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メキシコにおける特許を受けることができる発明とできない発明

【詳細】

1.概要

 メキシコにおいては、特に動植物の発生、複製または繁殖を目的とする本質的に生物学的な方法等、特許不適格な発明が存在する。また、理論上または科学上の原理、コンピュータプログラム、情報提供の方法、治療方法、発明とみなされない発見についても特許不適格とされている。なお、バイオテクノロジー分野に属する相補的DNAや、IT分野に属するコンピュータ関連発明等については、特許性について指針が十分に提供されておらず、メキシコの国内法には整備の余地が残されている。

 

2.法的枠組み

 特許性について定めたメキシコ産業財産法(以下「MIPL」と称する)の具体的な規定を以下に掲げる。

 

メキシコ産業財産法

 第4条 その内容が公序良俗、道徳または適正な慣行に反する場合、または当該内容が法の規定に違反する場合は、本法の適用を受ける法的機関または組織に関係する特許、登録および許可は与えられず、また官報での公告も認められないものとする。

 

 第16条 新規であり、かつ進歩性の成果であって産業上の利用可能性を有する発明は、以下に該当する場合を除き、本法の文言に基づき特許適格とされるものとする。

  1. 動物の出生や植物の発生、複製または繁殖を目的とする本質的に生物学的な方法
  2. 自然界で発見される生物学的および遺伝学的な素材
  3. 動物の品種
  4. 人体および人体を構成する生きた材料
  5. 植物の品種

 

 第19条 本法の適用上、以下のものは発明とはみなされない。

  1. 理論上または科学上の原理
  2. これまで人間には知られていなかったが自然界に既に存在していたものを公開または公表する研究成果
  3. 精神作用の実行、遊戯の実施または事業活動遂行のための図式、計画、規則および方法、ならびに数学的手法
  4. コンピュータプログラム
  5. 情報提供の方法
  6. 美的創造物、芸術的著作物および文学的著作物
  7. 人体または動物に適用可能な外科手術、治療もしくは診断の方法
  8. 既知の発明の組合せ、既知の製造物の混合、またはそれらの用途、形状、寸法もしくは材料の変更。ただし、現実にそれらの結合もしくは一体化の程度が強く別個の状態では機能しない場合や、それらの特徴もしくは機能が変化しているために当該分野の当業者にとって自明でないような産業上の成果もしくは用途が生じている場合はこの限りではない。

 

 上に掲げた第4条、16条および19条は、メキシコにおいて特許として認められないものを規定している。しかし、前述したように、これら規定の解釈において問題が生じる場合がある。メキシコの国内法に具体的な判断基準が設けられていないため、相補的DNAやコンピュータ関連発明などは、特許性の適格を判断するにあたって、さまざまな解釈を生じさせてしまっており、現時点においてメキシコ産業財産庁(以下「IMPI」と称する)による特定性の適格判断は一貫性を欠いてしまっている。

 

3.実務面における主題の特許性

 ある出願について、MIPLの規定に基づいて特許不適格と指摘された場合であっても、請求項の記述内容を変更することで、権利化を目指すことができる場合があるたとえば生命科学の分野において、治療方法に関する請求項(クレーム)に対して特許不適格な主題であると指摘された場合、そのようなクレームをEPC2000型のクレーム(特定の疾病Yの治療に使用される化学物質または化合物X)もしくはスイス型のクレーム(疾病Yの治療用医薬品製造のための化学物質または化合物Aの使用)に書き直すことで、認可となる可能性がある。現在、IMPIは医療的用途についてEPC2000型とスイス型のどちらを認容すべきかの基準を定めていないため、どちらの形式の請求項記述でも認められている。

 

 また、先述のように、生命科学の分野においては、相補的DNA等の特定の主題に関する特許適格性について指針が提供されていない。しかしながら、相補的DNAは自然発生するものではなく、自然界に存在するものとは構造的に異なっていることから、相補的DNAに関する出願が特許不適格との理由で拒絶される可能性は低いと考えられる。一方、単離されたDNA配列の場合は事情が異なる。単離されたDNA配列は、それ自体としては自然界に存在しないが、自然界に存在するものと構造的に同一である(Alejandro Luna FandiñoおよびErwin Cruz著「Biotech: Guidance changes US patentability and its impact in Mexico」(The Patent Lawer掲載)。この点に関して言えば、遺伝子の単離された配列もしくは部分的配列は、それらが特定の機能を有する限りにおいて、欧州特許条約(EPC)の加盟国および欧州連合においては、特許性が認められている(EPC規則23e(2))。メキシコにおける特許性の判断基準は、欧州特許庁(EPO)の基準を忠実に踏襲している。しかし、国内法に具体的な指針が欠けているため、IMPIが採択した基準は、単離されたDNA配列は特許適格な主題とは見なされないというものであった。つまり、この特定の主題に関するIMPIの基準は、Myriad事件(Association for Molecular Pathology v Myriad Genetics, Inc., 569 U.S.__, 133 S. Ct. 2107,(2013))以後の米国特許庁が採用している基準の方により近い。単離されたDNAは、それ自体としては自然界に存在しないため、この基準は議論の的になるものと思われる。

 

 また、バイオテクノロジー関連発明に関しては、公序良俗、道徳もしくは適正慣行に反するという理由で(前掲のMIPL第4条を参照)、審査官から拒絶の指摘を受けることがある。この種の指摘は、ヒト胚芽に絡んだ特許出願について、ごく稀に受けることがあり、特に、その特許出願の明細書にヒト胚芽の破壊に関する記述が含まれている場合、そうした傾向がある。

 

