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インドにおける特許異議申立制度-付与前異議申立と付与後異議申立

1.付与前異議申立
 付与前異議申立は、対象特許出願の公開の日から登録の日まで提出可能である。ただし、申立てられた異議について審査管理官(Controller)が検討するのは、当該出願について審査請求がなされた後である。付与前異議申立の制度は、特許に対して異議を申立てる機会を公衆に与えることを意図しているため、「何人も」申立てることができる(特許法第25条(1))。異議申立人が付与前異議申立を提出する十分な時間を確保するため、特許出願の公開から6か月間は特許権が付与されないことが、インド特許規則(以下、特許規則)に規定されている(特許規則55(1A))。

1-1.付与前異議申立の理由
 付与前異議申立は特許法第25条(1)に規定された11項目の異議理由に基づき、申立てが可能である。このうち代表的な異議理由として、以下の4点が挙げられる。

・出願の請求項に開示された発明が、出願人によって不正に取得された
・何れかの請求項で請求される発明が、当該請求項の優先日の前に公開されていた
・発明が、進歩性を有さない
・出願人が、インド特許法第8条の要求(たとえば、他国で出願された同一または実質的に同一発明に関する詳細情報のインド特許意匠商標総局への提出)を順守していない

1-2.付与前異議申立の手続
 付与前異議申立は、所定の書式(Form 7A)を用いて、インド特許意匠商標総局長官宛に提出する(特許法第25条、特許規則55(1))。申立を考慮した長官が当該出願を拒絶すべきという見解を持った場合、異議申立人が作成した異議申立書の副本を添えて出願人へ通知される(特許規則55(3))。出願人は異議の通知に対して、通知の発行日から3か月以内に、応答書を(証拠と共に)提出しなければならない(特許規則55(4))。出願人は、長官の付与前異議申立に対する決定が下されて手続が終了する前に口頭手続の機会を求めることができる(特許法第25条(1))。
 出願人の意見を考慮した後、長官は、出願の特許付与を拒絶するか、または、特許付与前に出願の補正を求めるか、あるいは異議申立を棄却するか、のいずれかを行う事ができ、通常、長官は、付与前異議申立手続の終了から1か月以内に、決定を下さなければならない(特許規則55(5))。長官による決定に対して、高等裁判所への不服申立が可能である(特許法第117A条、Tribunals Reforms Act 2021第13条)。

図1. 付与前異議申立の手続フロー

2.付与後異議申立
 付与後異議申立は、特許法第25条(2)に規定されている。付与後異議は、特許登録の公開の日から1年以内に申立てなければならない。付与前異議申立と異なり、付与後異議申立は、「利害関係人」のみが申立てることができる。特許法第2条(1)(t)によれば、「利害関係人」とは、当該発明が関係する同一分野の研究に従事している、または、これを促進する業務に従事する者を含む。Ajay Industrial Corporation v. Shiro Kanao of Ibaraki City事件(1983)においてデリー高等裁判所は、「利害関係人」とは、「登録された特許の存続によって、損害その他の影響を受ける、直接的で現実の、かつ具体的な商業的利害を有する」者と解釈している。付与後異議申立の異議理由は、付与前異議申立の異議理由と同様である(特許法第25条(2))。

