ホーム 外国納税者

シンガポールにおけるロイヤルティ送金に関する法制度と実務運用の概要

 1978年以降、シンガポールにおけるすべての外国為替管理は廃止され、実施権者によるロイヤルティのシンガポール国外への送金には手続や承認は必要ない。ただし、「シンガポール所得税法」(以下、「SITA」という。)には、実施権者がロイヤルティの総額を指定の税率で源泉徴収するという法的要件がある(SITA第12条(7))。

 実施許諾者は、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定」(the Singapore-Japan Avoidance of Double Taxation Agreement;以下、「シンガポール・日本DTA」という。)に基づいて、優遇税率の源泉徴収を受ける資格を有する場合がある。これは、実施権者が、シンガポール内国歳入庁(Inland Revenue Authority of Singapore;以下、「IRAS」という。)に源泉徴収税を申告することによって行われるが、IRASが、実施許諾者が日本の納税者であることを承認していることが条件となる。

 実施許諾者と実施権者が関連会社である場合、実施権者はSITAに基づき、ライセンス契約の価格設定が、独立企業間で締結されたことを示す移転価格文書を同時に作成することも求められる。

 一般に、多くの日本の多国籍企業では、グループの知的財産は、日本に設立され納税者として居住する企業(日本の実施許諾者)によって保有されている。日本の実施許諾者は、知的財産に関するライセンスを、必要とする他のグループ企業に許諾している。

 以下に、シンガポールから日本へのロイヤルティの送金を検討する際に留意すべき重要なシンガポール税務上の考慮事項について説明する。

1. 外国為替管理
 予備的な点として、現在シンガポールには外国為替管理はなく、ロイヤルティをシンガポール国外に送金する際の特段の手続はなく承認も必要ない。為替管理法の規定の適用は、「シンガポール金融管理局(the Monetary Authority of Singapore; 以下、「MAS」という。)通知1103号および754号」(いずれも1978年5月25日公示)により、1978年以来MASによって停止されている。

2. シンガポールにおける源泉徴収義務
 シンガポールの企業からシンガポールに居住していない企業に送金されたロイヤルティは、シンガポールから発生したものとみなされ、シンガポールの源泉徴収税の対象となる(SITA第12条(7))。次のいずれかに該当する場合には、ロイヤルティはシンガポールから得られたものとみなされる。

(1) シンガポールに居住する者、またはシンガポールの恒久的施設(シンガポール国外の恒久的施設を通じてシンガポール国外で行われる事業に関するものを除く。)が直接的、または間接的に負担する場合

(2) シンガポールで発生した、またはシンガポールから得られた所得に対する控除

 シンガポールの源泉税率は、支払われるロイヤルティ総額の10%または17%である。ロイヤルティが、シンガポールに所在のない会社による貿易や事業からもたらされる場合、または、シンガポールに会社が所有する恒久的施設と実質的に関連していない場合には、10%の税率が適用される。それ以外の場合は、17%の税率が適用される。
 源泉徴収税率は、(i)承認済みロイヤルティインセンティブスキーム(the Approved Royalties Incentive Scheme;以下、「ARI制度」という。)、または(ii)シンガポール・日本DTAに基づいて引き下げられる場合がある。

3. ARI制度
 ARI制度は、企業がシンガポールでの実質的な活動のために、最先端技術やノウハウにアクセスすることを奨励する目的で導入された(「経済拡大インセンティブ(所得税軽減)1967年法」)。2022年のシンガポール予算で発表されたように、この制度は当初2023年12月31日以降に失効する予定であったが、2028年12月31日まで延長された。

 ARI制度では、シンガポールでの実質的な活動を目的として、最先端技術やノウハウを提供する非シンガポール居住者に対して送金されるロイヤルティに関して、免税または優遇源泉税率が与えられる場合がある。ARI制度に参加するには、シンガポールの企業が、非シンガポール居住企業に送金するロイヤルティを、承認済みロイヤルティとして認可してもらうために、経済開発委員会(the Economic Development Board;以下、「EDB」という。)に申請する必要がある。申請が認められた場合、EDBはその承認を証明する証明書(以下、「承認証明書」という。)を発行する。

 2023年4月1日以降、ARI制度の管理を強化するために制度の変更があった。すなわち、シンガポールの企業は、新しいライセンス契約が締結される、または既存の契約が変更されるごとに、EDBから新たな承認を求める必要がなくなった。それに代わって、承認証明書には承認された活動の範囲が指定されることになり、シンガポールの企業は、承認された活動の目的で締結するすべての契約に基づいて支払うロイヤルティに対して、税額控除または軽減された源泉税率を受けることになる。

