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シンガポールにおける意匠登録の機能性および視認性

1.背景

 

 シンガポールにおいて、意匠法第2条(1)項は「意匠」という用語について、工業的方法により物品に応用される形状、形態、模様または装飾の特徴であると定義している。原則、物品の形状、形態、模様または装飾の特徴は、登録意匠の対象となり得る。しかし、この原則にはいくつかの例外が存在する。本書では、物品の機能によってのみ定まる意匠の登録を禁じる規定について考察する。また、視認不能な意匠の登録可能性についても考察する。

 

2.機能性

 

 意匠法に基づく「意匠」の定義は、物品が果たすべき機能によってのみ定まる物品の形状または形態の特徴を明示的に除外している。このような特徴は、意匠法の規定により登録できない。本書では、このような除外を「機能的意匠の除外」と呼ぶ。

 

 機能的意匠の除外の目的は、登録意匠制度を利用して技術的解決策に対する独占権を取得できないようにすることにある。技術的解決策は、意匠法ではなく、特許法によって保護されるべきである。

 

 シンガポールにおける意匠出願は、方式審査のみを受ける。方式審査において登録官は、出願書類を一見して登録可能な意匠ではない場合には、意匠出願を拒絶する権限を意匠法により与えられている。一方、実体審査は行われないことから、意匠が登録基準を満たしているかどうかについては判断されない。つまり、機能によって定まる特性を有する意匠を出願した場合であっても、出願人はかかる意匠の登録を正式に受けることができる。このような意匠登録に対しては、有効性について異議を唱えることができるため、権利行使の場面において問題が生じる可能性がある。

 

 シンガポールにおける機能的意匠の除外の範囲は、Hunter Manufacturing Pte Ltd and another v. Soundtex Switchgear & Engineering Pte Ltd and another appeal [1993] 3 SLR(R) 1108において説明されている。この事件は、シンガポールの公営集合住宅ビルの廊下の壁に取付けられる電気メーターボックスの登録意匠に関するものであった。この電気メーターボックスは、各家庭の小型遮断器(MCB)、メインスイッチおよび電力メーターを収容するものであった。当該登録意匠の侵害について原告により訴えられた被告は、当該意匠の有効性について異議を唱えた。この上訴院の判決から、下記の原則が生まれている。

 

(a)意匠の一部の特徴が機能により決定づけられているが、他の特徴はそうではない場合、機能的意匠の除外は適用されない。機能的意匠の除外を適用するには、意匠の全ての特徴が機能により決定づけられていなければならない。上訴院は判決を下す際に、この原則を採用した英国枢密院事件のInterlego AG v. Tyco Industries Inc [1998] RPC 343を引用した。

 

(b)意匠が「機能によってのみ定まっている」かどうかは、当該意匠を創作する創作者の目的によって決まる。創作者が物品の機能を確保するためだけに意匠を選択した場合には、当該意匠は「機能によってのみ定まっている」こととなる。したがって、創作者が機能的な目的のみを念頭に置き、美的な目的などの機能以外の目的を考えなかった場合には、機能的意匠の除外が適用される。この原則は、AMP Inc v. Utilux Pty Ltd [1972] RPC 103において英国貴族院が認定したものであった。

 

(c)同じ機能を果たす他の意匠が存在する場合であっても、意匠は「機能によってのみ定まる」可能性がある。シンガポール上訴院は判決を下す際に、AMP Inc v. Utilux Pty Ltdを再び引用した。当該事件において貴族院は、同じ機能を果たすことのできる他のいかなる形状も存在しない状況であれば、形状は機能によってのみ定まるという主張を退けた。貴族院は、仮にそのような状況が「機能によってのみ定まる」ことを意味するのであれば、一つの形状しか機能しない状況を想像することは難しいため、機能的意匠の除外の範囲はほぼ消滅するだろうと述べた。

 

