中国における特許出願の新規性喪失の例外について
1. 新規性喪失の例外適用の猶予期間および適用対象
出願日(優先権主張の場合、優先日を指す。)から遡って6か月以内の下記行為の何れかに該当する場合には、新規性を喪失しないとされる(中国専利法(以下「専利法」という。)第24条、専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第33条)。
(1) 国家において緊急事態または非常事態が発生し、公共の利益のために初めて公開した場合。
(2) 中国政府が主催または認める国際展覧会で初めて展示された場合。
(3) 規定の学術会議、または技術会議上で初めて発表された場合。
(4) 他人が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合。
上記(2)に定める、中国政府が主催する国際展覧会とは、国務院・各部委員会が主催するか、または国務院が許可し、その他の機構もしくは地方政府が開催する国際展覧会も含む(中国専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第1章6.3.2)。また、中国政府が認める国際展覧会とは、国際博覧会条約に定められた、博覧会国際事務局に登録された、またはそれに認められた国際展覧会を指す(実施細則第33条第1項)。国際展覧会とは、出展される展示品が、主催国の製品以外に、外国からの展示品もなければならない(審査指南第1章第1部6.3.2)。
上記(3)に定める、規定の学術会議または技術会議とは、国務院の関連主管部門または全国的な学術団体組織が開催する学術会議または技術会議、および国務院関連主管部門が認可した国際組織によって開催される学術会議または技術会議を指す(実施細則第33条第2項)※1。省以下もしくは国務院の各部委員会または全国的な学術団体から委任を受けて、もしくはその名義により開催する学術会議または技術会議は含まれない(審査指南第1章第1部6.3.3)。
※1 実施細則第33条第2項後段の、「国務院関連主管部門が認可した国際組織によって開催される学術会議又は技術会議」は、2023年の実施細則の改正によって追加されたもので、これにより学術会議または技術会議の範囲が拡張された。
2. 関連手続
2-1. 国家に緊急事態または非常状況が発生した時に、公共利益を目的として初めて公開された場合
出願する発明について、出願日の6か月前までに、国家に緊急事態または非常状況が発生した時に、公共利益を目的として初めて公開されたことを、出願人が出願日よりも前に知っていれば、出願時に願書で声明を行い、出願日から2か月以内に証明資料を提出しなければならない。出願人が出願日以降に状況を自ら知った場合、状況を知ってから2か月以内に新規性喪失の例外に関する猶予期間を要求する声明を提出し、かつ証明資料を付さなければならない(審査指南第1部第1章6.3.1)。
国家に緊急事態または非常状況が発生した時に、公共利益を目的として公開される証明資料は、省級以上の人民政府の関連部門が発行しなければならない。また、証明資料中に、公共利益を目的として公開する事由、日付および当該発明の公開の日付、形式および内容を明記し、かつ公印を押捺しなければならない(審査指南第1部第1章6.3.1)。
国家に緊急事態または非常状況が発生した時に、公共利益を目的として初めて公開される発明は、他者が知ってからそれを再度公開した場合、専利法第24条第1項第1号に記載の状況とみなされる(審査指南第2部第3章5.)※2。
※2 この規定は、2023年の審査指南の改正によって追加された。インターネットおよび情報技術の発展に伴い、他者が発明の内容を知った後に再び公開される可能性が大幅に増加したことに対応し、再度の公開が新規性喪失例外の猶予期間を獲得できるか否かを明確にしたものである。
2-2. 中国政府が主催したまたは認める国際展覧会における初めての展示、または規定の学術会議または技術会議での初めての発表の場合
出願される発明について、新規性喪失の例外を受けたい場合は、出願人は、出願時にその旨を声明し、かつ出願日から2か月以内に、発明が既に展示されたまたは発表された事実、および展示または発表の期日を証明する証明資料を提出しなければならない(実施細則第33条第3項、審査指南第1部第1章6.3.2、6.3.3)。
国際展覧会の証明資料は、展覧会の主催機関または展覧会組織委員会が発行するものでなければならず(審査指南第1部第1章6.3.2)、また学術会議および技術会議の証明資料は、国務院の関連主管部門または会議を組織する全国的な学術団体が発行するものでなければならない(審査指南第1部第1章6.3.3) ※3。
※3 2023年の実施細則の改正によって、第33条第3項では旧第30条における「国際博覧会または学術会議、技術会議の主催者が発行した」という証明資料についての要件が削除されたが、審査指南第1部第1章6.3.2、6.3.3において発行者が特定されているので注意が必要である。
2-3. 他人が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合
出願する発明について、出願日以前の6か月以内に、第三者が出願人の同意を得ずにその内容を漏らし、それを出願日前に出願人が知っていた場合で新規性喪失の例外適用を望む場合は、出願人は専利出願時に願書で声明し、出願日から2か月以内に証明資料を提出しなければならない。出願人が、第三者による漏洩の事実を出願日以降に知った場合は、事情を知ってから2か月以内に、新規性を喪失しない猶予期間を要求する声明を提出し、証明資料を添付しなければならない(審査指南第1部第1章6.3.4)。
