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インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限

【詳細】

インド特許法(The Patents Act, 1970(incorporating all amendments till 23-06-2017))第39条によれば、以下の条件が満たされた場合を除き、インド居住者によるインド国外への特許出願が制限される。

・同一発明についての特許出願が、インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされており、かつ当該インド出願に対して第35条に基づく秘密保持の指示が発せられなかった場合。または、

・外国出願許可(foreign filing license: FFL)をインド特許庁長官から得た場合。

 

インド特許法第39条 居住者に対する事前許可なしのインド国外の特許出願の禁止

(1)インドに居住する何人も,所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は,発明につきインド国外で特許付与の出願をし又はさせてはならない。ただし,次の場合はこの限りでない。

(a)同一発明についての特許出願が,インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされていた場合,及び

(b)インドにおける出願に関して第35条(1)に基づく指示が一切発せられておらず又は当該指示が全て取り消されている場合

(2)長官は所定の期間内に各当該出願を処理しなければならない。

ただし,当該発明が国防目的又は原子力に関連するときは,長官は中央政府の事前承認なしに許可を与えてはならない。

(3)本条は,保護を求める出願がインド国外居住者によりインド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない。

 

第39条の起源は、1907年英国特許法にさかのぼる。第39条の適用範囲は、当初は政府に譲渡される発明のみに限定されていたが、第二次世界大戦中、その範囲は公衆による発明にまで拡大された。

 

現在の第39条の運用を見ると、インドに居住する発明者が発明を行った場合(発明者の全員がインド居住者である場合であれ、1人以上のインド非居住発明者を含む場合であれ)、本条文は適用される。発明者の全員がインド居住者であり、出願人もインド居住者である場合にとりうる最も簡略な方法は、まずインド特許出願を行い、インド国外への特許出願を行うまで6週間の経過を待つことである(代替案は後述する)。他方、インド居住者とインド非居住者が共同で発明を行った場合で、インド非居住の発明者または出願人が他国においても同様の義務を有する場合、とりうる最も簡略な方法は、インド特許庁からFFLを得ることである。

 

FFLを得るためには、インド居住発明者の場合、所定の書式(Form 25)および発明の簡単な説明(通常は最低3ページの文書)を提出する必要がある。弁護士または弁理士がインド居住の発明者を代理してFFLを請求する場合、インド居住発明者の委任状が必要となる。手数料はインド居住発明者の場合、8,000ルピーである(*)。なお、インド特許規則71によれば、提出書類の不足や記載不備がない限り、FFLは請求の提出日から21日以内に認められる。

 

(*)オンライン出願を行った場合で、出願人が個人または小規模企業でない場合の手数料

 

第39条の規定を解釈するときに直面する問題を以下に掲げ、説明する。

 

1.第39条による規制の適用対象は誰か

第39条は、「居住者」に適用される。また、第1項は以下のように規定している。

「インドに居住する何人も、所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は、発明につきインド国外で特許付与の出願をし、またはさせてはならない。」

したがって、本条の適用において国籍や市民権は無関係である。

 

次に、「人」は自然人および法人を含むため、本条は、インド居住者である発明者およびインドに居所を有する企業を含む。

 

第3項に以下の例外規定がある。

「本条は,保護を求める出願がインド国外居住者により、インド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない。」

 

2.インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、他の発明者がいずれも非インド居住者の場合でもFFLを請求する必要はあるのか

インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、インド特許庁に対しFFLを請求し、これを得た後にインド国外に出願することが要求される。FFLは、インド居住発明者が請求することができる。出願人がインド企業である場合、インド居住発明者の代わりに、インド企業がFFLを請求することができるが、インド居住発明者からインド企業への当該発明に対する権利の移転を示す証拠文書も提出する必要がある。

 

3.特許法は「居住者」や「インドに居住する人」について定義しているか

特許法は、どのような場合に「居住者」や「インドに居住する人」に該当するのか、具体的に定義していない。改正前の1970年特許法や、2002年特許法(現行法第39条に相当する条項を含む)、また現行のインド特許法2017年6月23日版においても、これらの用語について定義されていない。

