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インドにおける特許出願の補正の制限

1.はじめに
 インドにおいて、特許出願書類の補正は、自発的な補正と非自発的な補正の2つに分類することができる。自発補正は特許権侵害訴訟または特許取消手続が高等裁判所に係属している間を除き行うことができ、非自発的な補正は特許庁長官が要求した際または特許無効手続において高等裁判所が認めた場合に行うことができる。なお、本稿において、別段の定めがない限り、「特許出願書類」には完全明細書および特許出願に関連する文書が含まれる。

 ここで、インド特許法では、仮明細書を添付する場合(仮出願)と、完全明細書を添付する場合(本出願)の2つの出願様式が認められており(インド特許法第7条(4))、上記完全明細書とは、本出願に添付される明細書を意味する。なお、仮出願は、簡易化された出願手続により優先日を確保することにより、主として研究成果などについて特許による早期の権利保護を図るための制度で、米国の仮出願制度や、日本の国内優先権出願制度に類似した制度である。

2.非自発的な補正
 非自発的な補正とは、特許庁長官が要求する補正のことで、出願人が特許庁から特許出願書類の補正を求められる状況としては、以下のような場合がある。

(1) 長官が、出願審査後に特許出願がインド特許法の要件を遵守していないと判断した場合。この場合、長官は、出願人に対し補正を要求する。出願人がその補正を行わない場合、長官は当該特許出願を拒絶することができる(インド特許法第15条)。
(2) 分割出願がなされた場合で、長官が、クレームされている主題が重複しないよう親出願または分割出願の補正を求める場合(インド特許法第16条(3))。
(3) 長官が、クレームされた発明がすでに公開されているものであると認めた場合。この場合、長官は、出願人に対し、完全明細書を補正するよう要求する(インド特許法第18条)。
(4) 特許出願に開示されている発明を実施しようとした場合に、他の特許のクレームを侵害するおそれがあると、長官が認め、かつ、出願人が当該他の特許についての言及を特許出願に含めることを拒む場合。この場合、長官は、出願人に対し完全明細書を補正するよう要求する(インド特許法第19条(1))。

3.自発的な補正
 出願人はインド特許法第57条(1)に基づき、特許出願書類を自発的に補正する機会を有している。自発的な補正を行うにあたっては、所定の特許庁費用とともにForm13による補正申請書をインド特許意匠商標総局に提出する必要がある(インド特許規則81)。補正申請書には、その補正案の内容および当該申請の理由を記載する必要がある(インド特許法第57条(2))。長官はその裁量によりインド特許法第57条(1)に基づき補正を拒絶もしくは許可すること、または適切と認める条件を付して補正を許可することができる。ただし、特許権侵害訴訟または特許取消手続が高等裁判所に係属している間は、補正申請を拒絶または許可することはできない。

 特許付与後に提出された補正申請は、その内容が本質的なものである場合には、インド特許意匠商標総局により公開される。「利害関係人」は、補正申請の公開後3か月以内に当該補正に異議を申立てることができる(インド特許法第57条(4)、インド特許規則55(4))。利害関係人には、当該発明に係る分野と同一の分野における研究に従事し、またはこれを促進する者を含む(インド特許法第2条(1)(t))。補正に対して異議申立がなされた場合、長官は出願人にこれを通知し、決定を下す前に出願人と異議申立人の両方に対し聴聞の機会を与える(インド特許法第25条(4))。補正に対する異議申立手続は、特許の異議申立手続と同じである。特許付与後に提出された補正が許可された場合も、公報に公開される(インド特許法第57条(3)。

