メキシコにおけるハーグ協定に基づく意匠登録制度の概要
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韓国における意匠出願時の図面作成要領
図面の作成方法においては、意匠法施行規則別紙第4号書式および意匠審査基準に規定されており、下記のように作成する。
1.意匠出願書の作成において「意匠の図面」は【物品類】、【意匠の対象とる物品】、【意匠の説明】、【意匠の創作内容の要点】、図面(【図面1.1】、【図面1.2】、【図面1.3】、【図面1.4】、【図面1.5】、【図面1.6】、【図面1.7】…)の順で作成するようになっている。
2.上記出願書の【意匠の説明】欄に図面説明をしなくてはならない。
3.図面の記載順序は、創作内容を最もよく表現した図面を優先順位とし、「意匠の説明」欄に「【図面1.1】、【図面1.2】、【図面1.3】、【図面1.4】、【図面1.5】、【図面1.6】、【図面1.7】…」の順で図面説明をしなければならない。
記載例示):図面1.1は全体的な形態を表現した図面で、図面1.2は意匠の正面を表現した図面であり、図面1.3は意匠の背面を、図面1.4は意匠の左側面を、図面1.5は意匠の右側面を、図面1.6は意匠の平面を、図面1.7は意匠の底面を表現した図面である。
4.正投影図法で作成された図面は、図面の修正なしに上記例示に合わせればよい。
5.意匠の具体的な形態を表現するために付加図面が必要な場合には、展開図、断面図、切断部断面図、拡大図、部分拡大図または分解斜視図等を【付加図面1.1】、【付加図面1.2】、【付加図面1.3】…の順とし「意匠の説明」欄で説明する。
記載例示):付加図面1.1は展開図面で、付加図面1.2は切断部断面図であり、付加図面1.3は拡大図面である。
6.その他に意匠の用途等についての理解を助けるために、参考図面が必要な場合には、使用状態図、各部名称を示す図面等を【参考図面1.1】、【参考図面1.2】とし、「意匠の説明」欄で説明する。
記載例示):参考号面1.1 は使用状態図で、参考図面1.2は各部の名称を表現した図面である。
7.意匠の内容を充分に表現するために何組かの図面が必要な場合(動くもの、開くもの)には、「変化前状態の図面は図面A1.1から図面A1.7までであり、変化後の図面は図面B1.1から図面B1.7までである」のように「意匠の説明」欄で説明する。
8.次の場合には、該当図面を省略することができる。ただし、【意匠の説明】欄に省略理由を記載しなければならない。
(1)正面と背面が同じか対称の場合
(2)左側面部分と右側面部分が同じか対称の場合
(3)平面部分と底面部分が同じか対称の場合
(4)上記の他に図面中で同じ部分が複数の場合
(5)恒常設置または固定されていて特定部分を見ることができない場合
(6)画像デザインの場合
9.図面を3次元モデリング(Modeling)ファイル形式で提出する場合には、3DS(3D Studio)、DWG(Drawing)、DWF(Design Web Format)、IGES(Initial Graphic Exchange Specification)または3DM(3 Dimensional Modeling)ファイルを使用することができる。また複数で提出する場合には、すべてのデザインを3次元モデリングファイル形式で提出しなければならない。
10.図面内には、中心線、基線、水平線等を表示するための細線または内容の説明をするための支持線、符号または文字を記入することはできない。ただし、陰影を加える場合には模様と混同されない範囲で、細線、点または濃淡等を制限的に使用することができ、断面を表示する場合、切断された部分にハッチング(連続した斜線)を使用しなければならない。
シンガポールにおける意匠登録の機能性および視認性
1.背景
シンガポールにおいて、意匠法第2条(1)項は「意匠」という用語について、工業的方法により物品に応用される形状、形態、模様または装飾の特徴であると定義している。原則、物品の形状、形態、模様または装飾の特徴は、登録意匠の対象となり得る。しかし、この原則にはいくつかの例外が存在する。本書では、物品の機能によってのみ定まる意匠の登録を禁じる規定について考察する。また、視認不能な意匠の登録可能性についても考察する。
2.機能性
意匠法に基づく「意匠」の定義は、物品が果たすべき機能によってのみ定まる物品の形状または形態の特徴を明示的に除外している。このような特徴は、意匠法の規定により登録できない。本書では、このような除外を「機能的意匠の除外」と呼ぶ。
