ホーム 刊行物

マレーシアにおける特許の新規性について

1.新規性の判断基準
 マレーシアでは、発明が先行技術により予測されないものである時は、その発明は新規性を有すると判断される。ここでいう先行技術とは、具体的には、以下の(a)、(b)により構成されるものをいう(マレーシア特許法第14条第1項、第2項)。

(a)刊行物、口頭の開示、使用または他の方法によって、出願日もしくは優先日前に、世界のいずれかの場所において開示されたもの。
(b) 先行する出願日または優先日を有する国内特許出願に記載されている内容であって、マレーシア特許法第33Ð条に基づいて公開される特許出願に包含されているもの。

マレーシア特許法
第14条 新規性
(1) 発明が先行技術により予測されないものであるときは,その発明は新規性を有する。

(2) 先行技術は,次に掲げるものによって構成されるものとする。
(a) その発明をクレームする特許出願の優先日前に,世界の何れかの場所において,書面による発表,口頭の開示,使用その他の方法で公衆に開示されたすべてのもの
(b) (a)にいう特許出願より先の優先日を有する国内特許出願の内容であって,その内容が前記の国内特許出願に基づいて33D条に基づいて公開される特許出願に包含されている場合のもの[法律A1649:5による改正]

2.特許の新規性喪失の例外(グレースピリオド)
 先行技術の開示が、次に掲げる事情(a)、(b)、(c)に該当している場合は、その開示は無視するものとされ(a disclosure・・・shall be disregarded)、その開示により特許出願は新規性を失わない(マレーシア特許法第14条第3項)。

(a) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の行為を理由とするものであったかまたはその行為の結果であったこと。
(b) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったかまたはその濫用の結果であったこと。
(c) その開示が、本法の施行日に、英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること。

マレーシア特許法
第14条 新規性
(3) (2)(a)に基づいてなされた開示が次に掲げる事情に該当している場合は,その開示は無視するものとする。
(a) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の行為を理由とするものであったか又はその行為の結果であったこと
(b) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったか又はその濫用の結果であったこと
(c) その開示が,本法の施行日に,英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること

(4) (2)の規定は,先行技術に含まれる物質又は組成物の,第13条(1)(d)にいう方法における使用に関する特許性を排除するものではない。ただし,そのような方法におけるその使用が先行技術に含まれていないことを条件とする。

 上述のグレースピリオドの適用を主張する場合、出願人は、出願時にまたはその他いつでも、上記の各理由によって先行技術としては無視されるべきと考える事項を、付属の陳述書(an accompanying statement)において明らかにしなければならない(マレーシア特許規則20)。

 なお、証拠書類を陳述書と併せて提出する必要はなく、証拠の提出に関する具体的な日数制限があるわけでもないが、実務においては、拒絶理由通知を受けた後に補充することが行われている。

マレーシア特許規則
規則20 先行技術との関係で無視されるべき開示
出願人は,出願時に又はその他の何時であれ,自己が認識しかつ特許法第14条(3)に基づき先行技術としては無視されるべきと考える開示事項を述べるものとし,その事実を付属の陳述書において明らかにするものとする。

3.審査基準
 マレーシア特許審査基準では、新規性に関して、D 7.0「新規性」に記載されている。
 審査基準D 7.0冒頭に、前記特許法第14条第1項の条文を引用し、先行技術により予測されない発明は新規性を有する、と記載されている。
 なお、先行技術とは、審査基準D 5.1において、マレーシア特許出願の出願日(または優先日)より前に、書面または口頭による説明、使用、またはその他の方法によって公衆に利用可能になったすべてのもの、と定義されている。
 以下、審査基準D 7.1~7.9の各項における主な記載内容を紹介する。

3-1. マレーシア特許法第14条第2項に基づく先行技術(審査基準 D 7.1)
 新規性の検討において、先行技術文献に記載された先行技術、または異なる実施形態の別個の項目を組み合わせることは認められない。文献内で明示的に否認されている事項や明示的に記載されている先行技術は、その文献に含まれているとみなされ、その範囲や意味を解釈し理解する際に考慮されるべきである。
 新規性を評価する際、文献の教示に周知の同等物が含まれていると解釈することは不適切である。つまり、特許請求範囲に従来技術にはないマイナーな特徴(周知の同等物)が含まれている場合、その請求項は新規性があるとみなすことができる。先行技術からの発展が、技術的な問題を解決しない周知の同等物を代用するものである場合、既知のもの、または先行技術からの非発明的な発展については、独占を認めるべきではない。

3-2. 暗黙の特徴またはよく知られた同等物(審査基準 D 7.2)
 発明または実用新案の新規性を評価するために先行技術が引用される場合、先行技術に記載された明示的な技術内容と、当業者が開示内容から直接的かつ曖昧さなく推測できる暗黙的な技術内容の両方が含まれる技術内容が使用される。先行技術に明示的または黙示的に開示されている特徴の周知同等物は、先行技術から「直接かつ曖昧さなく導出可能」とはみなされず、したがって、進歩性の評価のためにのみ考慮される。

3-3. 先行技術文献の関連日(審査基準 D 7.3)
 新規性を判断するために、先行技術文献は、関連日において当業者によって読まれ理解されたであろうように読まれ考慮される。先行技術の検討における関連日とは、当該先行技術が公開された日を意味する。ただし、関連する先行技術が先の出願である場合を除く。この場合、関連する日は、当該先の出願の出願日、または特許法第14条第2項に該当する場合には優先日となる。

3-4. 先行技術文献における実施可能な開示(審査基準 D 7.4)
 実施可能な開示を提供する先行技術文献は、その時点における当該分野の一般的な知識を考慮して、当業者が請求項に係る発明を実施することを可能にするのに十分な詳細さで請求項に係る発明を記載している場合、請求項に係る発明を予見させるものである。先行技術に名称または式が記載されている化学化合物は、先行技術に記載された情報と、先行技術の関連日において利用可能であった追加的な一般知識とによって、当該化合物の調製または天然に存在する化合物の場合には分離が可能とならない限り、自動的に公知とはならない。

3-5. 一般的な開示と具体例(審査基準 D 7.5)
 請求項の範囲に含まれる内容が先に開示されている場合、請求項は新規性を欠く。従って、発明を代替案の観点から定義した請求項は、その代替案の一つが既に公知であれば新規性を欠くことになる。対照的に、先行技術の一般的な開示は、通常、より具体的な請求項を予見させることはない。

3-6. 暗黙の開示とパラメータ(審査基準 D 7.6)
 新規性の欠如は、通常、先行技術の明示的な開示から明確に明白でなければならない。しかしながら、先行技術が、先行技術の内容およびその教示の実際的な効果に関して審査官に何の疑いも残さない暗黙的な方法でクレームされた主題を開示している場合、審査官は新規性の欠如に関する異議を提起することができる。
 このような状況は、特許請求の範囲において、発明やその特徴を定義するためにパラメータが使用されている場合に起こり得る。関連する先行技術では、異なるパラメータが記載されているか、パラメータが全く記載されていない可能性がある。公知製品と特許請求の範囲に記載された製品が他の全ての側面において同一である場合、新規性欠如の異議を生じる可能性がある。しかし、出願人がパラメータの相違について立証可能な証拠を提出できる場合、請求項に係る発明が、指定されたパラメータを有する製品を製造するために必要なすべての必須特徴を十分に開示しているかどうか、を評価する必要がある。

3-7. 新規性の審査(審査基準 D 7.7)
 新規性を評価するために請求項を解釈する場合、特定の意図された用途の非特徴的な特徴は無視されるべきである。他方、たとえ明示的に記載されていなくても、特定の用途によって暗示される特徴的な特性は考慮されるべきである。
 異なる純度の公知化合物を有するだけでは、その純度が従来の方法によって達成可能である場合、新規性は付与されない。出願人は、新規性を克服するためには、請求項に係る発明の純度は、従来のプロセスでは得られないことを示すのではなく、その代わりに従来公知のプロセスや方法では達成不可能な結果であることを示す必要がある。

3-8. 選択発明(審査基準 D 7.8)
 選択発明には、従来技術におけるより大きな既知の範囲では明確に言及されていない個々の要素、サブセット、または部分範囲を主張する発明が含まれる。これらの発明は、先行技術の開示の範囲内、またはそれをオーバーラップするものである。
 請求項に係る発明が、具体的に開示された1つの要素リストから要素を選択したものであっても、新規性は立証されない。しかし、2つ以上のリストから選択された要素を、その組み合わせを明示的に開示することなく組み合わせることは、新規性があるとみなされる可能性がある。
 従来技術のより広い数値範囲から選択された請求項に係る発明の部分範囲は、以下の場合に新規である。
 - 既知の範囲と比較して狭い。そして
 - 従来技術に開示されている特定の例および既知の範囲の終点から十分に離れている。
 選択発明は、例えば、請求される主題と先行技術の数値範囲や化学式など、オーバーラップする範囲を含むこともできる。数値範囲がオーバーラップする物理パラメータの場合、既知の範囲の終点、中間値、またはオーバーラップする先行技術の具体例が明示されていれば、請求された主題は新規ではない。
 先行技術の範囲から新規性を否定する特定の値を除外するだけでは、新規性の立証には不十分である。また、当該分野の当業者が、オーバーラップする領域内での作業を真剣に検討するかどうかも考慮する必要がある。
 化学式がオーバーラップする場合、請求された主題が、新たな技術要素または技術的教示によって、オーバーラップする範囲において先行技術と区別されれば、新規性が立証される。

3-9. 数値の誤差範囲(審査基準 D 7.8.1)
 関連分野の当業者であれば、測定に関連する数値は、その精度を限定する誤差の影響を受けることを考慮しなければならない。このため、科学技術文献における標準的な慣行が適用され、数値の最後の小数位がその精度のレベルを示す。他の誤差が指定されていない状況では、最後の小数位を四捨五入して最大誤差を決定すべきである。

3-10. リーチスルークレームの新規性(審査基準 D 7.9)
 「リーチスルー(Reach-through)」クレームは、生物学的標的に対する製品の作用を機能的に定義することにより、化学製品、組成物または用途の保護を求めることを目的として策定される。これらのクレームは、基本的に明細書の開示事項を超えて拡張され、明示的に記載されていないが、本発明を使用して開発される可能性のある主題を包含する。
 多くの場合、出願人は新たに同定された生物学的標的に基づいて化合物を定義する。しかし、これらの化合物が作用する生物学的標的が新しいからといって、必ずしも新しいとは限らない。実際、出願人は、既知の化合物が新しい生物学的標的に対して同じ作用を発揮することを示す試験結果を提示することが多い。その結果、このように定義された化合物に関するリーチスルークレームは、新規性を欠くことになる。

中国における進歩性(創造性)の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(後編)

 進歩性に関する法令等の記載個所、進歩性判断の基本的な考え方、用語の定義については「中国における進歩性(創造性)の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(前編)」をご覧ください。

4.進歩性の具体的な判断
4-1.具体的な判断手順

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3. 進歩性の具体的な判断」に記載された「(1)から(4)までの手順」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法

(2) 異なる事項または留意点
 前編で述べたとおり、「三歩法」のステップ1(最も近似した現有技術を確定)では、まず技術分野が同一または近似した現有技術を優先的に考慮し、次に発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術を考慮する。同一または近似した現有技術が無かった場合には、技術分野が異なるけれども発明の功能(効果)が実現できかつ発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術を考慮する。さらに、従属請求項も含めて最も近似した現有技術を確定してもよい。ただし、「発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術」が同一または近似した技術分野から発見される頻度が高いことを割り引いて考えると、実務上は、技術分野にかかわらず、「発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術」を選択する傾向が多いとみることもできる。
 「三歩法」のステップ2(発明の区別される技術特徴および発明で実際に解決する技術問題の確定)では、最も近似した現有技術に基づいて発明の区別される技術特徴を確定し、これに基づいて発明の解決しようとする技術問題を確定する。ただし、審査段階での最も近似した現有技術に基づいた技術問題と発明に記載した技術問題とが異なる場合には、審査官が確定した最も近似した現有技術に基づいて技術問題を改めて確定する。
 「三歩法」のステップ3(自明か否かの判断)では、現有技術を全体として、ある技術的示唆が存在するか否かを判断する。以下の場合には技術的示唆があると考えられる。

