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インドにおける特許新規性喪失の例外

1. 新規性喪失の例外の類型
 インド特許法(以下「特許法」という。)第VI章の第29条から第33条において、先に開示または公表された発明が、後の発明の新規性を喪失させることはない様々な新規性喪失例外の類型が規定されている。

1-1. 先行開示による新規性喪失
(1) 意に反する開示
 発明の特許権者または出願人(以下「特許権者/出願人」と表記する。)が、次の(i)から(iii)を証明する場合には、先行開示によりその発明の新規性は喪失しない(特許法29条(2)(a),(b))。

(i) 先行開示された内容が、特許権者/出願人またはこれらの者が真正かつ最初の発明者でない場合は、正当な権限を有する前権利者から入手されたものであること。
(ii) この内容が、特許権者/出願人またはその前権利者の同意を得ずに開示されていること。
(iii) 特許権者/出願人が、このような自己の発明の開示を知った後、可能な限り速やかに特許出願を提出したこと。

 ただし、適切な試験目的以外の目的で、特許権者/出願人の発明が、その優先日より前に、特許権者/出願人もしくはその前権利者により、または特許権者/出願人もしくはその前権利者の同意を得た他の者により、インドにおいて商業的に実施された場合には、この規定に基づく恩恵は適用されない。

(2) 権利に違反して提出された出願
 正当な出願人の同意を得ずに違反して提出された特許出願の出願人によって、あるいは違反して提出された特許出願の出願人による発明の開示の結果として第三者によって、開示または実施されたという事実によっては、後の正当な権限を有する者による特許出願の新規性が喪失することはない(特許法第29条(3))。

 「(1) 意に反する開示(特許法29条(2)(a),(b))」が正当な出願人による特許出願よりも前の、他人の意に反する「開示」を対象としているのに対して、「(2) 権利に違反して提出された出願(特許法第29条(3))」は、不正な出願人による「特許出願」やそのような「特許出願」の結果による第三者の実施、開示を対象としている。

1-2. 政府への先行伝達による新規性喪失
 発明の内容またはその価値に関する調査のために、政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達は、その発明の新規性には影響を及ぼさない(特許法第30条)。
 なお、政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達から、その発明の特許出願の提出までの期限は特に定められていない。

1-3. 公共の展示などによる新規性喪失
 一定の条件に基づき、博覧会または学会における真正かつ最初の発明者またはその者から権限を取得した者による発明の展示、実施または開示の日から12か月以内にその発明の特許出願をする場合には、このような展示、実施または開示によっては、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条)。詳しい説明を以下に示す。

(1) 真正かつ最初の発明者またはその者から権原を取得した者の同意を得て発明が、展覧会で展示される場合、中央政府が官報における告示により特許法第31条の恩恵を適用した展覧会に限り、このような展覧会のための発明の実施および開示に対して、この例外が適用される(特許法第31条(a))。また、博覧会における発明の展示または実施の結果としての発明の説明の公開によっても、新規性は喪失しない(特許法第31条(b))。

(2) (1)の博覧会において展示もしくは実施された後、あるいは博覧会の期間中に、真正かつ最初の発明者またはその者から権原を取得した者による同意を得ないで何人かが行う発明の実施によっても、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条(c))。

(3) 学会において発表された論文における、真正かつ最初の発明者による発明の記載、または真正かつ最初の発明者の同意を得て学会の会報においてなされた論文の公表は、たとえかかる行為の後に特許出願が提出されたとしても、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条(d))。
 なお、学会における発表は、真正かつ最初の発明者による場合だけであって、真正かつ最初の発明者の同意を得た者による発表ではないことに注意すべきである。ただし、学会の会報における論文の公表は、真正かつ最初の発明者の同意を得た者による行為であってもよい。

1-4. 公然実施による新規性喪失
 発明がその優先日前の12か月以内にインドにおいて公然実施されたが、そのような実施が適切な試験のためだけに行われ、その発明の内容に照らしてその試験が合理的に必要であった場合には、そのような実施は発明の新規性を喪失させない。ただし、かかる公然実施は、出願人/特許権者自身により、または出願人から必要な同意を得た第三者により行われなければならない(特許法第32条)。

