中国における国内出願とマドプロ出願のメリットとデメリット
中国で商標を登録するには2つのルートがある。国家工商行政管理総局商標局(以下「中国商標局」とする)に直接出願するルート(以下「中国国内出願」とする)と、「マドリッド協定議定書(マドリッド協定プロトコル)」(以下「マドプロ」とする)に基づいて本国の商標出願または登録を基礎に中国を指定することにより出願するルート(以下「マドプロ出願」とする)である。一般的に、マドプロ出願の方が、本国から一括して迅速に世界各国における商標の保護を図ることができ、費用は安く、商標の管理も容易であるメリットが挙げられる。しかし、近年中国国内出願も多区分制度の導入や、官費の減額により、費用負担が軽減し、さらに中国商標局が審査期間を短縮する措置を積極的に導入してきていることで、マドプロ出願の方が中国国内出願に比べて圧倒的にメリットが多いとは言えない状況になりつつある。また、中国には独特な商標法制度およびその運用が存在し、さらに言語も異なるので、ルートを選択する際には特別な考慮が必要である。本稿では、2つの出願方法のメリットとデメリットを次の側面から解説する。
手続の簡易さおよび権利の安全さ
マドプロ出願は、本国において基礎出願もしくは基礎登録が必要となるが、各国ごとに出願する必要がなく、一つの出願で複数のマドプロ締結国への権利取得が可能であるので、複数国で同じ商標の保護を求める場合にはマドプロ出願を利用するのが有利である。さらに、出願後にも国、商品・役務を追加することができるので、実際の事業計画に基づき出願を修正できる点もそのメリットの一つである。また、名義・住所変更、更新手続を一括で一つの書類で行うことができるので、コスト・手間の意味では大きなメリットがあると言える。
一方、マドプロ出願は、セントラルアタックの問題を抱える。すなわち、国際登録の日から5年以内に本国における基礎出願・基礎登録に対し拒絶、取下、放棄、無効、取消が成立した場合、国際登録も取消されてしまうというリスクがある。これに対して、中国国内出願の場合、登録後に無効または取消の事由がない限り、権利は安定的である。
審査スピード
マドプロ出願と中国国内出願とは審査期間にも差異がある。中国商標局はマドプロ出願の場合、WIPOの通知の受領日から12ヶ月以内にマドリッド協定に基づくマドプロ出願の審査を完了しなければならず、さらに18ヶ月以内にマドリッド議定書に基づくマドプロ出願の審査を終結しなければならない。
これに対して中国国内出願は、2014年改正法施行後、マドプロ出願よりも早くに登録権利を取得できる場合がある。中国商標法は、出願の審査期間を中国商標局が出願書類を受領した日から9ヶ月以内と規定している。2017年11月17日に商標局が発表した「商標出願の便利化の改革推進と確実に商標出願の効率を上げるための意見」において、中国商標局は、2018年末までに審査期間を6ヶ月に短縮することを目指すことを目標として掲げた。中国での権利化を急ぐ場合は、中国のみ国内出願の方法で早期に登録を取得できるか試すことも考えられる。
商標登録証
中国国内出願の場合、中国商標局は登録公告後に『商標登録証』を発行するが、マドプロ出願には『商標登録証』が発行されないので、登録後に中国商標局に別途『国際商標登録証明』の発行を申請する必要がある。
指定商品・役務記載
中国国内出願の場合、出願後に、中国商標局から補正通知がない限りは、商品・役務を補正することはできない。一方マドプロ出願は、出願後、中国商標局が審査を経て拒絶査定を下した後でも指定商品・役務の修正が可能というメリットがある。
中国で商標を登録出願する際には、中国商標局が発行した《類似商品・役務区分表》(または中国商標局が別途公表した受理される非規範的な商品・役務リスト)に収録された規範的な商品・役務の記載を忠実に指定する必要がある。いわゆる積極的表記の指定商品役務で出願した場合、方式審査の段階で中国商標局から補正指令を受ける可能性が極めて高い。一方、マドプロ出願の場合、中国商標局は、《類似商品・役務区分表》に記載のない商品・役務をそのまま認める傾向があった。その為、《類似商品・役務区分表》にない商品・役務の権利化は、マドプロ出願が推奨される。しかし近年、中国商標局はマドプロ出願に関しても《類似商品・役務区分表》にない商品・役務に対する補正指令を発する場合がある点を留意する必要がある。
