台湾における安全保障に係る発明の保全と保全に関する対価について
1.安全保障に係る発明の保全に関する制度
台湾における発明の保全に関する制度は、台湾専利法(以下、「専利法」という。)第51条に規定されている(専利法第120条で実用新案に準用する。)。また、本条について、中華民国経済部から、「専利案件が国防機密又はその他の国の安全に関わる機密を含む場合の作業要点」(以下、「作業要点」という。)が公表されている。
※「専利」には、特許、実用新案、意匠が含まれ、「専利法」は、これら全てを対象とする法律である。以下では、発明に係る専利として、「特許」、「特許出願」、「特許査定」等の用語を用いて解説する。また、「経済部」「国防部」の「部」は、日本における「省」に該当する政府機関である。
専利法第51条は、発明が、国防上の機密またはその他の国の安全に関わる秘密(以下、「国防上の機密等」という。)に関するものである場合、その発明を秘密にしなければならない、と定めている。専利法の趣旨からは、特許すべき発明は開示されるべきであるが、特許出願された発明が、国防上の機密等に関する場合は、国益を考慮し、その発明は秘密にされ公衆に開示されるべきではないからである。
保全対象となる秘密を保持しなければならない発明に係る特許出願は、国防部またはその他の国家安全関連機関(以下、「国防部等」という。)が、「国家機密」、「軍事機密」、「国防機密」、「国家機密と軍事機密のいずれでもあるもの」、「国家機密と国防機密のいずれでもあるもの」のいずれかに該当すると認定した発明に関する出願である(作業要点 第2条第3項)。
台湾専利法第51条 発明が、審査の結果、国防機密又はその他の国の安全に関わる秘密に関わる場合、国防部又は国家安全関連機関から意見を聴取しなければならない。秘密を保持する必要があると認められた場合、出願書類は封緘する。出願の実体審査を経たものは、査定書を作成し、出願人及び発明者に送達しなければならない。 出願人、代理人及び発明者は、前項の発明について秘密を保持しなければならない。これに違反した場合、当該特許出願権を放棄したものとみなされる。 当該秘密保持の期間は、査定書を出願人に送達した時から1年間とする。また、秘密保持期間を延長することができ、毎回1年とする。専利所轄官庁は期間満了の1ヵ月前に、国防部又は国家安全関連機関に照会し、秘密保持の必要がない場合は、直ちに公開しなければならない。 第1項の発明が特許査定された場合において、秘密保持の必要がなくなったときは、専利所轄官庁は出願人に3ヶ月以内に証書料及び1年目の特許料を納付するよう通知しなければならず、前記費用が納付された後はじめて公告される。期間が満了しても前記費用を納付しなかった場合、公告を行わない。 秘密保持期間に出願人が受けた損失について、政府は相当の補償を与えなければならない。 |
2.発明の保全に関する制度の内容
2-1.国防上の機密等を含む特許出願の審査
一般的に、秘密保持の必要性を伴う特許出願の処理には、国によって次の2つの方法のいずれかを採用している。一つは、秘密を保持したまま、秘密解除前に特許査定をせずに、国は出願人に一定の補償を与えるというものである。もう一つは、特許出願の審査が行われ、特許要件を充足すれば特許査定されるが、公開を行わず、機密解除後に公開されるというものである。台湾は、後者のアプローチを採用している(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】一)。
台湾経済部智慧財産局(以下、「智慧財産局」という。)は、特許出願の審査において、出願書類に国防上の機密等を含む発明が開示されていると判断したときは、国防部等の意見を聴取する(専利法第51条第1項)。これは、秘密保持の必要性があるか否かは、国防業務を担当する国防部等が最も熟知しているからである。
そして、秘密保持の必要性がある場合は、特許出願の書類を封緘する(専利法第51条第1項)。出願人が実体審査の請求をした場合、査定書を作成し、出願人と発明者に送達するが、その際は公告を保留する理由も査定書に記載される(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】一)。
2-2.出願人等の秘密保持義務と義務違反に対する法的措置
保全の対象となった発明に係る特許出願は公開されず(専利法第37条第3項第2号)、保全の対象となった発明について、出願人、発明者、および代理人(以下、「出願人等」という。)は守秘義務を負い、出願人等が秘密保持義務に違反した場合、その特許出願を放棄したものとみなされる(第51条第2項)。守秘義務は、出願人等だけでなく、智慧財産局の審査官にも課される(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】柱書)。
国防上の機密等を含む特許が公告されるのは、機密が解除された後である。特許権の効力は特許が公告された後に発生する。したがって、公告前は、出願人は未だ特許権を取得しておらず、出願は審査完了の状態に過ぎない。出願人等が、守秘義務に違反して情報を公開した場合、特許出願の放棄とみなされ、秘密解除後、出願人は、専利法上の権利享有を主張できなくなる。また、国家機密を漏洩する行為については、刑法などに関連規定があり、罪に該当する場合は、刑事責任を問われることとなる(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】二)。
台湾専利法第37条 専利所轄官庁が、発明特許出願書類を受理した後、審査の結果、手続に規定に合致しない箇所がなく、かつ公開すべきでない事情がないと認めた場合、出願日から18ヶ月後に当該出願を公開しなければならない。 専利所轄官庁は、出願人の請求により、その出願を早期公開することができる。 発明特許の出願が、次の各号のいずれかに該当する場合、公開しない。 1. 出願日から15ヶ月以内に取り下げられた場合。 2.国防上の機密又はその他の国家安全に関わる機密に及ぶ場合。 (以下省略) |
2-3.秘密保持の期間および機密解除の手続
秘密保持の期間は1年間であるが、秘密保持の必要性がある場合は、1回につき1年の延長をすることができる(専利法第51条第3項)。秘密保持期間が満了する1か月前に、智慧財産局は、国防部等に照会し、秘密保持の必要性があるかを確認し、秘密保持の必要性がない場合には、直ちに秘密解除し公開する。これは、国防上の機密等を含む特許出願と判断され、秘密にすべきであった発明でも,状況によっては秘密にする必要がなくなる場合がある。よって、出願人の権利利益を保護し、出願人ができるだけ早く特許権を取得できるように、秘密保持期間は1年ごとに見直すことにしている(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】三)。
