フィリピンにおける商標異議申立制度
フィリピンでは、知的財産法第134条の規定により、商標出願に対して異議申立を提起することができる。商標登録により損害を受ける者は何人も、フィリピン知的財産庁(Intellectual Property Office of the Philippines:以下「IPOPHL」)の法務局に対して、異議申立を行うことができる。フィリピンを指定するマドリッド・プロトコル制度を通じて行われる国際商標出願も、異議申立手続の対象となる。IPOPHLの法務局は、異議申立事件において第一審管轄権を有する。
1.異議申立理由
異議申立の法的根拠は、知的財産法第123条により、以下のように定められている。
次の標章については、登録を受けることができない。
(a)反道徳的、欺瞞的もしく中傷的な事柄または個人(存命中であるか故人であるかを問わない)、団体、宗教もしくは国の象徴を傷付け、それらとの関連を誤認させるように示唆し、もしくはそれらに侮辱もしくは汚名を与えるおそれがある事柄からなる標章。
(b)フィリピン、フィリピンの政治上の分権地もしくは外国の国旗、紋章その他の記章、またはそれらに類似したものから成る標章。
(c)存命中の特定の個人の名称、肖像もしくは署名から成る標章(ただし,その者の承諾を得ている場合を除く)またはフィリピンの故大統領の名称、署名もしくは肖像から成る標章(ただし、未亡人がいる場合は、その存命中に限る。また、未亡人の書面による承諾を得ている場合を除く)。
(d)他の権利者に帰属する登録された標章または先の出願日もしくは優先日を有する標章に同一であって,かつ,次のいずれかに係る標章。
(i)同一の商品またはサ-ビス
(ii)密接に関連する商品またはサ-ビス
(iii)欺瞞するかもしくは混同を生じさせるおそれがある程に類似している場合
(e)フィリピンにおいて登録されているか否かを問わず,フィリピンの権限のある当局により出願人以外の者の標章として国際的におよびフィリピンにおいて広く認識されていると認められた標章に同一であるかもしくは混同を生じさせる程に類似しているかまたはそのような標章の翻訳であり,かつ,同一または類似の商品またはサ-ビスに使用する標章。ただし,標章が広く認識されているか否かを決定するに当たっては,一般公衆の有する知識ではなく,関連する公衆の有する知識(当該標章の普及の結果として獲得されたフィリピンにおける知識を含む)を考慮する。
(f) (e)の規定に従って広く認識されていると認められ,かつ,登録が求められている商品またはサ-ビスと類似していない商品またはサ-ビスについてフィリピンにおいて登録されている標章に同一であるかもしくは混同を生じさせる程に類似しているかまたはそのような標章の翻訳である標章。ただし,当該類似していない商品またはサ-ビスについての当該標章の使用が,当該類似していない商品またはサ-ビスと当該登録された標章の権利者との間の関連性を示唆し,かつ,当該権利者の権利が当該使用により害されるおそれがある場合に限る。
(g)商品またはサ-ビスの特に性質、品質、特性または原産地について公衆を誤認させるおそれがある標章。
(h)指定する商品またはサ-ビスに特有の標識のみから成る標章。
(i)日常の言語または誠実なかつ確立された商業上の慣行において商品またはサ-ビスを示すために通例または普通になっている標識または表示のみからなる標章。
(j)商品またはサ-ビスの種類、品質、量、意図されている目的、価格、原産地、商品の製造またはサ-ビスの提供の時期、その他の特性を示すために商業上用いられる標識または表示のみから成る標章。
(k)技術上の要因、商品自体の性質または商品の固有の価値に影響する要素により必要とされる形状から成る標章。
(l)色のみから成る標章。ただし、形状により定義される場合はこの限りでない。
(m)公の秩序または善良の風俗に反する標章。
2.手続および期限
異議申立は、官報における商標出願の公告から30日以内に宣誓異議申立書を提出することにより開始される。この期限は法務局が認めた場合、延長することができる(フィリピン商標規則第703条)。
異議申立書は、書面によらなければならず、宣誓され、かつフォーラムショッピング(法廷地漁り)*1がないことの証明書(certification of non-forum shopping)が添付されなければならない。裏付文書は、原本または真正な認証謄本でなければならない。英語で記載されていない文書には、英語訳を添付しなければならない(Office Order No. 14-068, Series of 2014, of May 27, 2014 Section 1)。
