台湾における医薬関連特許の審査基準改訂(前編)
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マレーシアにおける医薬用途発明保護
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香港における医薬用途発明
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インドネシアにおける医薬用途発明の保護制度
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メキシコにおける特許を受けることができる発明とできない発明
【詳細】
1.概要
メキシコにおいては、特に動植物の発生、複製または繁殖を目的とする本質的に生物学的な方法等、特許不適格な発明が存在する。また、理論上または科学上の原理、コンピュータプログラム、情報提供の方法、治療方法、発明とみなされない発見についても特許不適格とされている。なお、バイオテクノロジー分野に属する相補的DNAや、IT分野に属するコンピュータ関連発明等については、特許性について指針が十分に提供されておらず、メキシコの国内法には整備の余地が残されている。
2.法的枠組み
特許性について定めたメキシコ産業財産法(以下「MIPL」と称する)の具体的な規定を以下に掲げる。
- メキシコ産業財産法
-
第4条 その内容が公序良俗、道徳または適正な慣行に反する場合、または当該内容が法の規定に違反する場合は、本法の適用を受ける法的機関または組織に関係する特許、登録および許可は与えられず、また官報での公告も認められないものとする。
-
第16条 新規であり、かつ進歩性の成果であって産業上の利用可能性を有する発明は、以下に該当する場合を除き、本法の文言に基づき特許適格とされるものとする。
- 動物の出生や植物の発生、複製または繁殖を目的とする本質的に生物学的な方法
- 自然界で発見される生物学的および遺伝学的な素材
- 動物の品種
- 人体および人体を構成する生きた材料
- 植物の品種
-
第19条 本法の適用上、以下のものは発明とはみなされない。
- 理論上または科学上の原理
- これまで人間には知られていなかったが自然界に既に存在していたものを公開または公表する研究成果
- 精神作用の実行、遊戯の実施または事業活動遂行のための図式、計画、規則および方法、ならびに数学的手法
- コンピュータプログラム
- 情報提供の方法
- 美的創造物、芸術的著作物および文学的著作物
- 人体または動物に適用可能な外科手術、治療もしくは診断の方法
- 既知の発明の組合せ、既知の製造物の混合、またはそれらの用途、形状、寸法もしくは材料の変更。ただし、現実にそれらの結合もしくは一体化の程度が強く別個の状態では機能しない場合や、それらの特徴もしくは機能が変化しているために当該分野の当業者にとって自明でないような産業上の成果もしくは用途が生じている場合はこの限りではない。
上に掲げた第4条、16条および19条は、メキシコにおいて特許として認められないものを規定している。しかし、前述したように、これら規定の解釈において問題が生じる場合がある。メキシコの国内法に具体的な判断基準が設けられていないため、相補的DNAやコンピュータ関連発明などは、特許性の適格を判断するにあたって、さまざまな解釈を生じさせてしまっており、現時点においてメキシコ産業財産庁(以下「IMPI」と称する)による特定性の適格判断は一貫性を欠いてしまっている。
3.実務面における主題の特許性
ある出願について、MIPLの規定に基づいて特許不適格と指摘された場合であっても、請求項の記述内容を変更することで、権利化を目指すことができる場合があるたとえば生命科学の分野において、治療方法に関する請求項(クレーム)に対して特許不適格な主題であると指摘された場合、そのようなクレームをEPC2000型のクレーム(特定の疾病Yの治療に使用される化学物質または化合物X)もしくはスイス型のクレーム(疾病Yの治療用医薬品製造のための化学物質または化合物Aの使用)に書き直すことで、認可となる可能性がある。現在、IMPIは医療的用途についてEPC2000型とスイス型のどちらを認容すべきかの基準を定めていないため、どちらの形式の請求項記述でも認められている。