さらに、特許査定の後、国防部等が技術内容を秘密にする必要がなくなったと判断した場合、智慧財産局は、3か月以内に証書料および初年度の特許料を納付するよう出願人に通知する。期限までに納付された場合は公告し、期限までに納付されなかった場合は公告を行わない(専利法第51条第4項)。この規定は、2011年の専利法改正によって追加されたものである。
2-4.保全対象とされた場合の補償
公共の利益のために出願人の権益が損なわれた場合には、政府は補償金を支給して出願人の権益を公平に保護すべきとの観点から(專利法逐條釋義 第51条【内容説明】五第5項)、秘密保持期間に出願人が受けた損失について、政府は相当の補償を与えなければならないと規定されている(専利法第51条第5項)。請求主体は出願人と考えられ、補償対象は「秘密保持期間に出願人が受けた損失」である。補償請求額は、単に「相当の補償」と規定されているに留まり、具体的な基準は示されていない。
2-5.外国出願の禁止
専利法では、専利法第51条の秘密保持の対象となる発明について外国で特許出願をすることを明示的に禁止する規定は置かれていない。ただし、秘密保持義務を負う以上、外国での出願もできないという解釈がされる可能性は否定できないので、実際にこのような状況が生じた場合には、所轄官庁および専門家に相談することが推奨される。
2-6.保全措置に対する不服申立て
秘密保持について、訴願法に基づき、不服申立てを行うことができる。「訴願」は、日本の行政不服審査法に基づく審査請求に類似する制度であり、行政処分に不服がある場合には、処分を受けた者が、処分をした行政庁の上級行政庁等に対して不服申立てをするものである。処分の送達を受けた日から30日以内に提起する必要がある(訴願法第1条、第14条)。
3.智慧財産局における国防上の機密等を含む特許出願の処理
出願人が、特許出願に際して、国防上の機密発明等に該当することを申告する義務があるか否かについては、法令上、特にこれを義務付ける規定はおかれていない。また、いかなる場合に国防上の機密発明等に該当するかについて、明確な基準が公表されているわけでもないが、「作業要点」によれば、智慧財産局が、国防上の機密等を含む特許出願を処理する際の主なプロセスは、以下のとおりである。
(1) 出願人が、特許出願は国防上の機密等を含む旨申告した場合、智慧財産局は、要約、明細書、特許請求の範囲および図面を国防部等に送付の上、これらの意見を聴取する(作業要点 第5条第1項)。
特許出願時に申告がなかった場合、出願人は、遅くとも特許出願の公開準備作業の完了前までに、出願が国防上の機密等を含む旨の申告書を提出しなければならない。申告書は、要約、明細書、出願の範囲および図面に添付して、国防部等に送付され、これらの意見を聴取する(作業要点 第5条第2項)。
出願人が前記期間を過ぎても申告書を提出しない場合、出願は一般出願手続に基づいて審査され、審査の結果、国防上の機密等を含むと判断された場合、国防部等に必要な書類を送付し、これらの意見を聴取する(作業要点 第5条第3項)。
(2) 意見を聴取した結果、特許出願に係る発明を秘密保持にする必要性はないと判断された場合、特許出願は、一般出願手続に基づいて処理される(作業要点 第6条)。
(3) 秘密保持の必要性のある特許出願の各段階の審査プロセスは、以下のとおりである(作業要点 第7条)。
(a) 方式審査段階で、出願人に、出願が公開されない旨を通知する。
(b) 特許公開前の審査段階において、関連する作業を非公開とする。
(c) 以下の場合、関連する規定に従い、公開手続を行う。
・出願日から3年以内に実体審査の請求がなく、専利法第38条第4項の規定により出願が取り下げられたものとみなされ場合において、智慧財産局が、国防部等に照会した結果、秘密保持の必要性がないと判断した場合。
・国防部等が承認した秘密保持期間が満了し、または、秘密保持解除の条件を満たした場合。
(4) 当該出願が、秘密を保持する必要があると認められた場合、秘密保持期間は、査定書が出願人に送達された時から1年間とする。また、秘密保持期間は延長することができ、毎回1年とする。秘密保持期間が満了する1か月前に、智慧財産局は、国防部等に照会して、秘密を保持する必要性があるかを確認する。秘密保持する必要性がないと判断した場合には、直ちに秘密保持を解除し、要約書、明細書、特許請求の範囲および図面を電子スキャンした上で公開手続を行う(作業要点 第11条第1項)。
韓国における安全保障に係る発明の保全と保全に関する対価について
1.安全保障に係る発明の保全に関する制度の法的枠組み
1-1.特許法上の国防関連条文の歴史的変遷
安全保障に係る発明、すなわち国防上必要な発明に関する規定の歴史的な変遷は、次のとおりである。
1952年4月13日当時(法律第238号一部改正時)の韓国特許法(以下「特許法」という。)第34条によると、発明が公益上または軍事秘密上、有害であると思われるときには秘密保持を命じ、特許を保留できると規定している。
1961年12月31日当時(法律第950号全部改正時)の特許法第17条によると、国防上、公益上で必要な場合に制限、収用、取消しできるように規定していた。つまり、国防上だけでなく公益上で必要な場合も含まれていた。
1990年1月13日当時(法律第4207号全部改正時)の特許法第41条で、公益上が削除され、国防上に必要な場合にのみ制限、収用、取消しできるよう変更された。
そして、2014年6月11日当時(法律第12753号一部改正時)の特許法第41条において修正はなく、国防上で必要な場合にのみ適用されるように規定されており、現行法と同一である。
1-2.特許法および施行令等の関連規定
国防関連特許の規定は、特許法および実用新案法、特許法施行令、特許庁訓令および告示、審査基準等において詳細事項を定めており、列挙すると下記の規程がある。特に特許・実用新案審査基準(特許庁例規第131号/2023.03.22改正)に総合整理されている。
・国防上必要な発明等(特許法第41条)
・特許権の収用(特許法第106条)
・政府等による特許発明の実施(特許法第106条の2)
・補償金又は対価に関する不服の訴え(特許法第190~191条)
・国防関連特許出願の秘密取扱等(特許法施行令第3章第11~16条)
・特許・実用新案審査基準(第7部第3章 国防関連出願審査)(特許庁例規第131号,2023.03.22改正)
・国防関連特許出願の分類基準(特許庁訓令第822号,2015.07.25改正)
・特許実用新案審査事務取扱規定(第3節 国防関連出願)(特許庁訓令第665号,2010.04.28)(同令第866号,2017.03.01)
・出願関係事務取扱規定(第14条)(特許庁訓令第814号,2015.05.07)
・登録事務取扱規定(第17条)(特許庁訓令第792号,2014.12.01)
