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カンボジアにおける意匠登録の要件および手続

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中国における意匠出願制度概要

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意匠の出願手続フローチャート図

 

(1)出願手続

(i)出願

出願書類は、出願書、意匠の図面又は写真、意匠の簡単な説明書等(専利法第27条。専利法実施細則第27条・同第28条。以下単に「細則」とする)。

すべての書類は中国語で提出する必要があり、中国語でない場合は不受理となる(細則第3条・同第39条)。外国語出願制度はない。

パリ条約を利用した優先権主張は、第一国への出願から6か月以内にしなければならない(専利法第29条)。

なお、日本と異なり部分意匠制度や秘密意匠制度はない。

 

(ii)方式審査(中国語「初步审查(初歩審査)」)

願書や添付書類などが所定の方式に適合しているか否か、および、明らかに不登録事由に該当するか否かの審査が行われ、必要に応じ、指定期限内に意見の陳述または補正をするよう通知される(専利法第40条、細則第44条)。

新規性、先行する他人の権利と抵触するか否かの実体審査は行われず(登録後の無効請求により対応される)、出願公開制度、審査請求制度もない。

意匠出願が拒絶された場合には、出願人は拒絶査定の通知の日から3か月以内に審判部(中国語「专利复审委员会(専利復審委員会)」)に対して審判(中国語「复审(復審)」)を請求することが出来る(専利法第41条)。

 

(iii)登録・公告

審査の結果、出願を却下する理由が存在しない場合には権利付与決定の後、意匠権(中国語「外观设计专利权(外観設計専利権)」)が付与され、その旨が公告される。意匠権は公告日から有効となる(専利法第40条)。

意匠の登録手続を行う際には、登録料、公告印刷料及び特許付与年の年金を納付しなければならない(細則第97条)。

意匠権の存続期間は、出願日から10年(専利法第42条)。なお、出願日は初日に算入する(審査指南第五部分第九章2.1)。

 

(2)類似意匠(中国語「相似外观设计(相似外観設計)」)・組物意匠

原則として一出願一意匠であるが、同一製品における二つ以上の類似意匠、あるいは同一種類でかつセットで販売又は使用する製品の二つ以上の意匠は、一件の出願として提出することができる(専利法第31条、細則第35条)。なお、一件の意匠出願で最大10の類似意匠を出願できる(細則第35条)。

組物(中国語「成套产品」)の意匠の有効性については、場合に応じ、組物としての対比又は個々の構成物品としての対比により判断される(審査指南第四部分第五章5.2.1、同5.2.5.1)。

 

(3) GUI外観設計

国家知識産権局は2014年5月1日施行の「特許審査指南」において、通電後のGUI(グラフィカルユーザインターフェース)表示に該当する製品を意匠の保護範囲に取り入れた。

また、2019年4月4日の「審査指南改正草案」において、GUIに関する記載要件(GUI外観設計の製品名称や簡単な説明の記載要件、意匠の図面または写真の提出に関して)を明確にする案が提出されている。(審査指南改正草案第一部分第三章4.2~4.4)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/opinion/20190404_1.pdf

 

(4)自発補正

出願人は、出願日より2か月以内に、意匠出願を自発的に補正(中国語「修改」)することができる。書類の補正は、元の画像又は写真で表示した範囲を超えてはならない(専利法第33条、細則第51条)。

 

(5)評価報告書

意匠権の付与決定が公告された後に、意匠権者及び利害関係者は侵害訴訟における証拠となる意匠権の評価報告書(中国語「专利权评价报告(専利評価報告)」)の作成を中国特許庁に請求することができる(専利法第61条、細則第56条)。

利害関係者とは、裁判所に侵害訴訟を提起する権利を有する原告、例えば、意匠権、専用実施権者、及び意匠者から契約等により訴権を取得した通常実施権者をいう。

 

シンガポールにおける意匠登録の機能性および視認性

1.背景

 