4.高等裁判所における明細書の補正
 高等裁判所における特許無効手続において、特許権者は、自己の完全明細書の補正許可を申請することができる。高等裁判所は、適切と認める条件を付した上で特許権者の申請を許可できる(インド特許法58条)(*1)
当該補正許可申請の通知は、手続上特許庁長官に対しても発せられ、補正を許可する内容の高等裁判所の命令の写しは、当該命令がなされた後に長官に送付され、長官は特許登録簿への登録を行う(インド特許法58条(3))(*1)
*1:インド特許意匠商標総局の掲載されている特許法には「The Gazette of India」の2021年4月の改正事項(PART II CHAPTER III 9. (k)、PART II CHAPTER V 6. (k)、)で知的財産審判部(Intellectual Property Appellate Board:IPAB)が廃止されたが反映されていない。「INDIA CODE」掲載の「The Patents Act, 1970(特許法)」を参照。
なお、特許の発行後に、長官、高等裁判所により特許の補正が許可された場合、以下のようになる(インド特許法59条(2))。
(1) 当該補正は明細書の一部を構成するものとみなされる。
(2) 明細書その他の関連書類が補正されたという事実はできる限り速やかに公表される。
(3) 出願人または特許権者の補正請求の権利に対しては、詐欺を理由とする場合を除きその有効性を争うことはできなくなる。

5.特許出願書類の補正の制限
 インド特許法第59条は、特許出願書類の補正に対する制限を定めており、「権利の部分放棄、訂正もしくは説明以外の方法によって一切補正してはならず,かつ,それらの補正は事実の挿入以外の目的では,一切認められない」と規定している(なお、「それらの補正は事実の挿入以外の目的では,一切認められない」とは、補正の目的が、誤りを訂正することに関係したものでなければならないということを意味していると考えられるが、この点の解釈を争った判例がないのが実情である)。また補正の範囲についても、新規事項を追加するような補正は認められず、また、クレームの範囲を拡大するような補正も認められない。

6.結論
 上述の通り、インド特許法第59条は、認められる補正の内容および範囲を制限するものである。よって、後の段階になって補正を行う必要がないように、明細書作成の時点で、完全なものとしておくことが極めて重要である。

マレーシアにおける商標の審判等手続に関する調査

 「マレーシアにおける知的財産の審判等手続に関する調査」(2021年3月、日本貿易振興機構(JETRO) シンガポール事務所 知的財産部)

目次
A.はじめに P.1
I.調査範囲 P.1
II.調査方法 P.1
III.調査結果 P.2

B.審理機関と紛争解決手段 P.3
I.審理機関 P.3
(マレーシアの知的財産権について審理する2つの主要機関であるマレーシア知的財産公社(MyIPO)と知的財産裁判所の概要について紹介している。(マレーシア裁判所の審級の構成についてフローチャートあり)。)

II.紛争解決手段 P.4
(知的財産に関する紛争は、高等裁判所において開始され、知的財産権の性質、訴訟の種類または請求の額に応じて、高等裁判所、控訴裁判所または連邦裁判所で審理される。裁判管轄について紹介している。)

E.商標 P.19
I.商標出願手続の概要 P.19
(出願手続の概要をフローチャートで紹介している。)

II.商標出願の審査手続 P.19
(審査手続について解説している。)

III.異議申立手続 P.21
(異議申立手続について解説している(登録商標出願に対する異議申立の手続上のステップおよびタイムラインの概要についてフローチャートと各ステップの解説あり)。)

IV.取消手続 P.27
(取消手続(登録官・裁判所)について解説している。)

V.無効手続 P.29
(無効手続について解説している。)

VI.統計 P.29
(2010年から2020年9月までの商標出願・登録件数の統計情報について紹介している。)

VII.ケーススタディ P.30
(判例(Ooi Siew Bee (通称;Sykt Perniagaan Eng Leong) & Ors v Zhu Ge Kong Ming Sdn Bhd [2020] 4 MLJ 815)について解説している。)

附属書A P.33
(No.3でMyIPOの商標の統計情報(出願および登録)のURLを紹介している。)

カンボジアにおけるマドリッド協定議定書に基づく国際商標出願に関する手続

 「マドリッド協定議定書に基づく国際商標出願に関する手続の情報収集作業」(平成31年2月、日本国際知的財産保護協会(AIPPI・JAPAN))Ⅰ.カンボジア

 

(目次)

