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台湾における安全保障に係る発明の保全と保全に関する対価について

1.安全保障に係る発明の保全に関する制度
 台湾における発明の保全に関する制度は、台湾専利法(以下、「専利法」という。)第51条に規定されている(専利法第120条で実用新案に準用する。)。また、本条について、中華民国経済部から、「専利案件が国防機密又はその他の国の安全に関わる機密を含む場合の作業要点」(以下、「作業要点」という。)が公表されている。

※「専利」には、特許、実用新案、意匠が含まれ、「専利法」は、これら全てを対象とする法律である。以下では、発明に係る専利として、「特許」、「特許出願」、「特許査定」等の用語を用いて解説する。また、「経済部」「国防部」の「部」は、日本における「省」に該当する政府機関である。

 専利法第51条は、発明が、国防上の機密またはその他の国の安全に関わる秘密(以下、「国防上の機密等」という。)に関するものである場合、その発明を秘密にしなければならない、と定めている。専利法の趣旨からは、特許すべき発明は開示されるべきであるが、特許出願された発明が、国防上の機密等に関する場合は、国益を考慮し、その発明は秘密にされ公衆に開示されるべきではないからである。

 保全対象となる秘密を保持しなければならない発明に係る特許出願は、国防部またはその他の国家安全関連機関(以下、「国防部等」という。)が、「国家機密」、「軍事機密」、「国防機密」、「国家機密と軍事機密のいずれでもあるもの」、「国家機密と国防機密のいずれでもあるもの」のいずれかに該当すると認定した発明に関する出願である(作業要点 第2条第3項)。

台湾専利法第51条
 発明が、審査の結果、国防機密又はその他の国の安全に関わる秘密に関わる場合、国防部又は国家安全関連機関から意見を聴取しなければならない。秘密を保持する必要があると認められた場合、出願書類は封緘する。出願の実体審査を経たものは、査定書を作成し、出願人及び発明者に送達しなければならない。
 出願人、代理人及び発明者は、前項の発明について秘密を保持しなければならない。これに違反した場合、当該特許出願権を放棄したものとみなされる。
 当該秘密保持の期間は、査定書を出願人に送達した時から1年間とする。また、秘密保持期間を延長することができ、毎回1年とする。専利所轄官庁は期間満了の1ヵ月前に、国防部又は国家安全関連機関に照会し、秘密保持の必要がない場合は、直ちに公開しなければならない。
 第1項の発明が特許査定された場合において、秘密保持の必要がなくなったときは、専利所轄官庁は出願人に3ヶ月以内に証書料及び1年目の特許料を納付するよう通知しなければならず、前記費用が納付された後はじめて公告される。期間が満了しても前記費用を納付しなかった場合、公告を行わない。
 秘密保持期間に出願人が受けた損失について、政府は相当の補償を与えなければならない。

2.発明の保全に関する制度の内容
2-1.国防上の機密等を含む特許出願の審査

 一般的に、秘密保持の必要性を伴う特許出願の処理には、国によって次の2つの方法のいずれかを採用している。一つは、秘密を保持したまま、秘密解除前に特許査定をせずに、国は出願人に一定の補償を与えるというものである。もう一つは、特許出願の審査が行われ、特許要件を充足すれば特許査定されるが、公開を行わず、機密解除後に公開されるというものである。台湾は、後者のアプローチを採用している(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】一)。

 台湾経済部智慧財産局(以下、「智慧財産局」という。)は、特許出願の審査において、出願書類に国防上の機密等を含む発明が開示されていると判断したときは、国防部等の意見を聴取する(専利法第51条第1項)。これは、秘密保持の必要性があるか否かは、国防業務を担当する国防部等が最も熟知しているからである。
そして、秘密保持の必要性がある場合は、特許出願の書類を封緘する(専利法第51条第1項)。出願人が実体審査の請求をした場合、査定書を作成し、出願人と発明者に送達するが、その際は公告を保留する理由も査定書に記載される(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】一)。

2-2.出願人等の秘密保持義務と義務違反に対する法的措置
 保全の対象となった発明に係る特許出願は公開されず(専利法第37条第3項第2号)、保全の対象となった発明について、出願人、発明者、および代理人(以下、「出願人等」という。)は守秘義務を負い、出願人等が秘密保持義務に違反した場合、その特許出願を放棄したものとみなされる(第51条第2項)。守秘義務は、出願人等だけでなく、智慧財産局の審査官にも課される(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】柱書)。

 国防上の機密等を含む特許が公告されるのは、機密が解除された後である。特許権の効力は特許が公告された後に発生する。したがって、公告前は、出願人は未だ特許権を取得しておらず、出願は審査完了の状態に過ぎない。出願人等が、守秘義務に違反して情報を公開した場合、特許出願の放棄とみなされ、秘密解除後、出願人は、専利法上の権利享有を主張できなくなる。また、国家機密を漏洩する行為については、刑法などに関連規定があり、罪に該当する場合は、刑事責任を問われることとなる(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】二)。

台湾専利法第37条
 専利所轄官庁が、発明特許出願書類を受理した後、審査の結果、手続に規定に合致しない箇所がなく、かつ公開すべきでない事情がないと認めた場合、出願日から18ヶ月後に当該出願を公開しなければならない。
 専利所轄官庁は、出願人の請求により、その出願を早期公開することができる。
 発明特許の出願が、次の各号のいずれかに該当する場合、公開しない。
1. 出願日から15ヶ月以内に取り下げられた場合。
2.国防上の機密又はその他の国家安全に関わる機密に及ぶ場合。 (以下省略)

2-3.秘密保持の期間および機密解除の手続
 秘密保持の期間は1年間であるが、秘密保持の必要性がある場合は、1回につき1年の延長をすることができる(専利法第51条第3項)。秘密保持期間が満了する1か月前に、智慧財産局は、国防部等に照会し、秘密保持の必要性があるかを確認し、秘密保持の必要性がない場合には、直ちに秘密解除し公開する。これは、国防上の機密等を含む特許出願と判断され、秘密にすべきであった発明でも,状況によっては秘密にする必要がなくなる場合がある。よって、出願人の権利利益を保護し、出願人ができるだけ早く特許権を取得できるように、秘密保持期間は1年ごとに見直すことにしている(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】三)。

