台湾改正専利法要綱(前編)
(1)新規性喪失の例外に関する規定をさらに緩和
2016年に改正され、2017年に施行された専利法において、特許および実用新案の新規性喪失の例外規定の適用期間が6か月から12か月に延長された(専利法第22条第3項、専利法第120条で準用)。旧法で規定された例外事由には、出願前に実験により公開実施されたことや、刊行物へ記載等があったが、改正後の現行規定では、「出願人の意思で、または意に反して公開に至った事実が発生してから十二月以内に出願したものについて」も例外事由とされ、規定が大幅に緩和された(専利法第22条第3項、専利法第120条で準用)。いわゆる「出願人の意思」には、出願人自らの公開だけでなく、他人による公開に同意することも含まれる。そして、「意に反して公開」とは、例えば他人の盗用による公開、出願人が雇用または委任する相手の錯誤または過失による公開を指している。
旧法では、例外規定の適用を主張する場合、「出願時」に主張しておかなければならなかったが(旧専利法第22条第4項)、改正法では当該制限が削除された。このため、出願の時点で主張する必要はなくなったが、実体審査時に、台湾知的財産局(以下、「台湾知財局」という。)が必要と認めた場合、出願人にその事実の釈明と関連証拠の提出を命じることができるとしている。
一方、意匠についても、新規性喪失の例外規定の適用事由を「出願人の意思で、または意に反して公開」まで緩め、「出願時に主張する」という規定もなくなったが、例外適用期間は6か月のままとなっている(専利法第122条第3項)。
(2)外国語書面出願
特許、実用新案、意匠において認められている外国語書面出願において、使用できる外国語がアラビア語、英語、フランス語、ドイツ語、日本語、韓国語、ポルトガル語、ロシア語、スペイン語の9か国語になり(専利審査基準第一篇程序審査及專利權管理、第二章專利申請書、7.其他敘明事項)、外国語書面それ自体の補正ができないこと(専利法第44条第1項)、補正および訂正の範囲も外国語書面の記載の範囲内で認められることが明記された(専利法第44条第2項、第67条第3項、第110条第2項、第133条第2項、第139条第3項)。
なお、詳細については、「台湾専利法における誤訳対応」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18374/)のコンテンツを参照されたい。
(3)専利明細書の出願様式
特許および実用新案について、国際的趨勢に対応するため「請求の範囲」および「要約」を明細書から独立させた(専利法第25条第1項、第106条第1項)。
(4)譲渡証の提出
特許、実用新案または意匠を出願する際に必要とされた譲渡証が不要となった。
(5)優先権主張手続
特許および実用新案の優先権証明書類の提出期限は、最先の優先日から16か月以内(専利法第29条第2項)、意匠は10か月以内(専利法第142条で準用する第29条第2項)に、それぞれ延長された。
特許、実用新案、意匠について、故意なく優先権主張をしなかった場合、優先権主張の回復申請が可能となった(専利法第29条第4項、専利法第120条または第142条で準用する第29条第4項)。
(6)特許実用新案同日出願
2011年の改正に際し、特許と実用新案の同日出願制度が導入された(専利法第32条)。同一人が同一の創作について同日に特許出願と実用新案出願を行い、特許査定前に実用新案権を取得している場合は、特許権か実用新案権のどちらかを選択しなければならない。特許を選択した場合、実用新案権は消滅する(専利法第32条第2項)。実用新案権がすでに期間満了している場合は、特許権を選択することができない(専利法第32条第3項)。
2013年の改正時に、同日出願をした場合、出願時にその旨を明記しなければならないとの規定が新設された(専利法第32条第1項)。これにより、実用新案権の公告時に、出願人が同一の創作の特許出願をしていることを、公衆に知らしめることができるようになった。この改正後、出願人に出願時に同日出願を表明する義務が課され、2出願の内の両方もしくはいずれかの願書において明記していなかった場合、特許を受けることができないことが明文規定された。
さらに、旧法の規定によると、特許を選択した場合、実用新案権は初めから存在しなかったものとみなされたが、それは出願人に極めて不利であるのみならず、当該実用新案権の許諾や譲渡がなされていた場合に、ライセンス料や代金の返還が必要か等の問題が発生していた。このため、改正法では接続保護という制度が採用され、出願人が特許を選んだ場合、その実用新案権は特許の公告日から消滅することが規定された(専利法第32条第3項)。
また、実用新案権の取得後から特許公告までの間になされた他人の実施行為については、「実用新案の損害賠償請求権」、または「特許の補償金請求権(警告等の条件有り)」のいずれかを選択して行使することができる(専利法第41条第3項)。
(7)専利出願補正制度
