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タイにおける商品・役務の類否判断について(中編)

(前編から続く)

3. 商品の類似性または非類似性
3-1. 商品の類似・非類似の判断方法
 審査官は、出願商標と同一区分および商品・役務が関連すると予備的に考えられる他の区分において、先行商標を調査する。前記「前編2-2.3)(C)商品・役務の関連性・非関連性の検討」で述べたとおり、DIPは、各区分においてクロスチェックの対象となる関連区分のリストをウェブサイトで提供している*1。下表は、商品の各区分に関連する商品区分をDIPのウェブサイトから抜粋したものである。例えば、区分1は区分5をクロスチェックする可能性が高いことを示している。出願前調査の指定区分以外の区分とのクロスチェックに活用されたい。なお、このリストで指定されている以外の区分についてもクロスチェックが行われる例もあることに留意されたい。

区分1234567
関連区分511, 51188,11,12
区分891011121314
関連区分6117,97
区分15161718192021
関連区分9
区分22232425262728
関連区分22259,2424,2524
区分293031323334
関連区分30,3229,3229,30,3332

*1 DIPのウェブサイトを閲覧する方法を後編【クロスチェックリストの閲覧方法】に示した。

審査官は、区分とは別に、新審査基準の「前編2-2.3)(C)商品・役務の関連性・非関連性の検討」に沿って、特定の商品間の関連性を検討する。具体的には、以下の点を評価する:

 (i) 商品または役務が同一の需要者グループを対象としているかどうか。
 (ii) 意図する需要者が専門家か知識ある者かどうか。
 (iii) 商品または役務の目的が同じかどうか。
 (iv) 商品または役務が同一の流通経路を通じて販売または提供されているかどうか。
 (v) 商品または役務が高価格であるかどうか。

 しかし、審決・判決例によれば、上記以外の観点も存在すると思われる。例えば、商品が生産段階で関連するかどうか、商品が完成品と部品の関係にあるかどうか等が挙げられる。
 商品間の関連性の判断に関する審判部の審決例および裁判所の判決例は、以下のとおり。

(A) 商品が関連しているとみなされた例
① 商標審決番号479/2564(2021)
出願商標:
区分33:ぶどう酒

引用商標:
区分32:果実ジュース、野菜ジュース、果実風味水

理由:引用商標の指定商品は、出願人のぶどう酒製造に使用できることから、両商標の商品は同じ性質を有している。

注目点:商品は生産段階において関連する、と判断された。

② 商標審決番号746/2565(2022)
出願商標:
区分7:ゴルフコース用土圧縮ローラー、ゴルフコースなどで使用する芝生用土壌改良用機械

引用商標:
区分7:道路ローラー用シート、道路ローラー用シート懸架装置、道路ローラー用コンソールボックス、クレーンシート、クレーンシート用懸架装置等

理由:両商標の商品は、同一区分であるだけでなく、同じ性質のものであると判断する。具体的には、機械である出願商標の商品と機械の部品である引用商標の商品は、一緒に使用できるとした。さらに、対象となる需要者グループも同一である。

注目点:区分とは別に、商品の関連要素、すなわち、完成品と部品の関係、需要者の対象グループも考慮して判断された。

(B) 商品が関連していないとみなされた例
① 商標審決番号1136/2565(2022)
出願商標:ELIMINATOR
区分12:航空機

引用商標:ELIMINATOR
区分12:オートバイ、オートバイの泥除け、オートバイのフレーム等

理由:両商標の商品は、同一区分にもかかわらず、使用目的、対象とする需要者グループ、流通経路が異なる。出願商標の商品は航空機であるのに対し、引用商標の商品は陸上車両である。また、需要者は、使用目的に応じて、商品を購入する前にある程度の調査を行うと考えられる。したがって、両商標の商品は、同じ性質のものではない。

注目点:本審決は、審判部が商品に関する様々な要素を考慮していることを示している。具体的な使用目的を考慮し、その結果、異なるタイプである車両に関連性はないと判断している。さらに、車両の特別な特性を考慮し、需要者は通常、注意して購入すると判断している。以上の理由により、混同が生じる可能性は低いとされた。

② 商標審決番号964/2564(2021)
出願商標:
区分25:スポーツに関連する全ての被服

引用商標:
区分25:上着(下着およびスポーツ用衣料は除く。)

理由:同一区分ではあるが同一商品ではなく、また、引用商標は「スポーツ用衣料」を明確に除外している。したがって、両者の商品は、同じ性質のものではない。

注目点:審判部は、商品の特定の使用目的を検討する。本審決例では、具体的な使用目的が重複していないことから、両者の商品は関連性がないとされた。

③ 商標審決番号87/2564(2021)
出願商標:
区分7:卵ベースの食品を精製するために使用される機械、卵食品加工機械、卵食品の包装に使用される機械
引用商標:
区分7:ホイールローダー(訳注:ブルドーザーの足回りがタイヤで受器が比較的大きい運搬車両)、ロードホールダンプ機械(訳注:坑内採掘に使用され比較的大きいホイールローダーの1種)、コンクリート舗装機、採掘機など

理由:出願商標の商品は、卵から食品を加工するための特別なものであるのに対し、引用商標の商品は、様々な使用目的を意図した機械であり、広範な産業に関連するものであると説明している。これらの事実を踏まえると、両商標の商品は、同じ性質のものではない。さらに、これらの商品は、高価格であり、仕様も様々である。対象となる需要者は、知識が豊富で、混乱することなく、目的に従って商品を正しく選択できる人である。

注目点:審判部は商品の種類(本審決例は、どちらも機械)とその使用目的を考慮する。特定目的の商品は、一般目的の同じ商品とは関連が生じない。また、商品が高価格で仕様が多様である場合は、対象需要者は通常、かかる商品についての知識を有しており、混同の可能性はない。

④ 商標審決番号246/2563(2020)
出願商標:VELSAN
区分1:化粧産業用化学品

引用商標:VALSAN
区分1:無菌包装用途等に使用される過酸化水素溶液

理由:両商標の商品は同一区分であっても、商品の性質は、需要者が商品の出所や所有者について混同したり誤認したりしない程度に異なっている。

注目点:本審決においては、商品間の関連性/非関連性を判断するために何を考慮したかについて明示していない。しかし、「化粧品産業用」と「無菌包装用」という使用目的は異なると考えていると思われる。