1-5. 仮明細書の提出後における実施または開示による新規性喪失
 仮明細書に従い提出された完全明細書は、仮明細書に開示された発明が仮明細書の提出日の後にインドその他の場所において開示または実施された場合には、新規性を喪失しない(特許法第33条(1))。同様の規定が、仮明細書の優先権を主張するPCT出願にも適用される(特許法第33条(2))。

2. 新規性喪失の例外の適用を受けるための手続
 新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには、審査報告書における拒絶や第三者からの無効化手続において引例による新規性の欠如が指摘された段階で、それに対する反論として新規性喪失の例外規定に該当することを主張することが可能である。なお、特許出願の審査において、特許法第29条から第33条までの規定により新規性を喪失させるものとはみなされない先行技術が、審査報告書において当該発明の新規性を喪失させるものとして引用されたときに、新規性を喪失しないという立証責任は出願人にある(インド特許庁実務及び手続マニュアル09.03.02 10.)。

 2024年3月15日施行のインド特許規則の改正によって第29Aが新設され、特許法第31条に規定された猶予期間(上記1-3項記載の展覧会での展示等)を利用するためには、申請様式31により所定の手数料と合わせて申請することが規定された。

《参考》申請様式31

申請様式31
1970年特許法および2003年特許規則
猶予期間(GRACE PERIOD)
(法第31条および規則第29A)
1. 氏名、住所、国籍、出願番号私/私たち、出願人…………は、…………に提出された出願番号………に関して、第31条に規定された猶予期間の利益を主張する。
2. 適用条文

□ 第31条(a)
□ 第31条(b)
□ 第31条(c) 
□ 第31条(d)
3. 証拠として提出する書類 注: 証拠には宣誓供述書も含まれる場合がある


(i)第31条(a)a) 最初に展示または実施された日付(枠内に日/月/年の形式で記入)
b) 展示は、真正かつ最初の発明者またはその者から権利を得た者の同意を得て行われたか(YESまたはNOを選択)
c) 当該展示は、中央政府が官報で告示することにより本条の規定を適用した産業展示会またはその他の展示会において行われたか

以下の証拠書類を提出する。
…………………………………………
(ii)第31条(b)




a) 最初に公表または実施された日付
b) 上記第31条(a)に関する文書証拠
c) 発明の説明の公表が、第31条(b)に規定する発明の展示または実施の結果として行われたことを示す証拠書類

以下の証拠書類を提出する。
…………………………………………
(iii)第31条(c)






a) 最初に実施された日付
b) 上記の第31条(a)または第31条(b)に関する証拠書類
c) 第31条(c)に規定する発明の実施に関する証拠書類
d) 発明の実施が、真正かつ最初の発明者またはその者から権利を得た者の同意なしに行われたことを示す文書による証拠または宣誓供述書

以下の証拠書類を提出する。
…………………………………………
(iv)第31条(d)






a) 最初に記述または公表された日付
b) 真正かつ最初の発明者が学会で発表した論文における発明の記述
c) 真正かつ最初の発明者またはその同意を得た者により学会の論文集に公表された発明の記述  

以下の証拠書類を提出する。
…………………………………………
4. 保証

この発明は_年/_月/_日からパブリックドメインであり、この申請はその日(第31条(a)、第31条(b)、第31条(c)、または第31条(d)に関して上記で述べた最も早い日付である)から12か月以内に行われた。

上記の事実および事項は、私/私たちの知る限りの情報および誠意に基づいて真実である。
日付:__年__月__日
5. 出願人/権限のある代理人による署名
注:宣誓供述書がある場合は、出願人による署名


署名 ________________

特許庁特許管理官 宛

シンガポールにおける特許新規性喪失の例外

1. 背景
 シンガポールにおいて、発明が新規とみなされるのは、シンガポール特許法(以下、「特許法」という。)の第14条(2)項に定義される「技術水準」の一部を構成しない場合である。