Ⅰ.カンボジア

 1. 商標法の動向等 P.1

 2. 標章の定義 P.1

 3. 出願時の留意点(方式要件等) P.2

 4. 審査 P.5

 5. 暫定的拒絶通報を受領した場合の国際登録出願名義人の応答手続 P.11

 6. 拒絶理由解消後又は拒絶理由が存在しない場合の登録までの概略 P.13

 7. 登録 P.13

 8. 登録後の注意事項 P.14

 9. 異議 P.15

 10. 無効手続等 P.17

 11. 権利行使 P.19

 12. マドリッド協定議定書に基づく国際登録に特有な制度の取扱い P.20

 13. マドリッド協定議定書に関する宣言 P.20

 14. カンボジアの特徴的な制度 P.21

 15. カンボジア知的財産局(DIPR)のウェブサイト等から入手可能な情報 P.22

 

フィリピンにおける特許、実用新案および意匠の無効手続を管轄する組織並びに統計データ

1. 無効手続に関する管轄権を有する裁判所

 

 フィリピン知的財産法(改正されたフィリピン共和国法第8293号)に基づき、フィリピン知的財産権局(Intellectual Property Office)は、法務局(Bureau of Legal Affairs)を通じて準司法的権限を有する。法務局は、無効手続などの当事者系事件について管轄権を有する。また、法務局は、商事裁判所とともに、特許権侵害事件について(Regular Commercial Courts)、競合管轄権を有する。特許権侵害事件において、被告は、対象特許の取消を求める反訴請求を行うことができる。

 

 法務局は、フィリピン知的財産法に従い、特許、実用新案および工業意匠の取消について審理し決定を下すという機能を有するため、無効手続に関する第一審裁判所と考えられる。長官室(Office of the Director General)は、法務局が下したすべての決定について専属的上訴管轄権を有する。上訴管轄権を有する長官室の決定に対しては、裁判所規則に従い、控訴裁判所に控訴することができる。

 

 地域事実審裁判所(Regional Trial Courts)は、無効手続に関して、法務局とともに競合管轄権を有する。地域事実審裁判所の判例に対しては、控訴裁判所に控訴することができる。

 

 控訴裁判所は、最高裁判所または他の裁判所の専属的管轄権が及ばない範囲において、地域事実審裁判所、準司法的当局(フィリピン知的財産権局など)、審判廷、委員会または機関のその他すべての判例、決定、決議、命令または裁定について専属的上訴管轄権を有する。

 

 フィリピン最高裁判所は、フィリピンにおける最上位の裁判所である。控訴裁判所の判例に対しては、最高裁判所に上告することができる。

 

2. 法務局における無効手続

 

 法務局に提起された無効手続の根拠のほとんどが、先行技術の一部を構成すること、または先行開示を理由とした、特許発明、実用新案または工業意匠の新規性または進歩性の欠如である。

 

 フィリピン知的財産権局のオンライン事件ライブラリーによると、過去10年において、法務局により決定が下された事件は50件を超える。これら事件のうち少なくとも25件が工業意匠登録の無効手続に関するものであり、そのうちの6件は認容され、14件は棄却されている。一方、残る事件は、当事者が和解したものである。

 

 実用新案登録の無効手続に関する事件は、少なくとも18件あり、そのうちの4件は法務局により認容され、残る事件は、無効を認める十分な根拠がない、または争点に現実的な意味がなく学術的なものであるとして棄却されているか、請願人が無効手続を取下げている。

 

 過去10年において、法務局により決定が下された特許発明関連の事件は10件のみであり、そのうちの6件は認容され、4件は棄却されている。

 

 なお、特許取消を求める反訴請求を伴う特許権侵害事件に関する統計データは存在しない。

 

3. 長官室に上訴された特許発明関連事件

 

 2007年から2017年にかけて、長官室は27件の上訴事件について決定を下し、そのうちの6件については認容している。すなわち、これらの6件について、長官室は、法務局の決定に誤りがあると認定し、法務局の決定を破棄した。残る21件の上訴事件について、長官室は、法務局の認定を支持、または争点に現実的な意味がなく学術的なものとなったことを理由として棄却した。