機能的意匠の除外の目的は、登録意匠制度を利用して技術的解決策に対する独占権を取得できないようにすることにある。技術的解決策は、意匠法ではなく、特許法によって保護されるべきである。
シンガポールにおける意匠出願は、方式審査のみを受ける。方式審査において登録官は、出願書類を一見して登録可能な意匠ではない場合には、意匠出願を拒絶する権限を意匠法により与えられている。一方、実体審査は行われないことから、意匠が登録基準を満たしているかどうかについては判断されない。つまり、機能によって定まる特性を有する意匠を出願した場合であっても、出願人はかかる意匠の登録を正式に受けることができる。このような意匠登録に対しては、有効性について異議を唱えることができるため、権利行使の場面において問題が生じる可能性がある。
シンガポールにおける機能的意匠の除外の範囲は、Hunter Manufacturing Pte Ltd and another v. Soundtex Switchgear & Engineering Pte Ltd and another appeal [1993] 3 SLR(R) 1108において説明されている。この事件は、シンガポールの公営集合住宅ビルの廊下の壁に取付けられる電気メーターボックスの登録意匠に関するものであった。この電気メーターボックスは、各家庭の小型遮断器(MCB)、メインスイッチおよび電力メーターを収容するものであった。当該登録意匠の侵害について原告により訴えられた被告は、当該意匠の有効性について異議を唱えた。この上訴院の判決から、下記の原則が生まれている。
(a)意匠の一部の特徴が機能により決定づけられているが、他の特徴はそうではない場合、機能的意匠の除外は適用されない。機能的意匠の除外を適用するには、意匠の全ての特徴が機能により決定づけられていなければならない。上訴院は判決を下す際に、この原則を採用した英国枢密院事件のInterlego AG v. Tyco Industries Inc [1998] RPC 343を引用した。
(b)意匠が「機能によってのみ定まっている」かどうかは、当該意匠を創作する創作者の目的によって決まる。創作者が物品の機能を確保するためだけに意匠を選択した場合には、当該意匠は「機能によってのみ定まっている」こととなる。したがって、創作者が機能的な目的のみを念頭に置き、美的な目的などの機能以外の目的を考えなかった場合には、機能的意匠の除外が適用される。この原則は、AMP Inc v. Utilux Pty Ltd [1972] RPC 103において英国貴族院が認定したものであった。
(c)同じ機能を果たす他の意匠が存在する場合であっても、意匠は「機能によってのみ定まる」可能性がある。シンガポール上訴院は判決を下す際に、AMP Inc v. Utilux Pty Ltdを再び引用した。当該事件において貴族院は、同じ機能を果たすことのできる他のいかなる形状も存在しない状況であれば、形状は機能によってのみ定まるという主張を退けた。貴族院は、仮にそのような状況が「機能によってのみ定まる」ことを意味するのであれば、一つの形状しか機能しない状況を想像することは難しいため、機能的意匠の除外の範囲はほぼ消滅するだろうと述べた。
(d)登録意匠が侵害されているかどうかは、二段階のテストにより判断される。まず、新規性の陳述、関連する先行意匠および機能的意匠の除外を考慮して、登録意匠の本質的または重要な特徴を特定する。次に、登録意匠と被疑侵害とを比較して、第一段階で当該意匠の要部として特定された全ての特徴が被疑侵害に視覚的に組み込まれているかどうかを判断する。登録意匠は、新規な特徴か新規ではない特徴かを問わず、全ての特徴を含めた全体として考察されなければならず、比較の際にも全体として考慮されなければならない。被疑侵害意匠が、全体として考察された登録意匠と実質的に異なっている場合、侵害は存在しない。ただし、比較を実施する際に、機能によってのみ定まる特徴、形状または形態は、除外されなければならない。
3.視認性
現行の意匠法が制定される前、シンガポールの旧意匠法は、登録意匠が完成品において視覚に訴え、視覚によってのみ判断される特徴(以下「審美性」)を備えていなければならないと定めていた。これは登録意匠に関する旧英国法に基づく要件を反映していた。
審美性はもはや意匠法に基づく要件ではない。ただし、審美性の要件がないとしても、登録意匠として保護を受けるには、意匠が視認可能であることを裁判所は引き続き要求すると思われる。先に引用したHunter Manufacturing Pte Ltd and another v. Soundtex Switchgear & Engineering Pte Ltd and another appealの上訴院判決の第30項は、次のように述べている。
