中国における特許無効手続に関する統計データ
1. 背景情報
中国専利法および中国専利法実施細則に従い、国務院専利行政部門により特許権付与が公告された日から、当該特許権の付与が、専利法または実施細則の関連規定に反すると考えるあらゆる事業体または個人は、国務院専利行政部門の復審無効審判部(中国語:复审和无效审理部、日本における審判部に相当。以下、「審判部」という。)に当該特許権の無効審判を請求できる(中国専利法第45条第1項、中国専利法実施細則第65条第2項)。
特許権の完全無効または一部無効を請求するあらゆる者は、審判請求書および必要な添付書類2部を審判部に提出しなければならない。特許権の無効または維持を宣告する審判部の審決を不服とする当事者は、当該通知の受領後3か月以内に北京知識産権法院に訴訟を提起できる(中国専利法第46条第2項)。
2. 審判部が受領した特許無効審判請求の件数
CNIPAが公表する年報に記載のデータによると、2018年‐2022年に審判部が受領した特許無効審判請求の年間件数は、表1のとおりであり、全体的に増加の傾向が見られる。
年 | 審判部が受領した件数 |
2022 | 7,095 |
2021 | 7,628 |
2020 | 6,178 |
2019 | 6,015 |
2018 | 5,235 |
3. 過去5年間における特許無効審判の審決の件数
CNIPAが公表する年報に記載のデータによると、2018年‐2022年に審判部が下した審決の年間件数は表2のとおりであり、全体的に増加の傾向が見られる。
年 | 審決が下された件数 |
2022 | 7,879 |
2021 | 7,065 |
2020 | 7,144 |
2019 | 5,327 |
2018 | 4,217 |
4. 特許無効審判の平均所要期間
CNIPAが公表する年報に記載のデータによると、2022年における特許無効審判の平均所要期間は約5.7か月で、2021年における特許無効審判の平均所要期間は約5.8か月であった。
5. 医薬品分野における特許無効の統計データ
IPRDaily中文網に掲載された文章「中国医薬品分野における特許無効の概要の分析」に、以下のデータが提示されている。
1997年‐2021年8月に医薬品分野において無効審判が請求された特許は計597件、その内518件は審決が下された。審決内容の内訳は、表3のとおりである。
無効審判の審決 | 比率 |
完全無効 | 51% |
一部無効 | 16% |
完全有効 | 33% |
中国における特許無効手続に関する統計データ
1. 背景情報
中国専利法およびその実施細則に従い、国務院専利行政部門により特許権付与が公告された日から、当該特許権の付与が専利法または実施細則の関連規定に反すると考えるあらゆる事業体または個人は、専利復審委員会(Patent Reexamination Board: PBR、日本における審判部に相当)に当該特許権の無効審判を請求できる。
特許権の完全無効または一部無効を請求するあらゆる者は、審判請求書および必要な添付書類2部を専利復審委員会に提出しなければならない。特許権の無効または維持を宣告する専利復審委員会の審決を不服とする当事者は、当該通知の受領後3か月以内に北京知識産権法院に訴訟を提起できる。
2. 過去5年間における中国の特許無効審判の件数
2012年‐2016年に審決が下された特許無効審判の件数
3. 専利復審委員会が受領した特許無効審判請求の件数
2011年以降、専利復審委員会が受領した特許無効審判請求の年間件数は、2015年には2749件から3724件に増加しており、平均年間増加率は9.1%である。
4. 特許無効審判の平均所要期間
中国中央人民政府のウェブサイトに記載のデータによれば、2015年における特許無効審判の平均所要期間は約5.8か月で、2016年における特許無効審判の平均所要期間は約5.1か月であった。
5. 2016年4月22日から2017年8月7日までの特許無効審判の統計分析
下記のすべてのデータは、専利復審委員会により発表されたものである。
5-1. 特許無効審判請求における特許権者と請求人の関係
特許無効審判の合計件数 v. 発明特許の無効審判請求
特許無効審判請求の合計(左)と発明特許の無効審判請求(右)
実用新案の無効審判請求(左)と意匠特許の無効審判請求(右)
上記統計データによれば、発明特許の無効審判請求では、企業の請求人が企業の特許権者に対して無効審判を請求するケースが最も多いのに対し、研究機関により出願された特許に対する無効審判請求は最も少なかった。同様の状況が実用新案特許にも当てはまる。一方、意匠特許の場合、個人の意匠特許権者が最も多く無効審判を請求されていた。
5-2. 特許無効審判請求件数に関する上位12の産業分野
各産業分野において無効化された発明特許、実用新案、意匠特許の件数
上記表を参照すると、無効化された発明特許の数が最も多い分野は、化学および材料分野であり、次に設備および機器製造分野の特許も多く無効化されている。実用新案では、一般設備製造および特定設備製造分野での無効化件数が最も多い。無効化された意匠特許が最も多いのは、電子機器、工学機器製造分野である。
6. 医薬品分野における特許無効の統計データ
Chinese Journal of New Drugs*に掲載された記事「医薬品分野における復審および無効審判事件の統計分析」に、以下のデータが提示されている。
6-1. 1990年‐2010年に医薬品分野において専利復審委員会によりなされた特許無効審判における審決
医薬品分野における147件の特許無効審判審決の統計分析(1990-2010)
6-2. 医薬品分野における発明特許の無効理由
