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中国における商号と商標との関係

〔詳細〕
1.企業名称登記制度及び登記管理機関
 「企業名称(中国語「企业名称」)」とは、商品の生産・経営者がその他の商事主体と異なる特徴を表明するために使用する専属の営業標識を指す(企業名称登記管理規定第6条)。「企業名称」は、「行政区画名+商号(または屋号)+業種の特徴+組織形式」、または、「商号(または屋号)+(行政区画名)+業種の特徴+組織形式」により構成される(企業名称登記管理実施弁法第9条)。「商号」は、企業名称の一部として、重要な識別的な役割を果たしている。

(1) 企業名称登記制度に関する規定
 中国の企業名称登記制度は、民法典(第54条)、会社法(第8条)、不正競争防止法(第6条、第18条)、企業名称登記管理規定、企業名称登記管理実施弁法および市場主体登記管理条例を通じて規定されている。実務に影響する内容は、企業名称登記管理規定、企業名称登記管理実施弁法、および市場主体登記管理条例に規定されている。

(2) 企業名称登記管理の管轄
 国家市場監督管理機関は、企業名称に関して級別登記管理を行い、かつ企業の規模に基づき、国家市場監督管理総局(以下、「国家市場監管総局」という。)および地方市場監督管理局(以下、「地方市場監管局」という。)が各地方の行政区画のクラスに応じて企業名称の登記管理業務を行う。国家市場監管総局が全国の企業名称登記管理業務を主管するが、国務院の許可を得た企業あるいは大企業は国家市場監管総局にその登記を申請できる(企業名称登記管理実施弁法第5条、第13条)。それ以外の殆どの企業名称については、いずれも地方市場監管局がその登記業務を管理する。

(3) 企業名称の事前審査確認・登記手続
 中国では、会社を設立するときは、企業名称事前審査確認手続(中国語「企业名称预先核准」)を申請しなければならない(企業名称登記管理実施弁法第22条)。
 国家市場監管総局・地方市場監管局は、企業名称登記について所轄地域範囲内において同業種に存在している商号を検索し、同一または類似の商号がないと認められる場合、「企業名称事前審査確認通知書」を発行する。そのため、地域別や業種別で同一または類似の商号が並存することがある。また、この検索は、国家市場監管総局・地方市場監管局の内部で行われ、事前公示もしくは異議申立などの救済手段は存在しない。

2.商標登録制度及び登記管理機関
 自然人、法人またはその他の組織の商品を他人の商品と区別することができる視覚的標章(文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状および色彩の組合せ、ならびにこれらの要素の組合せを含む)は、商標登録出願することができる(商標法第8条)。商標登録する場合、国家知識産権局の傘下にある商標局(中国語「商标局」)に出願書類を提出しなければならない。商標局は、その出願を受理し、実体審査において登録しようとする商標が先願、先登録商標と同一または類似すると認められる場合には、その登録出願を拒絶する(商標法第4条)。商標登録については、全国で統一的な受理、審査、異議申立および権利付与体制が取られている。

3.衝突(抵触関係)の解決策
 上述のとおり、中国における商標登録制度と商号登記制度とは別々の制度として並存し、商標局は商標の先願、先登録商標を検索し、国家市場監管総局・地方市場監管局は商号を検索するが、商標と商号との交叉的検索は行わない。したがって、商標と商号の衝突が生ずる場合があるが、その場合、以下の対応策を取ることができる。

(1) 他人の登録商標を模倣して企業名称として登録する場合
 企業名称が登録商標に抵触する場合であって、当該登録商標が不正競争防止法第6条に規定する、一定の影響力のある企業名称に該当するときは、登録商標の権利者は、企業名称の登録主管機関に変更もしくは抹消を請求することができる(反不正当竞争法 第6条、第18条)。ここで「一定の影響力のある」とは、一定の市場の知名度を有し、かつ商品の出所を区別する顕著な特徴を有する標識をいう(最高人民法院による「中華人民共和国反不正競争法」の適用における若干問題に関する解釈第4条)。
 また、裁判所に商標権侵害訴訟を提訴することができる(最高人民法院による登録商標、企業名称と先行権利との抵触に係る民事紛争事件の審理における若干の問題に関する規定第1条及び第2条、企業名称登録管理実施弁法第42条)。