審査官は、必要であると判断した場合に、指定する期間内に証明資料を提出するよう、出願人に要求することができる(審査指南第1部第1章6.3.4)。
出願人が専利局からの通知書を受け取って状況を知った場合、通知書で指定された応答期限内に、新規性喪失の例外に関する猶予期間の適用を受ける旨の意見書を提出し、かつ証明書類を付さなければならない(審査指南第1部第1章6.3.4)※4。
※4 この規定は、2023年の審査指南の改正によって追加された。新規性喪失の例外適用を受けることができる時期が増え、出願人の合法的な権益をよりよく保護するための改正である。
他者が出願人の同意なく発明の内容を漏洩し、第三者が当該方式で公開された発明を知ってからそれを再度公開した場合、専利法第24条第1項第4号に記載の状況とみなされる(審査指南第2部第3章5.)※5。
※5 この規定は、2023年の審査指南の改正によって追加された。インターネットおよび情報技術の発展に伴い、他者が発明の内容を知った後に再び公開される可能性が大幅に増加したことに対応し、再度の公開が新規性喪失例外の猶予期間を獲得できるか否かを明確にしたものである。
3. 留意事項
中国では、新規性喪失の例外に該当するケースは、日本と比べてかなり制限されている。日本出願を基礎とする優先権主張を伴って中国へ出願する場合、日本法では新規性喪失の例外に該当するにしても、必ずしも中国法で新規性喪失の例外に該当するとは限らない。中国で出願することを考えているが、出願前にどうしても発表等しなくてはならない事情がある場合は、そのような発表が中国において新規性喪失の例外に該当するか否かについて、まず、現地代理人等に確かめた方が良いと考えられる。しかし、中国では新規性喪失の例外に該当する学術会議または技術会議のリストが公表されていないため、現地代理人に確かめても、結論が出ない場合がある。このような状況に鑑み、将来中国出願の予定のある発明については、できるだけ新規性喪失の例外適用を考えず、開示は極力控えるべきである。
日本と中国における意匠の新規性喪失の例外に関する比較
1.日本における意匠出願の新規性喪失の例外
日本においては、新規性を喪失した意匠の救済措置として、新規性喪失の例外規定が定められている。新規性喪失の例外規定の適用要件は以下のとおりである。
(1) 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと(意匠法第4条第1項)または
(2) 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと(意匠法第4条第2項)
上記いずれの場合についても、以下の要件を満たす必要がある。
(a) 意匠登録を受ける権利を有する者が意匠登録出願をしていること
(b) 意匠が最初に公開された日から1年(平成30年6月9日以降の出願に適用)以内に意匠登録出願をしていること。ただし、平成29年12月8日までに公開された意匠については、平成30年6月9日以降に出願しても、改正意匠法第4条の規定は適用されないので注意が必要。
なお、意匠法第4条第2項に記載される自己の行為に基づく新規性喪失については、さらに以下の手続が必要となる。
(c) 出願時に、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出、あるいは願書にその旨を記載すること(意匠法第4条第3項)。
(d) 出願の日から30日以内に、公開された意匠が新規性喪失の例外規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する「証明書」を証明書提出書とともに提出すること(意匠法第4条第3項)。
「証明書」には、意匠が公開された事実(公開日、公開場所、公開者、公開された意匠の内容等)とともに、その事実を客観的に証明するための署名等を記載することが必要である。上記要件を満たした場合、その意匠登録出願に限り、その公開意匠は公知の意匠ではないとみなされる(意匠審査基準 新規性喪失の例外)。
条文等根拠:意匠法第4条、意匠審査基準 第Ⅲ部 第3章 新規性喪失の例外(【ソース】参照)
日本意匠法 第4条 意匠の新規性の喪失の例外 1 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠は、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかったものとみなす。 2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。 3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。 4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。 |
2.中国における意匠出願の新規性喪失の例外
2021年6月1日施行の専利法第4次改正により、意匠出願の新規性喪失の例外が規定されている専利法第24条が改正され、第1項第1号が追加されて旧第1~3号が改正後の専利法第24条第1項第2~4号となった。なお、現時点で、専利法実施細則、専利審査指南は、専利法改正に対応した改正はなされていない。
出願日前に意匠出願の内容が公開された出願人に対する救済措置として、(1) 国家において緊急事態、または非常事態が発生した時の、公共の利益のための初めての公開、(2) 中国政府が主催する、または認める国際展示会での初めての展示、(3) 規定の学術会議、あるいは技術会議上での初めての発表、(4) 出願者の同意を得ない他者によるその内容の漏洩、の四つの場合に限って、6か月の新規性喪失の例外期間が設けられている。