シンガポール特許法 第14条 新規性
(1) 発明は、それが技術水準の一部を構成しない場合は、新規とみなされる。
(2) 発明の場合の技術水準とは、その発明の優先日前の何れかの時点で書面若しくは口述による説明、使用又は他の方法により(シンガポールにおいてか他所においてかを問わず)公衆の利用に供されているすべての事項(製品、方法、その何れかに関する情報又は他の何であるかを問わない)を包含するものと解する。
(3) 特許出願又は特許に係わる発明の場合の技術水準とは、次の条件が満たされるときは、その発明の優先日以後に公開された他の特許出願に含まれる事項をもまた包含するものと解する。
(a) 当該事項が当該他の特許出願に、出願時にも、公開時にも、含まれていたこと、及び
(b) 当該事項の優先日が当該発明の優先日よりも早いこと
((4)以下省略)

 一方、特許法第14条(4)項は、シンガポールにおいて発明の新規性評価の際に無視される特定の種類の開示に関して、12か月の猶予期間を規定している。この12か月の猶予期間は、優先日(該当する場合)ではなく、シンガポールにおける特許出願日から起算することに注意すべきである。

2. 新規性評価から除外される開示
2-1. 不法な開示または秘密漏洩による開示
 特許法第14条(4)項(a)および(b)は、あらゆる者によるあらゆる不法または不正な開示は新規性評価から除外されると規定している。日本の特許法に基づく要件と同様に、この例外規定に依拠するには、開示が不法または不正なものであった(即ち、不法な方法もしくは秘密漏洩により情報が入手された、または秘密漏洩により情報が開示された)という証拠を示す必要がある。シンガポールの法律は出願の提出後すぐにかかる証拠を提出することを義務づけていないが、IPOS(Intellectual Property Office of Singapore)は、先行開示が実際に不法または不正なものであったと納得できるように(宣誓供述書その他の証拠に基づく)証明を要求する場合がある。したがって、発明者または出願人は、発明に関する情報または文書に「秘密」の表示が確実に付されるように手段を講じることが望ましい。さらに重要な点として、かかる情報または文書(秘密情報)が限定された目的のためだけに提供されるものであって、他の目的への当該秘密情報の使用は不正使用となることを、当該秘密情報の受領者に確実に認識させるための手段を講じるべきである。

2-2. 国際博覧会での開示
 特許法第14条(4)項(c)において、国際博覧会で発明者により行われたあらゆる開示は新規性評価の際に無視されると規定されている。「国際博覧会」の範囲は、特許法第2条(1)項において、下記のように狭義に定義されている。

シンガポール特許法 第2条 定義
(1) 本法では、文脈上他に要求されない限り、
(途中省略)「国際博覧会」とは、国際博覧会に関する条約の規定に該当するか又は同条約に代わるその後の条約の規定に該当する公式又は公認の国際博覧会をいう。
(以下省略)

 実際問題として、この例外規定に依拠するのは難しい。なぜなら、「国際博覧会」の狭義の定義に該当する博覧会は、極めて少ないためである。博覧会国際事務局のウェブサイト(https://www.bie-paris.org/site/en)において、「国際博覧会」として指定された博覧会には「万国博覧会」、「専門博覧会」、「園芸博覧会」、「ミラノ・トリエンナーレ装飾芸術・近代建築展」の4種類があり全博覧会が掲載されている。

 この例外規定を利用するには、2017年10月の法改正以前は、シンガポール出願の提出時にIPOSに対し手続が必要であったが、現在は、事後の届出で足りることとなった(シンガポール特許出願審査ガイドライン(以下、「ガイドライン」という。)第3章3.113)。出願人は、出願にかかる発明が国際博覧会において開示された旨を述べるとともに、国際博覧会の開会日、開会日が最初の開示を行った日と異なる場合には最初の開示を行った日の特定、そして発明が国際博覧会で展示されたことを示す1件以上の証拠を添付する必要がある(シンガポール特許規則(以下、「特許規則」)という。)8(1)(b))。