⑤ 商標審決番号 41/2560(2017)
出願商標:SANDEX
区分7:機械用精密減速機、機械用割出駆動装置、ピックアンドプレース装置(訳注:機械部品の搬送装置の1種)、シート材を他の機械に順次供給する供給装置など

引用商標:SUNDEX
区分7:電気ドリル

理由:両商標の商品が同一区分であっても、両者の商品に関連性がない。出願商標の商品が工場で使用する機械であるのに対し、引用商標の商品は電気ドリルである。両者は使用目的も形状も明らかに異なる。さらに、出願商標の機械は、特定の販売代理店を通じて販売されるのに対し、引用商標のドリルは、通常の商店で販売される。このように、想定される需要者層と流通経路が異なる。最後に、出願商標の商品は高価格であるため、購入者は使用目的に応じて慎重に商品を選択する。その結果、商品の出所や所有者に関して社会的混乱は生じない。

注目点:審判部は、対象とする需要者の相違および流通経路の相違がもたらす使用目的を検討する。本審決では、商品の外観の相違も考慮し、さらに、商品を選択する際の注意の程度に影響する商品の価格も考慮した。

⑥ 商標審決番号43/2560(2017)
出願商標:NATOROSOL PERFORMAX
区分1:塗料製造用セルロースエーテル、ワニス製造用セルロースエーテル、ステイン製造用セルロースエーテルなど

引用商標:
区分1:工業用膠(にかわ)

理由:両商標の商品は、同一区分であっても、両者の商品は関連性がない。出願商標の商品が、塗料やコーティング剤の製造に使用されるのに対し、引用商標の商品は、工業用接着剤である。使用目的も産業グループも明らかに異なる。また、出願商標の商品は一般店ではなく、特定の販売店を通じて販売されているのに対し、引用商標の商品は一般的な接着剤や貼付器具の販売店で販売されるものである。また、工業用接着剤は高価格帯の商品であるため、需要者は用途に応じて慎重に購入を検討する必要がある。

注目点:審判部では、区分だけでなく、使用目的、業界、流通経路および商品価格も考慮する。

⑦ 商標審決番号4325/2561(2018)
出願商標:
区分9:ICカード(スマートカード);暗号化されたIDカード;スマートカード読取装置
引用商標:
区分9:ワイヤレスアダプター、コンピュータデータ・信号変換装置

 審査官も審判部も、出願商標と引用商標とは、商品が同一区分であり同じ性質であるため、関連性があると判断したが、出願人はこの案件を中央知的財産権国際貿易裁判所に提訴した。同裁判所は、「当事者の両商品が第9類という同一の類に属するとしても、この類には広範な商品が分類されている。その上で、当事者の特定商品間の関連性を検討し、引用商標権者の商品が人と人との間の通信に使用されるモバイル機器であるのに対し、出願人の商品は電子カードとセキュリティ目的のカードリーダーまたはレコーダーとの間の非接触データ通信に使用されると認定する。このように、両当事者の具体的な商品は異なり、異なる消費者グループを対象としている。その結果、商品が同じ区分であるにもかかわらず、公衆が商品の出所や所有者について混乱したり誤解したりすることはないと考えられる。」との判決を下した。
 本件は最高裁判所(終審裁判所)に上告され、最高裁判所は次のような判決を下した。「出願人の商品はセキュリティ目的で使用されるため、需要者は商品の品質を検査し、需要者の使用目的を満たすかどうかを判断しなければならない。つまり、需要者はセキュリティシステムに関する知識を持ち、両当事者の商標を区別できるはずである。さらに、両当事者の商品の使用方法は異なる。結論として、公衆が商品の出所や所有者について混乱したり誤解したりすることはないと思われる。」

注目点:審判部は、単に商品の区分と性質のみを考慮した。一方、中央知的財産権国際貿易裁判所および最高裁判所は、その他の関連要素、すなわち、対象需要者、使用目的および使用方法を検討した。
 上記の判決例によれば、商品の類似性が判断される際には、様々な要素が考慮される。例えば、生産段階における商品の関連性、販売段階における商品の流通方法(取引経路)、使用目的が同一か重複するか、商品が同一需要者グループを対象としているか、商品が完成品と部品の関係で関連しているかなど、日本やタイでも同様の要素が考慮される。

3-2. ニース分類の活用
 法第9条は、欧州連合理事会規則第33条(2)および(6)と同様に、指定商品・役務の分類および明確化に関する要件を規定している。商品および役務の分類に関する告示により、商品および役務はニース分類に沿った45の区分に分類される。一方、指定商品および指定役務が十分に明確化されているかどうかを判断するため、DIPは認容する商品・役務を以下の一覧に公開している。(「タイで商標登録出願された商品・役務一覧」https://tmsearch.ipthailand.go.th/

3-3. 参照のための商品名一覧(類見出しのみの名称を含む)
 前項に示した一覧は、単なる例であり、出願時に、この一覧から商品・役務の名称を選択することは必須ではない。これは、電子システムを通じて出願する場合にも、DIPに紙で提出する場合にも適用される。
 ただし、「商標使用を緊急とする必要性についての商標審査結果の第一次通知に関する告示」および「緊急の場合における商標審査結果の第一次通知に関する告示」により導入された「早期審査」の対象となる出願については、その他の要件のうち、商品および役務は前記一覧から選択しなければならない。
 類見出しについては、一般的に広すぎて受け入れられないと考えられている。この問題については、「3-4. 商品を指定する際の留意点」で詳述する。

3-4. 商品を指定する際の留意点
 タイで商品・役務を指定する場合、出願人は以下の点に留意する必要がある。
 DIPは、指定商品・役務の記載について、かなり厳格である。一般に、出願人は、意図する商品・役務を項目ごとに明確に指定する必要がある。例えば、区分 5の「医薬品用薬剤“pharmaceutical preparations”」という記載は広すぎると考えられる。例えば、アレルギー用錠剤、循環器疾患治療用製剤のように、具体的な医薬品の種類や治療目的を特定する必要がある。
 また、通常、類見出しは広すぎるとみなされる。例えば、「被服、履物、帽子 “Clothing, footwear, headwear”」は区分25の類見出しであるが、認容されない。また、「すなわち」、「本区分に含まれるものすべて」、「前述のものすべて」のような広い範囲を示す表現も認められない。
 タイ語で記載された商品・役務の名称と英訳の一覧がDIPウェブサイトに掲載されている。(前記、「タイで商標登録出願された商品・役務一覧」)。ただし、適切な保護を確保するため、タイ語の名称と英訳の整合性を確認することが推奨される。
 なお、上記の一覧は、事前の通知なしに頻繁に更新される。審査官は、出願時ではなく、審査時に入手可能なリストに依拠する。したがって、出願時に許容された商品・役務記載が後に拒絶される可能性がある。

