韓国におけるロイヤルティ送金に関する法制度と実務運用の概要
1. ロイヤルティ送金に関する法制度
(1) ロイヤルティ送金に関する法規定は、外国為替取引法と外国為替取引規程等の適用を受ける。
(2) ロイヤルティに関する課税は、法人税法、所得税法、地方税法、および付加価値税法等で定めている。
(3) 日本と韓国の間には、「大韓民国と日本国間の所得に対する租税の二重課税の回避と脱税防止のための協約」(以下「韓日租税協約」という。)※1により、制限税率が適用される。
※1 韓国での名称。日本においては「韓国との租税(所得)条約(所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と大韓民国との間の条約)」という。
2. ロイヤルティ送金に伴う課税
(1) ライセンサーが個人であれば所得税法が適用され、法人であれば法人税法が適用される。外国法人の使用料所得に対する基本税率は20%である(法人税法第93条第8号、第98条第1項第6号)。
(2) しかし、日韓の間には、韓日租税協約が優先し韓日租税協約第12条第1項によると、一方の締約国で発生し、他方の締約国の居住者に支給される使用料に対しては、同他方の締約国で課税することができる。
しかし、そのような使用料は、使用料が発生する締約国でも同締約国の法により課税され得る。ただし、使用料の収益的所有者が、他方の締約国の居住者である場合、そのような付加される租税は、使用料総額の10%を超過することはできないと規定している(韓日租税協約第12条第2項)。
(3) 上記において「使用料」(ロイヤルティ)とは、ソフトウェア、映画フィルムおよびラジオとテレビ放送用フィルムやテープを含む文学的、芸術的または学術的作品に関する著作権、特許権、商標権、意匠、実用新案、図面、秘密公式や工程の使用、または使用権、産業的・商業的または学術的装備の使用、または使用権、産業的・商業的または学術的経験に関する情報の対価として受ける全ての種類の支給金をいう。
上記のいずれかに該当する権利、資産または情報を国内で使用したり、その対価を国内で支給したりする場合、その対価およびその権利等を譲渡することにより発生する所得を国内源泉使用料の所得と定めている(法人税法第93条第8号ハ)。
3. ロイヤルティの送金手続きおよび様式
3-1送金(支払い)等の認可基準
(1) 1件当たり米ドル5千ドルを超える支給等をしようとする場合、外国為替銀行の長に、支給等の事由と金額を立証する書類を提出しなければならない(外国為替取引規程第4-2条第1項)。
(2) 国内居住者は、年間累計金額が米ドル10万ドル以内である場合、別途の証憑書類なしに支給等ができるようになった。なお、2023年7月4日以前は年間で米ドル5万ドルだった(外国為替取引規程第4-3条第1項第1号及び同項第2号)。
(3) 支払等をしようとする者は、当該支払等をするに先立ち、当該支払等またはその原因となる取引、行為が法、令、この規程および他法令等により申告等をしなければならない場合には、その申告等を先に行わなければならない(外国為替取引規程第4-2条第2項)。
(4) 支給等をしようとする者は、第1項による支給等の証憑書類を、電子的方法を通じて提出することができる(外国為替取引規程第4-2条第6項)。
(5) 条約および一般に承認された国際法規と国内法令に反する行為に関する支給等をしてはならない(外国為替取引規程第4-1条第2項)。
3-2租税条約上の制限税率を受けるための証憑書類
(1) 外国法人に対する租税条約上の制限税率適用のための源泉徴収手続の特例規程に基づき、法人税法第98条の6第1項により制限税率の適用を受けようとする国内源泉所得の実質帰属者は、企画財政部令で定める国内源泉所得の制限税率適用申請書※2を該当国内源泉所得の支給を受ける前までに源泉徴収の義務者に提出しなければならない(法人税法施行令第138条の7第1項)。
※2 国内源泉所得制限税率適用申請書(外国法人用)(法人税法施行規則/別紙第72号の2書式)
https://www.law.go.kr/LSW/flDownload.do?gubun=&flSeq=129921229
(2) 外国法人に対する租税条約上の制限税率適用のための源泉徴収手続の特例規程に基づき、法人税法第93条による国内源泉所得の実質帰属者である外国法人が租税条約による制限税率の適用を受けようとする場合には、大統領令で定めるところにより制限税率適用申請書および国内源泉所得の実質帰属者であることを証明する書類を第98条第1項による源泉徴収義務者に提出しなければならない(法人税法第98条の6第1項)。
3-3外国為替取引の秘密保障
外国為替取引法による許可、認可、登録、申告、報告、通報、仲介、中継、集中、交換等の業務に従事する者は、その業務に関して知り得た情報を「金融実名取引および秘密保障に関する法律」第4条において定める場合を除いては、この法で定める用途ではない用途で使用したり、他人に漏洩したりしてはならないと規定している(外国為替取引法第22条)。
4. 日本企業が円滑に手続きを踏むための注意点
韓国企業が日本等の外国にロイヤルティ送金を行うことにおいて、送金前に納付しなければならない税金の源泉徴収関連法規等を綿密に調べなければならない。そうしなければ、その後に税務調査を受けることになり、各本税および加算税まで負担することになる等の問題が発生する可能性がある。実務的には税務関連の専門家の意見を聞くことが必要であると思われる。
台湾におけるロイヤルティ送金に関する法制度と実務運用の概要
台湾においては、ロイヤルティ送金について、特別の規制はない。そこで、以下では、ロイヤルティに課される営利事業所得税を中心に紹介する。
1. 営利事業所得税
台湾において業務上の活動を行っている営利事業者には、所得税法に従って営利事業所得税が課される(所得税法第3条第1項)。営利事業所得税は、日本では概ね法人税に相当する税金である。