また、《類似商品・役務区分表》には、中国固有の商品・役務も収録されているため、これらの商品・役務についての権利化が必要な場合は、中国国内出願を利用することが推奨される。
インドネシアのマドリッド協定議定書の加盟
2017年10月2日、インドネシアはマドリッド協定議定書への加入書を世界知的所有権機関(WIPO)の国際事務局に寄託した。マドリッド協定議定書は、インドネシアにおいて2018年1月2日に発効する。これにより、マドリッド協定議定書の加盟国数は100か国となる。
2018年当初より、外国の企業および商標所有者はマドリッド制度を利用して、インドネシアにおける商品および役務に関する商標保護を申請できるようになる。インドネシアはグローバル市場のリーダーであり、G20経済圏で最も急速な成長を遂げている上位5か国の一つに数えられている。
インドネシアは、マドリッド協定に参加する東南アジア諸国連合(ASEAN)で8番目の国である。この加盟は、ASEAN全域における技術移転の促進、および知的財産権を巡る協力強化を通したイノベーションの推進というASEANが掲げる目標に向けた更なる一歩となる。
マドリッド制度は、一件の国際商標出願において多くの国々を指定することが可能な制度である。マドリッド国際出願手続は、従来の各国直接出願と比べて効率化と費用削減をもたらす。
1. 本国官庁としてのインドネシア知的財産総局(Directorate General of Intellectual Property Rights、以下「DGIP」という。)
インドネシア商標および地理的表示法第20/2016号の第52条に従い、以下のことが定められている。
(1)国際商標登録出願は、以下のいずれかの形式で行うことができる。
(a)インドネシアを本国とし、DGIPを経由してWIPO国際事務局宛てに送付される出願。
(b)指定国の1つとして、WIPO国際事務局を経由してDGIPにより受領される出願。
(2)上記(1)の項目(a)に定められた国際商標登録出願は、以下の者によってのみ提出することができる。
(a)インドネシア国民である出願人。
(b)インドネシア共和国の領域内に本拠を置く、または合法的に居住する出願人。
(c)インドネシア共和国の領域内で実際に産業または商業活動をしている出願人。
(3)上記(2)に規定された出願人は、国際商標登録出願の基礎として、インドネシアにおいて既に商標を出願しているか、または商標を登録している必要がある。
(4)国際商標登録出願に関する追加規定は、標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書に基づいており、政令により規定されなければならない(新しい手続および手数料について説明する詳細な規定は、2017年後期に施行される予定である。)。
先述したように、DGIPへの国際出願を選択するインドネシアの出願人は、基礎となるインドネシア商標出願または登録を有していなければならない。
出願人は、オンラインシステムにより直接DGIPに国際登録出願の願書を提出しなければならない。DGIPは、国際出願を認証し、WIPO国際事務局へ送付する。
手数料および登録の有効性
マドリッド制度では、単一の国際出願で多数の国を指定でき、時間と費用を効率的に節約できる。また、複数の言語への翻訳費用がかからず、複数の指定国の行政手続に煩わされることもない。
DGIPに支払う手数料は、商標出願1件につき50万IDルピア(約50USドル)である。
WIPOに支払う基本手数料は、以下のとおりである。
‒ 653スイスフラン:白黒の標章
‒ 903スイスフラン:カラーの標章
マドリッド協定議定書に基づく指定国の個別手数料は、下記WIPOのサイトに掲載されている。
http://www.wipo.int/madrid/en/fees/ind_taxes.html
http://www.wipo.int/madrid/en/fees/calculator.jsp
DGIPは国際出願を受理後、WIPOに送付する前に、願書を認証するための方式審査を行う。この方式審査の結果不備がない場合は、DGIPは当該願書をWIPOに送付する。
WIPOは国際出願を受理後、マドリッド協定、マドリッド協定議定書および共通規則に定められた要件について審査を行う。ただし、この審査は、指定商品または役務の分類、および指定商品または役務の記述の明瞭性を含む、方式要件だけに限られている。
