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インドネシアにおける特許の早期権利化

 インドネシアにおいて、発明の保護は特許または簡易特許(日本における実用新案に相当。)によりなされ、特許は出願から20年間、簡易特許は出願から10年間有効である。特許は少なくとも1つの発明が新規であり、進歩性があり、工業的に実用可能である場合に、一方、簡易特許は1つの発明に対してのみ、発明が新規であるか、既存の製品または製造方法の改良であるか、または方法が実用的であり、工業的に可能である場合に認められる。

特許出願の流れ

図1

 インドネシア特許法(2016年法律第13号改正)第57条は、DGIPが特許を許可するかまたは拒絶するかの決定を、公開期間の終了後に審査請求がなされた場合は審査請求から、公開期間終了前に審査請求がなされた場合は公開期間終了から、遅くとも30か月以内に発行することを求めている。この決定の発行は旧特許法(2001年法律第14号改正)に比べて6か月短縮されている。

簡易特許出願の流れ

図2

 インドネシア特許法(2016年法律第13号改正)第124条第1項および大臣規則(2018年第38号)第88条に従い、DGIPは、簡易特許を許可するか拒絶するかの決定を、出願日から遅くとも12か月以内に決定することを求めている。
 その後、この決定を下す法定期間は大臣規則(2021年第13号)第88条第1項により6か月以内に決定することに変更された。この期間短縮の変更は、雇用創出法(2020年法律第11号)の精神に沿って行われた。
 簡易特許の決定までの期間は、旧特許法(2001年法律第14号改正)に比べて、24か月から6か月へと大幅に短縮されている。

 以下、本稿では特許出願の早期権利化について述べる。
 現在、インドネシアDGIPにより提供されている加速審査にはPPHとASPECの2つの系統がある。

1.特許審査ハイウェイ(PPH)
 DGIPとJPOの間のPPHプログラムは2013年6月1日に開始された。PPHにより、日本での対応する出願のクレームが特許可能とみなされるインドネシア特許出願を迅速に処理できると同時に、両特許庁は、利用可能な作業結果を活用することにより、審査の作業量を削減し、実質的な審査過程に要する時間を短縮し、結果的に特許付与手続期間を短縮することが期待される。

1-1.PPH適用の要件
(1)申請者は、審査を加速するための手続きの要件を充足し、一般的な規則に従って料金を支払っていること。
(2)特許出願が公開期間を終了し、実体審査請求が提出されていること。
(3)インドネシア出願の実体審査が開始される前であること。
(4)インドネシア特許出願が日本出願と特定の関係を有すること。ここでいう特定の関係とは、以下のいずれかの関係を意味する。
 ・インドネシア特許出願がパリ条約に基づき、対応する日本出願に基づく優先権を主張していること。
 ・インドネシア特許出願が優先権を主張していないPCT出願の国内移行であること(直接PCT出願)。
 ・インドネシア特許出願がパリ条約に基づき、優先権主張をしていないPCT出願を優先権として主張していること。
(5)インドネシア特許出願は少なくとも1件の対応出願がJPOに存在し、JPOの最新の決定で特許付与可能と判断された1つ以上のクレームを有する場合に、特許付与可能と判断される。
(6)PPHに基づき審査対象となるクレームすべてが、対応出願における最新のオフィスアクション(庁指令)で特許付与可能と判断された1つ以上のクレームと「十分に対応」していなければならない。

1-2.PPH申請に必要な書類
(1)PPH申請書類(様式)
(2)JPOが特許付与可能と判断したすべてのクレームの写しとその翻訳
(3)JPOのオフィスアクションの写しとその翻訳
(4)JPO審査官が引用したすべての文書の写し
(5)クレーム対照表

1-3.PCT-PPH申請に必要な書類
(1)特許適格とされた対応PCT出願のクレームの写しとその翻訳(英語でない場合)
(2)PCT-PPH請求の基礎となる国際調査機関の見解書(Written Opinion of the International Searching Authority:WO/ISA)、国際予備審査機関の見解書(Written Opinion of the International Preliminary Examining Authority:WO/IPEA)または国際予備審査報告(International Preliminary Examination Report : IPER)とその翻訳(英語でない場合)
(3)引用文献
(4)クレーム対照表