 また、コンピュータ関連発明に関する特許出願についても、特許適格な主題であるか否かが問われることが多い。前掲のメキシコ第19条VII項に記述されているように、コンピュータプログラムは特許適格な主題とは見なされていない。しかしながら、メキシコ特許法には「コンピュータプログラム」の定義が示されておらず、コンピュータ関連発明の特許性に関する規定も存在しない。このため、長年にわたってコンピュータ関連発明は、コンピュータプログラムそれ自体と見なされて拒絶されてきた。ところが、2013年にメキシコのFCTA(連邦租税行政裁判所)は、コンピュータ関連発明とコンピュータプログラムもしくはソフトウェアそれ自体とを明瞭に区別する決定を言い渡した(2013年6月。2154/09-EPI-01-3 IMPI vs. Microsoftの事件において、FCTAは被告マイクロソフトに有利な判決を示し、被告の特許出願を拒絶したIMPIの以前の決定を棄却した。コンピュータ関連発明とコンピュータプログラムそれ自体の線引きを明確に示したメキシコで最初の判例であった)。この判決以降、メキシコにおいてコンピュータ関連発明の特許性に関する状況は、かなり改善されてきている。

 

4.結論

 特許適格な主題に関するMIPLのグレーゾーンは、相当広い範囲に及んでいる。だが、こうした不確実性のある現状は、メキシコ特許法の改善に役立つ司法判断の先例を生み出す可能性に満ちているということもできる。先述のコンピュータ関連発明の例は、この最たる事例である。メキシコ特許出願に関する当面の実務としては、もしも審査官から「主題に特許性がない」との指摘を受けた場合、その指摘が特許法第16条もしくは第19条の明示的な規定に基づいたものでなければ、反論により解消できる可能性があるといえる。

シンガポールにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明

【詳細】

1. ソフトウェア

 1995年に特許法が施行された際に、第13条(2)によって「コンピュータプログラム」は、「発明」ではないと宣言された。

 

シンガポール特許法第13条(1995年施行時)では以下のように発明を規定していた。

「第13条 特許性のある発明

(1) (2)および(3)に従うことを条件として、特許性のある発明とは、次の条件を満たすものである。

 (a)発明が新規であること

 (b)発明に進歩性があること

 (c)発明が産業上利用できること

(2) 次のものから成るものは、本法を目的として、発明ではないことをここに宣言する。

 (a) 発見、科学的理論、数学的方法

 (b) 言語、戯曲、音楽または芸術作品、もしくはその他あらゆる審美的創作物

 (c) 精神活動、ゲームまたはビジネスのためのスキーム、ルールまたは方法、もしくはコンピュータプログラム

 (d) 情報の提示

ただし、前述の規定は、特許または特許出願に関する範囲内において、あらゆるものが本法における発明として取り扱われることを禁止するものである。」

 1996年1月1日に施行された改正により、第13条(2)は削除された。

 

 ソフトウェアクレームが特許を受けることができるかどうかを考察するために、First Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件([2007] SGCA 50)を説明する。この事件において、クレジットカード取引を処理するために使用される希望通貨を、(データ処理方法を通じて)自動的に特定する通貨換算方法およびシステムに対して特許を付与することが適切かどうかが争点となった。最高裁判所の高等法廷(High Court)は、この特許は新規性と進歩性を有さないと判示し、この判決は、最高裁判所の上訴法廷(Court of Appeal)によって支持された。

 

 第13条(2)の削除とFirst Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件の判決に基づき、シンガポールにおいてソフトウェアクレームは特許を受けることができるとの見解を持つ者がいるが、シンガポール知的財産庁は、この見解を認めていない。シンガポール知的財産庁の特許出願審査ガイドライン(以下、「知財庁ガイドライン」という)の段落8.5および8.6は、以下の通りである。

 「8.5 しかし、特許法は特許規則と合わせて解釈されなければならず、特許規則第19条によれば、発明が関連する「技術分野」および「技術的課題」を明細書で特定し、クレームは、「技術的特徴」として発明を定義しなくてはならない。

 8.6 したがって、規則第19条に定められた要件に鑑みて、発明は「技術的特徴」を含むことが要件である。」

 

2. 治療方法

 第16条(2)は、人もしくは動物の体の外科術または治療術による治療方法、または人もしくは動物の体について行う診断方法の発明は、産業上利用可能であるとは認められないと規定している。したがって、そうした発明は、特許不適格である。

 しかし、この除外は、人または動物の体について行う外科術、治療術または診断の方法にのみ適用される。

 第14条(7)は、第16条(2)により除外された治療方法において使用される既知の物質または組成物の場合、当該物質または組成物が技術水準の一部を構成するという事実は、当該物質または組成物の当該方法における使用が技術水準の一部を構成しないときは、発明を新規なものと認めることを妨げるものではないと規定している。

 第16条(2)および第16条(3)と合わせた第14条(7)の解釈に基づき、知財庁ガイドラインは、段落8.38において、以下の通り説明している。

 「したがって、既知の化合物の『第一医療用途』はクレーム可能であり、または、医療用途として従前に知られている物質または化合物の場合は、異なる『第二医療用途』がクレーム可能である。」

 

 知財庁ガイドラインの段落8.39において、認められる「第一医療用途クレーム」について例が示されている。

 (1)治療において使用される化合物X

 (2)薬品として使用される化合物X

 (3)健康状態Yの治療において使用される化合物X

 (4)抗生物質として使用される化合物X

 

 知財庁ガイドラインの段落8.42において、以下の「第二医療用途」クレームの形式が認められると述べられている。

 (1)健康状態Yの治療のための薬品の製造における化合物Xの使用 ― スイスタイプクレームの一般的形式

 (2)健康状態Yの治療または予防措置用の薬品を製造するための化合物Xの使用

 (3)健康状態Yの治療における使用指示とともにパッケージされる抗Y剤の製造における化合物Xの使用

 (4)健康状態Yの治療または予防のための使用準備が整った医薬形態の抗Y剤の調整における化合物Xの使用

 