 

 これら27件の事件のうち、3件は工業意匠登録に関する事件であり、いずれも長官室により棄却された。実用新案関連の事件は10件で、そのうちの5件は認容され、5件は棄却された。特許発明については16件の上訴事件があるが、認容されたのは1件のみであった。なお、16件の特許発明関連の事件のうち、3件の上訴事件が、取下げられた出願の回復請求に関するものであった。

 

 これらのうち、「対象特許出願が、親出願と同じ出願日を与えられるべき継続出願であるか否か」という争点に関する上訴事件についての長官室の注目すべき決定を以下に引用する。

 

 「上訴人が、その対象特許出願が親出願と同じ出願日を与えられるべきであると主張することは適切でない。この規定は、新規性および進歩性を有し、かつ産業上利用可能な、特許を受けることができる発明についてのみ適用される。上訴人の発明は、先行技術の一部を構成するものであるため、もはや新規性を有さない。」(PFIZER Research and Development対Director of the Bureau of Patent、上訴第01-2011-0004号、特許出願番号第1-2002-00753号、2013年10月24日)

 

4. 最高裁判所により判例が下された特許発明関連事件

 

 他の法域とは異なり、最高裁判所まで至った特許発明関連事件はごくわずかしかない。実際、過去10年において、最高裁判所により判例が下された事件は10件に満たない。その中に、無効手続に関するものは1件もない。特許に関する事件はあるが、争点となったのは、発行された差止命令の適否と特許出願回復請求の拒絶に関する検討についてであった。

 

 フィリピン民法の第8条は、法律または憲法を適用または解釈する司法決定は、フィリピンの法制度の一部を形成するものとする旨を定めている。ここでいう司法決定とは、最高裁判所により発布されたものである。過去10年において、最高裁判所は、「侵害されたと主張される特許が既に失効している場合、特許権侵害に基づき差止救済を発行することはできない。特許権者の排他的権利は、特許の存続期間中のみ存在するものである。特許が失効すると、特許権者は、その特許によりカバーされる製品を製造、使用および販売する排他的権利をもはや有さない。」という原則を定めている(Phil Pharmawealth, Inc.対Pfizer, Inc.およびPfizer (Phil.) Inc.、G.R.第167715号、2010年11月17日)。

ブラジルにおける商標異議申立制度

 商標出願が提出されると、INPIは第三者に知らせるために、産業財産公報において出願を公告する。留意すべき点として、産業財産公報において商標出願が公告される時点まで、INPIはその出願の実体審査を行わない。

 

 ブラジル産業財産法(以下「IP法」)第158条に従い、法律上の利害関係を有するいかなる第三者も、商標出願が産業財産公報に公告された日から60日以内に、異議申立書を提出することができる。この60日間の異議申立書提出期限を延長することはできない。

 

 異議申立は、絶対的拒絶理由および/または相対的拒絶理由を根拠とすることができる。異議申立の根拠として主張可能な絶対的拒絶理由および相対的拒絶理由は、IP法第124条に示されている。最もよく利用される絶対的拒絶理由は、識別性の欠如である。相対的拒絶理由に関しては、下記の規定を根拠として異議申立を提出することができる。

 

 IP法第124条中の下記のものは、商標として登録することはできない。

 

(V)第三者の商号における識別性のある要部の複製または模倣であって、かかる識別性のある要部との混同または関連づけを生じるおそれがあるもの。

(XII)IP法第154条の規定に従って、第三者が団体標章または証明標章として登録している標識の複製または模倣。

(XIII)公式または公認のスポーツ、芸術、文化、社会、政治、経済または技術関連の行事の名称、褒賞または象徴、およびその模倣であって、混同を生じるおそれのあるもの。ただし、その行事を推進する管轄機関または団体の許可を得ている場合を除く。