 シンガポールにおいて、意匠法第2条(1)項は「意匠」という用語について、工業的方法により物品に応用される形状、形態、模様または装飾の特徴であると定義している。原則、物品の形状、形態、模様または装飾の特徴は、登録意匠の対象となり得る。しかし、この原則にはいくつかの例外が存在する。本書では、物品の機能によってのみ定まる意匠の登録を禁じる規定について考察する。また、視認不能な意匠の登録可能性についても考察する。

 

2.機能性

 

 意匠法に基づく「意匠」の定義は、物品が果たすべき機能によってのみ定まる物品の形状または形態の特徴を明示的に除外している。このような特徴は、意匠法の規定により登録できない。本書では、このような除外を「機能的意匠の除外」と呼ぶ。

 

 機能的意匠の除外の目的は、登録意匠制度を利用して技術的解決策に対する独占権を取得できないようにすることにある。技術的解決策は、意匠法ではなく、特許法によって保護されるべきである。

 

 シンガポールにおける意匠出願は、方式審査のみを受ける。方式審査において登録官は、出願書類を一見して登録可能な意匠ではない場合には、意匠出願を拒絶する権限を意匠法により与えられている。一方、実体審査は行われないことから、意匠が登録基準を満たしているかどうかについては判断されない。つまり、機能によって定まる特性を有する意匠を出願した場合であっても、出願人はかかる意匠の登録を正式に受けることができる。このような意匠登録に対しては、有効性について異議を唱えることができるため、権利行使の場面において問題が生じる可能性がある。

 

 シンガポールにおける機能的意匠の除外の範囲は、Hunter Manufacturing Pte Ltd and another v. Soundtex Switchgear & Engineering Pte Ltd and another appeal [1993] 3 SLR(R) 1108において説明されている。この事件は、シンガポールの公営集合住宅ビルの廊下の壁に取付けられる電気メーターボックスの登録意匠に関するものであった。この電気メーターボックスは、各家庭の小型遮断器(MCB)、メインスイッチおよび電力メーターを収容するものであった。当該登録意匠の侵害について原告により訴えられた被告は、当該意匠の有効性について異議を唱えた。この上訴院の判決から、下記の原則が生まれている。

 

(a)意匠の一部の特徴が機能により決定づけられているが、他の特徴はそうではない場合、機能的意匠の除外は適用されない。機能的意匠の除外を適用するには、意匠の全ての特徴が機能により決定づけられていなければならない。上訴院は判決を下す際に、この原則を採用した英国枢密院事件のInterlego AG v. Tyco Industries Inc [1998] RPC 343を引用した。

 

(b)意匠が「機能によってのみ定まっている」かどうかは、当該意匠を創作する創作者の目的によって決まる。創作者が物品の機能を確保するためだけに意匠を選択した場合には、当該意匠は「機能によってのみ定まっている」こととなる。したがって、創作者が機能的な目的のみを念頭に置き、美的な目的などの機能以外の目的を考えなかった場合には、機能的意匠の除外が適用される。この原則は、AMP Inc v. Utilux Pty Ltd [1972] RPC 103において英国貴族院が認定したものであった。

 

(c)同じ機能を果たす他の意匠が存在する場合であっても、意匠は「機能によってのみ定まる」可能性がある。シンガポール上訴院は判決を下す際に、AMP Inc v. Utilux Pty Ltdを再び引用した。当該事件において貴族院は、同じ機能を果たすことのできる他のいかなる形状も存在しない状況であれば、形状は機能によってのみ定まるという主張を退けた。貴族院は、仮にそのような状況が「機能によってのみ定まる」ことを意味するのであれば、一つの形状しか機能しない状況を想像することは難しいため、機能的意匠の除外の範囲はほぼ消滅するだろうと述べた。

 