(後編に続く)

タイにおける商品・役務の類否判断について(後編)

(中編から続く)

4. 役務の類似性または非類似性
4-1. 役務の類似・非類似の判断方法
 前編および中編で述べたとおり、DIPは、各区分においてクロスチェックの対象となる関連区分のリストをウェブサイトで提供している*1。下表は、役務の各区分に関連する役務区分をDIPのウェブサイトから抜粋したものである。出願前調査の指定区分以外の区分とのクロスチェックに活用されたい。なお、このリストで指定されている以外の区分についてもクロスチェックが行われる例もあることに留意されたい。

区分3536373839
関連区分36354041,42
区分404142434445
関連区分373838

*1 DIPのウェブサイトを閲覧する方法を稿末【クロスチェックリストの閲覧方法】に示した。

 役務の類似・非類似の判断については、前記「前編2-2.3)(C) 商品・役務の関連性・非関連性の検討」における5つの評価点に加え、その他の関連する要素も考慮する。主な考慮点としては、役務の性質並びに特質、事業分野および需要者グループが挙げられる。

(A) 役務が関連しているとみなされた例
① 商標審決番号366/2561(2018)
出願商標:
区分36:土地・建物の鑑定評価・管理

引用商標:, COURTARD, および
区分43:ホテル・レストランにおけるサービスの提供

 出願商標の指定役務は、ホテル、リゾート、キャンプを含む広範な不動産の開発および管理であると説明している。従って、両当事者の役務は区分が異なるにも拘わらず、同じ種類の不動産に関連する同じ性質のものである。従って混同の可能性がある。

注目点:役務が提供される事業分野の関連性を考慮する。

② 商標審決番号634/2559(2016)
出願商標:
区分35:メディアに関する包括的な広告制作

引用商標:
区分38:有線テレビ放送、区分41:ラジオ・テレビ番組の企画、娯楽目的のファッションショーの企画、コンサートの企画
引用商標:
区分41:テレビおよびラジオの番組制作

 出願商標の役務が「総合的な広報媒体の制作」であるのに対し、引用商標の役務は「有線テレビ放送、ラジオおよびテレビ番組の制作、企画、娯楽目的のファッションショーの企画、コンサートの企画」であり、両商標の役務は異なる区分ではあるが関連性がある、とされた。

注目点:本審決において、役務間の関連性/非関連性を判断するために、どのような考慮事項を用いるかについて明示していない。しかし、著者は、両商標の役務が、同じ事業分野、すなわちエンターテインメント産業とメディア産業で提供されていることから、両商標の役務は、関連性があると判断されたと理解している。

③ 商標審決番号628/2563(2022)
出願商標:
区分41:不動産・不動産に関連する時事・トレンド・経済分野のオンライン・ニュースレターの提供、不動産・不動産に関連する時事・トレンド・経済分野の電子メールによるオンライン電子ニュースレターの配信等

引用商標:
区分35:インターネット上の動画再生前後の広告、モバイルメッセンジャーを通じた広告、インターネットを通じた広告、オンライン上の広告スペースのレンタル、広告資料の作成および更新、商業情報代理店、経営管理に関する助言サービス、経営管理コンサルタントなど

 両商標の役務は、異なる区分ではあるが、同じ性質、すなわち、すべて情報の提供および配布であり、両商標間には混同の可能性がある、とされた。

注目点:上記②の審決(634/2559(2016))とは異なり、本件では、両商標の役務が全く異なる分野(出願商標が不動産分野であるのに対し、引用商標は広告および経営管理分野)であるにも拘わらず、両商標の役務の性質に注目し、両商標が本質的に情報の提供と配布である点で関連している、と判断した。

(B) 役務が関連していないとみなされた例
① 商標審決番号148/2559(2016)
出願商標:
区分35:ビタミン剤等の栄養補助食品に関する小売・卸売業経営、ミネラルエキス等の小売・卸売業経営

引用商標:
区分44:医療研究センターサービス

 両商標の役務は異なる区分であり、同じ性質のものではないと説明している。

注目点:両商標の役務の関連性/非関連性の判断に考慮点は明示されていない。著者は、異なる事業分野、異なる需要者グループに対して提供される役務であることが考慮されたと理解している。特に、出願商標は一般消費者を対象とした商業分野であり、引用商標は医療関係者を対象とした医療研究産業分野であると解される。

② 商標審決番号1341/2559(2016)
出願商標:
区分43:食品・飲料の小売サービス、カクテルラウンジ、コーヒーショップ、食品・飲料のケータリング等

引用商標:
区分35:ホテルの経営管理、ホテルに関する宣伝・販売促進サービス等
区分36:不動産管理、不動産の賃貸等

 両商標の役務は異なる区分であり、同じ性質のものではないと説明している。

注目点:両商標の役務の関連性/非関連性の判断に考慮点は明示されていない。著者は、両商標の役務は異なる事業分野で提供される役務であることが考慮されたと理解している。特に、出願商標は飲食業において提供され、引用商標は不動産業および一時宿泊業において提供されている点が考慮されたと考えられる。

③ 商標審決番号805/2563(2020)
出願商標:
区分42:補聴器に関する科学研究サービス、補聴器に関する技術研究サービス等

引用商標:
区分42:農業科学研究サービス、農業に関するコンピュータプログラム作成サービス、農業に関する科学研究サービス等

 両商標の役務は異なる区分であり、同じ性質のものではないと説明している。

注目点:両商標の役務の関連性/非関連性の判断に、考慮点は明示されていない。著者は、両商標の役務は異なる事業分野および異なる需要者グループに提供される役務であることが考慮された、と理解している。特に、出願商標は、聴覚障碍者を対象とする補聴器に特定された科学分野であり、引用商標は、農業従事者を対象とする農業に特定された科学分野である点が考慮された、と考えられる。