(XV)第三者の個人名、署名、名字、父称および肖像。ただし、その所有者、所有者の相続人または承継人の同意を得ている場合を除く。

(XVI)著名な雅号または愛称および個人または集団の芸術上の名称。ただし、その所有者、所有者の相続人または承継人の同意を得ている場合を除く。

(XVII)著作権により保護される文学的、芸術的または科学的著作物およびその題名であって、混同または関連づけを生じるおそれがあるもの。ただし、その著作者または所有者の同意を得ている場合を除く。

(XIX)同一、類似または同種の商品または役務を識別または証明するために第三者により登録された商標の、付加物をも含めた、全体的または部分的な複製または模倣であって、当該第三者の商標との混同または関連づけを生じるおそれがあるもの。

(XXII)第三者の名義で工業意匠登録により保護されているもの。

(XXIII)出願人がその活動に照らして明らかに知っているはずの商標であって、ブラジルの領域内に、またはブラジルが相互協定を維持している、もしくは相互主義の待遇を保証している国に本拠または住所を有する者により所有されている商標を、全体的または部分的に模倣または複製する商標。ただし、かかる商標が同一、類似または同種の商品または役務を識別するためのものであり、当該第三者の商標との混同または関連づけを生じるおそれがある場合に限られる。

 

 また、異議申立は、先行出願が存在する場合であっても、周知商標を保護することを定めたIP法第126条を根拠とすることもできる。

 

 最後に、IP法第129条(1)項は、同一、類似または同種の商品および役務に関して、同一または混同を生じるほど類似の商標が第三者により出願される前に、少なくとも6ヵ月間にわたり当該商標を使用している者に対して、優先的な権利を与えている。この規定も、異議申立の根拠とすることができる。

 

 異議申立書が提出されると、INPIは産業財産公報において異議申立を公示する。出願人は、異議申立の通知から60日以内に、答弁書を提出することができる。この期間の満了後、答弁書が提出されたかどうかに拘わらず、INPIは異議申立の実体的事項について審査する。

 

 異議申立を認める場合、INPIは出願を拒絶し、出願人は60日以内に拒絶査定に対する審判請求をすることができる。審判において拒絶査定を維持する判断が下された場合、その出願の拒絶が確定する。この決定を不服とする場合、唯一の手段として連邦裁判所に不服申立を提起することができる。

 

 留意すべき点として、INPIは職権により出願の実体審査を行い、異議申立で提起された理由とは異なる理由で出願を拒絶することができ、または異議申立が提出されない場合でも出願を拒絶することができる。

 

 最後に、商標登録が許可された場合、登録通知の公示が180日間にわたり行われ、異議申立人またはいかなる第三者も、この登録に対する行政上の無効手続を提起することができる。行政上の無効手続は、先の異議申立とは無関係に提起することができる。

 

異議申立書の提出要件

 

 異議申立人は、異議申立書を提出する際に、下記の方式要件を遵守しなければならない。

 

(1)異議申立人の法律上の代表者により署名された委任状を提出する。認証の必要はない。

(2)異議申立の理由を提出する。

(3)必要であれば、証拠を提出する(例えば、商標が周知であることを証明するため、異議申立人の優先的な権利を証明するため、または出願人の悪意を証明するため)。

(4)政府料金を支払う。(INPIのオンラインシステムを通して提出される異議申立は、政府料金が割り引きされる。)

 

 さらにIP法第158条(2)項に従い、異議申立がIP法第124条(XXIII)項(悪意)またはIP法第126条(周知商標)を根拠とする場合、異議申立人は、当該商標に関する自己名義のブラジル出願を有していることを証明しなければならない。かかる証拠の提出期限は、異議申立書を提出した日から60日である。異議申立人がこの要件を満たさない場合、その異議申立はINPIにより却下される。

 

 異議申立書の提出時に委任状を提出できない場合、異議申立人は、委任状の提出を定めたIP法第216条(2)に従い、異議申立書を提出した日から60日以内に委任状を提出することができる。この期限内に委任状が提出されない場合、その異議申立はINPIにより却下される。

 