本社が台湾域外にある営利事業者については、台湾源泉所得がある場合、営利事業所得税が課税される(同条3項)。専利権、商標権、著作権、ノウハウ(中国語原文:秘密方法)および各種特権(中国語の原文は「特許」。なお、日本語の知的財産の「特許」とは意味が異なる。)を台湾域内において他人の使用に供することで取得するロイヤルティは、台湾源泉所得となる(同法第8条第6号)。そのため、日本企業が、台湾におけるこれらの権利の使用の対価として台湾企業からロイヤルティを受領した場合、営利事業所得税の対象となる。ロイヤルティは、源泉徴収の対象となっており、ロイヤルティを支払う台湾企業は、支払額から20%を控除し、日本企業に代わって国庫に納める必要がある(同法第88条第1項第2号及び各種所得にかかる源泉徴収税率基準第3条第1項第6号)。支払企業は、税金を控除の上、支払をした日から10日以内に、控除した税金を国庫に納付し、源泉徴収票を発行し、管轄税務当局に申告し審査を受けた後、納税義務者に交付しなければならない(同法第92条第2項)。
以上が原則であるが、以下のような減免制度が活用できる可能性がある。
2. 免税制度
営利事業者が新たな生産技術または製品の導入のため、または製品の品質向上、生産コスト削減のため、外国の営利事業者が有する専利権、商標権および各種特権を使用する場合において、主務官庁によりプロジェクトが承認された場合、その外国事業者に支払うロイヤルティに関する所得税の納付が免除される(所得税法第4条第1項第21号前段)。この免税の適用を受けるためには、主務官庁に申請し承認を得た後、税務当局に申請し審査を受けなければならない)(所得税法施行細則第8条の7)。
よって、日本企業が収受するロイヤルティは、一定の要件が満たされる場合、免除を受けることができる可能性がある。免税申請の流れの概要は、以下のとおりである。
(1) 申請者(ロイヤルティを受領する企業)は、必要書類を揃え、経済部産業発展署に免税承認書の発行を申請する。
経済部産業発展署は、「外国営利事業者が収受する製造業・技術サービス業および発電業のロイヤルティおよび技術サービス報酬に関する免税案件の審査原則」(中国語:外國營利事業收取製造業技術服務業與發電業之權利金及技術服務報酬免稅案件審查原則)に従い審査する。
なお、必要書類および審査原則は、以下の経済部産業発展署の「0048外国営利事業に対する技術サービス報酬およびロイヤルティの免税証明申請」のページで詳しく説明されている。https://www.ida.gov.tw/ctlr?PRO=application.rwdApplicationView&id=50
免税期間の上限は、3年であるが、期間が満了する前に同様の手続で再申請することができる(同審査原則第11条の1)。
(2) 経済部産業発展署から免税承認書を取得した後、申請者は、国税局に免税を申請する。北部国税局が公告している「営利事業所得税の処理期間」によれば、当該免税申請の処理期間は60日である。
なお、この申請については、以下の北部国税局の「ロイヤルティおよび技術サービス報酬の免税専区」のページで詳しく説明されている。
https://www.ntbna.gov.tw/multiplehtml/f43a4d51d79c4e9e9690b2748d6cb2e3#gsc.tab=0
3. 日台民間租税取り決め
日台民間租税取決め(正式名称は「所得に対する租税に関する二重課税の回避および脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め」である。)では、「一方の地域内において生じ、他方の地域の居住者に支払われる使用料」の限度税率が10%と規定されている(日台民間租税取決め第12条第1項、2項)。日台民間租税取決めについては、以下の日本国税庁「日台民間租税取決めに定める相互協議手続について」のページで詳しく説明されている。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/nichitai/01.htm
また、「所得税協定適用審査準則」第25条では以下の旨が規定されている。
(1) 他方締約国(即ち、日台民間租税取決めの日本)の居住者が台湾からロイヤルティを取得し、その者が台湾域内に常設の機構または固定の場所を有しない、またはその権利とその台湾域内に常設の機構または固定の場所が実際には関連がない場合、源泉徴収義務者は支払時に、所得税協定(即ち、日台民間租税取決め)に規定する限度税率に基づき税金を控除することができる(第1項)。
(2) 他方締約国の居住者が、前項の規定に基づき限度税率を適用する場合、適用法令に従い、他方締約国の税務機関が発行した居住者証明およびその居住者が当該所得の受益所有者であることの証明を、源泉徴収義務者が源泉徴収申告を行うための証明として提供しなければならない。税務当局に源泉徴収申告する際、適用する所得税協定の条文を記載し、前記の所得者に提供された証明書類および所得計算に関する証明書類を提出しなければならない(第2項)。
以上のように、日本企業は、台湾企業からのロイヤルティを収受する場合において、源泉税率を20%から10%への軽減を受けるためには、支払者の協力が必要であり、かつ一定の書類の提出が要求される。したがって、契約締結の段階から、日台民間租税取り決めを考慮した上で双方の権利義務を規定しておくべきである。
なお、申告に必要な書類は、以下の国税局の「租税取り決めの限度税率適用申請書(源泉徴収義務者が源泉徴収申告を行う場合専用)」のページでも説明されている。
4. 送金手続
最後に、海外送金に関連する中央銀行の規制を紹介する。
まず、新台湾ドル両替がない外貨資金の出入りは、特に規制の対象とはならない。一方、新台湾ドル両替を伴う外貨資金の出入りについては、以下のように、一定の場合「外国為替収支又は取引申告弁法」第2条第1項および第5条第1号に基づく申告が必要である(銀行を通じて中央銀行に提出。なお、以下の説明は、支払人が会社である場合を想定した内容である。)
