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台湾における商品・役務の類否判断について(前編)

1.はじめに
 台湾智慧財産局(日本の特許庁に相当、以下「知的財産局」という。)は、「誤認混同のおそれに関する審査基準(混淆誤認之虞審查基準)」を制定しており、そこで商品または役務の類否について解説している。ちなみに、知的財産局が、別途、「商品・役務分類及び相互検索参考資料(商品及服務分類暨相互檢索参考資料)」を作成、公開しており、商品・役務の類否判断に際し、重要な参考資料となっている。
 本稿では、主にこの「誤認混同のおそれに関する審査基準」および「商品・役務分類及び相互検索参考資料」を参考にして主題を検討し、商品または役務の類否判断の基本的な考え方、商品間の類否、役務間の類否、商品・役務間の類否、の4点に分けて解説する。

2.基本的な考え方
(1) 台湾の審査手法について
 知的財産局の商標審査実務では、商標が登録できるか否かを審査する際、日本と同様、まずは、①出願商標が識別力を有するか否かを判断し、次いで、②①で識別力を有すると判断した場合、出願商標の指定商品・役務と同一または類似する商品・役務において、同一または類似の先行商標が存在するか否かを調べ、かかる先行商標を発見した場合、最後に、③先行商標と出願商標とを比較対照し、同一または類似するか否かを判断する、という審査手法をとっている。

 ①の識別力の判断に関しては「商標識別性審査基準」に、③の商標の類否判断に関しては「誤認混同のおそれに関する審査基準」に従い、それぞれ判断が行われている。

 ちなみに、商標の標識(mark)が同一または類似を構成し、またその指定商品・役務についても同一または類似関係を有すると判断された場合、次いで、誤認混同を引き起こすおそれがあるか否かについて判断されることになり、その結果、誤認混同のおそれがあると判断された場合、出願商標は拒絶されることになる。

 「誤認混同のおそれに関する審査基準」2.には、基本的に、両商標の標識が同じで、さらに指定商品・役務も全く同じである場合、誤認混同のおそれがあると認められる、と規定されている。ただし、両商標の標識が同一でなく類似を構成し、その商品・役務が同一または類似関係を有する場合、さらに両標識の類似度合いおよび商品・役務の類似度合いを考慮し、「誤認混同のおそれ」があるか否かを判断しなければならない、と規定されている。

 両商標の「標識が類似」および「指定商品・役務が類似」という2つの要素がそろった場合、誤認混同のおそれがないとはいえないが、必然的に誤認混同のおそれがあるといえるものではない。その他の重要な要素の存在により、誤認混同のおそれがないこともあり、例えば、2つの商標が市場において既に長期にわたり並存しており、かつ、いずれも商品・役務の関連消費者に熟知され、容易に区別できる場合、誤認混同のおそれはないと認定される。このように、「標識の類似」および「商品・役務の類似」という要素以外に、誤認混同のおそれの有無に影響しうる他の関連要素が存在するかしないかも考慮されるべきものである。

 前述のように、商品・役務の類否判断の重要な参考資料として、「商品・役務分類及び相互検索参考資料」が作成されている。これは商品・役務が類似するか否かの実務上の判断において極めて重要な参考資料であり、同参考資料によって同じ類似群(類似群コード前4桁が同一)に属するものと、相互検索すべき類似群に属するものであれば、基本的に類似関係を有すると認められるが、商品・役務の類否については、個別案件において一般の社会通念および市場取引の状況を斟酌し、商品・役務の各種の関連要素を考慮しなければならない。

 「誤認混同のおそれに関する審査基準」5.3.3および「商品・役務分類及び相互検索参考資料」によると、通常、類似商品・役務とは、同一もしくは似ている性質・効能・用途を備えていることが一般的である。よって、原則として、商品・役務の類似性を判断する際は、まず、商品・役務の性質・効能・用途から考慮すべきであり、そして、製造者・提供者、それから販売ルート・場所、および消費者層などの要素を考慮すればよい。

 なお、日本国特許庁および日本台湾交流協会は、日本と台湾のそれぞれの商標審査で使用されている類似群コードの対応関係を示す一覧表(日台類似群コード対応表)を作成し、公表しているので参考にされたい。