「明らかに、制定法上の定義に基づき完成品に応用される「意匠」の本質は、視覚的に認識される特徴、すなわち物品に具体的な外観を与える形状、形態、模様または装飾の特徴で構成される。物品に応用される視覚的特徴というこの概念は、登録意匠制度の基礎をなすものであり、登録意匠制度は、機能的意匠またはアイディアおよび発明とは対比される、美的価値の保護に関するものであり、これに限定される。」
物品の内部構造の意匠または小さすぎて肉眼では見えない意匠など、視認不能な意匠について明示的に取り上げているシンガポールの事件は存在しない。しかし、意匠は視覚的に認識できるものでなければならないという考えを、シンガポールの裁判所が容易に放棄するとは思えない。
物品の外部から直接見えない意匠に関しては、このような意匠が登録可能であると判示した古い英国の事件が存在する。
・Ferrero and CSpa’s Application [1978] RPC 473: チョコレート製イースターエッグの意匠は、当該意匠の一部が卵の内部の外観で構成されており、かかる内部の外観は卵を壊すまでは見えないにも拘わらず、登録可能と判示された。
・KK Suwa Seikosha’s Application [1982] RPC 166:デジタル腕時計の表示盤の模様は、腕時計のスイッチを入れなければ視認可能にならないにも拘わらず、登録可能と判示された。
隠れた意匠の場合、物品の使用時に視認できれば登録可能であると理解される。このような「内部の」意匠は、販売時に視認可能な物品外部の意匠と同様に、物品を購入する需要者の意思決定に影響力を及ぼす可能性がある。しかしながら、シンガポールの裁判所がこのような事件をどう取扱うかは、予断を許さない。
タイの意匠特許における機能性および視認性
1.視認性
タイ国特許法(法律第3号)B.E.2542(1999)により修正されたタイ国特許法B.E.2522(1979)の第3条によれば、「意匠」とは、「製品に特別の外観を与え、工業製品および手工芸品に対する型として役立つ線または色の形態または構成」をいう。
この規定は、平面的もしくは立体的な形態により視覚を通じて美的な感覚を喚起しうるものでなければならず、かつ、製造物、商品もしくは工業製品および手工芸品の製造に使用することが可能でなければならないという意匠の定義を含んでいる。そのような例としては、テレビ受像器の形状、カーペットや日よけの色等が挙げられる。ある意匠が保護適格とされるためには、登録出願日の時点で一般に利用されている意匠とは区別される独特の外観を備えていなければならない。
1-1.外観の保護
タイ国の法には、視認できない意匠を保護するような具体的な法規は存在しない。製品の意匠が裸眼では目視しえない場合、その意匠は意匠登録には不適格とされる。登録された意匠の範囲は、出願時の願書に収載されていた意匠に基づくとともに、願書に添付された図面に基づいて画定される。
意匠の範囲および登録意匠に類似する意匠については、タイ国特許庁に判断を仰ぐことができる。特許庁の判断に不服がある者は、特許法第74条に基づき、「中央知的財産・国際取引裁判所(Central Intellectual Property and International Trade Court)」(通称:IP&IT裁判所)に上訴を提起し、なおも不服がある場合には「控訴裁判所(Court of Appeals)」に上訴することがきる。
1-2.最高裁判所の判決(最高裁判例16702/2555号)
2012年、最高裁判所は(16702/2555号の事件において)、「コップ」と題された原告の意匠は、製品の意匠の形状と外観において、意匠出願0302000881号の意匠と実質的に区別しえないとの判断を示した。問題の意匠特許訴訟の棄却は、「コップ」という意匠の主題の類似性と、後続出願の意匠に対する先行技術となる先出願の意匠に基づくものである。
意匠の新規性に関係する規定は、タイ国特許法第57条に以下のように記されている。
「以下の意匠は新規と見なされず、タイ国特許庁により拒絶されることとする。」(1)出願に先立ち、本邦において他人に広く知られ、または使用されていた意匠;
(2)出願に先立ち、本邦もしくは外国において開示または記述されていた意匠;
(3)出願に先立ち公開されていた意匠;
(4)(1)、(2)または(3)の意匠と外観が酷似しているために模倣とされる意匠;