特許において、審査遅延防止目的で最後の拒絶理由通知制度が設けられ、出願人が特許庁から最後の拒絶通知を受領した後は、新規事項追加の制限に加え、補正目的も制限されることになった(専利法第43条第4項)。
なお、詳細については、「台湾専利法における誤訳対応」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18374/)のコンテンツを参照されたい。
(8)分割手続
特許について、分割時期を明確化するとともに時期的制限が緩和された。2019年の改正法において、出願人は初審または再審査の特許査定送達後3か月以内に分割請求を行うことができるようになった(専利法第34条第2項第2号)。実用新案権についても、登録処分書送達後3月以内に分割請求ができるとする規定が新設された(専利法第107条第2項第2号)。
なお、2019年の改正法では、重複出願を避けるため、分割出願が可能なのは、原出願の明細書または図面に開示されている発明であり、かつ特許査定の請求項と同一の発明でないものでなければならないと規定されている(専利法第34条第6項、実用新案は第120条で準用する)。
(9)年金追納
特許、実用新案、意匠について、出願人または専利権者が故意なく期限内に納付しなかったために失効した権利について、年金を追納することで権利回復を認める制度が導入された(専利法第52条および第70条、専利法第120条または第142条で準用する第52条第1項、第2項および第4項ならびに第70条)。査定後に納付すべき1年目の年金の場合は2倍、2年目以降の年金の場合は3倍の金額を支払う必要がある。
(10)特許存続期間延長
特許のみに認められる存続期間延長について制限が緩和され、特許発明の実施不能期間が特許公告後2年未満でも延長請求可能になった(専利法第53条)。
なお、詳細は「台湾における特許権の存続期間の延長制度」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/20107/)のコンテンツを参照されたい。
(11)~(21)については、台湾改正専利法要綱(後編)(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/trend/22620/)をご覧ください。
((11)専利権効力の制限、(12)専利実施許諾、(13)強制実施権の設定、(14)無効審判、(15)損害賠償、(16)情報提供制度の導入、(17)実用新案権の訂正請求に関する時期的制限、(18) 実用新案権者が警告する際の実用新案技術評価書の提示、(19)意匠の重要改正、(20)専利権水際取締対策、(21)留意事項)
台湾改正専利法要綱(後編)
(1)~(10)については、台湾改正専利法要綱(前編)(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/trend/22617/)をご覧ください。
((1)新規性喪失の例外に関する規定をさらに緩和、(2)外国語書面出願、(3)専利明細書の出願様式、(4)譲渡証の提出、 (5)優先権主張手続、(6)特許実用新案同日出願、(7)専利出願補正制度、(8)分割手続、(9)年金追納、(10)特許存続期間延長)
(11)専利権効力の制限
特許、実用新案、意匠について、専利権者が商業目的ではない未公開の行為、第2年目以降の年金追納による権利回復の場合の善意による実施行為(準備完了の場合を含む)が、専利権の効力が及ばない事由に追加された(専利法第59条、専利法第120条または第142条で準用する第59条)。
また、特許についてのみ、薬事法の薬物査験登録許可等取得目的の研究試験等の行為が、効力が及ばない事由に追加されている(専利法第60条)。
なお、2016年の改正による新規性喪失の例外規定適用期間の緩和に合わせ、特許権、実用新案権の先使用権に関する規定が「出願前にすでに国内で実施、または実施に必要な準備を完了していたとき。ただし、専利出願人からその発明を知った後6月を経過しておらず、かつ、専利出願人がその専利権を留保することを声明した場合は、この限りでない」(専利法第59条第1項第3号、専利法第120条で準用する)となっていたが、この“6月”という期限が現行では“12月”に改正されている。一方、意匠権については、“6月”のままとなっている(専利法第142条第4項)。
(12)専利実施許諾
特許について、実施許諾には専用実施権と通常実施権があり、専用実施権の範囲内では特許権者の実施も排除されること、特許権に複数の質権を設定した場合の優先順位は、登録順位によることが明記された(専利法第62条)。
また、専用実施権者と通常実施権者の再許諾権の存在を明記し、通常実施権者の再許諾権行使には特許権者および専用実施権者の同意が必要であること、再実施は登記が第三者対抗要件であることを明記した(専利法第63条)。
実用新案および意匠も特許と同じ扱いである(専利法第120条または第142条で準用する第62条および第63条)。
(13)強制実施権の設定