 異議申立人は、異議申立書を提出した日から60日以内に証拠を提出することもできるが、この期限後に提出された証拠については、INPIは考慮する義務はない。

インドにおける特許出願の補正の制限

【詳細】

1.はじめに

インドにおいて、特許出願書類の補正は、自発的な補正と非自発的な補正の2つの分類することができる。これらの補正は特許出願後から特許が有効である間いつでも行うことができる。なお、本稿において、別段の定めがない限り、「特許出願書類」には完全明細書および特許出願に関連する文書が含まれる。

ここで、インド特許法では、仮明細書を添付する場合(仮出願)と、完全明細書を添付する場合(本出願)の2つの出願様式が認められており(インド特許法第7条(4))、上記完全明細書とは、本出願に添付される明細書を意味する。なお、仮出願は、簡易化された出願手続により優先日を確保することにより、主として研究成果などについて特許による早期の権利保護を図るための制度で、米国の仮出願制度や、日本の国内優先権出願制度に類似した制度である。

 

2.非自発的な補正

非自発的な補正とは、特許庁長官が要求する補正のことで、出願人が特許庁から特許出願書類の補正を求められる状況としては、次のような場合がある。

(1)長官が、出願審査後に特許出願がインド特許法の要件を遵守していないと判断した場合。この場合、長官は、出願人に対し補正を要求する(インド特許法第15条)。出願人がその補正を行わない場合、長官は当該特許出願を拒絶することができる。

(2)分割出願がなされた場合で、長官が、クレームされている主題が重複しないよう親出願または分割出願の補正を求める場合(インド特許法第16条)。

(3)長官が、クレームされた発明がすでに公開されているものであると認めた場合。この場合、長官は、出願人に対し、完全明細書を補正するよう要求する(インド特許法第18条)。

(4)特許出願に開示されている発明を実施しようとした場合に、他の特許のクレームを侵害する虞があると、長官が認め、かつ、出願人が当該他の特許についての言及を特許出願に含めることを拒む場合。この場合、長官は、出願人に対し完全明細書を補正するよう要求する(インド特許法第19条)。

 

3.自発的な補正

出願人はインド特許法第57条に基づき、特許出願書類を自発的に補正する機会を有している。自発的な補正を行うにあたっては、所定の特許庁費用とともにForm13による補正申請書をインド特許庁に提出する必要がある。補正申請書には、その補正案の内容および当該申請の理由を記載する必要がある。長官はその裁量によりインド特許法第57条に基づき補正を拒絶もしくは許可すること、または適切と認める条件を付して補正を許可することができる。ただし、特許権侵害訴訟または特許取消手続が高等裁判所に係属している間は、補正申請を拒絶または許可することはできない。

特許付与後に提出された補正申請は、その内容が本質的なものである場合には、インド特許庁により公開される。「利害関係人」は、補正申請の公開後3カ月以内に当該補正に異議を申し立てることができる。インド特許法第2(t)条によれば、「利害関係人」には、当該発明に係る分野と同一の分野における研究に従事し、またはこれを促進する者を含む。補正に対して異議申立がなされた場合、長官は出願人にこれを通知し、決定を下す前に出願人と異議申立人の両方に対し聴聞の機会を与える。補正に対する異議申立手続は、特許の異議申立手続と同じである。特許付与後に提出された補正が許可された場合も、公報に公開される。

 

4.審判部または高等裁判所における明細書の補正

知的財産審判部(Intellectual Property Appellate Board:IPAB)または高等裁判所における特許無効手続において、特許権者は、自己の完全明細書の補正許可を申請することができる。IPABまたは高等裁判所は、適切と認める条件を付した上で特許権者の申請を許可できる。Solvay Fluor GmBH v.E.I. Du Pont de Nemours and Company事件(2010年6月4日決定第111/2010号)において、IPABは「出願人が補正理由の詳細を十分に提示しない場合」には、補正許可の申請を却下可能であるとの決定を下している。

当該補正許可申請の通知は、手続上特許庁長官に対しても発せられ、補正を許可する内容のIPABまたは高等裁判所の命令の写しは、当該命令がなされた後に長官に送付され、長官は特許登録簿への登録を行う。なお特許の発行後に、長官、IPABまたは高等裁判所により特許の補正が許可された場合、次のようになる。