2-1.付与後異議申立の手続
 付与後異議申立は、所定の書式(Form 7)を用いて、特許意匠商標総局長官宛に異議申立書を提出する(特許規則55A)。異議申立書の受領後、長官は付与後異議申立の合議体として審査管理官3名からなる異議委員会(異議部)を設置する(特許法第25条(3)、特許規則56(1))。当該出願を審査した審査官は、委員会メンバーとしての適格性をもたない(特許規則56(3))。通常は、次席審査管理官(Deputy Controller of Patents)または審査管理官補(Assistant Controller of Patents)が異議委員会の委員長として任命され、2名の上級審査官が残りのメンバーとして任命される。付与後異議申立手続において、異議申立人は、自らの利害や基礎となる事実、求める救済措置について述べる異議申立陳述書を作成し、証拠(ある場合)とともに異議申立書に添付して、長官宛に提出し、その異議申立陳述書と証拠(ある場合)の写しを特許権者に送付しなければならない(特許規則57)。
 特許権者が異議申立に対して争う場合、異議申立人から異議申立書を受領した日から2か月以内に、所轄庁に、証拠(ある場合)とともに異議に争う理由を記述した答弁書を提出し、その写しを異議申立人に送付しなければならない(特許規則58(1))。特許権者が答弁書を提出しない場合、特許は取り消されたものとみなされる(特許規則58(2))。特許権者の答弁書を受領した異議申立人は、受領の日から1か月以内に、弁駁書を提出できるが、そのような異議申立人の弁駁書は、特許権者が提出した証拠に関する内容に厳しく限定される(特許規則59)。両者(特許権者、異議申立人)からのさらなる答弁は、長官が許可した場合にのみ提出可能である(特許規則60、62)。答弁書の提出完了後3か月以内に、異議委員会は、異議委員会の勧告を長官に提出する(特許規則56(4))。
 その後、長官は、口頭手続の期日を指定する(特許法第25条(4))。口頭手続の通知は、口頭手続期日の10日以上前に両者(特許権者、異議申立人)に送付されなければならず、また、異議委員会の勧告について、審査管理官が口頭手続の期日を設定する前に、異議申立人と特許権者に通知しなければならない(特許規則62(1))。この異議委員会に対する手続上の要件は、知的財産審判部(IPAB、現在は廃止)の過去の決定で示されたものである(M/s. Diamcad N.V. v. Asst. Controller of Patent and Ors. (2012))。また、知的財産審判部(IPAB)は、異議申立手続における異議委員会の勧告および審査管理官の決定には、充分な理由づけが必要、と示した決定もある(Sankalp Rehabilitation Trust v. F Hoffmann-LA Roche AG (2012))。長官は、異議委員会メンバーに口頭手続への同席を指示することができる(特許規則62(1))。口頭審理後、長官は決定を下す(特許規則62(5))。決定に対しては、高等裁判所への不服申立が可能である(特許法第117A条、Tribunals Reforms Act 2021第13条)。

図2. 付与後異議申立の手続フロー

3.異議申立と取消手続との違い
 「利害関係人」は、特許法第64条に基づき特許の取消しを求めることができる。異議申立と取消手続との主な違いは、以下の通りである。

・異議申立の異議理由とは別に、取消手続には、取消理由が規定されており、異議理由には該当しないが、取消理由に該当する場合もある。たとえば、秘密保持指令(特許法35条)への違反は、異議理由とはならないが、取消理由となる。
・付与前異議申立は特許の登録前の申立てが必要であり、付与後異議申立は特許登録の公開の日から1年以内に申立てが必要となる。一方、取消手続は、特許の登録の後、いつでも申請が可能である。
・インド政府は、異議を申立てることができない(長官の指示・指令に対して、インド政府が異議を申立てる理由がない)。一方、取消手続はインド政府も申請することができる、例えば、原子力関連発明が誤って特許になった場合など、政府が自分で取り消すことができる(特許法第65条)。
 なお、異議申立(付与前、付与後)は、インド特許意匠商標総局(IPAB)への申請であったが、IPAB廃止後は高等裁判所への提訴となった。

インドにおける特許異議申立制度-付与前異議と付与後異議

【詳細】

1.付与前異議申立

付与前異議申立は、対象特許出願の公開の日から登録の日まで提出可能である。ただし、申し立てられた異議について審査管理官(Controller)が検討するのは、当該出願について審査請求がなされた後である。付与前異議申立の制度は特許に対して異議を申し立てる機会を公衆に与えることを意図しているため、「何人も」申し立てることができる。異議申立人が付与前異議申立を提出する十分な時間を確保するため、特許出願の公開から6か月間は特許権が付与されないことが、特許法に規定されている。

 

1-1.付与前異議申立の理由

付与前異議はインド特許法第25条(1)に規定された11項目の異議理由に基づき、申立が可能である。このうち代表的な異議理由として、以下の4点が挙げられる。

  • 出願に開示された発明が、出願人によって不正に取得された
  • 発明が、何れかの請求項の優先日の前に公開されていた
  • 発明が、進歩性を有さない
  • 出願人が、インド特許法第8条の要求(たとえば、他国で出願された同一または実質的に同一発明に関する詳細情報のインド特許庁への提出)を順守していない

 

1-2.付与前異議申立の手続

付与前異議申立は、所定の書式(Form 7A)を用いて、インド特許庁に提出する。申立を考慮した審査管理官が当該出願を拒絶すべきという見解を持った場合、異議申立人が作成した異議申立書の副本を添えて出願人へ通知される。出願人は異議の通知に対して、通知の発行日から3か月以内に、応答書を(証拠と共に)提出しなければならない。出願人は、審査管理官の付与前異議申立に対する決定が下されて手続が終了する前に口頭手続の機会を求めることができる。

 

出願人の意見を考慮した後、審査管理官は、出願の特許付与を拒絶するか、または、特許付与前に出願の補正を求めるか、のいずれかを行う事ができる。通常、審査管理官は、付与前異議申立手続きの終了から1か月以内に、決定を下さなければならない。管理官による決定に対して、知的財産審判部(Intellectual Property Appellate Board:IPAB)への不服申立が可能である。