 上記の審決例に基づけば、タイでは、例えば、対象としている需要者の範囲や需要者グループが一致しているか、事業分野のカテゴリーが一致しているかなど、日本と同様の要素が考慮されている。ただし、対象役務や対象事業分野が同一の法律で規制されている点を考慮する日本とは異なり、これらのアプローチは、タイでは採用されていない。
 また、上記の審決例から、EUIPOの商標審査基準(https://guidelines.euipo.europa.eu/1803468/1786759/trade-mark-guidelines/3-1-1-similarity-factors)における役務の非類似性・類似性を検討する際の基準(役務の性質、役務の目的、関連する公衆や需要者)をEUと共有していると思われる。

4-2. 小売役務
 前記「(中編)3-2 ニース分類の活用」で述べたように、指定役務は明確に記載しなければならず、広範であってはならない。現行の実務に基づけば、「小売」という役務表記は広範すぎて受け入れられないと考えられる。例えば、「バッグの小売店サービス」、「宝飾品の小売サービス」のように、出願人はどの商品を提供するのかを明確に特定しなければならない。
 とはいえ、DIPは現在、「小売役務」よりもさらに広範な役務記載、すなわち、役務の名称「他人の利益のために、輸送を除く様々な商品を集め、消費者がそれらの商品を便利に見て購入できるようにすること」を認めている。このことは、商標審決番号2484/2562(2019)においても採用されている。
 小売役務と商品との関連性を評価する際のアプローチを説明するため、商標審決番号2484/2562(2019)および商標審決番号1013/2564(2021)を示す。

① 商標審決番号 2484/2562(2019)
出願商標:
区分35:他人のために、様々な商品を集めること、消費者が便利に商品を見たり購入したりできるようにすること、食品の販売管理、商品の輸出入管理、他の事業者のための購買サービスなど
[重要:本出願は「小売」というサービス自体を対象とするものではない。]

引用商標:
区分30:チューインガム

引用商標:
区分30:ゼリー

理由:出願商標の役務は、商品と同じ性質を有さないビジネスの一種であるとした。したがって、混同の可能性は生じないとした。
 本審決は、出願商標の役務から保護される事業の範囲が引用商標に使用する商品と重複するか否かを検討することなく、単に事業が商品と同一性質のものではないと判断しているように思われる。
 しかし、その2年後、審判部は、対象商標の具体的な商品と役務との関連性をより詳細に検討した審決を下したので以下に紹介する。

② 商標審決番号1013/2564(2021)
出願商標:
区分35:顧客が便利に商品を見たり購入したりできるように、他人の利益のために様々な商品を集めること、化粧品の小売・卸売、トイレタリー製品の小売・卸売、歯科用品の小売・卸売、飲料などのオンライン小売

引用商標:
区分29:牛肉缶詰、魚缶詰、果物缶詰、野菜缶詰、魚介類缶詰など

理由:両商標の商品と役務とは異なる区分である。さらに、出願商標の役務は、他人の利益のために、顧客が便利にそれらの商品を見たり購入したりできるように、様々な商品をまとめることであり、引用商標の商品と同じ性質のものではない特定の商品の小売や卸売を行うことである。その結果、混同のおそれはない、とした。

注目点:上記2つの審決例から得られるポイントは以下の通りである:
・「小売」という役務よりも、「他人の利益のために、消費者が便利に商品を見たり購入したりできるようにするために、様々な商品を集めること」という役務の方が広範であるため、これらの審決から、提供される商品が表示されていない「小売役務」や「卸売役務」、「販売役務」などは(DIPによって認められる場合)、商品と同じ性質のものではないと結論づけることができると思われる。換言すれば、「小売」という広範な役務を指定する先行登録商標は、区分 1から区分 34までのいずれかに属する商品を指定する後行商標出願の登録を妨げるものであってはならない。このことは、区分35の「消費者の便宜のために種々の商品を一緒にすること」、「販売管理」および「商品のオンライン販売サービス」は、区分25の「シャツ」および「ズボン」と同一性質のものではないとする新審査基準でも確認されている(新審査基準90頁参照)。詳細は「5.商品・役務間の類似性または非類似性」で後述する。
・「小売役務“retail services”」、「卸売役務“wholesale services”」、「販売役務“sale services”」に使用する提供商品が具体的に表示されている場合は、当該商標の商品とは性質が異なる商品を提供する他の商標とは無関係とみなされる。
 例えば、「バッグの小売店舗サービス」と「化粧品の小売店舗サービス」のように、提供する商品が異なる小売サービス間の関連性を検討した前例はない。しかし、「3.商品の類似性・非類似性」に記載したようなアプローチにより、販売する特定の商品間の関連性を検討すべきであると考える。特に、商品が同じ性質のものでない場合、または同じ需要者グループを対象としていない場合は、関連性がなく、混同の可能性は生じない。同様に、関連性のない商品を提供する小売サービスも、需要者に混同を生じさせるものではないと考えられる。例えば、「化粧品産業で使用する化学薬剤の小売サービス」と「無菌包装で使用する過酸化水素水溶液の小売サービス」は、商標審決番号246/2563(2020)に基づくと、特定商品の使用目的により関連性が認められない、と考えられる。

4-3. 不使用取消
 法第63条によれば、3年間使用されていない商標登録は、不使用を理由に取消される可能性がある。しかし、実際には、不使用取消は、不使用の立証責任を申立人が負うため、非常に困難である。審判部は、商標権者が使用を証明する証拠を全く提出せず、反駁しない場合であっても、不使用の証明が不十分であるという理由で申立を却下するケースもある。不使用の場合であっても、商標権者は、不使用が特別な事情によるものであり、商標を放棄する意図によるものではないことを証明することにより、防御することができる。例えば、商標権者が特定の商品または役務に関して商標を使用している場合、商標権者に商標を放棄する意思がないと解釈することができる。法律は、特定の商品および役務に対する部分的取消の可能性も明示していない。

4-4. 役務を指定する際の考慮事項
 審査官は、指定役務記載の可否を判断する際に、中編「3-4. 商品を指定する際の留意点」で説明した基準を同様に適用する。また、出願人は、意図する役務を項目ごとに明確に指定しなければならない。しかし、区分1~34では認められない広範な商品が、役務の説明では含まれることがある。例えば、「区分5:食品サプリメント」および「区分25:衣料品」という商品は認められないが、「食品サプリメントに関する小売サービス」および「衣料品の小売サービス」というサービスの指定は、区分35で認められる。したがって、出願人は、サービスの範囲を不必要に限定しないよう、前記「タイで商標登録出願された商品・サービス一覧」に掲載されている最新の商品・役務許容リストを常に入手する必要がある。

