中国における補正および訂正に関連する制度およびその利用実態
「適切な範囲での権利取得に向けた特許制度に関する調査研究報告書」(平成29年3月、日本国際知的財産保護協会)第2部G
(目次)
第2部 補正及び訂正に関連する制度及びその利用実態
G 中華人民共和国 P.128
1 出願の補正 P.128
2 無効宣告手続における専利書類の訂正 P.132
3 海外現地ヒアリング調査結果 P.138
ブルネイにおける特許法の概要および運用実態
【詳細】
1.ブルネイ特許法の基本的内容
1-1.特許要件
2011年特許令(以下、「ブルネイ特許令」、という)は、発明が特許性を持つための実体的要件を定めている。ブルネイ特許令第13条は、以下の条件を満たす発明は特許性を有すると規定している。
(a)新規であること。すなわち、技術水準の一部を構成するものであってはならない(ブルネイ特許令第14条(1))。
(b)進歩性を有すること。すなわち、当該技術の熟練者にとって自明でないこと(ブルネイ特許令第15条)。
(c)産業上の利用が可能であること。第16条(1)項では、農業を含む全ての種類の産業において発明を実施もしくは使用することが可能である場合、産業上の利用可能性があるとみなす旨を規定している。ただし、外科手術もしくは治療による人体もしくは動物の体の処置方法、または人体もしくは動物の体について実施される診断方法の発明は、産業上の利用が可能であるとはみなされない(ブルネイ特許令第16条(2)項)。
1-2.一般的な特許手続
1-2-1.国内特許の出願
ブルネイの特許制度は「先願主義」を採用している。特許出願に際して、優先権を主張することができる。優先権の主張は、パリ条約締約国もしくは世界貿易機関加盟国でなされた先の出願に基づいて行うことができるが、それら先の出願の出願日から12か月以内にブルネイに出願されなければならない。
1-2-2.イギリス、マレーシアもしくはシンガポールの特許に基づく再登録手続
ブルネイ特許令には、旧制度で認められていたイギリス、マレーシアもしくはシンガポールの特許の再登録に関する経過措置が、規定されている(ブルネイ特許令第115条)。
この経過措置では、2012年1月1日の時点でイギリス、マレーシアもしくはシンガポールで係属中の特許出願について、後にイギリス、マレーシアもしくはシンガポールで特許が登録されたときに、ブルネイに再登録の申請を行うことが認められている。この経過措置では、手続の対象となるイギリス、マレーシアもしくはシンガポールにおける特許の特許証発行日から12か月以内に、ブルネイ知的財産庁に再登録を申請する必要がある。
なお、イギリス、マレーシアもしくはシンガポールにおける特許に基づくブルネイでの再登録手続は、経過規定に基づいて再登録が引き続き認められる案件の数が減少し、最終的には自然消滅することになる。
1-3.特許期間
特許権が付与されると、出願日から20年間、権利が存続する(ブルネイ特許令35条)。ただし、年次更新料を支払うことが条件となる。
年次更新料の支払は、最初の3年間は無料で、出願日から4年目の年が満了した時点から開始され、その後は特許が失効するまで毎年連続して支払われる(特許規則54)。
1-4.特許の所有権
特許および特許出願は特許令に基づき特許権者または出願人の財産とみなされ、特許ならびに特許に関する権利は、譲渡または移転が可能である(ブルネイ特許令第42条)。特許の実施を許諾することもできる。特許の実施許諾は特許令に基づき登録が可能である(ブルネイ特許令第55条)。
特許権者は、特許権の侵害を発見した場合に、救済を求める訴訟を提起することができる(ブルネイ特許令第65条)。この救済には、差止命令、侵害による利益の返還要求および特許権者が被った損害に関する損害賠償請求等が含まれる。
1-5.侵害行為
特許権侵害には、特許権者の同意なしに以下の行為をなすことが含まれる(ブルネイ特許令第64条)。
(1)発明が製品である場合、当該製品の製造、販売、販売の申し出、使用もしくは輸入を行うか、販売その他の目的で当該製品を保管すること。
(2)発明が方法である場合、当該方法を使用することが特許権侵害に相当することを知りながら、または合理的な人間にとって前記使用が侵害に相当することが自明な状況において、ブルネイ国内で当該方法を使用し、または使用のために提供すること。
(3)発明が方法である場合、当該方法により直接に得られた製品の販売、販売の申し出、使用もしくは輸入を行うか、販売その他の目的で当該製品を保管すること。
2.ASPECプログラムへの参加
ブルネイ知的財産庁(BruIPO)は、ASEAN特許審査協力プログラム(「ASPECプログラム」)に参加している。ASPECプログラムは、参加したASEAN加盟国9か国のIP当局の間の特許業務分担プログラムであり、参加国のIP当局の間で審査の結果が共有される。