 

4.インドの他の法律で「居住者」や「インドに居住する人」を定義しているものはあるか。もしある場合には、インド特許庁やインドの裁判所が、それらの法律における「居住者」や「インドに居住する人」の定義を採用する可能性はあるか

「居住者」や「インドに居住する人」は、少なくとも他の二つの法律において定義されている。それは、所得税法(Income Tax Act,2012)と外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act(FEMA),2000)である。

所得税法および外国為替管理法はそれぞれ、「居住者」と「インドに居住する人」を定義しているが、その定義はあくまで当該法律を解釈することを目的とする旨が、それぞれの法律に明記されている。さらに、この二つの法律における定義を比較してみると、その定義は一致しない。そもそも、これらの法律と特許法では目的を全く異にしており、インド特許庁やインドの裁判所が、所得税法や外国為替管理法における「居住者」や「インドに居住する人」の定義をそのまま採用する可能性は極めて低い。

 

以上に照らせば、係争などになった場合、インド特許庁やインドの裁判所は、複数の辞書に示されている一般的定義に基づき、かつ特許法の立法趣旨や、他国(英国,米国等)の特許法における同等の規定も参照しつつ、「居住者」や「インドに居住する人」について適切と判断する定義を採用するものと考えられる。

 

5.規定された21日の期間内に外国出願許可を確実に得るためにすべきことは

インド特許庁と請求人とのやり取りの過程で露呈する不備等により、手続きが遅れることがある。必要書類の提出漏れや記載不備などがこれに該当する。したがって、請求人は、FFL請求を提出する際、発明を明確かつ十分に開示し、また代理人を通して請求を提出する場合には委任状を付すことを怠ってはならない。これらの書類を遅滞なく提出することにより、規則で定められる21日の期間内にFFLが認められる確率が高くなる。

 

6.不注意によりインド国外に特許出願を行った後で、FFLを請求することは可能か

不注意によりインド国外に特許出願を行った後でFFLを請求する仕組みについて、特許法には規定がない。

 

7.不注意によりFFLを得ずインド国外に特許出願を行った場合、いかなる事態が起こるのか

第39条を順守しない場合、少なくとも以下の措置がとられることになる。

(a)当該インド特許出願は放棄扱いとされる、

(b)特許登録されていた場合は取消処分とされる、

(c)2年以内の禁固刑、罰金、もしくはこれらが併科される。

 

8.第39条に係る特許規則71が改正された。

第39条は改正される予定はないが、特許規則71は2017年6月23日付で改正され、ただし書きが追加された。そこには「国防又は原子力に関する発明の場合は、21日の期間は、(インド特許庁が)中央政府からの同意の受領日から起算する」と規定されている。したがって、FFL請求がインド特許庁から中央政府に付託された場合、21日の期間は、インド特許庁が中央政府の承認を受領した日から計算されることになる。

 

インド特許規則71 第39条に基づいてインド国外で特許出願をする許可

(1)インド国外で特許出願をする許可を求める請求は,様式25によらなければならない。

(2)長官は,(1)に基づいてされた請求を,当該請求の提出日から21日の期間内に処理する。

ただし,国防又は原子力に関する発明の場合は,21日の期間は,中央政府からの同意の受領日から起算する。

 

【留意事項】

第39条不順守の場合に起こりうる深刻な事態に照らせば、インド国外に特許出願する前にインドに居住する発明者によってFFLを得ること、あるいは最初にインドに特許出願し、その後6週間の間に秘密保持命令を受けなかった場合にインド国外に特許出願することが必須である。

インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限

【詳細】

インド特許法(The Patents (Amendment) Act, 2005)第39条によれば、以下の条件が満たされた場合を除き、インド居住者によるインド国外への特許出願が制限される。

・同一発明についての特許出願が、インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされており、かつ当該インド出願に対して第35条に基づく秘密保持の指示が発せられなかった場合。または、

・外国出願許可(foreign filing license: FFL)をインド特許庁長官から得た場合。

 