(d)登録意匠が侵害されているかどうかは、二段階のテストにより判断される。まず、新規性の陳述、関連する先行意匠および機能的意匠の除外を考慮して、登録意匠の本質的または重要な特徴を特定する。次に、登録意匠と被疑侵害とを比較して、第一段階で当該意匠の要部として特定された全ての特徴が被疑侵害に視覚的に組み込まれているかどうかを判断する。登録意匠は、新規な特徴か新規ではない特徴かを問わず、全ての特徴を含めた全体として考察されなければならず、比較の際にも全体として考慮されなければならない。被疑侵害意匠が、全体として考察された登録意匠と実質的に異なっている場合、侵害は存在しない。ただし、比較を実施する際に、機能によってのみ定まる特徴、形状または形態は、除外されなければならない。

 

3.視認性

 

 現行の意匠法が制定される前、シンガポールの旧意匠法は、登録意匠が完成品において視覚に訴え、視覚によってのみ判断される特徴(以下「審美性」)を備えていなければならないと定めていた。これは登録意匠に関する旧英国法に基づく要件を反映していた。

 

 審美性はもはや意匠法に基づく要件ではない。ただし、審美性の要件がないとしても、登録意匠として保護を受けるには、意匠が視認可能であることを裁判所は引き続き要求すると思われる。先に引用したHunter Manufacturing Pte Ltd and another v. Soundtex Switchgear & Engineering Pte Ltd and another appealの上訴院判決の第30項は、次のように述べている。

 

 「明らかに、制定法上の定義に基づき完成品に応用される「意匠」の本質は、視覚的に認識される特徴、すなわち物品に具体的な外観を与える形状、形態、模様または装飾の特徴で構成される。物品に応用される視覚的特徴というこの概念は、登録意匠制度の基礎をなすものであり、登録意匠制度は、機能的意匠またはアイディアおよび発明とは対比される、美的価値の保護に関するものであり、これに限定される。」

 

 物品の内部構造の意匠または小さすぎて肉眼では見えない意匠など、視認不能な意匠について明示的に取り上げているシンガポールの事件は存在しない。しかし、意匠は視覚的に認識できるものでなければならないという考えを、シンガポールの裁判所が容易に放棄するとは思えない。

 

 物品の外部から直接見えない意匠に関しては、このような意匠が登録可能であると判示した古い英国の事件が存在する。

 

・Ferrero and CSpa’s Application [1978] RPC 473: チョコレート製イースターエッグの意匠は、当該意匠の一部が卵の内部の外観で構成されており、かかる内部の外観は卵を壊すまでは見えないにも拘わらず、登録可能と判示された。

 

・KK Suwa Seikosha’s Application [1982] RPC 166:デジタル腕時計の表示盤の模様は、腕時計のスイッチを入れなければ視認可能にならないにも拘わらず、登録可能と判示された。

 

 隠れた意匠の場合、物品の使用時に視認できれば登録可能であると理解される。このような「内部の」意匠は、販売時に視認可能な物品外部の意匠と同様に、物品を購入する需要者の意思決定に影響力を及ぼす可能性がある。しかしながら、シンガポールの裁判所がこのような事件をどう取扱うかは、予断を許さない。

タイの意匠特許における機能性および視認性

1.視認性

 

 タイ国特許法(法律第3号)B.E.2542(1999)により修正されたタイ国特許法B.E.2522(1979)の第3条によれば、「意匠」とは、「製品に特別の外観を与え、工業製品および手工芸品に対する型として役立つ線または色の形態または構成」をいう。

 

 この規定は、平面的もしくは立体的な形態により視覚を通じて美的な感覚を喚起しうるものでなければならず、かつ、製造物、商品もしくは工業製品および手工芸品の製造に使用することが可能でなければならないという意匠の定義を含んでいる。そのような例としては、テレビ受像器の形状、カーペットや日よけの色等が挙げられる。ある意匠が保護適格とされるためには、登録出願日の時点で一般に利用されている意匠とは区別される独特の外観を備えていなければならない。

 

1-1.外観の保護

 

 タイ国の法には、視認できない意匠を保護するような具体的な法規は存在しない。製品の意匠が裸眼では目視しえない場合、その意匠は意匠登録には不適格とされる。登録された意匠の範囲は、出願時の願書に収載されていた意匠に基づくとともに、願書に添付された図面に基づいて画定される。

 