5. 商品・役務間の類似性または非類似性
 DIPは、各区分においてクロスチェックの対象となる関連区分のリストをウェブサイトで提供している。下表は、区分1から34までの商品に対する区分35から45までの役務との関連区分と、役務に対する商品との関連区分とのリストをDIPのウェブサイトから抜粋したものである。なお、このリストで指定されている以外の区分についてもクロスチェックが行われる例もあることに留意されたい。

区分12345
関連区分353535,42,443535,42,44
区分678910
関連区分3535,373535,37,38,41,4235,44
区分1112131415
関連区分35,3735,37,393535,3735
区分1617181920
関連区分35,37,41353535,37,4235,37,43
区分2122232425
関連区分3535353535,40,45
区分2627282930
関連区分35,403535,4135,42,4335,42,43
区分3132333435
関連区分35,42,4335,42,4335,42,4335
区分3637383940
関連区分912
区分4142434445
関連区分99

 クロスチェックとは別に、審査官は、「前編2-2.3)(C)商品・役務の関連性・非関連性の検討」に記載されたアプローチに沿って、特定の商品・役務の関連性を検討する。
 上記のアプローチに加え、新審査基準では、広範な役務の記載は、狭義の商品の記載と同じ性質を有するとはみなされないことが具体的に規定されている(新審査基準90頁参照)。その例は以下の通り:
・区分35の「消費者の便宜のために各種の商品を集めること」、「販売管理」、「商品のオンライン販売サービス」は、区分25の「ワイシャツ」、「ズボン」と性質が異なる。
・区分43の「飲食店サービス」は、区分30の「茶、コーヒー、ココア」、区分32の「飲料、水(飲料)」、区分33の「酒類、蒸留アルコール飲料」と性質が異なる。
・区分44の「美容サービス」は、区分3の「皮膚栄養クリーム」と性質が異なる。

 商品と役務の関連性を判断する際のアプローチを示す商標審決例を以下に示す。

(A) 商品と役務とが関連しているとみなされた例
① 商標審決番号1617/2560(2017)
出願商標:
区分19:非金属建材、建築用硬質非金属パイプ、建築用非金属材料シート、建築用非金属板、建築用非金属ポータブル構造部品

引用商標:
区分43:倉庫の建設、工場の建設、店舗の建設、家屋の建設、倉庫の建設、工場の建設、店舗の建設、家屋の建設、建設に関するコンサルタント業など

理由:引用商標の役務は建設サービスに関するものであるため、両者の商品/役務は同じ性質のものであるとした。

注目点:建築材料である出願商標の商品が引用商標の建築サービスの提供に使用できることから、両商標の商品と役務とは同じ性質であると考えることができる。

② 商標審決番号106/2559(2016)
出願商標:
区分42:個人用電子機器に関するオンライン問題の処理、個人用電子機器の技術サポート

引用商標:
区分9:オーディオテープレコーダー、スピーカ、コンピュータ等

理由:両商標は異なる区分に属するが、両商標の商品とサービスは同じ性質であり、混同の可能性がある、とした。

注目点:両商標の商品および役務が、電子機器という同じ分野に関するものであることから、両商標の商品および役務が同じ性質のものであると考えることができる。

(B) 商品と役務が無関係とみなされた例
① 商標審決番号921/2564(2021)
出願商標:
区分11:空気濾過媒体、空気濾過装置、空気濾過装置用フィルター、音響媒体

引用商標:
区分37:車両注油、車両保守、車両整備、車両修理、車両洗浄

理由:両商標の商品と役務は異なる区分であり、それぞれの使用目的は特定されている。その結果、両商標の商品と役務は同じ性質のものではなく、混同の可能性は生じない。

注目点:両商標の商品・役務の具体的な使用目的または提供目的が重複しているかどうかを検討する。

② 商標審決番号371/2562(2019)
出願商標:
区分44:美容施術に関する助言サービス、美容コンサルタント、美容施術等

引用商標:
区分3:皮膚栄養クリーム

理由:両商標は化粧品に関連するが、異なる需要者グループを対象としており、異なる取引経路を通じて提供されている。その結果、出願商標の商品と引用商標の役務は同じ性質のものではない、とした。

注目点:区分とは別に、商品の関連要素、すなわち、需要者の対象グループと取引経路も考慮した結論となっている。本審決例と新審査基準に基づき、商品と役務の類似性・非類似性を判断する際、例えば、商品と役務の意図された目的が合致しているか、商品と役務が対象とする需要者が一致しているかなど、タイと日本は、その判断方法を共有している。
 さらに、タイは、欧州の商標審査基準に規定されている要因の一部、すなわち、商品・役務の性質や意図する目的を考慮している。

6. まとめ
 DIPおよび裁判所は、商品および役務の類似性を判断するために、商標の国際分類(区分)のみならず、例えば、商品および役務の性質、商品の使用または役務の提供の目的、生産段階における関連性、対象需要者、取引経路、商品または役務の価格等の様々な要素を考慮している。

【クロスチェックリストの閲覧方法】
(1) DIPのウェブサイト https://search.ipthailand.go.th/ に接続する。

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(5) 区分    ニース分類 Class Heading       関連区分(商品・役務)
46はDIP独自分類で証明商標を、47は団体商標を示し、全区分に関連する。

韓国における審判制度概要

1.審判の流れ

図1. 審判の流れ

2.審判請求
1-1.査定系の審判請求

 特許庁の審査で拒絶査定を受けた場合、拒絶査定書謄本の送達日から3か月以内に特許審判院に拒絶査定不服審判を請求することができる(特許法第132条の17/実用新案法第33条/商標法第116条/意匠法第120条)(審判便覧第1編第3章第1節参照)。

1-2.当事者系の審判請求
 当事者系の審判請求は無効審判、権利範囲確認審判、取消審判、訂正審判等がある(特許法第7章/実用新案法第7章/商標法第7章/意匠法第7章)(審判便覧第1編第3章第2節参照)。

3.方式審査
 審判請求時に記載要件および指定書類等の形式的な要件を審査し、瑕疵がある場合には、補正命令が発付される。瑕疵を指定期間(一般的に1か月。延長可能)以内に補正しない場合には、決定により審判請求は却下される(決定却下)(特許法第141条/実用新案法第33条/商標法第127条/意匠法第128条)(審判便覧第3編第3章第2節参照)。
 補正不能の審判請求は審決により却下される(審決却下)(特許法第142条/実用新案法第33条/商標法第128条/意匠法第129条)(審判便覧第3編第3章第3節参照)。

