ベトナムにおける商標制度のまとめ-実体編
1. 商標とは
ベトナムの知的財産法 07/2022/QH15(以下「知的財産法」という。)第4条第16項において、「商標とは、異なる組織または個人の商品もしくは役務を識別するために使用される何らかの標識である。」と規定されている。また、特別なタイプの商標としては、団体商標(知的財産法第4条第17項)および証明商標(知的財産法第4条第18項)がある。さらに、ベトナム全土にわたる知名度があれば、周知商標(知的財産法第4条第20項)として保護の対象となる。なお、連合商標制度は、2022年知的財産法の改正で廃止された。
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2. 商標登録の適格性
商標登録の適格要件としては、知的財産法第72条において、以下の2要件が規定されている。
2-1. 商標の種類
商標登録の適格要件の第1は、文字、語句、図形、画像、立体的形状もしくはこれら要素の結合を1もしくは複数の色彩により表示される形式の可視的な標識またはグラフィック形式で表示される形式の可聴的な標識と規定されている(知的財産法第72条第1項(ベトナム語原文に基づく))。さらに、通達 23/2023/TT-BKHCN(以下「通達」という。)第26条第2項b(i)には、単なる色彩やグラフィック形式で表現できない音声信号は、商標として保護されないと明示されている。
2-2. 識別力
商標登録の適格要件の第2は、商標権者の商品または役務を他人の商品または役務と識別する能力を有する、と規定されている(知的財産法第72条第2項)。
例えば、国旗、国章および著名人の名称・肖像などと同一もしくは類似する標識、商品・役務の品質等について需要者を混同させる標識、商品の技術的特徴のみからなる標識などは、商標として保護されない(知的財産法第73条)。
また、識別標識は、目立ち易く、かつ記憶し易い要素、またはそれらの組合せから構成されること、と規定され(知的財産法第74条第1項)、簡単な図案および幾何学的図形、数字、文字、稀な言語の語、商品や役務の一般名称や一般に知られた商品の形状、商品・役務の特徴、原産地などの商品・役務の説明などは、原則、識別力がないものとして登録を受けることはできない。登録を受けるためには、使用による顕著性を立証するか、他の構成要素を伴い識別力を有する商標としなければならない(知的財産法第74条第2項a~dd、通達第26条第3項aおよび第5項)。
特に留意するべきは、日本文字(平仮名・カタカナ)、中国文字(漢字)など非ラテン語由来の文字を含む商標である。これらは、通常の知識を有するベトナムの需要者が認識・記憶できない言語の文字となるため、原則、識別力がないものとして取り扱われる。
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使用による顕著性を立証するため、出願人は、関連商品•役務との識別力を有する証拠(周知された関連消費者の数、使用開始時期、出願日以前の使用範囲および程度、商品の販売および役務の提供による収益等)を提出することで、願書に記載の商標見本が、合法的な生産、事業、商業、広告、マーケティング活動において継続的かつ普遍的に使用されていることを示さなければならない(通達第26条第5項a)。
なお、周知商標と認定されるためには、購入・使用・広告を通じて知った需要者の数、商標の流通領域範囲、取引高、商品数、サービスの量、使用期間、営業権、権利化している国数、周知とされている国数、商標の譲渡価格、ライセンス料および投下資本に対する商標の価値の1または全部の基準を参酌することが規定されている(知的財産法第75条)。
3. 商品・役務について
商品・役務については一出願多区分が認められており、ベトナム国家知的財産庁(以下「IP VIETNAM」という。)が刊行した国際分類(ニース分類)に関する一覧表に基づいて、出願する(知的財産法第105条第3項)。
商品・役務の類否判断基準は、以下のとおり。
3-1. 商品・役務が同一とは(通達第26条第9項a)
(i) 構成要素、構造等の本質的部分が同一であり、機能、使用目的が同じ。または、
(ii) ほぼ同様の本質的部分を有し、機能、使用目的が同じ。
3-2. 商品間または役務間の類似とは(通達第26条第9項b)
(i) 本質的部分が類似しており、同一商業チャンネルを通じて市場に流通される(同一方式で流通され、同一種類の店舗で、関連する公衆/消費者に一緒または隣同士で販売される等)。または、
(ii) 機能、使用目的が類似し、同一商業チャンネルを通じて市場に流通される。
3-3. 商品と役務との間の類似とは(通達第26条第9項c)
(i) 本質的な関係性がある(商品・役務またはその原材料、部品が他方の商品•役務で構成されている)。または、
(ii) 機能的な関係性がある(一方の機能を完遂するには、他方の商品・役務を使用しなければならない、またはそれらは通常一緒に使用される)。または、
(iii) 実行方法に関する密接な関係性がある(一方は、他方の商品・役務の使用、活用の結果である等)。