ホーム 取消手続

南アフリカにおける商標制度概要

〔詳細〕
 南アフリカの知的財産法は、1916年に商標法が制定されたのが最初である。現在は、パリ条約、ベルヌ条約およびTRIPS協定を含む様々な国際条約や協定を基盤としている。現行の商標法は、1993年法律第194号の商標法、施行規則およびコモンローにより規定されている。商標法および施行規則は、商標の所有者に法律上の権利を与える商標の登録および権利行使について定めている。コモンローは、未登録商標に関する権利を保護しており、詐称通用や不正競争といった権利行使の手段が使える。

1.保護可能な商標
 商標法第2条において、「「標章」とは、図により表示することができるすべての標識をいい、図案、名称、署名、語、文字、数字、形状、外形、模様、装飾、色彩、商品の容器又はこれらの組合せを含む。」と定義されている。また、商標とは、「ある者が、標章を使用し若しくは使用しようとする商品又はサービスを他人との取引の過程で関連する同種の商品・役務から識別する目的で、当該商品・役務に使用し又は使用しようとする標章をいう。」と定義されている(商標法第2条)。

 登録可能な商標の種類は、上記にて全てが網羅されている訳ではなく、伝統的および非伝統的商標を含み、識別性を有し(商標法第9条)、図により表示することができる標章を全て含んでいる。また、登録可能な非伝統的商標として、立体形状、色彩、ホログラム、動き/マルチメディア、位置、ジェスチャー、音、匂い、味、触感の商標が挙げられている(商標出願審査ガイドライン附則G)。

 非伝統的商標の登録可能性の判断基準に関して、登録官は、明瞭性、正確性、自己完結性、利用容易性、理解容易性、永続性および客観性を挙げている、「Sieckmann v Deutsches Patent und Markenamt事件(欧州司法裁判所C-273/00,2002年12月12日)」の判決を考慮すべきとされている。
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:62000CJ0273

 企業知的所有権委員会(Companies and Intellectual Property Commission、以下「CIPC」という。)は、2009年1月に非伝統的商標の出願および審査に関するガイドラインを発表した(商標出願審査ガイドライン2.5.2、附則G)。ガイドラインでは、非伝統的商標を出願する際の要件が、商標の態様ごとに定められている。また、非伝統的商標の登録審査のためのさらなる要件として、例えば、証拠の提出などが登録官より求められる場合があるとされている。

 商標法第42条および第43条に従い、証明商標および団体商標を登録することも可能である。

 証明商標は、商品または役務の種類、品質、数量、意図される用途、価値または原産地といった特定の特徴に関して、当該商標所有者により証明される商品または役務と、その証明対象ではない商品または役務とを識別できるものでなければならない(商標法第42条(1))。証明商標は、登録を求める商品または役務について事業を営む者の名義で登録することはできない(商標法第42条(1))。そのような者は、独立した認証機関として行動できないためである。証明商標の登録出願において、出願人は、求めている登録の対象である商品または役務について取引を行っていない旨の陳述書および商標の使用を管理する規約を添付しなければならない(商標規則56(3))。

 団体商標は、団体の構成員である者の商品または役務と、構成員ではない者の商品または役務とを識別できなければならない(商標法第43条(1))。団体商標は、当該商標を使用する団体の管理機関として行動する者または事業体が所有できる。地理的名称その他の原産地表示も、団体商標として登録することができる(商標法第43条(2))。団体商標出願には、商標を管理する規約を添付し、規約には商標を使用することを許可された者、団体の構成員の資格の条件および該当する場合は濫用に対する制裁措置を含む商標の使用の条件を明記しなければならない(商標規則57(3))。

2.分類
 南アフリカでは、指定する分類ごとに別々の出願を提出する必要があり、複数分類の出願は認められていない(商標規則11条(3)、商標出願審査ガイドライン1.3)。商品および役務の分類に関して、南アフリカはニース協定には加盟していないが、世界知的財産機関(WIPO)の商品およびサービスの国際分類(ニース分類第11版)を採用している(商標出願審査ガイドライン2.2.2)。
https://www.cipc.co.za//wp-content/uploads/2021/04/CLASS_HEADINGS_19_NICE_V20.pdf

 実務経験によると、南アフリカの登録官は、類見出し(クラスヘディング)による出願を認めており、南アフリカではかなり広範な指定商品または役務で出願されるのが一般的である。しかし、かかる指定商品または役務により保護されるすべての商品または役務に関して所有者が商標を使用しない場合、または使用する意思がない場合は、部分的に取り消されるおそれがある(商標法第27条(1))。

3.手続および必要書類
3-1.調査

 一般に、商標出願する前に、使用可能性および登録可能性を確認するための調査を行うことが推奨される。調査を行う際には、誤認混同が生じる商標を特定するために考慮すべき様々な要素が存在するため、南アフリカの商標専門の代理人に調査の実施と報告を依頼することが望ましい。下記のリンクを通してCIPCにアカウントを登録することにより検索が可能である。簡易検索または図形要素検索ができ、簡易検索では、出願番号、称呼またはニース分類記号を入力することにより検索することができる。図形要素検索では、ウィーン分類による検索が可能となっている。
https://iponline.cipc.co.za/Account/Login.aspx?pb=d78/xsNSyRPmvb0BDOobBeX86fQXlkZcqbQotRNxOG+12jOcoHNxD8NdjQTlCxms

3-2.出願
 出願に際して、出願人は出願用の書式TM1を作成する必要がある(商標規則11、商標出願審査ガイドライン附則C)。書式TM1は、CIPCに書面で提出するかまたは電子的手段により提出することができる。出願人の選任した代理人が書式TM1を提出する場合は、委任状も必要となる(商標規則11(2)、商標出願審査ガイドライン3.5.2および附則L2)。審査の時点で委任状が提出されていない場合、提出を要求される(商標出願ガイドライン3.5.2)。委任状提出遅延の追加料金を支払わなくても済むように、委任状のコピーを出願書類に添付して提出することもできる。ただし、商標登録を許可される前に、署名済み委任状の原本を登録官に提出しなければならない(商標出願審査ガイドライン3.2.2および4.1)。

 パリ条約に基づく優先権主張を伴う南アフリカ出願を行う場合、他の条約加盟国における出願日から6か月以内であれば、当該条約加盟国における出願の優先権を主張することが可能である。優先権主張を行う場合は、優先権の証明は、南アフリカ出願と同時にまたは南アフリカ出願の出願日から3か月以内に提出しなければならない(商標法第63条(3)(a)、商標規則12)。

3-3.審査
 出願は、絶対的拒絶理由および相対的拒絶理由の双方について審査される(商標法第16条(2)(c)~(d)、商標規則15(2)、商標出願審査ガイドライン3.3、3.4)。登録されるためには、商標は少なくとも以下の要件を満たしていなければならない。

(1) 識別性がなければならない(本来的識別性または使用により獲得された識別性のいずれか)(商標法第9条、第10条(2)(a))
(2) 第三者の先行権利に抵触してはならない(商標法第10条(12)~(17))