  1. 区別される技術特徴が公知の常識である。
  2. 区別される技術特徴が最も近似した現有技術の他の部分に記載されかつ作用が同じである。

 また、実務上は以下の場合にも技術的示唆があると判断されている。

  1. 区別される技術特徴が他の現有技術に記載されかつ作用が同じである。
  2. 区別される技術特徴とは異なるけど作用が同一または近似しかつ改良後に最も近似した現有技術に応用できる。
  3. 現有技術には示唆が無いけれども属する技術分野の技術者が既知の技術手段に基づいて最も近似した現有技術を改良する動機がある。

4-2.進歩性が否定される方向に働く要素
4-2-1.課題の共通性

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(2) 課題の共通性」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法の(3)の(iii)

(2) 異なる事項または留意点
 文言上の課題が共通すれば技術的示唆があるとまでは言い切れないが、下記の例で示すとおり、課題(技術問題)が同じである前提で作用が同じであると、技術的示唆があると判断できる。

 【例】
 保護を請求する発明は「ブレーキ表面を清浄するために使用する水を排出するための排水溝を設けたグラファイトディスクブレーキ」である。発明が解決しようとする技術問題は、摩擦によって発生する制動を妨害するブレーキ表面のグラファイト屑をどのように清浄するかである。対比文献1は「グラファイトディスクブレーキ」を記載している。対比文献2は「金属ディスクブレーキに設けた該ブレーキ表面に付着した埃を洗い流すための排水溝」を開示している。
 保護を請求する発明と対比文献1の区別点は、この発明がグラファイトブレーキの表面に凹溝を設けていることであるが、この区別される技術特徴は対比文献2に開示されている。対比文献1のグラファイトディスクブレーキは摩擦によってブレーキ表面に屑を発生させ、制動が妨害される。対比文献2の金属ディスクブレーキは表面に埃が付着することによって制動が妨害される。制動の妨害という技術問題を解決するために、前者は屑を取り除き、後者は埃を取り除く必要がある。これは性質が同一な技術問題になる。グラファイトディスクブレーキの制動問題を解決するために、その分野の技術者は対比文献2の示唆に基づき水で洗い流すこと、そして凹状溝をグラファイトディスクブレーキに設け、屑を洗い流した水を凹溝から排出することを容易に想到できる。対比文献2の凹状溝の役目と発明が保護を請求する技術方案(*)の凹状溝の役目は同じであるため、その分野の技術者には対比文献1と対比文献2を組み合わせて、この発明の技術方案を得ることに動機付けられる。従って、現有技術に前述の技術的示唆が存在すると考えられる。

(*) 日本語の技術的解決手段に相当。

4-2-2.作用、機能の共通性
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(3) 作用、機能の共通性」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法の(3)の(iii)

(2) 異なる事項または留意点
 最も近似した現有技術と区別される技術特徴が別の対比文献(副引用例)に開示されている関連の技術手段であり、当該技術手段がこの対比文献において果たす役目が、その区別される技術特徴が保護を請求する発明において改めて確定された技術問題を解決するための役目と同じである場合には、自明であると判断される。

4-2-3.引用発明の内容中の示唆
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(4) 引用発明の内容中の示唆」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法の(3)

(2) 異なる事項または留意点
 現有技術の中から、区別される技術特徴を最も近似した現有技術に適用することにより、そこに存在する技術問題(即ち、発明で実際に解決する技術問題)を解決するための示唆が示されているか否かに基づいて自明であるかを判断する。
 審査指南によれば、以下に挙げられる状況は通常、現有技術に前述の技術的示唆が存在すると考えられる。

(i) 区別される技術特徴は公知の常識である。例えば、当分野において、当該改めて確定された技術問題を解決する通常の手段、或いは教科書や参考書などで開示されたその改めて確定された技術問題を解決するための技術手段など。
(ii) 区別される技術特徴は最も近似した現有技術と関連する技術手段である。例えば、同一の対比文献のその他の部分に開示された技術手段が当該その他の部分で果たす役目は、その区別される技術特徴が保護を請求する発明の中においてその改めて確定された技術問題を解決するための役目と同じである場合など。
(iii) 区別される技術特徴は別の対比文献に開示されている関連の技術手段であり、当該技術手段がこの対比文献において果たす役目が、その区別される技術特徴が保護を請求する発明においてその改めて確定された技術問題を解決するための役目と同じである。

 一方、実務上は、前記の(i)~(iii)以外に、以下の事項も考えられる。

(iv) 他の対比文献に区別される技術特徴とは異なる技術手段が開示され、区別される技術特徴と同一または類似した役目を果たし、属する技術分野の技術者が公知となっている変化または公知となっている原理を利用して該当技術手段に対して改良して最も近似した現有技術に応用して発明が得られ、予測できる効果が得られる。
(v) 現有技術には示唆が無いが、属する技術分野の公認的な問題解決するまたは通常存在するニーズを満たす目的から、より安い、よりきれい、より早い、より軽い、より耐久的またはより有効的な顧慮を鑑み、属する技術分野の技術者が既知の技術手段によって最も近似した現有技術を改良して発明が得られ、予測できる効果が得られる。

 実務上は、以下に挙げられる状況は通常、現有技術に前述の技術的示唆が存在しないと考えられる。

(i) 区別される技術特徴は他の最も近似した現有技術に開示されているが、発明及び/または現有技術の示唆に基づいて、該当技術特徴の役割は区別される技術特徴が保護を請求する発明の中においてその技術問題を解決するための役割と異なる。
(ii) 区別される技術特徴は他の対比する文献に開示されているが、該当技術特徴が現有技術で果たす役割と発明で果たす役割とが異なる。
(iii) 区別される技術特徴は他の対比する文献に開示され、該当技術特徴が現有技術で果たす役割と発明で果たす役割とが同じであるが、該当技術特徴を最も近似した現有技術に応用するには技術的な障害がある。
(iv) 最も近似した現有技術の他の部分または他の対比する文献が発明と反対の示唆をしている。

4-2-4.技術分野の関連性
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(1) 技術分野の関連性」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.1 審査の原則
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法
 専利審査指南第二部分第四章4.4 転用発明

(2) 異なる事項または留意点
 発明に進歩性を具備しているかどうかを評価するときには、発明の技術方案(技術的解決手段)そのもののみならず、発明が属する技術分野、解決しようとする技術問題、得られる技術効果も考慮し、発明を1つの完全体としてみなければならないとされている。
そして、最も近似した現有技術を確定するときに、先ずは技術分野が同一または近似する現有技術を考慮しなければならない。
 実務上は、対比する文献を必ず全体として考慮し、公開された技術方案だけではなく、属する技術分野、解決する技術問題、得られる技術効果、技術方案の機能や原理、各技術特徴の選択/改良/変形等を注意すべきであり、全体として現有技術が与えた示唆を理解すべきである。すなわち、実務上でも属する技術分野に関する判断が最初の考慮要素となっている。

4-2-5.設計変更
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(1) 設計変更等」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章4.6 要素変更の発明

(2) 異なる事項または留意点
 日本の設計変更に類似する概念として、「要素変更の発明」が挙げられる。
 要素変更の発明には、要素関係が変化された発明(発明の形状、寸法、比例、位置及び作用関係などの変化)、要素が置換された発明(公知となった製品または方法のある要素が他の公知となった要素によって置換)、要素関係の省略の発明(公知となった製品または方法の中にある1つまたは複数の要素の省略)が含まれる。これらの進歩性判断基準は、「専利審査指南第二部分第四章4.6 要素変更の発明」に記載されている。
 「要素変更の発明」だからといって一律に進歩性が否定されるわけではない。判断に際しては、要素関係の変化、要素の代替と省略に技術示唆が存在しているかどうか、その技術効果は予測できるものかどうかなどを考慮する必要がある。

4-2-6.先行技術の単なる寄せ集め
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(2) 先行技術の単なる寄せ集め」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章4.2 組合せ発明

(2) 異なる事項または留意点
 組合せ発明において、総体的な技術効果が組み合わせた各部分の効果の総和であり、組み合わせた後の各技術特徴同士に機能上相互作用の関係がなく、単純な重ね合わせにすぎないと判断される場合、あるいは、組み合わせが単に公知の構造の変形、または組み合わせが通常の技術の発展の延長線上の範囲にありかつ予測できない技術効果が得られないと判断される場合、進歩性を具備しない。
 逆にいえば、組み合わせた後の発明の技術効果が予測できない技術効果であるあるいは組み合わせた各部分の効果の総和を超える場合には、該当組合せ発明の進歩性が認められる可能性がある。

4-3.進歩性が肯定される方向に働く要素
4-3-1.引用発明と比較した有利な効果

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.2 顕著な進歩の判断
 専利審査指南第二部分第四章5.3 予想できない技術効果を挙げた発明の場合

(2) 異なる事項または留意点
 対比文献と比較して有利な技術効果があると主張する場合、該当技術効果は「区別される技術特徴」によるものであることが前提となる。ただし、審査段階での「区別される技術特徴」と、出願段階での「区別される技術特徴」とが異なることが多いので、有利な技術効果が明細書に記載されていないケースも多くある。この場合、化学分野における技術効果のように実験データでサポートする必要があるケースを除き、実務上は、意見書のみの主張でも認められる可能性が高い。

4-3-2.意見書等で主張された効果の参酌
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」の「(2) 意見書等で主張された効果の参酌」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第十章3.5 実験データの補足提出について(局公告 第391号参照)

(2) 異なる事項または留意点
 「専利審査指南第二部分第十章3.5 実験データの補足提出について」によると、出願日の後、出願人が専利法第22条第3項、第26条第3項等の要件を満たすために実験データを補足提出した場合、審査官は考慮しなければならない。ただし、補足提出した実験データが証明する技術効果は、属する技術分野の技術者が専利出願の公開内容から得られるものでなければならない。
 すなわち、出願日後の実験データの補足提出を全て認めるわけではなく、該当実験データが証明しようとする技術効果が明細書に明確に記載されているか、属する技術分野の技術者が専利出願の公開内容から得られるものでなければならない。

4-3-3.阻害要因
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2.2 阻害要因」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章5.2 技術偏見を克服した発明の場合

(2) 異なる事項または留意点
 実務上は、区別される技術特徴が果たす役割と、他の対比文献(副引用例)に開示された対応する技術特徴が現有技術で果たす役割とが同じであるとしても、他の対比文献に開示された対応する技術特徴を最も近似した現有技術に応用するには技術的障害がある場合は、技術的示唆が無いと判断される。さらに、最も近似した現有技術の他の部分または他の対比文献が発明と反対の示唆をした場合には技的術障害があり、技術的示唆が無いと判断される。

4-3-4.その他
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章5 発明の創造性を判断する時に考慮すべきその他の要素

(2) 異なる事項または留意点
 以下の場合には、進歩性が認められる。

(i) 人々がずっと解決を渇望していたが、始終成功が得られなかった技術的難題を解決した発明の場合
(ii) 技術偏見を克服した発明の場合
(iii) 予想できない技術効果を挙げた発明の場合
(iv) 商業上の成功を遂げた発明の場合

4-4.その他の留意事項
4-4-1.後知恵

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」でいう「後知恵」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章6.2 「後知恵」を避ける

(2) 異なる事項または留意点
 実務上、「三歩法」で進歩性を判断することは、審査官が客観的な角度で進歩性を評価するためである。そのため、「三歩法」の判断において発明が解決しようとする技術問題を新たに確定する際に、技術手段を技術問題の一部にしてはならない。このようにすることは、日本でいう「動機づけ」の中に「課題解決手段」を含めてしまうことに他ならないから、「後知恵」とみなされる。
 発明者は様々な方法で現有技術に基づいて発明を完成するので、発明の形成過程を理解することは進歩性の判断に役立つ。新しい考案やまだ認識されてない技術問題に対する認識、既知の技術問題のために新たな解決手段を設計することに対する認識、既知現象の内在原因を発見することに対する認識は、いずれも発明の出発点として利用できる。

4-4-2.主引用発明の選択
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(2)でいう「主引用発明」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法(1) 最も近似した現有技術を確定する

(2) 異なる事項または留意点
 専利審査指南第二部分第四章「3.2.1.1 判断方法(1)最も近似した現有技術を確定する」には、次のとおり記載されている。

 最も近似した現有技術とは、現有技術において保護を請求する発明と最も密接に関連している1つの技術方案(技術的解決手段)を言う。これは、発明に突出した実質的特徴を有するかどうかを判断する基礎になる。最も近似した現有技術は、例えば、保護を請求する発明の技術分野と同一であり、解決しようとする技術問題、技術効果又は用途が最も近似し、及び/又は発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術、若しくは、保護を請求する発明の技術分野とは違うが、発明の機能を実現でき、かつ発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術など。注意されたいのは、最も近似した現有技術を確定する時に、先ずは技術分野が同一又は近似した現有技術を考慮しなければならない。

