南アフリカにおける特許を受けることができる発明とできない発明
【詳細】
南アフリカ特許法では、発明の定義についての規定はないが、その代わりに特許保護の目的上、発明とはみなされないもののリストを示している。具体的には、特許法第25条(2)項において、下記のものは特許性がないとみなされると規定されている。
・発見
・科学的理論
・数学的方法
・文芸、演劇、音楽もしくは美術作品または他のあらゆる美的創作物
・精神的行為、遊戯またはビジネスを行うための計画、規則または方法
・コンピュータプログラム
・情報の提示
ただし、かかる除外規定は、発明の主題そのものに関する範囲に限って適用される、と第25条(3)項に定められている。
リストに示された除外対象について、以下に詳細に考察していく。
1.発見
発見は、人類が特定の時点で、その存在について知ったとしても、基本的に過去から存在するものであり、発明にはあたらない。発見の例は、重力である。
2.科学的理論および数学的方法
科学的理論は、ニュートンの運動の法則のように、自然界のある側面に関する論理的説明である。数学的方法は、科学的理論と密接に関連づけられることが多く、微積分やフーリエ変換のように、現実世界の数学的モデル化のために使用可能な分析方法に関係しているのが一般的である。数学的アルゴリズム自体は特許を受けられないが、技術的問題に対処するために当該アルゴリズムを実装するシステムは、特許を受けることができる。
3.文芸、演劇、音楽もしくは美術作品または他のあらゆる美的創作物
文芸、演劇、音楽もしくは美術作品または他のあらゆる美的創作物は、南アフリカ著作権法により保護されており、特許性からは除外されている。
4.精神的行為または遊戯を行うための計画、規則または方法
これらの概念は、本質的に精神的または抽象的な概念であり、通常は技術的概念とはみなされない。ただし、遊戯(例えば、トランプゲーム)の方法は特許を受けられないが、新規の遊戯に使用される装置やキットは、新規性および進歩性といった一般的な特許性要件を満たす限り、特許を受けることができる。
5.コンピュータプログラムおよびビジネス方法
ソフトウェアによって実現されるビジネス方法など、コンピュータソフトウェア分野における発明の特許性は、グレーゾーンである。残念ながら、これらの除外対象の意味を解釈した判例法は、南アフリカには存在しない。南アフリカ特許法の第25条(2)項および第25条(3)項は、欧州特許条約の第52条(2)項および第52条(3)項に対応しているため、南アフリカの裁判所は、「技術的効果」を要求する欧州タイプのアプローチを採用することもあれば、他の国で実施されている、より柔軟な異なるアプローチを採用することもある。しかし、南アフリカの裁判所がコンピュータソフトウェアに関する発明の特許性を認める方向に進んでいくのはほぼ確実である。
南アフリカは現在、無審査主義の国であり、ソフトウェア関連発明の特許を取得するのは可能であるため、裁判所によるこの問題に対する判示が待たれている。
6.情報の提示
情報の提示は、基本的に著作権法に基づいて保護されており、特許保護の対象からは除外されている。したがって、例えば物品または組成物の使用方法に関する取扱説明書を保護することはできないが、物品または組成物それ自体は特許を受けることができる。ただし、ここでも重要な点として、第25条(3)項の規定に照らし、「技術的効果」を有する発明は、情報の提示に関係する場合であっても、特許保護の対象になる。例えば、情報を表示する視覚的表示装置は、他の既知の表示装置に付随する特定の技術的問題に対処するのであれば、特許保護の対象になる。
特許法第25条(2)項に明記された除外対象に加え、南アフリカ特許法では、特許を受けることができない以下の7~11の発明がある。
7.反道徳的または犯罪的な行為を助長する発明
犯罪的または反道徳的行為を助長すると一般に予測される発明には、原則として特許は付与されない。具体的に言うと、特許法は登録官に対し、この種の行為を助長すると登録官が判断する特許出願に対しては拒絶する権限を与えている。したがって、特許出願のクレームが、例えば車を盗む方法またはデートレイプ薬に関するものである場合には、反道徳的および犯罪的行為を助長すると思われるため、特許を受けることはできない。
8.自然法則に反する発明
立証された自然法則に反する発明は、特許を受けることはできない。例えば、永久機関に関する発明は、物理法則に反しているため特許を受けることはできない。
9.植物もしくは動物の品種またはこれらを生産するための本質的に生物学的な方法
微生物学的方法またはその生産物を除き、動物または植物の品種もしくは動物または植物を生産するための生物学的な方法に関する発明は、特許性がないとみなされる。生物学的な方法の例として、動物または植物の異種交配または選択的交配が挙げられる。ただし、注意すべき重要な点として、微生物学的方法およびその生産物は特許を受けることができる。例えば、特定の細菌または害虫に対する抵抗力を高めるために、特定の植物を遺伝子的に操作する方法は、特許を受けることができる。