国際出願に不備がなければ、WIPOは当該国際出願を国際登録簿に記録し、WIPO国際商標公報において当該国際登録を公開し、各指定国に通報する。この公報は、マドリッド制度ウェブサイトを利用して電子形式(電子公報)で入手可能である。
標章が保護を受けられるかどうか、または指定国の知的財産官庁に既に登録されている標章と抵触するかどうかといった実体的事項は、適用される国内法に基づき指定国により審査される。
国際登録は10年間有効であり、手数料の支払いをもって国際登録日から10年ごとに更新可能である。各指定国における保護は、国際登録の更新に基づいて更新される。
2. 指定国官庁としてのDGIP
国際出願に関して、インドネシア特有の要件は以下のとおりである。
第一に、インドネシアを本国とする国際出願の指定商品または役務は、インドネシア基礎商標出願または登録商標に関する指定商品または役務と一致しなければならない。DGIPの厳格な審査基準の一部として、商品および役務の範囲が狭いことに留意すべきである。
第二に、他の国からのインドネシアを指定する国際出願は、現行の審査ガイドラインに従いインドネシア語で審査される。それゆえ、インドネシアの商標実務に合わせて指定商品または役務の補正が必要になる場合がある。
DGIPはマドリッド協定議定書による国際出願に対応するため、20名の担当官を割り当てる予定である。
実体審査
商標および地理的表示法第20/2016号に従い、DGIPは国際出願を認可または拒絶する決定を18か月以内に行う。
DGIPが指定商品または役務の全部または一部について国際出願を拒絶しても、他の指定国の決定には影響を及ぼさない。
暫定的拒絶は、商標および地理的表示法第20/2016号の第20条、第21条(1)項および第21条(2)項または異議申立に基づいて行うことができる。国際出願の出願人は、暫定的拒絶通報後、拒絶理由に対してDGIPに応答することができる。
審査および審理される商標の識別性/非識別性に関する基準
第20条の規定に従い、以下のいずれかに該当する標章は登録できない。
(a)国家のイデオロギー、法規、道徳規範、宗教、倫理または公序良俗に反する。
(b)登録対象の商品または役務と類似している、これを説明している、またはその単なる言及にすぎない。
(c)登録対象の商品もしくは役務の出所、品質、型式、サイズ、種類、使用目的について、または類似の商品もしくは役務に関して保護されている植物品種の名称について、公衆の誤認を生じるおそれのある要素を含んでいる。
(d)提供される商品または役務の品質、便益または効能と一致しない情報が含まれている。
(e)識別性のある特徴が何もない。
(f)一般名称または公有財産の象徴となっている。
審査および審理される商標の類似性/非類似性に関する基準
第21条(1)項の規定に従い、標章の要部または全体が以下のいずれかに該当する標章は拒絶される。
(a)同じ種類の商品または役務に関して既に登録または出願されている、他者により所有される商標と類似している。
(b)同じ種類の商品または役務に関して他者により所有されている周知商標と類似している。
(c)特定の条件を満たすことを前提として、同じ種類ではない商品または役務に関して所有されている周知商標と類似している。
(d)既知の地理的表示と類似している。
第21条(2)項の規定に従い、以下のいずれかに該当する標章は拒絶される。
(a)有名人の名前、略称、写真または他者が所有する法人の名称に相当する、またはこれと類似している。ただし、正当な権利者の書面による同意がある場合を除く。
(b)国家または国内もしくは国際機関の名称、略称、旗、紋章、シンボルまたは象徴を模倣している、またはこれと類似している。ただし、管轄当局の書面による同意がある場合を除く。
(c)国家または政府機関により使用される公的な標識、印章または証印を模倣している、またはこれと類似している。ただし、管轄当局の書面による同意がある場合を除く。
国際出願の出願人が拒絶への応答を望む場合、出願人の応答はインドネシアの法律に従わなければならない。
DGIPが国際出願の保護を認可する場合、DGIPは保護認容声明を発行する。WIPOはこの決定を記録し、国際出願の出願人に通知する。
インドネシアにおける暫定的拒絶通報の期間
インドネシアは、DGIPが国際登録の暫定的拒絶通報を発行すべき期間として、18か月を選択した。ただし、第三者により異議申立が提起された場合、DGIPは18か月の期限後に暫定的拒絶通報をWIPOに通知することができる。