・特許権の収用実施等に関する規定(大統領令第23488号,2012.01.06日改正)
・保安業務規程(大統領令第31354号,2020.12.31日改正)
・特許庁保安業務規程施行細則(特許庁訓令第641号,2009.11.02一部改正)
・大韓民国の政府とアメリカ合衆国の政府間の特許出願がされた国防関連発明の秘密保護に関する協定(1992.01.06署名,1993.07.29発効)
・上記協定および同施行手続の細部施行要領(特許庁告示第2009-19号,2009.08.24改正)
2.発明の保全に関する制度の内容
2-1.保全対象となる出願に係る発明のスクリーニング方法(明細書等に保全対象となる発明が開示されているかの判断基準(特定技術分野等)、判断手法)
国防関連出願の分類基準は、特許庁長(特許庁長官)が防衛産業庁長と協議して定めることになっている。
国防関連出願は、韓国特許庁訓令第822号(国防関連特許出願の分類基準)に該当するとして、審査官が国防関連出願で確定分類した後、防衛事業庁でも同一に認められた出願である。
国防関連出願に該当する国際特許分類は、航空、潜水艦、ミサイル、装甲車等の機械関連分類8つと爆薬、起爆装置等の化学関連分類の4つがある(特許庁訓令822号別表参照)。
上記国防関連分類基準に該当するとしても、国内の住所または営業所を持つ者の出願でない場合、防衛事業法等の規定による主要防産物資に該当しない場合、国防性秘密にならないものと認められる場合は除外される(特許庁訓令822号第2項参照)。
特許協力条約による国際出願が、国防関連特許出願の分類基準に該当するときは、特許協力条約第12条の規定による記録原本および調査用写本を国際事務局および管轄国際調査機関へ送付することを保留し、管掌審査局へ国際出願書類一切を移送する。
2-2.保全対象となるかの審査取扱手続(専門審査機関及び審査の内容等)
特許庁長は、国内に住所または営業所を持つ者の特許出願が国防関連分類基準に該当される場合には、防衛事業庁長へ秘密として分類し取り扱う必要があるか否かを照会しなければならず、照会事実を発明者·出願人·代理人へ通知して保安を維持するよう要請しなければならない。
特許庁長は、防衛事業庁長に照会した場合には、その特許出願の発明者、出願人、代理人およびその発明を知っていると認められるものに、その事実を通知して保安を維持するように要請しなければならない。
防衛事業庁長は、照会を受けた場合、2か月以内に返信しなければならず、その特許出願について秘密の取り扱いが必要であると認める場合には、特許庁長に秘密として分類し取り扱うよう要請しなければならない。
特許庁長は、秘密として分類し取り扱うことの要請を受けた場合には、「保安業務規程」に従って必要な措置を取り、その特許出願の発明者等へ秘密として分類し取り扱うよう命じなければならない。秘密に取り扱うことの要請を受けなかった場合には、その特許出願の発明者等には、保安維持要請の解除通知をしなければならない。
特許庁長は、秘密からの解除、秘密保護期間の延長または秘密等級の変更要否を年2回以上防衛事業庁長と協議して必要な措置をとらなければならない(特許法施行令第12条、第13条参照)。
2-2-1.出願人が国防関連出願として表示した場合の審査取扱手続
出願人が、国防関連出願として表示した場合、該当出願を対外秘として受付した後、防衛事業庁長に出願書類の副本を送付し、秘密取扱が必要であるかを協議する。
当該発明についての出願人の代理人へ、保安を維持するよう要請する。
防衛事業庁に協議した結果、秘密取扱として要請を受けた場合、出願人等に秘密取扱命令等の保安業務規程により措置をとる。
該当出願は、書誌事項のみ電算入力後、特許審査企画課に移管して特許分類を確定した後、該当分類審査局に移管する。
秘密出願に対する審査過程は、一般出願の審査過程と同一であり、審査順位が来たら審査する。ただし、秘密として管理されるため、秘密出願書類を審査局で貸し出し審査進行をする等の関連秘密維持規定に従う。
2-2-2.国防関連出願として表示ない場合の審査取扱手続
出願人が、国防関連出願として表示しない場合、出願分類表示において主分類または部分類が国防関連特許分類として確定される場合、審査官は国防関連出願として管理すべきか否かを決定しなければならない。
出願が、国防関連分類基準に適合すると判断される場合、防衛事業庁に送付し秘密取扱の是非を照会し、上記1項のような手続を踏んでいるか審査する。
2-3.保全対象と判断された場合の措置
2-3-1.特許出願の非公開(公開禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)
防衛事業庁に協議した結果、秘密として取扱要請を受けた場合、出願人等に秘密取扱命令および保安業務規程により秘密として取扱うよう命じなければならない。(特許法41条1項、施行令12条)
秘密として分類された出願に対しては、秘密取扱の解除時まで出願公開または登録公告を保留しなければならず、その秘密取扱が解除されたときには、遅滞なく出願公開または登録公告をしなければならない。
審査官が、秘密として分類された出願を審査した結果、技術内容が秘密として維持する必要がないと認められる場合には、秘密解除の可否を防衛事業庁と協議することができる。
秘密として分類された出願に対する通知書は、対外秘で作成し、決裁、発送等は書面により行わなければならない。
秘密として分類された出願の登録書類は、秘密が解除される前までに特許審査企画課で管理し、秘密が解除される場合は一般出願書類として取り扱い、拒絶決定された出願書類は情報管理課長が管理番号を付与して一般秘密文書と同一の規定により保管、管理する(特許庁例規第131号参照)。
2-3-2.外国出願の禁止(外国出願禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)
特許出願が、国防上必要な場合と確定された場合、外国出願の禁止を命ずることができる(特許法41条1項)。
国内に住所または営業所を有する者が、特許出願した発明が特許庁長から保安維持の要請を受けたり、秘密として分類し取り扱うよう命令を受けた場合であっても、特許庁長の許可を受けた場合には、外国に特許出願をしたりすることができる(特許法施行令第15条)。
特許庁長は、秘密として取り扱われている発明の一定範囲の公開または実施許可、外国への特許出願の許可をしようとする場合には、あらかじめ防衛事業庁長と協議しなければならない(特許法施行令第16条)。
韓国は、米国と国防関連発明の秘密保護に関する協定を締結し、両国間における国防関連発明の秘密保障、および両国間に対しての出願を許可している。ただし、秘密取扱認可を受けた代理人の指定等、上記協定内容を遵守しなければならない(大韓民国の政府とアメリカ合衆国の政府間の特許出願がされた国防関連発明の秘密保護に関する協定および同施行手続の細部施行要領第6条)。