上述した訴訟の場合、「コップ」は円筒形をなしていて既存の意匠と同一である。カップの上端が幅広で十字(クロス)の模様が施され、底部に鋭い凹みがあって容量がより小さくなることが予想されるのに対し、先行意匠には上端に模様がなく、底部もやや引っ込んでいる程度であるという点のみが、後続意匠を特徴づけるものである。「コップ」は先行技術に改良を加えた意匠に過ぎず、その改良は既存の意匠に対する識別性を構成しないと最高裁は判示している。2つの意匠の差異は観察者の注意を惹く部分に関わるものではなく、観察者の注意を惹く部分については、両者は類似している。両方の意匠を漠然と観察した場合、両者は視覚を通じて同じ美的感覚を生じさせると認識するのが合理的である。したがって両者は類似していると考えられ、タイ国における意匠の登録について適格性を持たないと認定される。以上の結果として、最高裁は原告の訴を棄却した。
また、意匠の新規性は既存の製品によって損なわれるだけでなく、登録された意匠によっても損なわれる。タイ国において意匠登録を取得しようとする者は、1個の製品の全体的な意匠だけでなく、保護される意匠の個別の特徴および構成要素について出願を行うことができる。
2.機能性
タイ国においては、機能的な目的に起因する特徴を含んでいる意匠、いわゆる「機能的意匠」は、発明特許もしくは意匠登録として保護されうる。発明特許が、主題が使用され、機能する方法を保護するものであるのに対し、意匠特許は、主題を見せる方法を保護するものである。言い換えれば、意匠特許の眼目は視覚的な外観であって機能性ではない。
一部の国では、「機能性」はいまだに意匠特許を妨げる障害となりうる。いくつかの国の法律は、機能的な意匠に保護を与えていない。その背後にある政策は、技術的な製品もしくは方法に対する特許権を保護するために知的財産制度が弱体化するリスクを避けようというものである。タイ国においては、特許法は機能的意匠の保護について明言していない。しかしながら、タイの裁判所は機能的な製品の意匠に対する登録を否定しようと務めてきた。
2-1.意匠保護に関するタイ国の法
タイ国特許法第56条は意匠登録に関して、意匠が登録の要件を満たすためには新規で産業利用可能なものでなければならないと規定している。さらに同法の第58条は、公序良俗に反する意匠および勅令により定められた意匠を含む一定の意匠については登録適格性から排除している。興味深いことに機能的意匠はこの適格性の規定の中で言及されていないことを指摘しておく。制定法には保護を妨げる障害は存在しないにも関わらず、一部の裁判所の判決に示されているように、機能的な特徴を備えた意匠は保護を拒絶されることがありうる。
2-2.最高裁判所の判決(最高裁判例16702/2555号)
この訴訟の原告となったタイ企業は、足全体と脚の下の部分を包むブーツを開発した。このブーツの上の方の部分には留め金具がついていた。留め金具はチューブ状の形状をなしており、この金具を紐で結んでベルトを取り付けるようになっていた。それにより、ブーツはベルトでしっかりと装着され、着用中ずっと所定の位置を保つようになっていた。このブーツの意匠の新規な特徴について、2000年に意匠保護が求められた。タイ国知的財産局(DIP)は、当該意匠は新規性に欠けており実質的に先行技術に類似しているとの理由で、上記意匠に関する意匠特許出願を拒絶した。原告はDIPの決定を不服として、中央知的財産・国際取引裁判所(IP&IT裁判所)に上訴し、さらに最高裁への上告を行った。
「意匠」とは、「製品に特別の外観を与え、工業製品および手工芸品に対する型として役立つ線または色の形態または構成」を意味すると規定した特許法第3条における「特別の外観」の解釈を示すことにより、最高裁は、意匠登録による保護される主題は視覚的外観、すなわち意匠の装飾的側面であるとの判断を示した。意匠登録は、主題の「機能性」を保護しないという点で発明特許から区別される。ブーツの調節具、すなわち留め金具は機能的なものであり、意匠特許法が要求する装飾には該当しないため、最高裁は、当該発明の主題が新規性に欠けており、かつ当該意匠はその機能性によって意匠特許に不適格なものとなっているという理由で原告の申立を棄却したIP&IT裁判所の判決を支持した。
2-3.評価
上述した法原則および判例は、タイ国内での意匠保護を求める企業に別個の法制度の理解を促すものとなろう。意匠登録は、識別性のある視覚効果を備えた意匠を保護するものであって、機能的な特徴を備えた意匠を保護するものではない。競業者が意匠の機能的な側面を模倣するのを阻止するために、意匠登録を利用することはできない。タイの現在の意匠保護制度がタイ産業界におけるイノベーションを推進する上で妥当なものであるか否かという疑問はある。工業意匠のより広範な側面について、もっと適切な保護を導入することもできよう。新たな制度は、単純な視覚的特徴にとどまらず、機能的にイノベーティブな意匠のあらゆる形態を保護するようなものにすべきである。