この新規性喪失の例外期間を利用するには、(2)と(3)の場合には、出願の時に宣誓し、かつ出願日から2か月以内に証明書類を提出しなければならない(専利法実施細則第30条第3項、専利審査指南第1部分第1章6.3.1、6.3.2)。また、(4)の場合には、他人が出願人の許可を得ずに当該内容を漏らしたことを出願人が出願日以前に知っているならば、出願時に宣誓し、かつ出願日から2か月以内に証明資料を提出しなければならず、出願人が出願日以降に知った場合には、当該事情を知った後の2か月以内に新規性喪失の例外期間を要求する声明書を提出し、証明資料を添付しなければならない(専利審査指南第1部分第1章6.3.3)。なお、国務院専利行政部門(中国国家知識産権局)は必要に応じて、指定期限内での証明書類の提出を出願人に要求することができる(専利法実施細則第30条第4項)。
条文等根拠:専利法第24条、専利法実施細則30条、専利審査指南第1部分第1章6.3.1、専利審査指南第1部分第1章6.3.2、専利審査指南第1部分第1章6.3.3
※専利法:日本における特許法、意匠法、実用新案法に相当する。
※実施細則:日本における施行規則に相当する。
※審査指南:日本における審査基準に相当する。
中国専利法 第24条 専利を出願する発明創造について、出願日前6ヶ月以内に以下の状況のいずれかがあった場合、その新規性を喪失しないものとする。 (一)国家において緊急事態又は非常事態が発生し、公共の利益のために初めて公開した場合。 (二)中国政府が主催する又は認める国際展示会で初めて展示された場合。 (三)規定の学術会議、又は技術会議上で初めて発表された場合。 (四)他者が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合。 |
中国専利法実施細則 第30条 専利法第二十四条第(一)号に言う中国政府が承認した国際博覧会とは、国際博覧会条約に定められた、博覧会国際事務局に登録したあるいはそれに認められた国際博覧会を指す。 専利法第二十四条第(二)号に言う学術会議または技術会議とは、国務院の関係主管部門または全国的な学術団体が組織開催する学術会議または技術会議を指す。 専利を出願する発明創造に専利法第二十四条第(一)号または第(二)号に挙げた事情がある場合、出願人は専利出願の提出時に声明し、かつ出願日より起算して2ヶ月以内に、国際博覧会または学術会議、技術会議の主催者が発行した、関係発明創造が既に展示されまたは発表された事実、並びに展示または発表の期日を証明する書類を提出しなければならない。 専利を出願する発明創造に専利法第二十四条第(三)号に挙げた事情がある場合、国務院専利行政部門は必要に応じて、指定期限内での証明書類の提出を出願人に要求することが出来る。 出願人が本条第3項の規定に基づいて声明と証明書類を提出せず、あるいは本条第4項の規定に基づいて指定期限内に証明書類を提出しなかった場合、その出願は専利法第二十四条の規定を適用しない。 |
専利審査指南第1部分第1章6.3.1 中国政府が主催し又は承認した国際展覧会における初めての展示 中国政府が主催する国際展覧会は、国務院・各部委員会が主催するもの、又は国務院が許可し、その他の機構或いは地方政府が開催する国際展覧会を含む。中国政府が承認する国際展覧会とは、国際展覧会条約に規定されたもので、国際展覧局で登録又は認可された国際展覧会を指す。国際展覧会というのは、出展される展示品は主催国の製品のほか、外国からの製品も展示されなければならない。 専利出願に係わる発明創造は、出願日以前の6ヶ月以内に、中国政府が主催し又は承認した国際展覧会で初めて展示されており、出願人は新規性を喪失しない猶予期間を要求する場合、出願時に願書で声明し、かつ出願日より2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならない。 国際展覧会の証明資料は展覧会の主催機構が発行するものでなければならない。証明資料に、展覧会の出展日、場所、展覧会の名称及び当該発明創造が展示された出展日時、形式と内容を記載して、公印を捺印しなければならない。 専利審査指南第1部分第1章6.3.2 認可された学術会議又は技術会議で初めて発表 認可された学術会議又は技術会議とは、国務院の関連主管部門又は全国的な学術団体組織が開催する学術会議又は技術会議を指し、省以下、又は国務院の各部委員会若しくは全国的な学術団体から委任を受けて、或いはその名義により召集して開催する学術会議又は技術会議を含まない。後者で言う会議での公開は、新規性の喪失につながるが、これらの会議そのものに守秘の約束がある場合は除く。 専利出願する発明創造が出願日以前の6ヶ月以内に認可された学術会議又は技術会議で初めて発表されており、出願人は新規性を喪失しない猶予期間を要求する場合、出願時に願書で声明し、かつ出願日より2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならない。 学術会議及び技術会議の証明資料は国務院の関連主管部門又は会議を組織する全国的な学術団体が発行するものでなければならない。証明資料には会議の開催日、場所、会議の名称及び当該発明創造の発表日、形式と内容を明記し、公印を捺印しなければならない。 専利審査指南第1部分第1章6.3.3 他人が出願人の許可を得ずに当該内容を漏らした場合 他人は出願人の許可を得ずに、当該内容を漏らしたことにより公開されたこと は、他人が明示又は黙認された守秘の約束を守らずに発明創造の内容を公開すること、他人が威嚇、詐欺又はスパイ活動などの手段により発明者、或いは出願人から発明創造の内容を得ることによって発明創造を公開することを含む。 