また、先述のように、生命科学の分野においては、相補的DNA等の特定の主題に関する特許適格性について指針が提供されていない。しかしながら、相補的DNAは自然発生するものではなく、自然界に存在するものとは構造的に異なっていることから、相補的DNAに関する出願が特許不適格との理由で拒絶される可能性は低いと考えられる。一方、単離されたDNA配列の場合は事情が異なる。単離されたDNA配列は、それ自体としては自然界に存在しないが、自然界に存在するものと構造的に同一である(Alejandro Luna FandiñoおよびErwin Cruz著「Biotech: Guidance changes US patentability and its impact in Mexico」(The Patent Lawer掲載)。この点に関して言えば、遺伝子の単離された配列もしくは部分的配列は、それらが特定の機能を有する限りにおいて、欧州特許条約(EPC)の加盟国および欧州連合においては、特許性が認められている(EPC規則23e(2))。メキシコにおける特許性の判断基準は、欧州特許庁(EPO)の基準を忠実に踏襲している。しかし、国内法に具体的な指針が欠けているため、IMPIが採択した基準は、単離されたDNA配列は特許適格な主題とは見なされないというものであった。つまり、この特定の主題に関するIMPIの基準は、Myriad事件(Association for Molecular Pathology v Myriad Genetics, Inc., 569 U.S.__, 133 S. Ct. 2107,(2013))以後の米国特許庁が採用している基準の方により近い。単離されたDNAは、それ自体としては自然界に存在しないため、この基準は議論の的になるものと思われる。
また、バイオテクノロジー関連発明に関しては、公序良俗、道徳もしくは適正慣行に反するという理由で(前掲のMIPL第4条を参照)、審査官から拒絶の指摘を受けることがある。この種の指摘は、ヒト胚芽に絡んだ特許出願について、ごく稀に受けることがあり、特に、その特許出願の明細書にヒト胚芽の破壊に関する記述が含まれている場合、そうした傾向がある。
また、コンピュータ関連発明に関する特許出願についても、特許適格な主題であるか否かが問われることが多い。前掲のメキシコ第19条VII項に記述されているように、コンピュータプログラムは特許適格な主題とは見なされていない。しかしながら、メキシコ特許法には「コンピュータプログラム」の定義が示されておらず、コンピュータ関連発明の特許性に関する規定も存在しない。このため、長年にわたってコンピュータ関連発明は、コンピュータプログラムそれ自体と見なされて拒絶されてきた。ところが、2013年にメキシコのFCTA(連邦租税行政裁判所)は、コンピュータ関連発明とコンピュータプログラムもしくはソフトウェアそれ自体とを明瞭に区別する決定を言い渡した(2013年6月。2154/09-EPI-01-3 IMPI vs. Microsoftの事件において、FCTAは被告マイクロソフトに有利な判決を示し、被告の特許出願を拒絶したIMPIの以前の決定を棄却した。コンピュータ関連発明とコンピュータプログラムそれ自体の線引きを明確に示したメキシコで最初の判例であった)。この判決以降、メキシコにおいてコンピュータ関連発明の特許性に関する状況は、かなり改善されてきている。
4.結論
特許適格な主題に関するMIPLのグレーゾーンは、相当広い範囲に及んでいる。だが、こうした不確実性のある現状は、メキシコ特許法の改善に役立つ司法判断の先例を生み出す可能性に満ちているということもできる。先述のコンピュータ関連発明の例は、この最たる事例である。メキシコ特許出願に関する当面の実務としては、もしも審査官から「主題に特許性がない」との指摘を受けた場合、その指摘が特許法第16条もしくは第19条の明示的な規定に基づいたものでなければ、反論により解消できる可能性があるといえる。
シンガポールにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明
【詳細】
1. ソフトウェア
1995年に特許法が施行された際に、第13条(2)によって「コンピュータプログラム」は、「発明」ではないと宣言された。
シンガポール特許法第13条(1995年施行時)では以下のように発明を規定していた。
「第13条 特許性のある発明
(1) (2)および(3)に従うことを条件として、特許性のある発明とは、次の条件を満たすものである。
(a)発明が新規であること
(b)発明に進歩性があること
(c)発明が産業上利用できること
(2) 次のものから成るものは、本法を目的として、発明ではないことをここに宣言する。
(a) 発見、科学的理論、数学的方法
(b) 言語、戯曲、音楽または芸術作品、もしくはその他あらゆる審美的創作物
(c) 精神活動、ゲームまたはビジネスのためのスキーム、ルールまたは方法、もしくはコンピュータプログラム
(d) 情報の提示
ただし、前述の規定は、特許または特許出願に関する範囲内において、あらゆるものが本法における発明として取り扱われることを禁止するものである。」
1996年1月1日に施行された改正により、第13条(2)は削除された。