2-3 特許を受けることができないその他の主題

 第13条(2)は削除されたが、知財庁ガイドラインは(パラグラグ8.7~8.25において)、以下のものを、特許を受けることができない主題として列記している。

 (1)発見

 (2)科学的理論および数学的方法

 (3)審美的創作物(言語、戯曲、音楽または芸術作品)

 (4)精神活動の遂行、ゲームの実行または事業の実施のための計画、規則または方法

 (5)情報の提示

ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明【その2】

【詳細】

 ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明について、全2回のシリーズで紹介する。(その2)

 

2-7.コンピュータプログラム

 コンピュータプログラムそのものは、発明あるいは「新規製造の態様」(manner of new manufacture:方法・製造物・製造方法などを含む広い概念)ではないとされているため、新法第11条に基づき、特許を受けることはできない。ただし、組込型コンピュータプログラムに関する発明、コンピュータプログラムを利用した発明、コンピュータプログラムを含む発明については、特許付与の対象になる可能性がある。

 

 しかし、特許付与の対象になるためには、発明の実際の寄与がコンピュータの外部に存在することが必要であり、コンピュータ自体に影響を与える発明である場合には、処理されているデータの種類または使用されている特定のアプリケーションに依存しないことが必要である。発明の実際の寄与を判断するに際して、長官または裁判所は、以下を考慮しなければならない。

  • 実体的なクレームの内容、および実体的なクレームの内容による実際の寄与(クレームの記述形式や出願人が主張する寄与ではない)
  • 解決または対処すべき課題または問題は何か
  • クレームに関連する実際の製品や方法が、どのように課題や問題を解決しているか
  • 解決または対処すべき課題または問題を解決することによる利点や利益
  • 長官または裁判所が考慮すべきと判断するその他事項

 

 ニュージーランド知的財産庁が発行した特許審査基準は、コンピュータプログラムに関連した発明が特許を受けることができるか否かを判断するための5つの指針について言及している。この5つの指針は、AT&T Knowledge Ventures LP, Re [2009] EWHC 343 (Pat)において、以下のように定められている。

  1. クレームされた技術的効果が、コンピュータ外部で実施されるプロセスに技術的効果を有するか否か
  2. クレームされた技術的効果が、コンピュータアーキテクチャのレベルで動作するか否か、すなわち、処理されているデータまたは動作しているアプリケーションにかかわらず、その効果が生じるか否か
  3. クレームされた技術的効果の結果として、コンピュータが新規の方法で動作するか否か
  4. コンピュータの速度または信頼性の向上が見られるか否か
  5. 発明が解決しようとする課題が、単に回避されるのではなく、クレームされた発明により実際に課題が克服されているか否か

 

クレームされた発明が、5つの指針を全て満たす場合には、その発明が単なるコンピュータプログラムそのものではなく、特許を受けることができる発明に相当する可能性があることを示している。

 

 新法第11条は、ニュージーランドにおいて特許適格性の有無を特定するために役立つ具体例を2つ例示している。第一の例は、特許適格性があるとされる例であり、第二の例は、特許適格性がないとされる例である。この二つの例について、以下に論じる。

 

特許適格性があるとされる具体例

 出願中のクレームは、既存洗濯機を使用する際の改良された衣料の洗濯方法に関するものである。この方法は、洗濯機に組み込まれたコンピュータチップ上のコンピュータプログラムによって実現される。このコンピュータプログラムは、洗濯機の動作を制御する。洗濯機は、この発明を実施するために、何ら大きく変更されていない。

 この発明について、実際の寄与は、衣料をより綺麗にし、少ない電力を使用する洗濯機の新規かつ改善された操作方法であると考えられる。

 この洗濯機に関して従来とは異なる唯一の点が、コンピュータプログラムである一方、実際の寄与は、(コンピュータプログラムそのものではなく)コンピュータプログラムによって制御される洗濯機の動作ということになる。コンピュータプログラムは、プロセッサによって実行されることで、実際の寄与に相当する「洗濯機の動作」を制御するものでしかない。

 この例においては、実際の寄与は、コンピュータプログラムそのものに存在するわけではないため、当該クレームは、特許を受けることができる発明(すなわち、衣料を洗濯する新規方法を使用する際の洗濯機)に関するものである。

特許適格性がないとされる具体例

 発明者は、会社登記に必要な法律文書を自動的に完成するプロセスを開発した。

 クレームされたプロセスは、ユーザーに質問するコンピュータに関するものである。その回答は、データベースに保存され、その情報はコンピュータプログラムを使用して処理され、必要な法律文書が作成され、ユーザーに送付される。

 使用されるハードウェアは従来のものである。唯一の新規な点はコンピュータプログラムである。

 この発明について、実際の寄与は、コンピュータプログラムであること自体にのみ存在すると考える。コンピュータ内における方法の単なる実施により、当該方法を特許化することはできない。したがって、このプロセスは、新法の目的における発明ではない。

2-8.ビジネス方法に関する発明

 新法においても旧法においても、ビジネス方法特許は、明確に除外されていない。ビジネス方法特許に関する具体的なガイドラインはない。旧法では、経済的努力の分野における有用性を持つ「人為的に創造された状態(artificially created state of affairs)」を実現することを条件として、ビジネス方法特許を認めてきた。「人為的に創造された状態」を生じない純粋なビジネス方法(すなわち、単なるスキームや計画)は、通常、旧法下でも認められていない。「人為的に創造された状態」の要件を満たすために、旧法下での出願人が取り得る戦略は、コンピュータプログラムまたはコンピュータを実現するビジネス方法をクレームすることである。

 

 しかし、コンピュータプログラムそのものは、新法では特許付与の対象外とされているため、純粋なビジネス方法に関するクレームだけでなく、コンピュータを付随的に利用するだけのビジネス方法に関するクレームも、新法に基づき特許を受けることができない可能性が極めて高く、ビジネス方法に関するクレームは、コンピュータプログラムそのものとみなされることになる。

 