専利を出願する発明創造について、出願日以前の6ヶ月以内に、他人が出願人の許可を得ずに当該内容を漏らしたことを、出願人が出願日以前に知っているならば、専利出願時に願書で声明し、出願日より2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならない。出願人が出願日以降に知っている場合は、当該事情を知った後の2ヶ月以内に新規性を喪失しない猶予期間を要求する声明を提出し、証明資料を添付しなければならない。審査官は必要であると判断した際に、指定された期限以内に証明資料を提出するよう、出願人に要求して良いとする。 出願人が提出する他人による出願内容の漏洩に関する証明資料には、漏洩日、漏洩方法、漏洩内容を記載し、証明人が署名又は捺印しなければならない。 出願人は新規性を喪失しない猶予期間を要求しているが、規定事項に合致しない場合、審査官は、新規性を喪失しない猶予期間を求めていないとみなす通知書を発行しなければならない。 |
日本と中国における意匠の新規性喪失の例外に関する比較
日本 | 中国 | |
新規性喪失の例外の有無 | 有 | 有 |
意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する公知行為の限定の有無 | 無 | 有 (1) 国家において緊急事態又は非常事態が発生し、公共の利益のために初めて公開した場合 (2)中国政府が主催するまたは認める国際展示会での初めての展示 (3)規定の学術会議、あるいは技術会議における初めての発表 |
例外期間 | 公開日から1年 | 公開日から6か月 |
中国における特許出願の新規性喪失の例外について
1.新規性喪失の例外適用の猶予期間および適用対象
出願日(優先権主張の場合、優先日を指す)から遡って6か月以内の下記行為の何れかに該当する場合には、新規性を喪失しないとされる。
(1) 国家において緊急事態または非常事態が発生し、公共の利益のために初めて公開した場合。
(2) 中国政府が主催または認める国際展覧会で初めて展示された場合。
(3) 規定の学術会議、または技術会議上で初めて発表された場合。
(4) 他人が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合。
(専利法第24条、専利法実施細則(以下、「細則」とする)第11条)
中国政府が主催した国際展覧会とは、国務院や各中央部門、各中央委員会が主催したまたは国務院の認可によってその他の機関または地方の政府が開催する国際展覧会を指し、中国政府が認める国際展覧会とは、国際博覧会条約に定められた、博覧会国際事務局に登録したあるいはそれに認められた国際展覧会を指す。
既定の学術会議または技術会議とは、国務院の関係主管部門または全国的な学術団体が組織開催する学術会議または技術会議を指すとされているが、新規性喪失の例外に該当する学術会議または技術会議のリストは公表されていない。
(細則第30条)。
2.関連手続き
2-1. 中国政府が主催したまたは認める国際展覧会における初めての展示、または既定の学術会議または技術会議での初めての発表の場合
出願される発明、実用新案、意匠について新規性喪失の例外を受けたい場合は、出願人は、出願時にその旨を声明し、かつ出願日から2か月以内に、国際展覧会、学術会議または技術会議の主催者が発行した証明資料を提出しなければならない。
証明資料は、主催部門、単位(団体)の公印が押印された証明書でなければならない。また、証明資料には、開催時期、場所、展覧会や会議の名称および当該発明が展示または発表された日時・形式・内容を明記しなければならない。
(細則第30条、専利審査指南第1部分第1章6.3.1および6.3.2)
2-2. 他人が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合
出願する発明、実用新案、意匠について、出願日以前の6か月以内に、第三者が出願人の同意を得ずにその内容を漏らし、それを出願日前に出願人が知っていた場合で新規性喪失の例外適用を望む場合は、出願人は専利出願時に願書で声明し、出願日から2か月以内に証明資料を提出しなければならない。
出願人が、第三者による漏洩の事実を出願日以降に知った場合は、事情を知ってから2か月以内に、新規性を喪失しない猶予期間を要求する声明を提出し、証明資料を添付しなければならない。
審査官は必要であると判断した際に、指定された期間内に証明資料を提出するよう、出願人に要求することができる。
(専利審査指南第1部分第1章6.3.3)
3.留意事項
中国では新規性喪失の例外に該当するケースは、日本と比べてかなり制限されている。日本基礎出願の優先権主張を伴って中国へ出願する場合、日本法では新規性喪失の例外に該当するにしても、必ずしも中国法で新規性喪失の例外に該当すると限らない。中国で出願することを考えているが、出願前にどうしても発表等しなくてはならない事情がある場合は、そのような発表が中国において新規性喪失の例外に該当するか否かについて、まず、現地代理人等に確かめた方が良いと考えられる。しかし、中国では新規性喪失の例外に該当する学術会議又は技術会議のリストが公表されていないため、現地代理人に確かめても、結論が出ない場合がある。このような状況に鑑み、将来中国出願の予定のある発明については、できるだけ新規性喪失の例外適用を考えず、開示は極力控えるべきである。
日本と中国における意匠の新規性喪失の例外に関する比較
日本における意匠出願の新規性喪失の例外
日本においては、新規性を喪失した意匠の救済措置として、新規性喪失の例外規定が定められている。新規性喪失の例外規定の適用要件は以下のとおりである。
1 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと(第4条第1項)または
