場合、裁判所が従業員に報酬を与えるべきであるとの見解を示した場合、裁判所は従業員への補償を裁定することができる(特許条例第58条)。

 従業員は、使用者が特許、または、発明または特許出願における、またはそれによる財産または権利の使用者と関係のある人への譲渡または供与、から得ることができるまたは合理的に期待できる利益、の公正な配分を受け取ることができる(特許条例第59条(1)(2))。

 特許条例第59条(3)および(4)は、使用者所有の従業員の発明および従業員所有の従業員の発明に対してそれぞれ確保される公正な利益の配分を決定する際に考慮すべき要素を定めている。

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5. 特許権の存続期間
5.1 期間
・標準特許
 特許の存続期間は、標準特許(R)の場合、みなし出願日(対応する指定特許の出願日)から20年であり、標準特許(O)の場合、出願日から20年である。ただし、特許は3年目の終了後、毎年更新する必要がある(特許条例第39条)。

 指定特許出願が記録請求の公開から5年を経て付与に進んでいない場合、保留中の標準特許出願(R)に年間維持費が必要となることがある。年間維持費の期日は指定特許出願日である(特許条例第33条)。

・短期特許
 短期特許の場合、特許の存続期間は、特許出願日から8年である。ただし、特許を有効に保つためには、4年目の満了前に一度更新する必要がある(特許条例第126条)。

5.2 特許件存続期間の延長
 特許権の存続期間を延長する制度はない。

5.3 審査の遅れによる期間の延長補償
 審査の遅れによる期間の延長補償制度はない。

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6. 特許権の行使と侵害

 特許権の所有者は、差止命令、損害賠償、不当利得および申告などの救済を請求するために、侵害行為に関する民事訴訟を提起する権利がある(特許条例第80条)。

 ただし、被告が侵害の日に特許が存在したことを認識しておらず、推測する合理的な理由がないことを被告が証明できる場合、裁判所は損害賠償を認めたり利益計算の命令を行わない可能性がある(特許条例第81条)。

 特許条例第82条は、部分的に有効な特許の侵害に対する救済の付与に関する裁判所の見解を規定している。

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インドネシアにおける特許制度のまとめ-実体編

1. 特許制度の特徴

(1)特許および実用新案(簡易特許)の実体審査請求の提出時期
 特許法第51条は、特許についての審査請求は出願日から36か月以内に提出しなければならないことを規定しており、実体審査は公開期間が終了した後に実施される。

 特許法第122条は、実用新案についての審査請求は出願と同時に行わなければならないと規定している。

(2)実体審査
 特許法第62条および特許規則第73条、第74条は、実体審査報告書(SER: Substantive Examination Report)において理由および先行技術文献を明確かつ詳細に通知することを規定している。出願人は、SERの発行日から3か月以内に回答しなければならないが、最大2か月、さらに手数料の支払いにより追加の1か月の延長が認められる。また、緊急事態の場合は上記期間徒過後、さらに6か月の猶予が認められる。

 実体審査は、実体審査ガイドライン注1で言及されているが、発明の明確さ、発明の単一性、および発明の特許性について実施される。

(3)出願の変更
 特許出願の変更に関する規定は、特許法第39条、第40条および特許規則第50条~第52条にある。
 出願の変更は、出願データの変更、発明の明細書と請求項の変更、特許から実用新案への変更およびその逆の実用新案から特許への変更について行うことができるが、変更により発明の範囲が拡大することは許されない。
 変更が可能な時期は、方式審査、実体審査の期間中で、権利の付与前である。

(4)守秘義務
 特許法第45条に規定されるように、発明者および出願人を除き、すべての出願書類は機密情報として扱われる。
 意図的に、その権利の無い者が機密の申請書類を漏洩した場合は、特許法第164条の規定により、最大2年の懲役刑が宣告される。

(5)コンピュータープログラムの特許性
 特許法第4条(d)に規定されるように、コンピュータープログラムのみを内容とする規則および方法は特許性がないものとされる。
 コンピュータープログラムのみを内容とする規則および方法とは、文字、技術的効果および問題解決を含まないプログラムのみによるものを示す。
 同第4条(d)の逐条解説(法文末尾に添付されている)および実体審査ガイドラインでは、コンピュータープログラムに有形または無形の問題解決につながる技術的効果または機能を備えている場合は、特許を取得できるとしている。請求項は、プログラムが実行されるプロセスの特許性を保証するすべての機能を定義する必要がある。