2-3. 学会発表における開示
 特許法第14条(4)項(d)において、学会(learned society)において、書面による発明に関する解説が発明者により発表された場合、もしくは発明者の同意の下または発明者の代理として他人が発表した場合は、新規性評価の際に無視されると規定されている。特許法の解釈上、「学会」とは次のものを含む。

シンガポール特許出願審査ガイドライン 第3章 3.126
「学会」には、シンガポールまたは他のあらゆる場所で設立されたあらゆる会員制組織または団体であって、その主な目的がいずれかの学問または科学技術の振興であるものが含まれる。
(以下省略)

 さらに、具体的な規定がガイドライン第3章3.126-3.128項に設けられており、一部を抜粋すると「例として政府の部局、大学の部門、または企業の開催する会議は学会に該当しない。その一方、the Royal Society of Chemistry(英国王立化学会)やIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers、米国電気電子学会)の開催する会議は一般的に学会と判断される。」と規定されている。

2-4. 発明者により行われた開示、または発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行うあらゆる開示

 2017年10月の法改正により、特許法第14条(4)項(e)において、発明者により行われた開示、または発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行うあらゆる開示について、特許法第14条(6)項および(7)項に該当する場合、新規性喪失の例外規定の適用とする旨、規定されている。

 特許法第14条(6)項および(7)項においては、例外規定の適用を受けられる知的財産行政庁による公開類型を規定している。

例えば、
①発明者の同意を得ずに、発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行った出願が公開になった場合
②出願公開前に取下げ、拒絶、放棄になり、シンガポールまたはそれ以外の法律に基づき公開の必要がないにも拘らず、出願が誤って公開になった場合
③シンガポールまたはそれ以外の法律に基づき誤って所定の公開・公告時期よりも早く開示された場合。その場合、所定の公開・公告時期に開示されたものとして取り扱う。

 上記②、③の場合であって海外の知的財産行政庁が関わる場合には、誤って公開になったことの確認、および上記③の場合には所定の公開・公告時期に関する情報を含む、海外の知的財産行政庁による確認書面を提出する必要がある(特許規則8(1)(c))。

 特許法第14条(4)項(e)は、発明者自身による開示行為、および発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行う開示行為を包括的に例外規定の適用対象としつつ、特許法第14条(6)項および(7)項において、知的財産行政庁(各国の特許庁や国際機関を含む)による公開類型に制限をかけ、例えば、出願人が自ら行った出願が出願公開になった場合に新規性喪失の例外規定の適用とならないようにしている(ガイドライン第3章3.110項)。

3. 新規性喪失の例外規定の適用手続
3-1. 適用申請の時期
 以下に示すいずれかの時期に適用申請を行うことができる(ガイドライン第3章3.113)。

①サーチ・審査請求時
②審査請求時
③サーチ・審査報告または審査報告に対する再審理(review)請求時
④審査官の指令に対する応答時

3-2. 適用申請の必要書類
 宣誓書/宣誓供述書の形式で必要な証拠を添付して適用申請を行うものとする(特許規則8(1)(a))。

4. 新規性喪失の例外規定の適用対象となる開示行為
 2017年10月の法改正点については、新規性喪失に至る開示行為が2017年10月30日以降に行われた場合に適用となる。開示行為が2017年10月30日よりも前に行われた場合には、シンガポールでの特許出願が2017年10月30日以降に行われた場合であっても、改正法に基づく新規性喪失の例外規定は適用されない(ガイドライン第3章3.120)。

【留意点】
 シンガポールでは、2017年10月の改正により、発明者により行われた開示、または発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行うあらゆる開示を包括的に対象とすべく、発明の新規性喪失の例外規定の適用範囲が拡大された。IPOSは、発明の新規性喪失の例外規定の拡大は、発明が出願に先立って公知となった場合の限定的なセーフティネットを提供するものに過ぎないとし、公知とする前に出願することを推奨していることに留意されたい。

シンガポールにおける特許新規性喪失の例外

1. 背景

シンガポールにおいて発明が新規とみなされるのは、シンガポール特許法(第221章)(以下、「特許法」)の第14条(2)項に定義される「技術水準」の一部を構成しない場合である。