2-3-3.その他の保全措置(実施及び実施許諾の制限等)
特許発明が戦時、事変またはこれに準ずる非常時に国防上必要な場合には、特許権を収用することができ、特許権外の専用実施権・通常実施権も消滅する(特許法第106条第1、2項)。
2-4.保全対象とされた場合の補償(補償制度の有無、主体的要件、補償請求理由及び補償請求額)
出願人は、外国への特許出願が禁止されたことによる損失または秘密として取り扱うことによる損失に対する補償金を防衛事業庁長に請求することができ、請求する場合、補償金請求書と損失を立証できる証拠資料を提出しなければならない(特許法施行令第14条第1項、第2項)。
防衛事業庁長は、出願人から補償金の請求を受けた場合には、補償額を決定し支給しなければならず、必要な場合には特許庁長と協議することができる(特許法施行令第14条第3項)。
特許権を収用する場合には、特許権外の権利も消滅するため、特許権者、専用実施権者または通常実施権者に対して正当な補償金を支給しなければならない。(特許法第106条第3項)
政府または第一項による政府外の者は、第一項により特許発明を行う場合には、特許権者、専用実施権者または通常実施権者に正当な補償金を支給しなければならない(特許法第106条の2第3項)。ただし、上記秘密取扱命令に違反した場合、また外国出願禁止命令に違反した場合、特許を受ける権利および損失補償金の請求権も放棄したものとみなす(特許法41条5項、6項)。
2-5.保全措置に対する不服申立(不服申立手段の有無、主体的要件、申立の内容・手続)
特許が国防上必要な場合、政府は外国へ特許出願することを禁止すること(特許法第41条第1項)や、特許しないことができ(特許法第41条第2項)、戦時、事変またはこれに準ずる非常時には、特許を受けられる権利または特許権を収用できる(特許法第41条第2項、第106条第1項)。または、特許発明が国家非常事態、極度の緊急状況または公共の利益のために非商業的に実施する必要がある場合には、政府がその特許発明を実施すること、政府外の者に実施させることができる(特許法第106条の2)。このような決定等は、一般的に主務部長官の申請により特許庁長の決定という行政処分により行われ(特許権の収用実施等に関する規定第2条第1項)、該当決定は行政処分に該当するため行政審判または行政訴訟を介して不服申立ができる。
一方、国防上の必要性による海外への特許出願禁止や特許等の収用および実施については、政府が正当な補償金を支給するよう規定しているが、特許法では別途の規定を介して補償金または代価に対する不服訴訟を提起できるように定めている(特許法第190条)。このとき、(ⅰ)外国への特許出願禁止および特許しなかったり、収用したりした場合に対する補償金については、中央行政機関の長または出願人、(ⅱ)特許権の収用や政府の特許実施等による補償金に対しては、中央行政機関の長、特許権者、専用実施権者または通常実施権者を被告にするよう定めている(特許法第191条)。
3.まとめ及び留意点
特許庁は、国防関連機関とのMOU契約(基本合意書)を締結しながら、国防特許技術の導入を願う企業に先端技術協力および活性化のために積極支援するものと見られ、これにより関連特許技術の高度化も期待している。
また、半導体分野技術を核心産業育成技術と定め、先端技術流出の防止策とともに、国家経済安保に関連する技術に対しても秘密特許制度適用対象に拡大する等の多様な政策と関連特許法等の改正の動きも見られる。
したがって、今後は、日本等の国際的趨勢に合わせた法改正に注視する必要があると思われる。
トルコにおける第一国出願義務
【詳細】
トルコ国内でなされた発明に関する登録出願をトルコで最初に行う必要があるとする法規定は存在しない。しかし、下記の「秘密特許」と題された産業財産法第124条は、以下のとおり、一定の発明については、国防省の許可なしに他国で特許出願することができないと規定している。
・トルコ産業財産法第124条
(1)トルコ特許商標庁は、出願に係る発明が国の安全の観点から重要であると判断した場合、出願の写しを、見解を得るために国防省に送付し、状況を出願人に通知する。
(2)トルコ国防省は、出願に係る発明を秘密裏に実施することを決定した場合、通知日から3か月以内に決定を特許庁に通知する。秘密裏に行われることの決定がなされない場合または期間内に特許庁に通知しない場合、出願に関する業務は開始される。
(3)特許出願が秘密の対象となる場合、特許庁は状況を出願人に通知し、出願審査を進める前に出願を秘密特許出願として登録する。
(4)特許出願人は、秘密特許出願に係る発明を、権限がないものに開示することはできない。
(5)特許出願人の要求により、特許出願に係る発明の一部または全部使用が国防省により許可されうる。
(6)特許出願人は、特許出願の秘密保持期間について政府から補償を請求することができる。支払われる補償額に関して合意に達しない場合、補償額は裁判所により決定される。補償は、発明の重要性および出願人が自由に使用する場合取得するであろうと推定される利益の額を考慮して算出される。特許出願人の過失により秘密特許出願の対象となる発明が開示された場合、補償請求権は消滅する。
(7)秘密特許出願に関して秘密保持期間中、特許庁に特許登録料は支払われない。
(8)トルコ特許商標庁は、国防省の要求により、特許出願のために予見された秘密保持を取り消すことができる。秘密保持が取り消された特許出願は、秘密保持が取り消された日から特許出願として業務が行われる。
(9)トルコで生まれた発明が国の安全の観点から重要である場合、他国で特許出願をすることができない。トルコで生まれた発明に関して特許庁に行われた特許出願が第1項から第8項の条項の対象となる場合、国防省の許可なしに他国で特許出願をすることができない。
(10)発明者の居住地がトルコである場合、反証が行われない限り、発明がトルコで行われたと認められる。
上記の規定により、トルコ特許商標庁が出願に係る発明が国の安全の観点から重要であると判断し、国防省が出願業務を秘密裏に行うことを決定した場合、国防省の許可なしに他国で特許出願を行うことはできない。すなわち、産業財産法第124条で規定されている例外の場合、他国への出願は国防省の許可に左右される。
上記の例外に該当しないトルコでなされた発明に関する特許出願を最初にトルコで行う義務は産業財産法に規定されていない。
実務上、トルコでなされた発明は、PCTおよびEP出願として行うこともできる。産業財産法第93条によると、トルコを含むパリ条約またはWTO設立協定の加盟国である政府に対して特許または実用新案に関する出願を適法に行った出願人は、同一の発明についてトルコで出願する際に、最初の出願日から12か月以内であれば優先権を主張することができる。