 ただし、実務上は、最も近似した現有技術の確定は、属する技術分野、解決する技術問題、技術効果または用途、公開された技術特徴の四つの面で考慮すべきである。
 通常は、以下の順番に基づいて最も近似した現有技術が確定される。

(i) 技術分野が同じまたは近似した現有技術を優先的に考慮する。技術分野が同じまたは近似した際には、解決しようとする技術問題、技術効果または用途が最も近似した現有技術を優先的に考慮し、次に開示する技術特徴が最も多い現有技術を優先的に考慮する。
(ii) 技術分野が同じまたは近似した現有技術が無い際には、技術分野が異なるけど発明の功能が実現できかつ発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術を考慮する。さらに、従属請求項も含めて最も近似した現有技術を確定してもよい。
 なお、以前は発明での先行技術文献を最も近似した現有技術として確定した後、区別される技術特徴を公知な常識、慣用手段、常用技術と判断して進歩性を否定する傾向があったが、最近はこのような拒絶理由が明らかに少なくなっていることから、内部規程などで禁止されていると予測する。

4-4-3.周知技術と論理付け
 前編の「3-3. 周知技術及び慣用技術」を参照。

4-4-4.現有技術
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 最高人民法院による専利権の付与・確認の行政案件を審理することに関する司法解釈(一)の意見募集時には、「第十三条 明細書に記載された背景技術は専利法第二十二条第五項に規定された現有技術とはみなさないが、出願日前に国内外で公衆に知られたことを証明できる証拠があることは除く。」という条目があった。
 この背景としては、実用新案(出願番号:99225557.0)の無効審理に関する行政訴訟の二審判決((2005)高行終字第441号)(https://aiqicha.baidu.com/wenshu?wenshuId=9affc27dd7026b372aab4f3090a001e815ce98c6)において、出願人の主張をそのまま受け取るのではなく、証拠の提出を要求するか、職務によって調査すべきであると判示されたことが挙げられる。
 しかしながら、正式に施行された司法解釈では、この第十三条の内容が削除されている。削除の理由としては、上述の項目が法理的にまたは論理的に間違っているためではなく、この問題が一般的な現象であり、突出した現象ではないので、司法解釈で決めるほどではなかったことが考えられる。

4-4-5.物の発明と製造方法・用途の発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の「(5) 物自体の発明が進歩性を有している場合には、その物の製造方法及びその物の用途の発明は、原則として、進歩性を有している」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章4.5 公知となった製品の新しい用途発明

(2) 異なる事項または留意点
 化学や医薬分野には製造方法・用途発明に関する特別な規定があるが、通常の審査には特に無い。また、物の進歩性が認められると、通常、その製造方法や用途の進歩性も認められる点は日本と同様である。

4-4-6.商業的成功などの考慮
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(6)でいう「商業的成功」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章5.4 商業上の成功を遂げた発明の場合

(2) 異なる事項または留意点
 商業的成功の主張を実際の審査段階や審判段階において複数回試みたことがあるが、商業的成功が発明の技術特徴により直接にもたらしたものであることが認められた案件は稀である。すなわち、ある製品の商業上の成功は販売技術の改善や広告宣伝などにより証明できるが、これらを根拠としても、該当製品における発明が突出した実質的特徴と顕著な進歩を有し、進歩性を具備することは証明できない。

5.数値限定
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 数値限定については、新規性判断時の数値限定とほぼ同じ判断が行われている。すなわち、日本の審査基準とは異なり、数値範囲が公開されず明細書に臨界値の技術効果が記載されていれば、その進歩性が認められる傾向にある。

6.選択発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「7. 選択発明」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章4.3 選択発明

(2) 異なる事項または留意点
 日本の審査基準では、請求項に係る発明の引用発明と比較した効果が、(i) その効果が刊行物等に記載又は掲載されていない有利なものであること、(ii) その効果が刊行物等において上位概念又は選択肢で表現された発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際立って優れたものであること、(iii) その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないことの全てを満たす場合に進歩性を有すると判断されるが、中国の場合には、日本の条件(iii)のみを満たせば進歩性が認められる。
 極端にいうと、選択したことにより発明で予測できない技術効果さえ得られれば、その技術効果が有利である否か優れるか否かに関係なく、その進歩性が認められる。

中国における新規性の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(前編)

1.はじめに
1-1.法律について

 日本の「特許法」に対応する中国の法律は「中華人民共和国専利法」(以下「専利法」という)である。ただし、専利法には、特許だけではなく、実用新案、意匠についても規定されている。
 日本の新規性(特許法第29条第1項)に対応する規定は、専利法第22条に記載されている(下線部)。

第二十二条 専利権を付与する発明及び実用新案は、新規性及び創造性、実用性を具備していなければならない。
 新規性とは、当該発明又は実用新案が既存技術に属さないこと、いかなる単位又は個人も同様の発明又は実用新案について、出願日以前に国務院専利行政部門に出願しておらず、かつ出願日以降に公開された専利出願文書又は公告の専利文書において記載されていないことを指す。
 創造性とは、既存技術と比べて当該発明に突出した実質的特徴及び顕著な進歩があり、当該実用新案に実質的特徴及び進歩があることを指す。
実用性とは、当該発明又は実用新案が製造又は使用に堪え、かつ積極的な効果を生むことができることを指す。
 本法でいう既存技術とは、出願日以前に国内外において公然知られた技術を指す。

 なお、中国でいう「新規性」には、日本でいう「新規性」以外に「抵触出願」(日本でいう「拡大先願」に類似したもの)を含むものであるが、ここでは、日本でいう「新規性」に対応する事項のみを取り扱う。

1-2.用語について
 中国では、日本の「特許・実用新案審査基準」に対応するものは「専利審査指南」(专利审查指南)と呼ばれる。なお、「専利審査指南」は意匠の審査基準も含まれている。

1-3.記載個所
 新規性(専利法第22条第2項)については、専利審査指南の第二部分第三章に記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。

第三章 新規性
1. 序文
2. 新規性の概念
 2.1 現有技術
  2.1.1 時期の期限
  2.1.2 公開方式
  2.1.2.1 出版物による公開
  2.1.2.1 使用による公開
  2.1.2.3 他の方法による公開
  2.2 抵触出願
  2.3 対比文献
3. 新規性の審査
 3.1 審査の原則
 3.2 審査基準
  3.2.1 同一内容による発明又は実用新案
  3.2.2 具体的(下位)概念と一般的(上位)概念
  3.2.3 慣用手段を直接置換えた場合
  3.2.4 数値と数値範囲
  3.2.5 性能、パラメータ、用途又は製造方法などの特徴を含む製品の請求項
4. 優先権(詳細部分は省略)
5. 新規性を喪失しない猶予期間(詳細部分は省略)
6. 同一の発明創造についての処理 (詳細部分は省略)

2.新規性の判断の基本的な考え方
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3.1 審査の原則

(2) 異なる事項または留意点
 日本の特許法と中国の専利法で規定された新規性の定義は基本的に同一であり、このため、基本的な考え方も同一であると考えられる。
 ここで、請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がある場合であっても、請求項に係る発明が新規性を有していると判断されるとは限らない点に留意が必要である。すなわち、請求項に係る発明と引用発明とを対比し、技術分野、解決しようとする技術的問題、技術方案(発明の構成)および期待される効果が実質的に同一である場合には、新規性を有していないと判断される(同章3.1(1))。例えば、「構成の置換」が慣用手段を直接置換えただけの場合には、進歩性ではなく新規性を有していないと判断され(同章3.2.3)、「構成の置換」が進歩性だけではなく新規性においても判断される点に留意が必要である。

3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3.1 審査の原則

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 最高人民法院による専利権の付与・確認の行政案件を審理することに関する司法解釈(一)には、次のように規定されている。

第二条
 人民法院は、当業者が特許請求の範囲、明細書および図面を閲読した後に理解する通常の意味により請求項の用語の意味を画定する。請求項の用語が明細書および図面で明確に定義または説明されている場合、それにより画定する。
 前項規定に基づき画定できない場合、属する技術分野の当業者が通常採用する技術辞書、技術マニュアル、参考書、教科書、国又は業界の技術基準等により画定する。

 第二条の第二項には、請求項の用語について、明細書を参照しても特定できない場合には、属する技術分野の当業者が通常に採用する「技術辞書」、「技術マニュアル」、「参考書」、「教科書」または「国又は業界の技術基準等」を参照すると規定され、発明の認定に考慮すべき技術常識に係る文献について具体的に列挙されている。
 上記司法解釈は、審決取消訴訟の審理に関して規定しているものではあるが、実務上、審査官から用語の意味が不明確であると指摘された際、教科書などを用いてその用語の意味を説明できることに留意するべきである。

4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章2.1 現有技術

(2) 異なる事項または留意点
 現有技術とは、出願日以前に国内外で公然知られた技術を指す(専利法第22条第5項)。現有技術は、出願日(優先権がある場合には、優先権日を指す)以前に国内外の出版物における公式な発表、国内外における公式な使用、あるいはその他の方式により公然知られた技術を含む(専利審査指南第2部分第三章2.1)。
 出願日当日に開示された技術的内容は現有技術の範囲には含まれないことに注意が必要である(同章2.1.1 時期の期限)。また、現有技術になるか否かの判断は、「日」を単位として行われ、時分秒は考慮されない(専利法第22条第5項)。

4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章2.1.2.1 出版物による公開

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利専利審査指南第2部分第三章2.1.2.1 出版物による公開

(2) 異なる事項または留意点
 出版物の印刷日(*)を公開日とみなすが、その他の証拠により公開日を証明している場合は除く。印刷日は、年月あるいは年しか明記していない場合には、記された月の末日、もしくは記された年の12月31日を公開日とする。
(*)日本の出版物(書籍など)には「発行日」が記載されるが、中国の出版物には「印刷日」が記載される。

4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章2.1.2.1 出版物による公開

(2) 異なる事項または留意点
 現有技術の公開方式には、出版物による公開、使用による公開、その他の方式による公開の3種が含まれている(専利審査指南第2部分第三章2.1.1)。ここで、インターネットやその他オンラインデータベースにある資料などは、「出版物による公開」に含まれる(専利審査指南第2部分第三章2.1.2.1)。

 無効審判の段階では、https://archive.org/のようなウェブ上のアーカイブの情報も無効証拠として利用できる。
 下記のガイドラインには、インターネット証拠の審査認定についての規定があり、参考にできる。

・専利侵害紛争行政裁決案件処理ガイドライン(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20191227.pdf#page=125

4-1-5.公然知られた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章2.1.2.3 他の方法による公開

(2) 異なる事項または留意点
 口頭での公開(口頭による話し合い、報告、討論会での発言、放送、テレビ、映画など)は、「他の方法による公開」に含まれる(専利審査指南2.1.2.3)。
 なお、専利法第22条に「本法所称现有技术,是指申请日以前在国内外为公众所知的技术」(本法でいう既存技術とは、出願日以前に国内外において公然知られた技術を指す)と記載があるとおり、中国でいう「公众所知的」(公然知られた)は、日本の特許法第29条第1項第1号でいう「公然知られた」よりも広い概念(公知技術全般)を指す。

4-1-6.公然実施をされた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章2.1.2.2 使用による公開

(2) 異なる事項または留意点
 使用された製品または装置を破壊した時に限ってその構造および機能を知るものであっても、使用による公開(公然実施)に該当する。
 なお、ポスター、カタログについては、公式な発表または出版の時期を証明できる場合、出版物(刊行物)に該当するが、その使用により技術方案(発明の構成)が公開された場合には、図面、写真と同様に、使用による公開(公然実施)にも該当する。

 請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意点については「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。

タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

1.記載個所
1-1.目次

 新規性の審査基準は、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」第1章第3部「3.3.4 第5条に定める実体審査」において、進歩性などとともに記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。

3.3.4 第5条に定める実体審査
 3.3.4.1 第5条に定める検討に用いられるための先行技術の規定
  3.3.4.1.1 先行技術及びその記載に関する法令及び規則
  3.3.4.1.2 先行技術の決定に適用する出願日を決定する場合の原則
 3.3.4.2 新規性及び進歩性の審査手順
 3.3.4.3 発明の新規性(Novelty)の審査
  3.3.4.3.1 新規性の検討手順
  3.3.4.3.2 新規性の検討例