 さらに、特許査定の後、国防部等が技術内容を秘密にする必要がなくなったと判断した場合、智慧財産局は、3か月以内に証書料および初年度の特許料を納付するよう出願人に通知する。期限までに納付された場合は公告し、期限までに納付されなかった場合は公告を行わない(専利法第51条第4項)。この規定は、2011年の専利法改正によって追加されたものである。

2-4.保全対象とされた場合の補償
 公共の利益のために出願人の権益が損なわれた場合には、政府は補償金を支給して出願人の権益を公平に保護すべきとの観点から(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】五第5項)、秘密保持期間に出願人が受けた損失について、政府は相当の補償を与えなければならないと規定されている(専利法第51条第5項)。請求主体は出願人と考えられ、補償対象は「秘密保持期間に出願人が受けた損失」である。補償請求額は、単に「相当の補償」と規定されているに留まり、具体的な基準は示されていない。

2-5.外国出願の禁止
 専利法では、専利法第51条の秘密保持の対象となる発明について外国で特許出願をすることを明示的に禁止する規定は置かれていない。ただし、秘密保持義務を負う以上、外国での出願もできないという解釈がされる可能性は否定できないので、実際にこのような状況が生じた場合には、所轄官庁および専門家に相談することが推奨される。
 
2-6.保全措置に対する不服申立て
 秘密保持について、訴願法に基づき、不服申立てを行うことができる。「訴願」は、日本の行政不服審査法に基づく審査請求に類似する制度であり、行政処分に不服がある場合には、処分を受けた者が、処分をした行政庁の上級行政庁等に対して不服申立てをするものである。処分の送達を受けた日から30日以内に提起する必要がある(訴願法第1条、第14条)。

3.智慧財産局における国防上の機密等を含む特許出願の処理
 出願人が、特許出願に際して、国防上の機密発明等に該当することを申告する義務があるか否かについては、法令上、特にこれを義務付ける規定はおかれていない。また、いかなる場合に国防上の機密発明等に該当するかについて、明確な基準が公表されているわけでもないが、「作業要点」によれば、智慧財産局が、国防上の機密等を含む特許出願を処理する際の主なプロセスは、以下のとおりである。

(1) 出願人が、特許出願は国防上の機密等を含む旨申告した場合、智慧財産局は、要約、明細書、特許請求の範囲および図面を国防部等に送付の上、これらの意見を聴取する(作業要点 第5条第1項)。
特許出願時に申告がなかった場合、出願人は、遅くとも特許出願の公開準備作業の完了前までに、出願が国防上の機密等を含む旨の申告書を提出しなければならない。申告書は、要約、明細書、出願の範囲および図面に添付して、国防部等に送付され、これらの意見を聴取する(作業要点 第5条第2項)。
出願人が前記期間を過ぎても申告書を提出しない場合、出願は一般出願手続に基づいて審査され、審査の結果、国防上の機密等を含むと判断された場合、国防部等に必要な書類を送付し、これらの意見を聴取する(作業要点 第5条第3項)。

(2) 意見を聴取した結果、特許出願に係る発明を秘密保持にする必要性はないと判断された場合、特許出願は、一般出願手続に基づいて処理される(作業要点 第6条)。

(3) 秘密保持の必要性のある特許出願の各段階の審査プロセスは、以下のとおりである(作業要点 第7条)。
(a) 方式審査段階で、出願人に、出願が公開されない旨を通知する。
(b) 特許公開前の審査段階において、関連する作業を非公開とする。
(c) 以下の場合、関連する規定に従い、公開手続を行う。
・出願日から3年以内に実体審査の請求がなく、専利法第38条第4項の規定により出願が取り下げられたものとみなされ場合において、智慧財産局が、国防部等に照会した結果、秘密保持の必要性がないと判断した場合。
・国防部等が承認した秘密保持期間が満了し、または、秘密保持解除の条件を満たした場合。

(4) 当該出願が、秘密を保持する必要があると認められた場合、秘密保持期間は、査定書が出願人に送達された時から1年間とする。また、秘密保持期間は延長することができ、毎回1年とする。秘密保持期間が満了する1か月前に、智慧財産局は、国防部等に照会して、秘密を保持する必要性があるかを確認する。秘密保持する必要性がないと判断した場合には、直ちに秘密保持を解除し、要約書、明細書、特許請求の範囲および図面を電子スキャンした上で公開手続を行う(作業要点 第11条第1項)。

韓国における安全保障に係る発明の保全と保全に関する対価について

1.安全保障に係る発明の保全に関する制度の法的枠組み
1-1.特許法上の国防関連条文の歴史的変遷

 安全保障に係る発明、すなわち国防上必要な発明に関する規定の歴史的な変遷は、次のとおりである。
 1952年4月13日当時(法律第238号一部改正時)の韓国特許法(以下「特許法」という。)第34条によると、発明が公益上または軍事秘密上、有害であると思われるときには秘密保持を命じ、特許を保留できると規定している。
 1961年12月31日当時(法律第950号全部改正時)の特許法第17条によると、国防上、公益上で必要な場合に制限、収用、取消しできるように規定していた。つまり、国防上だけでなく公益上で必要な場合も含まれていた。
 1990年1月13日当時(法律第4207号全部改正時)の特許法第41条で、公益上が削除され、国防上に必要な場合にのみ制限、収用、取消しできるよう変更された。
 そして、2014年6月11日当時(法律第12753号一部改正時)の特許法第41条において修正はなく、国防上で必要な場合にのみ適用されるように規定されており、現行法と同一である。

1-2.特許法および施行令等の関連規定
 国防関連特許の規定は、特許法および実用新案法、特許法施行令、特許庁訓令および告示、審査基準等において詳細事項を定めており、列挙すると下記の規程がある。特に特許・実用新案審査基準(特許庁例規第131号/2023.03.22改正)に総合整理されている。