4. シンガポール・日本DTA
 実施権者がシンガポールの税務居住者であり、実施許諾者が日本の税務居住者であって、シンガポール・日本DTAが適用される状況におけるロイヤルティの税務上の取り扱いは次のとおりである。

(1) ロイヤルティは、発生国(シンガポール)と実施許諾者が居住する国(日本)の両方で課税される可能性がある。
(2) ロイヤルティがシンガポールで課税される場合に、実施許諾者がロイヤルティの受益者であれば、課される税金はロイヤルティの総額の10%を超えない。
(3) この場合、ロイヤルティは税務上、シンガポールで発生したものとみなされる。
(4) 日本は、シンガポールで支払った税金について、実施許諾者に対する税額控除の軽減を認めるものする。

 シンガポール・日本DTAでは、税務上の居住地は、当該締約国の法律上、実施許諾者または実施権者が、その住所、居所、本社または主たる事務所の所在地、統括および管理の場所、または同等の基準を理由に、当該締約国において納税義務を負うかどうかによって決定される。

 シンガポール税法に関する限り、事業の統括と管理がシンガポールで行われている場合、実施権者はシンガポールの税務上の居住者となる。これは事実の問題であって、少なくとも、戦略的意思決定が行われる取締役会がシンガポールで開催されていることを議事録等に基づいて証明する必要がある。

 手続き上、実施許諾者が、シンガポール・日本間DTAに基づく源泉徴収税率の軽減を享受するには、実施許諾者は、IRASへの源泉徴収税申告を通じて軽減の請求を行う必要がある。請求が認められるためには、IRASが、実施許諾者は日本の納税者であることを認める必要がある。したがって、実施許諾者は、日本の納税者であることを証明するために、日本の税務当局から居住証明書(a Certificate of Residence;以下、「COR」という。)の、英語のまたは英語に翻訳したコピーを取得し、それを実施権者に提供して、実施権者が追加申告できるようにする必要がある。これにより、実施権者は、IRASへの源泉徴収税申告書にそれを追加することができる。

5. 源泉徴収税の申告と支払い義務
 実施許諾者にロイヤルティを支払う責任がある場合、実施権者は、SITA第45条(1)、第45A条(1)および第12条(7)に基づいて、次の法的義務を負う。

(1) ロイヤルティの一定の割合を源泉徴収税として差し引く。
(2) 所得税監督官(以下、「監督官」という。)に控除を直ちに通知する。
(3) 源泉徴収税として差し引かれた金額を、会計監査人に支払う。

 源泉徴収税を差し引く場合、実施権者は、その差し引きを通知し、ロイヤルティの支払い日から2か月後の15日までに、差し引かれた金額を会計監査人に支払わなければならない。ロイヤルティの支払日は、以下のいずれかの早い日となる(「e-Taxガイド(源泉徴収義務を遵守するためのみなし支払日の決定について)」第3項から第3.4.3項)。

(1) 支払い期限が到来し、合意または契約に基づいて支払われる時、または合意または契約がない場合には請求書の日付に基づいて支払われる時
(2) 支払いが実施許諾者の口座、または実施許諾者が指定したその他の口座に入金される時
(3) 実際の支払い日

 源泉徴収税の控除通知は、実施権者がフォームIR3を使用してIRAS my Taxポータル※1経由で、オンラインで提出する必要がある。
※1 IRAS my Tax Portal https://mytax.iras.gov.sg/ESVWeb/default.aspx

6. 移転価格
 実施許諾者と実施権者が関連当事者である場合、移転価格についてさらに考慮する必要がある。
 実施許諾者と実施権者は、一方の当事者が他方の当事者を統括している場合、または直接的または間接的に別の当事者の共通の支配下にある場合、関連当事者とみなされる。
 重要な点は、支払者と受取人の間のライセンス契約が、独立した第三者との間の価格設定を反映していることを保証するために、両当事者は独立企業間原則を適用して、ライセンス契約の価格が、関連当事者でない第三者が同じライセンス契約に基づいて請求する価格と同等、あるいはそれに匹敵する状況であることを保証する必要がある。
 この要件が遵守されない場合、会計監査人は、SITA第34D条(1A)に基づいて、独立した第三者との間の価格設定でない点を補充するために、支払者の所得、税控除を調整する権限を与えられる。2019年からは、調整額に5%の追加料金が適用され、政府に対する債務として会計監査により回収可能となった。