フィリピンにおける機能的意匠の取扱い
1.機能性
知的財産法112条は、工業意匠を次のように定義している。
「線もしくは色と関連づけられるか否かを問わず、線もしくは色から成る構図または三次元の形状である。ただし、それら構図または形状は、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、それら物品のための模様として機能することが可能なものでなければならない」
施行規則(IRR)における規則1500では、上記の定義を次のように拡張している。
「工業意匠とは、形、線もしくは色と関連づけられるか否を問わず、形、線、色もしくは以上の結合から成る構図または三次元の形態であって、総体的に、または全体として見た場合に、美的かつ装飾的な効果を生じさせるものをいう。ただし、前記の構図もしくは形態は、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、それら物品のための模様として機能することが可能なものでなければならない。工業意匠には、有用もしくは実用的な技術に属する製造物または(前記製造物の一部が単独で製造販売される場合には)製造物の一部が含まれる」
知的財産法の第113.1条および第113.2条は、保護の実体的要件を以下のように定めている。
(a)新規性または装飾性のある意匠のみが保護されるものとする。
(b)特定の技術的な結果を得るための本質的に技術的もしくは機能的な考察によって決定づけられる意匠、または公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反する意匠は保護されない。
施行規則(IRR)における規則1501は、登録不適格な意匠を以下のように列挙している。
(a)特定の技術的な結果を得るための本質的に技術的もしくは機能的な考察によって決定づけられる工業意匠。
(b)工業製品もしくは手工芸品とは別個に存在する表面装飾を配列しただけの工業意匠。
(c)公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反する工業意匠。
以上の知的財産法および施行規則によると、工業意匠が知的財産法に基づく保護を享受するためには、意匠が新規かつ非機能的なものであって、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、かつ、公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反しないものでなければならない。
ほとんどの工業製品は機能的なものであるが、当該物品の機能にとって不可欠ではない外面的特徴は、工業意匠として登録することができる。判例(Conrado de Leon)では、意匠の本質はその全体に――見る者の心裡に何らかの感覚を生じさせる無限定の全体に――宿るという判断が示されている。知的財産法の目的は、単に目を楽しませるだけの装飾芸術および意匠の振興を図ることであり、それが意匠登録の適格な対象となる。工業意匠は、新規で独創的であることに加えて、装飾的でなければならない。装飾とは、暗黙裏に美を指向するものである。すなわち、対象もしくは物品の心地よい外観を与えることが暗黙裏に意図されている。それゆえ、登録可能な意匠は、物品の美しさと魅力的な外観を高め、当該意匠を既知の意匠の特徴もしくは既知の意匠の特徴の組合せとは明らかに異なることを示す差異を明確にするものでなければならない。
フィリピン知的財産庁(以下、「IPPHL」という。)は、意匠出願について、実体審査を行わず、方式審査のみを行う。とはいえ、保護を求められる意匠が機能的なものであると審査官が考えた場合には、審査官は実務上の処分として拒絶理由通知を発行する。これに対する応答書を提出した結果、審査官を納得させることができなかった場合、その出願は拒絶査定を受けることになる。拒絶査定に対しては、以下のような救済手段を利用することができる。
(i)出願人は特許局長(Director of Patents)に上訴を提起することができる。
(ii)特許局長が審査官の決定を支持した場合、出願人は知的財産庁長官(Director General)に上訴を提起することができる。
(iii)知的財産庁長官が特許局長の決定を支持した場合、出願人は長官の決定を不服とする上訴を控訴裁判所に提起することができ、最終的には最高裁への上告を行うことができる。
