チリにおける営業秘密保護に関する法規概要
【詳細及び留意点】
- 序
チリにおける営業秘密の保護は、チリ産業財産法第Ⅷ編および第Ⅹ編に規定されている。 産業財産法第86条は、「工業製品もしくは手順に関する知識であって、その秘密性が当該知識の所有者に向上、進歩もしくは競争上の優位を提供するものは、営業秘密とみなされる」と規定している。
営業秘密は、必ずしも独創的な発見や努力の産物である必要はなく、所有者の商業活動における優位性が情報によってもたらされている限り、どのような内容、性質のものであってもよい。情報が秘密であるという事実ゆえに、営業秘密が一定の経済的価値を有することはいうまでもない。営業秘密の価値とは、常に市場における他の行為者との比較に依存するものである。
なお、ノウハウとは、製品の生産もしくは役務の提供に関連して特定の者が有する知識もしくは情報であって、容易にアクセスしえず、かつ、その者に市場における利益を与えるものをいう。ノウハウは秘密である場合も、そうでない場合もあり、営業秘密に該当する場合も、しない場合もある。ノウハウについて、特許を取得することが可能である場合も不可能な場合もある。
- 営業秘密の要件
特定の情報が営業秘密とみなされるためには、以下の一定の要件を満たしていなければならない。
(1)秘密であること。当該情報は、第三者に全く知られていないものでなければならない。当該情報を知る者が、守秘義務または情報保護義務を伴う関係を企業と結んでいる場合(その者が従業員、サプライヤー、請負業者、顧客である場合や、ライセンス契約の中に守秘義務条項がある場合等)も秘密性は維持される。
(2)競争上の優位に関係していること。当該情報は、その所有者にとって、それを知らない競業者をしのぐ商業上または財務上の優位をもたらすものでなければならない。工業上または商業上使用される情報のみが営業秘密とみなされる。
(3)秘密性を保護するための手段が講じられていること。情報は、文書、電子媒体、磁気媒体、光ディスク、マイクロフィルム、フィルムその他これらと同様の媒体の中に安全に保管されていなければならない。
- 営業秘密の長所
(1)秘密性が維持されている限り、保護期間が無期限となる。
(2)属地主義の適用がなく、世界全域において保護されうる。
(3)他の手段による保護に比べて維持コストが安い。
- 営業秘密の短所
(1)保護要件を満たすためには、情報を保護するための手段を講じ、自社の従業員の間で秘密性の認識を徹底し、秘密保持に関する社内規定の順守を常に監視しなければならない。
(2)産業スパイ、情報漏洩を通じて秘密が失われる可能性がある。
(3)他者が同じ発明(独自開発)をすることを妨げられない。
- 権利行使
産業財産法第87条は以下のように規定している。
「営業秘密の不法な取得、所有者からの許可を受けないでなされる開示、および適法に入手したものではあるが守秘義務を伴う営業秘密の開示または使用は、営業秘密の侵害を構成する。ただし、自己または第三者の利益のために使用し、その所有者に損害を与える意図を以て侵害された場合に限る」
さらに、第88条は以下のように規定し、営業秘密の所有者が、営業秘密の不正取得、不正使用に対する刑事訴追の権利を保持しつつも、他の知的財産と同じように民事上の救済を得る権利を有することを認めている。
「対応する刑事責任を害することなく、工業所有権の順守に関して本法第Ⅹ編に定める規則は、営業秘密の侵害にも適用されるものとする」
- 保護および登録
営業秘密の保護を受けるために登録や形式的要件などは存在しないが、営業秘密は常に有形の媒体(物理的媒体か電子媒体かを問わない)に収録しておくことが望ましい。営業秘密の存在を証明する有形の証拠を確保するためである。
チリにおいては、営業秘密を著作物(言語著作物)の形で知的財産権庁に預託することも可能である。知的財産庁は著作権により保護される著作物を預託される機関となる。
自社の営業秘密を保護するために企業が採りうる重要なことは、やはり企業自身の管理である。そのためには、次のような措置が必要となる。
(1)火災、地震その他の天災から守られた安全な場所に情報を保管する。
(2)情報を会社全体に流布しない。限定された社内の関係者だけが守秘義務の下で情報にアクセスできるようにする。
(3)情報を電子媒体に保存する場合、バックアップと暗号化を行わなければならない。
7.提言
企業にとって有益な「ノウハウ」となる重要な情報(たとえば、企業戦略、マーケティング手法、ビジネスモデル、原価および価格に関する情報)が特許によって保護できない場合には、その情報を営業秘密によって保護することが望ましい。
また、さまざまな商取引において、自社の技術情報、商業情報、企業戦略情報が相手の企業等に提供される場合、秘密保持契約を締結することが非常に重要である。かかる契約の締結は、自社の革新的な知識が第三者(顧客、ライセンシー、請負業者、開発業者等)に提供される前に行われなければならない。