 意匠の範囲および登録意匠に類似する意匠については、タイ国特許庁に判断を仰ぐことができる。特許庁の判断に不服がある者は、特許法第74条に基づき、「中央知的財産・国際取引裁判所(Central Intellectual Property and International Trade Court)」(通称:IP&IT裁判所)に上訴を提起し、なおも不服がある場合には「控訴裁判所(Court of Appeals)」に上訴することがきる。

 

1-2.最高裁判所の判決(最高裁判例16702/2555号)

 

 2012年、最高裁判所は(16702/2555号の事件において)、「コップ」と題された原告の意匠は、製品の意匠の形状と外観において、意匠出願0302000881号の意匠と実質的に区別しえないとの判断を示した。問題の意匠特許訴訟の棄却は、「コップ」という意匠の主題の類似性と、後続出願の意匠に対する先行技術となる先出願の意匠に基づくものである。

 

 意匠の新規性に関係する規定は、タイ国特許法第57条に以下のように記されている。

「以下の意匠は新規と見なされず、タイ国特許庁により拒絶されることとする。」(1)出願に先立ち、本邦において他人に広く知られ、または使用されていた意匠;

(2)出願に先立ち、本邦もしくは外国において開示または記述されていた意匠;

(3)出願に先立ち公開されていた意匠;

(4)(1)、(2)または(3)の意匠と外観が酷似しているために模倣とされる意匠;

 

 上述した訴訟の場合、「コップ」は円筒形をなしていて既存の意匠と同一である。カップの上端が幅広で十字(クロス)の模様が施され、底部に鋭い凹みがあって容量がより小さくなることが予想されるのに対し、先行意匠には上端に模様がなく、底部もやや引っ込んでいる程度であるという点のみが、後続意匠を特徴づけるものである。「コップ」は先行技術に改良を加えた意匠に過ぎず、その改良は既存の意匠に対する識別性を構成しないと最高裁は判示している。2つの意匠の差異は観察者の注意を惹く部分に関わるものではなく、観察者の注意を惹く部分については、両者は類似している。両方の意匠を漠然と観察した場合、両者は視覚を通じて同じ美的感覚を生じさせると認識するのが合理的である。したがって両者は類似していると考えられ、タイ国における意匠の登録について適格性を持たないと認定される。以上の結果として、最高裁は原告の訴を棄却した。

 

 また、意匠の新規性は既存の製品によって損なわれるだけでなく、登録された意匠によっても損なわれる。タイ国において意匠登録を取得しようとする者は、1個の製品の全体的な意匠だけでなく、保護される意匠の個別の特徴および構成要素について出願を行うことができる。

 

2.機能性

 

 タイ国においては、機能的な目的に起因する特徴を含んでいる意匠、いわゆる「機能的意匠」は、発明特許もしくは意匠登録として保護されうる。発明特許が、主題が使用され、機能する方法を保護するものであるのに対し、意匠特許は、主題を見せる方法を保護するものである。言い換えれば、意匠特許の眼目は視覚的な外観であって機能性ではない。

 

 一部の国では、「機能性」はいまだに意匠特許を妨げる障害となりうる。いくつかの国の法律は、機能的な意匠に保護を与えていない。その背後にある政策は、技術的な製品もしくは方法に対する特許権を保護するために知的財産制度が弱体化するリスクを避けようというものである。タイ国においては、特許法は機能的意匠の保護について明言していない。しかしながら、タイの裁判所は機能的な製品の意匠に対する登録を否定しようと務めてきた。

 

2-1.意匠保護に関するタイ国の法

 

 タイ国特許法第56条は意匠登録に関して、意匠が登録の要件を満たすためには新規で産業利用可能なものでなければならないと規定している。さらに同法の第58条は、公序良俗に反する意匠および勅令により定められた意匠を含む一定の意匠については登録適格性から排除している。興味深いことに機能的意匠はこの適格性の規定の中で言及されていないことを指摘しておく。制定法には保護を妨げる障害は存在しないにも関わらず、一部の裁判所の判決に示されているように、機能的な特徴を備えた意匠は保護を拒絶されることがありうる。

 