(d)登録意匠が侵害されているかどうかは、二段階のテストにより判断される。まず、新規性の陳述、関連する先行意匠および機能的意匠の除外を考慮して、登録意匠の本質的または重要な特徴を特定する。次に、登録意匠と被疑侵害とを比較して、第一段階で当該意匠の要部として特定された全ての特徴が被疑侵害に視覚的に組み込まれているかどうかを判断する。登録意匠は、新規な特徴か新規ではない特徴かを問わず、全ての特徴を含めた全体として考察されなければならず、比較の際にも全体として考慮されなければならない。被疑侵害意匠が、全体として考察された登録意匠と実質的に異なっている場合、侵害は存在しない。ただし、比較を実施する際に、機能によってのみ定まる特徴、形状または形態は、除外されなければならない。

 

3.視認性

 

 現行の意匠法が制定される前、シンガポールの旧意匠法は、登録意匠が完成品において視覚に訴え、視覚によってのみ判断される特徴(以下「審美性」)を備えていなければならないと定めていた。これは登録意匠に関する旧英国法に基づく要件を反映していた。

 

 審美性はもはや意匠法に基づく要件ではない。ただし、審美性の要件がないとしても、登録意匠として保護を受けるには、意匠が視認可能であることを裁判所は引き続き要求すると思われる。先に引用したHunter Manufacturing Pte Ltd and another v. Soundtex Switchgear & Engineering Pte Ltd and another appealの上訴院判決の第30項は、次のように述べている。

 

 「明らかに、制定法上の定義に基づき完成品に応用される「意匠」の本質は、視覚的に認識される特徴、すなわち物品に具体的な外観を与える形状、形態、模様または装飾の特徴で構成される。物品に応用される視覚的特徴というこの概念は、登録意匠制度の基礎をなすものであり、登録意匠制度は、機能的意匠またはアイディアおよび発明とは対比される、美的価値の保護に関するものであり、これに限定される。」

 

 物品の内部構造の意匠または小さすぎて肉眼では見えない意匠など、視認不能な意匠について明示的に取り上げているシンガポールの事件は存在しない。しかし、意匠は視覚的に認識できるものでなければならないという考えを、シンガポールの裁判所が容易に放棄するとは思えない。

 

 物品の外部から直接見えない意匠に関しては、このような意匠が登録可能であると判示した古い英国の事件が存在する。

 

・Ferrero and CSpa’s Application [1978] RPC 473: チョコレート製イースターエッグの意匠は、当該意匠の一部が卵の内部の外観で構成されており、かかる内部の外観は卵を壊すまでは見えないにも拘わらず、登録可能と判示された。

 

・KK Suwa Seikosha’s Application [1982] RPC 166:デジタル腕時計の表示盤の模様は、腕時計のスイッチを入れなければ視認可能にならないにも拘わらず、登録可能と判示された。

 

 隠れた意匠の場合、物品の使用時に視認できれば登録可能であると理解される。このような「内部の」意匠は、販売時に視認可能な物品外部の意匠と同様に、物品を購入する需要者の意思決定に影響力を及ぼす可能性がある。しかしながら、シンガポールの裁判所がこのような事件をどう取扱うかは、予断を許さない。

タイの意匠特許における機能性および視認性

1.視認性

 

 タイ国特許法(法律第3号)B.E.2542(1999)により修正されたタイ国特許法B.E.2522(1979)の第3条によれば、「意匠」とは、「製品に特別の外観を与え、工業製品および手工芸品に対する型として役立つ線または色の形態または構成」をいう。

 

 この規定は、平面的もしくは立体的な形態により視覚を通じて美的な感覚を喚起しうるものでなければならず、かつ、製造物、商品もしくは工業製品および手工芸品の製造に使用することが可能でなければならないという意匠の定義を含んでいる。そのような例としては、テレビ受像器の形状、カーペットや日よけの色等が挙げられる。ある意匠が保護適格とされるためには、登録出願日の時点で一般に利用されている意匠とは区別される独特の外観を備えていなければならない。

 

1-1.外観の保護

 