主な無効理由は、中国専利法第22条違反、第25条違反、第26条違反および第33条違反である。特に中国専利法第26条4項に基づき「クレームは明細書により裏づけられていない」という無効理由が、専利復審委員会の審決で最も多く引用されている。次に多いのが、中国専利法第22条に基づき「当該特許には新規性、進歩性または実用性が欠けている」という理由であり、その次が中国専利法第33条に基づき「特許明細書に対して行われた補正は出願当初の開示の範囲を超えている」という理由であった。なお、中国専利法第25条では、特許を受けることができない発明が例示されており、それらに該当する場合は無効理由となる。
7. 司法審理に付託された特許無効審判審決の分析
専利復審委員会により審決が下された後、その結果を不服とする審判請求人または特許権者は、北京知識産権法院に上訴できる。過去5年間において、専利復審委員会により処理されたすべての事件に対する、専利復審委員会が被告として当裁判所に出頭した事件の比率を以下に示す。
司法審理に付託された特許無効審判審決の比率(2012年‐2016年)
中国における知的財産裁判所(知識産権法院)
【詳細】
1.知識産権法院の創設
中国には2014年11月まで、知的財産権専門の裁判所はなかった。知的財産に関する民事、行政、刑事事件は民事訴訟法、行政訴訟法、刑事訴訟法および、一連の知的財産に関する事件の管轄規定に基づき、既存の各裁判所により受理・審理されてきた。
中国の国会にあたる全人代常務委員会において2014年8月31日、「北京、上海、広州における知識産権法院の設立に関する決定」が可決され、最高人民法院が同規定を公布、11月3日より施行された。
上記の規定に基づき、北京知識産権法院が同年11月6日に、広州知識産権法院が12月16日に、上海知識産権法院は12月28日にそれぞれ設立された。知識産権法院は中級人民法院に相当する位置づけにある。なお人民法院(日本における裁判所に相当。)については級別に4級あり、上から最高人民法院、高級人民法院、中級人民法院、基層人民法院となっている。
2.知識産権法院の管轄
「北京、上海、広州の知識産権法院における案件の管轄に関する規定」に基づき、北京、上海、広州の知識産権法院が管轄する案件は以下の通りである。
2-1.北京市知識産権法院
(1)北京市の管轄区における特許、植物新品種、集積回路配置設計、ノウハウ、コンピューターソフトウェアに関わる第一審の民事および行政案件
(2)北京市の区、県級以上の地方人民政府が著作権、商標、不正競争などに関して実施した行政行為を不服として提起した行政訴訟の一審案件
(3)北京市の管轄区における馳名商標の認定に関わる第一審の民事案件
(4)国務院部門が特許、商標、植物新品種、集積回路配置設計等の知的財産権に関して下した権利付与・確定の査定または決定を不服とする第一審の行政案件
(5)国務院部門が特許、植物新品種、集積回路配置設計に関して下した強制許諾決定および強制許諾の実施料あるいは報酬の裁定を不服とする第一審の行政案件
(6)国務院部門が知的財産権に関して行った権利付与・権利確定に関わるその他の行政行為を不服とする第一審の行政案件
(7)北京市の基層人民法院が下した著作権、商標、技術契約、不正競争に関わる民事および行政判決、裁定を不服として控訴した案件
2-2.上海知識産権法院
(1)上海市の管轄区における特許、植物新品種、集積回路配置設計、ノウハウ、コンピュータソフトトウェアに関わる第一審の知的財産権民事および行政案件
(2)上海市の区、県級以上の地方人民政府が著作権、商標、不正競争などに関して実施した行政行為を不服として提起した第一審の行政案件
(3)上海市の管轄区における馳名商標の認定に関わる第一審の民事案件
(4)上海市の基層人民法院が下した著作権、商標、技術契約、不正競争に関わる民事および行政判決、裁定を不服として控訴した案件
2-3.広州知識産権法院
(1)広東省の管轄区内における特許、植物新品種、集積回路配置設計、ノウハウ、コンピューターソフトウェアに関わる第一審の知的財産権民事および行政案件
(2)広州市の区、県級以上の地方人民政府が著作権、商標、不正競争などに関して実施した行政行為を不服として提起した第一審の行政案件
(3)広東省の管轄区内の馳名商標の認定に関わる第一審の民事案件
(4)広州市の基層人民法院が下した著作権、商標、技術契約、不正競争に関わる民事および行政判決、裁定を不服として控訴した案件
なお、当事者が知識産権法院の下した一審判決、裁定を不服として提起した上訴案件および上級の裁判所に再審を請求した案件については、知識産権法院所在地の高級人民法院の知識財権審判廷が審理する。
3.知識産権法院の機構設置
北京知的財産権法院は、司法体制改革の精神に則って設立された。内部には4つの法廷が設置され、2つの司法補助機構と1つの総合行政機構が設置されている。法廷にはいずれも副裁判長を置かず、主審裁判官と合議法廷の位置づけを明確にしている。
人事的には分類管理と定員制を実施しており、裁判官は総勢30名、司法補助職員が51名、司法行政職員が15名となっている。広州知識産権法院には立案法廷、特許審判法廷、著作権審判法廷、商標および不当競争審判法廷の4つの審判業務法廷以外に,1つの総合行政機構(総合事務室)と2つの司法補助機構(技術調査室と司法警察小隊)が置かれている。
審判法廷は行政級別が確定されておらず、裁判長は主審裁判官が兼任し、副裁判長は置かれていない。内訳は政治司法特定項目の担当職員が100名、主審裁判官が30名で、他に院長1名と副院長2名(うち1名は副院長と政治部主任を兼任)がいる。
上海知識産権法院の内部構成は対外的には公表されていないものの、全体的な枠組みは北京や広州の知識産権法院とほぼ同じであると考えられる。