「書面もしくは口頭説明により、使用により、または他のあらゆる方法により(シンガポールまたは他のいずれかの場所で)、当該発明の優先日より前のあらゆる時点において、一般に利用可能となった……全ての事項を含む」

一方、特許法第14条(4)項は、シンガポールにおいて発明の新規性評価の際に無視される特定の種類の開示に関して、12か月の猶予期間を規定している。この12か月の猶予期間は、優先日(該当する場合)ではなく、シンガポールにおける特許出願日から起算することに注意すべきである。

2. 新規性評価から除外される開示

2-1. 不法な開示または秘密漏洩による開示

特許法第14条(4)項(a)および(b)は本質的に、あらゆる者によるあらゆる不法または不正な開示は新規性評価から除外されると規定している。日本の特許法に基づく要件と同様に、この例外規定に依拠するには、開示が不法または不正なものであった(即ち、不法な方法もしくは秘密漏洩により情報が入手された、または秘密漏洩により情報が開示された)という証拠を示す必要がある。シンガポールの法律は出願の提出後すぐにかかる証拠を提出することを義務づけていないが、シンガポール知的財産庁(Intellectual Property Office of Singapore : IPOS)は先行開示が実際に不法または不正なものであったと納得できるように(宣誓供述書その他の証拠に基づく)証明を要求する場合がある。したがって、発明者または出願人は、発明に関する情報または文書に「秘密」の表示が確実に付されるように手段を講じることが望ましい。さらに重要な点として、かかる情報または文書(「秘密情報」)が限定された目的のためだけに提供されるものであって、他の目的への当該秘密情報の使用は不正使用となることを、当該秘密情報の受領者に確実に認識させるための手段を講じるべきである。

2-2. 国際博覧会での開示

特許法第14条(4)項(c)において、国際博覧会で発明者により行われたあらゆる開示は新規性評価の際に無視されると規定されている。「国際博覧会」の範囲は、特許法第2条(1)項において、下記のように狭義に定義されている。

「国際博覧会条約の条件に該当する、または当該条約の後続条約もしくは代替条約の条件に該当する、公式または公認の国際博覧会」

実際問題として、この例外規定に依拠するのは難しい。なぜなら「国際博覧会」の狭義の定義に該当する博覧会は極めて少ないためである。博覧会国際事務局のウェブサイト(https://www.bie-paris.org/site/en)において、「国際博覧会」として指定された博覧会のリストが掲載されている。

この例外規定を利用するには、2017年10月の法改正以前は、シンガポール出願の提出時にIPOSに対し手続が必要であったが、現在は、事後の届出で足りることとなった(特許出願審査ガイドライン第3.96(5C)項)。出願人は、出願にかかる発明が国際博覧会において開示された旨を述べるとともに、国際博覧会の開会日、開会日が最初の開示を行った日と異なる場合には最初の開示を行った日の特定、そして発明が国際博覧会で展示されたことを示す1件以上の証拠を添付する必要がある(特許規則8(1)(b))。

2-3. 学会発表における開示

特許法第14条(4)項(d)において、学会(learned society)において、書面による発明に関する解説が発明者により発表された場合、若しくは発明者の同意の下または発明者の代理として他人が発表した場合は、新規性評価の際に無視されると規定されている。特許法の解釈上、「学会」とは次のものを含む:

「シンガポールまたは他のあらゆる場所で設立されたあらゆる会員制組織または団体であって、その主な目的がいずれかの学問または科学技術の振興であるもの」(特許出願審査ガイドライン第3.96(5)項)

更に具体的な規定が特許出願審査ガイドライン第3.111-3.113項に設けられており、一部を抜粋すると「例として政府の部局、大学の部門、または企業の開催する会議は学会に該当しない。その一方、the Royal Society of Chemistry(英国王立化学会)やIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers、米国電気電子学会)は一般的に学会と判断される。」と規定されている。