特許および実用新案の強制実施権について、「特許実施」という名称を「強制授権」に変更し、強制授権処分の際、補償金を明記することになった(専利法第87条~第89条、専利法第102条で準用する第86条~第89条)。
意匠に強制実施権制度はない。
(14)無効審判
特許について、職権による無効審判の開始の手続が廃止され、請求による開始のみになった(専利法第71条第1項)。無効審判の審理基準は特許査定時が基本であり(専利法第71条第3項)、請求項ごとに無効審判が請求できる旨が明記された(専利法第73条第2項)。
実用新案には従来から職権による無効審判の開始の手続はない。また、無効審判の審理基準は登録査定時であり(専利法第119条第3項)、その他の特許の無効審判の規定を準用しているので(専利法第120条で準用する第72条~第82条)、特許と同じ扱いとなる。
意匠については、職権による無効審判の開始の手続が廃止され、請求による開始のみとなり(専利法第141条)、無効審判の審理基準は登録査定時が基本であり(専利法第141条第3項)、その他の規定についても特許の無効審判の規定を準用しているので(専利法第142条で準用する第72条~第82条)、特許と同じ扱いになる。
また、審理期間の遅延や専利権者(被請求人)による証拠補完の乱発を防ぐため、2019年の改正法で、審判請求人による請求の理由または証拠の補完は、審判請求後3か月以内に行わなければならず、期限を過ぎて提出したときは、参酌しないと規定されている(特許は専利法第73条第4項、実用新案は専利法第120条で準用し、意匠は専利法第142条第1項で準用する)。
一方、同改正法では、無効審判の審理期間内に専利権者が訂正を望む場合、答弁もしくは補充答弁の通知を受けたとき、または応答期間内に限り訂正請求をすることができるとした(専利法第74条第3項、実用新案は専利法第120条で準用し、意匠は専利法第142条第1項で準用する)。ただし、訴訟係属中である場合はこの限りでないとしている(特許は専利法第74条第3項但書、実用新案は専利法第120条で準用し、意匠は専利法第142条第1項で準用する)。
なお、無効審判の審理期間内における訂正は、無効審判の結果にも影響を及ぼすことになるため、訂正後の明細書、特許請求の範囲、または図面の副本を審判請求人に送達することになっている。この点ついて、2019年改正法では、その訂正が請求項の削除のみである場合、台湾知的財産局(以下、「台湾知財局」という。)が審判請求人に意見を求める必要が無く、そのまま審査を進めることができると規定しており(特許は専利法第77条第2項但書、実用新案は専利法第120条で準用し、意匠は専利法第142条第1項で準用する)、その請求項の削除は訂正が公告されてから出願日に遡及して効力が及ぶとしている。つまり、専利権者が削除した請求項の権利範囲は、初めから存在していないものとみなされ、削除された請求項はまた、無効審判の請求対象でもなくなるため、審判請求人の利益を損なうことがない上、無効審判の審理においても利点があるといえる。
さらに、台湾知財局が必要であると認めて、審判請求人に意見を陳述するよう通知し、もしくは専利権者に補充答弁若しくは応答するよう通知する場合、審判請求人または専利権者は、通知送達後1月以内に陳述等を行わなければならず、期日の延期が認められた場合を除き、期日までに行わない場合は、参酌しないとしている(特許は専利法第74条第4項、実用新案は専利法第120条で準用し、意匠は専利法第142条第1項で準用)。
なお、詳細は「台湾における特許無効審判制度の概要」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/20104/)のコンテンツを参照されたい。
(15)損害賠償
特許について、損害賠償請求の主観的要件として故意または過失が必要である旨が明記された(専利法第96条第2項)。
また、損害額の算定方法について、権利者が損害を受けた額、失われた利益の額、権利侵害者が侵害行為により得た利益の額等の他、旧法では「当該特許権の実施許諾により取得するライセンス料に相当する金額」と規定されていたが、2013年に「当該特許権の実施許諾により取得する合理的なライセンス料に相当する金額を基にして算出した損害の額」に改正された(専利法第97条第1項第3号)。
本改正が行われた理由として、旧法の規定のままでは、賠償の際に権利侵害者がライセンス料に相当する金額を支払うだけで済んでしまい、事前に許諾を得る必要がないという弊害があったことが挙げられている。実用新案および意匠も特許の損害賠償規定を準用しているので、特許と同様である(専利法第120条及び第142条で準用する第96条~第98条)。
(16)情報提供制度の導入
特許について、特許公開公報発行から特許査定前までに、誰でもその特許出願が拒絶されるべき理由の陳述を証拠書類と共に、台湾知財局に提出することができる(専利法施行細則第39条)。情報提供者の氏名を非公開にすることを台湾知財局に要求することもできる。