 タイ国の法には、視認できない意匠を保護するような具体的な法規は存在しない。製品の意匠が裸眼では目視しえない場合、その意匠は意匠登録には不適格とされる。登録された意匠の範囲は、出願時の願書に収載されていた意匠に基づくとともに、願書に添付された図面に基づいて画定される。

 

 意匠の範囲および登録意匠に類似する意匠については、タイ国特許庁に判断を仰ぐことができる。特許庁の判断に不服がある者は、特許法第74条に基づき、「中央知的財産・国際取引裁判所(Central Intellectual Property and International Trade Court)」(通称:IP&IT裁判所)に上訴を提起し、なおも不服がある場合には「控訴裁判所(Court of Appeals)」に上訴することがきる。

 

1-2.最高裁判所の判決(最高裁判例16702/2555号)

 

 2012年、最高裁判所は(16702/2555号の事件において)、「コップ」と題された原告の意匠は、製品の意匠の形状と外観において、意匠出願0302000881号の意匠と実質的に区別しえないとの判断を示した。問題の意匠特許訴訟の棄却は、「コップ」という意匠の主題の類似性と、後続出願の意匠に対する先行技術となる先出願の意匠に基づくものである。

 

 意匠の新規性に関係する規定は、タイ国特許法第57条に以下のように記されている。

「以下の意匠は新規と見なされず、タイ国特許庁により拒絶されることとする。」(1)出願に先立ち、本邦において他人に広く知られ、または使用されていた意匠;

(2)出願に先立ち、本邦もしくは外国において開示または記述されていた意匠;

(3)出願に先立ち公開されていた意匠;

(4)(1)、(2)または(3)の意匠と外観が酷似しているために模倣とされる意匠;

 

 上述した訴訟の場合、「コップ」は円筒形をなしていて既存の意匠と同一である。カップの上端が幅広で十字(クロス)の模様が施され、底部に鋭い凹みがあって容量がより小さくなることが予想されるのに対し、先行意匠には上端に模様がなく、底部もやや引っ込んでいる程度であるという点のみが、後続意匠を特徴づけるものである。「コップ」は先行技術に改良を加えた意匠に過ぎず、その改良は既存の意匠に対する識別性を構成しないと最高裁は判示している。2つの意匠の差異は観察者の注意を惹く部分に関わるものではなく、観察者の注意を惹く部分については、両者は類似している。両方の意匠を漠然と観察した場合、両者は視覚を通じて同じ美的感覚を生じさせると認識するのが合理的である。したがって両者は類似していると考えられ、タイ国における意匠の登録について適格性を持たないと認定される。以上の結果として、最高裁は原告の訴を棄却した。

 

 また、意匠の新規性は既存の製品によって損なわれるだけでなく、登録された意匠によっても損なわれる。タイ国において意匠登録を取得しようとする者は、1個の製品の全体的な意匠だけでなく、保護される意匠の個別の特徴および構成要素について出願を行うことができる。

 

2.機能性

 

 タイ国においては、機能的な目的に起因する特徴を含んでいる意匠、いわゆる「機能的意匠」は、発明特許もしくは意匠登録として保護されうる。発明特許が、主題が使用され、機能する方法を保護するものであるのに対し、意匠特許は、主題を見せる方法を保護するものである。言い換えれば、意匠特許の眼目は視覚的な外観であって機能性ではない。

 

 一部の国では、「機能性」はいまだに意匠特許を妨げる障害となりうる。いくつかの国の法律は、機能的な意匠に保護を与えていない。その背後にある政策は、技術的な製品もしくは方法に対する特許権を保護するために知的財産制度が弱体化するリスクを避けようというものである。タイ国においては、特許法は機能的意匠の保護について明言していない。しかしながら、タイの裁判所は機能的な製品の意匠に対する登録を否定しようと務めてきた。

 

2-1.意匠保護に関するタイ国の法

 

