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インドネシアにおける商標異議申立制度

 インドネシアにおいて、商標出願に対する異議申立は、「商標及び地理的表示法」第20/2016号第14条、第15条、第16条および第17条に規定されている。以下に述べる異議申立手続は、2016年11月25日から実施されている。
 法律第11/2020号による改正(以下、「商標法2020」)により、これまでの実体審査が公開期間終了後30日以内に開始され、150日以内に完了とされていたものが、公開期間終了時に開始され、異議のない出願については30日以内、異議のあった出願については90日以内に終了しなければならないとされた。
 異議申立は、商標出願の公告期間中に提起することができる。商標法2020第13条に従い、商標出願は全ての方式要件を満たした時点で出願日が付与される。法定の公告期間は、遅くとも出願日の15日後から始まる2か月間である。
 商標出願が認可されると、インドネシア知的財産総局(Directorate General of Intellectual Property Rights;以下、「DGIP」)は商標公報およびDGIPのウェブサイトにおいて出願を公告する。公告は、2か月間にわたり実施される。
 商標法2020第16条(1)項に従い、上記の公告期間中に、何人も、DGIPに書面による異議申立を提起することができる。異議申立の際には、オフィシャルフィーを支払わなければならない。
 異議申立の際に要求されるオフィシャルフィーは、法務人権省(Ministry of Justice and Human Rights Affairs)内で適用される非課税収益の種類および料金に関する政令第28/2019号に定められており、金額は商標出願1件につき100万ルピアである。

1.異議申立の理由
 異議申立の理由は、商標法2020に下記のように規定されている。

(1) 商標法2020第20条

次の商標は登録できない:
a. 国家のイデオロギー、法規、道徳規範、宗教、倫理、公序良俗に反するもの;
b. 登録対象の商品/サービスと同じ名称、これを説明するもの、又はその単なる言及に過ぎないもの;
c. 登録対象の商品/サービスの出所、品質、形式、サイズ、種類、又はその使用目的について、公衆を誤認させる可能性のある要素を含んでいるもの、又は同類の商品/サービスに対し保護対象となっている植物品種の名称。
d. 生産された商品/サービスの品質、便宜又は効能と一致しない情報を含んでいる。
e. 識別性を有する特徴がないもの;
f. 一般名称、公有財産の象徴となっているもの;
g. 機能的な形態が含まれているもの。

 2020年の改正により、機能的な形態が含まれる標章の商標登録ができないとされた。

(2) 商標法2020第21条

1) 商標の要部又は全体が、次のいずれかと類似する場合、出願は拒絶される;
a. 同類の商品/サービスに関して既に登録又は出願されている、他者の所有する商標;
b. 同類の商品/サービスに関して、他者の所有する周知商標;
c. 特定の条件を満たす、同じ種類ではない商品/サービスに関して他者の所有する周知商標;又は
d. 登録済みの地理的表示
2) 次に該当する商標は拒絶される;
a. 有名人の名前、略称、写真又は他者が所有する法人の名称に相当する、又はこれと類似するもの。但し、正当な権利者の書面による同意がある場合を除く。
b. 国家又は国内もしくは国際機関の名称又は略称、旗、紋章、シンボル又は象徴を模倣する、又はこれと類似するもの。但し、管轄当局の書面による同意がある場合を除く;
c. 国家又は政府機関によって使用される公的な標識、印章又は証印を模倣する、又はこれと類似するもの。但し管轄当局の書面による同意がある場合を除く。
3) 出願人が悪意をもって提出した商標出願は拒絶される。
4) 1)項a項~c項までにいう、商標出願の拒絶に関する更なる詳細な規定は、大臣令により定められる。

2.異議申立の内容
 商標法2020第16条(2)項に従い、異議申立は、十分な理由と共に、出願商標が商標法2020に基づき登録されるべきではない、または拒絶されるべきであることを証明する証拠を提出することができる。