3.商品間の類否について
(1) 商品間の類否判断における考え方

 台湾における商品の類否判断について、前述のとおり、基本的に「商品・役務分類及び相互検索参考資料」に開示されている同じ類似群(類似群コード前4桁が同一)に属するものと、相互検索すべき類似群に属するものであるか否かをもって行われている。その具体的な判断原則としては、「誤認混同のおそれに関する審査基準」5.3.4、5.3.5において、「商品の性質・効能または用途に関する原則」および「完成品と部品、原料または半製品に関する原則」という2つが規定されている。

① 商品の性質・効能または用途に関する原則
 商品の性質とは、商品の本質または特性を指す。例えば、「新鮮な果物」と「コーヒー」は、いずれも食用できる商品であるが、性質が異なる。一方、「炭酸水」と「ジュース」は、いずれも飲み物で、性質が同じである。
 商品の効能または用途とは、主な使用予定の目的を指しており、使用可能な方法ではないので、一般の社会通念により判断されるべきである。例えば、「スリッパ」の効能・用途は足元を保護し、歩くことを補助することであって、ゴキブリを殺すことではない。よって、「スリッパ」と「ゴキブリ駆除器」は、性質が異なる商品である。同一の効能・用途を有する商品とは、例えば、「ボールペン」と「万年筆」のように、書くことが主な効能または用途であり、書くために使用されることによって消費者の需要を満足させるものである。

 同審査基準では、更に「相互補完効能を有する商品」と「コーディネートして使用される商品」という2つの類型が取り上げられている。

A.「相互補完効能を有する商品」:
 「万年筆」と「万年筆のインク」のように、消費者群が同一で、片方がないと、他方も影響を受け、一緒に使用する必要があり、互いに補い合うことにより、共同で消費者の特定の要求を満たすことができる商品をいう。相互補完関係が密接になればなるほど、類似程度も高くなる。
 相互補完効能は、原則的に商品の使用のみに適用され、商品の製造過程には適用されない。また、完成品とその部品の間に類似関係があるとは限らない。(下記②を参照)
B.「コーディネートして使用される商品」:
 2つの商品がコーディネートして使用されることは、概念上、相互補完関係を有することとは異なり、例えば、第9類の「眼鏡」と第14類の「宝石」は、スタイリングとコーディネートとして併せて使用される可能性があるが、両者の性質および主な用途は異なるので、類似商品とは認められない。「眼鏡」の主な目的は視力改善用で、「宝石」はアクセサリーとして付けられるもので、両者は販売ルートが異なるほか、競争性も相互補完関係も有さないと認められる。一方、第25類の「被服」と「靴」は、いずれも体を保護するために、通常コーディネートして使用される商品である。消費者が「被服」を買うときに、同じ売り場で「靴」が見つかることを期待でき、両者が同一業者により製造されることもよくあることから、類似関係があると認定される。

② 完成品と部品、原料または半製品に関する原則
 商品自体とその製造材料には、必ずしも類似関係があるわけではない。当該材料が他人により製造・販売され、消費者は商品と材料が異なる出所であることを知っている場合、またはある材料が製造過程においてのみ使用され、一般人が買うことのできない場合、類似関係はないと認められる。
 商品自体とその部品または半製品とが必要な依存関係を有する場合、例えば、部品または半製品がなければ、商品の経済上の使用目的を達成できない場合は、類似商品として認められる可能性が高くなる。例えば、「電気式歯ブラシ」と「電気式歯ブラシ用ヘッド」、「自動車」と「自動車用リム」がその例である。
 一方、「皮革」と「皮革製被服;皮革製靴」のように、当該部品または半製品が製造過程において著しく変化し、完成品とは、その性質・用途、または消費者層・販売ルートも大きく異なる場合、前者(半製品)の購買者は製造産業であって、通常、消費者が直接買うことはなく、その販売ルートや消費者層も後者(完成品)とは異なるので、類似商品ではない。また、当該部品または半製品があらゆる商品に使われる場合、原則的に商品自体と類似しないと認められる。例えば、「酵母」と「パン」、「卵」と「ケーキ」も類似商品ではない。
 また、上記のほか、両商品が同一の製造業者に由来するものである場合、類似関係を有すると認定される可能性は高い。例えば、第27類の「カーペット」と第24類の「タペストリー」、第9類の「電子出版物」と第16類の「本;雑誌」がその例である。
 一方、両商品の販売ルートや売り場が同じであっても、類似関係があるとは限らない。例えば、第21類の「お皿;コップ」と第24類の「マットレスカバー;布団カバー」は、同じ売り場で販売されるにもかかわらず、商品の性質・効能または用途に差異が大きく、製造者も異なるので、類似しないと認められる。しかし、第7類の「家庭用ミキサー」と第11類の「電気コーヒー沸かし」は、同じ家電エリアで販売されるものなので、類似商品として認められる。