2 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと(第4条第2項)
上記いずれの場合についても、以下の要件を満たす必要がある。
(1) 意匠登録を受ける権利を有する者が意匠登録出願をしていること
(2) 意匠が最初に公開された日から1年(平成30年6月9日以降の出願に適用)以内に意匠登録出願をしていること。ただし、平成29年12月8日までに公開された意匠については、平成30年6月9日以降に出願しても、改正意匠法第4条の規定は適用されないので注意が必要。
なお第4条第2項に記載される自己の行為に基づく新規性喪失については、さらに以下の手続が必要となる。
(3) 出願時に、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出、あるいは願書にその旨を記載すること(第4条第3項)。
(4) 出願の日から30日以内に、公開された意匠が新規性喪失の例外規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する「証明書」を証明書提出書とともに提出すること(第4条第3項)。
「証明書」には、意匠が公開された事実(公開日、公開場所、公開された意匠の内容等)とともに、その事実を客観的に証明するための署名等を記載することが必要である。上記要件を満たした場合、その意匠登録出願に限り、その公開意匠は公知の意匠ではないとみなされる。
条文等根拠:意匠法第4条
日本意匠法 第4条 意匠の新規性の喪失の例外
1 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠は、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかったものとみなす。
2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。
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中国における意匠出願の新規性喪失の例外
出願日前に意匠出願の内容が公開された出願人に対する救済措置として、(1)中国政府が主催するまたは認める国際展示会での初めての展示、(2)規定の学術会議、あるいは技術会議上での初めての発表、(3)出願者の同意を得ない他者によるその内容の漏洩、の三つの場合、6か月間の新規性喪失の例外期間が設けられている。
この規性喪失の例外期間を利用するには、(1)と(2)の場合には、出願の時に宣誓し、かつ出願日から2か月以内に証明書類を提出しなければならない。また(3)の場合には、他人が出願人の許可を得ずに当該内容を漏らしたことを出願人が出願日以前に知っているならば、出願時に宣誓し、かつ出願日から2か月以内に証明資料を提出しなければならず、出願人が出願日以降に知った場合には、当該事情を知った後の2か月以内に新規性喪失の例外期間を要求する声明書を提出し、証明資料を添付しなければならない。なお、国務院専利行政部門(中国特許庁に相当)は必要に応じて、指定期限内での証明書類の提出を出願人に要求することができる。
条文等根拠:専利法第24条、専利法実施細則30条、専利審査指南第1部分第1章6.3.1、専利審査指南第1部分第1章6.3.2、専利審査指南第1部分第1章6.3.3
※専利法:日本における特許法、意匠法、実用新案法に相当。以下「専利法」。
※実施細則:日本における施行規則に相当。以下「実施細則」。
※審査指南:日本における審査基準に相当。以下「専利指南」。
中国専利法 第24条
専利を出願する発明創造について、出願日前6ヶ月以内に以下の状況のいずれかがあった場合、その新規性を喪失しないものとする。
(一) 中国政府が主催するまたは認める国際展示会で初めて展示された場合。
(二) 規定の学術会議、あるいは技術会議上で初めて発表された場合。
(三) 他者が出願者の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合。
中国専利法実施細則 第30条
専利法第二十四条第(一)号に言う中国政府が承認した国際博覧会とは、国際博覧会条約に定められた、博覧会国際事務局に登録したあるいはそれに認められた国際博覧会を指す。
専利法第二十四条第(二)号に言う学術会議または技術会議とは、国務院の関係主管部門または全国的な学術団体が組織開催する学術会議または技術会議を指す。
専利を出願する発明創造に専利法第二十四条第(一)号または第(二)号に挙げた事情がある場合、出願人は専利出願の提出時に声明し、かつ出願日より起算して2ヶ月以内に、国際博覧会または学術会議、技術会議の主催者が発行した、関係発明創造が既に展示されまたは発表された事実、並びに展示または発表の期日を証明する書類を提出しなければならない。
専利を出願する発明創造に専利法第二十四条第(三)号に挙げた事情がある場合、国務院専利行政部門は必要に応じて、指定期限内での証明書類の提出を出願人に要求することが出来る。
出願人が本条第3項の規定に基づいて声明と証明書類を提出せず、あるいは本条第4項の規定に基づいて指定期限内に証明書類を提出しなかった場合、その出願は専利法第二十四条の規定を適用しない。
専利審査指南第1部分第1章6.3.1 中国政府が主催し又は承認した国際展覧会における初めての展示
中国政府が主催する国際展覧会は、国務院・各部委員会が主催するもの、又は国務院が許可し、その他の機構或いは地方政府が開催する国際展覧会を含む。中国政府が承認する国際展覧会とは、国際展覧会条約に規定されたもので、国際展覧局で登録又は認可された国際展覧会を指す。国際展覧会というのは、出展される展示品は主催国の製品のほか、外国からの製品も展示されなければならない。