2-2.最高裁判所の判決(最高裁判例16702/2555号)

 

 この訴訟の原告となったタイ企業は、足全体と脚の下の部分を包むブーツを開発した。このブーツの上の方の部分には留め金具がついていた。留め金具はチューブ状の形状をなしており、この金具を紐で結んでベルトを取り付けるようになっていた。それにより、ブーツはベルトでしっかりと装着され、着用中ずっと所定の位置を保つようになっていた。このブーツの意匠の新規な特徴について、2000年に意匠保護が求められた。タイ国知的財産局(DIP)は、当該意匠は新規性に欠けており実質的に先行技術に類似しているとの理由で、上記意匠に関する意匠特許出願を拒絶した。原告はDIPの決定を不服として、中央知的財産・国際取引裁判所(IP&IT裁判所)に上訴し、さらに最高裁への上告を行った。

 

 「意匠」とは、「製品に特別の外観を与え、工業製品および手工芸品に対する型として役立つ線または色の形態または構成」を意味すると規定した特許法第3条における「特別の外観」の解釈を示すことにより、最高裁は、意匠登録による保護される主題は視覚的外観、すなわち意匠の装飾的側面であるとの判断を示した。意匠登録は、主題の「機能性」を保護しないという点で発明特許から区別される。ブーツの調節具、すなわち留め金具は機能的なものであり、意匠特許法が要求する装飾には該当しないため、最高裁は、当該発明の主題が新規性に欠けており、かつ当該意匠はその機能性によって意匠特許に不適格なものとなっているという理由で原告の申立を棄却したIP&IT裁判所の判決を支持した。

 

2-3.評価

 

 上述した法原則および判例は、タイ国内での意匠保護を求める企業に別個の法制度の理解を促すものとなろう。意匠登録は、識別性のある視覚効果を備えた意匠を保護するものであって、機能的な特徴を備えた意匠を保護するものではない。競業者が意匠の機能的な側面を模倣するのを阻止するために、意匠登録を利用することはできない。タイの現在の意匠保護制度がタイ産業界におけるイノベーションを推進する上で妥当なものであるか否かという疑問はある。工業意匠のより広範な側面について、もっと適切な保護を導入することもできよう。新たな制度は、単純な視覚的特徴にとどまらず、機能的にイノベーティブな意匠のあらゆる形態を保護するようなものにすべきである。

フィリピンにおける機能的意匠の取扱い

1.機能性

 

 知的財産法112条は、工業意匠を次のように定義している。

「線もしくは色と関連づけられるか否かを問わず、線もしくは色から成る構図または三次元の形状である。ただし、それら構図または形状は、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、それら物品のための模様として機能することが可能なものでなければならない」

 

 施行規則(IRR)における規則1500では、上記の定義を次のように拡張している。

「工業意匠とは、形、線もしくは色と関連づけられるか否を問わず、形、線、色もしくは以上の結合から成る構図または三次元の形態であって、総体的に、または全体として見た場合に、美的かつ装飾的な効果を生じさせるものをいう。ただし、前記の構図もしくは形態は、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、それら物品のための模様として機能することが可能なものでなければならない。工業意匠には、有用もしくは実用的な技術に属する製造物または(前記製造物の一部が単独で製造販売される場合には)製造物の一部が含まれる」

 

 知的財産法の第113.1条および第113.2条は、保護の実体的要件を以下のように定めている。

(a)新規性または装飾性のある意匠のみが保護されるものとする。

(b)特定の技術的な結果を得るための本質的に技術的もしくは機能的な考察によって決定づけられる意匠、または公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反する意匠は保護されない。

 

 施行規則(IRR)における規則1501は、登録不適格な意匠を以下のように列挙している。

 

(a)特定の技術的な結果を得るための本質的に技術的もしくは機能的な考察によって決定づけられる工業意匠。

(b)工業製品もしくは手工芸品とは別個に存在する表面装飾を配列しただけの工業意匠。

(c)公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反する工業意匠。

 

 以上の知的財産法および施行規則によると、工業意匠が知的財産法に基づく保護を享受するためには、意匠が新規かつ非機能的なものであって、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、かつ、公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反しないものでなければならない。