(2) 類見出し(Class Heading)の取り扱いについて
 台湾では、類見出し(クラスヘッディング)の表記が認められているものもあれば、認められないものもある。「商品・役務分類及び相互検索参考資料」によると、類見出しの前に「#」記号を付けているものは、範囲が広すぎるため表記として認められないものであり、具体的な商品を指定しなければならない。

(3) 商品名を指定する際の留意事項について
 「商標登録出願の方式審査基準(商標註冊申請案件程序審查基準)」2.1には、商品名を指定するときに、必ず具体的に指定しなければならず、「他の区分に属さない全ての商品」、「本区分に属する全ての商品」という範囲が広すぎる表記を指定することができない、と示されている。例えば、「台所用具」は、範囲が広すぎて不明確であるため、具体的に第8類の「台所用ナイフ」、第11類の「電気式ケトル」、または第21類の「コップ」を指定することが考えられる。
 実務上、日本の商標実務者は、「電子応用機械器具及びその部品」、「測定装置」など日本で認められている商品を指定しがちであるが、台湾では、それらの範囲は広すぎて不明確であるとして、具体的に列挙するよう補正を求められる。
 また、台湾の商標登録出願の政府手数料は、指定する商品が20個までの場合はNT$3,000となり、20個を超える場合は、1個ごとに政府手数料(割増料金)NT$200を納付する必要がある。よって、費用の面から、商品数は20個以内に抑えることも考えられる。
 商品個数の計算基準として「商品と特定商品の小売・卸売の個数計算原則及び例示(商品及特定商品零售服務個數計算原則及例示)」が定められている。例えば、一つの商品に、形状/用途を説明する形容詞を付ける場合、形状/用途の数により個数が異なり、「粉状・粒状・ペースト状のプラスチック」の場合は計3個で、「写真複写機用及びプリンター用カートリッジ」の場合は計2個となる。
 指定商品・役務の表現および所属区分は、実務変更により変わるほか、審査官により取り扱いも異なり、同一名称が過去に認められたことがあっても、後願で認められない場合もある。最新情報は、知的財産局の下記データベース、「商品・役務名分類照会(商品及服務名稱分類査詢)」を参照されたい。
(後編に続く)

中国における商品・役務の類否判断について

1.はじめに
 新興国データバンクでは既に、「中国での商標出願における商品/役務名称の記載に関する留意点」(2022.03.07)(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/22839/)を紹介している。
 本記事では、日中両国の商品・役務の類否判断を審査基準で比較することにより、審査基準の考え方の相違を明らかにし、日本の実務者が中国の商品・役務の類否判断を理解するのに資するものとしたい。
 具体的には、「商品または役務の類否判断の基本的な考え方」、「商品間の類否について」、「役務間の類否について」、「商品・役務間の類否について」の4点に分けて解説する。

2.商品または役務の類否判断の基本的な考え方
 中国の商標出願の審査手法については、中国国内の直接出願(以下、「中国国内出願」という。)と、国際登録出願(以下、「マドプロ出願」という。)に分けて説明する。