第39条の起源は、1907年英国特許法にさかのぼる。第39条の適用範囲は、当初は政府に譲渡される発明のみに限定されていたが、第二次世界大戦中、その範囲は公衆による発明にまで拡大された。

現在の第39条の運用を見ると、インドに居住する発明者が発明を行った場合(発明者の全員がインド居住者である場合であれ、1人以上のインド非居住発明者を含む場合であれ)、本条文は適用される。発明者の全員がインド居住者であり、出願人もインド居住者である場合にとりうる最も簡略な方法は、まずインド特許出願を行い、インド国外への特許出願を行うまで6週間の経過を待つことである(代替案は後述する)。他方、インド居住者とインド非居住者が共同で発明を行った場合で、インド非居住の発明者または出願人が他国においても同様の義務を有する場合、とりうる最も簡略な方法は、インド特許庁からFFLを得ることである。

FFLを得るためには、インド居住発明者の場合、所定の書式(Form 25)および発明の簡単な説明(通常は最低3ページの文書)を提出する必要がある。弁護士または弁理士がインド居住の発明者を代理してFFLを請求する場合、インド居住発明者の委任状が必要となる。手数料はインド居住発明者の場合、8,000ルピーである(*)。なお、インド特許規則71によれば、提出書類の不足や記載不備がない限り、FFLは請求の提出日から21日以内に認められる。

(*)オンライン出願を行った場合で、出願人が個人または小規模企業でない場合の手数料

 

第39条の規定を解釈するときに直面する問題を以下に掲げ、説明する。

 

1.第39条による規制の適用対象は誰か

特許法第39条は、「居住者」に適用される。また、第1項は以下のように規定している。

「インドに居住する何人も、所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は、発明につきインド国外で特許付与の出願をし、またはさせてはならない」

したがって、本条の適用において国籍や市民権は無関係である。

次に、「人」は自然人および法人を含むため、本条は、インド居住者である発明者およびインドに居所を有する企業を含む。

第3項に以下の例外規定がある。

「本条は,保護を求める出願がインド国外居住者により、インド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない」

 

2.インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、他の発明者がいずれも非インド居住者の場合でもFFLを請求する必要はあるのか

インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、インド特許庁に対しFFLを請求し、これを得た後にインド国外に出願することが要求される。FFLは、インド居住発明者が請求することができる。出願人がインド企業である場合、インド居住発明者の代わりに、インド企業がFFLを請求することができるが、インド居住発明者からインド企業への当該発明に対する権利の移転を示す証拠文書も提出する必要がある。

 

3.特許法は「居住者」や「インドに居住する人」について定義しているか

特許法は、どのような場合に「居住者」や「インドに居住する人」に該当するのか、具体的に定義していない。改正前の1970年特許法や、2002年特許法(現行法第39条に相当する条項を含む)においても、これらの用語について定義されていない。

 

4.インドの他の法律で「居住者」や「インドに居住する人」を定義しているものはあるか。もしある場合には、インド特許庁やインドの裁判所が、それらの法律における「居住者」や「インドに居住する人」の定義を採用する可能性はあるか

「居住者」や「インドに居住する人」は、少なくとも他の二つの法律において定義されている。それは、所得税法(Income Tax Act, 2012)と外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act (FEMA), 2000)である。

所得税法および外国為替管理法はそれぞれ、「居住者」と「インドに居住する人」を定義しているが、その定義はあくまで当該法律を解釈することを目的とする旨が、それぞれの法律に明記されている。さらに、この二つの法律における定義を比較してみると、その定義は一致しない。そもそも、これらの法律と特許法では目的を全く異にしており、インド特許庁やインドの裁判所が、所得税法や外国為替管理法における「居住者」や「インドに居住する人」の定義をそのまま採用する可能性は極めて低い。

以上に照らせば、係争などになった場合、インド特許庁やインドの裁判所は、複数の辞書に示されている一般的定義に基づき、かつ特許法の立法趣旨や、他国(英国,米国等)の特許法における同等の規定も参照しつつ、「居住者」や「インドに居住する人」について適切と判断する定義を採用するものと考えられる。