3.統計
ブルネイ知的財産庁(BruIPO)のウェブサイトでは、2009~2015年のブルネイ特許の出願件数が公開されている。
http://www.bruipo.com.bn/images/pdf/references/statistics/PStatisticJan2016.pdf
2012年には11件であった外国出願人による特許出願件の数が、2015年には101件に増加している。この大幅な数の増加は、PCT出願手続の利用によるものと考えられる。PCT出願により、外国の特許権者がブルネイで特許出願することが以前より容易になった。
一方、国内出願人による特許出願の件数は、2012年から2015年にかけて8~26件で推移している。
ベトナムにおける冒認意匠出願への異議申立による対応
【詳細】
ベトナムにおける意匠保護に関する現行法の下では、意匠出願は方式審査と実体審査の2段階を経て審査される。意匠出願は、第三者への告知と当該意匠の登録可能性に関する第三者からの意見公募を目的として、意匠公報によって公開される。審査官が特定の意匠の保護適格性を判断する際には、主として既存のデータシステムの情報を根拠にしており、審査官は実際の市場における意匠の利用状況について最新情報を常に得ることはできないし、意匠の利用実態を十分に認識することもできない。それゆえ、意匠を正確に評価するための有用な情報を得る機会を設けることが、出願意匠の公開の主要な役割である。
冒認意匠出願に対する異議申立は、期限内に行われなければならない。これは、悪意を抑制し、企業ならびに社会の利益を保護するための重要な解決策である。本稿では、冒認意匠出願を阻止するために、NOIPに異議申立を提出する際の手続きについて説明する。
(1)異議申立
ベトナム知的財産法第112条 意匠出願の登録付与に対する第三者意見
意匠出願が意匠公報に公開された日から、特許査定通知発行の日まで、いかなる第三者も、当該出願に関する登録証の付与に関して、NOIPに意見を提示する権利を有する。当該意見は、書面様式で提示し、かつ、資料を添付しなければならず、または立証に使用する情報の出所を明示しなければならない。
上記規定に基づき、何人も異議申立書を提出する権利を有する。なお、第三者がベトナム国民の場合には直接NOIPに対し前記の異議申立を行うことができるが、第三者が外国人の場合には、ベトナム国内の認可された工業所有権代理人を通じて異議申立を行う必要がある。
(2)異議申立期限
意匠出願は方式要件を満たすと公開され、異議申立期間に入る。以下の図は、異議申立の提出に関わる期間を時系列に示したものである。
(3)異議申立理由
〇法的根拠
意匠出願に対する異議申立の法的根拠は、知的財産法第65条、第66条、第67条に規定された保護要件、すなわち新規性、創作性、産業上の利用可能性である。
知的財産法第65条 意匠の新規性
意匠は、意匠登録出願の出願日前、または優先権主張日前に、ベトナム国内または国外において、使用によりまたは書面での説明その他何らかの形態により、既に開示されている他の意匠と著しく異なるときは、新規であるとみなす。
知的財産法第66条 意匠の創作性
意匠は、意匠登録出願の出願日前、または優先日前に、ベトナム国内または国外において、使用によりまたは書面もしくは口頭での説明その他何らかの形態の手段により、既に公然と開示された意匠に基づいて、それが当該技術の熟練者により容易に創作できないものであるときは、創作性を有するとみなす。
知的財産法第67条 意匠の産業上の利用可能性
意匠は、それが工業的または手工業的方法による、意匠を具体化した外観を有する製品を大量生産するための型(model)となる場合は、産業上の利用可能性があるとみなす。
第三者は異議申立に際して、上記の一ないし複数の根拠に依拠することができる。実務的には、新規性の欠如を理由とする異議申立が最も多い。異議申立をする第三者は、その根拠を裏付ける証拠を収集する必要がある。
〇判断基準
異議申立対象の特定
通常、異議申立において、意匠の新規性の判断にあたっては、出願意匠と異議証拠としての意匠の2つの意匠の差異を評価するが、その際に意匠の実質的な特徴と実質的でない特徴を比較しなければならない。現時点では、これら特徴を識別するための具体的な基準は存在しないため、審査官は主として主観に基づき、かつ、科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号第33条7項(c)に定められた以下の一般原則に基づいて判断を下している。
「意匠の実質的な特徴とは、ある意匠を特定し、当該意匠と同じ種類の製品に使用されている他の意匠とを区別するために、視認され、識別される意匠の特徴部分である。意匠の特徴であるが、上記条件を満たしていないものは、実質的でない特徴とみなされる。」