 実務において、登録官から審査報告書を受領するまでに、出願日から約9‐12か月を要している。

 商標が審査され拒絶理由がなかった場合、登録官は商標登録を許可する(商標法第16条(2)(a)、商標規則15(3))。条件付で登録を許可する場合には、追加の条件(色彩の説明文、委任状の提出など)を満たすよう通知する(商標法第16条(2)(b)、商標規則15(3)、(5))。また、拒絶理由がある場合(主に商標に識別性がない、または第三者の先行権利と抵触する場合)、登録官は拒絶理由通知書を送付する(商標法第16条(2)(c)、(d)、商標規則15(4))。

3-3-1 無条件の登録許可
 拒絶理由がない場合、登録官は無条件に登録を許可する(商標規則15(3)、商標出願審査ガイドライン3.2.1)。

3-3-2 条件付の登録許可
 拒絶理由はないが、変更または修正に従うことを条件として、登録官が出願を登録許可する場合、出願人に条件付の登録許可を通知する(商標規則15(3)、(5)、商標出願審査ガイドライン3.2.2)。通知に対して、出願人は応答するか、または応答期限を3か月延長することができる(商標規則15(5)、商標出願審査ガイドライン4.2.1)。出願人が応答、または期間延長の申請のいずれもしない場合は、出願は放棄したものとみなされる(商標法第20条(2))。

3-3-3 拒絶理由通知
 拒絶理由がある場合、登録官は拒絶理由通知書を書面で出願人に送付する(商標規則15(4)、商標出願審査ガイドライン3.2.3)。拒絶理由通知から3か月以内に、出願人は自らの主張を書面で提出するかまたは聴聞若しくは期間延長を申請することができる(商標規則15(4)、商標出願審査ガイドライン4.2.2)。出願人が拒絶理由通知への応答、または期間延長の申請のいずれもしない場合は、出願は放棄したものとみなされる(商標法第20条(2))。

 登録許可の後、当該商標出願は、異議申立のために特許公報において公告される(商標法第17条、商標規則18)。南アフリカでは商標も「The Patent Journal」で公告され、毎月最後の週に発行される。出願人は公告申請しなければならず、登録官により自動的に公告されることはない。

 何れの利害関係人は、出願の公告日から3か月以内にまたは登録官が認めることがあるこれより長い期間内に、当該出願に対して異議を申立てることができる(商標法第21条)。3か月の異議申立期間の満了後、または出願に対して異議申立が行われたが登録許可が維持されたときは、登録官は商標を登録し、商標庁の印章で捺印した所定の方式による商標登録の証明書を出願人に交付する(商標法第29条)。

3-4.権利維持
 商標登録は出願日から10年間有効であり、登録を維持するためには10年ごとに更新しなければならない(商標法第37条(1)、(2))。更新登録出願の遅延については、満了後6か月間の猶予期間が与えられる(商標規則25(1))。登録の満了前に更新手数料を納付しなかった場合は、追加手数料が課される。また、満了後6か月の期限内に納付しなかった場合は、さらなる追加手数料が課される(商標規則25(2))。

 満了後6か月以内に更新手数料が納付されなかった場合は、登録官は、直ちにこの事実を特許公報に公告する。満了から1か月以内に、追加手数料と共に更新手数料が様式TM5(https://www.cipc.co.za//wp-content/uploads/Forms/Trade_mark/TM5.pdf)により納付された場合は、登録官は、登録簿から当該標章を抹消することなく、登録を更新することができる(商標規則26)。1か月の期間の満了後、当該手数料が納付されない場合は、登録官は、最終登録の満了日に当該標章を登録簿から抹消することができるが、追加手数料と共に更新手数料が様式TM5により納付され、登録官が、適切な条件の下で商標を回復することが公正であると判断する場合は、登録官は当該商標を登録簿に回復することができる(商標規則27、CIPCウェブサイト「MAINTAIN A TRADE MARK “RESTORATION OF TRADE MARK”」)。

4.異議申立手続
 出願の公告日から3か月間に、あらゆる利害関係人は当該出願に対して異議を申立てることができる(商標法第21条)。異議申立における利害関係人は、異議申立期間の満了前に、書面での通知により、当該期間の満了日から3か月間は登録証を発行しないよう登録官に請求することができ、この場合には登録官は登録証を発行してはならない(商標法第45条(3)、商標規則52(1))。異議申立手続の流れは、以下のとおりである。

(1) 申立人が、依拠する事実についての宣誓供述書により裏付けられた異議申立書を提出する。異議申立書は、商標規則の附則2の様式TM3による(商標規則19(1)、(2))。
(2) 出願人は、異議申立通知の送達後1か月以上の申立人に指定された何れかの日までに出願人が申立人および登録官に対し、書面で、当該申立てを防御する意図を有するか否か通報する。当該通報がなされない場合は、1月の期間の満了後10日以上の日に、申立てに係る聴聞が設定される(商標規則19(2)(d))。
(3)出願人は、申立てを防御する意図を有する通報から、2か月以内に答弁宣誓供述書を提
出しなければならない(商標規則19(2)(f))。
(4) 申立人は、答弁宣誓供述書の送達を受けてから1か月以内に、反対訴答宣誓供述書を提出することができる。登録官は、裁量により、さらなる宣誓供述書の提出を認めることができる(商標規則19(2)(g))。

 商標庁における未処理件数が多いため、登録官はすべての異議申立事件のヒアリングを南アフリカ高等裁判所に付託する方針を取っていることに注意が必要である(商標法第59条(2)、CIPCウェブサイト「MAINTAIN A TRADE MARK “OPPOSITIONS”」)。このような状況において、異議申立事件がヒアリング段階になると、登録官は付託書を含む事件ファイルの写しを異議申立人に提供し、登録官は高等裁判所に異議申立事件を付託する。高等裁判所に付託した際には、主張の要点を作成し、裁判所において論争するための法廷弁護士または顧問弁護士を選任することが慣行となっている。

5.取消手続
 商標登録は不使用を理由に、全部または一部が取り消される場合がある(商標法第27条)。下記の場合、不使用とみなされる。
(1) 指定商品および指定役務に関して商標を使用する出願人の善意の意思がないままに商
標が登録され、実際にこの意味で使用されなかった場合(商標法第27条(1)(a))
(2) 取消請求日の3月前までに、登録証の発行日から5年以上にわたり商標が使用されなかった場合(商標法第27条(1)(b))
(3) 2年以上前に商標の所有者が死亡した(自然人)、または解散しており(法人)、商標を譲渡する申請もされなかった場合(商標法第27条(1)(c))

 上記以外にも、商標登録が商標法第10条に記載されたいずれかの理由に該当するという事実により、商標が不当に登録された場合、または登録後に普通名称化する等で、本来の登録要件を満たさなくなっている場合は、商標の取消しを請求することができる(商標法第10条柱書)。取消手続の流れは、異議申立手続と同じである。

6.その他
 停電、抗議行動およびストライキ行動といった不測の事態のために、審査結果の入手や書類入手などに遅延が生じることもある。しかし、現在では手続の多くを電子化することで、手続遅延を回避し、未処理案件の解決に取り組んでいる。
 登録官は未処理件数の解消に努めているが、現時点では商標出願が登録されるまで実務において約24か月を要している。