・国防上必要な発明等(特許法第41条)
・特許権の収用(特許法第106条)
・政府等による特許発明の実施(特許法第106条の2)
・補償金又は対価に関する不服の訴え(特許法第190~191条)
・国防関連特許出願の秘密取扱等(特許法施行令第3章第11~16条)
・特許・実用新案審査基準(第7部第3章 国防関連出願審査)(特許庁例規第131号,2023.03.22改正)
・国防関連特許出願の分類基準(特許庁訓令第822号,2015.07.25改正)
・特許実用新案審査事務取扱規定(第3節 国防関連出願)(特許庁訓令第665号,2010.04.28)(同令第866号,2017.03.01)
・出願関係事務取扱規定(第14条)(特許庁訓令第814号,2015.05.07)
・登録事務取扱規定(第17条)(特許庁訓令第792号,2014.12.01)
・特許権の収用実施等に関する規定(大統領令第23488号,2012.01.06日改正)
・保安業務規程(大統領令第31354号,2020.12.31日改正)
・特許庁保安業務規程施行細則(特許庁訓令第641号,2009.11.02一部改正)
・大韓民国の政府とアメリカ合衆国の政府間の特許出願がされた国防関連発明の秘密保護に関する協定(1992.01.06署名,1993.07.29発効)
・上記協定および同施行手続の細部施行要領(特許庁告示第2009-19号,2009.08.24改正)

2.発明の保全に関する制度の内容
2-1.保全対象となる出願に係る発明のスクリーニング方法(明細書等に保全対象となる発明が開示されているかの判断基準(特定技術分野等)、判断手法)

 国防関連出願の分類基準は、特許庁長(特許庁長官)が防衛産業庁長と協議して定めることになっている。
 国防関連出願は、韓国特許庁訓令第822号(国防関連特許出願の分類基準)に該当するとして、審査官が国防関連出願で確定分類した後、防衛事業庁でも同一に認められた出願である。
 国防関連出願に該当する国際特許分類は、航空、潜水艦、ミサイル、装甲車等の機械関連分類8つと爆薬、起爆装置等の化学関連分類の4つがある(特許庁訓令822号別表参照)。
 上記国防関連分類基準に該当するとしても、国内の住所または営業所を持つ者の出願でない場合、防衛事業法等の規定による主要防産物資に該当しない場合、国防性秘密にならないものと認められる場合は除外される(特許庁訓令822号第2項参照)。
 特許協力条約による国際出願が、国防関連特許出願の分類基準に該当するときは、特許協力条約第12条の規定による記録原本および調査用写本を国際事務局および管轄国際調査機関へ送付することを保留し、管掌審査局へ国際出願書類一切を移送する。

2-2.保全対象となるかの審査取扱手続(専門審査機関及び審査の内容等)
 特許庁長は、国内に住所または営業所を持つ者の特許出願が国防関連分類基準に該当される場合には、防衛事業庁長へ秘密として分類し取り扱う必要があるか否かを照会しなければならず、照会事実を発明者·出願人·代理人へ通知して保安を維持するよう要請しなければならない。
 特許庁長は、防衛事業庁長に照会した場合には、その特許出願の発明者、出願人、代理人およびその発明を知っていると認められるものに、その事実を通知して保安を維持するように要請しなければならない。
 防衛事業庁長は、照会を受けた場合、2か月以内に返信しなければならず、その特許出願について秘密の取り扱いが必要であると認める場合には、特許庁長に秘密として分類し取り扱うよう要請しなければならない。
 特許庁長は、秘密として分類し取り扱うことの要請を受けた場合には、「保安業務規程」に従って必要な措置を取り、その特許出願の発明者等へ秘密として分類し取り扱うよう命じなければならない。秘密に取り扱うことの要請を受けなかった場合には、その特許出願の発明者等には、保安維持要請の解除通知をしなければならない。
 特許庁長は、秘密からの解除、秘密保護期間の延長または秘密等級の変更要否を年2回以上防衛事業庁長と協議して必要な措置をとらなければならない(特許法施行令第12条、第13条参照)。

 2-2-1.出願人が国防関連出願として表示した場合の審査取扱手続
 出願人が、国防関連出願として表示した場合、該当出願を対外秘として受付した後、防衛事業庁長に出願書類の副本を送付し、秘密取扱が必要であるかを協議する。
 当該発明についての出願人の代理人へ、保安を維持するよう要請する。
 防衛事業庁に協議した結果、秘密取扱として要請を受けた場合、出願人等に秘密取扱命令等の保安業務規程により措置をとる。
 該当出願は、書誌事項のみ電算入力後、特許審査企画課に移管して特許分類を確定した後、該当分類審査局に移管する。
 秘密出願に対する審査過程は、一般出願の審査過程と同一であり、審査順位が来たら審査する。ただし、秘密として管理されるため、秘密出願書類を審査局で貸し出し審査進行をする等の関連秘密維持規定に従う。

 2-2-2.国防関連出願として表示ない場合の審査取扱手続
 出願人が、国防関連出願として表示しない場合、出願分類表示において主分類または部分類が国防関連特許分類として確定される場合、審査官は国防関連出願として管理すべきか否かを決定しなければならない。
 出願が、国防関連分類基準に適合すると判断される場合、防衛事業庁に送付し秘密取扱の是非を照会し、上記1項のような手続を踏んでいるか審査する。

2-3.保全対象と判断された場合の措置
 2-3-1.特許出願の非公開(公開禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)

 防衛事業庁に協議した結果、秘密として取扱要請を受けた場合、出願人等に秘密取扱命令および保安業務規程により秘密として取扱うよう命じなければならない。(特許法41条1項、施行令12条)
 秘密として分類された出願に対しては、秘密取扱の解除時まで出願公開または登録公告を保留しなければならず、その秘密取扱が解除されたときには、遅滞なく出願公開または登録公告をしなければならない。
 審査官が、秘密として分類された出願を審査した結果、技術内容が秘密として維持する必要がないと認められる場合には、秘密解除の可否を防衛事業庁と協議することができる。
 秘密として分類された出願に対する通知書は、対外秘で作成し、決裁、発送等は書面により行わなければならない。
 秘密として分類された出願の登録書類は、秘密が解除される前までに特許審査企画課で管理し、秘密が解除される場合は一般出願書類として取り扱い、拒絶決定された出願書類は情報管理課長が管理番号を付与して一般秘密文書と同一の規定により保管、管理する(特許庁例規第131号参照)。