10.手術、治療、診断の方法
人体または動物に対して施される手術、治療または診断に関する方法は、特許を受けることができない。ただし、そうした方法で使用される薬剤などは、当該方法で使用することが明示的に意図されていれば特許を受けることができる。その医学的用途が「第1医学的用途」とみなされる場合には、「疾患Bを治療するための物質Aの使用」といったように、当該物質を「用途」クレームとして記載すべきであると考えられる。既知の物質の第2医学的用途の場合には、「疾患Bの治療薬の製造における物質Aの使用」といったように、いわゆる「スイス型」クレームとして記載すべきであると考えられる。
11.原子力に関する発明および法律に反する発明
登録官は、法律に反する方法で使用される可能性のある出願を拒絶する裁量権を有している。出願人は、登録官にそうした拒絶を受けた場合、自己の発明の違法または有害な側面について権利を放棄することを条件として、自己の発明に対する特許保護を受けることができる。原子力関連発明に関する出願ついても、同様である
南アフリカにおける特許分割出願に関する留意点
【詳細】
1.南アフリカにおける分割出願制度 南アフリカにおける特許分割出願は、南アフリカ共和国特許法(1978年第57号特許法)の第37条に規定されている。同(1)項の規定により、南アフリカでは、出願(「親出願」)が特許庁に提出された後、当該親出願の認可(acceptance)前であれば、新たな出願(「分割出願」)を提出することができる。また、同項では、分割出願が親出願に開示された事項の一部(part of the matter disclosed)に関するものでなければならないこと、および、分割出願の日付を親出願の提出日以降の日付に遡及させるように登録官(Registrar、日本の特許庁長官に相当)が指示できることが規定されている。
1-1.分割出願の提出期限
上述したように、親出願から分割出願を提出できる期限は、南アフリカ特許庁による親出願の認可日である。現時点において南アフリカ特許庁は未だ無審査主義を採用しているため、特許出願の方式要件が全て満たされていれば当該特許出願は認可され、出願人へのさらなる通知なしに特許が付与される。審査主義の特許庁における手続とは異なり、認可の通知の発行タイミングは予測できないため、実務上では、一般に、特許出願提出時に認可の12ヶ月の延長を請求することが推奨されている。これにより出願人は分割出願の提出期限を明確に知ることができる。延長後の認可日の時点においても分割出願を検討中という場合には、登録官への申請により当該認可日を更に延長することも可能である。
1-2.分割出願の出願日
登録官は、特許分割出願の出願日を親出願の出願日以降の日付に遡及させるよう指示することができる。実務上、南アフリカにおいては、分割出願の日付を親出願の国内段階移行日にまで遡及させる申請を行っている。このようにして遡及された日付が分割出願の有効出願日とみなされ、当該分割出願の維持年金納付期日の計算および当該分割出願に付与された特許の満了日の計算に用いられる。
2.開示された事項の一部(Part of the matter disclosed)
上述したように、1978年第57号特許法の第37条では、分割出願が親出願に開示された事項の一部(part of the matter disclosed)に関するものでなければならないと規定されている。
従来、分割出願は、国際調査報告や他国での対応出願における実体審査で単一の出願において複数の発明が開示されているとの判断がなされており、これを受けて南アフリカにおいても複数の発明の権利化を出願人が求める場合に提出される。このような場合には、分割出願の提出手続と共に、分割出願として提出する明細書に含めるべき事項を親出願から削除(分割)するために親出願の補正手続が行われる。
しかし、分割出願は、対応外国出願において取得する保護範囲が定まらない場合や、出願人が製品クレームや方法クレームといった異なるクレームセットを別々の出願で求める場合にも提出することができる。
3.分割出願に関する最高裁判決
この点、南アフリカ最高裁判所は、最近の判決(「Pharma事件」(Pharma Dynamics (Pty) Ltd v. Bayer Pharma AG (468/13) [2014] ZASCA 123))において、特許分割出願の問題を取り上げた。この判決は、分割出願および分割出願で許容されるクレームの範囲について明確な指針を与えている。
3-1. Pharma事件の概要