インドにおける特許異議申立制度-付与前異議申立と付与後異議申立

1.付与前異議申立
 付与前異議申立は、対象特許出願の公開の日から登録の日まで提出可能である。ただし、申立てられた異議について審査管理官(Controller)が検討するのは、当該出願について審査請求がなされた後である。付与前異議申立の制度は、特許に対して異議を申立てる機会を公衆に与えることを意図しているため、「何人も」申立てることができる(特許法第25条(1))。異議申立人が付与前異議申立を提出する十分な時間を確保するため、特許出願の公開から6か月間は特許権が付与されないことが、インド特許規則(以下、特許規則)に規定されている(特許規則55(1A))。

1-1.付与前異議申立の理由
 付与前異議申立は特許法第25条(1)に規定された11項目の異議理由に基づき、申立てが可能である。このうち代表的な異議理由として、以下の4点が挙げられる。

・出願の請求項に開示された発明が、出願人によって不正に取得された
・何れかの請求項で請求される発明が、当該請求項の優先日の前に公開されていた
・発明が、進歩性を有さない
・出願人が、インド特許法第8条の要求(たとえば、他国で出願された同一または実質的に同一発明に関する詳細情報のインド特許意匠商標総局への提出)を順守していない

1-2.付与前異議申立の手続
 付与前異議申立は、所定の書式(Form 7A)を用いて、インド特許意匠商標総局長官宛に提出する(特許法第25条、特許規則55(1))。申立を考慮した長官が当該出願を拒絶すべきという見解を持った場合、異議申立人が作成した異議申立書の副本を添えて出願人へ通知される(特許規則55(3))。出願人は異議の通知に対して、通知の発行日から3か月以内に、応答書を(証拠と共に)提出しなければならない(特許規則55(4))。出願人は、長官の付与前異議申立に対する決定が下されて手続が終了する前に口頭手続の機会を求めることができる(特許法第25条(1))。
 出願人の意見を考慮した後、長官は、出願の特許付与を拒絶するか、または、特許付与前に出願の補正を求めるか、あるいは異議申立を棄却するか、のいずれかを行う事ができ、通常、長官は、付与前異議申立手続の終了から1か月以内に、決定を下さなければならない(特許規則55(5))。長官による決定に対して、高等裁判所への不服申立が可能である(特許法第117A条、Tribunals Reforms Act 2021第13条)。

図1. 付与前異議申立の手続フロー

2.付与後異議申立
 付与後異議申立は、特許法第25条(2)に規定されている。付与後異議は、特許登録の公開の日から1年以内に申立てなければならない。付与前異議申立と異なり、付与後異議申立は、「利害関係人」のみが申立てることができる。特許法第2条(1)(t)によれば、「利害関係人」とは、当該発明が関係する同一分野の研究に従事している、または、これを促進する業務に従事する者を含む。Ajay Industrial Corporation v. Shiro Kanao of Ibaraki City事件(1983)においてデリー高等裁判所は、「利害関係人」とは、「登録された特許の存続によって、損害その他の影響を受ける、直接的で現実の、かつ具体的な商業的利害を有する」者と解釈している。付与後異議申立の異議理由は、付与前異議申立の異議理由と同様である(特許法第25条(2))。

2-1.付与後異議申立の手続
 付与後異議申立は、所定の書式(Form 7)を用いて、特許意匠商標総局長官宛に異議申立書を提出する(特許規則55A)。異議申立書の受領後、長官は付与後異議申立の合議体として審査管理官3名からなる異議委員会(異議部)を設置する(特許法第25条(3)、特許規則56(1))。当該出願を審査した審査官は、委員会メンバーとしての適格性をもたない(特許規則56(3))。通常は、次席審査管理官(Deputy Controller of Patents)または審査管理官補(Assistant Controller of Patents)が異議委員会の委員長として任命され、2名の上級審査官が残りのメンバーとして任命される。付与後異議申立手続において、異議申立人は、自らの利害や基礎となる事実、求める救済措置について述べる異議申立陳述書を作成し、証拠(ある場合)とともに異議申立書に添付して、長官宛に提出し、その異議申立陳述書と証拠(ある場合)の写しを特許権者に送付しなければならない(特許規則57)。
 特許権者が異議申立に対して争う場合、異議申立人から異議申立書を受領した日から2か月以内に、所轄庁に、証拠(ある場合)とともに異議に争う理由を記述した答弁書を提出し、その写しを異議申立人に送付しなければならない(特許規則58(1))。特許権者が答弁書を提出しない場合、特許は取り消されたものとみなされる(特許規則58(2))。特許権者の答弁書を受領した異議申立人は、受領の日から1か月以内に、弁駁書を提出できるが、そのような異議申立人の弁駁書は、特許権者が提出した証拠に関する内容に厳しく限定される(特許規則59)。両者(特許権者、異議申立人)からのさらなる答弁は、長官が許可した場合にのみ提出可能である(特許規則60、62)。答弁書の提出完了後3か月以内に、異議委員会は、異議委員会の勧告を長官に提出する(特許規則56(4))。
 その後、長官は、口頭手続の期日を指定する(特許法第25条(4))。口頭手続の通知は、口頭手続期日の10日以上前に両者(特許権者、異議申立人)に送付されなければならず、また、異議委員会の勧告について、審査管理官が口頭手続の期日を設定する前に、異議申立人と特許権者に通知しなければならない(特許規則62(1))。この異議委員会に対する手続上の要件は、知的財産審判部(IPAB、現在は廃止)の過去の決定で示されたものである(M/s. Diamcad N.V. v. Asst. Controller of Patent and Ors. (2012))。また、知的財産審判部(IPAB)は、異議申立手続における異議委員会の勧告および審査管理官の決定には、充分な理由づけが必要、と示した決定もある(Sankalp Rehabilitation Trust v. F Hoffmann-LA Roche AG (2012))。長官は、異議委員会メンバーに口頭手続への同席を指示することができる(特許規則62(1))。口頭審理後、長官は決定を下す(特許規則62(5))。決定に対しては、高等裁判所への不服申立が可能である(特許法第117A条、Tribunals Reforms Act 2021第13条)。

図2. 付与後異議申立の手続フロー

3.異議申立と取消手続との違い
 「利害関係人」は、特許法第64条に基づき特許の取消しを求めることができる。異議申立と取消手続との主な違いは、以下の通りである。

・異議申立の異議理由とは別に、取消手続には、取消理由が規定されており、異議理由には該当しないが、取消理由に該当する場合もある。たとえば、秘密保持指令(特許法35条)への違反は、異議理由とはならないが、取消理由となる。
・付与前異議申立は特許の登録前の申立てが必要であり、付与後異議申立は特許登録の公開の日から1年以内に申立てが必要となる。一方、取消手続は、特許の登録の後、いつでも申請が可能である。
・インド政府は、異議を申立てることができない(長官の指示・指令に対して、インド政府が異議を申立てる理由がない)。一方、取消手続はインド政府も申請することができる、例えば、原子力関連発明が誤って特許になった場合など、政府が自分で取り消すことができる(特許法第65条)。
 なお、異議申立(付与前、付与後)は、インド特許意匠商標総局(IPAB)への申請であったが、IPAB廃止後は高等裁判所への提訴となった。