 2-3-2.外国出願の禁止(外国出願禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)
 特許出願が、国防上必要な場合と確定された場合、外国出願の禁止を命ずることができる(特許法41条1項)。
 国内に住所または営業所を有する者が、特許出願した発明が特許庁長から保安維持の要請を受けたり、秘密として分類し取り扱うよう命令を受けた場合であっても、特許庁長の許可を受けた場合には、外国に特許出願をしたりすることができる(特許法施行令第15条)。
 特許庁長は、秘密として取り扱われている発明の一定範囲の公開または実施許可、外国への特許出願の許可をしようとする場合には、あらかじめ防衛事業庁長と協議しなければならない(特許法施行令第16条)。
 韓国は、米国と国防関連発明の秘密保護に関する協定を締結し、両国間における国防関連発明の秘密保障、および両国間に対しての出願を許可している。ただし、秘密取扱認可を受けた代理人の指定等、上記協定内容を遵守しなければならない(大韓民国の政府とアメリカ合衆国の政府間の特許出願がされた国防関連発明の秘密保護に関する協定および同施行手続の細部施行要領第6条)。

 2-3-3.その他の保全措置(実施及び実施許諾の制限等)
 特許発明が戦時、事変またはこれに準ずる非常時に国防上必要な場合には、特許権を収用することができ、特許権外の専用実施権・通常実施権も消滅する(特許法第106条第1、2項)。

2-4.保全対象とされた場合の補償(補償制度の有無、主体的要件、補償請求理由及び補償請求額)
 出願人は、外国への特許出願が禁止されたことによる損失または秘密として取り扱うことによる損失に対する補償金を防衛事業庁長に請求することができ、請求する場合、補償金請求書と損失を立証できる証拠資料を提出しなければならない(特許法施行令第14条第1項、第2項)。
 防衛事業庁長は、出願人から補償金の請求を受けた場合には、補償額を決定し支給しなければならず、必要な場合には特許庁長と協議することができる(特許法施行令第14条第3項)。
 特許権を収用する場合には、特許権外の権利も消滅するため、特許権者、専用実施権者または通常実施権者に対して正当な補償金を支給しなければならない。(特許法第106条第3項)
 政府または第一項による政府外の者は、第一項により特許発明を行う場合には、特許権者、専用実施権者または通常実施権者に正当な補償金を支給しなければならない(特許法第106条の2第3項)。ただし、上記秘密取扱命令に違反した場合、また外国出願禁止命令に違反した場合、特許を受ける権利および損失補償金の請求権も放棄したものとみなす(特許法41条5項、6項)。

2-5.保全措置に対する不服申立(不服申立手段の有無、主体的要件、申立の内容・手続)
 特許が国防上必要な場合、政府は外国へ特許出願することを禁止すること(特許法第41条第1項)や、特許しないことができ(特許法第41条第2項)、戦時、事変またはこれに準ずる非常時には、特許を受けられる権利または特許権を収用できる(特許法第41条第2項、第106条第1項)。または、特許発明が国家非常事態、極度の緊急状況または公共の利益のために非商業的に実施する必要がある場合には、政府がその特許発明を実施すること、政府外の者に実施させることができる(特許法第106条の2)。このような決定等は、一般的に主務部長官の申請により特許庁長の決定という行政処分により行われ(特許権の収用実施等に関する規定第2条第1項)、該当決定は行政処分に該当するため行政審判または行政訴訟を介して不服申立ができる。
 一方、国防上の必要性による海外への特許出願禁止や特許等の収用および実施については、政府が正当な補償金を支給するよう規定しているが、特許法では別途の規定を介して補償金または代価に対する不服訴訟を提起できるように定めている(特許法第190条)。このとき、(ⅰ)外国への特許出願禁止および特許しなかったり、収用したりした場合に対する補償金については、中央行政機関の長または出願人、(ⅱ)特許権の収用や政府の特許実施等による補償金に対しては、中央行政機関の長、特許権者、専用実施権者または通常実施権者を被告にするよう定めている(特許法第191条)。

3.まとめ及び留意点
 特許庁は、国防関連機関とのMOU契約(基本合意書)を締結しながら、国防特許技術の導入を願う企業に先端技術協力および活性化のために積極支援するものと見られ、これにより関連特許技術の高度化も期待している。
 また、半導体分野技術を核心産業育成技術と定め、先端技術流出の防止策とともに、国家経済安保に関連する技術に対しても秘密特許制度適用対象に拡大する等の多様な政策と関連特許法等の改正の動きも見られる。
 したがって、今後は、日本等の国際的趨勢に合わせた法改正に注視する必要があると思われる。

中国で完成した発明に関する秘密保持審査制度

1.安全保障に係る発明の保全に関する制度の法的枠組み
 安全保障に係る発明の保全に関する制度は、知財関連法(専利法、専利法実施細則(以下「実施細則」という。)および専利審査指南(以下「審査基準」という。))に規定されているほか、「国防専利条例」に規定されている(「専利」は、中国語の「专利」に該当し、特許、実用新案、意匠を含む概念である)。
 中国国内で完成した発明を外国に出願する場合、先ずCNIPAによる秘密保持審査(中国語「保密审查」)を受けなければならない(専利法第19条)。意匠は秘密保持審査の対象とはならない。「中国で完成した発明」とは、発明・考案(中国語「技术方案」)の実質的部分が中国国内において完成されたものをいう(実施細則第8条)。