2-1.中国国内出願の場合
 中国において国内出願をすると、まず、方式審査が行われる。方式審査の中で、出願商標の指定商品・役務を認容するか否かが判断され、認容すると判断された場合、印紙代納付通知書が発行される。期限内に印紙代が納付された場合、受理通知書が発行される。一方、指定商品・役務が認容できないと判断された場合、補正通知書(補正命令)が発行される。補正命令の内容について、補正書や意見書を提出することができる。補正書や意見書によって不備が解消された場合、印紙代納付通知書が発行され、印紙代が納付された場合、受理通知書が発行される。補正書や意見書を提出しても不備が解消できなかった場合、不受理通知書(手続却下)が発行される。
 ここで、出願人として注意すべき点は、中国では、指定商品・役務に関する補正の機会は方式審査中の1回限りである点である。出願時の指定商品・役務の削除または補正しか認められないという規定はないが、1回の提出機会で説明を尽くし、審査官の理解を得ることは容易ではない。よって、「类似商品和服务区分表——基于尼斯分类第十二版(2023文本)」(日本語:「ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表」)(https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/200902/W020230831580552653183.pdf)に含まれず、また、中国当局に受け入れられる商品・役務以外の商品・役務、すなわち、規範名称ではない商品・役務の指定を日本の出願人が希望する場合、著者は出願前に以下の3つの提案を行う。

 ① 指定商品・役務を中国当局の認容可能性の高い商品・役務名で出願する。
 出願人は、代理人と十分にコミュニケーションを取ることによって、希望する商品・役務に代理人の知見を加味し、当局にとって認容可能性の高い商品・役務名を指定して出願する。
 ② 規範名称ではない商品・役務を指定して出願する場合、「中華人民共和国商標法実施条例」第15条第1項に説明義務が定められていることから、当該指定商品・役務についての説明書を作成し、願書とともに提出する。
 ③ 同時に、規範名称ではない指定商品・役務の上位概念と思われる規範名称の商品・役務を指定することを勧める。規範名称ではない場合、前述のとおり、説明書を提出しても認容は容易ではない。そのため、結果として出願の手続却下となることを避けるため、規範名称ではない商品・役務を削除しても、上位概念の指定商品・役務が受理されるような出願を提案する。

 受理通知書が発行された後、出願は実体審査に進む。実体審査では、指定商品・役務が認容される否かを再度判断することは通常ない。実体審査の判断内容は以下の通り。
 まず、絶対的拒絶事由としての「中華人民共和国商標法(以下「法」という。)」第4条(使用意思欠如の出願)、第10条(商標登録を受けることができない商標)、第11条(商標登録の要件)、第12条(立体商標登録の要件)、第19条(代理機構の義務)について判断する。
 指定商品・役務と関連する絶対的拒絶事由の中に、法第10条第1項第7号(品質誤認、内容誤認)の拒絶理由がある。例えば、「自然」「natural」「nano」などの単語を使用する場合、商品の特徴、品質について需要者が誤認するおそれがあるため、法第10条第1項第7号で拒絶される可能性が高いとされる。近年では、このような拒絶理由が増えているように感じられる。また、法第10条第1項第7号に該当する理由で拒絶された商標を継続して使用した場合、行政処分(「商標の一般的な違法性判断基準」第15条)の対象となるため、注意が必要である。当該条文の審査は日本より随分厳しいと思われ、出願前に代理人に確認して、かかる拒絶査定を受けるおそれのある出願を避け、万一、拒絶査定が出た場合、速やかに使用を中止できる対応が取れるようにする。
 また、商標の標識(mark)が指定商品・役務名を表すなど、法第11条第1項に基づく識別力欠如を理由に拒絶査定が出るケースも存在する。識別力有無の判断は、日本より厳しい傾向があるので、事前に代理人に確認する必要がある。法第11条第1項に該当する場合、通常、使用に問題がなく、かつ、使用することによって識別力を獲得する可能性もある。その場合、改めて商標出願して権利化することになる。なお、出願人の中には識別力欠如と判断された場合、識別力を獲得するまで出願を繰り返す者も存在するが、推奨できない。なぜなら、出願の繰り返しは出願商標に識別力を獲得させることにはならないので、費用が掛かるだけで登録には至らないばかりか、拒絶査定または拒絶審決の数が増えることによって、識別力欠如の事実がより明らかな状況に陥り、識別力獲得の認定を妨げる可能性も生じると考えられるからである。また、出願人の中には、出願の繰り返しは第三者による出願の排除効果を期待できると考える者も存在するが、中国の商標出願の審査期間は拒絶査定まで3~4か月、拒絶査定不服審判を合わせても10~11か月という短い期間しかないので、後願の排除効果の費用対効果は極めて限られていることに留意する必要がある。
 次に、相対的拒絶事由として第30条(他人の登録商標と類似)、第31条(他人の出願商標と類似)が存在する。いわゆる、商標の類似性判断である。商標の類似性判断については、指定商品・役務が類似するか否かを判断した上で、標識(mark)が類似するか否かを判断する。その中で、指定商品・役務の類似性判断は、類似群の概念で判断する。類似群については後述する。