*1:国際事件において、手続法の違い、国際私法の違いによる準拠法の違いなどのため、必ずしも同じ内容の判決が下されるは限らない。そのため自らに有利な判決が下される見込みがある国を選んで提訴するという訴訟戦術を用いることがある。これをフォーラム・ショッピング(法廷地漁り)という。(出典:「フォーラム・ショッピング」.金子宏他.『法律学小辞典』第3版.株式会社有斐閣,1999年,p.978.)。
出願人は、答弁通知書の受領から30日以内に、宣誓答弁書を提出しなければならない。出願人は、更に所定の料金を支払い最長で30日ずつ2回延長することができる。なお、2回目の30日間の延長はやむを得ない理由において認められる。また、答弁書知書の受領から90日を超えてはならない(Office Order No. 99, series of 2012)。また、提出書類に不備があった場合、補正命令の受領から5日以内に対応しなければならない。出願人は所定の料金を支払い5日ずつ2回延長することができる(IPOPHL MEMORANDUM CIRCULAR NO.2019 024 Series of 2019)。
出願人が宣誓答弁書を提出しない場合、または宣誓答弁書が期限後に提出された場合、異議申立は、異議申立人の異議申立書、証人の宣誓供述書、その他異議申立人により提出された書証に基づき決定が下される。
宣誓答弁書が期限内に提出されると、事件は調停に付され、両当事者は、調停員の助力を得て、事件を友好的に解決するよう勧奨される。
両当事者が、調停において和解に達することができない場合、審理前協議の日が設定され、両当事者は、事実を明記し、争点を明確にし、書証を提示または比較することができる。
審理前協議が終了すると、聴聞官は、両当事者に対してそれぞれ、審理前協議の終了から10日以内に陳述書(Position Papers)を提出するよう求める(Office Order No. 79, series of 2005 Section5)。
陳述書の提出期間が経過すると、事件は法務局による決定のために付託されたものとみなされる。
異議申立の提出から異議申立に関する法務局による決定までには、通常12~24ヶ月を要する。決定は、商標の登録を却下する異議申立の認容、または異議申立された商標の登録を認める異議申立の却下のいずれかである。
3.不服申立
法務局の決定に対して、いずれの当事者もIPOPHLの長官に不服申立を行うことができる。長官の決定に対しては、控訴裁判所に控訴することができ、控訴裁判所の判決に対しては、最終的にフィリピン最高裁判所に上告することができる。
4.悪意の登録
フィリピンで登録されていない外国商標も他国での先行する登録を理由に、第三者商標が当該外国商標と同一である場合、異議申立手続を提起することができる。同一商標に関する紛争において判断当局が採用する原則は、偶然はあり得ないというものである。一方の者は、他方の者の商標を複製したに違いないとされる。商標の出所を説明することができない者または当該商標の長期の先使用または採用を立証することができない者は、侵害者とみなされる。これらの者は、当該外国商標を意図的に悪意で複製したとみなされる。これは、当該外国商標の所有者がフィリピンにおいて事業を営んでいない場合であっても当てはまる。出願人がインターネット上の掲示や広告といった当該外国商標に触れる機会を有していた場合、当該出願人は、外国権利者の当該商標について悪意の事前知識を有していたものとみなされる。
フィリピンにおける商標異議申立制度
フィリピンでは、知的財財産法134条の規定により、商標出願に対して異議申立を提起することができる。商標登録により損害を受ける者は何人も、フィリピン知的財産庁(Intellectual Property Office of the Philippines: 以下「IPOPHL」)の法務局に対して、異議申立を行うことができる。フィリピンを指定するマドリッド・プロトコル制度を通じて行われる国際商標出願も、異議申立手続の対象となる。IPOPHLの法務局は、異議申立事件において第一審管轄権を有する。
1.異議申立理由
異議申立の法的根拠は、知的財産法123条により、以下のように定められている。
(1)登録を求める商標が、先の出願日または優先日を有する、同一または関連商品に使用される他者の商標と同一または酷似している。
(2)登録を求める商標が、フィリピンにおいても周知な国際的周知商標と同一または混同を招くほど類似している。