 タイ国特許法第56条は意匠登録に関して、意匠が登録の要件を満たすためには新規で産業利用可能なものでなければならないと規定している。さらに同法の第58条は、公序良俗に反する意匠および勅令により定められた意匠を含む一定の意匠については登録適格性から排除している。興味深いことに機能的意匠はこの適格性の規定の中で言及されていないことを指摘しておく。制定法には保護を妨げる障害は存在しないにも関わらず、一部の裁判所の判決に示されているように、機能的な特徴を備えた意匠は保護を拒絶されることがありうる。

 

2-2.最高裁判所の判決(最高裁判例16702/2555号)

 

 この訴訟の原告となったタイ企業は、足全体と脚の下の部分を包むブーツを開発した。このブーツの上の方の部分には留め金具がついていた。留め金具はチューブ状の形状をなしており、この金具を紐で結んでベルトを取り付けるようになっていた。それにより、ブーツはベルトでしっかりと装着され、着用中ずっと所定の位置を保つようになっていた。このブーツの意匠の新規な特徴について、2000年に意匠保護が求められた。タイ国知的財産局(DIP)は、当該意匠は新規性に欠けており実質的に先行技術に類似しているとの理由で、上記意匠に関する意匠特許出願を拒絶した。原告はDIPの決定を不服として、中央知的財産・国際取引裁判所(IP&IT裁判所)に上訴し、さらに最高裁への上告を行った。

 

 「意匠」とは、「製品に特別の外観を与え、工業製品および手工芸品に対する型として役立つ線または色の形態または構成」を意味すると規定した特許法第3条における「特別の外観」の解釈を示すことにより、最高裁は、意匠登録による保護される主題は視覚的外観、すなわち意匠の装飾的側面であるとの判断を示した。意匠登録は、主題の「機能性」を保護しないという点で発明特許から区別される。ブーツの調節具、すなわち留め金具は機能的なものであり、意匠特許法が要求する装飾には該当しないため、最高裁は、当該発明の主題が新規性に欠けており、かつ当該意匠はその機能性によって意匠特許に不適格なものとなっているという理由で原告の申立を棄却したIP&IT裁判所の判決を支持した。

 

2-3.評価

 

 上述した法原則および判例は、タイ国内での意匠保護を求める企業に別個の法制度の理解を促すものとなろう。意匠登録は、識別性のある視覚効果を備えた意匠を保護するものであって、機能的な特徴を備えた意匠を保護するものではない。競業者が意匠の機能的な側面を模倣するのを阻止するために、意匠登録を利用することはできない。タイの現在の意匠保護制度がタイ産業界におけるイノベーションを推進する上で妥当なものであるか否かという疑問はある。工業意匠のより広範な側面について、もっと適切な保護を導入することもできよう。新たな制度は、単純な視覚的特徴にとどまらず、機能的にイノベーティブな意匠のあらゆる形態を保護するようなものにすべきである。

フィリピンにおける機能的意匠の取扱い

1.機能性

 

 知的財産法112条は、工業意匠を次のように定義している。

「線もしくは色と関連づけられるか否かを問わず、線もしくは色から成る構図または三次元の形状である。ただし、それら構図または形状は、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、それら物品のための模様として機能することが可能なものでなければならない」

 

 施行規則(IRR)における規則1500では、上記の定義を次のように拡張している。

「工業意匠とは、形、線もしくは色と関連づけられるか否を問わず、形、線、色もしくは以上の結合から成る構図または三次元の形態であって、総体的に、または全体として見た場合に、美的かつ装飾的な効果を生じさせるものをいう。ただし、前記の構図もしくは形態は、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、それら物品のための模様として機能することが可能なものでなければならない。工業意匠には、有用もしくは実用的な技術に属する製造物または(前記製造物の一部が単独で製造販売される場合には)製造物の一部が含まれる」

 

 知的財産法の第113.1条および第113.2条は、保護の実体的要件を以下のように定めている。

(a)新規性または装飾性のある意匠のみが保護されるものとする。

(b)特定の技術的な結果を得るための本質的に技術的もしくは機能的な考察によって決定づけられる意匠、または公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反する意匠は保護されない。