専利出願に係わる発明創造は、出願日以前の6ヶ月以内に、中国政府が主催し又は承認した国際展覧会で初めて展示されており、出願人は新規性を喪失しない猶予期間を要求する場合、出願時に願書で声明し、かつ出願日より2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならない。
国際展覧会の証明資料は展覧会の主催機構が発行するものでなければならない。証明資料に、展覧会の出展日、場所、展覧会の名称及び当該発明創造が展示された出展日時、形式と内容を記載して、公印を捺印しなければならない。
専利審査指南第1部分第1章6.3.2 認可された学術会議又は技術会議で初めて発表
認可された学術会議又は技術会議とは、国務院の関連主管部門又は全国的な学術団体組織が開催する学術会議又は技術会議を指し、省以下、又は国務院の各部委員会若しくは全国的な学術団体から委任を受けて、或いはその名義により召集して開催する学術会議又は技術会議を含まない。後者で言う会議での公開は、新規性の喪失につながるが、これらの会議そのものに守秘の約束がある場合は除く。
専利出願する発明創造が出願日以前の6ヶ月以内に認可された学術会議又は技術会議で初めて発表されており、出願人は新規性を喪失しない猶予期間を要求する場合、出願時に願書で声明し、かつ出願日より2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならない。
学術会議及び技術会議の証明資料は国務院の関連主管部門又は会議を組織する全国的な学術団体が発行するものでなければならない。証明資料には会議の開催日、場所、会議の名称及び当該発明創造の発表日、形式と内容を明記し、公印を捺印しなければならない。
専利審査指南第1部分第1章6.3.2 他人が出願人の許可を得ずに当該内容を漏らした場合
他人は出願人の許可を得ずに、当該内容を漏らしたことにより公開されたこと
は、他人が明示又は黙認された守秘の約束を守らずに発明創造の内容を公開すること、他人が威嚇、詐欺又はスパイ活動などの手段により発明者、或いは出願人から発明創造の内容を得ることによって発明創造を公開することを含む。
専利を出願する発明創造について、出願日以前の6ヶ月以内に、他人が出願人の許可を得ずに当該内容を漏らしたことを、出願人が出願日以前に知っているならば、専利出願時に願書で声明し、出願日より2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならない。出願人が出願日以降に知っている場合は、当該事情を知った後の2ヶ月以内に新規性を喪失しない猶予期間を要求する声明を提出し、証明資料を添付しなければならない。審査官は必要であると判断した際に、指定された期限以内に証明資料を提出するよう、出願人に要求して良いとする。
出願人が提出する他人による出願内容の漏洩に関する証明資料には、漏洩日、漏洩方法、漏洩内容を記載し、証明人が署名又は捺印しなければならない。
出願人は新規性を喪失しない猶予期間を要求しているが、規定事項に合致しない場合、審査官は、新規性を喪失しない猶予期間を求めていないとみなす通知書を発行しなければならない。
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日本と中国における意匠の新規性喪失の例外に関する比較
ロシアにおける特許新規性喪失の例外
ロシアにおける特許の新規性喪失の例外に関して、ロシア特許制度では、特許出願前に発明の開示が行われた場合について、その発明の開示が新規性喪失の例外と認められる猶予期間が定められている。
すなわち、発明者もしくは出願人により、またはこれらの者から直接的もしくは間接的に情報を入手したあらゆる者により、発明の開示(以下、「先行開示」と言う)が行われた場合には、6か月の猶予期間が与えられる(ロシア連邦民法第IV部の第1350条(3)項、「出願の調査・審査に関する規則」の規則17)。
先行開示の例としては、学術会議、博覧会または論文発表などにおける開示が挙げられる。ここで、先行開示が意図的に行われたかどうかは問われない。
この6ヶ月の猶予期間内にロシア国内に特許出願が行われた場合、ロシアでの実体審査段階において新規性および進歩性を判断する際に、先行開示は考慮されない。ロシア国内の特許出願としては、優先権の有無を問わずロシア国内への直接出願であればよく、PCT出願も含まれる。したがって、ロシア国外の出願人は、先行開示から6か月以内にPCT出願を管轄受理官庁に行う必要がある。
ロシア特許庁に猶予期間の申請手続きを自発的に行う必要はない。ただし、審査官または第三者により先行開示の存在が指摘された場合には、出願人は、その先行開示より6ヵ月以内に特許出願を行ったことと、その先行開示が発明者もしくは出願人により、またはこれらの者から直接的もしくは間接的に情報を入手した者により行われたことを示す証拠を提出する必要がある。
ロシアにおける特許取得は、ロシア特許庁にロシア国内特許出願を行う代わりに、ユーラシア特許制度を利用して、ユーラシア特許庁にユーラシア特許出願を行うことによっても可能である。ただし、ロシアとユーラシアでは、猶予期間の判断が異なることに注意が必要である。ユーラシア特許出願の場合、優先権出願を行う前の6か月以内に先行開示が行われた場合には、新規性喪失の例外とみなされる(ユーラシア特許条約に基づく特許規則の規則3(2))。したがって、出願人は先行開示から6か月以内に優先権出願(即ち、対応するユーラシア出願の優先権主張の基礎となる出願)を行えば、十分である。この場合、猶予期間内にユーラシア出願またはPCT出願を提出する必要はない。猶予期間の申請は、ユーラシア出願時にユーラシア特許庁に提出しなければならない。