2-9.ボードゲームに関する発明

 旧法に基づく出願について、ボードゲーム「ボード(盤)上にコマやカードを置いたり、動かしたり、取り除いたりして遊ぶゲームの総称」に関する発明は、クレームに以下の点が含まれている場合、一般的に特許を受けることができるとみなされる。

  • 装置
  • ゲーム用の駒
  • (明細書に添付された図面において示された通り)そのマーキングの特徴に新規性を有するボード
  • 明細書に開示された規則に従って関係するゲーム用の駒

 新法は、ボードゲームの特許性を除外していないため、新法に基づくボードゲームの特許性に関する要件は、旧法に基づく要件と同じになると考えられる。

 

2-10.マオリ族の伝統的知識に関する発明またはマオリ族の価値観に反する発明

 マオリ族は、ニュージーランドの先住民族である。マオリ族の伝統的知識に由来する発明、またはその利用がマオリ族の価値観に反するとみなされる発明は、新法に基づき、拒絶される。マオリ族諮問委員会には、ニュージーランド特許庁からの要請に応じて、特許出願においてクレームされた発明が、マオリ族の伝統的知識、原産植物・原産動物に由来するか否かについて、意見を提供する機会が与えられている。そして、マオリ族の伝統的知識、原産植物・原産動物に由来する場合には、当該発明の商業的利用がマオリ族の価値観に反するか否かについて、意見を提供することもできる。

ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明【その1】

【詳細】

 ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明について、全2回のシリーズで紹介する。(その1)

 

1.はじめに

 2013年ニュージーランド特許法(「新法」)は、2014年9月13日より施行された。2014年9月13日以降にニュージーランドで出願されたすべての特許出願は、新法の規定に基づき審査されるが、2014年9月13日より前にニュージーランドで出願された特許出願は1953年特許法(「旧法」)に基づき審査される。

 以下、新法における特許を受けることができる発明について説明する。

 新法はニュージーランドにおいて特許を受けることができる発明を定義している。新法第14条に基づき、クレームに記載の発明が以下を全て満たす場合に限り、発明は特許を受けることができる。

 (a)専売条例(Statute of Monopolies)の第6条における「新規製造の態様」(manner of new manufacture:方法・製造物・製造方法などを含む広い概念)であり、

 (b)先行技術と比較した際に新規であり、また進歩性も有し、

 (c)有用であり、かつ

 (d)第15条または第16条に基づく特許を受けることができる発明から除外されていない

 したがって、特許を受けることができるためには、発明が、専売条例第6条の意味における「新規製造の態様」でなければならない。この専売条例は、1623年にイングランドで制定されたものであり、第6条は、以下の通り規定されている。

 

専売条例第6条

 前述の宣言は、いかなる特許状(現在の特許証に相当するもの)に対しても一切適用されず、今後14年またはそれ以下の期間について、王国内において、あらゆる「新規製造の態様」を独占的に実施または製造する特権を、当該製造物の真正かつ最初の発明者に付与することを定め、これを宣言し、制定する。ただし、当該特許状の発行または付与の時点において、他者が当該製造物を使用していてはならず、国内における商品の価格が上昇されたり、取引を阻害したり、その他一般的な不都合を生じさせることにより、法律に反したり、国家に損害を与えてはならないものとする。

 

 この専売条例は、コモンローを成文化したものであり、特許を受けることができる発明に関して、約400年にわたるイギリスの司法解釈の基礎となるものである。ただし、イギリス連邦を構成する国々の中でも、特にオーストラリアおよびニュージーランドでは、特許を受けることができる発明に関する重要な規定を独自に追加している。

 

 新法第15条及び第16条は、特許を受けることができない発明について、以下の通り規定している。

 (i商業的利用が公序良俗に反する発明

 (ii)人間およびその産生のための生物学的方法

 (iii)人間を診断する方法

 (iv)植物品種

 さらに、新法第11条は、コンピュータプログラムを、ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明から除外している。

 

2.発明の特許性

2-1. 公序良俗に反する発明

 商業的理由が公序良俗に反する発明に関するクレームは、認められない。

 ニュージーランド知的財産庁(Intellectual Property Office of New Zealand :IPONZ)が発行した特許審査基準によると、発明の利用が犯罪行為、不道徳または反社会的行為を助長することが想定される発明については、特許は付与されない。公序良俗に反するとみなされるものは、社会情勢の変化により変わるものであるが、審査官自身の個人的信条で判断してはならない。

 人間のクローンを作成する方法、または人間の生殖細胞について遺伝的同一性を改変する方法に関するクレームは認められない。工業的または商業的目的におけるヒト胚の使用に関するクレームは認められない。また、動物の遺伝的同一性を改変する方法に関するクレーム、または、こうした方法により生じる動物である発明に関するクレームは認められない。

 

2-2.生物学的材料

 遺伝子を改変または組み換えされた植物および人間以外の動物は、自然に発生した生物学的材料がクレームの範囲に含まれないことを条件として、特許を受けることができる主題であるとされている。

 人間およびその産生のための生物学的方法は、特許性から除外されている。また、無傷ヒト細胞(intact human)またはヒト全能幹細胞を含むクレームは認められない。

 微生物学的方法および当該方法による生成物、ならびに微生物自体は、特許を受けることができる。また、遺伝子配列は特許を受けることができる。

 

2-3.医薬品および化学組成物

 医薬品および化学組成物は、特許を受けることができる。

 

2-4.既知の物質の新規医療用途

 病気の治療用途として既に知られている化合物の第二以降の用途(「第二用途」)に関する発明は、そのクレームが、以下のようなスイスタイプの形式で作成されていることを条件として、特許を受けることができる。

 病気Yの治療用の薬剤製造のための化合物Xの使用

 

2-5.治療方法

 人間以外の動物に対する処置方法は特許を受けることができる。

 しかし、人間に対する治療方法または人間に対する診断方法を含むクレームは、特許を受けることができない。

 人間の治療方法に関する特許クレームが拒絶された場合、「スイスタイプ」クレームに補正する必要がある。

 