(6)遺伝資源および伝統的知識の出所開示
 特許法第26条は、発明が遺伝資源および伝統的知識に由来する場合、遺伝資源および伝統的知識が他国に勝手に取得され、アクセスと利益配分(ABS: Access Benefit Sharing)が阻害されないために、遺伝資源および伝統的知識の起源を明確かつ正確に明細書に記載することを求めている。また、遺伝資源および伝統的知識に関する情報は、政府が承認した公的機関により確定されるとしている。

注1:実体審査ガイドラインは代理人、出願人等の関係者に提供されているが、インドネシア知的財産権総局(DGIP)は一般には公開していない。

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2. 発明の保護対象

 特許法第1条(2)は、「発明」とは、技術分野における特定の問題解決活動に製品(物理的実在物、物体)またはプロセス(製品を生産するまたは使用する活動)、あるいは製品またはプロセスの改良および開発の形で組み込まれる発明者の思想を指すと規定している。

 特許法第4条は、特許性のない発明を次のように規定している。
(a) 審美的創作;
(b) 図式;
(c) 以下の活動を行うための規則及び方法:
 i. 精神活動に関わるもの;
 ii. 遊戯;及び
 iii. ビジネス
(d) コンピュータープログラムのみを内容とする規則及び方法;
(e) 特定の情報についての発表、及び;
(f) 以下の発見:
 i. 既存の及び/又は既知の製品の新規用法;及び/又は
 ii. 既存の化合物の新たな形態であって、有意な効能の改善が認められず、その化合
 物の既知の関連する化学構造との差異がないもの

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3. 特許を受けるための要件

 特許および実用新案を取得するための要件は、特許法第3条、第24条(3)および第25条(3)、(4)ならびに特許規則第83A条および第84で規定されている。
 特許の場合、発明は、特許性(新規性、進歩性および産業上の利用可能性)、発明の単一性および発明の明確性と一貫性の要件を満たさなければならない。
 実用新案の場合、新規の発明であり、既存の物または方法の発展であり、産業上利用可能であることが要件である。

 特許法第5条は、新規性について次のように規定している。
(1) 発明は、出願日において当該発明が前に公表された技術と同一でないとき、第3条(1)項における新規性を有するとみなされる。
(2) (1)項における前に公表された技術とは、以下に掲げる日より前に、インドネシア国内又はインドネシア国外において書面、口頭又は展示、使用又はその他の方法で専門家が当該発明を実施できるように公表されている技術である。
 (a) 出願日;又は
 (b) 優先権を伴う出願の場合は優先日
(3) (1)項における前に公表された技術には、インドネシアにおいて申請された他の出願であって、当該審査中の出願の出願日又はそれ以後に公開されるが、審査中であって、他の出願の出願日が当該審査中の出願日又は優先日よりも前の出願の書類を含む。

 さらに、特許法第7条および第8条で規定されているように、発明がその分野の専門知識を有する者が事前に予測することができなかったものである場合、進歩性を有すると見なされ、また、発明は、出願に記載されているように産業に適用できる場合、産業上利用可能であると見なす。

また、特許法第9条には特許を受けることができない発明を次のように規定している。
(a) その公表、使用又は実施が、法規、宗教、公共の秩序又は道徳に反する方法又は物;
(b) 人及び/又は動物に対する検査、看護、治療及び/又は手術の方法;
(c) 科学及び数学の分野における理論及び方法;
(d) 微生物を除く生物;又は
(e) 植物又は動物の生産に必須の生物学的方法。ただし、非生物学的方法又は微生物学的方法を除く。

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4. 職務発明の取り扱い

 特許法第12条は、特段の合意がない限り、業務上の関係で生み出された発明の特許権者は、業務を提供する当事者(雇用者)であると規定している。上記発明者は、発明から得られる経済的利益を考慮し、雇用者と発明者との間の合意に基づいて補償を受ける権利を有する。

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5. 特許権の存続期間

 特許件および実用新案権の存続期間は特許法第22条、第23条に規定されており、特許は出願から20年、実用新案は出願から10年であり、期間の延長は認められていない。

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補足:
 インドネシア特許法2016年(雇用創出法2020年第11号により改正された特許法2016年第13号)は、Rouse International Limitedの情報(https://rouse.com/insights/news/2020/indonesia-the-new-omnibus-law-on-job-creation-and-amendments-to-ip-laws)によれば、旧特許法第20条に規定された特許実施要件を緩和し、「製品の製造または方法の使用」に加え、「製品の輸入またはライセンスの供与」を含むとされたほか、実用新案(簡易特許)の適用範囲を明確化し、公開期間を14日間とし、裁定までの期間を短縮化(12月を6月に短縮)したとしている。