 異議申立は、異議理由を示す異議申立書に異議理由を裏付ける証拠を添付して提出される。異議申立を提出する際に必要な証拠の量に関する規定は存在しない。異議申立時に提出されなかった追加の証拠がある場合、異議申立人は、異議申立日から2週間以内であれば追加証拠を提出することができる。

商標法2020第16条

1) 第14条にいう公告期間中、何人もそれぞれ大臣宛の書面で手数料を支払い、当該の出願に異議を申立てることができる。
2) 1)項にいう異議申立ては,出願されている商標が本法に基づき、登録不可能又は拒絶されるべきであることが、証拠を伴う十分な理由がある場合に申立てることが出来る。
3) 1)項にいう異議申立てがあった場合,異議申立受理日から起算して14日間以内に,当該異議申立書の写しが出願人又は代理人宛に送達される。

3.異議申立の手続期間
 商標法2020第16条(3)項に従い、異議申立が提出されると、DGIPは異議申立を受領した日から遅くとも14日以内に、異議申立書の写しを出願人に送付する。
 出願人は、DGIPから送付された異議申立書の写しの送達日から2か月以内に、異議申立に対する答弁書を提出することができる(商標法2020第17条(2)項)。
 商標法2020に定められた異議申立手続は、3つの段階からなる。第1段階は異議申立人による異議申立書の提出であり、第2段階は出願人による答弁書の提出であり、最後の段階はDGIPにより下される異議決定である。さらに、異議申立人および出願人は、異議申立書または答弁書について説明するために、DGIPにヒアリングを要求することができる。ヒアリングはDGIPにおいて行われる。
 DGIPは、答弁書の提出期限から1か月以内に、当該出願の実体審査において、異議申立書および答弁書を審査資料として検討する(商標法2020第23条(2)項および(4)項)。
 DGIPは、公告期間の満了日もしくは答弁書提出期限から、異議のない場合は30営業日以内に、異議のあった場合は90営業日以内に、当該出願の実体審査を完了する。
 審査官が実体審査の結果、商標出願を認可できないと判断した場合、DGIPは出願人に対し、当該出願は登録できない、または拒絶される旨を書面で通知する。その場合、出願人は、当該通知の送達日から30日以内に応答する機会を与えられる(商標法2020第24条(3)項)。
 審査官が実体審査の結果、商標出願を認可できると判断した場合、当該出願は商標登録簿に登録される(商標法2020第24条1)項)。
 DGIPは、実体審査の結果について、異議申立人にも書面で通知する。

商標法2020第17条

1) 出願人又は代理人は、第16条にいう異議申立てに対する答弁書を提出する権利を持つ。
2) 1)項にいう答弁書は、大臣によって異議申立書の写しが送達された日付から起算して2カ月間以内に書面で提出されること。

商標法2020第23条

1) 実体審査とは、商標登録出願に対し、審査官が行う審査である。
2) 第16条及び第17条にいう異議申立て又は答弁は全て、1)項にいう実体審査において考慮対象とされる。
3) 公告期間満了日までに異議申立が提起されなかった場合、出願の実体審査が実施される。
4) 3)項にいう実体審査は、30日以内に完了するものとする。
5) 第17条にいう答弁書の提出期限最終日から起算して30日以内に、異議申立てが提起された場合、出願の実体審査が実施される。
6) 5)項にいう実体審査は、最長で90日以内に完了するものとする。
7) 実体審査実施のための必要に応じて、審査官以外の商標審査専門家を配置することが出来る。
8) 7)項にいう商標審査専門家によって行われた実体審査結果は、大臣の承認によって、審査官によって行われた実体審査結果と同等とみなすことが出来る。