 

5.規定された21日の期間内に外国出願許可を確実に得るためにすべきことは

インド特許庁と請求人とのやり取りの過程で露呈する不備等により、手続きが遅れることがある。必要書類の提出漏れや記載不備などがこれに該当する。したがって、請求人は、FFL請求を提出する際、発明を明確かつ十分に開示し、また代理人を通して請求を提出する場合には委任状を付すことを怠ってはならない。これらの書類を遅滞なく提出することにより、規則で定められる21日の期間内にFFLが認められる確率が高くなる。

 

6.不注意によりインド国外に特許出願を行った後で、FFLを請求することは可能か

不注意によりインド国外に特許出願を行った後でFFLを請求する仕組みについて、特許法には規定がない。

 

7.不注意によりFFLを得ずインド国外に特許出願を行った場合、いかなる事態が起こるのか

第39条を順守しない場合、少なくとも以下の措置がとられることになる。

(a)当該インド特許出願は放棄扱いとされる、(b)特許登録されていた場合は取消処分とされる、(c)2年以内の禁固刑、罰金、もしくはこれらが併科される。

 

8.第39条に係る規定が改正される可能性はあるか

第39条が近い将来改正される予定はないが、規則71が改正される可能性はある。2015年10月26日付で、インド特許庁が公告した規則改正案(パブリックコメント募集中)によれば、規則71に新たに(3)項が追加されている。そこには「発明が国防または原子力の出願に関する場合、21日の期間は、中央政府の承認を受領した日から計算される」と記載されている。したがって、この規則改正が成立すれば、FFL請求がインド特許庁から中央政府に付託された場合、21日の期間は、中央政府の承認を受領した日から計算されることになる。

 

【留意事項】

第39条不順守の場合に起こりうる深刻な事態に照らせば、インド国外に特許出願する前にインドに居住する発明者によってFFLを得ること、あるいは最初にインドに特許出願し、その後6週間の間に秘密保持命令を受けなかった場合にインド国外に特許出願することが必須である。

日本とインドの特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較

日本の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長

(1)特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間

・出願人が在外者でない場合(国内出願人)は、意見書および補正書の提出期間は60日

・出願人が在外者である場合(外国出願人)は、意見書および補正書の提出期間は3ヶ月

条文等根拠:特許法第50条、第17条の2第1項、方式審査便覧04.10

 

日本特許法 第50条 拒絶理由の通知

審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号または第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあっては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。

 

日本特許法 第17条の2 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面の補正

特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。

一  第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第一項において準用する場合を含む。)および第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき

二  拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。

三  拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき

四  拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。

 

日本方式審査便覧 04.10

1 手続をする者が在外者でない場合

(3)次に掲げる書類等の提出についての指定期間は、特許および実用新案に関しては60日、意匠および商標に関しては40日とする。ただし、手続をする者またはその代理人が、別表に掲げる地に居住する場合においては、特許および実用新案に関しては60日を75日と、意匠および商標に関しては40日を55日とする。

ア 意見書

特50条{特67条の4、159条2項〔特174条1項〕、特163条2項、意19条、50条3項〔意57条1項〕}

・商15条の2{商55条の2第1項〔商60条の2第2項(商68条5項)、商68条4項〕、商65条の5、68条2項、商標法等の一部を改正する法律(平成8年法律第68号)附則12条}

 

2 手続をする者が在外者である場合

(3)次に掲げる書類等の提出についての指定期間は、3月とする。ただし、代理人だけでこれらの書類等を作成することができると認める場合には、1 (3)の期間とする。

ア 意見書

イ 答弁書

ウ 特許法第39条第6項※5、意匠法第9条第4項または商標法第8条第4項の規定に基づく指令書に応答する書面

エ 特許法第134条第4項もしくは実用新案法第39条第4項の規定により審尋を受けた者または特許法第194条第1項の規定により書類その他の物件の提出を求められた者が提出する実験成績証明書、指定商品の説明書等、ひな形・見本、特許の分割出願に関する説明書等

オ 命令による手続補正書(実用新案法第6条の2および第14条の3の規定によるものに限る。)