【留意事項】
産業財産法において、国防省の許可なしに国の安全の観点から重要である発明を他国で出願することに関する罰則は規定されていない。
トルコでなされた、国の安全の観点から重要である発明に関する最初の特許出願をトルコ国外で行い、トルコでの出願に際して優先権を主張した場合についても、産業財産法において罰則は規定されていない。
インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限
【詳細】
インド特許法(The Patents Act, 1970(incorporating all amendments till 23-06-2017))第39条によれば、以下の条件が満たされた場合を除き、インド居住者によるインド国外への特許出願が制限される。
・同一発明についての特許出願が、インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされており、かつ当該インド出願に対して第35条に基づく秘密保持の指示が発せられなかった場合。または、
・外国出願許可(foreign filing license: FFL)をインド特許庁長官から得た場合。
・インド特許法第39条 居住者に対する事前許可なしのインド国外の特許出願の禁止
(1)インドに居住する何人も,所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は,発明につきインド国外で特許付与の出願をし又はさせてはならない。ただし,次の場合はこの限りでない。
(a)同一発明についての特許出願が,インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされていた場合,及び
(b)インドにおける出願に関して第35条(1)に基づく指示が一切発せられておらず又は当該指示が全て取り消されている場合
(2)長官は所定の期間内に各当該出願を処理しなければならない。
ただし,当該発明が国防目的又は原子力に関連するときは,長官は中央政府の事前承認なしに許可を与えてはならない。
(3)本条は,保護を求める出願がインド国外居住者によりインド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない。
第39条の起源は、1907年英国特許法にさかのぼる。第39条の適用範囲は、当初は政府に譲渡される発明のみに限定されていたが、第二次世界大戦中、その範囲は公衆による発明にまで拡大された。
現在の第39条の運用を見ると、インドに居住する発明者が発明を行った場合(発明者の全員がインド居住者である場合であれ、1人以上のインド非居住発明者を含む場合であれ)、本条文は適用される。発明者の全員がインド居住者であり、出願人もインド居住者である場合にとりうる最も簡略な方法は、まずインド特許出願を行い、インド国外への特許出願を行うまで6週間の経過を待つことである(代替案は後述する)。他方、インド居住者とインド非居住者が共同で発明を行った場合で、インド非居住の発明者または出願人が他国においても同様の義務を有する場合、とりうる最も簡略な方法は、インド特許庁からFFLを得ることである。
FFLを得るためには、インド居住発明者の場合、所定の書式(Form 25)および発明の簡単な説明(通常は最低3ページの文書)を提出する必要がある。弁護士または弁理士がインド居住の発明者を代理してFFLを請求する場合、インド居住発明者の委任状が必要となる。手数料はインド居住発明者の場合、8,000ルピーである(*)。なお、インド特許規則71によれば、提出書類の不足や記載不備がない限り、FFLは請求の提出日から21日以内に認められる。
(*)オンライン出願を行った場合で、出願人が個人または小規模企業でない場合の手数料
第39条の規定を解釈するときに直面する問題を以下に掲げ、説明する。
1.第39条による規制の適用対象は誰か
第39条は、「居住者」に適用される。また、第1項は以下のように規定している。
「インドに居住する何人も、所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は、発明につきインド国外で特許付与の出願をし、またはさせてはならない。」
したがって、本条の適用において国籍や市民権は無関係である。
次に、「人」は自然人および法人を含むため、本条は、インド居住者である発明者およびインドに居所を有する企業を含む。
第3項に以下の例外規定がある。
「本条は,保護を求める出願がインド国外居住者により、インド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない。」
2.インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、他の発明者がいずれも非インド居住者の場合でもFFLを請求する必要はあるのか
インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、インド特許庁に対しFFLを請求し、これを得た後にインド国外に出願することが要求される。FFLは、インド居住発明者が請求することができる。出願人がインド企業である場合、インド居住発明者の代わりに、インド企業がFFLを請求することができるが、インド居住発明者からインド企業への当該発明に対する権利の移転を示す証拠文書も提出する必要がある。
3.特許法は「居住者」や「インドに居住する人」について定義しているか
特許法は、どのような場合に「居住者」や「インドに居住する人」に該当するのか、具体的に定義していない。改正前の1970年特許法や、2002年特許法(現行法第39条に相当する条項を含む)、また現行のインド特許法2017年6月23日版においても、これらの用語について定義されていない。
4.インドの他の法律で「居住者」や「インドに居住する人」を定義しているものはあるか。もしある場合には、インド特許庁やインドの裁判所が、それらの法律における「居住者」や「インドに居住する人」の定義を採用する可能性はあるか
「居住者」や「インドに居住する人」は、少なくとも他の二つの法律において定義されている。それは、所得税法(Income Tax Act,2012)と外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act(FEMA),2000)である。
所得税法および外国為替管理法はそれぞれ、「居住者」と「インドに居住する人」を定義しているが、その定義はあくまで当該法律を解釈することを目的とする旨が、それぞれの法律に明記されている。さらに、この二つの法律における定義を比較してみると、その定義は一致しない。そもそも、これらの法律と特許法では目的を全く異にしており、インド特許庁やインドの裁判所が、所得税法や外国為替管理法における「居住者」や「インドに居住する人」の定義をそのまま採用する可能性は極めて低い。