(1)当該補正は明細書の一部を構成するものとみなされる。

(2)明細書その他の関連書類が補正されたという事実はできる限り速やかに公表される。

(3)出願人または特許権者の補正請求の権利に対しては、詐欺を理由とする場合を除きその有効性を争ってはならなくなる。

 

5.特許出願書類の補正の制限

インド特許法第59条は、特許出願書類の補正に対する制限を定めており、「権利の部分放棄、訂正もしくは説明以外の方法によって一切補正してはならず,かつ,それらの補正は事実の挿入以外の目的では,一切認められない」と規定している(なお、「それらの補正は事実の挿入以外の目的では、一切認められない」とは、補正の目的が、誤りを訂正することに関係したものでなければならないということを意味していると考えられるが、この点の解釈を争った判例がないのが実情である)。また補正の範囲についても、新規事項を追加するような補正は認められず、また、クレームの範囲を拡大するような補正も認められない。また異議または審判の手続中の補正に関しても、M/s. Diamcad N.V. v. Mr. Sivovolenko Sergei Borisovish事件(2012年8月3日決定第189/2012号)において、知的財産審判部(IPAB)は、「インド特許法第58条および第59条は、異議または審判の手続中に、認可された特許クレームを、最初に認可されたクレームの保護範囲を拡大するような方法で補正することはできないことを要求するものであるとしている」との判断を下している。

 

6.結論

上述の通り、インド特許法第59条は、認められる補正の内容および範囲を制限するものである。よって、後の段階になって補正を行う必要がないように、明細書作成の時点で、完全なものとしておくことが極めて重要である。

ブラジルにおける意匠制度の運用実態

【詳細】

 ブラジル・メキシコ・コロンビア・インド・ロシアの産業財産権制度及びその運用実態に関する調査研究報告書(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第2部-Ⅰ-D

 

(目次)

第2部 各国の産業財産権制度・運用調査結果

 Ⅰ ブラジル連邦共和国

  D 意匠 P.50

   1 産業財産権制度の枠組 P.50

   2 出願・登録の手続 P.58

   3 審査業務 P.60

   4 統計情報 P.65

   5 ハーグ協定ジュネーブアクト P.69

 参考資料 総括表

  D 意匠 P.415

ブラジルにおける商標制度の運用実態

【詳細】

 ブラジル・メキシコ・コロンビア・インド・ロシアの産業財産権制度及びその運用実態に関する調査研究報告書(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第2部-Ⅰ-E

 

(目次)

第2部 各国の産業財産権制度・運用調査結果

 Ⅰ ブラジル連邦共和国

  E 商標 P.71

   1 産業財産権制度の枠組 P.71

   2 出願・登録の手続 P.81

   3 審査業務 P.84

   4 統計情報 P.88

 参考資料 総括表

  E 商標 P.418

ブラジルにおける実用新案制度の運用実態

【詳細】

 ブラジル・メキシコ・コロンビア・インド・ロシアの産業財産権制度及びその運用実態に関する調査研究報告書(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第2部-Ⅰ-C

 

(目次)

第2部 各国の産業財産権制度・運用調査結果

 Ⅰ ブラジル連邦共和国

  C 実用新案 P.44

   1 産業財産権制度の枠組 P.44

   2 出願・登録の手続 P.46

   3 審査業務 P.47

   4 統計情報 P.49

 参考資料 総括表

  C 実用新案 P.413

ブラジルにおける特許制度の運用実態

【詳細】

 ブラジル・メキシコ・コロンビア・インド・ロシアの産業財産権制度及びその運用実態に関する調査研究報告書(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第2部-Ⅰ-B

 

(目次)

第2部 各国の産業財産権制度・運用調査結果

 Ⅰ ブラジル連邦共和国

  B 特許 P.21

   1 産業財産権制度の枠組 P.21

   2 出願・登録の手続 P.31

   3 審査業務 P.36

   4 統計情報 P.41

 参考資料 総括表

  B 特許 P.410