(1) 毎回の為替決済金額が50万新台湾ドル相当未満の場合
申告書を提出する必要はない。
(2) 毎回の為替決済金額が50万新台湾ドル相当以上の場合
申告書を提出する必要がある。この申告書については、以下の中央銀行の「外国為替収支または取引申告書(2021.6.29改正公布)」のページで詳しく説明されている。
https://www.cbc.gov.tw/tw/cp-378-50430-F7FFA-1.html
(3) 1回あたりの為替決済金額が100万USドル相当以上である場合
申告の際に、当該回の外国為替収支または取引に関する契約書、承認書またはその他の証明書類を添付する必要がある。これらの添付書類は、銀行に提出して、申告書の記載事項と一致することについて確認を受ける必要がある。
5. 注意事項
(1) 以上はロイヤルティについての説明であるが、支払が、ロイヤルティであるか、技術サービス報酬であるか、あるいは知的財産権の購入代金に該当するか、すなわち給付の性質によって扱いが異なる。また、給付の性質の認定は、主に双方が締結した契約の実質的な提供サービスの内容および提供方法により決まる。どれに該当するか疑義がある場合には、予め専門家に相談した上で、契約における文言を決定することが望ましい。
(2) 免税の申請、日台民間租税取り決めの適用を受けるためには、双方の協力が必要となる。したがって、契約締結の段階で、十分に協議をしておくことが望ましい。
(3) ライセンス契約書において、ロイヤルティに関する税を「支払者」が負担する旨既定する場合、契約書に規定されたロイヤルティの金額が、源泉徴収後の金額であるか否かを明確に定めておくことが望ましい。また、この場合源泉徴収税を含めた支払総額を計算の上、合意しておくことが望ましい。
(4) 税務については、しばしば変更があることが一般的であり、また、以上の説明は概要の説明に過ぎない。実際の作業は、税務、法務の専門家と相談の上進めることを推奨する。また、以上の説明は、台湾法の観点からの主にロイヤルティに特有の規制を説明したものであり、日本法の観点からの説明は含まない。
中国におけるロイヤルティ送金に関する法制度と実務運用の概要
1.ロイヤルティ送金に伴う契約届出義務
「中国外貨管理条例」の関連規定により、国際貿易におけるサービス、荷物などのよくある貿易項目に基づき海外へ送金する場合、「真実かつ合法な取引基礎」を有しなければならない(中国外貨管理条例第12条)。実際に銀行などの金融機関を通じて海外に送金する際に、関連金融機関は、当該取引の真実と合法性を審査し、取引の真実と合法性を証明できる資料(契約書、インボイス、当局による届け出証明、税務証憑など)の提出を要求する。
「中国商標法」、「専利法実施細則」、「技術輸出入管理条例」などの法律・規定によると、ライセンス契約書を締結した後、商標ライセンス、専利ライセンス、ノウハウライセンスなどの場合(対象となる技術が自由輸入技術に該当する場合)、当局への届出が要求されているが(中国商標法第43条、専利法実施細則第14条、技術輸出入管理条例第18条)、届出はライセンス契約の効力発生要件ではなく、また契約届出を怠ったことによる罰則もない。しかしながら、ロイヤルティを海外送金する際に「技術輸入契約登記証」などの関連当局が発行する届出証明書類等の提出が金融機関から要求されることから(技術輸出入管理条例第39条)、届出をしていない場合、海外送金に支障が出る恐れがある。そのため、関連法令の要求に従い、届出を行っておくことが無難である。ライセンス契約届出手続に関する詳細は、下記【ソース】に示す「専利ライセンス契約届出弁法」、「商標ライセンス契約届出弁法」、「著作権契約届出申請書及び証明書の規範化に関する通知」をご参照いただきたい。
2.ロイヤルティ送金の必要書類
ロイヤルティを送金する際、実務においては、通常、下記書類の提出が要求される。
2-1.商標ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4) 税務証憑
(5) 商標主管部門発行の届出証明
なお、一部の銀行は、金額が少ない場合、上記の資料を提出せずに送金できるようになった。
2-2.専利ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「技術輸入許可証」または「技術輸入契約登記証」
(5)「技術輸入契約データ表」
(6) 税務証憑
(7) 専利主管部門発行の届出書証明
(8) 会計事務所が発行する売上高の信憑性を証明する資料(支払金額が売上高に連動する場合)
2-3.ノウハウライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「技術輸入許可証」または「技術輸入契約登記証」
(5)「技術輸入契約データ表」
(6) 税務証憑
(7) 会計事務所が発行する売上高の信憑性を証明する資料(支払金額が売上高に連動する場合)
2-4.海外授権の図書に関する著作権ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「著作権契約届出済み」という判が捺印されている著作権ライセンス契約または契約届出の許可書類
(5) 税務証憑
2-5.オーディオおよびビデオ製品著作権ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「著作権契約届出済み」という判が捺印されている著作権ライセンス契約または契約届出の許可書類
(5) オーディオおよびビデオ製品管理部門の発行した許可書類
(6) 税務証憑
2-6.電子出版物著作権ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「著作権契約届出済み」という判が捺印されている著作権ライセンス契約または契約届出の許可書類