1-2.日本の審査基準との対応関係
 特許・実用新案審査基準(日本)との対応関係は、概ね、以下のとおりとなる。

特許・実用新案審査基準(日本)
第III部第2章
特許及び小特許審査マニュアル(タイ)
第1節 2. 新規性の判断
第1章第3部 3.3.4.3.1 新規性の検討手順

第3節 2. 請求項に係る発明の認定
対応する記載なし(第1章第3部 3.3.4.3に関連記載あり)

第3節 3.1 先行技術
第1章第3部 3.3.4.1.1 先行技術およびその記載に関する法令および規則

第3節 3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)
対応する記載なし(第1章第3部 3.3.4.3.1(i)に関連記載在り)

第3節 3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)

対応する記載なし
第3節 3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)

対応する記載なし
第3節 3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)
第1章第3部 3.3.4.3.1.i 発明の新規性の検討に用いられる発明と先行技術との比較の指針

第3節 3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い

第1章第3部 3.3.4.3.2 新規性の検討例
第3節 4.1 対比の一般手法
第1章第3部 3.3.4.3.1新規性の検討手順

第3節 4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法

対応する記載なし
第3節 4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法

対応する記載なし
第4節 2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合

対応する記載なし
第4節 3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合

対応する記載なし
第4節 4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合

対応する記載なし
第4節 5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
第5章第1部 6.3 化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査

第4節 6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
第5章第1部 6.3 化学的又は物理的パラメータ値又は、製造工程を説明した化学製品の新規性審査

2.基本的な考え方
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)(タイ)第1章第3部3.実体審査 3.3.4.3.1 新規性の検討手順

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、新規性の検討手順が以下のとおり、日本の審査基準と比較してより具体的に記載されている。

1. 各クレームの構成要素を分節する。
2. 第1項で分類した各構成要素の範囲を決定する。
3. 最も関連性の高い先行技術における第2項に関連する構成要素の範囲を決定する。
4. 以下の原則に従って検討を行い、クレームと最も関連性の高い先行技術との間で構成要素の範囲が相違するか比較する。
 4.1 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一の場合、当該構成要素は相違しないとみなす。
 4.2 クレームの構成要素の範囲が先行技術より広い場合、当該組成又は構成要素は相違しないとみなすが、クレームの構成要素が先行技術より狭い場合、当該構成要素は相違するとみなす。
 4.3 クレームの構成要素の範囲が先行技術と同一及び相違の両方がある場合は、当該構成要素は相違するが、相違する部分についてのみ保護を求めることができるとみなす。
5. 構成要素全てについて先行技術と相違する部分があるかあらゆる部分を検討する。相違する部分がある場合、クレームは新規性を有するものとし、相違する部分が無い場合、クレームは新規性を欠いていると判断する。

3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)では、請求項に記載された発明の認定に関する記載は以下のとおりである。
「審査官は、記述されている用語又は文言に常に留意しながら、権利が発生する範囲を規定するクレームにおいて保護を受けたいと希望する発明を解釈する(特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)第1章第3部3.3.4.3)。」
 しかしながら、日本の審査基準に記載されているような「請求項に記載された発明の認定」に該当する記載はない。

3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)に対応する記載はないが、クレームの記載と発明の詳細な説明の記載との関係について、以下の点に留意する必要がある。
 クレームには、保護を求める発明の技術的特徴を明確かつ簡潔に記載しなければならない(タイ特許法第17条(4))。また、クレームに一般的でない技術用語が記載されている場合には、その定義や説明が、発明の詳細な説明の中に明確に記載されなければならない。
 重要なことは、クレームに記載された用語が、発明の詳細な説明の用語と一致していなければならないことである。審査官は、発明の詳細な説明に一語一句の裏付けが存在しない場合、クレームの記載不備を指摘する傾向がある。
 明確性要件の詳細については、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」第1章第3部3.3.2.2に記載されている。

4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)(タイ)第1章第3部 3.発明の審査3.3.4.1 第5条に定める検討に用いられるための先行技術の規定3.3.4.1.1 先行技術およびその記載に関する法令および規則

(2) 異なる事項または留意点
 先行技術は検討する特許出願の出願日前に存在している技術であると定義されている(「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部3.3.4.1)。また、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部3.3.4.1.1において、先行技術を具体的に次のように説明している。
 タイ特許法第6条に規定されているように、先行技術とは以下の発明を意味する。

(1) 特許出願日より前に,国内で他人に広く知られていた発明又は用いられていた発明
(2) 特許出願日より前に,国内外でその主題が文書若しくは印刷物に記載されていたか,又は展示その他の方法で一般に開示されていた発明
(3) 特許出願日より前に,国内外で特許又は小特許の付与を受けていた発明
(4) 特許出願日の18月より前に外国で特許又は小特許が出願されたが,かかる特許又は小特許が付与されなかった発明
(5) 国内外で特許又は小特許が出願され,その出願が国内の特許出願日より前に公開された発明
 特許出願日前の12月間に,非合法的に主題が取得されて行われた開示,又は発明者が国際博覧会若しくは公的機関の博覧会での展示により行った開示は,(2)でいう開示とはみなされない。

 なお、日本の審査基準では「本願の出願時より前か否かの判断は、時、分、秒まで考慮してなされる」が、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には「本願の出願時より前か否かの判断は、時、分、秒まで考慮してなされる」旨に関連するような記載はない。

4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 刊行物公知に関して、タイ特許法第6条(2)に規定されている。しかしながら、「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「頒布された刊行物に記載された発明」、「頒布」、「刊行物」、「刊行物に記載された発明」の定義に関連する記載はない。

4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、刊行物の頒布時期の推定に関する記載はないが、タイ特許法第6条(2)に規定されている先行技術を証明する書類について、「特許出願人が審査のために提出した特許文献の第一頁目におけるINID CODE(43)を検討して、(審査前の)特許出願の公開日が本願の出願日前であるか、又は公開された新聞又は公開文書、学術文書等の証拠書類は、本願の出願日前に開示されたか確認する」旨が記載されている(第1章第3部3.3.4.3.1(i))。

4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」に関連する記載はないが、実務上、以下の留意点がある。
 出願に対して異議申立を行う場合、実務上、申立人は開示された資料を先行技術として提出することができる。開示された資料には、電気通信回線を通じて公開されたものも含まれる。ただし、そのような先行技術の場合、公開日が明確に示されていることが必要とされる。したがって、公開日が信頼できないと判断した場合、審査官は、当該先行技術を証拠として却下する。

4-1-5.公然知られた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には、「公然知られた発明」の定義に関連する記載はないが、「公然知られた発明」は、「特許出願日より前に、国内で他人に広く知られていた発明」をいう(タイ特許法第6条(1))。ただし、「公然知られる状態にある発明」が「公然知られた発明」に含まれるのか否かは不明である。

4-1-6.公然実施をされた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応する「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)第1章第3部 3.発明の審査 3.3.4.3.1.i 発明の新規性の検討に用いられる発明と先行技術との比較の指針

(2) 異なる事項または留意点
 「特許及び小特許審査マニュアル(2019年版)」(タイ)には「公然実施をされた発明」の定義に関連する記載はないが、「公然実施をされた発明」は、「特許出願日より前に、国内で用いられていた発明」をいう(タイ特許法第6条(1))。「国内で用いられていた発明」であるか否かを証明する書類として、注文書、納品書、製品の広告宣伝チラシ等が挙げられている(第1章第3部 3.3.4.3.1.i)。

請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意事項については「タイにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(特殊技術分野を除く)後編」をご覧ください。

韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

1.記載個所
 新規性(韓国特許法第29条第1項)については、「特許・実用新案 審査基準」の第3部第2章に記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。

1. 関連規定

2. 特許法第29条第1項の趣旨

3. 規定の理解
 3.1 公知になった発明
 3.2 公然実施をされた発明
 3.3 頒布された刊行物に掲載された発明
 3.4 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

4. 新規性の判断
 4.1 請求項に記載された発明の特定
 4.2 引用発明の特定
 4.3 新規性の判断方法
 4.4 新規性の判断時の留意事項

2.新規性の判断の基本的な考え方
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3 新規性の判断方法」

(2) 異なる事項または留意点
 請求項に記載された発明と引用発明が実質的に同一の場合にも新規性がない発明と判断する。
 ここにおける発明が実質的に同一の場合とは、課題解決のための具体的な手段において、周知技術・慣用技術の単純な付加、転換、削除等に過ぎなく、新たな効果発生がなく、発明間の差異が発明の思想に実質的な影響を及ぼさない非本質的な事項に過ぎない場合をいう(大法院2001フ1624(*))。

(*) 大法院の判決は、以下のリンク先で「2001후1624」(「フ」を「후」に置き換えた番号)を入力して検索できる(韓国語で表示される。)。以下、同様である。
http://glaw.scourt.go.kr/
関連記事:「韓国の判例の調べ方」(2017.07.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13872/

3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.1.1 発明の特定の一般原則」

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.1.1 発明の特定の一般原則」の(2)

(2) 異なる事項または留意点
 請求項記載発明の技術構成が明確に理解できる場合、発明の技術内容を特定することにおいて請求項の記載を基礎としなければならないのみならず、発明の説明や図面の記載により制限解釈してはならない(大法院2005フ520、2006フ3625、2006フ848、2004フ509)。
 例えば、請求項にブラシローラの回転方向についての記載がなく、図面のみにブラシローラが回転体の方向に回転するという内容が開示されている場合、請求項の記載のみで発明が明確であるので、ブラシローラの回転方向を図面に表示された回転方向に制限解釈してはならない。

4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3. 既定の理解」

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.3 頒布された刊行物に掲載された発明」

(2) 異なる事項または留意点
 未完成発明について、引用発明となり得るか否かは特許・実用新案審査基準の進歩性パート(第3部第3章5.2(5))に記載されているが、判例では以下のように新規性についても未完成発明が先行技術になりうるとしており、未完成発明であっても通常の技術者が出願当時の技術常識を参酌して技術内容を容易に把握することができるならば、引用発明になると見ている。
 発明の新規性または進歩性判断に提供される対比発明は、その技術的構成全体が明確に表現されただけでなく、未完成発明または資料の不足で表現が不十分であったり、一部の内容に誤りがあったりしても、その技術分野で通常の知識を有する者が発明出願当時の技術常識を参酌して、技術内容を容易に把握することができるならば先行技術となることもある(大法院2004フ2307)。

4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.3.3 刊行物の頒布時期」

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.4 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

4-1-5.公然知られた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.1 公知になった発明」

(2) 異なる事項または留意点
 特許・実用新案審査基準(韓国)において「公知された発明」とは、特許出願前に国内または国外で、その内容が秘密状態に維持されず、不特定人に知られた、または知られ得る状態にある発明と定義している。
 特許・実用新案審査基準(韓国)において、例えば、登録公告がなくても出願が登録されれば誰でもその出願書を閲覧できるので、特許法第29条第1項第1号の先行技術資料として使用できると記載している。
 これについて、特許法院判例(特許法院99ホ1027)では、意匠が登録になれば特許庁職員の意匠に対する秘密維持の義務が消滅するため、たとえ意匠登録公報に掲載される前でも意匠の設定登録日を基準とし不特定人が登録意匠の内容を客観的に認識できる状態にあると見なければならないので公知されたといえると判示している。
 なお、「ホ」に対応する事件記録符号は「허」である。

4-1-6.公然実施をされた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「3.2 公然実施をされた発明」

(2) 異なる事項または留意点
 不特定多数の人が認識できる状態で実施されたとしても必ずしもその技術の内容まで正確に認識できるわけではないので、共用により新規性が否認されるためには再び「当該技術分野で通常の知識を有する者がその技術思想を補充、または付け加えて発展させることなく、その実施されたところにより直接容易に繰り返し実施できる程度で公開されること」が要求される(大法院94フ1688)。
 不特定多数の人が認識できる状態で実施されたとしても、通常の技術者が発明の内容を容易に知ることができる状態で実施することを要求している。

請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意事項については「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。

韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)

 新規性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定については「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点((前編)」をご覧ください。

5.請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1.対比の一般手法

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3 新規性の判断方法」

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

5-2.上位概念または下位概念の引用発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.4 新規性の判断時の留意事項」(1)