 

 ほとんどの工業製品は機能的なものであるが、当該物品の機能にとって不可欠ではない外面的特徴は、工業意匠として登録することができる。判例(Conrado de Leon)では、意匠の本質はその全体に――見る者の心裡に何らかの感覚を生じさせる無限定の全体に――宿るという判断が示されている。知的財産法の目的は、単に目を楽しませるだけの装飾芸術および意匠の振興を図ることであり、それが意匠登録の適格な対象となる。工業意匠は、新規で独創的であることに加えて、装飾的でなければならない。装飾とは、暗黙裏に美を指向するものである。すなわち、対象もしくは物品の心地よい外観を与えることが暗黙裏に意図されている。それゆえ、登録可能な意匠は、物品の美しさと魅力的な外観を高め、当該意匠を既知の意匠の特徴もしくは既知の意匠の特徴の組合せとは明らかに異なることを示す差異を明確にするものでなければならない。

 

 フィリピン知的財産庁(以下、「IPPHL」という。)は、意匠出願について、実体審査を行わず、方式審査のみを行う。とはいえ、保護を求められる意匠が機能的なものであると審査官が考えた場合には、審査官は実務上の処分として拒絶理由通知を発行する。これに対する応答書を提出した結果、審査官を納得させることができなかった場合、その出願は拒絶査定を受けることになる。拒絶査定に対しては、以下のような救済手段を利用することができる。

 

(i)出願人は特許局長(Director of Patents)に上訴を提起することができる。

(ii)特許局長が審査官の決定を支持した場合、出願人は知的財産庁長官(Director General)に上訴を提起することができる。

(iii)知的財産庁長官が特許局長の決定を支持した場合、出願人は長官の決定を不服とする上訴を控訴裁判所に提起することができ、最終的には最高裁への上告を行うことができる。

 

 もちろん、機能的な意匠の出願が認められる場合もある。その場合、利害関係者は、登録抹消を求める申立をIPPHLに提起することができる。当該意匠の登録人が意匠特許により保護される物品の製造、使用、販売申し出、販売、輸入等の行為をまったく行っていない場合や、先に他の者に付与された既存の意匠特許が存在する場合、先行意匠特許の特許権者は侵害訴訟を提起し、併せて後続の意匠特許の抹消を求めることができる。この訴訟は民事訴訟として適正な商事地方裁判所(専門のIP裁判所)に提起してもよく、行政訴訟としてIPPHLに提起してもよい。

 

2.視覚性

 

 物品内部のデザインなど、物品使用者が直接視認することができないデザインに関して、知的財産法の工業意匠に関する章は、集積回路のトポグラフィーもしくは回路設計の保護を定めている。同法の第112条は以下のような定義を示している。

 

(d)「集積回路」とは、最終形態または中間形態の回路であって、複数ある素子のうち少なくとも1個は能動素子であり、かつ、相互接続の一部または全体が基板内部また基板表面に集積的に形成され、電子作用を実行させることを目的とするものをいう(改正共和国法律8293号第112条(2))。

(e)「回路配置」とは「トポグラフィー」の同義語であり、どのように表現されるかに関わらず、1個以上の能動素子を含む複数の素子の三次元配置であって集積回路の一部ないし全部が接続されたもの、または製造を目的とした集積回路のために作成された三次元配置図をいう(改正共和国法律8293号第112条(3))。

(f)独創的な回路配置とは、創作者の知的努力の成果であり、かつ当該配置が考案された時点で回路配置設計者もしくは集積回路製造者の間において陳腐ではない回路配置をいう(改正共和国法律8293号第113.3条)。

 

 集積回路の回路設計が登録を認められるためには、独創性を有していなければならない。それ自体としては陳腐な素子および接続の組合せから成る回路設計が登録を認められるのは、その組合せが全体として独創的である場合のみである。(参照:改正共和国法律8293号第113.4条)。集積回路に関する意匠の登録プロセスは、工業意匠の場合と同じである。

 