 ただし、実務上、企業名称の登記主管部門に企業名称が登録商標と抵触するとの理由で企業名称の抹消を請求しても、地元の登記主管部門に積極的に受理してもらえないのが現状である。通常、企業名称登記部門は、当事者との協議または抵触関係を認める裁判所の判決に基づいて、企業名称を変更させる(最高人民法院による当面の経済形式下での知的財産権審判サービス大局の若干問題に対する意見第10条)。

 他人が馳名商標(中国国内において消費者に広く知られた商標)を企業の名称として登録し、公衆を欺瞞しまたは公衆に誤解を与え得る場合、馳名商標の権利者は、企業名称の登録機関に当該企業名称の抹消を請求することができる。企業名称の登録機関は、当該請求を処理しなければならず(不正競争防止法第18条)、企業名称と登録商標との抵触事件において、先行登録商標が馳名商標である場合には企業名称登記機関へ企業名称の抹消を請求することができる。馳名商標ではない場合は、裁判所に商標権侵害訴訟を提起することにより、紛争解決を求めるルートとなる。

 また、「他人の登録商標と同一または類似する文字を企業名称として、目立つように使用し、容易に関係公衆に誤認を生じさせるもの」は商標法第57条第7項に規定される「他人の商標専用権を侵害する行為」に属すると規定されているため(最高人民法院による商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈第1条)、裁判所で商標権侵害を主張する際は、「目立つような使用」、「関係公衆に誤認を生じさせやすい」等の点を立証する証拠を提出することが非常に重要である。

 なお、企業名称の登録が、商標権侵害または不正競争であると裁判所が認めた場合、裁判所は、原告の請求および事件の具体的な事情に基づき、被告に使用停止、使用の規範化、企業名称の変更または抹消などの民事責任を命じることが出来る(最高人民法院による登録商標、企業名称と先行権利との抵触に係る民事紛争事件の審理における若干の問題に関する規定第4条)。

(2) 他人の企業名称を模倣して商標を出願・登録する場合
 出願・登録商標が企業名称に抵触する場合、企業名称の所有者は商標局に登録異議申立(商標法第32条、第33条)、無効審判を提起することができる(商標法第45条)ほか、裁判所に民事訴訟を提起することもできる。裁判所は、登録商標における文字、図形等が他人の著作権、意匠権、企業名称権等の先行権利を侵害したとの理由で訴訟を提起した場合、その訴訟が民事訴訟法第119条の規定に合致していれば、裁判所はそれを受理しなければならない(最高人民法院による登録商標、企業名称と先行権利との抵触に係る民事紛争事件の審理における若干の問題に関する規定第1条)。

 商標法第32条では、「商標登録出願は、先に存在する他人の権利を侵害してはならず、他人が既に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で先登録してはならない。」と規定されており、ここでいう「先に存在する権利」には、企業名称権、著作権、意匠権、氏名権、肖像権等が含まれる。この条項を適用するためには、先行の企業名称の登記日または使用日が係争商標の登録出願日より前であること、先行の企業名称は関連公衆において一定の影響力を有すること、係争商標の登録および使用は、関連公衆の誤認・誤解を生じさせるおそれがあることを証明できるか否かが最も重要である。

〔留意事項〕
 商標法では、商標登録の出願は他人の先行権利を侵害してはならないとされているが(商標法第32条)、「企業名称権」もこの「他人の先行権利」に含まれるため、商標登録出願の際は、同一業界内で有名なまたは影響力のある企業名称と同一または類似にならないよう注意する必要がある(商標法第32条)。

 登記された企業名称と登録商標との衝突(抵触関係)が発生した場合、先行権利側が後発権利側の使用を禁止することで解決が図られる。

 他人の企業名称を模倣して商標が出願・登録された場合、抵触関係の認定は、関連公衆に誤認が生ずるおそれのあることが要件とされており、一般的に、例えば、商標同士の場合等に比べて、侵害認定を勝ち取るのは容易ではないとされている。日本の不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為的なケースが想定される。

中国における模倣対策マニュアル

「中国模倣対策マニュアル」(2021年3月、日本貿易振興機構北京事務所知的財産権部)【1-2章】【3-5章】【6-8章2節】【8章3節-資料2】【資料3-5

注)圧縮版のため画像が粗くなっています。精細な画像を確認したい方は、下記【ソース】のリンクをご利用ください。

(目次)
第1章 模倣品の現状と対策概要 p.12
(模倣対策の全体像として、中国における模倣事件全般の行政摘発事件と訴訟事件の件数(2015年から2019または2020年までの統計情報)、その特徴および模倣品対策の概要と基本ステップ、各対応策の役割と留意点等について紹介している。)