 

(2)特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間の延長

・出願人が在外者でない場合(国内出願人)は、最大1ヶ月まで延長可能

ただし、拒絶理由通知書で示された引用文献に記載された発明との対比実験を行うとの理由(理由(1))を付して応答期間の延長を請求する必要がある

・出願人が在外者である場合(外国出願人)は、最大3ヶ月まで延長可能

ただし、拒絶理由通知書や意見書・手続補正書等の手続書類の翻訳を行うとの理由または上記理由(1)を付して応答期間の延長を請求する必要がある

条文等根拠:特許法第5条第1項、方式審査便覧04.10

 

日本特許法 第5条 期間の延長等

特許庁長官、審判長または審査官は、この法律の規定により手続をすべき期間を指定したときは、請求によりまたは職権で、その期間を延長することができる。

2 審判長は、この法律の規定により期日を指定したときは、請求によりまたは職権で、その期日を変更することができる。

 

日本方式審査便覧 01.10

1 手続をする者が在外者でない場合

(16)特許法第50条の規定による意見書または同法第134条第4項の規定による審尋に関しての回答書等の提出についての指定期間は、「拒絶理由通知書で示された引用文献に記載された発明との対比実験のため」という合理的理由がある場合、1月に限り、請求により延長することができる。

 

2 手続をする者が在外者である場合

(11)特許法第50条の規定による意見書または同法第134条第4項の規定による審尋に関しての回答書等の提出についての指定期間は、合理的理由がある場合に限り、請求により延長することができる。合理的理由と延長できる期間は以下のとおりとする。ただし、同法第67条の4に係る拒絶理由通知については、下記ア 対比実験のため)の理由による延長請求は認められない。

ア 「拒絶理由通知書で示された引用文献に記載された発明との対比実験のため」という理由により1月単位で1回のみ期間延長請求をすることができる。

イ 「手続書類の翻訳のため」という理由により1月単位で3回まで期間延長請求することができる

ウ アおよびイの組み合わせによる期間延長請求は、合計3回までとする

 

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インドの実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間延長

(1)特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間

・応答期間についての規定はない

・ただしアクセプタンス期間(最初の拒絶理由通知から12ヶ月)内に特許付与可能な状態とする必要がある

・そのため、拒絶理由通知への応答はアクセプタンス期間内に行う必要がある

・アクセプタンス期間内に答弁や補正が行われた場合、審査官は再度審査しなければならない

・2回目以降の拒絶理由通知に対しても応答はアクセプタンス期間内に行う必要がある

・なお、出願人の居所(在外、在内)に関わらず、アクセプタンス期間は12ヶ月である

条文等根拠:特許法第21条、規則24B(4)条、特許庁の特許実務および手続の手引08.04 第7パラグラフ

 

インド特許法 第21条 出願を特許付与の状態にする期間

(1)特許出願については、長官が願書もしくは完全明細書またはそれに係る他の書類についての最初の異論陳述書を出願人に送付した日から所定の期間内に、出願人が当該出願に関して完全明細書関連かもしくはその他の事項かを問わず、本法によりまたは基づいて出願人に課された全ての要件を遵守しない限り、これを放棄したものとみなす。

(説明)手続の係属中に、願書もしくは明細書、または条約出願もしくはインドを指定して特許協力条約に基づいてされる出願の場合においては出願の一部として提出された何らかの書類を長官が出願人に返還したときは、出願人がそれを再提出しない限り、かつ、再提出するまで、または出願人が自己の制御を超える理由により当該書類を再提出できなかったことを長官の納得するまで証明しない限り、かつ、証明するまで、当該要件を遵守したものとはみなさない。

 

インド特許規則 24B(4) 出願の審査

(4)第21条に基づいて出願を特許付与のために整備する期間は、要件を遵守すべき旨の異論の最初の陳述書が出願人に発せられた日から12月とする

 

インド特許庁の特許実務および手続の手引 08.04 第7パラグラフ

出願人が12月以内に当該書類を再提出した場合には、審査官は当該出願を新たに審査しなければならない。当該審査において、法の定める要件が満たされていると認められた場合、特許権は付与される。