フィリピンにおける商標の審判等手続に関する調査

 「フィリピンにおける知的財産の審判等手続に関する調査」(2021年3月、日本貿易振興機構(JETRO) シンガポール事務所 知的財産部)

目次
A.はじめに P.1
I.目的 P.1
II.調査範囲 P.1
III.調査方法 P.2
IV.調査結果 P.3

B.審理機関と紛争解決手段 P.4
I.審理機関 P.4
(フィリピンの知的財産権に関する審理を行う3つの主要機関(IPOPHL(フィリピン知的財産庁)、裁判所、WIPO仲裁調停センター)の概要および管轄権限ついて紹介している(フィリピン裁判所の審級の構成についてフローチャートあり)。)

II.紛争解決手段 P.10
(知的財産権の紛争は、知的財産権の性質、手続の種類および請求の価値に応じて、IPOPHLまたはフィリピンの裁判所で審理される。各知的財産権訴訟の管轄の概要ならびに管轄機関の2011年から2020年までの申立件数および調停で解決した事件数等の統計情報を紹介している。)

E.商標 P.32
I.商標出願手続の概要 P.32
(出願手続の概要をフローチャートで紹介している。)

II.商標出願の審査手続 P.33
(審査手続について解説している(不服申立および再審のフローチャートあり)。

III.異議申立手続 P.35
(異議申立手続について解説している(当事者間事例のステップとタイムラインの概要についてフローチャートと各ステップの説明あり)。

IV.取消手続 P.42
(取消手続について、関連する規則に基づき解説している。)

V.商標登録の効力を争うその他の手続 P.42
(商標登録の侵害手続について解説している。)

VI.統計 P.43
(2011年から2020年までの統計情報(異議、取消および侵害について法務局によって処理/解決された商標事件数、長官室により処分/解決された商標事件数)について紹介している。)

VII.ケーススタディ P.44
(判例(Mang Inasal Philippines, Inc. v. IFP Manufacturing Corporation, G.R. No.221717, 2017年6月19日)を解説している。)

フィリピンにおける意匠の審判等手続に関する調査

 「フィリピンにおける知的財産の審判等手続に関する調査」(2021年3月、日本貿易振興機構(JETRO) シンガポール事務所 知的財産部)

目次
A.はじめに P.1
I.目的 P.1
II.調査範囲 P.1
III.調査方法 P.2
IV.調査結果 P.3

B.審理機関と紛争解決手段 P.4
I.審理機関 P.4
(フィリピンの知的財産権に関する審理を行う3つの主要機関(IPOPHL(フィリピン知的財産庁)、裁判所、WIPO仲裁調停センター)の概要および管轄権限ついて紹介している(フィリピン裁判所の審級の構成についてフローチャートあり)。)

II.紛争解決手段 P.10
(知的財産権の紛争は、知的財産権の性質、手続の種類および請求の価値に応じて、IPOPHLまたはフィリピンの裁判所で審理される。各知的財産権訴訟の管轄の概要ならびに管轄機関の2011年から2020年までの申立件数および調停で解決した事件数等の統計情報を紹介している。)

D.意匠 P.27
I.意匠出願手続の概要 P.27
(出願手続の概要をフローチャートで紹介している。)

II.意匠出願の審査手続 P.27
(審査手続について解説している。)

III.異議申立手続 P.28
(フィリピンの意匠出願については、付与前の異議申立制度はない。ただし、公告の日から30日以内に反対意見書を提出することができる。)

IV.取消手続 P.29
(取消手続について解説している。)

V.意匠の有効性を争うその他の手続 P.29
(意匠の侵害訴訟について、関連する規則に基づき解説している。)

VI.統計 P.30
(2011年から2020年までの統計情報(取消および侵害について、法務局によって処理/解決された意匠事件数、長官室によって処理/解決された意匠審判事例件数)について紹介している。)

VII.ケーススタディ P.31
(近年、意匠に関する訴訟は、フィリピン最高裁判所において提起されていないため判例の紹介はない。)

フィリピンにおける特許の審判等手続に関する調査

 「フィリピンにおける知的財産の審判等手続に関する調査」(2021年3月、日本貿易振興機構(JETRO) シンガポール事務所 知的財産部)

目次
A.はじめに P.1
I.目的 P.1
II.調査範囲 P.1
III.調査方法 P.2
IV.調査結果 P.3

B.審理機関と紛争解決手段 P.4
I.審理機関 P.4
(フィリピンの知的財産権に関する審理を行う3つの主要機関(IPOPHL(フィリピン知的財産庁)、裁判所、WIPO仲裁調停センター)の概要および管轄権限ついて紹介している(フィリピン裁判所の審級の構成についてフローチャートあり)。)

II.紛争解決手段 P.10
(知的財産権の紛争は、知的財産権の性質、手続の種類および請求の価値に応じて、IPOPHLまたはフィリピンの裁判所で審理される。各知的財産権訴訟の管轄の概要ならびに管轄機関の2011年から2020年までの申立件数および調停で解決した事件数等の統計情報を紹介している。)

C.特許 P.14
I.特許出願手続の概要 P.14
(出願手続の概要をフローチャートで紹介している。)

II.特許出願の審査手続 P.15
(審査手続について解説している。(不服申立または拒絶通知(拒絶査定)の再審理の概要について、フローチャートあり。))

III.異議申立手続 P.18
(フィリピンの特許出願については、特許付与前の異議申立制度はない。)

IV.取消手続 P.18
(取消手続について解説している。(当事者間事例のステップとタイムラインの概要についてフローチャートと各ステップの説明あり。))

V.特許付与前後の特許/発明の特許性を争うその他の手続 P.23
(特許付与前後の特許/発明の特許性を争うその他の手続について、関連する法令等に基づき解説している。)

VI.統計 P.24
(2011年から2020年までの統計情報(取消、侵害について法務局によって処理/解決された特許事件数および長官室よって処理/解決された特許事件数について紹介している。)

VII.ケーススタディ P.25
(判例(Phil Pharmawealth Inc. v. Pfizer, Inc. and Pfizer (Phil.), Inc., G.R. No. 167715, 2010年11月17日)について解説している。)

香港における特許制度のまとめ-手続編

1. 出願に必要な書類

 標準特許(O):特許条例の第37L条および特許規則の第31M~31S条は、標準特許(O)の適用のために提出される文書の要件を提供する。

標準特許(R):標準特許(R)を取得するための再登録システムには、「記録請求」を提出する段階1と「登録および付与請求」を提出する段階2の2つの段階がある。段階1の文書要件は、特許条例の第15~16条および特許規則の第8条に規定されており、段階2の申請に必要な文書は、特許条例の第23および特許規則の第19条に規定されている。