 2019年からの施行にともない、実施権者は、以下のいずれかの場合に、実施許諾者とのライセンス契約が、独立企業間で締結されたことを示すために、移転価格文書を作成して、保管する必要がある。

(1) 取引または事業から得られる総収益が、当該基準期間において1,000万ドルを超える場合
(2) 移転価格文書が、当該基準期間の直前の基準期間について作成する必要があった場合

 移転価格文書とは、ライセンス契約の締結前または締結時に、関連当事者間の取引の移転価格を決定するために基準とした文書および情報をいう。これらには、シンガポールでの事業運営に関連するグループ(実施権者がメンバーである。)の事業の概要、および実施権者の事業、および関連当事者との取引に関する詳細情報(実施権者の機能分析および移転価格分析を含む。)が含まれる。

 移転価格文書は、実施権者の所得税申告書の提出期限までに完成する必要があるが、申告書と一緒に提出する必要はない。ただし、実施権者は、IRASからの要求から30日以内にかかる文書をIRASに提出する必要があり、いかなる場合でも、取引が行われた基準期間の終了から少なくとも5年間は当該文書を保管しなければならない。

 移転価格の確実性を高め、紛争を回避するために、実施権者と実施許諾者は、シンガポール・日本DTAの範囲内であれば、確認基準を事前に定める事前価格協定の申請を検討することができる。

7. 物流サービス税
 実施権者は、次の場合には、実施許諾者から調達したライセンスについて、あたかもライセンスの供給者であるかのように、9%の物流サービス税(Goods and Services Tax;以下、「GST」という。)を計上する必要がある。

(1) GST登録された一部免税事業者(すなわち、課税と免税の両方を対象とされるGST登録者)であり、仕入税額(input tax)の全額の控除を受けることができない場合
(2) 仕入税額の全額の控除を受ける資格のないGSTグループに属するGST登録者である場合
(3) 非GST登録者で、以下の理由によりGST登録の義務がある場合
  a.その輸入サービスの対象となる低額商品が、12か月間に100万シンガポールドルを超える場合
  b.仮にGST登録を行った場合、仕入税額の全額の控除を受けることができない場合

 この場合に、実施権者は、通常の仕入税額控除規則に従って、対応するGSTを仕入税として請求することができる※2

※2 シンガポールにおける通常の仕入税額控除規則の詳細については、IRASが発行するe-Tax ガイドの「GST:部分免除と仕入税額控除(第8版)」を参照されたい。
https://www.iras.gov.sg/media/docs/default-source/e-tax/etax-guide-on-partial-exemption-and-input-tax-recovery-6th-edition.pdf?sfvrsn= cbbae7c6_0

8. まとめ
 シンガポールの実施権者から日本の実施許諾者にロイヤルティが送金される場合、シンガポールの実施権者は、源泉徴収税、移転価格、GST規制を確実に遵守するために、さまざまな措置を講じる必要がある。源泉徴収税率は、シンガポール・日本DTAの適用、または該当する場合はARI制度を通じて軽減される場合がある。実施許諾者また、送金されたロイヤルティの適切な税務報告を保証し、支払われたシンガポールの源泉徴収税に関する税額控除の手順に従う必要がある。
 ただし、このような税額控除の利用可能性、および取得手順は日本の法律に準拠し、本稿の範囲外となるので留意されたい。

インドネシアにおけるロイヤルティ送金に関する法制度と実務運用の概要

1. ロイヤルティに課される税と外国納税者
 ロイヤルティは、知的財産の実施権者から知的財産の所有者である実施許諾者に支払われる料金であって、インドネシアにおいてロイヤルティに課せられる税は、所得税と付加価値税である。

 外国納税者には、次の4つの類型がある(税の調和に関する法律No.7/2021,第2条(4))。

a. インドネシアに居住していない個人
b. 12か月間内の183日以上をインドネシアに居住する外国人
c. 12か月間内の183日以上をインドネシア国外に居住するインドネシア国民
d. インドネシアに居住していない法人格を有さない団体であって、インドネシアでの恒久的施設によって事業を行うか、あるいはインドネシアでの恒久的施設による事業や活動以外からインドネシアで収入を得ている者

2. 所得税および付加価値税
2-1. 非居住者の一般所得税についての税率
 インドネシアの非居住者が受け取るロイヤルティには、その総額の20%の一般所得税が課税される(雇用創出法No.6/2023,第111条)。