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

5-3.請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 請求項に記載された事項が実施例より包括的な場合、発明の説明に記載された特定の実施例に制限解釈して新規性、進歩性等を判断してはならない(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.1(2))。
 すなわち、上位概念である請求項に記載された事項と引用発明を対比して新規性を判断することになる(**)
 機能・特性等を利用して物を特定する場合と数値限定発明の新規性判断においても、請求項に記載された事項で発明を特定して引用発明と対比する。

(**) 請求項に記載された発明が包括的であり上位概念で表現され、引用発明が下位概念で表現されている場合に、請求項に記載された発明の新規性が否定される点は、韓国においても同様である(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.4 新規性の判断時の留意事項」(1)①)。

5-4.対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 対比時に本願の出願時の技術常識を参酌する方法に関して、特許・実用新案審査基準(韓国)に対応する記載はないが、数値限定発明の新規性の判断について、特許・実用新案審査基準(韓国)には、「出願時の技術常識を参酌したとき、数値限定事項が通常の技術者にとって任意的に選択可能な水準に過ぎない、又は引用発明中に暗示されているとみなされる場合には、新規性が否定されることがある」と記載されている(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.3.1(1))。また、請求項に記載された発明が下位概念で表現されており引用発明が上位概念で表現されている場合、「出願時の技術常識を参酌して判断した結果、上位概念で表現された引用発明から下位概念で表現された発明を自明に導き出すことができる場合には、下位概念で表現された発明を引用発明に特定して、請求項に記載された発明の新規性を否定することができる。このとき、単に概念上、下位概念が上位概念に含まれる、又は上位概念の用語から下位概念の要素を列挙することができるという事実だけでは、下位概念で表現された発明を自明に導き出すことができるとはいえない」と記載されている(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(1)②)。
 以上のとおり、新規性判断時に出願時の技術常識を参酌していることを、特別な場合に適用している。

6.特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1.作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 発明の特定については、特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(1) 作用、機能、性質又は特性(以下、「機能・特性など」という)を利用して物を特定する場合」において、「請求項に記載された機能・特性などが発明の内容を限定する事項として含まれている以上、これを発明の構成から除外して解釈することはできない。請求項に機能・特性などを用いて物を特定しようとする記載がある場合、発明の説明において特定の意味を有するよう、明示的に定義している場合を除き、原則としてその記載はそのような機能・特性などを有するすべての物を意味していると解釈する」と記載されているが、新規性の判断については、特別な方法は記載されていない。
 機能・特性等を利用して物を特定する場合にも、新規性判断の原則に従って審査される。

6-2.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(2) 用途を限定して物を特定する場合」

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

6-3.サブコンビネーションの発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 特許・実用新案審査基準(韓国)では、発明の単一性判断時にサブコンビネーションの発明について説明しているが、新規性についてはその記載がなく、一般的な新規性の判断方法により審査している。

6-4.製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(3) 製造方法により物を特定する場合」

(2) 異なる事項または留意点
 製法限定物発明において、製造方法が物の構造や性質等に影響を与える場合には、製造方法により特定される構造や性質等を持つ物で新規性を判断し、物発明の請求項のうちに製造方法による記載があっても製造方法が物の構造や性質等に影響を与えないならば、製造方法を除いて最終的に得られた物自体を新規性判断対象と解釈する。
 例えば、アルミニウム合金形状物を請求しながら請求項には上記合金形状物が特定の工程を経て形成されると記載する場合、技術常識を参酌する際に結合構造や形状または強度等に対して上記特定工程により特定される構造や性質等を持つ形状物は他の工程では得られないために製造方法により特定される形状物を出願前に公知された先行技術と比較して新規性等を判断する。

6-5.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3.1 数値限定発明の新規性の判断」

(2) 異なる事項または留意点
 数値限定事項を除いた残りの技術的特徴のみで引用発明と比べたときに、同一でなければ新規性のある発明である。また、数値限定事項を除いた残りの技術的特徴のみで請求項と引用発明が同一の場合は、以下のように判断する。
(a) 引用発明に数値限定がなく請求項に記載された発明が新たに数値限定を含む場合には原則的に新規性が認められるが、出願時の技術常識を参酌するときに数値限定事項が通常の技術者が任意に選択可能な水準にすぎなかったり、引用発明中に暗示されたと見なされる場合に新規性が否定されることがある。

(b) 請求項に記載された発明の数値範囲が引用発明の記載している数値範囲に含まれる場合、数値限定の臨界的意義により新規性が認められる。

(c) 請求項に記載された発明の数値範囲が引用発明の数値範囲を含んでいる場合には、直ちに新規性を否定できる。

(d) 請求項に記載された発明と引用発明の数値範囲が互いに異なる場合には、通常、新規性が認められる。

7.その他
7-1.特殊パラメータ発明

 特許・実用新案審査基準(日本)には特殊パラメータ発明に関する記載はないが、特許・実用新案審査基準(韓国)には以下のとおり、特殊パラメータ発明に関する記載がある。
(1) 特殊パラメータ発明について記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3.2 パラメータ発明の新規性の判断」

(2) 説明
(a) パラメータ発明の新規性は発明の説明または図面および出願時の技術常識を参酌して発明が明確に把握できる場合に限り判断する(大法院2007ホ81(*))。

(*) 大法院の判決は、以下のリンク先で検索できる。(「ホ」は「허」に変更)
http://glaw.scourt.go.kr/
関連記事:「韓国の判例の調べ方」(2017.07.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13872/

(b) パラメータ発明はパラメータ自体を請求項の一部として新規性を判断するが、請求項に記載されたパラメータが新規だとして、その発明の新規性が認められるものではない。パラメータによる限定が公知された物に内在された本来の性質または特性等を試験的に確認したことにすぎなかったり、パラメータを使用して表現方式のみ異なったものであれば請求項に記載された発明の新規性は否定される。

(c) パラメータ発明は一般的に先行技術と新規性判断のための構成の対比が困難であるために両者が同一の発明という「合理的な疑い」がある場合には先行技術と厳密に対比せず新規性がないという拒絶理由を通知した後、出願人の意見書および実験成績書等の提出を待つことができる。出願人の反論により拒絶理由を維持できない場合には拒絶理由が解消されるが、合理的な疑いが解消されない場合には新規性がないという理由で拒絶決定(拒絶査定)する。
合理的な疑いがある場合は、
1)請求項に記載された発明に含まれたパラメータを他の定義または試験・測定方法に換算してみると、引用発明と同一となる場合、
2)引用発明のパラメータを発明の説明に記載された測定・評価方法に従って評価したら、請求項に記載された発明が限定するものと同一の事項が得られると予想される場合、
3)発明の説明に記載された出願発明の実施形態と引用発明の実施形態が同一の場合である。

7-2.留意点
 特許・実用新案審査基準(韓国)のうち新規性に関する事項について、その他留意すべき点として以下の事項がある。
(a) 新規性の判断時には請求項に記載された発明を一つの引用発明と対比しなければならず、複数の引用発明を結合して対比してはならないが、引用発明が再び別個の刊行物等を引用している場合には、別個の刊行物は引用発明に含まれるものとして扱い新規性判断に引用することができる。
 また、引用発明に使用された特別な用語を解釈する目的で辞典または参考文献を引用する場合にも、辞典または参考文献は引用発明に含まれるものと扱い、新規性判断に引用できる(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(2)) 。

(b) 1つの引用文献に2以上の実施例が開示されている場合、2以上の実施例を引用発明でそれぞれ特定し相互結合して請求項に記載された発明の新規性を判断してはならない(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(4))。

(c) 審査の対象となる出願の明細書中に背景技術として記載された技術の場合、出願人がその明細書または意見書等においてその技術が出願前に公知されたことを認めている場合には、その技術の公知性を事実上推定し、請求項に記載された発明の新規性を判断することができる(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(5))。

台湾における新規性喪失の例外について

 特許および実用新案については台湾専利法第22条、実用新案については専利法第120条に(専利法第22条の準用)、意匠については台湾専利法第122条に新規性および新規性喪失の例外について規定がある。本稿では専利法の規定を理解するために専利審査基準の規定を合わせて紹介する。

図1 新規性喪失から出願手続までの概要

1.新規性喪失の態様

専利法第22条第1項、第2項
 産業上利用することのできる発明は、次の各号いずれかに該当しなければ、本法により出願し、特許を受けることができる。
1. 出願前に既に刊行物に記載されたもの。
2. 出願前に既に公然実施されたもの。
3. 出願前に既に公然知られたもの。
 発明が前項各号の事情に該当しなくても、それが属する技術分野の通常知識を有する者が出願前の従来技術に基づいて容易に完成できる場合は、発明特許を受けることができない。

1-1.刊行物への掲載(専利法第22条第1項第1号)

専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 2.2.1.1.1 一般原則
 専利法で言うところの刊行物とは、公衆に公開された文書又は情報が記録されたその他の記録メディアを指し、世界中の如何なる場所又は如何なる文字で公開されたかを問わず、抄録、撮影、複製又はインターネットによる伝送等の方法によって公衆がその技術的内容を知り得るようにすることは、いずれもこれに属するものとする。その形式は紙媒体による文書に限らず、電子、磁気、光学によるもの又は情報が記録されたその他の記録メディアを含み、例えば、ディスク、フロッピーディスク、カセットテープ、光ディスク、マイクロフィッシュ、ICチップ、カメラのフィルム、インターネット又はオンラインデータベース等が挙げられる。従って、専利公報、定期刊行誌、研究報告、学術論文、書物、学生論文、談話記録、カリキュラム内容、講演原稿はいずれも専利法で言うところの刊行物に属する。
 刊行物に見られるとは、文書又は情報が記載されたその他の記録メディアが公衆によって閲覧でき技術内容を開示できるよう設置し、該技術内容が公衆に知られ得る状態にあることを指し、公衆が実際に既に閲覧し又は確実にその内容を知っていることを必要としない。例えば書籍、雑誌、学術論文を図書館の閲覧コーナーに置く又は図書館の図書目録に加える等の状況も、これに属する。但し、若し該文書又は情報が掲載されたその他の記録メディアが未だに公衆に知られる状態になっていないことを示す明確な証拠があれば、それらを既に公開発行されたと認定することはできない。例えば月刊雑誌の原稿及び出版日のある商品への接触は特定の者のみである場合。また、「内部文書」又は「機密文書」等の類似文字が表示されている文書は、それが外部に公開されたことを示す明確な証拠がないかぎり、公衆が知り得たと認定してはならない。
専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 2.2.1.1.2 刊行物の公開日の認定
 刊行物の公開の日付について、若し証拠がある場合は、証拠に基づいて認定しなければならない。若し証拠がない場合は、以下の方式に基づいて推定しなければならない。
(1)刊行物に発行日が記載されている場合
a.発行の年のみが記載されているものは、当該年の最終日とする。
b.発行年月が記載されているものは、当該年月の最終日とする。
c.発行年月日が記載されているものは、当該年月日とする。
d.年を跨いで発行年が記載されているものは、その第一年目の最終日とする。
e.年を跨いで発行年月が記載されているものは、その第一年目の年月の最終日とする。
f.年を跨いで発行年月日が記載されているものは、その第一年目の年月日とする。
g.季刊発行されるものは、発行地で認定される季節の最終日とする。
(2)刊行物に発行日が記載されていない場合
a.外国の刊行物で、国内に輸入された日付が判明すれば、その国内に輸入された日付から、発行国から国内に輸入されるのに要する時間を溯って、その公開日を推定する。
b.刊行物の書評、要約、カタログ等が他の刊行物に掲載された場合は、その書評、要約、カタログが掲載された他の刊行物の発行日を、当該刊行物の公開日として推定する。
(3)刊行物が再版されたものである場合、その初版と再版の発行日が記載されているときは、その初版の発行日を、当該刊行物の公開日として推定する。
専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 2.2.1.1.3.1 認定原則
 インターネット上の情報とは、インターネット又はオンラインデータベースに掲載されている情報であり、それが専利法で言うところの刊行物であるか否かは、公衆がそのホームページ及び位置を知ることができ、当該情報を取得することができるかによるべきで、公衆が実質的にそのウェブサイトにアクセスしたか否か又はそのウェブサイトにアクセスするのに料金を支払ったりパスワード(password)を必要とするか否かは問題とせず、ウェブサイトが特にユーザーを限定せずに公衆が申請手順を通してそのウェブサイトにアクセスすることさえできれば、公衆に知られていることに属する。一方、インターネット上の情報が特定の団体又は企業のメンバーのみがイントラネットを介して取得できるようにしている機密情報、パスワードが設定されており(encoded)、料金を支払うことや無料などの通常の方法ではエンコードツールを取得して内容を知ることができない情報、正式に公開されていないURLで偶然にしか知りえない情報である等のいずれか1つの状況の場合には、当該情報は公衆が知り得ないと認定しなければならない。