実用新案および意匠には、情報提供制度はない。
(17)実用新案権の訂正請求に関する時期的制限
2019年の法改正では、実用新案権の訂正請求ができる時期を、以下の3つに限定している。1)無効審判を請求され、専利権者が答弁もしくは補充答弁をするよう通知を受けたとき、または応答期間内(専利法第120条で準用する専利法第74条第3項)。2)実用新案技術評価書の請求が受理されているとき。3)訴訟に係属しているとき(専利法第118条第1、2号)。
また、この訂正請求に対する審査は、形式審査から実体審査に変更されている(専利法第120条で準用する専利法第67条)。
(18)実用新案権者が警告する際の実用新案技術評価書の提示
実用新案権者が警告する際に、実用新案技術評価書の提示が必要かどうかについて、旧法では明確に規定されていなかったため、実務上の見解も一致していなかった。この問題を解決するため、2013年の法改正において、当時の日本実用新案法第29条の2の規定を参考にして、実用新案技術評価書を提示しなければ、警告することができないと改正された(専利法第116条)。
(19)意匠の重要改正
(ⅰ)名称の変更
台湾では意匠について「新式樣専利」という表示を用いてきたが、「設計専利」に変更された(専利法第2条第3号など)。
(ⅱ)存続期間の延長
意匠権の存続期間は、2019年の改正により、12年から15年まで延長され(専利法第135条)、2019年11月1日の施行日当時に存続している意匠権は全て新法が適用されることになった(専利法第157条の4)。
(ⅲ)部分意匠の導入
専利法第121条第1項は「意匠とは、物品の全部または一部の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合であって、視覚を通じて遡及する創作を指す」と規定し、部分意匠を導入した。
(ⅳ)グラフィカル・ユ-ザー・インターフェースなど
専利法第121条第2項により、コンピュータのアイコンやグラフィカル・ユーザー・インターフェースについても、意匠出願できるようにした。
(ⅴ)組物の意匠
専利法第129条で一意匠一出願の原則が定められているが、2以上の物品がロカルノ分類の同一類別に属し、習慣上、組物の意匠として販売または使用するものである場合、一意匠として出願することができると規定し、組物の意匠の規定が新設された。
(ⅵ)連合意匠の廃止と関連意匠の導入
連合意匠制度が廃止され、関連意匠(中国語「衍生設計」)制度が設けられた(専利法第127条)。関連意匠は本意匠と類似でなければならない(専利法第127条第1項)。本意匠には非類似で関連意匠にのみ類似する意匠を関連意匠として出願することはできない(専利法第127条第4項)。関連意匠の出願は本意匠と同日かそれ以降に行い(専利法第127条第2項)、本意匠の登録公報発行前までに行う必要がある(専利法第127条第3項)。
台湾意匠法も先願主義を採用しているので(専利法第128条第1項)、互いに類似する意匠は、出願人が同一であっても、一方の出願しか登録できないのが原則である。しかし、関連意匠制度を利用すれば、先願主義の適用を免れる結果、両意匠とも登録する道が開かれた(専利法第128条第4項)。
(20)専利権水際取締対策
2014年の改正で、商標法の水際取締措置を参考にして、専利法にも水際取締に関する規定が導入された(専利法第97条の1~4)。これに合わせて、税関も《税関による専利権侵害物差止実施要項》、《税関による専利及び著作権権益保護措置執行に際する作業要項》等を制定した。
専利権者は、輸入される品がその専利権を侵害するおそれがある場合、税関が査定した輸入品の課税価格に相当する額の保証金または担保を供託した上で、輸入の差止めを請求することができる(専利法第97条の1第1項、第2項)。一方、被差止人は、前記の保証金の倍額を供託して、税関に対し差止めを解除し輸入貨物の通関に係る規定により取り扱うことを請求することができる(専利法第97条の1第3項)。そして、専利権者が税関からの差止め受理の通知があった日の翌日から12日以内に差止品を侵害品として訴訟を提起しない場合、税関は差止めを解除しなければならない(専利法第97条の2第1項第1号)。
(21)留意事項
2011年に大幅な法改正が行われた後、何度か小規模な改正も行われている。新規性喪失の例外規定のさらなる緩和、特許実用新案同日出願に関する権利期間の継続性、損害賠償額の算定方式の改正、意匠権の存続期間の延長など、権利者に有利な法改正となった。また、実用新案権の訂正可能時期が制限されて権利範囲の安定につながり、その訂正について実体審査が行われることで、権利範囲が確定され争議を効率的に解決できるようになった。そして、無効審判手続きも、法改正により効率的に行われるようになる見込みである。この他、台湾知財局は現在新たな改正草案において、訴願制度の代わりに、日本特許庁の審判部や審判制度を導入しようとしている動きがあり、今後もその動向を注視していく必要がある。