(3)商標出願が、反道徳的、欺瞞的もしく中傷的な事柄から成る、または個人(存命中であるか故人であるかを問わない)、団体、宗教もしくは国の象徴を傷付け、それらとの関連を誤認させるように示唆し、もしくはそれらに侮辱もしくは汚名を与えるおそれがある。
(4)商標出願が、フィリピン、フィリピンの政治上の分権地もしくは外国の国旗、紋章その他の記章、またはそれらに類似したものから成る。
(5)存命中の特定の個人を識別する名称、肖像もしくは署名から成る標章、またはフィリピンの故大統領の名称、署名もしくは肖像から成る標章(ただし、未亡人がいる場合は、その存命中に限る。また、未亡人の書面による承諾を得ている場合を除く)。
(6)登録を求める商標が、商品またはサ-ビスの特に性質、品質、特性または原産地について公衆を誤認させるおそれがある。
(7)指定する商品またはサ-ビスに特有の標識のみから成る標章、または、日常の言語または誠実なかつ確立された商業上の慣行において商品またはサ-ビスを示すために通例または普通になっている標識のみから成る標章。
(8)商品またはサ-ビスの種類、品質、量、意図されている目的、価格、原産地、商品の製造またはサ-ビスの提供の時期、その他の特性を示すために商業上用いられる標識または表示のみから成る標章。
(9)技術上の要因、商品自体の性質または商品の固有の価値に影響する要素により必要とされる形状から成る標章。
(10)色のみから成る標章。ただし、形状により定義される場合はこの限りでない。
2.手続および時間枠
異議申立は、官報における商標出願の公告から30日以内に宣誓異議申立書を提出することにより開始される。この期限は、30日ずつ2回延長することができる。したがって、異議申立人には、宣誓異議申立書を提出するために公告の日から合計90日間が与えられる。
異議申立書は、書面によらなければならず、宣誓され、かつフォーラムショッピング(法廷地漁り)がないことの証明書(certification of non-forum shopping)が添付されなければならない。裏付文書は、原本または真正な認証謄本でなければならない。英語で記載されていない文書には、英語訳を添付しなければならない。
出願人は、答弁通知書の受領から30日以内に、宣誓答弁書を提出しなければならない。出願人は、更に最長で30日ずつ2回延長する権利を有する。
出願人が宣誓答弁書を提出しない場合、または宣誓答弁書が期限後に提出された場合、異議申立は、異議申立人の異議申立書、証人の宣誓供述書、その他異議申立人により提出された書証に基づき決定が下される。
宣誓答弁書が期限内に提出されると、事件は調停に付され、両当事者は、調停員の助力を得て、事件を友好的に解決するよう勧奨される。
両当事者が、調停において和解に達することができない場合、審理前協議の日が設定され、両当事者は、事実を明記し、争点を明確にし、書証を提示または比較することができる。
審理前協議が終了すると、聴聞官は、両当事者に対してそれぞれ、審理前協議の終了から10日以内に陳述書(Position Papers)を提出するよう求める。
陳述書の提出期間が経過すると、事件は法務局による決定のために付託されたものとみなされる。
異議申立の提出から異議申立に関する法務局による決定までには、通常12~24ヶ月を要する。決定は、商標の登録を却下する異議申立の認容、または異議申立された商標の登録を認める異議申立の却下のいずれかである。
3.不服申立
法務局の決定に対して、いずれの当事者もIPOPHLの長官に不服申立を行うことができる。長官の決定に対しては、控訴裁判所に控訴することができ、控訴裁判所の判決に対しては、最終的にフィリピン最高裁判所に上告することができる。
4.悪意の登録
フィリピンで登録されていない外国商標も他国での先行する登録を理由に、第三者商標が当該外国商標と同一である場合、異議申立手続を提起することができる。同一商標に関する紛争において判断当局が採用する原則は、偶然はあり得ないというものである。一方の者は、他方の者の商標を複製したに違いないとされる。商標の出所を説明することができない者または当該商標の長期の先使用または採用を立証することができない者は、侵害者とみなされる。これらの者は、当該外国商標を意図的に悪意で複製したとみなされる。これは、当該外国商標の所有者がフィリピンにおいて事業を営んでいない場合であっても当てはまる。出願人がインターネット上の掲示や広告といった当該外国商標に触れる機会を有していた場合、当該出願人は、外国権利者の当該商標について悪意の事前知識を有していたものとみなされる。