 

 施行規則(IRR)における規則1501は、登録不適格な意匠を以下のように列挙している。

 

(a)特定の技術的な結果を得るための本質的に技術的もしくは機能的な考察によって決定づけられる工業意匠。

(b)工業製品もしくは手工芸品とは別個に存在する表面装飾を配列しただけの工業意匠。

(c)公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反する工業意匠。

 

 以上の知的財産法および施行規則によると、工業意匠が知的財産法に基づく保護を享受するためには、意匠が新規かつ非機能的なものであって、工業製品もしくは手工芸品に特別の外観を与え、かつ、公の秩序、衛生もしくは善良の風俗に反しないものでなければならない。

 

 ほとんどの工業製品は機能的なものであるが、当該物品の機能にとって不可欠ではない外面的特徴は、工業意匠として登録することができる。判例(Conrado de Leon)では、意匠の本質はその全体に――見る者の心裡に何らかの感覚を生じさせる無限定の全体に――宿るという判断が示されている。知的財産法の目的は、単に目を楽しませるだけの装飾芸術および意匠の振興を図ることであり、それが意匠登録の適格な対象となる。工業意匠は、新規で独創的であることに加えて、装飾的でなければならない。装飾とは、暗黙裏に美を指向するものである。すなわち、対象もしくは物品の心地よい外観を与えることが暗黙裏に意図されている。それゆえ、登録可能な意匠は、物品の美しさと魅力的な外観を高め、当該意匠を既知の意匠の特徴もしくは既知の意匠の特徴の組合せとは明らかに異なることを示す差異を明確にするものでなければならない。

 

 フィリピン知的財産庁(以下、「IPPHL」という。)は、意匠出願について、実体審査を行わず、方式審査のみを行う。とはいえ、保護を求められる意匠が機能的なものであると審査官が考えた場合には、審査官は実務上の処分として拒絶理由通知を発行する。これに対する応答書を提出した結果、審査官を納得させることができなかった場合、その出願は拒絶査定を受けることになる。拒絶査定に対しては、以下のような救済手段を利用することができる。

 

(i)出願人は特許局長(Director of Patents)に上訴を提起することができる。

(ii)特許局長が審査官の決定を支持した場合、出願人は知的財産庁長官(Director General)に上訴を提起することができる。

(iii)知的財産庁長官が特許局長の決定を支持した場合、出願人は長官の決定を不服とする上訴を控訴裁判所に提起することができ、最終的には最高裁への上告を行うことができる。

 

 もちろん、機能的な意匠の出願が認められる場合もある。その場合、利害関係者は、登録抹消を求める申立をIPPHLに提起することができる。当該意匠の登録人が意匠特許により保護される物品の製造、使用、販売申し出、販売、輸入等の行為をまったく行っていない場合や、先に他の者に付与された既存の意匠特許が存在する場合、先行意匠特許の特許権者は侵害訴訟を提起し、併せて後続の意匠特許の抹消を求めることができる。この訴訟は民事訴訟として適正な商事地方裁判所(専門のIP裁判所)に提起してもよく、行政訴訟としてIPPHLに提起してもよい。

 

2.視覚性

 

 物品内部のデザインなど、物品使用者が直接視認することができないデザインに関して、知的財産法の工業意匠に関する章は、集積回路のトポグラフィーもしくは回路設計の保護を定めている。同法の第112条は以下のような定義を示している。

 

(d)「集積回路」とは、最終形態または中間形態の回路であって、複数ある素子のうち少なくとも1個は能動素子であり、かつ、相互接続の一部または全体が基板内部また基板表面に集積的に形成され、電子作用を実行させることを目的とするものをいう(改正共和国法律8293号第112条(2))。