2-4. 発明者により行われた開示、または発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行うあらゆる開示

2017年10月の法改正により、特許法第14条(4)項(e)において、発明者により行われた開示、または発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行うあらゆる開示について、特許法第14条(5A)項および(5B)項に該当する場合、新規性喪失の例外規定の適用とする旨、規定されている。

特許法第14条(5A)項および(5B)項においては、例外規定の適用を受けられる知的財産行政庁による公開類型を限定している。

①発明者の同意を得ずに、発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行った出願が公開になった場合

②出願公開前に取下げ、拒絶、放棄になり、シンガポールまたはそれ以外の法律に基づき公開の必要がないにも拘らず、出願が誤って公開になった場合

③シンガポールまたはそれ以外の法律に基づき誤って所定の公開・公告時期よりも早く開示された場合。その場合、所定の公開・公告時期に開示されたものとして取り扱う。

上記②、③の場合であって海外の知的財産行政庁が関わる場合には、誤って公開になったことの確認、および、上記③の場合には所定の公開・公告時期に関する情報を含む、海外の知的財産行政庁による確認書面を提出する必要がある(特許規則8(1)(c))。

特許法第14条(4)項(e)は発明者自身による開示行為、発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行う開示行為を包括的に例外規定の適用対象としつつ、特許法第14条(5A)項および(5B)項において知的財産行政庁(各国の特許庁や国際機関を含む)による公開類型に制限をかけ、例えば出願人が自ら行った出願が出願公開になった場合に新規性喪失の例外規定の適用とならないようにしている(特許出願審査ガイドライン第3.105項)。

3. 新規性喪失の例外規定の適用手続

(1)適用申請の時期(特許出願審査ガイドライン第3.96(5C), 3.99項)

以下に示すいずれかの時期に適用申請を行うことができる。

①サーチ・審査請求時

②審査請求時

③サーチ・審査報告または審査報告に対する再審理(review)請求時

④審査官の指令に対する応答時

(2)適用申請の必要書類

宣誓書/宣誓供述書の形式で必要な証拠を添付して適用申請を行うものとする(特許規則8(1)(a))。

4. 新規性喪失の例外規定の適用対象となる開示行為

2017年10月の法改正点については、新規性喪失に至る開示行為が2017年10月30日以降に行われた場合に適用となる。開示行為が2017年10月30日よりも前に行われた場合には、シンガポールでの特許出願が2017年10月30日以降に行われた場合であっても、改正法に基づく新規性喪失の例外規定は適用にならない(特許方式審査マニュアル(2018年11月版)6.1.22)。

【留意点】

シンガポールでは、2017年10月の改正により、発明者により行われた開示、または発明者から直接的または間接的に発明の主題を知った者が行うあらゆる開示を包括的に対象とすべく、発明の新規性喪失の例外規定の適用範囲が拡大された。シンガポール知的財産庁(IPOS)は、発明の新規性喪失の例外規定の拡大は、発明が出願に先立って公知となった場合の限定的なセーフティネットを提供するものに過ぎないとし、公知とする前に出願することを推奨していることに留意されたい。

シンガポールにおける特許新規性喪失の例外

1. 背景

シンガポールにおいて発明が新規とみなされるのは、シンガポール特許法(第221章)(以下、「特許法」)の第14条(2)項に下記のように定義されている「技術水準」の一部を構成しない場合である。

「書面もしくは口頭説明により、使用により、または他のあらゆる方法により(シンガポールまたは他のいずれかの場所で)、当該発明の優先日より前のあらゆる時点において、一般に利用可能となった……全ての事項を含む」

一方、特許法第14条(4)項は、シンガポールにおいて発明の新規性評価の際に無視される特定の種類の開示に関して、12か月の猶予期間を規定している。この12か月の猶予期間は、優先日(該当する場合)ではなく、シンガポール特許出願の提出日から遡及することに注意すべきである。