以上に照らせば、係争などになった場合、インド特許庁やインドの裁判所は、複数の辞書に示されている一般的定義に基づき、かつ特許法の立法趣旨や、他国(英国,米国等)の特許法における同等の規定も参照しつつ、「居住者」や「インドに居住する人」について適切と判断する定義を採用するものと考えられる。
5.規定された21日の期間内に外国出願許可を確実に得るためにすべきことは
インド特許庁と請求人とのやり取りの過程で露呈する不備等により、手続きが遅れることがある。必要書類の提出漏れや記載不備などがこれに該当する。したがって、請求人は、FFL請求を提出する際、発明を明確かつ十分に開示し、また代理人を通して請求を提出する場合には委任状を付すことを怠ってはならない。これらの書類を遅滞なく提出することにより、規則で定められる21日の期間内にFFLが認められる確率が高くなる。
6.不注意によりインド国外に特許出願を行った後で、FFLを請求することは可能か
不注意によりインド国外に特許出願を行った後でFFLを請求する仕組みについて、特許法には規定がない。
7.不注意によりFFLを得ずインド国外に特許出願を行った場合、いかなる事態が起こるのか
第39条を順守しない場合、少なくとも以下の措置がとられることになる。
(a)当該インド特許出願は放棄扱いとされる、
(b)特許登録されていた場合は取消処分とされる、
(c)2年以内の禁固刑、罰金、もしくはこれらが併科される。
8.第39条に係る特許規則71が改正された。
第39条は改正される予定はないが、特許規則71は2017年6月23日付で改正され、ただし書きが追加された。そこには「国防又は原子力に関する発明の場合は、21日の期間は、(インド特許庁が)中央政府からの同意の受領日から起算する」と規定されている。したがって、FFL請求がインド特許庁から中央政府に付託された場合、21日の期間は、インド特許庁が中央政府の承認を受領した日から計算されることになる。
・インド特許規則71 第39条に基づいてインド国外で特許出願をする許可
(1)インド国外で特許出願をする許可を求める請求は,様式25によらなければならない。
(2)長官は,(1)に基づいてされた請求を,当該請求の提出日から21日の期間内に処理する。
ただし,国防又は原子力に関する発明の場合は,21日の期間は,中央政府からの同意の受領日から起算する。
【留意事項】
第39条不順守の場合に起こりうる深刻な事態に照らせば、インド国外に特許出願する前にインドに居住する発明者によってFFLを得ること、あるいは最初にインドに特許出願し、その後6週間の間に秘密保持命令を受けなかった場合にインド国外に特許出願することが必須である。
トルコにおける第一国出願義務
【詳細】
トルコ国内で生まれた発明について、第一国出願義務があるか否か(トルコ国外に出願する前にトルコ特許庁に出願する必要があるか否か)という点について、国内で生まれた発明についていずれも最初にトルコに特許出願すべきと直接的に義務付ける規定はトルコ特許法にはない。一方、トルコ特許法第125条および第128条は、以下を規定する。
トルコ特許法第125条(秘密保持の条件):
・・・トルコ特許庁は、出願に係る発明が、国防に重要であるものとみなすに至る場合は、・・・当該状況を文書で出願人に通知するものとし、直ちにトルコ国防省に出願の複写を送達することによりトルコ国防省に伝達するものとする。・・・
トルコ特許法第128条(秘密特許の外国における出願に係る許可):
トルコにおいてなされた発明が第125条を条件として、トルコ特許庁の許可なくトルコ特許庁に対する特許出願日から2月の期間の満了前に何れの外国においても当該発明につき特許出願はできない。外国出願の許可は,トルコ国防省の具体的な許可がなければ発行されないものとする。
発明者がトルコに居住する場合で,反証を欠くときは,発明はトルコでなされたものとみなす。
これらの規定は、トルコ国内で生まれた発明がトルコの国防にとって重要である場合は、トルコ特許庁の許可がなければ、トルコ国外に特許出願することができない、ことを意味する。つまり、トルコ特許法第125条および第128条の組み合せから、トルコの国防にとって重要な発明がトルコ国内でなされた場合は、最初にトルコに出願すること(第一国出願義務)が求められる。
なお、トルコ国内で生まれたトルコ国防にとって重要性を有する発明について、トルコに第一国出願しなかった場合についての罰則は、トルコ特許法には規定されていない。
また、トルコに第一国出願した発明がトルコ特許庁によってトルコ国防に重要であるものとみなされた後に、トルコ特許庁の許可なく同一発明について外国に特許出願した場合、についての罰則も、トルコ特許法には規定されていない。
さらに、トルコ国内で生まれたトルコ国防にとって重要性を有する発明についてトルコ国外に第一国出願し、このトルコ国外出願を優先権主張してトルコに出願した場合の取り扱いについても、トルコ特許法には規定されていない。
トルコ特許法に明確な規定はないが、トルコの国防にとって重要性を有さないことが明白である場合は、トルコで生まれた発明であっても、最初にトルコ国外に特許出願してもよい、と考えられている。
実際には、トルコにおいてなされた発明について、トルコに第一国出願をするよりも、PCT出願またはEPOへ欧州特許出願(以下EP出願)がなされることが多い。PCT出願またはEP出願の場合、出願から12か月(優先権主張期間終了)よりも十分前に出願に関する調査報告書を取得することができ、出願人にとって、対応外国出願を行うべきか否かを評価することができる、というメリットがあるからである。一方、トルコ出願については、トルコ特許庁において調査報告書が作成されて出願人へ送付されるまでには、通常、出願から12ヶ月を超える。
ただし、トルコ特許法第125条および第128条の目的が有効に達成されるためには、トルコ特許庁が最初に発明を確認する必要がある。このため、トルコにおいてなされた発明についてのPCT出願またはEP出願は、たとえトルコを指定国に含んでも、トルコ特許法第125条および第128条が間接的に要求する第一国出願義務を満たすことにならない。
したがって、トルコ国内で生まれた発明がトルコ国防にとって重要性を有する場合は、PCT出願やEPC出願ではなく、トルコ特許出願または実用新案出願を最初にトルコ特許庁に行う必要がある。
また、トルコ国内で生まれた発明が、トルコ国防にとって重要性を有する可能性があるのであれば、トルコ特許出願または実用新案出願を最初にトルコ特許庁に行うべきであろう。
【留意事項】
