中国における実用新案出願制度概要
1. 出願手続
(1) 出願
出願書類は、願書、明細書およびその要約、図面、特許請求の範囲等(中国専利法(以下「専利法」という。)第26条)である。
すべての書類は中国語で提出する必要があり、中国語でない場合は不受理となる(中国専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第3条第1項、第44条第1項2号)。外国語出願制度はない。
日本と異なり、特許、実用新案、意匠の間での出願変更制度はない。ただし、同一の出願人が、同様の発明創造に対して、同日に実用新案特許と発明特許の出願を提出することは認められている(専利法第9条第1項、実施細則第47条第2項)。
パリ条約を利用した優先権主張は、第一国への出願から12か月以内にしなければならない(専利法第29条)。PCT出願の場合は、優先日より30か月以内に中国国内移行手続を行う必要がある。この期間は、期限延長費を支払うことにより2か月延長できる(実施細則第120条)。
(2) 初歩審査(中国語「初步审查)」)
願書や添付書類などが所定の方式に適合しているか否か、および所定の登録要件を明らかに満たしていないかの審査が行われ、必要に応じ、指定期限内に意見の陳述または補正をするよう通知される(専利法第40条、実施細則第50条第1項第2号、第2項)。
従来、初歩審査において、明らかに新規性の規定に違反していないかの審査が行われており、進歩性(専利法第22条)に関しては審査されていなかったが、2023年の実施細則の改正により、進歩性の規定に関しても明らかに違反していないかの審査が行われることになった(実施細則第50条第1項第2号)。
出願公開制度、審査請求制度はない。
(3) 登録・公告
審査の結果、出願を拒絶する理由が存在しない場合には、権利付与決定の後、実用新案権(中国語「实用新型专利权(実用新型専利権)」)が付与され、その旨が公告される。実用新案権は、公告日から有効となる(専利法第40条、審査指南第5部第9章1.1.1)。出願人は付与通知書の受領日から2か月以内に登録手続を行い、その際に付与年度の年金を納付しなければならない(実施細則第114条、審査指南第5部第9章1.1.2、1.1.3、第5部第2章1.(6))。
実用新案出願が拒絶された場合には、出願人は拒絶査定の通知の受領日から3か月以内に国務院専利行政部門(中国語「国务院专利行政部门」)に対して、不服審判(中国語「复审(復審)」)の請求をすることができる(専利法第41条第1項)。国務院専利行政部門は、不服審判の審理後に拒絶査定を維持するか、あるいは拒絶査定を取り消すかの決定を下し、かつ専利出願人に通知する。出願人は、国務院専利行政部門の不服審判の決定について不服がある場合、通知受領日から3か月以内に人民法院に提訴することができる(専利法第41条第2項)。
実用新案特許権の存続期間は、出願日から10年である(専利法第42条、審査指南第5部分第9章4.1)。
2. 自発的補正
出願人は、出願日より2か月以内に、実用新案特許出願を自発的に補正(中国語「修改」)することができる。出願書類の補正は、元の明細書と権利請求の範囲を超えてはならない(専利法第33条、実施細則第57条第2項)。
3. 専利権評価報告書
(1) 開放的許諾における専利権評価報告書
実用新案権について開放的許諾声明(実用新案の実施を許諾する意思がある旨の声明)を国務院専利行政部門に提出する場合、専利権評価報告書(中国語「专利权评价报告」)を提供しなければならない(専利法第50条第1項)。実用新案権者が開放的許諾声明を取り下げる場合は、書面により提出しなければならず、かつ国務院専利行政部門がこれを公告する。開放的許諾声明の取り下げが公告された場合、先に与えられた開放的許諾の効力には影響を及ぼさない(専利法第50条第2項)。
(2)侵害訴訟における専利権評価報告書
実用新案権の侵害訴訟の場合、人民法院または専利業務管理部門※1は、実用新案権者または利害関係者※2に対し、実用新案権侵害紛争を審理し、処理するための証拠として、国務院専利行政部門が、関連する実用新案について検索、分析、評価を行ったうえ作成した専利権評価報告書を提出するよう要求することができる(専利法第66条第2項)。実用新案権者、利害関係者または被疑侵害者は、自発的に専利権評価報告書を提示することもできる。
※1 専利業務管理部門は、省・自治区・直轄市人民政府の当該行政区域内において専利管理業務を行う機関である(専利法第3条第2項)。
※2 利害関係者とは、人民法院に侵害訴訟を提起する専用実施権者、および実用新案権者から契約により訴権を取得した通常実施権者等である(審査指南第5部第10章2.1)。
(3) 専利権評価報告書の請求時期の拡張および作成期限
2023年の実施細則の改正によって、出願人は、実用新案権の登録手続を行う際に、専利権評価報告書の作成を国務院専利行政部門に請求することが可能となった(実施細則第62条第1項)。
国務院専利行政部門は、専利権評価報告請求書を受け取ってから2か月以内に、専利権評価報告を作成しなければならない(実施細則第63条第1項)。ただし、出願人が実用新案権の登記手続を行う際に専利権評価報告書の作成を請求した場合、国務院専利行政部門は、実用新案権付与の公告日から起算して2か月以内に専利権評価報告書を作成しなければならない(実施細則第63条第1項)。