4.本案審理
 方式審査で瑕疵がなければ本案審理段階に入り、3人または5人の審判官で構成される合議体により審理される(特許法第143条~146条/実用新案法第33条/商標法第129条~第132条/意匠法第130条~133条)(審判便覧第4編第1章参照)。

4-1.査定系の場合
 審判部は審判請求書の記載事項を把握し、拒絶理由および不服理由を把握し、争点を整理する。査定系では書面審理がなされるが、必要に応じて、技術説明会を開催することもある。審判請求人が技術説明会を要請することも可能である(特許法第154条第1項/実用新案法第33条/商標法第141条第1項/意匠法第142条第1項)(審判便覧第16編第4章、第21編第7章第1節、第24編第7章第1節等参照)。

4-2.当事者系の場合
 審判請求書の副本を被請求人に送達する(特許法第147条/実用新案法第33条/商標法第133条/意匠法第134条)(審判便覧第2編第2章第9節参照)。審判部はまず書面審理をし、審判請求の理由および答弁や証拠資料を調べ、争点を整理する。審判請求の理由に対する答弁の指定期間は1か月となっている(審判事務取扱規定第21条第1項)。当事者系は一般的に書面審理後、口述審理を行う。書面審理のみで決定が可能な場合を除いて、当事者が口述審理を要請する場合は、口述審理を行わなければならない(特許法第154条/実用新案法第33条/商標法第141条/意匠法第142条)(審判便覧第10編参照)。

5.審理終結通知
 本案審理が終わり審決段階に入ると、審理終結予定通知がなされ、最終的に審判請求理由に対する追加意見を提出する機会が与えられるので、この機会を上手く活用することが望ましい。そして、その後に審理終結通知がなされる(審判便覧第11編第3章参照)。

6.審決
 審理終結通知をした日から20日以内に審決をすることが原則とされている。(特許法第162条/実用新案法第33条/商標法第149条/意匠法第150条)ただし、この規定は訓示的規定に過ぎず、20日の期間が経過しても違法ではない(審判便覧第11編第3章第2節参照)。

6-1.査定系の場合
 原決定を取り消して審査部に差し戻す(認容)もしくは原査定を維持する(棄却)か、または補正不能の審判請求は却下する。なお、審判部で特許査定することなく原決定を取り消す場合は、必ず審査部に差し戻される(審判便覧第12編第4章参照)。

6-2.当事者系の場合
 棄却、却下、認容等により審決する(審判便覧第12編第5章参照)。

中国における専利無効宣告請求(特許無効審判)に関する制度

 「『日中韓における特許無効審判についての制度及び統計分析に関する調査研究』報告書」(平成28年11月、日本国際知的財産保護協会)第II部1.2、1.4

 

(目次)

第II部 調査研究結果

 1.2 中国における専利無効宣告請求(特許無効審判)に関する制度 P.15

  1.2.1 審判部の構成 P.15

  1.2.2 専利無効宣告請求制度の概要 P.16

  1.2.3 専利無効宣告手続における専利書類の補正(訂正)について P.20

  1.2.4 口頭審理について P.22

  1.2.5 中国における証拠の提出について P.24

  1.2.6 専利無効宣告請求から裁判までの流れ P.27

 1.4 日中韓の対比(対比表) P.45

  1.4.1 日中韓における特許無効審判の一般的な制度の対比 P.45

  1.4.2 日中韓における特許無効審判の無効理由の対比 P.48

  1.4.3 口頭審理に関する制度の対比 P.50

  1.4.4 特許無効審判中の訂正の対比 P.52

韓国における特許無効審判に関する制度

 「『日中韓における特許無効審判についての制度及び統計分析に関する調査研究』報告書」(平成28年11月、日本国際知的財産保護協会)第II部1.3、1.4

 

(目次)

第II部 調査研究結果

 1.3 韓国における特許無効審判に関する制度 P.29

  1.3.1 審判部の構成 P.29

  1.3.2 特許無効審判制度の概要 P.30

  1.3.3 訂正の請求について P.36

  1.3.4 口頭審理について P.39

  1.3.5 特許無効審判から裁判までの流れ P.42

 1.4 日中韓の対比(対比表) P.45

  1.4.1 日中韓における特許無効審判の一般的な制度の対比 P.45

  1.4.2 日中韓における特許無効審判の無効理由の対比 P.48

  1.4.3 口頭審理に関する制度の対比 P.50

  1.4.4 特許無効審判中の訂正の対比 P.52

インドにおける商標異議申立制度

インドにおける商標異議申立手続は、2010年商標(改正)法の第21条および2002年商標規則の規則47~57に規定されている。

 

異議申立書

 

商標出願に対して異議を申し立てたいと望む「いかなる者」も、登録官に対して異議申立書を提出することができる。それゆえ、インドにおいて「権利を害された者」のみが提起できる取消手続とは異なっている。「いかなる者」とは、必ずしも個人である必要はなく、法人または非法人組織であってもよい。

 

異議申立書は、商標出願が商標公報に公告されてから4ヵ月以内に提出する必要がある。

 

異議申立は、商標法に定められた理由を根拠としなければならない。主として、絶対的拒絶理由について詳述する第9条、および相対的拒絶理由について詳述する第11条が適用される。

 

第9条には、(1)項から(3)項が含まれている。第9条(1)項は、出願商標の識別性の問題に関する(a)号から(c)号の規定を含んでおり、以下の商標は登録することができないとしている。

 

(a)識別性を欠く商標、すなわち、ある者の商品もしくは役務を、他人の商品もしくは役務から識別できないもの

(b)取引上、商品の種類、品質、数量、意図する目的、価格、原産地、当該商品生産の時期もしくは役務提供の時期、または当該商品もしくは役務の他の特性を指定するのに役立つ標章または表示からもっぱら構成されている商標

(c)現行言語において、または公正な確立した取引慣行において慣習的となっている標章または表示からもっぱら構成されている商標

 

第9条(1)項には例外規定が設けられており、出願日より前に、商標が使用の結果として識別性を獲得している、または周知である場合には、登録を拒絶されることはない。

 

第9条(2)項は、公益および公序良俗の問題に言及する規定を含んでおり、以下の商標は登録することができないとしている。

 