もちろん、機能的な意匠の出願が認められる場合もある。その場合、利害関係者は、登録抹消を求める申立をIPPHLに提起することができる。当該意匠の登録人が意匠特許により保護される物品の製造、使用、販売申し出、販売、輸入等の行為をまったく行っていない場合や、先に他の者に付与された既存の意匠特許が存在する場合、先行意匠特許の特許権者は侵害訴訟を提起し、併せて後続の意匠特許の抹消を求めることができる。この訴訟は民事訴訟として適正な商事地方裁判所(専門のIP裁判所)に提起してもよく、行政訴訟としてIPPHLに提起してもよい。
2.視覚性
物品内部のデザインなど、物品使用者が直接視認することができないデザインに関して、知的財産法の工業意匠に関する章は、集積回路のトポグラフィーもしくは回路設計の保護を定めている。同法の第112条は以下のような定義を示している。
(d)「集積回路」とは、最終形態または中間形態の回路であって、複数ある素子のうち少なくとも1個は能動素子であり、かつ、相互接続の一部または全体が基板内部また基板表面に集積的に形成され、電子作用を実行させることを目的とするものをいう(改正共和国法律8293号第112条(2))。
(e)「回路配置」とは「トポグラフィー」の同義語であり、どのように表現されるかに関わらず、1個以上の能動素子を含む複数の素子の三次元配置であって集積回路の一部ないし全部が接続されたもの、または製造を目的とした集積回路のために作成された三次元配置図をいう(改正共和国法律8293号第112条(3))。
(f)独創的な回路配置とは、創作者の知的努力の成果であり、かつ当該配置が考案された時点で回路配置設計者もしくは集積回路製造者の間において陳腐ではない回路配置をいう(改正共和国法律8293号第113.3条)。
集積回路の回路設計が登録を認められるためには、独創性を有していなければならない。それ自体としては陳腐な素子および接続の組合せから成る回路設計が登録を認められるのは、その組合せが全体として独創的である場合のみである。(参照:改正共和国法律8293号第113.4条)。集積回路に関する意匠の登録プロセスは、工業意匠の場合と同じである。
ただし、2002年以降に出願された集積回路の回路設計は5件のみであり、いずれの出願も後日になって取下げられ、規則不順守を理由とした権利の喪失が宣告されている。
香港の意匠特許における機能性および視認性
現行の香港登録意匠規則(第522章)(以下、「意匠規則」)の第2条に基づき、登録意匠は、あらゆる工業的方法により物品に応用される形状、形態、模様または装飾の特徴であって、完成品において視覚に訴え、視覚により判断されるものを保護する。意匠規則の第5条に従い、登録意匠として登録可能な新規の意匠は、あらゆる物品または組物に関して登録することができる。
意匠規則の第2条は、構造の方法または原理、および下記のいずれかに該当する物品の形状または形態の特徴を明示的に排除している。
・当該物品が果たさなければならない機能によってのみ決定づけられるもの。
・創作者の意図により当該物品が不可欠な部分を構成する、別の物品の外観に依存するもの。
現行の意匠規則は、廃止された英国登録意匠法(1949年)と概ね似通っている。したがって、機能性および視覚に訴える審美性に関して、古い英国の基準が依然として香港において適用されている。
機能性
上記に述べた第2条に従い、意匠は物品の機能性や作用については保護しない。ただし、物品が機能する方法に対する保護は、特許規則に基づいて取得することができる。
創作者が機能的要件のみを考慮して物品をデザインした場合、たとえ生み出された完成品が見た目に快いものであったり、当該物品の所期の使用目的への適合性に関してエンジニアの心を引きつける外観を有していたりしたとしても、その意匠の特徴は、当該物品が果たさなければならない機能によってのみ決定づけられているとみなされるだろう。
それにもかかわらず、英国の枢密院は、LEGOブロックの意匠が少なくとも部分的に心を引きつける審美性を備えて進化してきたことを承認した。LEGOブロックは玩具であり、玩具の機能は視覚に訴えることであるという理由で、LEGOブロックの外観は他のブロックとの連結機能によってのみ決定づけられていないと認定されたのである。
視認性
意匠規則の第2条に示された意匠の定義では、意匠は当該物品を購入する需要者に影響を及ぼす視認可能な要素を有していなければならないことが示唆されている。したがって、物品の通常の使用時に使用者が見ることのできない、もしくは小さすぎて人間の目には見えない内部構造といった物品の美的要素、または需要者が物品を購入する際の意思決定においてほとんど考慮されない物品の美的要素は、現行の意匠規則に定義された意匠の範囲には含まれないだろう。