(e)「回路配置」とは「トポグラフィー」の同義語であり、どのように表現されるかに関わらず、1個以上の能動素子を含む複数の素子の三次元配置であって集積回路の一部ないし全部が接続されたもの、または製造を目的とした集積回路のために作成された三次元配置図をいう(改正共和国法律8293号第112条(3))。

(f)独創的な回路配置とは、創作者の知的努力の成果であり、かつ当該配置が考案された時点で回路配置設計者もしくは集積回路製造者の間において陳腐ではない回路配置をいう(改正共和国法律8293号第113.3条)。

 

 集積回路の回路設計が登録を認められるためには、独創性を有していなければならない。それ自体としては陳腐な素子および接続の組合せから成る回路設計が登録を認められるのは、その組合せが全体として独創的である場合のみである。(参照:改正共和国法律8293号第113.4条)。集積回路に関する意匠の登録プロセスは、工業意匠の場合と同じである。

 

 ただし、2002年以降に出願された集積回路の回路設計は5件のみであり、いずれの出願も後日になって取下げられ、規則不順守を理由とした権利の喪失が宣告されている。

香港の意匠特許における機能性および視認性

 現行の香港登録意匠規則(第522章)(以下、「意匠規則」)の第2条に基づき、登録意匠は、あらゆる工業的方法により物品に応用される形状、形態、模様または装飾の特徴であって、完成品において視覚に訴え、視覚により判断されるものを保護する。意匠規則の第5条に従い、登録意匠として登録可能な新規の意匠は、あらゆる物品または組物に関して登録することができる。

 

 意匠規則の第2条は、構造の方法または原理、および下記のいずれかに該当する物品の形状または形態の特徴を明示的に排除している。

・当該物品が果たさなければならない機能によってのみ決定づけられるもの。

・創作者の意図により当該物品が不可欠な部分を構成する、別の物品の外観に依存するもの。

 

 現行の意匠規則は、廃止された英国登録意匠法(1949年)と概ね似通っている。したがって、機能性および視覚に訴える審美性に関して、古い英国の基準が依然として香港において適用されている。

 

機能性

 

 上記に述べた第2条に従い、意匠は物品の機能性や作用については保護しない。ただし、物品が機能する方法に対する保護は、特許規則に基づいて取得することができる。

 

 創作者が機能的要件のみを考慮して物品をデザインした場合、たとえ生み出された完成品が見た目に快いものであったり、当該物品の所期の使用目的への適合性に関してエンジニアの心を引きつける外観を有していたりしたとしても、その意匠の特徴は、当該物品が果たさなければならない機能によってのみ決定づけられているとみなされるだろう。

 

 それにもかかわらず、英国の枢密院は、LEGOブロックの意匠が少なくとも部分的に心を引きつける審美性を備えて進化してきたことを承認した。LEGOブロックは玩具であり、玩具の機能は視覚に訴えることであるという理由で、LEGOブロックの外観は他のブロックとの連結機能によってのみ決定づけられていないと認定されたのである。

 

視認性

 

 意匠規則の第2条に示された意匠の定義では、意匠は当該物品を購入する需要者に影響を及ぼす視認可能な要素を有していなければならないことが示唆されている。したがって、物品の通常の使用時に使用者が見ることのできない、もしくは小さすぎて人間の目には見えない内部構造といった物品の美的要素、または需要者が物品を購入する際の意思決定においてほとんど考慮されない物品の美的要素は、現行の意匠規則に定義された意匠の範囲には含まれないだろう。

 

 一方、意匠の美的特徴は、販売時点において視認可能である必要はないが、当該物品の通常の使用時、または意図された方法による使用時には、視認可能でなければならない。K K Suwa Seikosha’s Design Application事件において、購入時点には視認できなかった時計内部の液体表示の意匠は、登録可能と判示された。Ferrero S.p.A’s Application事件において、彩色されたチョコレートのリングからなるイースターエッグ内部の意匠は、イースターエッグが消費される時点まで美的特徴を見ることはできないものの、登録可能と判示された。