(5) 税務証憑
2-7.ソフトウェア著作権ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「著作権契約届出済み」という判が捺印されている著作権ライセンス契約または契約届出の許可書類
(5)「技術輸入および設備輸入の契約届出発行証書」または「技術輸入許可証」または「技術輸入契約登記証」
(6)「技術輸入契約データ表」
(7) 税務証憑
実務において、中国各地の外貨管理機構や金融機関の詳細規定または実務操作規定などは、かならずしも一致していないため、送金する前に予め現地の対応する外貨管理機構や金融機関などに、必須書類や手続などを確認しておいた方が好ましい。
3.税務局での登録
源泉所得税を確定するため、中国現地法人は、予め関連ライセンス契約書を中国の税務当局に提出する必要がある。「国家税務総局、国家外貨管理局によるサービス貿易等項目に対する対外送金の税務登録に関する公告(2013年第40号)」(国家税務総局公告2018年第31号により改正)(第1条)により、海外の機関または個人が国内から取得した運輸、旅行、通信、建築据付および労務請負、保険サービス、金融サービス、コンピュータと情報サービス、専有的権利の使用と許諾、スポーツ文化と娯楽サービス、その他の商業サービス、政府サービスなどのサービス貿易収入を含む収入について、国内組織または個人は、海外に1回5万ドルを超えて送金する場合、上記2013年第40号の第3条に規定された状況を除いて、いずれも所在地の税務機関に税務登録手続を行わなければならない。公告(2013年第40号)(第2条)により、税務登録手続を行う際、下記の書類が必要である。
(1) 捺印された契約書または取引関連証憑のコピー(外国語で作成された場合、その中文訳も提出する必要がある)
(2) サービス貿易などの項目に対する対外送金税務登録表
また、「国家税務総局、国家外貨管理局によるサービス貿易等項目に対する対外送金の税務登録関連問題に関する補充公告」(2021年第19号)(第1条)によると、国内機関と個人が同一の契約に対して何度も対外送金する必要がある場合、初めて送金する前に税務登録をすればよい。最近では、登録が、インターネットで申請できるようになってきている。
4.ライセンシーの源泉徴収義務
中国の税法では、日本企業へロイヤルティを送金する中国事業者に、源泉徴収が義務づけられている(税法第37条)。税法(第19条、第37条)、「国家税務総局による非居住者企業所得税源泉徴収関連問題に関する公告(国家税務総局公告2017年第37号)」(2018年第31号公告より修正)(第7条)および「国家税務総局による売上税から増値税への移行試行における非居住者企業の企業所得税納付の関連問題に関する公告」(2013年第9号)によると、非居住者企業が中国で取得したロイヤルティの付加価値税を含まない全額に対して、源泉徴収が実施され、ライセンシーが源泉徴収義務を負う。ライセンシーが、源泉徴収義務の発生日から7日以内に、所在地の税務当局に源泉徴収申告および納付手続を行わなければならない。「企業所得税法実施条例」(第91条)によると、ロイヤルティ送金に対する源泉所得税の税率は、10%である。
5.付加価値付加価値税
「中華人民共和国付加価値税暫定条例(2017改正)」(第1条)および「財政部、国家税務総局による売上税から付加価値税への移行試行を全面的に実施することに関する通知」(財税(2016)36号)(付属書類1の第1条)によると、中国国内でサービス、無形資産、不動産を販売する機関と個人は、付加価値税の納税者であり、付加価値税を納付しなければならない。「中華人民共和国増値税暫定条例」(第2条第3項)によると、ロイヤルティ送金に対する付加価値税の税率は、6%である。
6.留意事項
「国家税務総局による非居住者企業所得税源泉徴収関連問題に関する公告」(第6条)により、源泉徴収義務者が非居住者企業と企業所得税法第3条第3項に規定された所得に関する業務契約を締結する際、契約中に源泉徴収義務者が実際に税金を負担することを約束した場合、非居住者企業が取得した税抜所得を税込所得に換算して課税対象額を計算し、納付しなければならない。
例えば、ロイヤルティが100万元の場合、中国企業が税金を負担すると約定された場合、源泉徴収された付加価値税と企業所得税は、以下のように計算される。
付加価値税を含まなく企業所得税を含む所得額(税込所得)=税抜き所得/(1-所得税率)
税込所得=100/(1-10%)=111.11万元
源泉徴収付加価値税=111.11×6%=6.67万元
源泉徴収企業所得税=111.11×10%=11.11万元
換算済各種税金を含む契約の合計金額は、100万元+6.67万元+11.11万元=117.78万元となる。
契約書を作成する際、各種税金を考慮した上、税金の負担方を明確に約定したほうが好ましい。例えば、日本企業は100万元を受領したいが、ライセンス契約書に記載された送金の総額が100万元であった場合、税金控除のため、想定通りの金額を受領できない恐れがある。
また、前記財税(2016)36号通知の付属書類3「売上税から付加価値税への移行政策の規定」(第1条第26項)の定めにより、納税者は技術譲渡、技術開発とそれに関連する技術コンサルティング、技術サービスを提供する場合、付加価値税は免除される。付属書類1「売上税から付加価値税への移行試行実施弁法」に添付した「サービス、無形資産、不動産の販売への注釈」により、無形資産の販売とは、無形資産(技術(特許技術と非特許技術を含む)、商標、著作権、ビジネス信用、自然資源使用権とその他の権益的無形資産を含む)の所有権や使用権を譲渡するビジネス活動を指す。したがって、無形資産に関するライセンスの場合、付加価値税の免税を申請可能である。付加価値税の免税を申請する場合、書面契約をもって、所在地の省レベルの科技主管部門による許可を受ける必要がある。