一方、意匠の美的特徴は、販売時点において視認可能である必要はないが、当該物品の通常の使用時、または意図された方法による使用時には、視認可能でなければならない。K K Suwa Seikosha’s Design Application事件において、購入時点には視認できなかった時計内部の液体表示の意匠は、登録可能と判示された。Ferrero S.p.A’s Application事件において、彩色されたチョコレートのリングからなるイースターエッグ内部の意匠は、イースターエッグが消費される時点まで美的特徴を見ることはできないものの、登録可能と判示された。
法規と実務
現行の法規および実務に基づき、意匠出願の実体審査は行われない。意匠登録所は、出願された意匠の特徴が新規かどうか、かかる特徴が機能的なものにすぎないかどうか、またはかかる特徴が視認可能かどうかについて判断するために、先行意匠を調査することはない。意匠登録出願が方式要件を満たしている限り、登録が認められることになる。意匠規則の第45条は、登録の時点で新規ではなかった、または他の理由で登録可能ではなかった登録意匠の取消について規定している。
香港高等法院はElster Metering Ltd v. Billions Ltd事件において、意匠規則第2条の意匠の定義が満たされていないこと、さらに当該意匠における新規性の欠如を理由に、二つの意匠の登録を取り消した。そのうちの一つの意匠は、水量計の内部測定室の構成部品に関するものであった。高等法院は、この構成部品の意匠は当該部品が果たす機能によってのみ決定づけられていること、さらに当該部品は外から見ることができず、当該水量計を購入するかどうかの意思決定に影響を及ぼすほどの視覚的魅力がないという理由で、当該意匠の登録を取り消した。この意匠は、原告の水量計の対応する構成部品とほぼ同じに見えたため、新規性の欠如も判示された。
結論
登録意匠出願の実体審査が行われないため、香港意匠登録簿には、新規性または審美性に関する基準を満たしていない登録意匠が含まれている可能性がある。それゆえ、ある製品を発売する際に、その製品に競合する登録意匠が登録簿に登録されている場合には、取消訴訟の提起を視野に入れて、競合する登録意匠の実体的争点に関する脆弱性を精査することは有益である。
ベトナムにおける意匠出願の分割および統合
【詳細】
○意匠出願の分割および統合
意匠出願の分割は、複数の実施例を含む1件の意匠出願もしくは一組の物品(組物)に関する出願について、複数の実施例もしくは組物に含まれる意匠が単一の共通独創概念を表現していない場合に通常行われる。
一方、意匠出願の統合を行う場合には以下のような3つの条件がある。
(i)統合される意匠に同一出願人が関与していること、(ii)統合される意匠出願の出願日が同一であること、(iii)統合される意匠の差異が些細なものであること。
知的財産法第101条は、出願の単一性を規定しており、特に第3項は意匠の統合出願について規定している。また、知的財産法第115条には、出願の分割を規定している。
ベトナム知的財産法第101条
(1) 各工業所有権登録出願は,(2),(3)及び(4)に規定する場合を除き,単一の工業所有
権に関して1 の保護証書のみを請求しなければならない。
(2) 各登録出願は,緊密に連結していて単一の共通発明概念を形成する1 群の発明に関
して1 の発明特許又は1 の実用新案特許を請求することができる。
(3) 各登録出願は,次の場合は,数件の工業意匠に関して1 の工業意匠を請求すること
ができる。
(a) 単一の共通独創概念を表現する数個の製品を含み,共に又は単一目的で使用される
組物についての工業意匠
(b) 1 又は複数の他の変形,すなわち,単一の共通独創性を表現し,かつ,当該工業意
匠と著しく異ならない変形を伴う工業意匠
(4) 各登録出願は,1 又は複数の異なる商品又はサービスに使用される1 の標章に関し
て1 の標章登録証を請求することができる。
ベトナム知的財産法第115 条 工業所有権登録出願の補正,補充,分割及び変更
(1) 国家工業所有権庁が保護証書の付与の拒絶通知又は付与の決定を行うまで,出願人
は,次の権利を有する。
(a) 出願に補正又は補充を行うこと
(b) 出願を分割すること
(c) 出願人の名称又は宛先の変更を記録するよう請求すること
(d) 契約に基づく譲渡の結果として,相続,遺贈の結果として,又は当局の決定に基づ
いて出願人変更を記録するよう請求すること
(dd) 発明特許に係る願書付きの発明登録出願を,実用新案特許に係る願書付きの発明登
録出願に変更すること,及びその逆に変更すること
(2) (1)に規定する手続について請求する者は,手数料及び料金を納付しなければならな