新規性喪失の例外の他の例が、ロシア連邦民法第IV部の第1385条(3)項、および「出願の調査・審査に関する規則」の規則17に明示されている。この条項に従い、先の特許出願が公開されたものの、公開日以前にその先の特許出願が放棄された、または取り下げられたとみなされた場合、この特許出願は同じ出願人の後の特許出願に対する先行技術とはみなされない。ただし、かかる後の特許出願が先の(放棄された、または取り下げられた)出願の公開日から12か月以内になされていることを条件とする。この規定は、ロシア特許庁が出願人に与えた別の種類の「猶予期間」とみなすことができる。この猶予期間は、例えば同じ出願人により提出されたが、公開日の前に放棄された、または取り下げられた特許出願に関する情報をロシア特許庁が公開してしまった場合などに利用することができる。
日本と中国における意匠の新規性喪失の例外に関する比較
日本における意匠出願の新規性喪失の例外
日本においては、新規性を喪失した意匠の救済措置として、新規性喪失の例外規定が定められている。新規性喪失の例外規定の適用要件は以下の通りである。
1 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと(第4条第1項)または
2 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと(第4条第2項)
上記いずれの場合についても、以下の要件を満たす必要がある。
(1)意匠登録を受ける権利を有する者が意匠登録出願をしていること
(2)意匠が最初に公開された日から6ヶ月以内に意匠登録出願をしていること
なお第4条第2項に記載される自己の行為に基づく新規性喪失については、さらに以下の手続が必要となる。
(3)出願時に、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出、あるいは願書にその旨を記載すること(第4条第3項)。
(4)出願の日から30日以内に、公開された意匠が新規性喪失の例外規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する「証明書」を証明書提出書とともに提出すること(第4条第3項)。
「証明書」には、意匠が公開された事実(公開日、公開場所、公開された意匠の内容等)とともに、その事実を客観的に証明するための署名等を記載することが必要である。上記要件を満たした場合、その意匠登録出願に限り、その公開意匠は公知の意匠ではないとみなされる。
条文等根拠:意匠法第4条
日本意匠法 第4条 意匠の新規性の喪失の例外
1 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号または第二号に該当するに至った意匠は、その該当するに至った日から六月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第一項および第二項の規定の適用については、同条第一項第一号または第二号に該当するに至らなかつたものとみなす。
2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号または第二号に該当するに至った意匠(発明、実用新案、意匠または商標に関する公報に掲載されたことにより同条第一項第一号または第二号に該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から六月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第一項および第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号または第二号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
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中国における意匠出願の新規性喪失の例外
出願日前に意匠出願の内容が公開された出願人に対する救済措置として、(1)中国政府が主催するまたは認める国際展示会での初めての展示、(2)規定の学術会議、あるいは技術会議上での初めての発表、(3)出願者の同意を得ない他者によるその内容の漏洩、の三つの場合、6ヶ月間の新規性喪失の例外期間が設けられている。
この規性喪失の例外期間を利用するには、(1)と(2)の場合には、出願の時に宣誓し、かつ出願日から2ヶ月以内に証明書類を提出しなければならない。また(3)の場合には、他人が出願人の許可を得ずに当該内容を漏らしたことを出願人が出願日以前に知っているならば、出願時に宣誓し、かつ出願日から2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならず、出願人が出願日以降に知った場合には、当該事情を知った後の2ヶ月以内に新規性喪失の例外期間を要求する声明書を提出し、証明資料を添付しなければならない。なお、国務院専利行政部門(中国特許庁に相当)は必要に応じて、指定期限内での証明書類の提出を出願人に要求することができる。
条文等根拠:専利法第24条、専利法実施細則30条、専利審査指南1.1.6.3.1、専利審査指南1.1.6.3.2、専利審査指南1.1.6.3.3
※専利法:日本における特許法、意匠法、実用新案法に相当。以下「専利法」。
※実施細則:日本における施行規則に相当。以下「実施細則」。
※審査指南:日本における審査基準に相当。以下「専利指南」。
中国専利法 第24条