ソフトウェアクレームが特許を受けることができるかどうかを考察するために、First Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件([2007] SGCA 50)を説明する。この事件において、クレジットカード取引を処理するために使用される希望通貨を、(データ処理方法を通じて)自動的に特定する通貨換算方法およびシステムに対して特許を付与することが適切かどうかが争点となった。最高裁判所の高等法廷(High Court)は、この特許は新規性と進歩性を有さないと判示し、この判決は、最高裁判所の上訴法廷(Court of Appeal)によって支持された。
第13条(2)の削除とFirst Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件の判決に基づき、シンガポールにおいてソフトウェアクレームは特許を受けることができるとの見解を持つ者がいるが、シンガポール知的財産庁は、この見解を認めていない。シンガポール知的財産庁の特許出願審査ガイドライン(以下、「知財庁ガイドライン」という)の段落8.5および8.6は、以下の通りである。
「8.5 しかし、特許法は特許規則と合わせて解釈されなければならず、特許規則第19条によれば、発明が関連する「技術分野」および「技術的課題」を明細書で特定し、クレームは、「技術的特徴」として発明を定義しなくてはならない。
8.6 したがって、規則第19条に定められた要件に鑑みて、発明は「技術的特徴」を含むことが要件である。」
2. 治療方法
第16条(2)は、人もしくは動物の体の外科術または治療術による治療方法、または人もしくは動物の体について行う診断方法の発明は、産業上利用可能であるとは認められないと規定している。したがって、そうした発明は、特許不適格である。
しかし、この除外は、人または動物の体について行う外科術、治療術または診断の方法にのみ適用される。
第14条(7)は、第16条(2)により除外された治療方法において使用される既知の物質または組成物の場合、当該物質または組成物が技術水準の一部を構成するという事実は、当該物質または組成物の当該方法における使用が技術水準の一部を構成しないときは、発明を新規なものと認めることを妨げるものではないと規定している。
第16条(2)および第16条(3)と合わせた第14条(7)の解釈に基づき、知財庁ガイドラインは、段落8.38において、以下の通り説明している。
「したがって、既知の化合物の『第一医療用途』はクレーム可能であり、または、医療用途として従前に知られている物質または化合物の場合は、異なる『第二医療用途』がクレーム可能である。」
知財庁ガイドラインの段落8.39において、認められる「第一医療用途クレーム」について例が示されている。
(1)治療において使用される化合物X
(2)薬品として使用される化合物X
(3)健康状態Yの治療において使用される化合物X
(4)抗生物質として使用される化合物X
知財庁ガイドラインの段落8.42において、以下の「第二医療用途」クレームの形式が認められると述べられている。
(1)健康状態Yの治療のための薬品の製造における化合物Xの使用 ― スイスタイプクレームの一般的形式
(2)健康状態Yの治療または予防措置用の薬品を製造するための化合物Xの使用
(3)健康状態Yの治療における使用指示とともにパッケージされる抗Y剤の製造における化合物Xの使用
(4)健康状態Yの治療または予防のための使用準備が整った医薬形態の抗Y剤の調整における化合物Xの使用
2-3 特許を受けることができないその他の主題
第13条(2)は削除されたが、知財庁ガイドラインは(パラグラグ8.7~8.25において)、以下のものを、特許を受けることができない主題として列記している。
(1)発見
(2)科学的理論および数学的方法
(3)審美的創作物(言語、戯曲、音楽または芸術作品)
(4)精神活動の遂行、ゲームの実行または事業の実施のための計画、規則または方法
(5)情報の提示
ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明【その1】
【詳細】
ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明について、全2回のシリーズで紹介する。(その1)
1.はじめに
2013年ニュージーランド特許法(「新法」)は、2014年9月13日より施行された。2014年9月13日以降にニュージーランドで出願されたすべての特許出願は、新法の規定に基づき審査されるが、2014年9月13日より前にニュージーランドで出願された特許出願は1953年特許法(「旧法」)に基づき審査される。
以下、新法における特許を受けることができる発明について説明する。
新法はニュージーランドにおいて特許を受けることができる発明を定義している。新法第14条に基づき、クレームに記載の発明が以下を全て満たす場合に限り、発明は特許を受けることができる。