い。
(3) 工業所有権登録出願に対する如何なる補正又は補充も,出願書類において開示され
又は明記された主題の範囲を拡張してはならず,かつ,当該出願において登録を求めた
主題の内容を変更してはならず,また出願の単一性を確保しなければならない。
(4) 出願の分割の場合は,分割された出願の出願日は,原出願の出願日と決定されるも
のとする。
つまり、出願の分割もしくは統合に関する判断は、出願の中で開示された意匠の「単一の共通独創概念」に基づいてなされる。「単一の共通独創概念」を評価するための詳細な基準がないため、分割もしくは統合の大半は出願人が自発的に行うかもしくはNOIPの請求に基づき行われる。分割もしくは統合を求めるNOIPの請求に同意しない場合、出願人は、自らの主張を書面により提出しなければならない。書面の提出がなければ当該出願は拒絶される。
意匠出願が複数の出願人によるものである場合、権利の一体性を保証するため、分割もしくは統合に関して出願人間で書面による合意が必要である。
〇意匠出願の分割および統合の手続
分割出願に関する手続は、「科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号」の規則17.2に以下の通り規定されている。
・分割出願には新たな出願番号が付され、出願日は親出願の出願日(優先日がある場合には優先日)となる。また、出願の受理通知の発行後、出願が公開される。
・出願人は、各出願について出願料を初めとする全ての料金を支払うとともに、親出願とは別に手続手数料を支払うものとする。ただし、優先権主張に伴う料金は不要である。分割出願は方式審査の対象となり、親出願において完了していない手続きについて処理が進められる。NOIPが親出願について出願の受理通知を発行した後に分割がなされた場合、当該分割出願は再公開され、出願人は公開手数料を支払うものとする。
・(分割がなされた後の)親出願の処理は通常の手続に従って進められ、出願人は補正料および追加料金を支払うものとする。
複数の意匠出願が統合されるべきものである場合、出願人は1件の出願を選択すると同時に他の出願を取り下げるか、または、一の意匠出願に対して他の意匠出願を統合して複数の実施例を有する1件の出願とし、他の意匠出願の実施例に関する図面と、複数の実施例に対する新たな意匠の説明を提出し、他の意匠出願を放棄することができる。
○意匠出願の分割および統合の長所と短所
補正 |
長所 |
短所 |
意匠出願の統合 |
・ポートフォリオ、更新状況、更新期限、侵害に対する法的措置等を出願人が管理するのに便利。 ・意匠権を維持するための提出物(特に更新の場合)に伴う費用の節減。現行法では、図面や実施例の数によって更新料が変わることはなく、更新料は意匠登録の件数に基づいて計算される。 ・複数の優先権を主張するために余分な費用を支払わなくて済む。 |
・どのような意匠が「単一の共通独創概念」を持つと見なすか出願人自身が評価するための具体的な基準が未だ存在しない。その結果、出願人が出願前に正確な判断を行うことができない場合がある。 ・統合は主として審査官の個人的見解に基づくため、出願人の自発的な統合は拒絶されることがある。 ・NOIPが受理通知を発行した後の統合の場合、出願の再公開が義務づけられ、出願人はこれに伴う諸費用を支払わなければならない。 |
意匠出願の分割 |
・サーチ請求や実体審査請求に伴う費用を支払う必要がない。 ・出願日として親出願の出願日が適用される。 ・実施許諾に際して便利な場合がある。 |
・分割された出願に示された主題が親出願の主題と異なっている場合、独立の出願として追加の庁費用が課される。 ・審査は分割請求が提出された時点から開始される。 ・出願人は親出願の記載を補正しなければならない。 ・分割出願および親出願の再公開が義務づけられる。 |
【留意事項】
・組物に関して、組物に含まれる物品が単一の共通独創概念を有していない場合、出願人は、組物に含まれるすべての物品に関する意匠出願を、それら物品を含む完成品に関する意匠出願と同時に行う必要がある。これに対し、組物に含まれる物品が同一のモチーフに基づいて作製されている場合、出願人は複数の実施例を備えた1件の意匠出願を行うことになる(このような意匠出願は多意匠出願と呼ばれることがある)。
・当局による意匠出願の統合請求ないし分割請求を回避するためには、意匠の差異もしくは同一性に関する出願人の意匠説明を明瞭で説得力あるものにすべきである。
・登録に要する時間および費用の増大を避けるため、出願人は、複数の意匠について出願する場合、出願前にそれらを統合出願とするかもしくは個別に分割して出願するかを判断すべきである。