2-6.植物品種

 植物品種については、特許を受けることはできないが1987年植物品種権法に基づいて保護を受けることができる。植物品種法は、菌類を含むすべての植物に適用される。藻類および細菌は、植物とはみなされない。なお植物品種権法に基づく保護は、特許法による保護と同じように、登録された特定の植物品種を業として育成することができる権利(育成者権)を定めるものである。

 

 コンピュータプログラムとビジネス方法の取り扱いについて、【その2】で説明する。

オーストラリアにおける特許を受けることができる発明とできない発明

【詳細】

1.特許法に基づき特許を受けることができない発明

 オーストラリア特許法第18条第2項において、「人間およびその発生のための生物学的方法」は特許性の適用対象から除外されている。この条項は、立法上の論争の結果として設けられたもので、特許保護の対象外とされる発明に関して、倫理的な根拠に基づく唯一の条文となっている。

 

 この人間に関する特許性の適用除外は、機能的に人間と等価な存在にまで論理的に拡張され、ヒトの受精卵、接合体、胚盤胞、胎芽、胎児、全能性幹細胞等が特許性の適用除外の対象に含まれる。ただし、全能性を持たないヒトの多能性幹細胞は、それら細胞から完全な人間を再生することができないという理由で特許保護の対象となる。

 

 体外受精の方法、核DNAの置換によるクローン作製方法、受精卵および接合体および胎芽の育成もしくは培養に関わる方法、導入遺伝子もしくはドナー遺伝物質もしくはドナー細胞質を受精卵および接合体および胎芽への導入に関わる方法など、特定の方法も特許保護の対象外とされている。

 

 ヒトの胎芽の生成に関わる方法も特許性を阻却される。たとえば、胚性幹細胞を得るための方法に胎芽生成の工程が含まれている場合、胎芽の生成がいかにして行われるかに関わらず、そのような方法は特許性を阻却されることになる。

 

 特許法により特許保護の対象外とされる別の例は、食品もしくは医薬品として利用しうる物質(人間と動物のいずれに用いられるかを問わず、また内用または外用の別を問わない)であって、既知の成分の「単なる混合」に過ぎないものに関係している。そのような「単なる混合物」の作製方法も特許保護の対象外とされる。

 

 「既知の成分の単なる混合」とは、各成分についての既知の特性を総和した以上のものではない、つまり新規の特性を発現するものではない混合物のことである。「混合物」に含まれるものとしては、固形状態(タブレットや錠剤)の粉末もしくは顆粒や、液体もしくは気体の混合物が挙げられ、懸濁液および溶液もこれに含まれうる。

 

 特許法により特許保護の対象外とされる最後の例は、「法に反する」発明に関するものである。法に反する発明とは、その主な用途が紙幣の複製方法などのように明らかな犯罪行為にあたると思われる発明のことである。

 

2.コモンローに基づき特許保護の対象外とされる発明

 特許法に盛り込まれた上記のような特許保護の対象外となる発明の他に、裁判所は通常、「製造の態様」(manner of manufacture)に基づいて判断する基準、すなわち、特許権を主張された発明が単なる着想や発見の域を超えて商業的に有用な結果を生じさせるか否かを基準として、特許保護の対象であるか否かを判断するこの点に関する重要な判例がNational Research Development Corporation v Commissioner of Patents (1959) 102 CLR 252; (1961) RPC 134; 1A IPR 63である。この判例は、かなり古い時期に特許性に関する広範な法理を確立したものである。ある発明が販売可能な製品を製造するとすれば、その発明は特許性を有する。販売可能な製品とは、「実務における有用性」と「人為的に創出された状態」を必要とするものである。

 

 したがって、方法に関する発明は、その最終的な結果として経済活動の分野における有用性を備えた状態が人為的に創出される場合に限り、特許保護の対象とされる。方法に関する発明に有用性があるとされるためには、有用な商業的製品に結びついている必要はないが、特許権者が明細書の中に記載した用途が実現可能であることと、具体的、実質的にして信頼性のある用途が存在することが満たされればよい。

 

 また、「最終的な結果」の例としては、電気的振動・発振が生じること、種蒔き後の土地の完全除草区画、煙霧のない大気、消火後の地下層の形成等が挙げられる。

 

 しかし、以下の主題に関しては、特許保護の対象外とされる主題であるとされている。これらの主題は、「製造の態様」(manner of manufacture)に関する要件を満たさないからである。

・実施する手段のない発見

・単なる着想

・単なる構想もしくは計画

・科学理論

・数学的アルゴリズム

 

 一般に、技術的または実用的な領域に属するものは特許保護の対象とされるが、知的または学術的な領域に属するものは特許保護の対象外とされる。

 

 以下では、具体的なカテゴリーについて述べることにする。

 

2-1.医学的治療方法

 経済的な実用性を有する医学的治療方法および診断方法は、特許保護の対象となる主題である。同様に、人体の外見を改善もしくは変化させるための美容的処置についても、特許保護の対象となる主題である。

 

2-2.ビジネスモデルおよびソフトウェア特許

 オーストラリア特許法の下では、コンピュータソフトウェアまたはソフトウェア関連製品として実施される発明に関して、特許保護の対象であるか否かを明確に規定していない。ただし、その主題は、「製造の態様」に関する要件を満たしていなければならず、単なる構想、抽象的なアイデアもしくは情報の域を超えていなければならない。したがって、事業計画そのものは特許性を持たないが、ビジネスや金融に関係する手法がコンピュータ技術の新たな応用を必要とするものである場合、または別段の有用な物理的成果を生じさせるものである場合、そのような手法は特許保護の対象とされることがありうる。

 

