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台湾における特許寄与率に関する知的財産裁判所の認定

【詳細】

 台湾では、智慧財産裁判所(知的財産裁判所)(日本の知的財産高等裁判所に相当)は特許権侵害損害賠償の算定について、従来、特許権者が主張する損害賠償算定方式(例:具体的な損害賠償算定説、差額説、総利益説、合理的な権利金説;専利法第97条)および当事者双方が提出するファイル証拠資料に基づいて斟酌し決定していた。

 

 訴訟に係る特許の権利侵害製品における寄与率については、権利侵害者が訴訟において「裁判所は損害賠償決定の基礎とすべきである」と主張した例が過去にもあったが、知的財産裁判所の見解は、法的根拠を欠くことを理由に特許寄与率による損害賠償の算定を採用しないもの、特許寄与率により損害賠償を算定するもの、特許寄与率の概念を認めてはいるものの個別案の事情により損害賠償算定の基礎として採用しないものなど、さまざまである。本稿では、知的財産裁判所の関連判決を列挙し、知的財産裁判所の特許寄与率に関する認定を研究する。

 

1.法的根拠がないことを理由に特許寄与率による損害賠償算定を採用しない判決

 知的財産裁判所102年(2013年)度民専上字第4号民事判決(判決日:2013年10月17日)および知的財産裁判所102年(2013年)度民専上字第16号民事判決(判決日:2013年11月28日)。これらの案件の権利侵害者は、損害賠償算定時に係争特許の係争製品の収益に対する寄与率または係争特許の係争製品に占める割合を斟酌すべきであると主張したが、裁判所は、改正前の「専利法」(日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)第85条第1項第2号に「損害賠償算定時に係争特許の係争製品の収益に対する寄与率または係争特許の係争製品に占める割合を斟酌すべきである」と規定されていない以上、侵害者が侵害行為によって得た利益により損害を算定すべきであるとして、特許寄与率による損害賠償算定を採用しなかった。

 

2.損害賠償の算定には特許寄与率を考慮すべきであることを認める判決

2-1.特許寄与率により損害賠償を算定する判決

(1)知的財産裁判所99年(2010年)度民専訴字第156号民事判決(判決日:2010年2月22日)は、裁判所が合理的なロイヤリティを斟酌、決定する際、係争特許技術の権利侵害製品の利益および技術に対する寄与率を斟酌要素に入れている。

 「当裁判所は上記の推計された数字および証明済みの権利侵害事実を斟酌し、ならびに、原告が研究専門機関であること、被告が国際的に著名な携帯電話のブランドであること、係争特許についてはこれまで他人に実施許諾がされていないこと、係争特許技術の権利侵害製品の利益および技術に対する寄与率、係争の権利侵害製品の市場占有率、原告が損害賠償額を立証することの困難度など、すべての事情を考慮した結果、原告は合理的なロイヤリティとして少なくとも300万新台湾元を連帯して支払うよう被告に請求することができると認める」。

 

(2)知的財産裁判所100年(2011年)度民専訴字第63号民事判決(判決日:2011年12月28日)。当該案件の裁判所は、特許権侵害損害賠償を算定する際、係争製品(タイヤ周縁部固定板)のタイヤに対する寄与率を考慮し、ならびに、一般消費者または小売業者は当該タイヤ周縁部固定板を単独で購入することはないものの、タイヤ販売時にはすべて当該タイヤ周縁部固定板が一緒についており、タイヤ販売に不可欠な製品で、これがなければ、タイヤの運搬または重ね置きが困難で、一定の効用を有するため、上記のすべての状況を総合して、係争製品からコストを差し引いた後、タイヤに対する寄与率は1つあたり少なくとも5新台湾元である、と認め、ならびに、これに基づいて権利侵害者である被告の得た利益を算定した。

 

(3)知的財産裁判所102年(2013年)度民専上字第3号民事判決(判決日:2013年11月14日)は、裁判所が当該案の損害賠償金額を査定する際、特許技術の権利侵害製品の利益または技術に対する寄与率も考慮要素に入れることを明示している。

 「裁判所は衡平原則(関連する事情を考慮し、法を適用する原則)により、近似する技術特許のロイヤリティ、権利侵害事実をもって推定されるライセンス契約の特性および範囲、ライセンサーとライセンシーの市場における地位、特許技術の権利侵害製品の利益または技術に対する寄与率、権利侵害製品の市場占有率など、すべての情況を斟酌して、適切な合理的ロイヤリティを定め、ファイル内の証拠資料により、本件損害賠償金額を斟酌、決定する」。