(a) 公衆を誤認させるか、または混同を生じさせる内容のものであるとき

(b) インド国民の階級もしくは宗派の宗教的感情を害するおそれがある事項からなり、またはそれを含んでいるとき

(c) 中傷的もしくは卑猥な事項からなり、またはそれを含んでいるとき

(d) その使用が1950年紋章および名称(不正使用防止)法により禁止されているとき

 

第9条(3)項は、識別性があるとみなすことができない特定の形状からなる商標の登録を禁じており、以下の商標は登録することができないとしている。

 

(a) 商品自体の内容に由来する商品の形状

(b) 技術的成果を得るために必要な商品の形状

(c) 商品に実質的な価値を付与する形状

 

相対的拒絶理由に関しては、第11条(1)項に従い、先行商標との同一性または類似性、および商品または役務の同一性または類似性を理由に、公衆に混同を生じる可能性がある場合、その商標は登録されない。

 

第11条(2)項は、パリ条約の第6条の2を要約したものであり、本質的に異なる商品および役務に関して、周知商標が第三者の商標から保護される。

 

第11条(3)項では、コモンロー上の権利および著作権法の重要性を認め、詐称通用に関する法律または著作権法により商標の使用を阻止すべき場合には、当該商標は登録されないとしている。

 

第11条(6)項、(7)項は、商標が周知であるかどうかを判断する際に考慮すべき事実および証拠について説明している。以下に挙げるこれらの事項は、異議申立人または出願人が異議申立手続において、自己の商標が周知であると認定してもらい、それにより自己の主張を裏づけるための証拠の収集および提出の際の参考となる。

 

  • 当該商標の使用促進の結果として得られたインドにおける知識を含む公衆の関係階層における当該商標についての知識または認識
  • 当該商標の使用についての期間、範囲および地域
  • 当該商標が適用される商品もしくは役務についての博覧会もしくは展示会における広告または宣伝および紹介を含め、当該商標の使用促進についての期間、範囲および地域
  • 本法に基づく当該商標の登録、または登録出願についての期間および地域であって、当該商標の使用または認識を反映している範囲
  • 当該商標に関する諸権利の執行記録、特に、当該商標が当該記録に基づいて裁判所または登録官により周知商標として認識された範囲
  • 実際のまたは潜在的な消費者の数
  • 流通経路に介在する人員の数
  • それを取り扱う業界

 

第11条(10)項では、「同一または類似の商標に対して周知商標を保護しなければならず、かつ、商標権に影響を及ぼす、出願人もしくは異議申立人の何れかに含まれた不誠実を参酌しなければならない」とし、周知商標と同一または混同を生じるほど類似の商標を採用する第三者に関連する「悪意」の概念について確認すると共に、周知商標を保護する必須義務を登録官に負わせている。

 

第11条(11)項は逆に、「商標が登録官に重要な情報を開示して公正に登録された場合または商標についての権利が本法の施行前に善意の使用を通じて取得された場合は、本法は、当該商標が周知商標と同一または類似するとの理由では、当該商標登録または当該商標使用の権利の有効性を一切害さない。」とし、善意で使用されている出願または登録商標を保護している。異議申立における抗弁として、この規定を用いることができる。

 

なお、先行商標の所有者が既に後続商標に同意している場合には、後続商標の登録を許可している。(第11条(4)項)

 

また、第12条では、「善意の同時使用」または他の「特別な事情」がある場合には、商標が第11条に抵触するにもかかわらず、登録官は当該商標の登録を許可することができると定めている。

 

答弁書

 

出願人は、登録官から異議申立書を受領した日から2ヵ月以内に、答弁書を提出しなければならない。答弁書の提出期限は延長できないため、出願人が2ヵ月以内に答弁書を提出しない場合、異議対象の出願は放棄されたとみなされる。

 

証拠

 

出願人により提出された答弁書が、登録官により異議申立人に送達された後、異議申立人は、答弁書を受領した日から2ヵ月(1ヵ月の延長が可能)以内に証拠を提出するよう要求される。異議申立人が証拠の提出を望まない場合、この2ヵ月+1ヵ月の期間内に異議申立書に明記された事実に依拠する旨を登録官に対して通知すると共に、出願人にも通知しなければならない。これらの措置が取られない場合、異議申立人は自己の異議申立を放棄したとみなされる。

 

異議申立人が証拠を提出、または事実に依拠する旨を通知した後、出願人は、異議申立人の証拠を受領した日から2ヵ月(1ヵ月の延長が可能)以内に、出願を裏づける証拠を提出、または答弁書に明記した事実に依拠する旨を登録官に対して通知すると共に、異議申立人にも通知するよう要求される。異議申立人とは異なり、出願人がこれらの措置を取らなかったとしても、出願が放棄されたとみなされることはない。この場合、インドの法律に基づき、出願人は答弁書を提出することにより、自己の出願を防御する意思を示したと理解され、この防御は、出願人が証拠を提出しない場合でも、維持することができる。

 

出願人が証拠を提出した場合、異議申立人は、出願人の証拠を受領後1ヵ月(1ヵ月の延長が可能)以内に、弁駁証拠を提出することができる。

 

これをもって、異議申立手続における訴答および証拠段階は終了する。

 

なお、以下の2002年商標規則の規則53に基づき、最終審理の前に追加証拠を提出することが可能である。

 

追加の証拠は、何れの側に対しても提出してはならないが、登録官に対する何らかの手続においては、登録官は、自己が適当と認めるときはいつでも、出願人または異議申立人の何れに対しても、証拠を提出することについて、登録官が適当と認める費用またはその他の条件を付して、許可することができる。

 

しかしながら、商標規則に定められた証拠の提出期限については、追加の延長を請求することが可能であるかどうかが問題となる。この問題は2つの異なる高等裁判所で争われたが、それぞれの見解が分かれている。グジャラート高等裁判所は追加証拠の提出を認める立場を示したが(2006年)、デリー高等裁判所はこれを認めていない(2007年)。したがって、高等裁判所の上位の法廷が、追加証拠の提出を認める裁定を下すまでは、異議申立の当事者は十分な注意を払い、商標規則に定められた期限を厳守することが望ましい。

 

ヒアリング

 

答弁書および証拠の提出段階が完了すると、登録官は口頭による意見陳述のために双方の当事者を招集するヒアリングの日程を定める。双方の当事者は、口頭による意見陳述の代わりに、またはこれに追加して、主張の要約書を提出することができる。