短期特許:短期特許の適用に関する文書要件は、特許条例の第113条および特許規則の第58~64条に記載されている。短期特許の特筆すべき点は、国際調査機関または指定された3つの特許庁のうちの1つが発行した発明に関する調査報告書を提出して、出願をサポートする必要があることである(特許条例第113条)。

関連記事:
「香港における特許の権利取得手続」(2021.09.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/20880/
「香港における特許の独自付与制度導入に向けた動きの近況」(2020.04.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18428/
「香港における特許出願および意匠出願の優先権主張の手続(外国優先権)」(2020.04.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18432/
「香港における実用新案(短期特許)出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17521/
「香港における特許出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17519/
「香港の特許・実用新案関連の法律、規則等」(2019.02.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16532/
「日本と香港における特許出願書類の比較」(2015.11.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/9392/

2. 記載が認められるクレーム形式

 特許条例は、特定の許容可能なクレームの形式を指定しておらず、特許可能な発明、特許されない発明を規定している。

(1) 認められる発明
 特許条例の第9A条(1)は、発明が新規であり、進歩性を伴い、産業上の利用可能性がある場合、その発明は特許を受けることができると定めている。

(2) 認められない発明
 特許条例の第9A条(2)~(6)は、以下は発明とみなされないと定めている。
・発見、科学理論または数学的方法
・美的創造
・精神的行為を実行する、ゲームをプレイする、またはビジネスを行うためのスキーム、規則、方法、またはコンピュータ・プログラム
・情報の提示
・人または動物の医学的治療方法および診断的方法
・公序良俗に反する発明
・植物または動物の品種、または植物または動物の生産のための生物学的なプロセス

関連記事:
「香港における特許の権利取得手続」(2021.09.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/20880/
「香港における特許を受けることができる発明とできない発明」(2020.08.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/19429/
「香港における実用新案(短期特許)出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17521/
「香港の特許・実用新案関連の法律、規則等」(2019.02.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16532/

3. 出願の言語

 特許条例の第104条では、特許の申請は公用語(中国語または英語)のいずれかで提出する必要があると規定しているが、特許条例には、出願人が指定された特許出願と同じ言語で標準特許(R)出願を提出することを要求する規定はない。

関連記事:
「香港における特許の権利取得手続」(2021.09.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/20880/
「香港における実用新案(短期特許)出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17521/
「香港における特許出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17519/
「香港の特許・実用新案関連の法律、規則等」(2019.02.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16532/

4. グレースピリオド

 特定の状況下では、発明の開示は不利益とはならない開示として扱われ、考慮されない。特許条例の第11A条、第37B条、および第109条は、それぞれ標準特許(R)、標準特許(O)、および短期特許の不利益とはならない開示の条件を次にように定めている。
・開示は、出願のみなし出願日または出願日の6月前までに行われるものであり、
・開示は、発明の出願人または所有者に関する明らかな悪意によるものであるか、または、
・発明の出願人または所有者が当面の間、所定の展示会または会議(すなわち、香港に適用される、1928年11月22日パリで署名された国際展示会条約の条件に該当する公式または公式に認められた国際展示会)で発明を展示した場合。

関連記事:
「香港における特許の権利取得手続」(2021.09.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/20880/
「香港における特許出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17519/
「香港の特許・実用新案関連の法律、規則等」(2019.02.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16532/

5. 審査

(1) 一般の審査
 3種類の特許出願について、方式審査はいずれの場合でも必須であるが、実体審査の要件は、特許の種類によって異なる。

・標準特許(O)
 方式審査の詳細は、特許条例第37P条に記載されている。標準特許(O)には特許が適用される発明の特許性について実体審査も義務付けられており、登録官は出願が特許条例第37U条に定められた要件に準拠しているか否かを審査する。標準特許(O)の実体審査の詳細は、特許条例第37S条~第37Y条、および特許規則第31ZC条~第31ZP条に記載されている。

・標準特許(R)
 標準特許(R)を取得するための再登録制度は2段階(「記録請求」と「登録および付与請求」)であるため、合計2回の審査があり、「記録請求」は特許条例第18~19条および特許規則第8条に、「登録および付与請求」は特許条例第25~26条および特許規則第19条に記載がある。一方、標準特許(R)は、指定特許庁(中国特許庁、英国特許庁、英国を指定した欧州特許の場合の欧州特許庁)による対応する特許の付与に依存しているため、実体審査は行われない。

・短期特許
 特許条例第115条、第117条および特許規則第68条に短期特許の方式審査の詳細が記載されている。短期特許の付与には実体審査は必要ないが、特許権者または第三者は、付与後に実体審査の実施を要求することができる。特許権者が短期特許に基づき、執行措置を開始する場合、実体審査が前提条件とされる(特許条例第127A条~第127C条、特許規則第81A条~第81O条)。

(2) 早期審査(優先審査)
 早期審査(優先審査)の規定はない。

(3) 出願の維持
 特許条例の第33条に基づき、出願人は、指定特許出願が記録請求の公開から5年後に付与に進んでいない場合、係属中の標準特許出願(R)に対して年間維持費を支払う必要がある。年間維持費の支払い期日は、指定特許出願日と同月日である。
 標準特許(O)および短期特許は、登録前の維持費用は存在しない。

関連記事:
「香港における特許の権利取得手続」(2021.09.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/20880/
「香港における特許の独自付与制度導入に向けた動きの近況」(2020.04.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18428/
「香港における実用新案(短期特許)出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17521/
「香港における特許出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17519/
「香港の特許・実用新案関連の法律、規則等」(2019.02.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16532/
「香港知的財産局の特許審査体制」(2018.08.09)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15648/
「香港における微生物寄託に係る実務」(2018.04.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14780/

6. 出願から登録までのフローチャート

(1) 出願から登録までの特許出願フローチャート
・標準特許(O)

・標準特許(R)

・短期特許

(2) フローチャートに関する簡単な説明
・標準特許(O)
 出願書を提出した後、登録官は出願書を調べて、出願書の記載要件および支払い要件に準拠しているかどうかを確認する。問題がなければ、出願日が与えられる。その後、登録官は、特許条例の第37L条に従って方式要件を検討する。出願が方式要件に準拠していることを確認した場合、出願を公開し、香港知的財産ジャーナルに公告を掲載する。
 出願人は、出願日または優先権主張の最も早い日から3年以内に実体審査を申請する必要があり、実体審査請求がなければ出願は取り下げられたと見なされる。
 登録官は、実体審査請求と所定の手数料を受け取った後、実体審査を実施し、出願が審査要件に準拠していない場合、その見解を出願人に通知し、出願人は、意見書を提出し、補正を要求することができる。登録官は、審査結果に応じて標準特許(O)を付与して公告するか、拒絶する。
 詳細については、特許条例の第37L~37Y条、および特許規則の第31M~31ZP条を参照のこと。