1-1.保全対象となる出願に係る発明のスクリーニング方法(明細書等に保全対象となる発明が開示されているかの判断基準(特定技術分野等)、判断手法)
 秘密保持出願(国家の安全または重大な利益に関わり、秘密保持が必要な出願)は、国防利益に関わる出願と、国防利益以外の国家の安全または重大な利益に関わる出願を含む、意匠を除いた特許と実用新案のみが対象である(実施細則第7、8条、審査基準第五部分第五章3.1.2)。
 国防利益に関わる出願は、国防専利として出願すべきである。国防専利とは、国防専用または国防に重大な価値のある発明を指し、主に軍用技術に関連する。
 国防利益以外の国家の安全または重大な利益に関わる出願は、国防上の利益には触れないが、国家経済の安全または国家経済上の利益に重要な影響を与え、一定の期間内は公開すべきではない発明を指す。知財関連法には、特定技術分野などの説明は存在せず、国の必要に応じて定められる。例えば、金融体系のコンピュータシステムにハッキングすることを効果的に防止できる新式ファイアウォール技術、偽札の出現を効果的に防止できる新式紙幣印刷技術などが挙げられる(「中国専利法詳解」(尹新天著)、第39頁)。
 秘密保持出願は、秘密保持審査請求書と明細書の提出により、出願人が自発的に提出することが可能であり(審査基準第五部分第五章3.1)(中国出願後に外国出願する場合の秘密保持審査の具体的手続は、下記2-1参照。)、また、CNIPAが自ら確定することも可能とされる(審査基準第五部分第五章3.2)。ただし、CNIPAを受理官庁として特許の国際出願(PCT出願)を提出する場合、同時に機密保持審査請求を提出したとみなされる(この場合の秘密保持審査の具体的手続は、下記2-2参照。)。
 また、中国国内で完成した発明を、中国に出願せず外国に出願する場合、先ずCNIPAによる秘密保持審査を受けなければならない(この場合の秘密保持審査の具体的手続は、下記2-3参照。)。
 前記のとおり、「中国国内で完成した発明」とは、発明・考案の実質的部分が中国国内において完成されたものをいうが(実施細則第8条第1項)、「発明の実質的部分が中国国内において完成されたこと」の判断手法について、第55586号無効審決には、以下のような見解が示されている(「2022年度の専利不服審判・無効審判十大事件」における4件目の無効事件)。
「まず、請求人は対象考案の実質的な内容が国内で完成されたことを証明する初歩的な立証責任を負い、その立証は高い蓋然性の要求に達する必要がある。その証明方法については、権利者の住所地および考案者の国籍の2点から総合的に判断できる。次に、権利者が上記の認定を覆す十分な反証を提供できない場合、不利な法的結果を負わなければならない。」

1-2.保全対象となるかの審査取扱手続(専門審査機関及び審査の内容等)
 国防専利は、国防専利機構により審査される(国防専利条例第3条)。出願人が国防利益に係わると判断できる場合は、直接、国防専利機構に出願すべきであり、出願人自身が国防利益に係わらないと判断して、CNIPAに秘密保持出願または一般専利出願を提出した場合、CNIPAが受理した出願が国防利益に関わり、秘密保持が必要と認めた場合は、国防専利機関に移管する(実施細則第7条)。
 国防専利以外の秘密保持出願については、CNIPAが国家安全または重大な利益に関連するかを審査し、必要に応じて、関連分野の技術専門家を招いて協力を受けることができる(実施細則第7条、審査基準第五部分第五章3.1.2)。
 秘密保持審査は、CNIPAが行い、当該発明または実用新案が国家の安全または重大な利益に関連し、秘密保持を要する可能性があるかを判断する(実施細則第9条)。

1-3.保全対象と判断された場合の措置
(1) 特許出願の非公開(公開禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)
 国防専利の公開範囲は、国防専利機構によって決定される(国防専利条例第28条)。また、国防専利機構は、状況の変化により保護期間内に秘密保持を解除し、または権利の終了後に秘密保持期間を延長することを決定できる(国防専利条例第6条)。
 国防専利以外の秘密保持出願の秘密保持の解除について、出願人の請求に応じて判断可能であり、CNIPAが2年ごとに秘密保持出願を再チェックすることにより判断可能である(審査基準第五部分第五章5.1、5.2)。

(2) 外国出願の禁止(外国出願禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)
 外国出願禁止として保全指定する期間およびその延長と解除等については、明確な規定はないが、公開禁止が解除された後は、一般的な出願として管理する(審査基準第五部分第五章5.3)ので、公開禁止として保全指定する期間およびその延長と解除等と同じであると解される。

(3) その他の保全措置(実施及び実施許諾の制限)
 国防専利の実施および実施許諾は、関係主管部門に制限される(国防専利条例第22条)。
 国防専利の権利者が、国外の団体または個人に国防専利の実施を許諾する場合、必要な審査および承認を受けなければならない(国防専利条例第24条)。
 知財関連法には、秘密保持出願に該当する発明の実施および実施許諾について、規定していない。つまり、国防専利以外の秘密保持出願について、実施および実施許諾の制限の保全措置がない。

(4) 保全対象とされた場合の補償(補償制度の有無、主体的要件、補償請求理由及び補償請求額)
 国は国防専利の権利者に補償費を支払い、具体的な額は国防専利機構が確定する。職務発明に属する場合、国防専利の権利者は50%以上の補償費を発明者に支給しなければならない(国防専利条例第27条)。
 知財関連法には、国防専利以外の秘密保持出願に該当する発明の保全対象とされた場合の補償について規定されておらず、国防専利以外の秘密保持出願について、保全対象とされた場合の補償制度はない。

1-4.保全措置に対する不服申立て(不服申立て手段の有無、主体的要件、申立ての内容・手続)
 知財関連法および国防専利条例には、秘密保持出願に該当する発明の保全措置に対する不服申立手段の有無、主体的要件、申立ての内容・手続について規定されておらず、秘密保持出願について、保全措置に対する不服申立て手段はない。

2.外国出願する場合の秘密保持審査の手続
 秘密保持審査の手続は、外国への出願方法によって異なる。

2-1.中国に出願してから外国へ出願する場合
・出願人は、中国に出願してから外国へ出願する場合、中国での出願と同時に、または、その後外国へ出願するまでに、CNIPAに秘密保持審査請求書を提出しなければならない。なお、外国へ出願する内容は、中国出願の内容と一致していなければならない(実施細則第8条第2項第2号、審査指南第五部分第五章6.2)。
・秘密保持審査請求書が提出されると、審査官は予備秘密保持審査(初步保密审查)を行う。書類に形式的不備がある場合には秘密保持審査請求は申し立てられていないものとみなす通知がなされ、請求人は改めて規定に合致した秘密保持審査請求を申し立てることができる。また、審査官は、明らかに秘密保持の必要がない場合には当該発明について外国で出願できる旨を、秘密保持を必要とする可能性がある場合にはその旨を請求人に通知するため、外国専利出願秘密保持審査意見通知書(外国申请专利保密审查意见通知书)を発行する。また、秘密保持審査を必要とする場合には、請求人に対し、外国専利出願一時保留通知書が審査官より送付される。請求日より4か月以内に外国専利出願秘密保持審査意見通知書を受け取っていない場合、秘密保持審査請求人は、当該発明について外国へ出願することができる(実施細則第9条、審査指南第五部分第五章6.1.2)。
・その後、審査官は、さらなる秘密保持審査の結論に基づき外国専利出願秘密保持審査決定(外国申请专利保密审查决定)を出し、当該発明の外国出願を承認するか否かを請求人に通知する。請求日より6か月以内に外国専利出願秘密保持審査決定を受け取っていない場合、秘密保持審査請求人は、当該発明について外国へ出願することができる(実施細則第9条、審査指南第五部分第五章6.1.2)。