2. 新規性評価から除外される開示

2-1. 不法な開示または秘密漏洩による開示

特許法第14条(4)項(a)および(b)は本質的に、あらゆる者によるあらゆる不法または不正な開示は新規性評価から除外されると規定している。日本の特許法に基づく要件と同様に、この例外規定に依拠するには、開示が不法または不正なものであった(即ち、不法な方法もしくは秘密漏洩により情報が入手された、または秘密漏洩により情報が開示された)という証拠を示す必要がある。シンガポールの法律は(日本の特許法の要件とは異なり)出願の提出後すぐにかかる証拠を提出することを義務づけていないが、シンガポール知的財産庁(Intellectual Property Office of Singapore : IPOS)は先行開示が実際に不法または不正なものであったと納得できるように(宣誓供述書その他の証拠に基づく)証明を要求する場合がある。したがって、発明者または出願人は、発明に関する情報または文書に「秘密」の表示が確実に付されるように手段を講じることが望ましい。さらに重要な点として、かかる情報または文書(「秘密情報」)が限定された目的のためだけに提供されるものであって、他の目的への当該秘密情報の使用は不正使用となることを、当該秘密情報の受領者に確実に認識させるための手段を講じるべきである。

2-2. 国際博覧会での開示

特許法第14条(4)項(c)において、国際博覧会で発明者または出願人により行われたあらゆる開示は新規性評価の際に無視されると規定されている。「国際博覧会」の範囲は、特許法第2条(1)項において、下記のように狭義に定義されている。

 

「国際博覧会条約の条件に該当する、または当該条約の後続条約もしくは代替条約の条件に該当する、公式または公認の国際博覧会」

この例外規定を利用するには、シンガポール出願の提出時にIPOSに対し、当該発明が国際博覧会において先行開示されたことを届け出る必要がある。その後、かかる先行開示の裏づけ証拠書類をIPOSに提出しなければならない。実際問題として、この例外規定に依拠するのは難しい。なぜなら「国際博覧会」の狭義の定義に該当する博覧会は極めて少ないためである。博覧会国際事務局のウェブサイト(http://www.bie-paris.org/site/en)において、「国際博覧会」として指定された博覧会のリストが掲載されている。

2-3. 学会で発明について説明する発明者による開示、またはその結果として行われた開示

特許法第14条(4)項(d)において、学会で発明者により行われたあらゆる開示、または発明者の同意を得て行われたあらゆる開示は、新規性評価の際に無視されると規定されている。特許法の解釈上、「学会」とは次のものを含む:

「シンガポールまたは他のあらゆる場所で設立されたあらゆる会員制組織または団体であって、その主な目的がいずれかの学問または科学技術の振興であるもの」

「学会」という用語は特許法において幅広く定義されているものの、IPOSの特許出願審査ガイドライン(2016年5月版)(第3章、第N節、i項の3.77)に従い、IPOSは「学会」とみなされるものを判断する際は慎重な態度を取るだろう。この例外規定に依拠するには、かかる開示が行われた会員制組織または団体が確かに「学会」であると、IPOSを納得させる必要がある。IPOSは、先行開示が確かに「学会」で行われたと納得できるように(宣誓供述書その他の証拠に基づく)証明を要求する場合がある。この例外規定を利用する際、IPOSから要求された場合に証明を提出すれば良い。シンガポール出願の提出時にIPOSに対し当該発明が学会において先行開示されたことを届け出る必要はない。

  1. 結論

シンガポールにおいて発明の新規性評価の際に無視される開示の特定の種類は、日本の特許法に規定されているものと比べて、かなり限定されている。それゆえ、シンガポールは12か月という長い猶予期間(日本の場合は6か月)を規定しているものの、シンガポールにおける例外要件を満たすことが困難な場合もある。しかし、今後はこれらの要件が緩和される見通しである。シンガポール政府は2017年2月現在、12か月の猶予期間内に行われた(直接的か間接的かを問わず)発明者自身によるあらゆる一般開示を新規性評価の際に無視できるようにするため、特許法の改正案を検討中である。