・標準特許(R)
 標準特許(R)を出願するための出願プロセスは、(1)指定された特許出願の記録請求の提出と(2)登録および付与の請求の2つの段階に分けられる。
<段階1(記録請求)>
 出願人は、指定特許庁で指定された特許出願が公開されてから6月以内に記録請求を提出する必要がある。標準特許(O)と同様に、登録官は、出願人によって提出された書類を審査し、出願日を付与し、その後、方式要件について審査する。欠陥がないか、欠陥が修正された場合、記録請求は公開される。
<段階2(登録および付与請求)>
 出願人は、記録請求の公開または指定特許庁による特許の付与後6月以内に、登録および付与請求を提出する必要がある。請求が提出されると、提出日と方式要件の審査が行われる。問題がなければ、登録官は指定された特許を登録し、標準特許(R)として特許を付与し、香港知的財産ジャーナルに公告する。
 詳細については、特許条例第15~27条、および特許規則第8~24条を参照のこと。

・短期特許
 標準特許と同様に、短期特許も出願時に出願日および方式要件の審査が行われる。登録官は、問題がないか、適正に補正された場合、短期特許を付与し、香港知的財産ジャーナルに公告する。
 短期特許は、要求がなければ、実体審査は行われない。
 詳細については、特許条例第112A~118条、および特許規則第58~68条を参照のこと。

関連記事:
「香港における特許の権利取得手続」(2021.09.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/20880/
「香港における特許の独自付与制度導入に向けた動きの近況」(2020.04.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18428/
「香港における特許出願および意匠出願の優先権主張の手続(外国優先権)」(2020.04.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18432/
「香港における実用新案(短期特許)出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17521/
「香港における特許出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17519/
「香港の特許・実用新案関連の法律、規則等」(2019.02.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16532/

7. 付与前後の特許の有効性に異議を申し立てる手順

 特許条例第49条は、何人も、付与された香港特許の有効性について、本発明の公表または実施が公序良俗または道徳に反することを根拠として、異議を申し立てることができ、登録官は、この特定の理由で、付与された特許を取り消す権限あることを規定している。
 特許条例第91条は、裁判所が、何人かの申請に基づき、付与された特許を取り消すことができる理由を規定している(特許条例第91条(1)(a)~(f)を参照のこと)。

 上記の根拠は、3種類の特許に適用されるが、以下に述べるように、特許の種類ごとに付与の前後に異議を申し立てる方法を規定する条項がある。

・標準特許(O)
 特許条例第37R条は、標準特許(O)出願の公開時に、発明の特許性に異議を申し立てるために第三者の所見を登録官に提出することができると規定している。付与された標準特許(O)を無効にする具体的な理由については、特許条例の第91条を参照していただきたい。

・標準特許(R)
 標準特許(R)に異議を申し立てるための付与前の規定はない。標準特許(R)の付与が指定特許庁の指定特許に基づいていることを考慮し、指定特許庁での所定の異議申立または取消手続の後に指定特許が取り消された場合、標準特許(R)の所有者は取消命令またはその他の所定の文書の検証済みコピーを登録官に提出する義務がある。このような状況では、標準特許(R)は取り消され、効力がなかったものとして扱われる(特許条例第44条)。

・短期特許
 短期特許は、付与されるまで公開されず、付与前に異議を申し立てる条項はない。特許条例第126A条は、短期特許出願が特許付与、公開となった後、特許性に関して第三者は所見を登録官に提出できると規定している。
 さらに、特許権者または合理的な理由または正当な事業利益を有する当事者が、特許の有効性を判断するための付与後の実体審査を申請するための規定がある(特許条例第127A~127C条、および特許規則第81A~81G条まで)。標準特許(O)と同様に、登録官が短期特許とその補正がすべての審査要件に準拠していないと判断した場合、登録官は特許を取り消さなければならない(特許条例第127G条)。登録官は、短期特許を取り消す暫定決定を発行し、暫定取消通知を発行する(特許規則第81H条)。特許権者は、暫定取消通知の日から2月以内に所定の手数料とともに取消に関する仮決定を検討するよう登録官に請求することができる(特許規則第81I条)。登録官が、それでもなお審査要件に準拠していないと判断した場合は、特許所有者に応答を要求する所見を発行する(特許規則第81J~81K条)。
 登録官が必要であると判断した場合(特許規則第81L~81M条)、さらに数回の所見を通知することができる。特許が審査要件を満たせなかったと登録官が判断した場合、短期特許を取り消す最終決定を下し通知する(特許規則第81N条)。
 特許所有者は、短期特許を取り消すという登録官の最終決定に対して第一審裁判所に控訴することができる(特許条例第130条)。

関連記事:
「香港における特許の権利取得手続」(2021.09.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/20880/
「香港における特許の独自付与制度導入に向けた動きの近況」(2020.04.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18428/
「香港における実用新案(短期特許)出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17521/
「香港における特許出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17519/
「香港の特許・実用新案関連の法律、規則等」(2019.02.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16532/

8. 権利設定後の権利範囲の修正

・標準特許(O)
 権利所有者は、付与後に特許の明細書を修正するように登録官または裁判所に申請することができる(特許条例第46条、および特許規則第38A条)。

・標準特許(R)
 権利所有者は、異議申立または取消手続の後に指定特許庁で対応する指定特許の仕様に対する同じ修正が行われたことに基づいて、特許の修正を裁判所に申請するものとする。(特許条例第43条、46条、および特許規則第35条)。

・短期特許
 権利所有者は、特許の実体審査の請求を提出するとき、実体審査中に庁指令に応答するとき、または実体審査証明書の発行後いつでも、特許の明細書の修正を登録官または裁判所に申請できるものとする(特許条例第46条、第127B条、第127D条、および特許規則第81P条)。

関連記事:
「香港における特許の権利取得手続」(2021.09.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/20880/
「香港における実用新案(短期特許)出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17521/
「香港における特許出願制度概要」(2019.07.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17519/
「香港の特許・実用新案関連の法律、規則等」(2019.02.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16532/

9. その他の制度

特になし。

香港における特許無効手続に関する統計データ

1. 香港特許制度の特徴

 香港における現在の特許登録制度では、特許の有効性を判断する上で、香港知的財産局の役割は限られている。香港では短期特許を直接出願することはできるが、特許付与前の実体審査は行われない。標準特許は、中国、英国またはEPO(英国を指定)に出願された指定特許出願の公開および特許付与の記録を通して取得することができ、付与された後の香港標準特許は、その指定特許とは独立して存続する。

 

2. 特許取消請求の手続

 香港特許の取消を求める者は通常、香港の裁判所に請求する必要がある。ただし、指定特許が所定の異議申立または取消手続(例えば、EPOでの特許付与後の異議申立)により既に取り消されている場合には、かかる指定特許を根拠として香港特許登録所の登録官に対し、香港特許の取消を請求することができる。登録官はかかる請求を受領した場合、当該事件を裁判所に付託することができる。

 

3. 取消請求判決の内訳

 過去20年で、香港特許の取消請求に関する8件の判決が報告されている。この報告された判決の数は、裁判所が判決を出す前に終結した事件(和解または取下げなど)を含んでいないため、香港の裁判所に提起された取消請求の合計数とは異なる。報告された8件の判決のうち、5件は標準特許の取消、3件は短期特許の取消を求めるものである。8件すべての判決において、一部のクレームの取消ではなく、特許全体の取消が請求され、8件中5件において、特許権侵害の申立に対する抗弁として取消が請求された。