2-2.CNIPAを受理官庁として国際出願(PCT出願)を提出する場合
・CNIPAを受理官庁として国際出願(PCT出願)を提出する場合、出願と同時に外国への出願の秘密保持審査請求書を提出したとみなされる(実施細則第8条第3項)。
・国際出願が秘密保持を必要としない場合、CNIPAは通常の国際段階の手続きに従い処理を行う。国際出願が秘密保持を必要とする場合、CNIPAは出願日から3か月以内に国家安全のために出願書類とサーチレポートを世界知的所有権機関(WIPO)に転送しないとの通知書を発行し、出願人とWIPOに本出願を国際出願として処理しないことを通知して国際段階の手続きを終了する。出願人は上記の通知を受け取った場合、当該出願の内容について外国に出願してはならない(審査指南第五部分第五章6.3)。

2-3 中国に出願せず、直接外国へ出願または外国機構を受理官庁として国際出願する場合
・外国へ出願する前に、CNIPAに中国語で作成された秘密保持審査請求書と発明・考案の説明文書を提出しなければならない。なお、審査官の参考に供するために相応する外国語の文書を同時に提出することができる(実施細則第8条第2項第1号、審査指南第五部分第五章6.1.1)。実務上、出願予定の特許または実用新案の内容について、明細書と同様に詳しく記載した説明書が提出される。
・上記2-1.の場合と同様に、請求日より4か月以内に外国専利出願秘密保持審査意見通知書を受け取っていない場合、または、請求日より6か月以内に外国専利出願秘密保持審査決定を受け取っていない場合には、秘密保持審査請求人は、当該発明について外国へ出願することができる(実施細則9条、審査指南第五部分第五章6.1.2)。

 上記2-1.~2-3.のいずれによる秘密保持審査請求についても、官庁手数料は発生しない。
 また、秘密保持審査請求手続を代理人に依頼する場合には、特許等出願手続と同様に、委任状が必要となる。

3.まとめ及び留意点
(1) 秘密保持審査は、国家の安全また重大な利益に関わる発明を外国に流出しないようにするために導入された制度であるため、秘密保持審査を受けて外国への出願が許可されない割合は非常に低く、一般的な技術に関わる発明に関しては、通常、外国への出願が許可される。したがって、中国で発明がなされた場合、秘密保持審査を受ける手続を進めると同時に、外国への出願の準備に早めに着手することが望ましい。
(2) 秘密保持審査は、発明者の国籍を問わず、発明の実質的部分が中国国内において完成されたか否かによって、その要否が決定される。つまり、中国人発明者であっても外国人発明者であっても、中国国内において完成した発明を外国へ出願する場合は、秘密保持審査を受けなければならない。発明の実質的部分が中国国内において完成されたか否かについては、実務において権利者の住所地および発明者の国籍から総合的に判断することが一般的であるが、反証の証拠次第である。
(3) 日本企業の中国現地子会社の場合、中国国内でなされた発明の内容を確認するために秘密保持審査の請求前に発明に関する説明文書が、既に日本本社に送られていることがあるが、実務上、日本国特許庁への出願日が、中国での秘密保持審査決定書(外国出願を承認する旨の通知)の期日よりも後であれば、当該日本出願を基礎出願として中国に出願する場合、権利化には影響しないと考えられる。
(4) 中国では、国防専利以外の秘密保持出願については、保全対象と判断された場合の実施および実施許諾の制限、補償制度、不服申立手段がないことにご留意いただきたい。

ロシア・ウクライナ情勢を巡る知財関連問題

『国際知財制度研究会』報告書(令和四年度) 第3章 I. ロシア・ウクライナ情勢を巡る知財関連問題に関連する条約・協定(TRIPS協定、日露投資協定等)、主要国の法制度等の分析(2023年3月、知的財産研究教育財団 知的財産研究所)

目次
1.安全保障に関連するTRIPS協定等 P.379
(TRIPS協定第73条/GATT第21条について解説している。また、WTOの紛争解決手続において審理されている事案について分析している。さらに、安全保障に関連すると考えられる諸外国の法制度等(特許収用制度については10か国、特許非公開制度については、日本、ロシアを含む31か国、第一国出願義務等の外国出願制限については、日本、ロシアを含む32か国、緊急事態等における強制実施権制度については、日本、ロシア含む31か国)について紹介している。)

2.ロシアが知的財産制度関連で講じている措置とその影響等 P.432
(2022年にロシアが実施した措置(ライセンス料支払い禁止、国家安全保障等のための強制実施権、一時的な並行輸入の合法化、ライセンス契約の一方的な変更/終了を禁止する法律の草案等)について解説している。また、主要国(日本を含む6つの国または地域)の特許庁が講じている制裁措置を紹介している。)

3.ロシアの投資関係の条約 P.446
(海外の知的財産権の保護と投資協定の関係、日露投資協定、主要国(日本を含む7か国)とロシアとの間の投資協定における収用等に関する規定を紹介している。)

4.まとめ P.455

5.知的財産権に関するロシアの反制裁措置 -国際ルールに基づく対処の可能性- P.457
(東京大学大学院法学政治学研究科 伊藤一頼教授の知的財産権に関するロシアの反制裁措置についての見解を紹介している。)

ベトナムの改正知的財産法の概要について(特許編)

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ベトナムの改正知的財産法の概要について(意匠・商標、共通事項編)

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トルコにおける第一国出願義務

【詳細】

 トルコ国内でなされた発明に関する登録出願をトルコで最初に行う必要があるとする法規定は存在しない。しかし、下記の「秘密特許」と題された産業財産法第124条は、以下のとおり、一定の発明については、国防省の許可なしに他国で特許出願することができないと規定している。

 