商標法2020第24条

1) 審査官が、出願を登録可能であると決定すると、大臣は:
a. 当該商標を登録する;
b. 当該商標が登録されたことを出願人又は代理人に通知する;
c. 商標証書を発行する;及び
d. 当該商標の登録を、電子及び非電子媒体の商標官報上で公表する。
2) 審査官が、出願を登録不可能である又は拒絶すると判断した場合、大臣は出願人又は代理人に、拒絶理由通知書を送る。
3) 出願人又は代理人は,2)項にいう通知書を受け取った日付から30日以内に,その応答の理由を記載した応答書を提出することが出来る。
4) 出願人又は代理人が、3)項にいう応答書を提出しなかった場合、大臣は当該出願の拒絶を決定する。
5) 3)項にいう応答書を出願人又は代理人が提出し、審査官がその応答書を検討可能であると判断した場合、大臣は1)項に記載した規定を実施する。
6) 出願人又は代理人が3)項にいう応答書を提出し、審査官がそれを検討不可能であると判断した場合、大臣はその出願の拒絶を決定する。
7) 4)項及び6)項にいうような拒絶は、その理由を記載した文書により、出願人又は代理人に通知される。
8) 第16条にいう異議申立てのある場合、大臣は登録又は拒絶の通知書の写しを、当該異議申立の提起者宛てに送達する。

4.異議申立の取下げ
 異議申立人は、審査官が出願の実体審査結果を決定する前であれば、DGIPに対して、異議申立の取下げ書を提出することができる。異議申立を取下げる一般的な理由としては、異議申立人と出願人との間で、商標譲渡契約、共存合意契約などを締結した場合が挙げられる。

5.審査官の拒絶査定に対する不服
 審査官の拒絶査定に対して不服がある場合、出願人は、商標審判委員会に審判請求を提起することができ、その写しは、オフィシャルフィーの支払いをもってDGIPに送付される(商標法2020第28条2)項)。

商標法2020第28条

1) 第20条又は第21条にいうような理由に基づく出願の拒絶査定に対しては、審判請求を提出することが出来る。
2) 審判請求は有料で、出願人又は代理人から商標審判委員会宛に書面を提出し、その写しは大臣に届けられる。
3) 審判請求書は、拒絶査定に対する不服の理由を添え、完全に説明した上で提出すること。
4) 3)項にいう理由は拒絶された出願を改善又は補足するためのものではないこと。

 審判請求書は、出願の拒絶査定の送達日から3か月以内に提出しなければならない(商標法2020第29条(1)項)。

商標法2020第29条

1) 拒絶された出願に対する審判請求は、拒絶査定の送達日から数えて90日以内に提出されること。
2) 1)項にいう審判請求が提出されなかった場合は、拒絶査定が出願者により受入れられたものとみなされる。

 なお、異議申立以外に、関連当事者は商事裁判所に取消訴訟を提起することができる(商標法2020第76条)。

商標法2020第76条

1) 商標登録の取消訴訟は、第20条又は第21条にいう事由に基づき、関連当事者によって提訴することが出来る。
2) 登録されていない商標の所有者は、大臣宛に商標登録の出願を行った後、1)項にいうような訴訟を提訴することが出来る。
3) 登録商標所有者に対する取消訴訟は、商事裁判所に提訴する。

タイにおけるマドリッド協定議定書による国際出願においてタイを領域指定する場合の実務上のポイント

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インドの特許出願審査における「アクセプタンス期間」

【詳細及び留意点】

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シンガポールにおける商標出願の拒絶理由通知に対する応答

【詳細】

(1)絶対的理由に基づく拒絶理由に対する応答

 商標の定義を満たさない標識、識別性のない標章、記述的な標識もしくは表示だけで構成される標章、および取引上の普通名称である標識からなる標章は、登録されない(商標法第7条(1))。

 商品の性質の結果である形状、技術的成果を得るために必要な形状、または商品に実質的価値を与える形状は、登録されない(商標法第7条(3))。

 地理的表示で構成される標章、およびその場所を原産地としないワインまたは蒸留酒に使用される、または使用が意図される標章は、登録されない(商標法第7条(7))。

 公序良俗に反する、もしくは誤認を生じる標章は登録されない(商標法第7条(4))。

シンガポールにおいて法律により使用が禁じられている標章は登録されない(商標法第7条(5))。

悪意で出願された標章(商標法第7条(6))は、登録されない。

 