インドにおける特許新規性喪失の例外

 インド特許法第VI章の第29条から第33条において、別途に開示または公表された発明が後の発明の新規性を喪失させないとみなされる様々な例外が規定されている。新規性喪失の例外規定の適用を受けるために特別な申請は不要であり、指令書における拒絶や第三者からの無効化手続において引例による新規性の欠如を指摘された段階で、それに対する反論として新規性喪失の例外規定に該当することを主張可能である。

 

1. 先行開示による新規性喪失(第29条)

不正な入手に基づく開示発明の特許権者または出願人(以下、特許権者/出願人)が、次のことを証明する場合には、当該発明は先行開示により新規性を喪失していないとみなされる。

 

(a)先行開示された内容が、特許権者/出願人またはその前権利者から入手されたものであって、(b)かかる内容が、特許権者/出願人またはその前権利者の同意を得ずに開示されており、さらに(c)特許権者/出願人が、かかる自己の発明の開示を知った後直ちに、実行可能な範囲で速やかに特許出願を提出したこと。

制限:この規定に基づく恩恵は、特許権者/出願人の発明がその優先日より前に、特許権者/出願人もしくはその前権利者により、または特許権者/出願人もしくはその前権利者の同意を得た他の者により、インドにおいて商業的に実施された場合には、適用されない。

 

権利に違反して提出された出願別の特許出願の出願人の権利に違反して提出された特許出願、または当該違反して提出された特許出願の出願後に正当な出願人の同意を得ずに、その特許出願がカバーする発明が当該違反して提出された特許出願の出願人によってあるいは当該違反して提出された特許出願の出願人による発明の開示の結果として第三者によって開示または使用されたという事実によって、後の特許出願の新規性が喪失したとみなすことはできない。(前項が正当な出願人による特許出願よりも前の不正な入手に基づく他人の「開示」を対象としているのに対して、本項では、不正な出願人による「特許出願」やそのような「特許出願」が提出された後の不正な実施、開示を対象としている。)

 

2. 政府への先行伝達による新規性喪失(第30条)

 発明内容またはその価値に関する調査中に、政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達は、当該発明の新規性には影響を及ぼさないとみなされる。政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達から、当該発明の特許出願の提出までの期限は特に定められていない。

 

3. 一般展示などによる新規性喪失(第31条)

 一定の条件に基づき、出願人が自己の発明の展示、使用または開示の日から12か月以内に当該発明の特許出願を提出する場合には、当該発明はかかる展示、使用または開示により新規性を喪失していないとみなされる。詳しい説明を下記に示す。

 

(1)発明が展覧会で展示される場合、中央政府が官報における告示により第31条の恩恵を適用した展覧会に限り、かかる展覧会のための当該発明の使用および開示に対して、この例外が適用される。

 

(2)学会において発表された論文における、真正かつ最初の発明者による発明の記載、または学会の会報における当該論文の公表は、たとえかかる行為の後に特許出願が提出されたとしても、当該発明の新規性を喪失させないとみなされる。重要な点として、このカテゴリーに基づき例外適用の資格を与えられるのは、真正かつ最初の発明者による学会における発明の発表だけであって、真正かつ最初の発明者の同意を得た者による発表ではないことに注意すべきである。また、「学会」という用語はインド特許法において定義されていないものの、この規定は、全ての専門出版物、刊行物および雑誌が例外適用の資格を与えられるわけではないことを示唆している。

 

4. 公然実施による新規性喪失(第32条)

 発明がその優先日前の12か月以内にインドにおいて公然実施されたが、かかる実施が適切な試験のためだけに行われ、当該発明の内容に照らしてその試験が合理的に必要であった場合には、かかる実施は当該発明の新規性を喪失させないとみなされる。ただし、かかる公然実施は、出願人/特許権者自身により、または出願人から必要な同意を得た第三者により行われなければならない。

 

5. 仮明細書の提出後における使用または開示による新規性喪失(第33条)

 仮明細書に従い提出された完全明細書は、仮明細書に開示された発明が仮明細書の提出日の後にインドその他の場所において開示または使用された場合には、新規性を喪失しないとみなされる。同様の規定が、仮明細書の優先権を主張するPCT出願にも適用される。