インドにおけるロイヤリティ送金に関する法制度と実務運用の概要
1. ロイヤリティ送金に伴う為替債務
従前、技術使用等にかかるロイヤリティの支払いについては、輸出額の8%、国内販売額の5%、また契約に伴う初期の一括支払額は200万ドルまで自動認可されてきた。加えて、商標の使用に関するロイヤリティの支払いは、輸出額の2%、国内販売額の1%までが自動認可対象であった。しかしながら、2009年12月に発行されたPress Note第8号(「我が国企業の新興国への事業展開に伴う知的財産権のライセンス及び秘密管理等に関する調査研究」https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/6019334/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2011_17.pdf p243参照)によって、上記制限が撤廃され、政府機関による事前承認制度は廃止された。ロイヤリティ料率等について、現在は、インド政府またはインド準備銀行(Reserve Bank of India (RBI))による特別な規定は設けられておらず、各企業の裁量判断に委ねられている。
ロイヤリティ送金は、インド準備銀行から認可を受けたAuthorized Bank(みずほ銀行・CITYBANK等)に、送金に必要なフォームおよび契約書のコピー、会計士の証明書(金額の妥当性について会計士が証明するもの)を提出することで行う。
2. 所得税の源泉徴収義務
税法は、日本企業へロイヤリティを送金するインド事業者に、源泉徴収義務を課している。現在、ロイヤリティ送金に対する源泉税の税率は、10%である。さらに、送金時に、送金明細を税法のForm 15CA(様式15CA)に記入し、源泉徴収を確認する会計士の証明書をForm 15CBに記入することが支払者に要求されている。
さらに、2010年4月1日以降の税法改正により、政府はPANの取得を義務づけている。これにより、インドからロイヤリティを受け取る外国企業は、インドでPANを取得する必要がある。PANを取得していない場合、20%の高い税率で源泉徴収される。ただし、外国企業が所定の情報(電子メールアドレス、電話番号、完全な住所、納税者証明書、納税者番号)を支払者に提供した場合は、10%のみ源泉徴収される。
PANの取得手続は以下のインド税務署のページで詳しく説明されている。
https://www.incometaxindia.gov.in/Pages/tax-services/apply-for-pan.aspx
PANの申請は、オンラインまたはインド税務署公認の登録代行業者に添付書類を添えて提出することにより行うことができる。申請書類に不備がない場合、一般的に2週間でPANカードが発送される。
3. 物品サービス税(Goods and Services Tax、以下「GST」という。)
ロイヤリティの送金には18%のGSTも課される。
このようなGSTは、通常、インドではリバースチャージ方式によりサービス受領者/ライセンシーが支払うことになる。また、サービス受領者/ライセンシーは、ロイヤリティ収入に対して支払われたGSTの前段階税額控除(input credit)を利用することができる。
※「通常であればサービスの提供者が納税義務者となるところ、サービスの受け手に納税義務を課す方式」のことを、「リバースチャージ方式」という。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/134.htm
項目 | 税率(*) |
法人所得税 | 15%~30%(国内企業) 40% (国内企業以外) |
個人所得税 | 0~30% |
物品サービス税 | 18% |
日本への配当金送金課税 | 10%~20% |
日本へのロイヤリティ送金課税 | 10% |
(*)サーチャージおよび/または目的税(ある場合)を除く。 |
5. 移転価格税制とAPA制度
日本企業がインドの関連企業からロイヤリティの送金を受ける場合、移転価格税制の適用を受けることになる。支払者が行う送金は、税法に基づく独立企業間価格(Arm’s Length Price:ALP)である必要がある。さらに、支払者は会計士から送金のALPを証明する報告書(Form 3CEB)を取得する必要がある。
インド政府は、2012年にALPの事前協議のためのAPA(Advance Pricing Agreement)制度を導入した。この仕組みでは、所得税委員会(Income-tax Board)が企業との間でAPAを締結し、5年間にわたりALPの決定またはALPの決定方法の特定を行う。さらに、2014年には、過去4年分の判定を行うロールバック規定(roll back provisions)も導入された。このため、外国企業は9年間、移転価格に関して拘束力のある確実性(binding certainty)を得ることができるようになった。
このようなAPA制度は、ある国の所得税当局と一方的に締結することも、協定を締結する両国の所得税当局と二国間協定を締結することも可能である。
外国企業は、クロスボーダー取引における移転価格に関する紛争を回避するために、このようなAPAを締結することが推奨されている。インドは2014年12月に最初のAPAを締結して以来、日本企業と多くのAPAを締結している。
6. 所得税申告義務
外国企業は、インドでの総所得を申告する所得税申告書を提出する必要がある。ただし、外国企業の総所得がロイヤリティ、利子、配当のみであり、インドの支払主体がその所得に対して法律に定められた税率で源泉徴収している場合は、この要件が免除される。
7. 留意事項
