タイにおける「商標の使用」と使用証拠
タイ商標法に基づき登録が可能な商標は、「識別性」のある商標であり、商標法に基づき禁止されていない商標、他人が登録した商標と同一または類似でない商標である。タイでは、近年、2つ以上の定義語を含む多くの独創的な商標が、商標登録を認められず、困難に直面している。これは、登録官が商標を個々の要素ごとに分解して、当該商標出願の指定商品もしくは指定役務の特徴や品質と関連づけて、識別性の欠如を理由に、商標登録を認めないためである。しかし、当該商標が使用を通じて識別性を獲得したことを出願人が証明できれば、商標登録が認められる可能性がある。
本稿では、「使用」の判断基準および使用を通じて識別性を獲得したことを証明するために必要な証拠について論述する。また、商標の使用の認定に関する知的財産局とCIPITCの異なるアプローチについても述べる。
現行のタイ商標法の正式名称は、「B.E.2559(2016年)法律(No.3)により改正されたB.E.2534(1991年)10月28日法律」であり、旧商標法「B.E.2534」が改正され、2016年7月28日に施行されたものである。タイ商標法の第7条によれば、識別性が欠如している商標を、通商大臣が定めた規定に従い、当該商標の指定商品および指定役務について、広く販売または宣伝されている商品に使用されており、かつその規定が正しく遵守されている場合、その商標は識別性を有するとみなされることがある。
タイ商標法の第7条に加えて、2003年3月12日付商務大臣告示では、出願された商標を付した商品もしくは役務は、公衆が十分に商品および役務を認識できるようになるまで、継続して適切に販売もしくは宣伝をされなければならないと規定されていた。この2003年3月12日付商務大臣告示はその後2012年10月11日付商務大臣告示によって改正され、タイ商標法第7条における「公衆に広く知られるまでに商標,サービスマーク等が付された商品またはサービスが,販売,頒布または広告によって識別性を獲得したこと」の証明については下記のような内容となっている。
・商品または役務が,一般公衆または関連分野の公衆が当該商品または役務が他のものと異なることを認識し理解できる程度にまで,一定期間,継続的に販売されまたは頒布されなければならない。
・商品または役務の販売,頒布または広告によって標章がタイで広く知られるようになった場合,当該標章はその標章が付された商品または役務についてのみ識別性を有するものとみなす。
・この告示に基づいて識別性が証明された標章は,登録された商標と同一でなければならない。
この識別性の証明について,出願人は,登録しようとする標章が使われた商品または役務の販売,頒布または広告に関する証拠を提出しなければならず、この証拠とは,商品や役務を購入した領収書の写し,商品やサービスの広告費用の領収書の写し,請求書の写し,商品または役務の注文書の写し,工場の認可証の写し,メディアを使った広告の証拠の写し,商品のサンプルまたは必要に応じて証人(もしあれば)を含むその他の証拠などをいう。
使用証拠提出の時期は、前記2003年3月12日付商務大臣告示においては出願と同時にされなければならないとされており、その後の追加は認められていなかったが、2012年10月11日付商務大臣告示においては、商標出願に添付して期間延長請求を提出すれば出願後60日以内に使用証拠の追加提出が認められるようになり、柔軟な対応が認められるようになった。
使用証拠を審査する機関は2つある。商標委員会とCIPITCである。商標の使用の判断基準に関しては、これら2つの機関は似たような見解を示している。だが、CIPITCは、通常、商標委員会に比べて寛大でビジネス寄りのアプローチを採用する。商標委員会の決定に不服がある場合には、CIPITCへ抗告することができる。また、この抗告によって、出願人が使用を通じて識別性を獲得したことの立証に成功する可能性は高くなると考えられる。
商標委員会の近年の審決を踏まえていえば、タイにおいて商標を付した商品もしくは役務の使用、宣伝もしくは販売がなされてきた期間を出願人がはっきりと証明できない場合、商標委員会はそれを十分な使用とはみなさないと推測することができる。基本的に、継続した(3年以上)使用の証拠の量に着目する商標委員会とは異なり、CIPITCは、タイにおける商標の使用の量や期間だけに頼ることはしない。逆に、他の国での使用証拠も認容するだけでなく、掘り下げた理由付けを適用し、様々な要因(当該商標の外国での登録等)を考慮するのである。商標委員会の審決を不服としてCIPITCへ抗告を行い、そこでも主張が認められない場合には、最高裁判所へ上告するという選択肢がある。ただし、すべての申請が受理されるわけではなく、多額の費用と時間がかかることにも留意すべきである。
2017年にタイはマドリッド協定議定書への加盟を行い、これに伴う国内法の改正を行った。しかし、識別力獲得に関する商標委員会やCIPITCの判断傾向は、現在のところ、これらの改正に伴う影響は受けていないようである。