トルコ産業財産法第124条

(1)トルコ特許商標庁は、出願に係る発明が国の安全の観点から重要であると判断した場合、出願の写しを、見解を得るために国防省に送付し、状況を出願人に通知する。

(2)トルコ国防省は、出願に係る発明を秘密裏に実施することを決定した場合、通知日から3か月以内に決定を特許庁に通知する。秘密裏に行われることの決定がなされない場合または期間内に特許庁に通知しない場合、出願に関する業務は開始される。

(3)特許出願が秘密の対象となる場合、特許庁は状況を出願人に通知し、出願審査を進める前に出願を秘密特許出願として登録する。

(4)特許出願人は、秘密特許出願に係る発明を、権限がないものに開示することはできない。

(5)特許出願人の要求により、特許出願に係る発明の一部または全部使用が国防省により許可されうる。

(6)特許出願人は、特許出願の秘密保持期間について政府から補償を請求することができる。支払われる補償額に関して合意に達しない場合、補償額は裁判所により決定される。補償は、発明の重要性および出願人が自由に使用する場合取得するであろうと推定される利益の額を考慮して算出される。特許出願人の過失により秘密特許出願の対象となる発明が開示された場合、補償請求権は消滅する。

(7)秘密特許出願に関して秘密保持期間中、特許庁に特許登録料は支払われない。

(8)トルコ特許商標庁は、国防省の要求により、特許出願のために予見された秘密保持を取り消すことができる。秘密保持が取り消された特許出願は、秘密保持が取り消された日から特許出願として業務が行われる。

(9)トルコで生まれた発明が国の安全の観点から重要である場合、他国で特許出願をすることができない。トルコで生まれた発明に関して特許庁に行われた特許出願が第1項から第8項の条項の対象となる場合、国防省の許可なしに他国で特許出願をすることができない。

(10)発明者の居住地がトルコである場合、反証が行われない限り、発明がトルコで行われたと認められる。

 

 上記の規定により、トルコ特許商標庁が出願に係る発明が国の安全の観点から重要であると判断し、国防省が出願業務を秘密裏に行うことを決定した場合、国防省の許可なしに他国で特許出願を行うことはできない。すなわち、産業財産法第124条で規定されている例外の場合、他国への出願は国防省の許可に左右される。

 

 上記の例外に該当しないトルコでなされた発明に関する特許出願を最初にトルコで行う義務は産業財産法に規定されていない。

 

 実務上、トルコでなされた発明は、PCTおよびEP出願として行うこともできる。産業財産法第93条によると、トルコを含むパリ条約またはWTO設立協定の加盟国である政府に対して特許または実用新案に関する出願を適法に行った出願人は、同一の発明についてトルコで出願する際に、最初の出願日から12か月以内であれば優先権を主張することができる。

 

【留意事項】

 産業財産法において、国防省の許可なしに国の安全の観点から重要である発明を他国で出願することに関する罰則は規定されていない。

 トルコでなされた、国の安全の観点から重要である発明に関する最初の特許出願をトルコ国外で行い、トルコでの出願に際して優先権を主張した場合についても、産業財産法において罰則は規定されていない。

ロシアにおける第一国出願義務

【詳細】

 ロシア連邦民法には、国家機密の保護を目的として、ロシア国内で生まれた発明に関する規定が設けられている。

(ロシア連邦民法第1395条)

 ロシア国内で開発された発明は、ロシア特許庁に最初に特許出願され、かつ、ロシア特許庁が国家機密に関するとして外国出願を禁止しない場合に限り、外国特許庁への特許出願が許される。

 

 ロシア特許庁は特許出願について安全保障確認を行う。発明が国家機密に分類される場合、ロシア特許庁は、ロシア出願日から6か月以内に出願人に発明が国家機密に分類される旨を通知する(ロシア連邦民法第1395条)。発明が国家機密に分類された場合、特許出願は秘密発明出願として、特別に取り扱われる(ロシア連邦民法第1401条)。発明が国家機密に分類される旨の通知がないかぎり、出願人はロシア国外で特許出願を行うことができる。なお、ロシア出願から国家機密に分類される旨の通知が届く期限である6か月経過する前は、外国特許庁への特許出願することの許可を、ロシア出願の際にロシア特許庁に求めることもできる。

 

 出願人がロシア国民、ロシア法人(日本企業の現地法人を含む)である場合にのみ、特許出願に係る発明が国家機密に分類され得る。ロシア国外の個人または法人によって出願された特許出願に係る発明は、国家機密に分類されない(ロシア連邦民法第1401条)。

 

 一方、第一国出願義務は、出願人の住所や国籍を問わず、ロシア国内でなされたすべての発明に適用される。発明がロシア国内でなされたのか否かが不明な場合、最終的には、裁判所が判断することになる。第一国出願義務に違反した場合、行政処罰が科される可能性がある。出願人が法人の場合、80,000ルーブル以下の罰金が科される。なお、第一国出願義務への違反は現実には発覚しにくく、(筆者が知る限り)第一国出願義務違反に関する実際の判例は存在していない。

 

 ロシア特許庁を受理官庁とするPCT出願によっても、第一国出願義務を果たしたものとされる。ロシア特許庁を受理官庁とするPCT出願では、欧州特許庁(EPO)を国際調査機関として選択することができる。EPOを国際調査機関とする場合、英語でのPCT出願が可能である。第一国出願義務を果たすために、ロシア語翻訳を提出したり、対応ロシア出願を出願する必要はない。PCT出願から6か月以内に、受理官庁としてのロシア特許庁は、国際事務局と国際調査機関(EPO)へ、明細書など出願書類のコピーを送付する。

 

 出願書類のコピーを、受理官庁(ロシア特許庁)が国際事務局と国際調査機関(EPO)へと迅速に送付することを望む場合、出願人は、安全保障確認の早期実行をロシア特許庁に求めることができる。安全保障確認の早期実行のために、出願人は、出願書類のロシア語翻訳と、「出願は国家機密に関連する如何なる情報も含んでいない」という宣誓書と、をロシア特許庁に提出する。この宣誓書には、出願人とすべての発明者とが署名する。

トルコにおける第一国出願義務

【詳細】

トルコ国内で生まれた発明について、第一国出願義務があるか否か(トルコ国外に出願する前にトルコ特許庁に出願する必要があるか否か)という点について、国内で生まれた発明についていずれも最初にトルコに特許出願すべきと直接的に義務付ける規定はトルコ特許法にはない。一方、トルコ特許法第125条および第128条は、以下を規定する。