 

 これら8件の判決に関して、特許権者の国籍は以下のとおりである。

(i)5件は香港の特許権者が関与していた(5件すべてにおいて、完全に無効であることを理由に取り消された香港短期特許が関係していた)。

(ii)2件はオランダの特許権者が関与していた(双方の事件において、特許は有効と認められた)。

(iii)1件は日本の特許権者が関与していた(特許は有効と認められた)。

 

 これら8件の判決に関して、すべての取消請求人が香港の企業であった。

 

 これら8件の判決に関して、取消請求人が主張した取消の理由は、以下のとおりである。

(i)6件において、特許クレームは新規性を欠いていると主張された。

(ii)7件において、特許クレームは進歩性を欠いていると主張された。

(iii)3件において、特許明細書の記載が不明瞭または不十分であると主張された。

(iv)1件において、クレームは特許を受けられない主題に関するものであると主張された。

 

4. 所要期間

 取消請求の標準的な所要期間については、当事者が追加の期間延長請求などにより手続を遅延させようと試みないことを前提として、取消請求の判決が下されるまでに12‐18か月を要するのが一般的である。

 

5. 上訴

 これら8件の判決のうち、上級裁判所に上訴されたのはわずか1件であり、違憲審査を求められた事件はなかった。

シンガポールにおける登録特許の取消手続と特許出願に対する第三者情報提供について

【詳細】

 シンガポール特許の有効性について、取消手続によって、特許の登録後に争うことができる。一方、特許登録局(以下、シンガポール特許庁と記載)に係属中の特許出願に対する異議申立制度はない。また、公式な第三者情報提供の制度も設けられていない。

 

 以下、シンガポール特許出願または登録特許の有効性を争うための手続について説明する。

 

1.登録特許についての取消手続

 シンガポール特許法では、登録官(Registrar、特許庁長官に相当)は、シンガポール特許庁に提出された申請に基づき、取消理由に該当する特許を取り消すことができる(シンガポール特許法第80条)。この取消手続は、何人も申請することができる。したがって、第三者は、登録特許の有効性に関して、取消手続によって争うことができる。

 

 なお、(1)侵害訴訟における無効の抗弁により、(2)非侵害の確認判決を求める訴訟において、(3)特許侵害を理由とした脅迫に対する訴訟(シンガポール特許法第77条)における請求または反訴の請求として、特許の取消を求める場合は、シンガポール高等裁判所に取消手続を提起することができる(シンガポール特許法第82条)。

 

1-1.シンガポール特許庁による取消手続における取消理由

 シンガポール特許庁の登録官は、以下の理由のいずれかに基づき、特許を取り消す権限を有する(シンガポール特許法第80条)。

 (a)特許の新規性または進歩性が欠如している、または、特許を産業上利用することができない

 (b)特許が、特許を受ける権原のない者に付与された

 (c)特許明細書が、当業者が実施することができるように発明を明確かつ完全に開示していない

 (d)特許明細書に新規事項が追加されている

 (e)特許明細書に、認められるべきでなかった補正または訂正が行われた

 (f)特許が不正に取得された、もしくは、不実表示、所定の重要な情報の不開示または不正確な開示があった

 (g)特許が、同一の優先日を有し、同一の者またはその権原承継人により出願された、同一の発明に関する2以上の特許の1である

 

1-2.シンガポール特許庁による取消手続の流れ

 

取消手続の流れ(出典:シンガポール知的財産庁ウェブサイト)

http://www.ipos.gov.sg/Services/HearingsandMediation/ProceedingsatIPOS/PatentRevocationProceedings.aspx

シンガポール特許庁による取消手続の流れ

シンガポール特許庁による取消手続の流れ

 

 (1)取消申請

 取消申請人が特許の取消を申請。取消申請に際して、取消申請人は理由陳述書を提出する。理由陳述書には、取消理由、関連事実、を記載する。

 (2)答弁書

 特許権者は、取消申請に対して、答弁書を提出することができる。特許権者から答弁書が提出されない場合、取消手続の審理は、特許権者が不参加の形式で進められる。

 (2a)補正案

 特許権者は、答弁書の提出と同時に、明細書(クレームを含む)の補正案を提出することができる。

 (2b)補正案の公開

 特許権者による補正案提出から2か月で、補正案は公開される。

 (2c)補正に対する異議

 何人も、補正案の公開から2か月以内に、補正案に対して異議を申し立てることができる。

 (3)事件管理協議(1回目)

 答弁書が提出された後に、両当事者の参加の下、事件管理協議が実施され、取消手続の進行に関して協議する。

 (4)取消申請人による証拠提出

 取消申請人は、特許権者の答弁書および補正案(ある場合)を受領してから3ヶ月以内に、取消を裏付ける証拠を提出することができる。

 (5)特許権者による証拠提出

 取消申請人が提出した証拠の受領から3ヶ月以内に、特許権者は、特許の有効性を裏付ける証拠を提出することができる。

 (6)取消申請人による追加証拠の提出

 特許権者が提出した証拠の受領から3ヶ月以内に、取消申請人は、特許権者が提出した証拠に対する応答として、追加証拠を提出することができる。

 (7)事件管理協議(2回目)

 取消申請人による追加証拠の提出期間が終了した後1か月で、シンガポール特許庁の登録官は、2回目の事件管理協議を開催する。事件管理協議において、登録官は、取消申請人に対して再審査を請求するよう指示することができる。登録官による再審査の請求指示から2か月以内に、取消申請人は、シンガポール特許庁に再審査の請求を行わなければならない。登録官による再審査の請求指示に対して取消申請人が再審査の請求を行わなかった場合、取消申請は放棄されたものとみなされる。

 (8)再審査

 取消申請人によって再審査が請求された場合、シンガポール特許庁の審査官による再審査が行われる。

 再審査では、両当事者の主張および明細書に対して行われた補正が考慮される。再審査報告書には、特許が取り消されるべきか否かに関する勧告が記載される。

 (9)事件管理協議(3回目)

 登録官は、再審査報告書の結論を考慮して、さらなる事件管理協議を開催することができる。さらなる事件管理協議において、登録官は、両当事者の代理人に対して、口頭審理の前に追加書面を提出するよう命令することができる。

 (10)口頭審理

 口頭審理において、両当事者の主張を聴取した後、登録官は決定を下す。

 (11)決定

 登録官は、口頭審理中に決定を両当事者に伝える。口頭審理中の決定が留保された場合、登録官は、決定理由を記載した書面を作成し、両当事者に通知する。

 (12)控訴

 シンガポール特許庁での取消手続の決定を不服とする当事者は、登録官の決定が通知されてから28日以内にシンガポール高等裁判所に控訴することができる。

 

2.特許出願に対する第三者情報提供

 シンガポール特許庁に直接出願された特許出願、またはシンガポールに国内移行された後のPCT出願には、第三者が情報提供を行うための公式な手続はない。ただし、情報提供を希望する第三者は、シンガポール特許庁に書面で情報を提供することにより、非公式の情報提供を行うことができる。情報提供された資料を審査に採用するか否かはシンガポール特許庁の裁量に委ねられている。