1-2.公然実施(公用)(専利法第22条第1項第2号)

専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 2.2.1.2 既に公開実施されたもの
 専利法で言うところの実施は、製造、販売のための申し出、販売、使用又は上記目
的のための輸入等の行為を含む。
 公開実施とは、前記の行為を介して技術内容が開示され、その技術を公衆に知られる状態にすることを指し、公衆が実際に既に実施し又は既に当該技術内容を知っていることを必要としない。例えば工場を見学した時、物又は方法の実施によって公衆がその構造又は工程を知ることができればこれに属する。但し、若し前述の行為のみによって、説明又は実験を介さずして、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が依然として物の発明の構造、要素又は成分等及び方法の発明の条件又は工程等の技術的特徴を知ることができないものであれば、公開実施とはならない。例えば、技術の特徴部分が内部にある物品であって、その外観しか観察できないため、たとえ公衆の面前において実施したとしても、その技術を知ることができないものが即ちこれにあたる。
 公開実施によって技術内容が公衆に知られるようになった時点で公開実施の日とする。

1-3.公衆に知られていること(公知)(専利法第22条第1項第3号)

専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 2.2.1.3 既に公衆に知られている
 公衆に知られているとは、口語や展示などの方式によって技術内容を開示し、例えば会話、演説、会議、放送又はテレビ報道などの方式で、或いは図面、写真、模型、見本等を公開展示する方式で、その技術を公衆に知られる状態にすることを指し、そして、公衆が実際に既に聴取、閲覧又は確実にその技術の内容を知ることを必要としない。
 会話や展示などの方式で技術内容が公衆に知られるようになった時を、公衆に知られている日とする。例えば前記の会話、演説及び会議の日、公衆が放送やテレビ報道を受信した日、及び公開展示の日がそれである。

2.特許・実用新案出願の場合の新規性喪失の例外
 特許出願において、新規性喪失の例外の規定がある。出願人の意図によるものまたは意図に反する漏洩について、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができる(専利法第22条第3項)。ただし、法に基づき台湾または海外の公報に公開されたことが出願人の意図による場合は適用されない(専利法第22条第4項)。なお、特許の新規性喪失の例外が適用可能となる期間は新規性を喪失した日の翌日から起算して12か月以内である(専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 4.3)。また、出願人は公開の事実、事実発生日を明記し、ならびに関連する証明書類を添付してこれを証明しなければならない(専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 4.3および4.7)。

専利法第22条第3項、第4項
 出願人の意図によるものまたは出願人の意図に反する公開の事実が生じた日から12ヶ月以内に特許出願をした場合は、当該事実が第1項各号又は前項に言う発明特許を受けることができない事情に該当しない。
 出願により台湾または外国において法に基づき公報に公開されたことが出願人の意図によるものである場合、前項の規定を適用しない。

2-1.新規性喪失の例外事由

専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 4.5 新規性又は進歩性喪失の例外を適用する事情
 新規性又は進歩性喪失の例外の適用は、特許公報でなされた公開を除いて、「出願人の本意によりなされた公開」と「出願人の本意によらずなされた公開」の2つの事情がある。
 いわゆる「出願人の本意によりなされた公開」とは、公開が出願人の意向によるもので、出願人自らの行為に限るものではないことを指す。この状況の公開における行為の主体には、出願人、出願人が委託、同意、指示した者などが含まれる。
 出願人が2人以上の時は、その出願前の公開行為は出願人全体の共同でなされたものに限る必要はなく、個別の各出願人が単独でこれを行うこともでき、且つ個別の各出願人の公開行為がその他の出願人の同意を得たか否かにかかわらず、いずれも「出願人の本意によりなされた公開」の事情に属する。
 いわゆる「出願人の本意によらずなされた公開」とは、公開が出願人の意図に反して公開された状況を指す。この状況の公開における行為の主体には、出願人の委任、同意、指示を得ていない者、秘密保持義務に違反し、又は不法な手段である脅迫、詐欺により発明を搾取した者等が含まれる。
 上述した2つの事情について、公開の態様には制限はなく、実験による公開、刊行物による発表、政府主催又は認可の展覧会への展示、公開実施による場合等が含まれる。
 単独の他人による発明が公開された場合、前述した2つの事情には該当せず、特許出願に係る発明は、進歩性又は進歩性喪失の例外の猶予を適用されず、当該公開された技術内容は、当該発明が新規性又は進歩性を有するか否かを判断する先行技術となることである。
 他人が出願前に公開した事実がある場合、当該公開が前述した2つの事情に該当するか否か、すなわち特許出願に係る発明に猶予が適用されるか否かについて、出願人は公開の事実、事実の発生した日を明記し、並びに関連する証明書類を添付してこれを証明しなければならない。

2-2.適用可能期間

専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 4.3 新規性又は進歩性喪失の例外の期間
グレースピリオドは、公開の事実が発生した日の翌日から起算して12ヶ月であり、若し出願人がグレースピリオドにおいて、その本意又は不本意にかかわらず複数回公開することになり、猶予が適用される状況が複数ある場合、そのグレースピリオドは最も時期の早い公開の事実の発生日の翌日から起算して12ヶ月としなければならない。言い換えれば、猶予が適用される状況において、最も時期の早い公開の事実の発生日の翌日から特許出願日まで、12ヶ月を超えてはならない。
(中略)
 新規性又は進歩性の喪失の例外の猶予と優先権は、両者の起算日は異なり、前者は事実発生日(の翌日)から起算して12ヶ月であるが、後者は国際又は国内優先権基礎出願の出願日から起算して12ヶ月とすべきである。よって、新規性又は進歩性の喪失の例外の猶予を適用する出願について、別途、優先権を主張する者は、両者の起算日についてはそれぞれ認定しなければならない。台湾専利法はパリ条約第11条の規定を参照していないため、国際優先権の起算日は特許出願以前に商品を出展した事実の発生日に遡ってはならない。

2-3.証明書

専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 4.3 新規性又は進歩性喪失の例外の期間
(略)
 公開の事実の発生日は、公開された技術内容に記載された期日又は関連する証明書類をもって認定すべきであり、公開の事実の発生した年、四半期、年月、隔週又は週しか認定できない場合には、当該年の最初の日、当該四半期の最初の日、当該年月の最初の日、当該隔週の第一週の最初の日または当該週の最初の日として推定する。推定期日が出願前12ヶ月以内である場合、猶予の適用となり、出願人に公開の事実の発生日を明記するよう別途通知する必要はない。推定期日が出願前12ヶ月より以前である場合、猶予は適用されないが、出願人が猶予の適用となると考える場合、出願人は公開の事実、事実発生日を明記し、並びに関連する証明書類を添付してこれを証明しなければならない。
(略)
専利審査基準 第二篇 特許 実体審査 第三章 特許要件 4.7 新規性又は進歩性喪失例外の審査
(略)
もし出願人が、当該発明は猶予を適用されると考える場合には、公開の事実、事実の発生日を明記し、関連する証明書類を添付してこれを証明しなければならない。
(略)

3.実用新案出願の場合の新規性喪失の例外
 実用新案出願において、専利法の特許出願における新規性喪失の例外の規定を準用しており、特許出願の新規性喪失の例外規定の適用と同様の適用を受けることができる(専利法第120条)。

4.意匠出願の場合の新規性喪失の例外
 意匠出願においても新規性喪失の例外の規定がある。出願人の意図によるものまたは意図に反する漏洩について、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができる(専利法第122条第3項)。ただし、法に基づき台湾または海外の公報に公開されたことが出願人の意図による場合は適用されない(専利法第122条第4項、専利審査基準 第三篇 意匠 実体審査 第三章 意匠要件 4.1)。なお、意匠の新規性喪失の例外が適用可能となる期間は新規性を喪失した日の翌日から起算して6か月以内である(専利法第122条第3項、専利審査基準 第三篇 意匠 実体審査 第三章 意匠要件 4.3)。また、出願人は公開の事実、事実発生日を明記し、ならびに関連する証明書類を添付してこれを証明しなければならない(専利審査基準 第三篇 意匠 実体審査 第三章 意匠要件 4.3および4.7)。

4-1.新規性喪失の例外事由

専利法第122条
 産業上利用することのできる意匠で、次の各号のいずれかに該当しなければ、本法により出願し、意匠登録を受けることができる。
1. 出願前に既に同一又は類似の意匠が刊行物に記載された場合。
2. 出願前に既に同一又は類似の意匠が公然実施された場合。
3. 出願前に既に公然知られた場合。
 意匠が、前項各号の事情に該当しなくても、それがその所属する技術分野の通常知識を有する者が出願前の従来技芸に基づいて容易に思いつくものは、意匠登録を受けることができない。
 出願人の意図によるものまたは出願人の意図に反する公開の事実が生じた日から6ヶ月以内に意匠出願をした場合は、当該事実が第1項各号又は前項に言う意匠登録を受けることができない事情に該当しない。
 出願により台湾または外国において法に基づき公報に公開されたことが出願人の意図によるものである場合、前項の規定を適用しない。
専利審査基準 第三篇 意匠 実体審査 第三章 意匠要件 4.1 前書き
 新規性又は創作性喪失の例外の猶予とは、意匠出願前の一定期間内において、出願人が特定の事情により公開にいたった事実がある場合、当該公開の事実により意匠出願に係る意匠が新規性又は創作性を喪失し、意匠権を取得できないことには至らないことを指す。このため、出願人の本意により、又は本意によらずに公開された事実があり、当該公開の事実が発生して6ヶ月以内に意匠出願をする場合、当該意匠には新規性又は創作性喪失の例外の猶予が適用され、当該公開の事実に関する意匠の内容は、意匠出願に係る意匠が新規性又は創作性を有するか否かを判断する先行意匠にはならない。前述した6ヶ月の期間は、猶予期間(グレースピリオド:grace period)と称する。前述した公開の事実について、出願人が意匠出願により台湾又は外国で法により意匠公報上で公開された場合、原則的に、意匠出願に係る意匠は新規性又は創作性喪失の例外の猶予は適用されず、当該公開の事実に関する意匠の内容も、当該意匠が新規性と創作性を有するか否かを判断する先行意匠になる。

4-2.適用可能期間

専利審査基準 第三篇 意匠 実体審査 第三章 意匠要件 4.3 新規性又は創作性喪失の例外の期間
 グレースピリオドは、公開の事実が発生した日の翌日から起算して6ヶ月内であり、出願人が、グレースピリオドにおいて、その本意又は本意によらず複数回公開することにより、猶予が複数回適用可能である状況を有する場合、当該グレースピリオドは最も時期の早い公開の事実の発生日の翌日から起算して6ヶ月としなければならない。言い換えれば、猶予が適用される状況において、最も時期の早い公開の事実の発生日の翌日から意匠出願日まで、6ヶ月を超えてはならない。
(略)

4-3.証明書

専利審査基準 第三篇 意匠 実体審査 第三章 意匠要件 4.3 新規性又は創作性喪失の例外の期間
(略)
推定期日が出願前6ヶ月より以前である場合、グレースピリオドは適用されないが、出願人がグレースピリオドの適用となると考える場合、出願人は公開の事実、事実発生日を明記し、並びに関連する証明書類を添付してこれを証明しなければならない。
(略)
専利審査基準 第三篇 意匠 実体審査 第三章 意匠要件 4.7新規性又は創作性喪失の例外の審査
(略)
もし出願人が、当該意匠には猶予を適用されると考える場合には、公開の事実、事実の発生日を明記し、関連する証明書類を添付してこれを証明しなければならない。
(略)

5.留意事項
 新規性喪失の例外規定を適用しても、出願日が新規性を喪失した日に遡及するわけではない。つまり、新規性喪失の例外の適用を受けて特許出願をしても、第三者が同じ技術を出願前に公知にしていれば、その特許出願は新規性がないとして拒絶される。また、第三者が同じ技術を先に特許出願している場合も、先願主義に従い、後の特許出願は拒絶される。新規性喪失の例外の適用を受けられる場合でも、このようなリスクを避けるため、できるだけ早く出願する必要がある。