 ただし、2002年以降に出願された集積回路の回路設計は5件のみであり、いずれの出願も後日になって取下げられ、規則不順守を理由とした権利の喪失が宣告されている。

台湾の意匠特許における機能性および視認性

1. 台湾の意匠特許

 

 意匠特許は台湾においては専利法に基づき保護される。そのため、意匠の創作には特許可能な特許性(新規性および独創性)がなければならない。台湾専利法の第121条(1)は、意匠とは「物品の全部又は一部の形状、模様、色彩又はこれらの結合であって、視覚に訴える創作」を指すという定義を示している。意匠特許出願が許可される前提として実体審査が実施されることになる。

 

1-1. 機能性

 

1-1-1. 機能性の定義

 

 専利法第124条(1)(1)は、専らその機能によって決定づけられる物品の形状は意匠特許付与の対象とはならないと規定している。「意匠特許審査ガイドライン」(以下「ガイドライン」と称する)の第3部第2章は、専ら機能的な意匠を含め、制定法上の特許性を持たない意匠に該当する意匠について更に詳細に述べている(上記の章の2.2条を参照)。特定の物品の特徴が単に当該物品もしくは別の物品の機能もしくは構造に対応するだけのものである場合、それらは専ら機能的な意匠とされる。更に詳しい例を挙げれば、ボルトとナットのねじ山のらせん構造、ピンタンブラー錠とロックキーの切れ込みと歯などは、専ら機能のための特徴である。これらの物品は、それぞれの機能を果たして所期の用途を実現するために、別の物品と噛み合ったり別の物品に装備されたりしなければならない。そのような相互連結的な意匠は特許性を持たない。

 

 ただし、モジュールシステムによる物品を様々な形で連結させてシステム構築を可能にすることを重視して創造された意匠の場合、それらは必然的に特許性を持たないが、個々のモジュールの構成要素は特許性を有するとされる。そのような物品の例としては、ブロック組立玩具、ロボットのプラモデル、セット文房具などが挙げられる。

 

1-1-2. 機能性の審査

 

 意匠特許出願は実体審査の対象となるため、出願された主題が特許適格な意匠の定義に合致するか否かを判断するにあたって、審査官は保護の適用範囲を示した図面を検討することになる。機能的な意匠は、制定法上の特許性を持たない主題として、審査官の拒絶理由通知書によって特許を拒絶される。

 

 過誤により意匠特許が付与された場合、特許権者以外の者は誰でも、意匠特許が専ら機能的なものであって特許性を持たない(専利法141条(1)(1))と主張して当該意匠特許に対し無効訴訟を提起することができる。更に、民事訴訟による瑕疵ある意匠特許の執行に対抗して、侵害訴訟の被告が裁判において特許無効の抗弁を提起する可能性もある。裁判所が本案に関する抗弁を認めた場合、特許権者はその裁判において意匠の特許権を行使することはできなくなる(智慧財産案件審理法第16条)。

 

1-1-3. 機能性に関する判例

 判例:104-特許行政訴訟-No.32 台湾知的財産裁判所の2015年10月22日付判決

 

 Appleは、特に機能専従性を理由としたiPadの意匠特許出願の拒絶を不服として台湾経済部智慧財産局(TIPO)を提訴した。iPadの背面にある制御ユニットは専ら機能的なものであるとTIPOは主張した。しかし、当該制御ユニットが機能を指向するものであるとしても、それらはiPadの異なるモデルで異なる構成部品となっており、それによって創出される背面の形状は同一ではないと裁判所は認定した。製造者が他の構成部品から組み立てられた異なる形状の背面を選択的に採用することによって同じ機能を実現しうるという事実を考慮すると、意匠特許出願の対象となった背面の形状は多くの選択肢の中の1つに過ぎない。問題の形状は、2つの物品の対応する部分の相互連結を規定する基本的な形状ではない。

 

1-1-4. 結言

 

 以上に述べたように、意匠特許は意匠と物品との結合を要求するが、物品とは不可避的に機能性を有するものである。それゆえ、争点となった意匠は機能的であるとはいえ、当該意匠が機能のみならず他と異なる視覚効果を提供する装飾性を作り出すのであれば、それは専ら機能的なものとは言えず、特許性を有することになる。