 

(2)特許出願に対する拒絶理由通知への応答期間の延長

・アクセプタンス期間は延長することができない

ただし、所定期間内にヒアリング(聴聞)の申請を行うことによって、アクセプタンス期間経過後も出願の係属を維持できる。なお、ヒアリングの申請はアクセプタンス期間満了の10日前までに行う必要がある。

条文等根拠:特許規則第138条、特許法第80条、特許法第14条

 

インド特許規則138条 所定の期間を延長する権限

(1)規則24B、規則55(4)および規則80(1A)に別段の規定がある場合を除き、本規則に基づく何らかの行為をするためまたは何らかの手続をとるために本規則に規定される期間は、長官がそうすることを適切と認めるとき、かつ、長官が指示することがある条件により、長官はこれを1月延長することができる

(2)本規則に基づいてされる期間延長の請求は、所定の期間の満了前にしなければならない。

 

インド特許法第80条 長官による裁量権の行使

本法に基づいて手続当事者を長官が聴聞すべき旨または当該当事者に対して聴聞を受ける機会を与えるべき旨を定めた本法の規定を害することなく、長官は、如何なる特許出願人または明細書補正の申請人(所定の期間内に請求の場合に限る。)に対しても、本法によってまたはそれに基づいて付与された長官の何らかの裁量権をその者に不利に行使する前に、聴聞を受ける機会を与えなければならない。ただし、聴聞を希望する当事者は、当該手続について指定された期限の満了の少なくとも10日前に、長官に対して当該聴聞の請求をしなければならない。

 

インド特許法第14条 審査官の報告の長官による取扱い

特許出願について長官の受領した審査官の報告が、出願人にとって不利であるかまたは本法もしくは本法に基づいて制定された規則の規定を遵守する上で願書、明細書もしくは他の書類の何らかの補正を必要とするときは、長官は、以下に掲げる規定にしたがって当該出願の処分に着手する前に、異論の要旨を可能な限り早期に当該出願人に通知し、かつ、所定の期間内に当該出願人の請求があるときは、その者に聴聞を受ける機会を与えなければならない。

 

日本とインドの特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較

  日本 インド
応答期間 60日(ただし在外者は3ヶ月) 規定なし

(アクセプタンス期間(12ヶ月)内に特許付与可能状態にする必要有)

応答期間の

延長の可否

条件付きで可 不可

(ヒアリングの申請により、

出願の係属状態は維持可能)

延長可能期間 最大1ヶ月(在外者は最大3ヶ月)

 

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新興国等知財情報データバンク 調査対象国・地域における拒絶理由通知への応答期間の延長の可否等については、下記のとおりである。

 

特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する各国比較

応答期間 応答期間の延長の可否 延長可能期間 延長のための庁費用の要否
JP 60日 *1 最大1ヶ月
BR 90日 不可
CN 4ヶ月*2 最大2ヶ月
HK*3
ID 通常3ヶ月 審査官の裁量による 不要
IN *4 不可*5
KR 通常2ヶ月 最大4ヶ月
MY 2ヶ月 最大6ヶ月
PH 通常2ヶ月 通常4ヶ月
RU 2ヶ月*6/3ヶ月 最大10ヶ月
SG 5ヶ月/3ヶ月*7 不可
TH 90日 最大120日 不要
TW 3ヶ月 最大3ヶ月
VN 2ヶ月 最大2ヶ月

*1(JP):延長の条件は上述の詳細を参照

*2(CN):再度の拒絶理由通知書の場合は2ヶ月

*3(HK):実体審査制度なし

*4(IN):アクセプタンス期限(最初の拒絶理由通知から12ヶ月)が設定される

*5(IN):ヒアリングの申請を行うことで係属状態は維持可能

*6(RU):旧法適用出願(2014年10月1日より前に出願されたもの)が2ヶ月、改正法適用出願(2014年10月1日以降に出願されたもの)が3ヶ月。

*7(SG):シンガポール特許庁に審査を請求した場合、応答期間は5月。シンガポール特許庁に補充審査を請求した場合、応答期間は3ヶ月。

シンガポールにおける第一国出願制度

【詳細】

1.第一国出願の関連規定

シンガポール特許法第34条 シンガポール居住者の外国出願に対する制限

(1)本条に従うことを条件として、シンガポールの居住者は、登録官の書面による許可なしに発明についての特許出願を、シンガポール国外で行ってはならない。ただし、次の場合は、この限りでない。