2-2.マドプロ出願の場合
 中国を指定国としてマドプロ出願し、保護認容を受ければ、中国国内で商標権を得ることができる。マドプロ出願の場合、中国当局は、中国国内出願の方式審査の一部である指定商品・役務の審査と実体審査を同時に行う。したがって、マドプロ出願では、指定商品・役務が中国において認められないとする暫定拒絶通報が出る。例えば、日本のパチンコ関連など一部の商品・役務は、中国においては公序良俗違反とされるので留意していただきたい。
 なお、公序良俗に違反しないが新製品や新サービスを指定するため規範名称でない商品名・役務名を試みる場合、中国国内出願ではなく、登録可能性が比較的高いマドプロ出願を選択することを勧める。
 もちろん、マドプロ出願でも規範名称ではない商品・役務であれば、指定商品・役務について暫定拒絶通報が出る場合があり、拒絶理由により下記2つの対応が考えられる。
 ① 公序良俗違反の商品・役務の場合:補正しても登録の見込みはないことから削除を勧める。
 ② その他の商品・役務に補正できる場合:例えば、小売・卸売役務の場合、第35類では、「他人のために売り込み」「他人のために買い入れ」という規範名称の役務が存在するので、当該役務に補正することで拒絶理由が解消される可能性がある。
 マドプロ出願における中国当局の暫定拒絶通報を受けた場合、拒絶査定不服審判を提起するとともに、WIPO国際事務局に対して商品・役務補正を行う。
 中国国内出願の拒絶査定と同じ法的効力を有することから、出願人が通報に不服があっても、補正書や、意見書を提出して対応することが出来ないため、拒絶査定不服審判を提起する。また、中国の場合、不服審判の中で、商品・役務の補正ができないので、WIPO国際事務局に対して商品・役務補正を行う。

 マドプロ出願の場合、中国当局から保護通知書が発行されるが、中国当局に対して登録証明書の発行を要請する必要がある。なぜなら、マドプロ出願が中国で登録されても、中国当局から商標登録証は発行されないため、商標権を主張しようとする場合、中国当局が発行する商標登録証明書が必要になるからである。また、マドプロ出願が中国で権利化できた場合、保護通知書には指定商品・役務の記載がないことから、商標権の権利範囲を確認するためにも、商標登録証明書の発行手続を勧める。

2-3.類似群について
 中国では、商品・役務を判断する際に、日本と同様に類似群制度が採用されている。
 中国の類似商品・役務区分表は、以下を参照されたい。

・商标注册用商品和服务项目申报指南(商品・役務の商標登録事項の申告に関するガイドライン、https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/

 上記ガイドラインは中国語であるため、日本の出願人には、日中両国の特許庁が作成した類似群対応表を活用することも有用である。

・日中韓類似群コード対応表(https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/bunrui/kokusai/jpo_cnipa_kipo-ruiji2020.html

 日本語、英語および中国語において使用する商品・役務と一致するものを選んで中国に商標出願することが望まれる。なお、不明な場合には(日本語が堪能な中国の代理人であっても)、具体的な対象商品の写真、広告写真、類似群対応表を参考にした日本語および英語の指定商品・役務名の候補を示して中国代理人に相談することが望ましい。
 なお、中国の類似商品・役務区分表の改定について明確な基準はないが、基本的にはニース分類に従って変更され、5年毎に大改正が、また、毎年小改正が行われている。