2-1-1. インドネシア-日本における所得税に関する租税条約
 インドネシアと日本は、二重課税を避けるために租税条約を結んでいる。ロイヤルティに関する租税条約の税率は、総額の10%である(所得税に関する二重課税の回避および脱税の防止に関するインドネシア共和国政府と日本政府との間の協定 第12条第2項)。このロイヤルティ税条約税率の適用を受けるには、次の基準を満たす必要がある。

a. ロイヤルティの受領者は、条約締結国または条約管轄内の国内納税者である自然人または法人であること。
b. 条約を不正に利用する者でないこと。
c. ロイヤルティ収入の受領者が、利益を得る主体(受益者)であること。
(二重課税を回避するための協定の実施手順に関する税務局長規則PER-25/PJ/2018,第1条)

 実施許諾者が外国納税者であって、実施許諾者とインドネシア国内の実施権者とが提携関係にある場合(例えば、実施権者が海外子会社等の関連する者である場合)、これらの事業体間の知的財産に関わる取引には、独立企業間原則(アームズレングス原則)*1を適用する必要がある。実施許諾者(受益者)と実施権者(提携者)についての税務執行の関係は、下表のように整理できる(Benny Oktis Yanurwenda「海外へのロイヤルティ支払い:税務上の扱いに対する商標登録メカニズムの影響の検討」)。


実施許諾者と実施権者との間に提携関係がある場合
(例:実施権者が実施許諾者の海外子会社である場合)
実施許諾と実施権者との間に提携関係がない場合
ロイヤルティ収入の受領者が受益者である場合・租税条約が適用される。
・独立企業間原則の判断が必要である。
・租税条約が適用される。
・独立企業間原則の判断は必要ない。
ロイヤルティ収入の受領者が受益者でない場合・取引相手はペーパーカンパニーである。
・租税条約は適用されない。
・取引はロイヤルティの支払いとしては認められない。
・租税条約は適用されない。
・取引はロイヤルティの支払いとして認められる。
・独立企業間原則の判断は必要ない。

※1 独立企業間原則とは、法人が国外関連者(海外子会社等)と国外関連取引を行った場合、その取引に係る対価の額は、独立した第三者との取引価格と同じ条件にするという原則である。

2-2. 付加価値税についての税率
 付加価値税の固定税率は、11%である(税の調和に関する法律No.7/2021,第7条)。
 なお、支払われるロイヤルティ料金に、付加価値税が含まれている場合は、支払うべき付加価値税の計算式は、ロイヤルティ料金×(11/111)の額となる。

3. ロイヤルティに課される税の支払いおよび報告
 2024年1月から、ロイヤルティに課される税の源泉徴収者は、定期税報告書(Form 1721-VI)を使用して源泉徴収書を作成し、実施許諾者に送付し、税務総局に報告しなければならない。
 外国納税者は、租税条約を適用する場合、源泉徴収者に納税者ID、または住民票を提供する必要がある(税務総局長規則No.PER-2/PJ/2024,第2条)。源泉徴収者は、税務総局のWebサイト、または税務総局が指定するその他のチャネルからアクセスできるアプリケーションe-bupot 21/26を使用する必要がある。

 実施権者または所得税の源泉徴収者は、ロイヤルティ料金から所得税を源泉徴収し、遅くとも取引後の翌月10日までに支払い、および遅くとも取引後の翌月20日までに報告しなければならない。

 実施権者または付加価値税の源泉徴収者は、ロイヤルティ料金から付加価値税を差し引いて実施許諾者から付加価値税を徴収し、税額請求書を発行しなければならない。実施権者または付加価値税の源泉徴収者は、取引後の遅くとも翌月15日までに付加価値税を支払わなければならない。

4. ロイヤルティの海外送金
 外貨を使用したロイヤルティの送金は、「外貨取引および為替レート制度に関する法律No. 24/1999」を遵守する必要がある。この法律の第3条には、すべての国民は、中央銀行から求められた場合、自己が行っている外貨取引に関する情報とデータを提供しなければならないと規定されている。

 さらに、基準額を超えるインドネシアルピアからの外貨取引は、基礎となる取引で裏付けられなければならない(中央銀行規制No.18/18/PBI/2016 第4条)。基準額は、顧客1人あたり月額25,000米ドルまたはそれに相当する額である(中央銀行規制No.18/18/PBI/2016 第5条第1項)。基礎となる取引を裏付ける文書は、ライセンス契約のコピー、ロイヤルティの分配に関連する顧客からの明細書、支払った付加価値税を示す税金請求書などが通常、用いられている。