第1節 模倣品対策の基礎知識 p.12
第2節 中国における模倣品の現状 p.15
第3節 模倣対策の総体概要と基本ステップ p.23

第2章 中国での権利取得 p.52
(模倣対策を実施するためには、中国での知的財産権を戦略的に取得しておくことが必要である。中国での専利権(発明特許権、実用新案権、意匠権)、商標権、著作権の権利取得と維持について関連する法律に基づき説明している(フローチャートあり)。)

第1節 専利権の取得 p.52
第2節 商標権の取得 p.70
第3節 著作権の取得 p.90
第4節 その他権利の取得 p.100

第3章 模倣品対策の行政救済 p.107
(中国特有の模倣品に対する行政取締制度(市場監督管理局による専利権と商標権侵害に対する取締り、版権局による著作権侵害に対する取締り、税関による取締り)について、適用する法律、関連手続きを実例とともに説明している。また、展示会やインターネット上での取締り、実務における諸問題とそれぞれの対応手段についても説明している。)
第1節 行政救済概要 p.107
第2節 模倣品対策の一般行政取締 p.110
第3節 行政取締実務における諸問題と対応手段 p.127

第4章模倣品対策の司法救済―民事訴訟 p.144
(模倣品対策における民事訴訟制度について、関連する法律に基づいて民事訴訟の手続(フローチャート、2015年から2019年までの統計情報あり)および手続上の問題点と実体上の問題点、侵害判定の原則と抗弁の要件について紹介している。また、民事訴訟における留意点についても実例をとともに紹介している。)

第1節 概要 p.144
第2節 侵害判定 p.176
第3節 留意点と実例 p.187

第5章 模倣品の刑事対応 p.195
(模倣品対策における刑事訴訟制度について、関連する法律に基づいて、刑事訴訟の手続(フローチャート、2015年から2019年までの統計情報あり)および手続上の問題点と実体上の問題点、刑事事件の訴追基準と刑事自訴等について説明している。また、実例とともに刑事対応における留意点について紹介している。)

第1節 概要 p.195
第2節 刑事対応として取り得る方法 p.213

第3節 留意点と実例 p.219

第6章 営業秘密の保護 p.222
(専利として出願されていないノウハウを含む会社の営業秘密を保護するための方法、営業秘密の保護 現状と漏洩ルート、および営業秘密の漏洩防止手段と漏洩に対する対策などを紹介している。また、先使用権保護による対応方法についても紹介している。)

第1節 営業秘密の概要 p.222
第2節 営業秘密の漏洩防止 p.226
第3節 営業秘密漏洩に対する救済 p.230
第4節 先使用権に基づく営業秘密の対応 p.233

第7章ECプラットフォームにおける模倣品対応 p.244
(ECプラットフォームにおける模倣品対応について紹介している。主にインターネット上での模倣品の特有の対応策ECプラットフォームへのクレームについて紹介した上で、中国の主要ECサイトのクレーム手続を紹介し、実務における諸問題と注意点をも取り上げている。その他、電子商取引法のポイントを紹介しながら、出店者の責任や注意点にも言及している。)

第1節概要 p.244
第2節 インターネット環境における模倣品への対応策 p.247
第3節 オンラインクレーム手続の紹介 p.252
第4節 実務における諸問題と注意点 p.288

第8章その他の主要トピック p.295
(中国においてビジネス活動を展開する企業にとって関心のあるドメインネームの問題、商号の問題、並行輸入や他人により悪意で権利行使された場合の反撃手段について、紹介している。)

第1節 ドメインネームの問題 p.295
第2節 商号の問題 p.302
第3節 並行輸入 p.311
第4節 権利行使された場合の対抗手段 p.318
第5節 その他 p.325

資料編 p.329
資料1 模倣対策費用目安(料金表) p.329
資料2 中国主要知財関連法一覧 p.349
資料3 主要法令集 p.361
資料4 主要な地域にある関連公的機関一覧表 p.653
資料5 専利権、植物新品種、集積回路、ノウハウ、コンピュータソフトウェアなどにかかる訴訟の第一審管轄権の有する裁判所のリスト p.655