台湾における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

1.記載個所
 新規性(台湾専利法第22条第1項)については、専利審査基準の第2篇第3章2.に記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。

2. 新規性
 2.1 前書き
 2.2 新規性の概念
  2.2.1 先行技術
   2.2.1.1 既に刊行物に見られる
   2.2.1.1.1 一般原則
   2.2.1.1.2 刊行物の公開日の認定
   2.2.1.1.3 インターネット上の情報
    2.2.1.1.3.1 認定原則
    2.2.1.1.3.2 引用方式
    2.2.1.1.3.3 審査の注意事項
   2.2.1.2 既に公開実施されたもの
   2.2.1.3 既に公衆に知られている
  2.2.2 引用文献
 2.3 新規性の審査原則
  2.3.1 逐項審査(請求項毎の審査)
  2.3.2 単独対比
 2.4 新規性の判断基準
 2.5 特定の請求項及び選択発明の新規性判断
  2.5.1 製造方法によって物を特定する請求項
  2.5.2 用途によって物を特定する請求項
  2.5.3 用途の請求項
  2.5.4 選択発明
   2.5.4.1 個別の成分又はサブセットの選択
   2.5.4.2 下位の範囲の選択

2.基本的な考え方
 特許・実用新案審査基準の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応する専利審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 専利審査基準の第2篇第3章「2.4 新規性の判断基準」

(2) 異なる事項または留意点
 請求項に係る発明と引用発明が以下の事情のいずれかに該当する場合は、新規性を有しないと判断される。

(Ⅰ)完全に同一である
(Ⅱ)文字の記載形式または直接かつ疑いなく知ることができる技術的特徴にのみ差異が存在する
(Ⅲ)対応する技術的特徴の上位、下位概念のみに差異がある(下位概念の発明が既に公開されていれば、その上位概念の発明は新規性を有しない)

 上記(Ⅱ)について、専利審査基準では、該当しない例として、先行技術が「弾性体」である場合、「弾性体」には「ゴム」や「ばね」など、幾つかの概念が含まれているため、「ゴム」は、先行技術から直接かつ疑いなく知ることができるものと認定することはできないことが挙げられているが、(Ⅱ)に該当する例は挙げられていない。また、実務上の運用も曖昧である。
 台湾の判決に基づいて上記(Ⅱ)の判断基準を検討する際、「從我國法院相關判決論新穎性判斷之『直接且無歧異得知』(2017.04智慧財産月刊Vol.220)(https://www.tipo.gov.tw/tw/dl-17457-14c2214e5be74776905f4f83421820a2.html)」を参考にした。当該文献によると、裁判所は多くの場合、
(a)単独で対比する、
(b)引用発明において実質的に単独または全体的に暗示されている特徴を確定する、
(c)請求項に係る発明と引用発明との差異を逐一対比する、
(d)上記(b)の特徴が請求項に係る発明に対応するか否かを確定する、
という順で判断を行っており、また、一部の判決では、効果も新規性の補助的な検証点として取り入れられている。

3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定

 特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応する専利審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 専利審査基準の第2篇第1章「2.5 請求項の解釈」

(2) 異なる事項または留意点
 専利審査基準には、「請求項を解釈するにあたっては、原則として請求項における用語に対し、最も広く、合理的であり、かつ明細書と一致する解釈を与えなければならない」と記載されているので、日本の審査基準の「請求項の用語の意味を、その用語が有する通常の意味と解釈する」ことと比較して、解釈の幅がやや広いように見えるが、基本的には同様の「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項中の用語を解釈する」という基準に基づいて認定が行われていると考えられる。

3-2. 請求項に記載された発明の認定における留意点
 特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応する専利審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
専利審査基準の第2篇第1章「2.5 請求項の解釈」

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。
 
4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか

 特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応する専利審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 専利審査基準の第2篇第3章「2.2.1 先行技術」

(2) 異なる事項または留意点
 当地(台湾)でいう「出願前」とは、特許出願の出願当日よりも前を指し、出願日を含まず、優先権を主張する場合は、優先日当日よりも前を指し、優先日を含まない。日本のように時、分、秒まで考慮されることはなく、日単位で考慮される。

4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
 特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応する専利審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 専利審査基準の第2篇第3章「2.2.1.1 既に刊行物に見られる」

(2) 異なる事項または留意点
 専利審査基準でいう「刊行物」とは、公衆に公開された文書または情報が記録されたその他の記録メディアを指し、世界中の如何なる場所または如何なる文字で公開されたかを問わず、抄録、撮影、複製またはインターネットによる伝送等の方法によって公衆がその技術的内容を知り得るようにすること(*)は、いずれもこれに属するものとする。
 また、インターネット上の情報とは、インターネットまたはオンラインデータベースに掲載されている情報であり、それが刊行物であるか否かは、公衆がそのホームページおよび位置を知ることができ、当該情報を取得することができるかによるべきで、公衆が実際にそのウェブサイトにアクセスしたか否かまたはそのウェブサイトにアクセスするのに料金を支払ったりパスワードを必要とするか否かは問題とせず、ウェブサイトが特にユーザーを限定せずに公衆が申請手順を通してそのウェブサイトにアクセスすることさえできれば、公衆に知られていることに属する。
 ただし、公衆に知られる状態になっていないことを示す明確な証拠があれば、それらを既に公開発行されたと認定することはできない。例えば、次の例が挙げられている。
(a)月刊雑誌の原稿および出版日のある商品への接触は特定の者のみである。
(b)「内部文書」または「機密文書」等の類似文字が表示されており、かつ、それが外部に公開されたことを示す明確な証拠がない。
(c)インターネット上の情報が特定の団体または企業のメンバーのみがイントラネットを介して取得できるようにしている機密情報。
(d)コード化されており(encoded)、料金を支払うことや無料などの通常の方法ではエンコードツールを取得して内容を知ることができない情報。
(e)正式に公開されていないURLで偶然にしか知りえない情報。

(*) 日本では、平成11年法改正により、特許法第29条第1項第3号に「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」が追加されたが、台湾では、専利審査基準における「刊行物」の解釈により対応している。

4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
 特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応する専利審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 専利審査基準の第2篇第3章「2.2.1.1.2 刊行物の公開日の認定」

(2) 異なる事項または留意点
 専利審査基準にも、日本の審査基準の(a)~(f)と同じことが記載されており、さらに、次の点が追加されている。
 ・年を跨いで発行年が記載されているものは、その第一年目の最終日とする。
 ・年を跨いで発行年月が記載されているものは、その第一年目の年月の最終日とする。
 ・年を跨いで発行年月日が記載されているものは、その第一年目の年月日とする。
 ・季刊発行されるものは、発行地で認定される季節の最終日とする。

4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
 特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応する専利審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 専利審査基準の第2篇第3章「2.2.1.1.3 インターネット上の情報」

(2) 異なる事項または留意点
 インターネット上の情報が刊行物であるか否かについては、上記4-1-2.も参照されたい。また、原則的にインターネット上で公開された情報には公開日時が記載されていなければならない。もし、公開日時がその情報に記載されておらず、審査官が当該日時の事実性について疑念を抱く、または出願人がすでに提出した客観的な具体的証拠に対して当該日時の事実性について疑念を抱いた場合、その情報を公開または管理するウェブサイトが発行した証明またはその他の証拠資料を取得して、その情報の公開日時を証明しなければならない。証明できない場合は、引用文献とすることはできない。
 上述の「その他の証拠資料」の例は以下のとおりである。
(1)インターネットアーカイブサービスが提供するウェブページ情報。例えば、デジタルアーカイブであるウェイバックマシン(Wayback Machine, www.archive.org)。
(2)ウェブページまたはファイル変更履歴のタイムスタンプ。例えば、ウィキペディア(Wikipedia)の編集履歴。
(3)インターネット上のファイルディレクトリまたは自動注記情報などコンピュータが生成したタイムスタンプ。例えば、ブログの文章やインターネットフォーラムメッセージ(forum message)の公表時間。
(4)ウェブサイトのサーチエンジンが提供する索引日(indexing date)。例えば、グーグルのキャッシュ情報。

 インターネットの性質は文書と異なり、インターネット上で公開された情報は全て電子形式であるため、モニターに現れる公開された時間が操作されて変動したか否かを判断するのは困難であるものの、インターネット上の情報量が膨大でかつ内容が多岐にわたっていることを考慮して、操作される機会は少なく、反対の特定の指示がない限りは、当該時間を事実として推定することが認められるべきである。
 もし、情報内容に変更があった場合は、その変更履歴の内容および対応する日時を特定することができれば、その変更された日時を公開日とし、そうでない場合は、最後に変更された日時を公開日としなければならない。また、もしインターネット上の情報と同一の内容を有する文書があった場合、かつその情報と文書とがいずれも引用文献とすることができるときは、優先的に文書を引用しなければならない。

4-1-5.公然知られた発明
 特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応する専利審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 専利審査基準の第2篇第3章「2.2.1.3 既に公衆に知られている」

(2) 異なる事項または留意点
 専利審査基準でいう「公衆に知られている」とは、口語や展示などの方式によって技術内容を開示し、例えば会話、演説、会議、放送、テレビ報道などの方式で、または図面、写真、模型、見本等を公開展示する方式で、その技術を公衆に知られる状態にすることを指し、公衆が実際に既に聴取、閲覧または確実にその技術の内容を知ることを必要としない。また、会話や展示などの方式で技術内容が公衆に知られるようになった時を、公衆に知られている日とする。例えば前記の会話、演説および会議の日、公衆が放送やテレビ報道を受信した日、および公開展示の日がそれである。

4-1-6.公然実施をされた発明
 特許・実用新案審査基準の第III部第2章第3節「3.1.3 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応する専利審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 専利審査基準の第2篇第3章「2.2.1.2 既に公開実施されたもの」

(2) 異なる事項または留意点
 専利審査基準でいう「公開実施」とは、専利法でいう実施の行為(製造、販売のための申出、販売、使用または上記目的のための輸入等を含む)を介して技術内容が開示され、その技術を公衆に知られる状態にすることを指し、公衆が実際に既に実施しまたは既に当該技術内容を知っている必要はない。例えば工場を見学した時、物または方法の実施によって公衆がその構造または工程を知ることができればこれに属する。ただし、もし前述の行為のみによって、説明または実験を介さずして、当業者が依然として物の発明の構造、要素または成分等および方法の発明の条件または工程等の技術的特徴を知ることができなければ、公開実施とはならない。例えば、技術の特徴部分が内部にある物品であって、その外観しか観察できないため、たとえ公衆の面前において実施したとしても、その技術を知ることができないものが即ちこれにあたる。また、公開実施によって技術内容が公衆に知られるようになった時点で公開実施の日とする。
 公開実施の内容の判断について、日本の審査基準には、「審査官は、用いられた機械、装置、システム等がどのような動作、処理等をしたのかという事実から発明を認定する」と記載されており、台湾でも、基本的には類似の方法がとられていると考えられる。ただし、専利審査基準では、実施がされても、「説明又は実験を介さなければ、当業者が物の発明の構造、要素又は成分等及び方法の発明の条件又は工程等の技術的特徴を知ることができない」場合は、公開実施に該当しないことが明確に言及されている。

請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意事項については「台湾における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。

台湾における新規性喪失の例外について

01TW04_1

新規性喪失から出願手続までの概要

 

1.新規性喪失の態様

(i)刊行物への掲載(専利法第22条第1項第1号)

ここでいう刊行物とは、公開発行することを目的として、文字や図面などの方式で記載する情報伝達媒体のことを指す。世界のどのような場所または文字で公開されているかを問わず、手書きのものでも構わない。インターネット上の情報の他、学生論文、交談記録、講演原稿、放送内容も含まれる(専利審査基準 第二篇 特許の実体審査 第三章 特許の要件 2.5.2.1)。

 

公開発行とは、実際に公衆に開示することのみならず、知られる状態に置く場合も含まれる。公衆が実際に閲覧してその内容を知る必要はない。書籍や学術論文を図書館の閲覧コーナーに置く、或いは図書館の図書目録に編集された状態も公開発行に該当する。但し、内部刊行物は、外部に公開頒布された証拠がない限り、公開発行に該当しない(専利審査基準 第二篇 特許の実体審査 第三章 特許の要件 2.5.2.3)。

 