トルコ国内で生まれた発明がトルコ国防にとって重要性を有する場合は、PCT出願やEP出願ではなく、トルコ特許出願または実用新案出願を最初にトルコ特許庁に出願する必要がある。
オーストラリアで生まれた発明の取扱い(国家安全保障に関連する法規制)
【詳細】
1.一般ルール
オーストラリアには、特許出願をオーストラリアに第一国出願しなければならない、とする法規定は存在せず、出願人は自ら選択した国に第一国出願することができる。
ただし、オーストラリア国外へ出願するに際し、出願人は、当該出願対象の発明が以下の「戦略的技術」に該当するか否か検討しなければならない。「戦略的技術」に該当する場合、当該情報を国外に持ち出す前に政府の承認を得ることが必要となる。
2.戦略的技術
オーストラリアにとって戦略的に重要な情報の国外持ち出しを規制する法律として、2012年防衛取引管理法(the Defence Trade Control Act of 2012: DTCA)が存在する。DTCAは、戦略的かつ軍民の両用可能な物品・技術を適用対象とする。
DCTAは、防衛戦略上、機密扱いされるべき情報や技術を、輸出、提供または公開することを同法の違反行為としているが、オーストラリアで生まれた発明がかかる情報や技術に該当する場合、外国出願する目的で行われる発明情報のあらゆるやり取りに適用される可能性がある。
特定の物品、ソフトウェア、技術が「防衛戦略物資リスト(Defence and Strategic Goods List: DSGL)」に含まれているか否かを判断する際に、オーストラリア国防省のオンラインツール(https://dsgl.defence.gov.au)を参照することができる。特定の項目が規制対象であるのか、物品自体がリストアップされているのか、関連する材料、装備、ソフトウェア、技術がリストアップされているのか、について確認する必要がある。コンピュータやソフトウェアといった品目がリストアップされている場合、DSGLに規定された規制閾値と、当該物品の技術仕様や性能を比較し確認する必要がある。
対象技術がDSGLに含まれる場合、オーストラリア国防省に国外持ち出しの許可を申請しなければならない。オーストラリア国防省は、15日以内に承認または拒否を決めることとされている。
また、安全保障に関するさまざまの技術分野に対応した各種の法律が存在し、核兵器・生物兵器を含む大量破壊兵器に関しても、別途規定されている。
なお、オーストラリア特許法第152条および第173条の規定に基づき、オーストラリア特許庁長官は、「戦略的技術」については公開を禁止する命令を発することが可能とされている。ただし、当該規定は、あくまでオーストラリア特許庁に特許出願されたことを前提としており、外国に特許出願する前に安全保障上の確認を要求するものではない。
インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限
【詳細】
インド特許法(The Patents (Amendment) Act, 2005)第39条によれば、以下の条件が満たされた場合を除き、インド居住者によるインド国外への特許出願が制限される。
・同一発明についての特許出願が、インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされており、かつ当該インド出願に対して第35条に基づく秘密保持の指示が発せられなかった場合。または、
・外国出願許可(foreign filing license: FFL)をインド特許庁長官から得た場合。
第39条の起源は、1907年英国特許法にさかのぼる。第39条の適用範囲は、当初は政府に譲渡される発明のみに限定されていたが、第二次世界大戦中、その範囲は公衆による発明にまで拡大された。
現在の第39条の運用を見ると、インドに居住する発明者が発明を行った場合(発明者の全員がインド居住者である場合であれ、1人以上のインド非居住発明者を含む場合であれ)、本条文は適用される。発明者の全員がインド居住者であり、出願人もインド居住者である場合にとりうる最も簡略な方法は、まずインド特許出願を行い、インド国外への特許出願を行うまで6週間の経過を待つことである(代替案は後述する)。他方、インド居住者とインド非居住者が共同で発明を行った場合で、インド非居住の発明者または出願人が他国においても同様の義務を有する場合、とりうる最も簡略な方法は、インド特許庁からFFLを得ることである。
FFLを得るためには、インド居住発明者の場合、所定の書式(Form 25)および発明の簡単な説明(通常は最低3ページの文書)を提出する必要がある。弁護士または弁理士がインド居住の発明者を代理してFFLを請求する場合、インド居住発明者の委任状が必要となる。手数料はインド居住発明者の場合、8,000ルピーである(*)。なお、インド特許規則71によれば、提出書類の不足や記載不備がない限り、FFLは請求の提出日から21日以内に認められる。
(*)オンライン出願を行った場合で、出願人が個人または小規模企業でない場合の手数料
第39条の規定を解釈するときに直面する問題を以下に掲げ、説明する。
1.第39条による規制の適用対象は誰か
特許法第39条は、「居住者」に適用される。また、第1項は以下のように規定している。
「インドに居住する何人も、所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は、発明につきインド国外で特許付与の出願をし、またはさせてはならない」
したがって、本条の適用において国籍や市民権は無関係である。
次に、「人」は自然人および法人を含むため、本条は、インド居住者である発明者およびインドに居所を有する企業を含む。
第3項に以下の例外規定がある。
「本条は,保護を求める出願がインド国外居住者により、インド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない」
2.インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、他の発明者がいずれも非インド居住者の場合でもFFLを請求する必要はあるのか
インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、インド特許庁に対しFFLを請求し、これを得た後にインド国外に出願することが要求される。FFLは、インド居住発明者が請求することができる。出願人がインド企業である場合、インド居住発明者の代わりに、インド企業がFFLを請求することができるが、インド居住発明者からインド企業への当該発明に対する権利の移転を示す証拠文書も提出する必要がある。
3.特許法は「居住者」や「インドに居住する人」について定義しているか