 

2-2.特許寄与率に係る概念を認めるものの、個別の事情により、損害賠償算定の基礎として採用しない判決

(1)知的財産裁判所100年(2011年)度民専訴字第61号民事判決(判決日:2012年6月28日)。当該案件の権利侵害者が「係争特許はDVD6Cの400件の特許の1つでしかないため、特許権者が請求できる金額は400で割るべきである」と申し立てたが、裁判所は、以下に述べる理由により、当該権利侵害者の主張を採用しなかった。

 (i)権利侵害者が製造した光ディスクはすべてDVD6Cの400件の特許を使用しなければならないか否か、係争特許とその他399件の特許のロイヤリティの分担率、いずれについても権利侵害者は立証していない、

 (ii)係争特許はDVD規格書の一部分であり、その技術特徵は光ディスク全体に付帯するものであり、単独で切り離すことはできず、かつ、もし係争特許を欠くのであれば、当該光ディスクは価値がなく、このことから、係争特許の当該光ディスクに対する寄与率は100%を占めていることがわかり、400分の1をもって特許権者の損害を賠償すべきとする権利侵害者の認識には理由がない。

 

(2)知的財産裁判所101年(2012年)度民専訴字第34号民事判決(判決日:2013年1月25日)。当該案件の権利侵害者は、「特許権侵害損害賠償を算定する際、侵害者が権利侵害製品を販売して得る利益に対する特許侵害行為の実際の寄与率を検討しなければならない」と主張し、ならびに、市場調査資料をかかる主張の証左とした。裁判所は、どのくらいの消費者が係争特許と関連する「造型」を副次的または再副次的とするのか市場調査には開示されておらず、ゆえに、「造型」が消費者のバイク購入に及ぼす影響の真の比重がどうであるのか全面的に明示することができていないことを理由に、特許寄与率による損害賠償の算定を採用しなかった。

 

(3)知的財産裁判所101年(2012年)度民専上字第7号民事判決(判決日:2012年12月27日)。当該案件の権利侵害者は「係争製品(ブラジャー)の価格により損害賠償額を算定するのではなく、特許寄与率により算定すべきである」と主張した。しかし、裁判所は、係争製品のカタログにより、権利侵害者が係争製品を販売する際、当該製品が係争特許の技術特徴であるN型ストラップを具えることを強調しており、かつ、当該バックベルトは係争製品と分離して販売することができないため、係争製品の価格により権利侵害者が侵害によって得た利益を算定すべきである、と認定している。

 

3.まとめ

 現行の専利法には、損害賠償の算定時に特許寄与率を斟酌すべきである旨の明文規定が置かれていないものの、裁判所が特許寄与率によって特許権侵害の損害賠償を算定することには法的根拠がある。すなわち、当事者が専利法第97条の規定により特許権者が受けた損害額を算定するのが困難である、または証明には明らかに重大な困難を伴う場合、裁判所は民事訴訟法第222条第2項の規定により、関連する事実や証拠(例:近似する技術特許のロイヤリティ、権利侵害事実をもって推定されるライセンス契約の特性および範囲、ライセンサーとライセンシーの市場における地位、特許技術の権利侵害製品の利益または技術に対する寄与率、権利侵害製品の市場占有率など、すべての状況)を総合して、損害賠償金額を斟酌、決定する。

 

 前記知的財産裁判所の判決から、裁判所が特許寄与率を損害賠償算定の基礎として採用するか否か斟酌する際、当事者の提出する事実や証拠が重要な役割を果たしていることがわかる。権利侵害者が、特許技術の権利侵害製品の利益および技術に対する寄与率に係る事実や証拠を具体的に提出することができれば、裁判所は、権利侵害者が権利侵害製品につき得た利益すべてをもって損害賠償を算定するのではなく、特許寄与率による算定を採用する傾向がある。

 

 これに対して、仮に特許権者が、係争特許の係争製品に対する寄与率が100%であることを立証することができれば、権利侵害者が権利侵害製品につき得た利益すべてをもって損害賠償を算定するよう裁判所を説得するチャンスもある。現在、実務において、特許寄与率を損害賠償算定とする抗弁を権利侵害者が提出する例はわずかであり、裁判所の特許寄与率認定についての具体的な基準については、なお考察が必要である。