 

法規と実務

 

 現行の法規および実務に基づき、意匠出願の実体審査は行われない。意匠登録所は、出願された意匠の特徴が新規かどうか、かかる特徴が機能的なものにすぎないかどうか、またはかかる特徴が視認可能かどうかについて判断するために、先行意匠を調査することはない。意匠登録出願が方式要件を満たしている限り、登録が認められることになる。意匠規則の第45条は、登録の時点で新規ではなかった、または他の理由で登録可能ではなかった登録意匠の取消について規定している。

 

 香港高等法院はElster Metering Ltd v. Billions Ltd事件において、意匠規則第2条の意匠の定義が満たされていないこと、さらに当該意匠における新規性の欠如を理由に、二つの意匠の登録を取り消した。そのうちの一つの意匠は、水量計の内部測定室の構成部品に関するものであった。高等法院は、この構成部品の意匠は当該部品が果たす機能によってのみ決定づけられていること、さらに当該部品は外から見ることができず、当該水量計を購入するかどうかの意思決定に影響を及ぼすほどの視覚的魅力がないという理由で、当該意匠の登録を取り消した。この意匠は、原告の水量計の対応する構成部品とほぼ同じに見えたため、新規性の欠如も判示された。

 

結論

 

 登録意匠出願の実体審査が行われないため、香港意匠登録簿には、新規性または審美性に関する基準を満たしていない登録意匠が含まれている可能性がある。それゆえ、ある製品を発売する際に、その製品に競合する登録意匠が登録簿に登録されている場合には、取消訴訟の提起を視野に入れて、競合する登録意匠の実体的争点に関する脆弱性を精査することは有益である。

ブラジルにおける物品デザインの商標的保護

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フィリピンにおける物品デザインの商標的保護とトレードドレス

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ロシアにおける商標制度および原産地(地理的)表示の保護

 「模倣対策マニュアル ロシア編」(2016年3月、日本貿易振興機構)第1章第3節、第4節

 

(目次)

第1章 ロシアにおける知的財産権の取得

 第3節 商標 P.46

  (1) 商標制度の概要 P.46

   (a) 管轄官庁及び担当官 P.46

   (b) 最近5年間の統計データ P.46

   (c) ロシア商標制度の特徴 P.48

  (2) 出願人適格 P.49

  (3) 登録要件 P.49

   (a) 商標の定義及び登録可能な対象 P.49

   (b) 商標の先願主義及び先使用 P.49

   (c) 出願拒絶理由、相対的拒絶理由(1483条) P.50

   (d) 絶対的拒絶理由等、登録できない対象 P.50

  (4) 商標出願手続及び審判部 P.51

   (a) 出願の方式審査 P.53

   (b) 実体審査 P.53

   (c) 登録に要する期間 P.53

   (d) 出願手数料 P.53

   (e) 出願の公開又は公告 P.54

   (f) 登録前又は後の出願に対する不服申立て P.54

   (g) 商標の審判 P.54

    1) 出願に対する拒絶査定についての審判 P.54

    2) 商標登録の取消し又は無効についての審判 P.55

    3) 審決に対する不服申立てを扱う裁判所とその手続 P.55

  (5) 商標権 P.55

   (a) 商標権の基本的内容及び範囲 P.55

   (b) 商標登録の存続期間、権利証書の発行及び期間の更新/延長 P.56

   (c) 先使用者の権利をはじめとする登録商標に対する制限 P.56

   (d) 登録商標の譲渡及び使用許諾 P.56

   (e) 商標権と商号権の抵触 P.57

  (6) 商標及び商品/役務の類似性に関する基準 P.57

  (7) 商標の「使用」の定義 P.58

  (8) 周知の商標 P.59

  (9) ユーラシア経済連合の商標登録出願統一窓口 P.60

 第4節 原産地表示(又は地理的表示) P.62

南アフリカにおける商標権の権利行使に関する留意点

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