2-3.生物学的素材

 ある生命体が人間の技術的介入の結果として生じた人為的な状態であって自然には発生しないものであるならば、それは特許性を持つことがありうる。

 何かが生物であるという事実のみによって、その生物が特許保護の対象外とされることはない。ただし、その生物が特許保護の対象となるためには、改良もしくは改変された有用な特性を備えている必要があり、例えば、有機的組織体の機能に影響しない変わった特徴を備えているというだけでは特許保護の対象外となる。

 自然発生する微生物は特許性を持たない。それらは発見されたものであって発明ではないからである。ただし、微生物を純粋培養するための方法に関する発明は、技術的発明の要件を満たすであろう。

 最近、オーストラリア高等裁判所は、単離されたDNAは特許性を持たないとの判断を示した。単離されたDNAは、当該DNAの自然状態において既に現れている単なる情報と同じものであるため、というのが高裁の判断の根拠である。ただし、単離されたDNAそれ自体は特許性を持たないとしても、DNAに関わる診断方法および治療方法が特許保護の対象外となるわけではないという点に留意すべきである。

 

2-4.既知の要素の新たな組合せ

 既知の要素の新規な組合せが、実際に機能する相互関係もしくは潜在的に機能する相互関係を備えている場合、その組合せは、特許保護の対象となる。一例を挙げると、特定のゲームに使うためのカードのセットは、そのゲームのルールによって新規の機能する相互関係が潜在的に生じる可能性があるために「製造の態様」(manner of manufacture)であると考えられ、特許性を有すると解釈されうる。既知の要素の組合せに関する特許請求を含むは、機能する相互関係が存在しない場合、特許保護の対象外とされ、審査官から拒絶理由を指摘されることになる。

 

2-5.美術

 「美術」の領域に属する発明は、特許保護の対象外とされている。「美術」とは、通常、美的表現を模索する人間の知的活動の成果であるような「芸術」を含み、絵画や彫刻、音楽その他の美的創造物である。

 ある物の純粋な美的効果は、特許性を持たないが、その物が技術的な特徴を備えている場合、特許保護の対象とされる可能性がある。一例を挙げれば、タイヤの接地面のパターンである。美的な感動を生じさせるための過程または手段の中に技術的な革新が含まれていて、そのために特許性が認められることもありうる。

 

2-6.情報の提示

 情報の提示は、情報それ自体の性質に基づき、特許保護の対象外とされている。文書、書籍、映画等の知的もしくは視覚的なコンテンツは、実用技術ではなく美術もしくは知的技術の方により大きく関係している。

 情報の提示に物理的な外観が関わっているという事実だけによって、特許保護の対象外となるわけではない。情報の表現が純粋に知的もしくは視覚的な性質のものではなく、むしろ実質的な利益を提供するものである場合、その主題は特許保護の対象とされる可能性がある。

 

2-7.数学的アルゴリズム

 数学的アルゴリズムは、それ自体としては特許性を持たないが、処理手順にアルゴリズムが内在しているという事実のみによって特許保護の対象外となるわけでない。数学的手法に関する発明における特定のステップに公式もしくはアルゴリズムを適用することで実質的な利益が生じる場合、それは有用であって特許保護の対象になると考えられる。

 

2-8.試験方法

 試験、観察もしくは測定の方法に関する発明は、経済活動の分野で有用であり、したがって特許保護の対象となる。

 

2-9.作業指示

 従来と同一の製品を製造するために行われる既存の装置または製法の作業構成の単なる「変更」は、特許保護の対象外とされている。この種の発明は一般に「作業指示」(working directions)と呼ばれる。独創的な発明の創意を必要としない作業指示の変更は、「単なる」変更ということになるだろう。

 上記「変更」の結果が新規である場合、または「変更」に独創的な選択が必要とされる場合、変更された製法は、特許性を有する。ただし、単に在来製品をより効率的に生産するため、あるいは従来と同じ効果を生み出す既知の装置をより効率的に操作するために、既知の工程の最適化が行われただけでは、そのような単純な最適化は特許性を持たない。

 

2-10.農業および園芸の方法

 農業および園芸の方法は、家畜および畜産物の処理に関連する方法と同様、一般に特許保護の対象外とされている。

 

2-11.既知の物質の新規な用途

 既知の物質の新規な用途は、特許性を有する。ただし、その用途は以前知られていなかった特性を利用したものでなければならない。たとえば、特定の疾病の治療にとって有用だと分かっている医薬用物質が別の病気の治療にとっても有用だと判明することがある。その場合、第二医薬用途に関する方法は、特許保護の対象とされる。

 既知の物質を特定の用途に適したものにしている既知の特性を求めて、既知の製品の製造に既知の物質を使用することに関係する発明は、特許保護の対象とされる。

 

3.結論

 以上のように、オーストラリアにおいては、ある発明が特許法に規定された比較的狭いカテゴリーにいずれにも該当せず、尚且つその発明が当該技術分野に利益を提供することができる場合に、特許保護の対象になる。

ブラジルにおける特許を受けることができる発明とできない発明

【詳細】

 現行のブラジル産業財産法(法律第9279号/1996、以下「産業財産法」)は1997年5月14日に施行された。旧ブラジル産業財産法は軍事政権下で起草され、その結果として特許保護が極めて不十分なものであったが、現行の産業財産法の登場により大きな改善が見られた。具体的には、化学製品(化学製品の製法は旧産業財産法の下で既に特許性を認められていた)、食品および食品の製法、医薬品および医薬品の製法が特許を受けることができる発明となった。またバイオテクノロジー分野の発明も特許を受けることができる発明となった。

 

特許を受けることができない発明

 産業財産法第10条は、特許を受けることができない発明を以下のように定めている。

 