(a)専売条例(Statute of Monopolies)の第6条における「新規製造の態様」(manner of new manufacture:方法・製造物・製造方法などを含む広い概念)であり、
(b)先行技術と比較した際に新規であり、また進歩性も有し、
(c)有用であり、かつ
(d)第15条または第16条に基づく特許を受けることができる発明から除外されていない
したがって、特許を受けることができるためには、発明が、専売条例第6条の意味における「新規製造の態様」でなければならない。この専売条例は、1623年にイングランドで制定されたものであり、第6条は、以下の通り規定されている。
専売条例第6条
前述の宣言は、いかなる特許状(現在の特許証に相当するもの)に対しても一切適用されず、今後14年またはそれ以下の期間について、王国内において、あらゆる「新規製造の態様」を独占的に実施または製造する特権を、当該製造物の真正かつ最初の発明者に付与することを定め、これを宣言し、制定する。ただし、当該特許状の発行または付与の時点において、他者が当該製造物を使用していてはならず、国内における商品の価格が上昇されたり、取引を阻害したり、その他一般的な不都合を生じさせることにより、法律に反したり、国家に損害を与えてはならないものとする。
この専売条例は、コモンローを成文化したものであり、特許を受けることができる発明に関して、約400年にわたるイギリスの司法解釈の基礎となるものである。ただし、イギリス連邦を構成する国々の中でも、特にオーストラリアおよびニュージーランドでは、特許を受けることができる発明に関する重要な規定を独自に追加している。
新法第15条及び第16条は、特許を受けることができない発明について、以下の通り規定している。
(i商業的利用が公序良俗に反する発明
(ii)人間およびその産生のための生物学的方法
(iii)人間を診断する方法
(iv)植物品種
さらに、新法第11条は、コンピュータプログラムを、ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明から除外している。
2.発明の特許性
2-1. 公序良俗に反する発明
商業的理由が公序良俗に反する発明に関するクレームは、認められない。
ニュージーランド知的財産庁(Intellectual Property Office of New Zealand :IPONZ)が発行した特許審査基準によると、発明の利用が犯罪行為、不道徳または反社会的行為を助長することが想定される発明については、特許は付与されない。公序良俗に反するとみなされるものは、社会情勢の変化により変わるものであるが、審査官自身の個人的信条で判断してはならない。
人間のクローンを作成する方法、または人間の生殖細胞について遺伝的同一性を改変する方法に関するクレームは認められない。工業的または商業的目的におけるヒト胚の使用に関するクレームは認められない。また、動物の遺伝的同一性を改変する方法に関するクレーム、または、こうした方法により生じる動物である発明に関するクレームは認められない。
2-2.生物学的材料
遺伝子を改変または組み換えされた植物および人間以外の動物は、自然に発生した生物学的材料がクレームの範囲に含まれないことを条件として、特許を受けることができる主題であるとされている。
人間およびその産生のための生物学的方法は、特許性から除外されている。また、無傷ヒト細胞(intact human)またはヒト全能幹細胞を含むクレームは認められない。
微生物学的方法および当該方法による生成物、ならびに微生物自体は、特許を受けることができる。また、遺伝子配列は特許を受けることができる。
2-3.医薬品および化学組成物
医薬品および化学組成物は、特許を受けることができる。
2-4.既知の物質の新規医療用途
病気の治療用途として既に知られている化合物の第二以降の用途(「第二用途」)に関する発明は、そのクレームが、以下のようなスイスタイプの形式で作成されていることを条件として、特許を受けることができる。
病気Yの治療用の薬剤製造のための化合物Xの使用
2-5.治療方法
人間以外の動物に対する処置方法は特許を受けることができる。
しかし、人間に対する治療方法または人間に対する診断方法を含むクレームは、特許を受けることができない。
人間の治療方法に関する特許クレームが拒絶された場合、「スイスタイプ」クレームに補正する必要がある。
2-6.植物品種
植物品種については、特許を受けることはできないが1987年植物品種権法に基づいて保護を受けることができる。植物品種法は、菌類を含むすべての植物に適用される。藻類および細菌は、植物とはみなされない。なお植物品種権法に基づく保護は、特許法による保護と同じように、登録された特定の植物品種を業として育成することができる権利(育成者権)を定めるものである。
コンピュータプログラムとビジネス方法の取り扱いについて、【その2】で説明する。