Pharma事件は、南アフリカの特許の特任裁判官による法廷(Court of the Commissioner of Patents of South Africa)での特許法第61条に基づく特許の取消申請(訴訟手続であるが、位置づけとしては日本の無効審判に相当)についての判決から上告最高裁判所(Supreme Court of Appeal)への上告審(特許事件についての実質、最上級審。なお、南アフリカにおける憲法解釈についての最上級審は、憲法裁判所、Constitutional Courtとなる)であり、被上告人のBayer Pharma Aktiengesellschaft(以下「Bayer」)は、避妊薬Yasminの南アフリカ特許No. 2004/4083(発明の名称:避妊薬としての用途のためのエチニルエストラジオール[EE]とドロスピレノン[DSP]との医薬的組合せ、以下「2004年特許」。これは先行する2002年特許の分割特許にあたる)の特許権者、上告人のPharma Dynamics (Pty) Ltd(以下「Pharma」)は、避妊薬Yasminに対するジェネリック医薬品を輸入・販売する許可を受けた現地のジェネリック医薬品販売業者である。
第一審の判断(特許法に定められる特任裁判官の法廷)では、2004年特許は有効であり、Pharmaの製品は当該2004年特許を侵害したと判示したが、Pharmaはこの判決を不服とし、2004年特許は下記第1、第2の理由により2002年特許の真正な分割ではなく、新規性を欠いているとして、2004年特許の無効を主張した。
3-2. Pharmaの主張および上告最高裁判所の判断
2004年特許が2002年特許の真正な分割特許ではないとする第1の理由として、Pharmaは、2004年特許の明細書本文および図面による開示内容と2002年特許の明細書本文および図面の開示内容が同じであるということを挙げた。この点に関して、最高裁判所は、先の判決(Napp Pharmaceutical Holdings Ltd v. Ratiopharm GmbHおよびNapp Pharmaceutical Holdings Ltd v. Sandoz Ltd [2009] EWCA)を引用し、本件でも同様の判断を下した。この先の判決において、上告最高裁判所は分割出願の要件に言及し、次のように述べている。
「2つの特許は互いに『分割』されたものであるため、明細書本文は実質的には同じである。相違点は、それぞれのクレーム、および分割手続の結果として変更された箇所の明細書本文にある。」
また、2004年特許が2002年特許の真正な分割特許ではないとする第2の理由として、Pharmaは、2004年特許のクレームが2002年特許のクレームと同じであるということ、すなわち、2004年特許のクレームの範囲と2002年特許のクレームの範囲とが同じであるということを主張した。しかしながら、上告最高裁判所は、クレーム範囲の解釈に基づいてこの主張を退けた。上告最高裁判所は次のように述べている。
「Bayerにより主張された2004年特許のクレームの相反する解釈(この解釈が正しいと当裁判官は認定した)によると、2004年特許のクレームは、溶解速度の高いDSP(ドロスピレノン、drospirenoneの略)をその請求の範囲に含むものであるものの、2002年特許のクレームに請求されるような溶解速度がどのように得られるかということについて請求するものではない。また、2004年特許のクレームの請求の範囲には微粒子化が含まれるものであるが、微粒子化の詳細を限定するものではない。したがって2004年クレームは2002年特許のクレームより範囲が広く、それゆえこれら2つのクレームの範囲は同じではない。」
Pharma事件から、分割出願は親出願の本文に開示された事項の一部に関するものでなければならないということが明らかとなった。また、分割特許のクレームは親特許のいずれかのクレームと同じであってはならないが、親クレームより広い範囲であってもよいということが明らかとなった。したがって、親出願と同一のクレームによる分割出願の提出は可能であるが、特許付与の前に親出願および/または分割出願を補正して、これらの要件を満たすよう注意を払う必要がある。
Pharma事件の判決によって、より狭い範囲のクレームセットで特許を受けられるように出願人が親出願を補正して権利化する一方、それと並行して分割出願としてより広い範囲のクレームを新たに提出し、その分割出願の特許付与前に他国の審査結果を反映して補正して権利化することの適法性が、裁判所の判断として確認された。
ブラジルにおける知的財産権制度概要と最近の動き
【詳細】
ブラジル・メキシコ・コロンビア・インド・ロシアの産業財産権制度及びその運用実態に関する調査研究報告書(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第2部-Ⅰ-AおよびⅠ-F
(目次)
第2部 各国の産業財産権制度・運用調査結果
Ⅰ ブラジル連邦共和国
A 概要 P.9
1 産業財産権法制 P.9
2 産業財産権制度の管轄機関 P.14
3 産業財産権制度の動向 P.15
4 国際協力 P.20
F 最近の動き P.93
参考資料 総括表
A 概要 P.407