専利を出願する発明創造について、出願日前6ヶ月以内に以下の状況のいずれかがあった場合、その新規性を喪失しないものとする。
(一)中国政府が主催するまたは認める国際展示会で初めて展示された場合。
(二)規定の学術会議、あるいは技術会議上で初めて発表された場合。
(三)他者が出願者の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合。
中国専利法実施細則 第30条
専利法第二十四条第(一)号に言う中国政府が承認した国際博覧会とは、国際博覧会条約に定められた、博覧会国際事務局に登録したあるいはそれに認められた国際博覧会を指す。
専利法第二十四条第(二)号に言う学術会議または技術会議とは、国務院の関係主管部門または全国的な学術団体が組織開催する学術会議または技術会議を指す。
専利を出願する発明創造に専利法第二十四条第(一)号または第(二)号に挙げた事情がある場合、出願人は専利出願の提出時に声明し、かつ出願日より起算して2ヶ月以内に、国際博覧会または学術会議、技術会議の主催者が発行した、関係発明創造が既に展示されまたは発表された事実、並びに展示または発表の期日を証明する書類を提出しなければならない。
専利を出願する発明創造に専利法第二十四条第(三)号に挙げた事情がある場合、国務院専利行政部門は必要に応じて、指定期限内での証明書類の提出を出願人に要求することが出来る。
出願人が本条第3項の規定に基づいて声明と証明書類を提出せず、あるいは本条第4項の規定に基づいて指定期限内に証明書類を提出しなかった場合、その出願は専利法第二十四条の規定を適用しない。
中国専利法審査指南 1.1.6.3.1
中国政府が主催する国際展覧会は、国務院・各部委員会が主催するもの、または国務院が許可し、その他の機構あるいは地方政府が開催する国際展覧会を含む。中国政府が承認する国際展覧会とは、国際展覧会条約に規定されたもので、国際展覧局で登録または認可された国際展覧会を指す。国際展覧会というのは、出展される展示品は主催国の製品のほか、外国からの製品も展示されなければならない。
意匠出願に係わる創作は、出願日以前の6ヶ月以内に、中国政府が主催しまたは承認した国際展覧会で初めて展示されており、出願人は新規性を喪失しない猶予期間を要求する場合、出願時に願書で声明し、かつ出願日より2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならない。
国際展覧会の証明資料は展覧会の主催機構が発行するものでなければならない。証明資料に、展覧会の出展日、場所、展覧会の名称および当該発明創造が展示された出展日時、形式と内容を記載して、公印を捺印しなければならない。
中国専利法審査指南 1.1.6.3.2
認可された学術会議または技術会議とは、国務院の関連主管部門または全国的な学術団体組織が開催する学術会議または技術会議を指し、省以下、または国務院の各部委員会若しくは全国的な学術団体から委任を受けて、あるいはその名義により召集して開催する学術会議または技術会議を含まない。後者で言う会議での公開は、新規性の喪失につながるが、これらの会議そのものに守秘の約束がある場合は除く。
意匠出願する創作が出願日以前の6ヶ月以内に認可された学術会議または技術会議で初めて発表されており、出願人は新規性を喪失しない猶予期間を要求する場合、出願時に願書で声明し、かつ出願日より2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならない。
学術会議および技術会議の証明資料は国務院の関連主管部門または会議を組織する全国的な学術団体が発行するものでなければならない。証明資料には会議の開催日、場所、会議の名称および当該発明創造の発表日、形式と内容を明記し、公印を捺印しなければならない。
専利法審査指南 1.1.6.3.3
他人は出願人の許可を得ずに、当該内容を漏らしたことにより公開されたことは、他人が明示または黙認された守秘の約束を守らずに発明創造の内容を公開すること、他人が威嚇、詐欺またはスパイ活動などの手段により発明者、あるいは出願人から創作の内容を得ることによって創作を公開することを含む。
意匠を出願する創作について、出願日以前の6ヶ月以内に、他人が出願人の許可を得ずに当該内容を漏らしたことを、出願人が出願日以前に知っているならば、意匠出願時に願書で声明し、出願日より2ヶ月以内に証明資料を提出しなければならない。出願人が出願日以降に知っている場合は、当該事情を知った後の2ヶ月以内に新規性を喪失しない猶予期間を要求する声明を提出し、証明資料を添付しなければならない。審査官は必要であると判断した際に、指定された期限以内に証明資料を提出するよう、出願人に要求して良いとする。
出願人が提出する他人による出願内容の漏洩に関する証明資料には、漏洩日、漏洩方法、漏洩内容を記載し、証明人が署名または捺印しなければならない。
出願人は新規性を喪失しない猶予期間を要求しているが、規定事項に合致しない場合、審査官は、新規性を喪失しない猶予期間を求めていないとみなす通知書を発行しなければならない。
日本と中国における意匠の新規性喪失の例外に関する比較
日本 | 中国 | |
新規性喪失の例外の有無 | 有 | 有 |
公知行為の限定の有無 | 無 | 有
(1)中国政府が主催するまたは認める国際展示会での初めての展示(2)規定の学術会議、あるいは技術会議上での初めての発表 |
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新興国等知財情報データバンク 調査対象国、地域における意匠の新規性喪失の例外については、下記のとおりである。
意匠の新規性喪失の例外に関する各国比較