インドにおけるサービス受領者/ライセンシーとの今後の契約の見直しや新規締結を検討する際には、インドにおける源泉徴収税やGSTの負担が明確であることを確認する必要がある。
また、インドと日本の関連企業間の契約の場合、ALPの決定に適用される方法によって、移転価格が変わる可能性があることに留意する必要がある。関連会社が適用している方法は、法人税当局が適切と考える方法と異なる場合がある。したがって、紛争リスクを軽減し、移転価格の確実性を確保するために、所得税当局とAPAを締結することが推奨される。
インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限
【詳細】
インド特許法(The Patents Act, 1970(incorporating all amendments till 23-06-2017))第39条によれば、以下の条件が満たされた場合を除き、インド居住者によるインド国外への特許出願が制限される。
・同一発明についての特許出願が、インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされており、かつ当該インド出願に対して第35条に基づく秘密保持の指示が発せられなかった場合。または、
・外国出願許可(foreign filing license: FFL)をインド特許庁長官から得た場合。
・インド特許法第39条 居住者に対する事前許可なしのインド国外の特許出願の禁止
(1)インドに居住する何人も,所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は,発明につきインド国外で特許付与の出願をし又はさせてはならない。ただし,次の場合はこの限りでない。
(a)同一発明についての特許出願が,インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされていた場合,及び
(b)インドにおける出願に関して第35条(1)に基づく指示が一切発せられておらず又は当該指示が全て取り消されている場合
(2)長官は所定の期間内に各当該出願を処理しなければならない。
ただし,当該発明が国防目的又は原子力に関連するときは,長官は中央政府の事前承認なしに許可を与えてはならない。
(3)本条は,保護を求める出願がインド国外居住者によりインド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない。
第39条の起源は、1907年英国特許法にさかのぼる。第39条の適用範囲は、当初は政府に譲渡される発明のみに限定されていたが、第二次世界大戦中、その範囲は公衆による発明にまで拡大された。
現在の第39条の運用を見ると、インドに居住する発明者が発明を行った場合(発明者の全員がインド居住者である場合であれ、1人以上のインド非居住発明者を含む場合であれ)、本条文は適用される。発明者の全員がインド居住者であり、出願人もインド居住者である場合にとりうる最も簡略な方法は、まずインド特許出願を行い、インド国外への特許出願を行うまで6週間の経過を待つことである(代替案は後述する)。他方、インド居住者とインド非居住者が共同で発明を行った場合で、インド非居住の発明者または出願人が他国においても同様の義務を有する場合、とりうる最も簡略な方法は、インド特許庁からFFLを得ることである。
FFLを得るためには、インド居住発明者の場合、所定の書式(Form 25)および発明の簡単な説明(通常は最低3ページの文書)を提出する必要がある。弁護士または弁理士がインド居住の発明者を代理してFFLを請求する場合、インド居住発明者の委任状が必要となる。手数料はインド居住発明者の場合、8,000ルピーである(*)。なお、インド特許規則71によれば、提出書類の不足や記載不備がない限り、FFLは請求の提出日から21日以内に認められる。
(*)オンライン出願を行った場合で、出願人が個人または小規模企業でない場合の手数料
第39条の規定を解釈するときに直面する問題を以下に掲げ、説明する。
1.第39条による規制の適用対象は誰か
第39条は、「居住者」に適用される。また、第1項は以下のように規定している。
「インドに居住する何人も、所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は、発明につきインド国外で特許付与の出願をし、またはさせてはならない。」
したがって、本条の適用において国籍や市民権は無関係である。
次に、「人」は自然人および法人を含むため、本条は、インド居住者である発明者およびインドに居所を有する企業を含む。
第3項に以下の例外規定がある。
「本条は,保護を求める出願がインド国外居住者により、インド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない。」
2.インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、他の発明者がいずれも非インド居住者の場合でもFFLを請求する必要はあるのか
インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、インド特許庁に対しFFLを請求し、これを得た後にインド国外に出願することが要求される。FFLは、インド居住発明者が請求することができる。出願人がインド企業である場合、インド居住発明者の代わりに、インド企業がFFLを請求することができるが、インド居住発明者からインド企業への当該発明に対する権利の移転を示す証拠文書も提出する必要がある。
3.特許法は「居住者」や「インドに居住する人」について定義しているか
特許法は、どのような場合に「居住者」や「インドに居住する人」に該当するのか、具体的に定義していない。改正前の1970年特許法や、2002年特許法(現行法第39条に相当する条項を含む)、また現行のインド特許法2017年6月23日版においても、これらの用語について定義されていない。