産業財産法第10条

次に掲げる事項は、発明又は実用新案とみなされない。

 (1)発見、科学理論および数学的方法

 (2)純粋に抽象的な概念

 (3)商業、会計、金融、教育、広告、くじおよび抽選の手段、計画、原理または方法

 (4)文学、建築、美術および学術の著作物、または審美的創作物

 (5)コンピュータプログラムそれ自体

 (6)情報の提供

 (7)遊戯の規則

 (8)人体または動物の治療に用いられる手術方法もしくは外科的技術および方法ならびに治療もしくは診断の方法

 (9)全ての自然の生物のゲノムまたは生殖質を含め、それらから分離されたものであるか否かに関わらず、自然の生物および生物材料の全体または一部ならびに自然の生物学的方法

 また同法第18条は、道徳、善良の風俗ならびに公共の安全、公共の秩序および公衆衛生に反する発明や、生物の全部ないし一部に関する発明の特許適格性がないことを規定している。

 

産業財産法第18条

次に掲げるものは,特許を受けることができない。

(1) 道徳,善良の風俗,並びに公共の安全,公の秩序及び公衆の衛生に反するもの

(2) 原子核変換から生じる全ての種類の物質,材料,混合物,元素又は製品,及びその物理化学的属性の変態,並びにそれらの取得又は変態のための方法

(3) 生物の全体又は一部分。ただし,第8 条に規定した特許を受けるための3 要件,すなわち,新規性,進歩性及び産業上の利用可能性の要件を満たし,かつ,単なる発見ではない遺伝子組み替え微生物を除く。

補項 本法の規定の適用上,遺伝子組み替え微生物とは,植物又は動物の全体又は一部を除いた有機体であって,その遺伝子構成への直接の人的介入により,通常自然の状態では到達し得ない特性を示しているものをいう。

 

 産業財産法第10条の(1)項から(9)項は、特許を受けることができる発明に含まれないものを示しているが、これらはほとんどの他国の法律と一致している。米国、日本、オーストラリアなどの一部の国は、特許性の要件に関してより柔軟なアプローチを採用する傾向があり、その結果これらの国々では、ブラジル産業財産法の下では特許性が否定される一定の主題に特許適格性を認めている。

 

1.生物の全部ないし一部

 産業財産法第10条および18条の規定の唯一の例外は、新規性、進歩性、産業上の利用可能性の要件を満たす遺伝子組み換え微生物である。産業財産法第18条の補項に示された定義によれば、遺伝子組み替え微生物とは、植物もしくは動物の全体または一部を除いた有機体であって、その遺伝子構成への直接の人的介入により、自然状態にある生物種が通常は実現し得ない特性を表現しているものをいう。つまり、ブラジルにおいては、遺伝子組み換え微生物は植物および動物の細胞を包含していてはならないことになる。そのため、第18条(3)項の規定に適合する限定条件を盛り込んだ特許請求項(クレーム)を作成することが推奨される。他方、微生物および動植物で特許を得るための方法は、当該方法が単一のステップのみからなるプロセスではなく、且つ、自然界に存在する生物学的プロセスでないことを条件として、特許性を認められることがある。

 自然発生する物質は第10条(9)項に基づき発明では無く発見とされている。同様の意味合いで、自然に存在する生体物質を単離(混合物質から要素単体を分離)するための自然の生物学的プロセスは特許適格とは見なされない。

 

  1. 診断方法および治療方法

 産業財産法第10条(8)項は、人体または動物に対して使用される手術方法もしくは外科的技術ならびに治療もしくは診断の方法を特許を受けることができる発明としない旨を定めている。

 生体の治療方法は、特許を受けることができる発明には該当しない。特定の診断方法が健康状態を決定づけるものであり、しかも人体に直接適用される場合、そのような診断方法にも同じ原則が適用される。生体内で生じるステップと生体外で生じるステップとの両方を含んでいる治療方法において、生体内で生じるステップを当該治療方法から切り離すことができないという状況もありうる。その場合、そのような治療方法は第10条(8)項の適用除外に該当する。他方、患者の身体から情報を得る方法の場合、その情報だけでは適切な治療法を特定することができないものであり、且つ、何らかの治療や施術が患者の身体に適用されないものであるならば、当該方法は特許を受けることができる発明となり得る。

 同様に、X線写真、磁気共鳴画像、心電図(ECG/EKG)の作成方法もしくは処理方法が患者情報を得るために実施される場合、それらの方法は、特許を受けることができる発明である。

なお、医薬品の特許出願について義務づけられる国家衛生監督局(ANVISA)の審査については、ブラジル知的財産庁(Instituto nacional da propriedade industrial: INPI)とANVISAとの間で特許性の問題に関する見解の食い違いが見られる。ANVISAは「スイス型」のクレームを認めていない。しかもANVISAは、化合物の結晶の多形体(polymorphs)および好ましい多形体を選択することを特徴とする発明を特許適格な主題と見なしていない。ANVISAの実体特許審査への介入は政治的な措置の意味合いが濃く、政府も特許出願の対象である医薬品の安全性と効能を保証するためにANVISAの審査が必要だと判断している。

 

  1. コンピュータプログラムおよびコンピュータ利用発明

 産業財産法第10条(5)項は、コンピュータプログラムそれ自体に特許適格性がないことを規定している。これは、当該カテゴリーの発明はソフトウェア法(法律9609号/1988)によって保護されるという事実による。ソフトウェア発明およびコンピュータ利用発明が方法と製造物の特徴を組み合わせたものであって、コンピュータプログラムによって実行されるステップを備えている場合、その発明は、特許を受けることができる発明となる。

ソフトウェア発明およびコンピュータ利用発明において特許請求されるカテゴリーは、方法、システム、および装置に関連しているが、システムおよび装置クレームに関しては、機能的なクレーム文言(「ミーンズ・プラス・ファンクション形式」)を使用することが望ましい。機能的クレームに関しては、明細書に開示された実施例の内容に基づく特別な権利範囲の制限は存在しない。ブラジルにおいては、特許請求される主題が先行技術に抵触せず、しかもクレームに記載された要素が当業者にとって明瞭である場合、機能的な文言の使用が認められる。