 PCT出願の国際段階において第三者情報提供がなされた場合、この第三者情報提供による情報は、PCT出願がシンガポールに国内移行された際に、WIPOの国際事務局からシンガポール特許庁に送付される。シンガポール特許庁の審査官が、特許出願の審査における新規性および進歩性を検討する際に、PCTの国際段階で提出された第三者情報提供の情報を考慮するか否かは裁量に委ねられている。

インドにおける特許異議申立制度-付与前異議と付与後異議

【詳細】

1.付与前異議申立

付与前異議申立は、対象特許出願の公開の日から登録の日まで提出可能である。ただし、申し立てられた異議について審査管理官(Controller)が検討するのは、当該出願について審査請求がなされた後である。付与前異議申立の制度は特許に対して異議を申し立てる機会を公衆に与えることを意図しているため、「何人も」申し立てることができる。異議申立人が付与前異議申立を提出する十分な時間を確保するため、特許出願の公開から6か月間は特許権が付与されないことが、特許法に規定されている。

 

1-1.付与前異議申立の理由

付与前異議はインド特許法第25条(1)に規定された11項目の異議理由に基づき、申立が可能である。このうち代表的な異議理由として、以下の4点が挙げられる。

  • 出願に開示された発明が、出願人によって不正に取得された
  • 発明が、何れかの請求項の優先日の前に公開されていた
  • 発明が、進歩性を有さない
  • 出願人が、インド特許法第8条の要求(たとえば、他国で出願された同一または実質的に同一発明に関する詳細情報のインド特許庁への提出)を順守していない

 

1-2.付与前異議申立の手続

付与前異議申立は、所定の書式(Form 7A)を用いて、インド特許庁に提出する。申立を考慮した審査管理官が当該出願を拒絶すべきという見解を持った場合、異議申立人が作成した異議申立書の副本を添えて出願人へ通知される。出願人は異議の通知に対して、通知の発行日から3か月以内に、応答書を(証拠と共に)提出しなければならない。出願人は、審査管理官の付与前異議申立に対する決定が下されて手続が終了する前に口頭手続の機会を求めることができる。

 

出願人の意見を考慮した後、審査管理官は、出願の特許付与を拒絶するか、または、特許付与前に出願の補正を求めるか、のいずれかを行う事ができる。通常、審査管理官は、付与前異議申立手続きの終了から1か月以内に、決定を下さなければならない。管理官による決定に対して、知的財産審判部(Intellectual Property Appellate Board:IPAB)への不服申立が可能である。

付与前異議申立の手続フロー

付与前異議申立の手続フロー

 

2.付与後異議申立

付与後異議申立は、インド特許法第25条(2)に規定されている。付与後異議は、特許登録の公開の日から1年以内に申し立てなければならない。付与前異議と異なり、付与後異議は、「利害関係人」のみが申し立てることができる。インド特許法第2条(1)(t)によれば、「利害関係人」は、当該発明が関係する同一分野の研究に従事している、または、これを促進する業務に従事する者を含む。Ajay Industrial Corporation v. Shiro Kanao of Ibaraki事件(1983)においてデリー高等裁判所は、「利害関係人」とは、「登録された特許の存続によって、損害その他の影響を受ける、直接的で現実の、かつ具体的な商業的利害を有する」者と解釈している。付与後異議申立の異議理由は、付与前異議申立の異議理由と同様である。

 

2-1.付与後異議申立の手続

所定の書式(Form 7)を用いて、特許庁に異議申立書を提出する。異議申立書の受領後、特許庁は付与後異議申立の合議体として審査管理官3名からなる異議委員会を設置する。当該出願を審査した審査官は、委員会メンバーとしての適格性をもたない。通常は、次席審査管理官(Deputy Controller of Patents)または審査管理官補(Assistant Controller of Patents)が異議委員会の委員長として任命され、2名の上級審査官が残りのメンバーとして任命される。付与後異議申立手続きにおいて、異議申立人は、自らの利害や基礎となる事実、求める救済措置について述べる異議申立陳述書を作成し、証拠(ある場合)ともに異議申立書に添付して、特許庁に提出し、その異議申立陳述書と証拠(ある場合)の写しを特許権者に送付しなければならない。

 

特許権者が異議申立に対して争う場合、異議申立人から異議申立書を受領した日から2か月以内に、特許庁に、証拠(ある場合)とともに異議に争う理由を記述した答弁書を提出し、その写しを異議申立人に送付しなければならない。特許権者が答弁書を提出しない場合、特許は取り消されたものとみなされる。特許権者の答弁書を受領した異議申立人は、受領の日から1か月以内に、弁駁書を提出できる。ただし、そのような異議申立人の弁駁書は、特許権者が提出した証拠に関する内容に厳しく限定される。両者(特許権者、異議申立人)からのさらなる答弁は、審査管理官が許可した場合にのみ提出可能である。答弁書の提出完了後に、異議委員会は、異議委員会の勧告を審査管理官に提出する。

 

その後、審査管理官は、口頭手続の期日を指定する。口頭手続の通知は、口頭手続期日の10日以上前に両者(特許権者、異議申立人)に送付されなければならない。異議委員会の勧告について、審査管理官が口頭手続の期日を設定する前に、異議申立人と特許権者に通知しなければならない。この異議委員会に対する手続き上の要件は、知的財産審判部(IPAB)の過去の決定で示されたものである(M/s. Diamcad N.V. v. Asst. Controller of Patent and Ors. (2012))。また、知的財産審判部(IPAB)は、異議申立手続における異議委員会の勧告および審査管理官の決定には、充分な理由づけが必要、と示した決定もある(Sankalp Rehabilitation Trust v. F Hoffmann-LA Roche AG (2012))。審査管理官は、異議委員会メンバーに口頭手続への同席を指示することができる。口頭審理後、審査管理官は決定を下す。決定に対しては、知的財産審判部(IPAB)への不服申立が可能である。

 

付与後異議申立の手続フロー

付与後異議申立の手続フロー

 

3.異議申立と取消手続との違い

「利害関係人」は、インド特許法第64条に基づき特許の取消を求めることができる。異議申立と取消手続との主な違いは、以下の通りである。

・異議申立(付与前、付与後)は、特許庁に申請する。一方、取消手続は知的財産審判部(IPAB)または、侵害の訴えに対する反訴として高裁に提訴する。

・異議申立の異議理由とは別に、取消手続には、取消理由が規定されており、異議理由には該当しないが、取消理由に該当する場合もある。たとえば、秘密保持指令(インド特許法36条 国防上の秘密保持の指令)への違反は、異議理由ではないが、取消理由となる。

・付与前異議は特許の登録前の申立が必要。付与後異議は特許登録の公開の日から1年以内に申立が必要となる。一方、取消手続は、特許の登録の後、いつでも申請が可能である。

・インド政府は、異議を申し立てることはできない。一方、取消手続はインド政府も申請することができる。