異議申立にかかる証拠
第三者は、異議申立の法的根拠を立証するために、あらゆる証拠を提供する必要がある。証拠としては、意匠を含む画像、情報源となる資料および当該資料の発行年月日等が含まれる。情報源としては、あらゆる国での登録意匠公報、公開公報並びにそれらに類する様々なものが考えられる。インターネットから得られたデータもまた意匠の開示に関する証拠と見なされる。多くの場合、出願人自身が自らのウェブサイトもしくはインターネット販売サイト等に意匠を開示している。インターネットアーカイブ(http://www.archive.org)等の検索ツールも、意匠の開示日を特定するために利用できる。
なお、意匠創作者の許可なく、意匠が開示された場合であっても、知的財産法第65条第4項の規定により、その意匠の新規性が欠如しているとはみなされない(新規性喪失の例外)、という点に留意しなければならない。
知的財産法第65条(4)
(4)意匠は、次の状況において公開されたときは、新規性を欠くとはみなさない。ただし、意匠登録出願が公開又は展示の日から6 月以内に行われることを条件とする。
(a)第86 条に規定する登録を受ける権利を有する者の許可なしに他人により公開された。
(b)第86 条に規定する登録を受ける権利を有する者により学術的発表の形態で公開された。
(c)第86 条に規定する登録を受ける権利を有する者によりベトナム国内博覧会又は公式若しくは公認の国際博覧会において展示された。
(4)異議申立書の要件
方式要件
・異議申立はベトナム語の書面にて作成されなければならない。電話、審査官との直接面談など非公式な情報交換は、正式な異議申立として記録されない。
・第三者が知的財産代理人を通じて異議申立を提出しようとする場合、委任状が必須とされる。
・NOIPがいつでも簡便に異議申立人と連絡をとれるようにするため、異議申立書には、氏名、電話番号、eメールもしくはそれに類する個人の連絡先(携帯電話番号等)が正確に記載されていなければならない。
・前記の第三者は所定の料金を支払わなければならない。
(5) 異議申立書作成における推奨事項
・前述した法的根拠および判断基準が首尾一貫して明瞭に記載されるべきである。
・異議申立の説得力を高めるため、評価ならびに推論を示すべきである。
・第三者は、提供された情報および提出された文書の正統性を保証し、それについて責任を負う必要がある。
(6)異議申立手続の流れ
なお異議申立て手続きの流れは、以下科学技術省・省令第第01/2007/TT-BKHCN号第6条に規定されている。
科学技術省・省令第第01/2007/TT-BKHCN号 第6条
保護証書付与決定以前の第三者の意見の処理
6.1 いかなる組織又は個人も、産業財産権登録申請書が産業財産官報に掲載された時から、保護証書を付与する決定を下すまでに、登録権、優先権、保護要件及び知的財産法の第112条に規定する産業財産権登録申請書関連のその他の諸問題についての意見を国家知的財産庁に文書で送付することができる。第三者意見書は、産業財産権登録申請書の処理過程における情報源とみなされる。
6.2 国家知的財産庁は、第三者の意見を文書で受けた時から1ヶ月以内に、出願人にその意見を通知し、かつ通知日から最大1ヶ月の期限を設定して、文書で応答するよう通知する。国家知的財産庁は、出願人の応答意見を受けた後に、必要に応じて第三者に対応意見を通知し、かつ通知日から1ヶ月の最大の期限を設定し、第三者に、文書で、その対応意見に応答するよう求める。国家知的財産庁は、各関係者により提供された証拠、論拠及び申請書の資料に基づき、出願人及び第三者の意見を処理する。
6.3 国家知的財産庁は、第三者の意見に根拠がないと判断する場合、出願人に対してはその意見を通知する必要はないが、第三者に対しては拒絶の理由を明確にして意見書の拒絶を通知する。
6.4 国家知的財産庁は、第三者の意見が登録権に関連し、第三者の意見に根拠があるか否かを判定できない場合、裁判所に提訴できるよう第三者に通知する。国家知的財産庁が通知書を発出した時から1ヶ月以内に、第三者が裁判所に提訴したことについて、国家知的財産庁に通知しない場合、国家知的財産庁は、第三者が意見を撤回したものと判断する。国家知的財産庁が上記の期限内に第三者から通知書を受けた場合、国家知的財産庁が申請書の処理を中止し、裁判所の紛争解決結果を待機する。裁判所の解決結果の受領後、申請書の処理がその結果に基づいて行われる。
6.5 国家知的財産庁は、必要に応じて、かつ両当事者の請求があれば、第三者と出願人との直接対話を組織し、異議のある問題を明確化する。
6.6 出願人が第三者の異議に応答する期間は、国家知的財産庁が関連の手続を行う期間に計上しないものとする。