タイ商標法第7条に関する直近の判例として、商標権侵害が争われた最高裁判決2766/2559号(原告:TOA Paint (Thailand) Co., Ltd. 被告:Cera C-Cure Co., Ltd.)がある。本事件では、原告が建物用ペンキ等に「Supershield」という商標を保有していたところ、被告がこれに類似する「Super-shield」という商標を使用していたため原告が商標権侵害を主張した事案である。
本事案において被告は、「Supershield」という名称は「高い保護機能を有する」程度の内容を需要者に想起させるに過ぎないと主張し、その語について原告は専用権を独占する権利を有しないと主張した。
しかしながら最高裁判所は、2006年に出願された原告商標が出願時に1984年(B.E.2527)からの使用証拠を提出していること等を考慮し、このような長期間にわたる使用の結果、原告商標は識別力を獲得していると判断し、被告の主張を退けた上で原告の請求を認めた。
本事件は法改正前から争われていた事案ではあるが、このように使用の期間が最も重視される識別性獲得判断の傾向は、法改正後もしばらく変わらないことが予想される。
タイにおける「商標の使用」と使用証拠
【詳細】
タイ商標法に基づき登録が可能な商標は、「識別性」のある商標であり、商標法に基づき禁止されていない商標、他人が登録した商標と同一または類似でない商標である。タイでは、近年、2つ以上の定義語を含む多くの独創的な商標が、商標登録を認められず、困難に直面している。これは、登録官が商標を個々の要素ごとに分解して、当該商標出願の指定商品もしくは指定役務の特徴や品質と関連づけて、識別性の欠如を理由に、商標登録を認めないためである。しかし、当該商標が使用を通じて識別性を獲得したことを出願人が証明できれば、商標登録が認められる可能性がある。
本稿では、「使用」の判断基準および使用を通じて識別性を獲得したことを証明するために必要な証拠について論述する。また、商標の使用の認定に関する知的財産局とCIPITCの異なるアプローチについても述べる。
現行のタイ商標法の正式名称は、「B.E.2543(2000 年)法律(第 2 号)により改正された B.E.2534(1991 年)10 月 28 日法律」であり、旧商標法「B.E.2534」が改正され、2000年6月30日に施行されたものである。タイ商標法の第7条によれば、識別性が欠如している商標を、通商大臣が定めた規定に従い、当該商標の指定商品および指定役務について、大々的に広告したり、使用したりした場合、その商標は識別性を獲得したとみなされることがある。
タイ商標法の第7条に加えて、2003年3月12日付商務省告示では、出願された商標を付した商品もしくは役務は、公衆が十分に商品および役務を認識できるようになるまで、継続して適切に販売もしくは宣伝をされなければならないと規定している。
タイ商標法によれば、商標は、知的財産局に出願された態様と同一の態様で、登録出願の指定商品もしくは指定役務に使用されなければならない。提出が要求される使用証拠の種類や形式は定められていない。ある商標が、指定商品もしくは指定役務に対して実際に使用されたと証明できる限り、それは使用証拠とみなされる。一般的に、使用証拠には、商標が付された製品サンプルの写真や、商標が付された出願対象商標の指定商品もしくは指定役務の宣伝広告等が含まれる。宣伝広告には、印刷媒体(新聞、雑誌)等の各種媒体を通じた宣伝ならびに放送メディア(テレビ、ラジオ、インターネット)による宣伝が含まれる。宣伝広告が公衆に広く提供されていない場合、出願人は、年間のマーケティング予算および支出に関する情報や、その他の詳細情報(売上情報の細目、利用者のレビュー、対象となるマーケットでの認知度調査等)を宣伝広告の代わりに提出することができる。
使用証拠を審査する機関は2つある。商標委員会とCIPITCである。商標の使用の判断基準に関しては、これら2つの機関は似たような見解を示している。だが、CIPITCは、通常、商標委員会に比べて寛大でビジネス寄りのアプローチを採用する。商標委員会の決定に不服がある場合には、CIPITCへ抗告することができる。また、この抗告によって、出願人が使用を通じて識別性を獲得したことの立証に成功する可能性は高くなると考えられる。
商標委員会の最近の審決を踏まえて言えば、タイにおいて商標を付した商品もしくは役務の使用、宣伝もしくは販売がなされてきた期間を出願人がはっきりと証明できない場合、商標委員会はそれを十分な使用とはみなさないと推測することができる。基本的に、継続した(3年以上)使用の証拠の量に着目する商標委員会とは異なり、CIPITCは、タイにおける商標の使用の量や期間だけに頼ることはしない。逆に、他の国での使用証拠も認容するだけでなく、掘り下げた理由付けを適用し、様々な要因(当該商標の外国での登録等)を考慮するのである。商標委員会の審決を不服としてCIPITCへ抗告を行い、そこでも主張が認められない場合には、最高裁判所へ上告するという選択肢がある。ただし、すべての申請が受理されるわけではなく、多額の費用と時間がかかることにも留意されるべきである。
現在、タイではマドリッドプロトコルに加盟するための手続きが進められており、商標の国際登録制度に期待が寄せられている。これを契機として、商標委員会には、CIPITCのように、商標の使用を判断する際に、より寛大なアプローチを採用することが期待される。