特許法は、どのような場合に「居住者」や「インドに居住する人」に該当するのか、具体的に定義していない。改正前の1970年特許法や、2002年特許法(現行法第39条に相当する条項を含む)においても、これらの用語について定義されていない。
4.インドの他の法律で「居住者」や「インドに居住する人」を定義しているものはあるか。もしある場合には、インド特許庁やインドの裁判所が、それらの法律における「居住者」や「インドに居住する人」の定義を採用する可能性はあるか
「居住者」や「インドに居住する人」は、少なくとも他の二つの法律において定義されている。それは、所得税法(Income Tax Act, 2012)と外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act (FEMA), 2000)である。
所得税法および外国為替管理法はそれぞれ、「居住者」と「インドに居住する人」を定義しているが、その定義はあくまで当該法律を解釈することを目的とする旨が、それぞれの法律に明記されている。さらに、この二つの法律における定義を比較してみると、その定義は一致しない。そもそも、これらの法律と特許法では目的を全く異にしており、インド特許庁やインドの裁判所が、所得税法や外国為替管理法における「居住者」や「インドに居住する人」の定義をそのまま採用する可能性は極めて低い。
以上に照らせば、係争などになった場合、インド特許庁やインドの裁判所は、複数の辞書に示されている一般的定義に基づき、かつ特許法の立法趣旨や、他国(英国,米国等)の特許法における同等の規定も参照しつつ、「居住者」や「インドに居住する人」について適切と判断する定義を採用するものと考えられる。
5.規定された21日の期間内に外国出願許可を確実に得るためにすべきことは
インド特許庁と請求人とのやり取りの過程で露呈する不備等により、手続きが遅れることがある。必要書類の提出漏れや記載不備などがこれに該当する。したがって、請求人は、FFL請求を提出する際、発明を明確かつ十分に開示し、また代理人を通して請求を提出する場合には委任状を付すことを怠ってはならない。これらの書類を遅滞なく提出することにより、規則で定められる21日の期間内にFFLが認められる確率が高くなる。
6.不注意によりインド国外に特許出願を行った後で、FFLを請求することは可能か
不注意によりインド国外に特許出願を行った後でFFLを請求する仕組みについて、特許法には規定がない。
7.不注意によりFFLを得ずインド国外に特許出願を行った場合、いかなる事態が起こるのか
第39条を順守しない場合、少なくとも以下の措置がとられることになる。
(a)当該インド特許出願は放棄扱いとされる、(b)特許登録されていた場合は取消処分とされる、(c)2年以内の禁固刑、罰金、もしくはこれらが併科される。
8.第39条に係る規定が改正される可能性はあるか
第39条が近い将来改正される予定はないが、規則71が改正される可能性はある。2015年10月26日付で、インド特許庁が公告した規則改正案(パブリックコメント募集中)によれば、規則71に新たに(3)項が追加されている。そこには「発明が国防または原子力の出願に関する場合、21日の期間は、中央政府の承認を受領した日から計算される」と記載されている。したがって、この規則改正が成立すれば、FFL請求がインド特許庁から中央政府に付託された場合、21日の期間は、中央政府の承認を受領した日から計算されることになる。
【留意事項】
第39条不順守の場合に起こりうる深刻な事態に照らせば、インド国外に特許出願する前にインドに居住する発明者によってFFLを得ること、あるいは最初にインドに特許出願し、その後6週間の間に秘密保持命令を受けなかった場合にインド国外に特許出願することが必須である。
韓国における特許事由と不特許事由
【詳細】
○特許事由
(1)発明の定義規定(韓国特許法第2条第1項)
「“発明”とは、自然法則を利用した技術的思想の創作として高度なものをいう。」発明の定義規定は特許事由として規定されていないものの、発明に該当しないものに対して特許権を付与することができない。
(2)産業上の利用可能性(韓国特許法第29条第1項本文)
産業上利用できる発明は特許を受けることができるが、産業上利用することができない発明に該当するものには特許権を付与しない。産業には工業だけでなく農業等も含む。個人的、学術的、実験的利用のみを排除するものであるが、保険業務や金融業務等のサービス業務においてコンピュータと結合された保険や金融に関する方法発明のようにコンピュータプログラム関連発明として許容されている点で、サービス業も一律的に産業から除外してはならないと考えられている。
(3)新規性(韓国特許法第29条第1項各号)
新規性とは、発明の内容が公知でないことをいう。新規発明の公開の対価として特許権を付与するものであるため、特許要件として規定している。
(4)進歩性(韓国特許法第29条第2項)
進歩性とは、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が公知技術から容易に発明できないことをいう。進歩性のない発明に特許権を付与することは、特許紛争を誘発するおそれがあり、発明の質を低下させ、産業発展を阻害するため、進歩性がある発明にのみ特許権が付与される。
(5)先願主義と拡大先願主義
先願主義は重複特許を排除するために、二つ以上の出願があるときに先に出願した者に特許権を付与する制度をいう。拡大先願主義は、先願は後願の特許出願後に出願公開もしくは登録公告された場合、請求の範囲だけでなく明細書や図面に記載された発明に対しても拡大して先願の地位を付与し、後願を拒絶できるようにした制度をいう。特許を受けるためには、先願主義と拡大先願主義に違反してはならない。すなわち、同一発明の場合も、他人より先に特許出願すれば特許を受けることができる。
○不特許事由
(1)発明の定義規定を満たさない発明(韓国特許法第2条第1項)
発明の成立性がない発明は特許を受けることができない。すなわち、自然法則そのもの、永久運動の機械装置(永久機関)のように自然法則に違反するものは発明に該当せず、また自然法則以外の法則(数学公式、経済法則等)、人為的な約束(ゲーム規則)または人間の精神活動(営業計画等)を利用している場合も発明に該当しないため特許を受けることができない。
(2)不特許発明(韓国特許法第32条)
公序良俗に反するかまたは公衆の衛生を害するおそれがある発明は特許を受けることができない。ただし、本来の目的以外に不当に使用した結果として公序良俗に反する場合は適用されない。医療分野の場合に特に問題となるが、身体に損害を与えまたは身体の自由を非人道的に拘束する発明に対しては特許権が付与されない。
(3)国防上必要な発明(韓国特許法第41条)
国防上必要な発明は国家安全保障に関連する発明で防衛産業分野の発明をいい、大韓民国憲法第23条に基づいて不特許事由として規定している。