 (a)シンガポール国外での出願の2ヶ月以上前に、同一の発明についての特許出願がシンガポール知的財産権庁特許登録局に行われている場合

 (b)シンガポールにおける当該出願に関して第33条に基づく指示が与えられていないかまたはそのような指示がすべて取り消されている場合

(2)(1)は、発明についての特許出願が最初にシンガポール以外の国で、シンガポール国外居住者により行われている場合は、適用しない。

(3)本条に違反して特許権付与を求める出願を行うかまたは行わせる者は、犯罪となり、有罪と決定すれば5,000ドル以下の罰金もしくは2年以下の拘禁に処し、またはそれらを併科する。

(4)本条において、

 (a)特許出願には、発明について他の保護を求める出願が含まれ、

 (b)出願の種類を問わず、出願というときは、本法に基づく出願、シンガポール以外の何れかの国の法律に基づく出願、またはシンガポールが締約国である条約に基づく出願をいい、かつ

 (c)「シンガポールの居住者」には、何らかの目的をもってシンガポールに入国し滞在するために、移民法(Cap. 133)に基づき有効な滞在許可証を合法的に交付され、重要な時期にシンガポールに居住している者を含む。

 

 要約すると、シンガポール国外で出願する、または出願させることを希望する出願人または発明者など、シンガポールのあらゆる居住者は、下記のいずれかの一方を遵守しなければならない。

 

(i)シンガポール国外で出願する2ヶ月以上前に、シンガポールにおいて特許出願すること

(ii)IPOSから書面による許可を取得すること

 

2.書面許可申請

 上記の書面による許可を希望する者は、知的財産権の出願等に関するオンラインシステムIP2SG(以下、IP2SGという)を通して電子形式で、または書面形式で特許登録官に申請しなければならない。第34条申請様式は、特許登録局または以下のウェブサイトにおいて入手可能である。

https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/resources-library/patents/patent-forms-and-fees/form-section-34-otc81d91977c2d0635fa1cdff0000abd271.pdf

 

 申請書には、下記の情報を記載しなければならない。

 

(i)全ての発明者の名前および住所

(ii)全ての出願人の名前および住所

(iii)発明の名称

(iv)発明の簡単な説明(例えば、要約、発明開示)

 

 書面による許可を求める全ての申請は、書面形式の場合は、ファクシミリ送信、手渡しまたは郵送により登録局に提出することができ、電子形式の場合は、IP2SGを通して提出できる。

 

 シンガポールの防衛または公衆の安全を損なう恐れのある情報が含まれていないと登録官が判断する発明については、申請の提出から24時間以内に書面による許可を取得することができる。

 

 申請が緊急を要する場合、申請人は、電話番号+65 6339 8616(日本から電話する際には頭に国際電話である001を付ける。なお+65はシンガポールの国番号)にてIPOSに報告し、同時に申請を行うことができる。

 

3.第34条違反

 第34条に違反した場合、遡及的許可は認められない。寛大な措置を求めて登録官に具申するのが一般的実務である。

 

 過去の実務から判断して、登録官は事件の事実を考慮した後、初回違反者の場合は100~1,000シンガポールドルの金額の支払いにより違反を示談にすることができ、当該違反者に対する以後の法的手続は取られない。

 

4.基準は「居住」

 注意すべき重要な点として、特許法第34条は、発明が着想された場所とは無関係である。また、(シンガポール国外で出願する、または出願させる人の)市民権も、無関係である。シンガポールにおける「居住」が基準となる。特許法は単に、シンガポールの「居住」者は許可なしにシンガポール国外で「出願して」はならず、「出願させて」もならないと定めている。