 出願人は、絶対的拒絶理由に基づく拒絶に対して応答書を提出することができる。提起された特定の拒絶理由に応じて、当該標識の登録可能性または当該標章の本来的識別性などに関する意見書を提出できる。世界の他の国で出願人の標章が承認または登録を受けている場合、これらの対応する標章の証拠を提出することもできる。シンガポール知的財産庁(IPOS)は、英国、米国、香港、欧州連合およびオーストラリアにおける登録または承認を重要視する傾向がある。これらの国や地域の先例は、有力な情報と見なされる傾向があるが、拘束力はない。

 

 また、標章が識別性を欠いている、または記述的であるという理由で拒絶された場合、当該標章が使用を通じて後天的識別性を獲得していると主張する応答書を提出することができる。その際、裏づけとなる証拠を提出しなければならない。審査官は、シンガポールにおける指定商品または役務に関する当該標章の出願前の使用のみを考慮する。このような証拠は、法定宣誓書の形式で提出しなければならない。

 

 一部の指定商品または役務を削除することで、出願人が拒絶理由を克服できる可能性がある場合、出願人は応答書においてかかる商品または役務の削除を提案することができる。

 

 特定の国、都市、政府機関、社会、法定機関、団体または人を含む、いずれかの機関や団体の名称、頭文字、旗章または紋章などと類似しているという理由で、標章が拒絶された場合(商標法第56条および第57条)、IPOSは、その機関や団体の同意書が提出される場合に限り、当該標章の登録を許可する。

 

(2)相対的理由に基づく拒絶理由に対する応答

 先の標章と類似または同一であり、先の標章が付される商品と類似または同一の商品を指定する標章は、公衆に混同を生じる可能性がある場合には、登録されない(商標法第8条(1)および(2))。

 

 相対的拒絶理由に対する応答書は、出願標章と引例標章との区別を示す意見書として提出することができる。他の国、特に英国、香港、米国、欧州連合およびオーストラリアの登録簿における共存の証拠は、審査官に対する拘束力はないが、多少なりとも重要視される。

 

 さらに出願人は、指定商品または役務が類似しないように、商品または役務を限定する提案を行うこともできる。

 

 もう一つの方法は、先の標章の所有者から出願に対する同意を得ることである。ただし審査官は同意書にかかわらず、引例を維持する裁量権を有するため、出願人が所有者からの同意を得ようとする際には、同意書があれば引例を放棄するという審査官の確認を得ておいた方がよい。また、先の標章の所有者に連絡を取ることは、その所有者が出願に同意しないリスクだけでなく、結果的に承認および公告された出願に対して異議を申し立てるリスクも伴う。

 

 出願日より前に指定商品または役務に関してシンガポールで出願標章が使用されていた場合、当該標章の正当な同時使用が行われていたことを証明する証拠を応答の際に提出することができる。この証拠は、法定宣誓書の形式で提出しなければならない。

 

(3)明細書中の誤記

 シンガポールは、ニース国際分類を採用している。標章の指定商品および役務は、ニース国際分類に適合していないと審査官が判断する場合、拒絶理由が通知される。

 出願人は、下記の方法で応答することができる。

(i)審査官により提案された補正案(ある場合)を受け入れる

(ii)指定商品もしくはサービスの説明または補正案を審査官に提出する

(iii)拒絶理由が通知された指定商品または役務は、ニース国際分類に基づく種目と類似または同様のものであると主張する

 

 出願人が指定商品もしくは役務の維持または補正案を主張する場合、シンガポール、英国、オーストラリア、香港、ニュージーランドおよび米国の先例は多少なりとも重要視される可能性があるため、これらの国の先例を強調することができる(通達第3/2014号)。ただし、これらの国の先例は審査官に拘束力を及ぼすものではない。全ての出願は、個別に審査される。

 

 指定商品あるいは役務が間違って分類されているという理由で、審査官が拒絶した場合、正しい区分への変更が認められるのは、まず正しい区分も出願に含まれており、次に正しい区分の明細に変更すべき種目が包含されている場合だけである。これにより、区分の変更による出願当初の指定商品や役務の拡大を防ぐことができる