4.インドの他の法律で「居住者」や「インドに居住する人」を定義しているものはあるか。もしある場合には、インド特許庁やインドの裁判所が、それらの法律における「居住者」や「インドに居住する人」の定義を採用する可能性はあるか
「居住者」や「インドに居住する人」は、少なくとも他の二つの法律において定義されている。それは、所得税法(Income Tax Act,2012)と外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act(FEMA),2000)である。
所得税法および外国為替管理法はそれぞれ、「居住者」と「インドに居住する人」を定義しているが、その定義はあくまで当該法律を解釈することを目的とする旨が、それぞれの法律に明記されている。さらに、この二つの法律における定義を比較してみると、その定義は一致しない。そもそも、これらの法律と特許法では目的を全く異にしており、インド特許庁やインドの裁判所が、所得税法や外国為替管理法における「居住者」や「インドに居住する人」の定義をそのまま採用する可能性は極めて低い。
以上に照らせば、係争などになった場合、インド特許庁やインドの裁判所は、複数の辞書に示されている一般的定義に基づき、かつ特許法の立法趣旨や、他国(英国,米国等)の特許法における同等の規定も参照しつつ、「居住者」や「インドに居住する人」について適切と判断する定義を採用するものと考えられる。
5.規定された21日の期間内に外国出願許可を確実に得るためにすべきことは
インド特許庁と請求人とのやり取りの過程で露呈する不備等により、手続きが遅れることがある。必要書類の提出漏れや記載不備などがこれに該当する。したがって、請求人は、FFL請求を提出する際、発明を明確かつ十分に開示し、また代理人を通して請求を提出する場合には委任状を付すことを怠ってはならない。これらの書類を遅滞なく提出することにより、規則で定められる21日の期間内にFFLが認められる確率が高くなる。
6.不注意によりインド国外に特許出願を行った後で、FFLを請求することは可能か
不注意によりインド国外に特許出願を行った後でFFLを請求する仕組みについて、特許法には規定がない。
7.不注意によりFFLを得ずインド国外に特許出願を行った場合、いかなる事態が起こるのか
第39条を順守しない場合、少なくとも以下の措置がとられることになる。
(a)当該インド特許出願は放棄扱いとされる、
(b)特許登録されていた場合は取消処分とされる、
(c)2年以内の禁固刑、罰金、もしくはこれらが併科される。
8.第39条に係る特許規則71が改正された。
第39条は改正される予定はないが、特許規則71は2017年6月23日付で改正され、ただし書きが追加された。そこには「国防又は原子力に関する発明の場合は、21日の期間は、(インド特許庁が)中央政府からの同意の受領日から起算する」と規定されている。したがって、FFL請求がインド特許庁から中央政府に付託された場合、21日の期間は、インド特許庁が中央政府の承認を受領した日から計算されることになる。
・インド特許規則71 第39条に基づいてインド国外で特許出願をする許可
(1)インド国外で特許出願をする許可を求める請求は,様式25によらなければならない。
(2)長官は,(1)に基づいてされた請求を,当該請求の提出日から21日の期間内に処理する。
ただし,国防又は原子力に関する発明の場合は,21日の期間は,中央政府からの同意の受領日から起算する。
【留意事項】
第39条不順守の場合に起こりうる深刻な事態に照らせば、インド国外に特許出願する前にインドに居住する発明者によってFFLを得ること、あるいは最初にインドに特許出願し、その後6週間の間に秘密保持命令を受けなかった場合にインド国外に特許出願することが必須である。
南アフリカにおける現地法人の知財問題 - 現地発生発明の取り扱い
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インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限
【詳細】
インド特許法(The Patents (Amendment) Act, 2005)第39条によれば、以下の条件が満たされた場合を除き、インド居住者によるインド国外への特許出願が制限される。
・同一発明についての特許出願が、インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされており、かつ当該インド出願に対して第35条に基づく秘密保持の指示が発せられなかった場合。または、
・外国出願許可(foreign filing license: FFL)をインド特許庁長官から得た場合。
第39条の起源は、1907年英国特許法にさかのぼる。第39条の適用範囲は、当初は政府に譲渡される発明のみに限定されていたが、第二次世界大戦中、その範囲は公衆による発明にまで拡大された。
現在の第39条の運用を見ると、インドに居住する発明者が発明を行った場合(発明者の全員がインド居住者である場合であれ、1人以上のインド非居住発明者を含む場合であれ)、本条文は適用される。発明者の全員がインド居住者であり、出願人もインド居住者である場合にとりうる最も簡略な方法は、まずインド特許出願を行い、インド国外への特許出願を行うまで6週間の経過を待つことである(代替案は後述する)。他方、インド居住者とインド非居住者が共同で発明を行った場合で、インド非居住の発明者または出願人が他国においても同様の義務を有する場合、とりうる最も簡略な方法は、インド特許庁からFFLを得ることである。