 

1-2. 視認性

 

1-2-1. 視認性の定義

 

 第一に、制定法の文言には、使用者が目視しえないか小さすぎて人間の目には認識できない一部の装置の内部構造について定めた規定が存在しない。視覚に関係する問題については、意匠の定義によって対処することが可能である。

 

 専利法第121条(1)に規定されている特許適格な意匠の定義は、形状、模様、色彩もしくはそれらの結合に関してなされた、視覚効果による物品の全部ないし一部の創作である。したがって特定の有形物の外部もしくは外観のみが意匠特許の保護対象となる、と「ガイドライン」の第3部第3章1.3.4条は規定している。しかし、光学機器に頼らなければ観察できない微細な物品がすべて排除されるわけではない旨が「ガイドライン」に明記されている。言い換えれば、宝石の微細なカットやLEDのように極度に微細な物品が通常は顕微鏡の利用によって目視可能となる場合、意匠特許によって保護されうる。注目すべきは、使用時には見えない物品に施された意匠(自動車の内部に取り付けられるエンジンの部品や固定具の意匠等)についても意匠特許の付与が認められるという点である。したがって、ある物品がその物品寿命のいずれかの時点で1名以上の対象となる使用者もしくは消費者によって目視される場合、その物品は「使用時に目視可能」と見なされる。最も普通に見受けられる例は、人体の内部に設置される医療機器であろう(移植用血液ポンプに関する意匠特許D146687号、骨釘に関する意匠特許D136430等)。これらの医療機器は移植に先立って患者に見せられるものであるが、ひとたび移植されてしまえば、機能を果たしている間は目に見えないものである。

 

1-2-2. 視認性の審査

 

 実体審査の過程で、目視しえない意匠に関する出願は審査官の拒絶理由通知書によって拒絶されることになる。ただし、その意匠が通常の使用状況でのみ目視しえないものである場合には特許付与の対象となりうる。

 

 目視しえない意匠に関する出願に対して、過誤により意匠特許が付与された場合、特許権者以外の者は誰でも、意匠特許が特許性を持たない(専利法141条(1)(1))と主張して当該特許に対し無効訴訟を提起することができる。更に、瑕疵ある意匠特許に対して侵害訴訟の被告が同様な特許無効の抗弁を提起することもありうる(智慧財産案件審理法第16条)。

 

1-2-3. 視認性の判例

 

 物品の内部構造の意匠に関する具体的な判例を探し出すことはできなかったが、物品が別の装置に組み込まれて使用される際には目視しえない意匠を対象とした意匠特許は数多く見受けられる。

 

1-2-4. 結言

 

 特定の物品の内部が意匠特許によって保護されないとしても、全体として意匠特許を付与されている物品が他の装置の内部に使用された場合に保護されなくなるわけではないという点を指摘しておく。ある物品が意匠特許登録されているが、その物品は他の装置に装備されるものであって、当該装置が実際に使用されている間、慣習的な使用条件の下では特許物品は隠れていて目視しえないと仮定してみよう。そのような場合にも、登録意匠が適用された物品が組み込まれた装置の使用は侵害と見なされる。たとえば、あるエンジンの外観が意匠保護の対象として登録されている場合、当該エンジンを装備した車両の販売および運転は、運転している者の目にはエンジンが見えないとしても特許侵害に相当するおそれがある。

南アフリカにおける知的財産権関連制度の運用実態

南アフリカにおける知的財産権関連制度の概要

【詳細】

 アフリカ諸国における知的財産権制度運用実態及び域外主要国による知財活動に関する調査研究報告書(平成26年2月、日本国際知的財産保護協会)3-2-(1)

 

(目次)

3 各調査対象国の知的財産権関連制度

 3-2 各主要対象国の知的財産権関連制度の概要

  (1) 南アフリカ P.15

(添付資料1) アフリカ諸国の産業財産権法一覧

(添付資料2) 各調査対象国の知的財産関連制度(国内法制及び条約)

(添付資料3) 主要対象国の知的財産関連制度(国内法制及び条約)

(添付資料4) 主要対象国の知財庁等のURL等