2.ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム
 DGIPが提供するもう一つの特許審査促進プログラムは、ASEAN特許審査協力(ASPEC)である。これは参加する東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国(ASEAN Member States:AMS)すなわちブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの特許庁間で各国の特許審査成果物を共有するプログラムである。
 ASPECは、参加するAMS特許庁における調査と審査報告書の質を高めることを目的としている。対応出願について参加するAMS特許庁が実施した調査や審査の結果は、別の加盟国特許庁にとって貴重な資料となる。特許審査官は、独自の調査基準や戦略をより迅速に策定し、調査に要する時間を減らし、クレームされている特許発明を迅速に理解できるようになるとともに、特定の技術データベース、各国データベース、他の言語のデータベースで見つかった情報や先行例を評価することができる。したがって、ASPECの目的は、各特許庁における審査業務の複雑性を低減させ、調査と審査を早め、調査と審査の質を改善することにある。

2-1.ASPEC適用の要件
(1)特許出願が公開期間を終了し、実体審査請求が提出されていること。
(2)インドネシア特許出願について、AMSに所属する特許庁のいずれかで、同一の発明に関する対応特許出願が存在し、インドネシア特許出願もその対応特許出願もパリ条約に基づく優先権主張を行うか、同一のPCT出願により関連していること。
(3)AMSに所属する特許庁による調査および審査結果において、特許付与可能と判断されたクレームが1つ以上あること。

2-2.ASPEC申請に必要な書類
(1)ASPEC申請書(様式)
(2)最先の特許庁による対応特許出願の調査および審査報告書(最小書類)の写し
(3)提出した文書に示されているクレーム(最初に審査した特許庁が特許付与可能と判断した1つ以上のクレームを含む)の写し
(4)クレーム対照表の写し、意見書の写し、可能であれば先行技術のリスト(追加文書)
 上記、(2)~(4)の書類が英語でない場合、英訳の提出が必要となる

 さらに出願人はできるだけ早く特許付与を得るために、出願段階から実体審査までの間に次のような手続を行うことができる。

・出願要件の充足
 出願日は、公開が行われるべき記事を計算するための基準日であり、不必要な遅延を回避するために、出願人は、出願時に最小要件を満たし、その後、法定期限の前に可能な限り早く不足を充足する必要がある。方式審査の欠陥を充足する期限は、欠陥の通知から3か月であり、それぞれ2か月、1か月の2回の延長が可能である。

・早期公開の申請
 出願の早期公開を望む出願人は、DGIPに申請書を提出することにより、公開までの期間を短縮することができる。通常、18か月である公開までの期間を、最短6か月まで短縮できる。

・加速審査の申請
 対応する特許出願がJPOまたはASPEC加盟国の特許庁によって特許付与が決定された場合、出願人はDGIPにPPHまたはASPECの適用による審査の申請が可能である。

・実体審査請求の申請
 出願人は、出願日から36か月以内に実体審査請求を行うことができるが、実体審査は請求の申請日から開始される。できるだけ早く特許付与を受けるためには、公開期間終了直後に実体審査請求を申請することを推奨する。

出願人が、出願時にこれらの早期公開とPPHまたはASPECの申請を行った場合の流れ

図3

・修正実体審査
 修正実体審査は日本またはASPEC加盟国以外の国(米国、欧州、韓国、中国、英国、ドイツ、フランス、オーストラリア、スウェーデン、オーストリア、オランダ、カナダ等)で出願された特許のファミリー出願の審査結果を利用して審査を促進する一般的、実用的な方法である。
 出願人は、インドネシアの特許出願の審査を容易にするために、DGIPで利用可能な場合、上記の各国特許庁のいずれかによって発行された有利な審査結果を積極的に提出することができる。インドネシア出願のクレームは、提出されたクレームと異なる場合、ファミリー特許のクレームに準拠するように補正することができる。
 この手続でDGIPに提出すべき書類は以下のとおりである。
(1)特許査定の通知、特許状または特許証の写し、もしくは登録公報のフロントページの写し
(2)クレームに修正がある場合は、最終的なクレームおよびその表示されたページ
(3)上記書類の英語の翻訳(英語以外の文書の場合)