FFLを得るためには、インド居住発明者の場合、所定の書式(Form 25)および発明の簡単な説明(通常は最低3ページの文書)を提出する必要がある。弁護士または弁理士がインド居住の発明者を代理してFFLを請求する場合、インド居住発明者の委任状が必要となる。手数料はインド居住発明者の場合、8,000ルピーである(*)。なお、インド特許規則71によれば、提出書類の不足や記載不備がない限り、FFLは請求の提出日から21日以内に認められる。
(*)オンライン出願を行った場合で、出願人が個人または小規模企業でない場合の手数料
第39条の規定を解釈するときに直面する問題を以下に掲げ、説明する。
1.第39条による規制の適用対象は誰か
特許法第39条は、「居住者」に適用される。また、第1項は以下のように規定している。
「インドに居住する何人も、所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は、発明につきインド国外で特許付与の出願をし、またはさせてはならない」
したがって、本条の適用において国籍や市民権は無関係である。
次に、「人」は自然人および法人を含むため、本条は、インド居住者である発明者およびインドに居所を有する企業を含む。
第3項に以下の例外規定がある。
「本条は,保護を求める出願がインド国外居住者により、インド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない」
2.インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、他の発明者がいずれも非インド居住者の場合でもFFLを請求する必要はあるのか
インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、インド特許庁に対しFFLを請求し、これを得た後にインド国外に出願することが要求される。FFLは、インド居住発明者が請求することができる。出願人がインド企業である場合、インド居住発明者の代わりに、インド企業がFFLを請求することができるが、インド居住発明者からインド企業への当該発明に対する権利の移転を示す証拠文書も提出する必要がある。
3.特許法は「居住者」や「インドに居住する人」について定義しているか
特許法は、どのような場合に「居住者」や「インドに居住する人」に該当するのか、具体的に定義していない。改正前の1970年特許法や、2002年特許法(現行法第39条に相当する条項を含む)においても、これらの用語について定義されていない。
4.インドの他の法律で「居住者」や「インドに居住する人」を定義しているものはあるか。もしある場合には、インド特許庁やインドの裁判所が、それらの法律における「居住者」や「インドに居住する人」の定義を採用する可能性はあるか
「居住者」や「インドに居住する人」は、少なくとも他の二つの法律において定義されている。それは、所得税法(Income Tax Act, 2012)と外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act (FEMA), 2000)である。
所得税法および外国為替管理法はそれぞれ、「居住者」と「インドに居住する人」を定義しているが、その定義はあくまで当該法律を解釈することを目的とする旨が、それぞれの法律に明記されている。さらに、この二つの法律における定義を比較してみると、その定義は一致しない。そもそも、これらの法律と特許法では目的を全く異にしており、インド特許庁やインドの裁判所が、所得税法や外国為替管理法における「居住者」や「インドに居住する人」の定義をそのまま採用する可能性は極めて低い。
以上に照らせば、係争などになった場合、インド特許庁やインドの裁判所は、複数の辞書に示されている一般的定義に基づき、かつ特許法の立法趣旨や、他国(英国,米国等)の特許法における同等の規定も参照しつつ、「居住者」や「インドに居住する人」について適切と判断する定義を採用するものと考えられる。
5.規定された21日の期間内に外国出願許可を確実に得るためにすべきことは
インド特許庁と請求人とのやり取りの過程で露呈する不備等により、手続きが遅れることがある。必要書類の提出漏れや記載不備などがこれに該当する。したがって、請求人は、FFL請求を提出する際、発明を明確かつ十分に開示し、また代理人を通して請求を提出する場合には委任状を付すことを怠ってはならない。これらの書類を遅滞なく提出することにより、規則で定められる21日の期間内にFFLが認められる確率が高くなる。
6.不注意によりインド国外に特許出願を行った後で、FFLを請求することは可能か
不注意によりインド国外に特許出願を行った後でFFLを請求する仕組みについて、特許法には規定がない。
7.不注意によりFFLを得ずインド国外に特許出願を行った場合、いかなる事態が起こるのか
第39条を順守しない場合、少なくとも以下の措置がとられることになる。
(a)当該インド特許出願は放棄扱いとされる、(b)特許登録されていた場合は取消処分とされる、(c)2年以内の禁固刑、罰金、もしくはこれらが併科される。
8.第39条に係る規定が改正される可能性はあるか
第39条が近い将来改正される予定はないが、規則71が改正される可能性はある。2015年10月26日付で、インド特許庁が公告した規則改正案(パブリックコメント募集中)によれば、規則71に新たに(3)項が追加されている。そこには「発明が国防または原子力の出願に関する場合、21日の期間は、中央政府の承認を受領した日から計算される」と記載されている。したがって、この規則改正が成立すれば、FFL請求がインド特許庁から中央政府に付託された場合、21日の期間は、中央政府の承認を受領した日から計算されることになる。
【留意事項】
第39条不順守の場合に起こりうる深刻な事態に照らせば、インド国外に特許出願する前にインドに居住する発明者によってFFLを得ること、あるいは最初にインドに特許出願し、その後6週間の間に秘密保持命令を受けなかった場合にインド国外に特許出願することが必須である。