付与前異議申立の手続フロー

付与前異議申立の手続フロー

 

2.付与後異議申立

付与後異議申立は、インド特許法第25条(2)に規定されている。付与後異議は、特許登録の公開の日から1年以内に申し立てなければならない。付与前異議と異なり、付与後異議は、「利害関係人」のみが申し立てることができる。インド特許法第2条(1)(t)によれば、「利害関係人」は、当該発明が関係する同一分野の研究に従事している、または、これを促進する業務に従事する者を含む。Ajay Industrial Corporation v. Shiro Kanao of Ibaraki事件(1983)においてデリー高等裁判所は、「利害関係人」とは、「登録された特許の存続によって、損害その他の影響を受ける、直接的で現実の、かつ具体的な商業的利害を有する」者と解釈している。付与後異議申立の異議理由は、付与前異議申立の異議理由と同様である。

 

2-1.付与後異議申立の手続

所定の書式(Form 7)を用いて、特許庁に異議申立書を提出する。異議申立書の受領後、特許庁は付与後異議申立の合議体として審査管理官3名からなる異議委員会を設置する。当該出願を審査した審査官は、委員会メンバーとしての適格性をもたない。通常は、次席審査管理官(Deputy Controller of Patents)または審査管理官補(Assistant Controller of Patents)が異議委員会の委員長として任命され、2名の上級審査官が残りのメンバーとして任命される。付与後異議申立手続きにおいて、異議申立人は、自らの利害や基礎となる事実、求める救済措置について述べる異議申立陳述書を作成し、証拠(ある場合)ともに異議申立書に添付して、特許庁に提出し、その異議申立陳述書と証拠(ある場合)の写しを特許権者に送付しなければならない。

 

特許権者が異議申立に対して争う場合、異議申立人から異議申立書を受領した日から2か月以内に、特許庁に、証拠(ある場合)とともに異議に争う理由を記述した答弁書を提出し、その写しを異議申立人に送付しなければならない。特許権者が答弁書を提出しない場合、特許は取り消されたものとみなされる。特許権者の答弁書を受領した異議申立人は、受領の日から1か月以内に、弁駁書を提出できる。ただし、そのような異議申立人の弁駁書は、特許権者が提出した証拠に関する内容に厳しく限定される。両者(特許権者、異議申立人)からのさらなる答弁は、審査管理官が許可した場合にのみ提出可能である。答弁書の提出完了後に、異議委員会は、異議委員会の勧告を審査管理官に提出する。

 

その後、審査管理官は、口頭手続の期日を指定する。口頭手続の通知は、口頭手続期日の10日以上前に両者(特許権者、異議申立人)に送付されなければならない。異議委員会の勧告について、審査管理官が口頭手続の期日を設定する前に、異議申立人と特許権者に通知しなければならない。この異議委員会に対する手続き上の要件は、知的財産審判部(IPAB)の過去の決定で示されたものである(M/s. Diamcad N.V. v. Asst. Controller of Patent and Ors. (2012))。また、知的財産審判部(IPAB)は、異議申立手続における異議委員会の勧告および審査管理官の決定には、充分な理由づけが必要、と示した決定もある(Sankalp Rehabilitation Trust v. F Hoffmann-LA Roche AG (2012))。審査管理官は、異議委員会メンバーに口頭手続への同席を指示することができる。口頭審理後、審査管理官は決定を下す。決定に対しては、知的財産審判部(IPAB)への不服申立が可能である。

 

付与後異議申立の手続フロー

付与後異議申立の手続フロー

 

3.異議申立と取消手続との違い

「利害関係人」は、インド特許法第64条に基づき特許の取消を求めることができる。異議申立と取消手続との主な違いは、以下の通りである。

・異議申立(付与前、付与後)は、特許庁に申請する。一方、取消手続は知的財産審判部(IPAB)または、侵害の訴えに対する反訴として高裁に提訴する。

・異議申立の異議理由とは別に、取消手続には、取消理由が規定されており、異議理由には該当しないが、取消理由に該当する場合もある。たとえば、秘密保持指令(インド特許法36条 国防上の秘密保持の指令)への違反は、異議理由ではないが、取消理由となる。

・付与前異議は特許の登録前の申立が必要。付与後異議は特許登録の公開の日から1年以内に申立が必要となる。一方、取消手続は、特許の登録の後、いつでも申請が可能である。

・インド政府は、異議を申し立てることはできない。一方、取消手続はインド政府も申請することができる。