 

異議申立手続の期間

 

商標局にはかなりの未処理案件があり、何千件もの異議申立が係属中である。未処理案件を処理するために、過去数年にわたり様々な取り組みが行われてきた。とりわけ異議申立もしくは出願が取り下げられた事件、出願人が期限内に答弁書を提出しなかった事件、または当事者間で和解したために異議決定が出されなかった事件が整理された。

 

このような取り組みの中でも目新しいのが、1987年法律サービス庁法に基づいて定められた仲裁または調停を通して係属中の事件を処理することを目的とした、商標局とデリー州法律サービス庁(DSLSA)との協力体制である。2016年当初に、未決の500件の異議申立についてパイロット・プロジェクトが実施されたが、現在では最終ヒアリングがまだ行われていない全ての異議申立に対して仲裁または調停手続が認められるようになっている。

 

審判請求

 

商標法第21条に基づく登録官のあらゆる命令または決定を不服とする当事者は、商標法第91条(1)にもとづき、その命令または決定が当該当事者に通知された日から3ヵ月以内に、知的財産審判部に審判請求を提出することができる。

タイにおける商標異議申立制度

 商標出願は、登録官による審査の結果、当該登録官が登録可能と判断した場合、商標公報において公告される。2016年に改正されたタイ商標法B.E. 2534(1991年)の第35条に基づき、公告日から60日以内に、異議申立書を知的所有権局の商標部門に提出することができる。

 

異議申立の理由

(1)より優先的な権利または権原

(2)識別性の欠如

(3)禁止された商標(悪意を含む)

(4)他者の先行商標と同一または混同を生じるほど類似している

(5)出願が商標法のいずれかの規定に違反している

 

 出願人が悪意で、即ち異議申立人の商標または著作物を模倣して商標を出願した場合は、その商標が禁止された商標であるという理由により、異議申立書を提出することができる。最高裁判所は、判決No. 4588/2552(2009年)において、悪意で(他者の知的財産権を模倣して)出願された商標は公益に反しており、商標法B.E. 2534(1991年)の第8条(9)項に基づき禁止されると判示した。それゆえ、かかる商標は登録されるべきではない。

 

異議申立書を提出できる者

 最初の理由、「より優先的な権利または権原」については、自己の先行商標、自己の未登録または未出願の商標に関する先使用、自己の先行意匠権または先行著作権を根拠として、より優先的な権利を有していると考える者が異議申立書を提出できる。残りの理由については、誰でも異議申立を提出できる。

 

異議申立書の提出期限

 異議申立書の提出期限は、公告日から60日である。異議申立書の提出期限を延長することはできない。

 

異議申立手続

 異議申立書は、法律により定められた様式を用い、全ての裏付け証拠を添付して、知的所有権局に提出しなければならない。異議申立書を提出する際の公定料金は、2,000バーツである。

 異議申立人は、異議申立を裏付ける追加の証拠を提出するために、60日間の延長を1回請求できる。異議申立人の代理人が異議申立書を提出する場合は、認証された委任状も必要となる。

 異議申立書が提出された後、登録官は、その写しを書留郵便により出願人に送達する。出願人はこれを受領した日から60日以内に、答弁書を登録官に提出する。答弁書を提出する際に公定料金は要求されない。かかる60日以内に答弁書が提出されない場合、その出願は放棄されたとみなされる。答弁書の提出期限を延長することはできない。

 出願人は答弁書を裏付ける追加の証拠を提出するために、60日間の延長を1回請求できる。

 双方の当事者が異議申立書または答弁書に加え、裏付け証拠を提出した後、登録官は双方の当事者の主張を検討し、異議決定を下す。最近の統計データによれば、証拠が少ない簡単な異議事件の場合、異議決定が下されるまでに通常、異議申立書が提出されてから約10ヵ月を要する。大量の証拠が提出された複雑な異議事件の場合、異議決定が下されるまでに16ヵ月以上かかる可能性がある。異議決定書は双方の当事者に送付される。

 登録官の異議決定を不服とする当事者は、登録官から異議決定を受領した日から60日以内に、商標委員会(日本の審判部に相当する)に審判を請求することができる。商標委員会に審判を請求する際の公定料金は4,000バーツである。

 審判請求人は、審判請求を裏付ける追加の証拠を提出するために、60日間の延長を請求することができる。この審判請求は査定系審判であるため、相手方当事者は応答書を提出できない。

 審判が請求された後、商標委員会は審判請求を審理し、審決を下す。最近の統計データによれば、証拠が少ない簡単な異議事件の場合、審決が下されるまでに通常、審判請求が提出されてから約14ヵ月を要する。大量の証拠が提出された複雑な異議事件の場合は、審決が下されるまでに審判請求が提出されてから20ヵ月以上かかる可能性がある。審決書は双方の当事者に送付される。

 商標委員会の審決を不服とする当事者は、商標委員会の審決書を受領した日から90日以内に、知的財産および国際取引中央裁判所(Central Intellectual Property and International Trade Court)(以下、「IPIT裁判所」)に上訴することができる。訴状が提出されてから約12~16ヵ月後に、判決が言い渡される。

 IPIT裁判所の判決を不服とする場合は、特別控訴裁判所に上訴することができる。特別控訴裁判所の判決を不服とする当事者は、最高裁判所に申し立てなければならない。

 

獲得可能な救済

 タイにおける異議申立手続で獲得できる唯一の救済は、商標出願の拒絶である。登録官および商標委員会は、弁護士の報酬または費用を裁定することができない。裁判所は弁護士の報酬を裁定できるが、その額は全体的に極めて低く、実際の報酬額を反映するものではない。

 

提言

 異議申立人は、異議申立書を提出する前に、出願人に書簡を送付する、または連絡を取ることにより、出願の取り下げまたは出願における特定の商品または役務の削除を要求することもできる。出願人が異議申立期限までにかかる要求に応じない場合には、異議申立人はまず異議申立書を提出すべきであり、友好的な解決に至った場合は後日、異議申立を取り下げることができる。また、異議申立人は異議申立書を提出した後に、出願人に上記の書簡を送付する、または連絡を取ることもできる。

 異議申立書を提出する理由が存在する場合、商標出願が登録された後に取消請求を提起するよりも、異議申立書を提出する方が容易であり、費用効果も高い。

トルコでの商標出願の拒絶理由通知への対応策

【詳細及び留意点】

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