3.商品間の類否について
3-1.商品の類否判断における考え方

 中国では、商品間の類否判断について、商標審査審理指南(2021)p.158(第五章 商標の同一または類似の審査および審理、2. 解釈)において、次のように規定されている。
 「類似商品とは、機能、用途、生産部門、販売ルート、消費対象などがほぼ同一または密接に関連する商品をいう。」
(商标审查审理指南(商標審査審理指南、https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/tzgg/202111/t20211123_5673.html
・同上、JETRO仮訳(https:/www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20220101_2.pdf))

 また、「ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表」の第1ページ「編集者の説明」には、次の記載がある。

 「類似商品とは、機能、用途、使用原材料、販売ルート、消費者対象などの面において商品に一定の共通性を有し、同一または類似標識(mark)を使用する場合、消費者が特定の関連性を有すると容易に理解し、同一企業が生産する商品と誤認するものを指す。」
・类似商品和服务区分表——基于尼斯分类第十二版(2023文本)(前出)编者说明(ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表 編集者の説明)

3-2.商品名の分類方法
 指定商品を各区分に分類する方法として、次の3つの分類方法が挙げられる。

 ① 類似商品・役務区分表に記載されている商品名称(通常、規範名称という)であれば、区分表に従って分類される。
 なお、商品名として、ニース分類における類見出し(Class heading)、注釈(Explanatory Note)を記載してはならない。
 ② TM5(商標5大特許庁:日中欧米韓)で中国当局が受け入れると声明した商品については、声明時に公表された区分に分類される。これは随時、追加される。中国で認容される商品名は、大きく3つに分類される。

 ①および②は、以下の中国商標網で検索できる(使用方法は下記関連記事参照)。ただし、検索用語は中国語のみである。
(国家知识产权局商标局中国商标网(中国国家知識産権局中国商標網、http://wcjs.sbj.cnipa.gov.cn/gs))

 ③ 上記以外の商品名の場合、区分のテーマ、類見出し、注釈に依拠し、規範名称に照らしながら指定する。これらに依拠しても商品名を特定できない場合、下記1~6の原則によって指定する。
 1 完成品の場合、機能または用途によって分類。
 2 多機能の完成品の場合、主な機能または用途によって分類。
 3 原料、未加工品または半製品の場合、原材料によって分類。
 4 前項の場合、複数の原材料が存在する場合、主な原材料によって分類。
 5 部品の場合、用途によって分類。
 6 専用容器の場合、載せる商品と同一分類。
・商标注册用商品和服务项目申报指南(商品・役務の商標登録事項の申告に関するガイドライン、https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/)の二、商品和服务项目分类申报原则(商品・役務の分類および申告の原則)(一)商品分类原则(商品分類原則)1~6参照

関連記事「中国における商標の調べ方—中国商標網ウェブサイト」(2020.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18789/

4.役務間の類否について
4-1.役務の類否判断における考え方

 中国では、役務間の類否判断について、商標審査審理指南(2021)(前出)p.159(第五章 商標の同一又は類似の審査及び審理、2. 解釈)において、次のように規定されている。
 「類似役務とは、役務の目的、内容、方法、対象などの面において、同一または緊密な関連性を有する役務をいう。」
 また、「ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表」第.1ページ「編集者の説明」(前出)には、次の記載がある。

 「類似役務とは、役務の目的、内容、方法、対象などの面において一定の共通性を有し、同一または類似標識(mark)を使用する場合、消費者が特定の関連性を有すると容易に理解し、同一企業が提供する役務と誤認するものを指す。」

4-2.役務の分類方法
 指定役務を各区分に分類する方法として、次の3つの分類方法が挙げられる。

 ① 類似商品・役務区分表に記載されている役務名称(通常、規範名称という)であれば、区分表に従って分類される。
 なお、役務名として、ニース分類における区分のテーマ、類見出し(Class heading)、注釈(Explanatory Note)を記載してはならない。
 ② TM5(商標5大特許庁:日中欧米韓)で中国当局が受け入れると声明した役務については、声明時に公表された区分に分類される。これは随時、追加される。
 ①および②は、中国商標網(前出)で検索できる。ただし、検索用語は、中国語のみ。