 なお、INPIは2012年から、コンピュータプログラムにより実施される発明に関わる特許出願の審査手続について、国民の意見聴取を行っている。「審査便覧」の草案には出願の基準及び判断に関する手続が明記されており、この重要な技術分野における疑義を解消することを目指している。

トルコにおける特許を受けることができる発明とできない発明

【詳細】

トルコ特許法(特許権保護に関する施行法令第551号および同法施行規則)第6条は、特許を受けることができない発明を規定する。

(1)発見、科学理論、数学的方法

(2)精神的活動、取引または商行為および遊戯を行うための計画、方法、枠組みおよび規則

(3)文芸的および芸術的著作物、科学的著作物、美的性格を有する創造物、コンピュータプログラム

(4)情報の収集、整理、提供および伝達のための方法であって技術的な過程を含まないもの

(5)人体または動物に適用される診断、治療および外科手術の方法

(6)その主題が公序良俗に反している発明

(7)動植物の品種、または動植物の増殖方法であって実質的に生物学的根拠に基づくもの

上記(1)~(5)に相当する場合には、発明としての特徴が欠如していることを理由として特許不適格とみなされ、上記(6)~(7)に相当する場合には、仮に発明としての特徴を備えた場合でも、特許は付与されない。

コンピュータソフトウェア、治療および診断の方法、およびビジネス管理手法に関連した発明の特許適格に関わる問題には、特に注意が必要である。

トルコ特許法第6条に規定されるように、コンピュータソフトウェアプログラムは(それ自体としては)保護を受けることができないが、コンピュータプログラムを内蔵する装置(コンピュータ機器など)は特許適格な発明となりうる。

トルコはTRIPS協定や欧州特許条約(以下EPCという)などの国際条約を批准し、国内法を整備している。もし国内法と相違する場合には国際条約の規定が優先される(トルコ憲法第90条)。TRIPS協定第27条の規定およびEPC第52条(1)の同様の規定により、コンピュータソフトウェアが実装されたコンピュータ装置に関する発明は、トルコにおいて特許適格であると考えられる。ただし、現在のところ、ソフトウェア関連発明の主題についての出願がトルコ国内ルートでなされた場合、トルコ特許庁がそうした出願の取り扱いに同意するか否かは定かでない。

トルコ憲法第90条に基づけば、トルコにおいてはEPCの諸規定が国内で採択された法の規定と同様の法的効果をもつことになるので、EPO審判部の決定は、トルコ特許庁の判断にも影響を与えるはずである。たとえばEPO審判部の審決T1173/97によれば、ソフトウェアが特許適格とされるためには、1個のソフトウェアプログラムと1個のコンピュータの間に通常の技術的相互作用を超えたさらなる技術的効果が存在しなければならないとされている。

トルコ特許法によれば、医療目的のために有用な医薬品に加えて医療関連製品(外科手術用の設備など)も特許を受けることができる。人体および動物に適用される診断、治療および手術方法は、かねてから特許保護の対象とならないとされてきた。これは、一般大衆の利益を考えて独占権を与えないことが望ましいという理由からである。一方、一般大衆の利益に影響しないと考えられるような研究施設における体外試験や、人体や動物に対して化学薬品を用いて美容効果を得る方法などについては、その方法が治療もしくは診断の性質を併せ持っているなどの場合を除き、特許保護の対象となりえる。

トルコ特許庁の審査実務では、既知の活性成分もしくは既知の活性成分の組合せを特定の疾病の治療に用いることで、以前は知られていなかった治療効果が得られるような発明に関しては、特許適格性があり、特許保護の対象となるとされている。ただし、そのような発明についての特許性が認められて特許となるためには、特許適格性があるだけでは不十分であり、活性成分もしくはその組合せの用途が新規であって進歩性を有するとともに、その発明が産業上の利用可能性を有していなければならない。

サービス分野に関連する発明については、この分野に関する技術の進歩に伴って出願数が増加しており、同時に、サービス分野に関連した発明についての特許適格性についての出願人の関心も高まってきている。トルコ特許法によれば、事業の遂行に用いられる方法に関する発明(いわゆるビジネスモデル発明)は特許保護の対象とならない。ビジネスモデル発明について特許を取得するためには、特許請求された発明が単なる人為的取り決めだけではない技術的特徴を備えていなければならない。ビジネスモデル発明の内容が技術的特徴を備えていない場合、たとえば経済的なコンセプトやデータ処理に関する記述のみによって特許請求の範囲が記述されている場合、そのような特許出願は、特許を受けられない可能性が高い。ビジネスモデル発明に関する特許出願は、個々の特許出願の具体的な請求項記述の内容に応じて審査がなされる。

バイオテクノロジー発明については、動植物の増殖に使用することができる方法は、それ自体としてはトルコにおける特許を受けることができない。トルコ特許法においては、微生物発明も特許保護の対象外とされている。TRIPS協定第27条の規定によれば、微生物学的プロセスに関する発明の特許性は加盟国の自由な発意に委ねられているが、EPC第53条(b)の規定は、微生物学的プロセスに関する発明を特許保護の対象としている。先述したトルコ憲法第90条に基づくトルコ国内法とEPCの諸規定との序列に従えば、EPCの規定により特許保護の対象となる発明は、トルコ国内においても同様とされるべきであると考えられる。しかしながら、TRIPS協定第27条(3)の適用が加盟国の選択に委ねられているという点と、トルコでは微生物学的プロセスに関する発明の保護に関する規定がない点とを考慮すると、パリルート、PCTルート、単独のトルコの国内出願いずれの場合であっても、微生物学的プロセスに関する発明は、トルコ国内では拒絶される可能性が高い。また、仮にそうした発明が特許付与されたとしても、特許保護の対象であるか否かという点が裁判によって争われる可能性がある。