 

トルコ特許法第125条(秘密保持の条件):

・・・トルコ特許庁は、出願に係る発明が、国防に重要であるものとみなすに至る場合は、・・・当該状況を文書で出願人に通知するものとし、直ちにトルコ国防省に出願の複写を送達することによりトルコ国防省に伝達するものとする。・・・

 

トルコ特許法第128条(秘密特許の外国における出願に係る許可):

トルコにおいてなされた発明が第125条を条件として、トルコ特許庁の許可なくトルコ特許庁に対する特許出願日から2月の期間の満了前に何れの外国においても当該発明につき特許出願はできない。外国出願の許可は,トルコ国防省の具体的な許可がなければ発行されないものとする。

発明者がトルコに居住する場合で,反証を欠くときは,発明はトルコでなされたものとみなす。

 

これらの規定は、トルコ国内で生まれた発明がトルコの国防にとって重要である場合は、トルコ特許庁の許可がなければ、トルコ国外に特許出願することができない、ことを意味する。つまり、トルコ特許法第125条および第128条の組み合せから、トルコの国防にとって重要な発明がトルコ国内でなされた場合は、最初にトルコに出願すること(第一国出願義務)が求められる。

 

なお、トルコ国内で生まれたトルコ国防にとって重要性を有する発明について、トルコに第一国出願しなかった場合についての罰則は、トルコ特許法には規定されていない。

 

また、トルコに第一国出願した発明がトルコ特許庁によってトルコ国防に重要であるものとみなされた後に、トルコ特許庁の許可なく同一発明について外国に特許出願した場合、についての罰則も、トルコ特許法には規定されていない。

 

さらに、トルコ国内で生まれたトルコ国防にとって重要性を有する発明についてトルコ国外に第一国出願し、このトルコ国外出願を優先権主張してトルコに出願した場合の取り扱いについても、トルコ特許法には規定されていない。

 

トルコ特許法に明確な規定はないが、トルコの国防にとって重要性を有さないことが明白である場合は、トルコで生まれた発明であっても、最初にトルコ国外に特許出願してもよい、と考えられている。

 

実際には、トルコにおいてなされた発明について、トルコに第一国出願をするよりも、PCT出願またはEPOへ欧州特許出願(以下EP出願)がなされることが多い。PCT出願またはEP出願の場合、出願から12か月(優先権主張期間終了)よりも十分前に出願に関する調査報告書を取得することができ、出願人にとって、対応外国出願を行うべきか否かを評価することができる、というメリットがあるからである。一方、トルコ出願については、トルコ特許庁において調査報告書が作成されて出願人へ送付されるまでには、通常、出願から12ヶ月を超える。

 

ただし、トルコ特許法第125条および第128条の目的が有効に達成されるためには、トルコ特許庁が最初に発明を確認する必要がある。このため、トルコにおいてなされた発明についてのPCT出願またはEP出願は、たとえトルコを指定国に含んでも、トルコ特許法第125条および第128条が間接的に要求する第一国出願義務を満たすことにならない。

 

したがって、トルコ国内で生まれた発明がトルコ国防にとって重要性を有する場合は、PCT出願やEPC出願ではなく、トルコ特許出願または実用新案出願を最初にトルコ特許庁に行う必要がある。

 

また、トルコ国内で生まれた発明が、トルコ国防にとって重要性を有する可能性があるのであれば、トルコ特許出願または実用新案出願を最初にトルコ特許庁に行うべきであろう。

 

【留意事項】

トルコ国内で生まれた発明がトルコ国防にとって重要性を有する場合は、PCT出願やEP出願ではなく、トルコ特許出願または実用新案出願を最初にトルコ特許庁に出願する必要がある。

オーストラリアで生まれた発明の取扱い(国家安全保障に関連する法規制)

【詳細】

1.一般ルール

 オーストラリアには、特許出願をオーストラリアに第一国出願しなければならない、とする法規定は存在せず、出願人は自ら選択した国に第一国出願することができる。

 ただし、オーストラリア国外へ出願するに際し、出願人は、当該出願対象の発明が以下の「戦略的技術」に該当するか否か検討しなければならない。「戦略的技術」に該当する場合、当該情報を国外に持ち出す前に政府の承認を得ることが必要となる。

 

2.戦略的技術

 オーストラリアにとって戦略的に重要な情報の国外持ち出しを規制する法律として、2012年防衛取引管理法(the Defence Trade Control Act of 2012: DTCA)が存在する。DTCAは、戦略的かつ軍民の両用可能な物品・技術を適用対象とする。

 DCTAは、防衛戦略上、機密扱いされるべき情報や技術を、輸出、提供または公開することを同法の違反行為としているが、オーストラリアで生まれた発明がかかる情報や技術に該当する場合、外国出願する目的で行われる発明情報のあらゆるやり取りに適用される可能性がある。

 特定の物品、ソフトウェア、技術が「防衛戦略物資リスト(Defence and Strategic Goods List: DSGL)」に含まれているか否かを判断する際に、オーストラリア国防省のオンラインツール(https://dsgl.defence.gov.au)を参照することができる。特定の項目が規制対象であるのか、物品自体がリストアップされているのか、関連する材料、装備、ソフトウェア、技術がリストアップされているのか、について確認する必要がある。コンピュータやソフトウェアといった品目がリストアップされている場合、DSGLに規定された規制閾値と、当該物品の技術仕様や性能を比較し確認する必要がある。

 対象技術がDSGLに含まれる場合、オーストラリア国防省に国外持ち出しの許可を申請しなければならない。オーストラリア国防省は、15日以内に承認または拒否を決めることとされている。

 また、安全保障に関するさまざまの技術分野に対応した各種の法律が存在し、核兵器・生物兵器を含む大量破壊兵器に関しても、別途規定されている。

 なお、オーストラリア特許法第152条および第173条の規定に基づき、オーストラリア特許庁長官は、「戦略的技術」については公開を禁止する命令を発することが可能とされている。ただし、当該規定は、あくまでオーストラリア特許庁に特許出願されたことを前提としており、外国に特許出願する前に安全保障上の確認を要求するものではない。