 ③ 上記以外の役務は、区分のテーマ、類見出し、注釈に依拠し、規範名称に照らしながら分類する。これらに依拠しても役務を分類できない場合、下記1および2の原則(「商标注册用商品和服务项目申报指南」(前出)参照)によって指定する。

 1 役務の属する業界並びに役務の目的、内容、方法および対象等を組み合わせて総合的に判断する。
 2 レンタルサービス、コンサルティングサービスおよびフランチャイズサービスは、以下の原則に従って分類する。
 (1) レンタルサービスは、原則として、リース対象物によって実現される役務と同一の区分に分類される。
 例:「レンタル電話」は通信サービスを提供するため、区分38。
 リースサービスはレンタルサービスと同様に分類する。ただし、ファイナンスリースは金融サービスであり、区分36に分類される。
 (2) アドバイス、情報提供、相談等を行うコンサルティングサービスは、原則、提供される役務と同一の区分に分類される。電話、コンピュータネットワークなどの電子的手段によるアドバイス、情報、または相談の提供であっても、分類には影響しない。
 例:「交通情報」は運輸サービスと同じ区分39、「金融コンサルティング」は金融サービスと同じ区分36に分類される。
 (3) フランチャイズサービスは、原則、提供する役務と同一の区分に分類される。
 例:「商業管理のフランチャイズ」は、提供する経営管理サービスと同じ区分35に分類される。
(商标注册用商品和服务项目申报指南(前出)の二、商品和服务项目分类申报原则(二)服务分类原则1、2参照)

4-3.小売・卸売役務について
 「○○小売または卸売役務の提供」が認容されないとの明文規定はないが、医薬品以外の分野において、小売・卸売役務は存在しないと判断されている。
(「北京市高级人民法院商标授权确权行政案件审理指南(中、英文版)(北京市高級人民法院の商標権利化、権利確認の行政案件の審理指南)」(2019.04.24、https://bjgy.bjcourt.gov.cn/article/detail/2019/04/id/3850624.shtml))
 上記指南には、小売・卸売との役務は明確ではないものの、商標権者がデパート、スーパーマーケットなど、場所を提供することによって商業的な取引があり、商品販売に提言、企画、宣伝、コンサルティングなどのサービスを提供する場合、「他人のための売り込み」という役務は、商標の使用と判断できる、と示されている。つまり、北京の裁判所は、医薬品以外の分野において、小売・卸売役務は存在しないと判断している。
 一方、旧商標局は、スーパーマーケットの役務は「他人のための売り込み」役務に含まれないという判断を示した。(「スーパーマーケットの役務と『販売促進(他人のため)』役務とが類似役務に属するか否かの問題に関する返答」(商標監字[2012]第43号、URLなし)
 なお、第35類においては、3503類似群「他人のための売り込み」「他人のための買い入れ」という役務を指定することが可能である。
 以上の状況から、現状では「小売または卸売役務の提供」および「○○小売または卸売役務の提供」は認められないが、万全を期したい場合には、現在でも認められる(「商品名」+「他人のための売り込み」)および(「商品名」+「他人のための買い入れ」)を指定することを勧める。
 また、「他人のための売り込み」と「他人のための買い入れ」は非類似とされているので、売買いずれもカバーしたい場合は、いずれの役務名でも権利取得する必要がある。

5.商品・役務間の類否について
5-1.商品-役務間の類否判断における考え方

 前記の商標審査審理指南(2021)P159(第五章 商標の同一または類似の審査および審理、2. 解釈)において、商品-役務間については特段の記載はないが、前記の商品および役務のそれぞれの記載に準じれば、商品と役務の間に比較的大きな関連性を具備すれば類似と考えられる。

 とはいえ、類似商品・役務区分表には、商品と役務とでクロスサーチを行うような記載がないことから、商品-役務間で類似とされる審査は、通常、行われていない、と考えられる。

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シンガポールにおける特許審査での審査官面接

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台湾における特許出願および意匠出願の審査官面接

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