審査で引用される公開発行の刊行物は、当該専利の出願日より前(出願当日を含まない)のものとなり、優先権を主張する場合は、優先日より前(優先権当日を含まない)のものとなる。重版の刊行物は、初版発行日が公開日となる(専利審査基準 第二篇 特許の実体審査 第三章 特許の要件 2.5.2.2)。

 

(ii)公然実施(公用)(専利法第22条第1項第2号)

ここでいう実施とは、物品或いは方法に技術・機能を応用する実施行為の他、製造、販売の申し出、販売、輸入する行為も含まれる(専利審査基準 第二篇 特許の実体審査 第三章 特許の要件 2.5.3)。これらの実施行為により技術内容が開示されるか、公衆に知られる状態にするのが、ここでいう公然実施である。公然実施があれば、実際に公衆に知られたかは問わない(専利審査基準 第二篇 特許の実体審査 第三章 特許の要件 2.5.3)。

 

(iii)公衆に知られていること(公知)(専利法第22条第1項第3号)

上記以外の行為により技術開示がなされて公知になった状態が該当する。例えば、会話、講演、会議、ラジオ放送やテレビ放送、模型やサンプルを展示することが挙げられる(専利審査基準 第二篇 特許の実体審査 第三章 特許の要件 2.5.4)。

 

2.特許・実用新案出願の場合

公知になった場合でも、出願人の意図または意図に反した漏洩のいずれかによる公知であれば、その公知事実に基づいて新規性を否定されない。ただし、法に基づき台湾または海外の公報に公開されたことが出願人の意図による場合は適用されない(専利法第22条第3項、第4項)。

 

(i)新規性喪失の例外事由

新規性または進歩性喪失の例外は、特許公報でなされた公開が適用から除外され、「出願人の意図による公開」と「出願人の意図に反する公開」という2つの状況が適用対象となる。

いわゆる「出願人の意図による公開」とは、公開は出願人の意思によるもので、出願人自らがなしたものに限らない。この状況の公開の行為主体には出願人、出願人が委任、同意、指示した者等を含む。出願人が2人以上であるとき、以前の公開行為は出願人全体が行ったものである必要はなく、個別の出願人が単独で行ったものでもよい。さらに個別の出願人がその他の出願人の同意を得たか否かを問わず、いずれも「出願人の意図による公開」に該当する。

いわゆる「出願人の意図に反する公開」とは、出願人が公開を望まないのに公開されてしまったものをいう。この状況の公開の行為主体には出願人から委任、同意、指示を受けていない者、秘密保持義務に違反するまたは違法の手段での発明に係る脅迫、詐欺、窃取を行う者等が含まれる(専利審査基準 第二篇 特許の実体審査 第三章 特許の要件 4.5)。

 

(ii)適用可能期間

新規性喪失した日の翌日から起算して12か月以内である。新規性を喪失してから日本に特許出願してパリ優先権主張を伴う専利出願を台湾にする場合、新規性喪失の例外規定が適用される期間は、パリ優先権主張の有無に関係なく、新規性喪失した日の翌日から12か月なので、注意を要する(専利法第22条第3項、専利審査基準 第二篇 特許の実体審査 第三章 特許の要件 4.3)。

 

(iii)証明書

新規性喪失の例外の適用を受ける意思表示は願書で行い、新規性喪失の例外が適用される事実を示す証明書を添付する必要がある。証明書は形式如何を問わず、規定された例外事由に該当することが示されていればよい(専利法施行細則第16条第3項)。

 

3.実用新案出願の場合

専利法の特許出願における新規性喪失の例外の規定を準用しており、特許出願の新規性喪失の例外規定の適用と同様の適用を受けることができる(専利法第120条で準用する第22条第3項)。

 

4.意匠出願の場合

意匠出願においても新規性喪失の例外の規定がある。出願人の意図によるものまたは意図に反する漏洩について、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができる。ただし、法に基づき台湾または海外の公報に公開されたことが出願人の意図による場合は適用されない(専利法第122条第3項、第4項)。

なお、意匠の新規性喪失の例外が適用可能となる期間は新規性を喪失した日の翌日から起算して6か月以内である(専利審査基準 第三篇 意匠の実体審査 第三章 意匠登録の要件 4.3)。

 

5.留意事項

新規性喪失の例外規定を適用しても、出願日が新規性を喪失した日に遡及するわけではない。つまり、新規性喪失の例外の適用を受けて特許出願をしても、第三者が同じ技術を出願前に公知にしていれば、その特許出願は新規性がないとして拒絶される。また、第三者が同じ技術を先に特許出願している場合も、先願主義に従い、後の特許出願は拒絶される。新規性喪失の例外の適用を受けられる場合でも、このようなリスクを避けるため、できるだけ早く出願する必要がある。

日本と台湾における意匠の新規性喪失の例外に関する比較

日本における意匠出願の新規性喪失の例外

 日本においては、新規性を喪失した意匠の救済措置として、新規性喪失の例外規定が定められている。新規性喪失の例外規定の適用要件は以下のとおりである。

1 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと(第4条第1項)または

2 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと(第4条第2項)

 上記いずれの場合についても、以下の要件を満たす必要がある。

(1) 意匠登録を受ける権利を有する者が意匠登録出願をしていること

(2) 意匠が最初に公開された日から1年(平成30年6月9日以降の出願に適用)以内に意匠登録出願をしていること。ただし、平成29年12月8日までに公開された意匠については、平成30年6月9日以降に出願しても、改正意匠法第4条の規定は適用されないので注意が必要。

 なお第4条第2項に記載される自己の行為に基づく新規性喪失については、さらに以下の手続が必要となる。

(3) 出願時に、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出、あるいは願書にその旨を記載すること(第4条第3項)。

(4) 出願の日から30日以内に、公開された意匠が新規性喪失の例外規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する「証明書」を証明書提出書とともに提出すること(第4条第3項)。

 「証明書」には、意匠が公開された事実(公開日、公開場所、公開された意匠の内容等)とともに、その事実を客観的に証明するための署名等を記載することが必要である。上記要件を満たした場合、その意匠登録出願に限り、その公開意匠は公知の意匠ではないとみなされる。

条文等根拠:意匠法第4条

 

日本意匠法 第4条 意匠の新規性の喪失の例外

1 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠は、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかったものとみなす。

 

2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様 とする。

 

3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。

 

4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。

 

—————————————————————————————

 

台湾における意匠出願の新規性喪失の例外

 台湾における意匠出願の新規性喪失の例外規定は、以下のとおり専利法および専利審査基準に規定されている。(専利とは日本における特許、意匠、実用新案に相当。以下「専利」。)

 

 適用要件には、出願人自らの刊行物による公知が含まれている。日本と同様に、意匠が公知となった日から6か月以内に出願しなければならない。新規性喪失の例外規定を適用しても、新規性を喪失した日に出願日が遡及するわけではない。つまり、新規性喪失の例外の適用を受けて意匠出願をしても、第三者が同じ技術を当該出願前に公知にしていれば、その意匠出願は新規性がないとして拒絶される。また、第三者が同じ意匠を先に意匠出願している場合も、先願主義に従い、後の意匠出願は拒絶される。新規性喪失の例外の適用を受けられる場合でも、このようなリスクを避けるため、できるだけ早く出願する必要がある。注意すべきは、新規性喪失の例外を適用させるためには、刊行物に掲載された日から6か月内に主張すべきであるということである。

 

条文等根拠:専利法第122条、専利審査基準2.6、2.6.1、2.6.2

 

台湾専利法 第122条

 産業上利用することのできる意匠で、次の各号のいずれかに該当しなければ、本法により出願し、意匠登録を受けることができる。

1 出願前に既に同一または類似の意匠が刊行物に記載された場合

2 出願前に既に同一または類似の意匠が公然実施された場合

3 出願前に既に公然知られた場合

 意匠が、前項各号の事情に該当しなくても、出願意匠が属する技術分野の通常知識を有する者が、出願前の従来技術に基づいて容易に思いつくものであるときは、意匠登録を受けることができない。

 出願人が次の各号のいずれかの事情を有し、かつ、その事実の発生後6ヶ月以内に出願した場合、当該事実は、第1項各号または前項に言う意匠登録を受けることのできない事情に該当しない。

1 刊行物に発表された場合。

2 政府が主催する展覧会または政府の認可を受けた展覧会で展示された場合。

3 出願人の意図に反して、意匠が漏洩した場合

 出願人が前項第1号および第2号の事由を主張する場合、出願時に事実およびその事実が生じた年月日を明記し、ならびに審査官が指定した期間内に証明書類を提出しなければならない。

 

 なお、専利審査基準では新規性喪失の例外規定に関して以下のように規定されている。

 

台湾専利審査基準 2.6 新規性を喪失しない例外事情

 出願意匠は出願日前に専利法第122条の新規性を喪失する例外事情の一つに該当して、出願前に相同または類似する意匠は既に刊行物に掲載され、既に公然使用されまたは既に公衆に知られるものであれば、出願人は事実発生日から6ヶ月内に出願して、事実と関係する日を明記すると共に指定期間内に証明資料を添付すれば、該事実と関係する従来技術によって、出願意匠の新規性を喪失させることがない。

 新規性喪失の例外期間(公開日から6ヶ月)内に既に刊行物に掲載され、既に公然使用されまたは既に公衆に知られる、相同または類似する意匠は、出願意匠の新規性を喪失させる先行技術と見なさない。

 新規性喪失の例外期間の効果は優先権主張期間の効果と異なる。つまり、6ヶ月の例外期間は、意匠の登録要件の判断基準に影響しない。そのため、出願人は公開日から出願日の間に、他人が相同または類似する意匠出願を提出した場合、出願人が主張する新規性喪失の例外期間の効果は、他人の先願の事実を排除できない。そのため、先願の原則(先願主義)に基づいて、元の新規性の喪失の例外期間を主張する意匠出願は、意匠登録を許可されず、他人の先願も出願前に既に相同または類似する意匠が公開された事実があるため、意匠登録が許可されない。

 出願人が新規性喪失の例外期間を主張し、当該期間中に公開された意匠内容を、他人が公開しても(例えばマスコミの報導行為等に転載されても)、例外期間の効果に影響はないので、出願意匠の新規性は喪失しない。但し、出願人が例外期間中に自ら出願意匠を再公開した場合、当該再公開は、政府が主催しまたは認可した展覧会に陳列されたもの以外、その他の事情の再公開は、全て当該意匠の新規性を喪失させる。そして、政府が主催しまたは認可した展覧会に陳列されまたは出願人の意図に反して漏洩されたことによって公衆に知られた意匠と相同または類似する出願意匠は、新規性喪失の例外期間を主張できない。

 注意すべきは、新規性喪失の例外期間は、刊行物に掲載され、公然使用または公衆に知られた日から6ヶ月内に主張すべきであり、もし、別途に優先権を主張する場合は、それぞれの関係規定に基づいて審査すべきである。

 

台湾専利審査基準 2.6.1 政府が主催しまたは認可した展覧会に陳列されたもの

 専利法でいう展覧会は、台湾政府が主催しまたは認可した国内外の展覧会を指し、政府が認可するとは、台湾政府の各機関が認め、許可または同意等することを指す。物品または図表等の表現方式で、出願意匠を政府が主催しまたは認可した展覧会に陳列され、該意匠の内容を刊行物に掲載され、公然使用または公衆に知られることにより、公衆に知られることができるものなら、展覧日から6ヶ月内に出願すれば新規性を喪失しない。公衆は実際に閲覧したかどうかまたは本当に該意匠内容を知たかどうかは問題ではない。政府が主催しまたは認可した展覧会に陳列されたものを主張するものは、該主張する事実は展覧会に発行される展覧品を紹介する刊行物を含む。

 

台湾専利審査基準2.6.2 出願人の意図に反して漏洩されたもの

 出願人の同意なしに他人が出願意匠の内容を漏洩することで、該意匠が公衆に知られることができる場合、出願人は漏洩日から6ヶ月内に出願すれば新規性を喪失しない。公衆は実際に閲覧したかどうかまたは本当に該意匠内容を知たかどうかは問題ではない。出願人の意図に反して漏洩されたと主張する場合、該主張の事実は、他人が守秘する約束または契約を違反する意匠内容を公開する事情を含み、脅威、詐欺または窃盗等の違法手段で出願人または創作人から意匠内容を知った事情も含む。

 

—————————————————————————————

 

日本と台湾における意匠の新規性喪失の例外に関する比較

30TW10_1