インドネシアにおける特許の分割出願に関する留意点
2016年特許に関する法律第13号(以下、特許法)は、出願人の自発および/または大臣の提案により特許出願の分割をすることができると定めている(第38条第1項)。
1.分割出願の時期
分割ができる時期については、特許付与の決定が行われる前であればいつでも行うことができる(第38条第2項)。特許付与の決定後になされる分割出願は拒絶される(第63条第1項a号)。
2.分割出願の要件
特許法第41条第1項によれば、「発明の単一性を構成しない複数の発明からなる出願」は、分割することができる。ただし、第63条第1項c号には「分割出願の発明が原出願と単一性を有しない場合」拒絶されるという矛盾した規定がある。(下記、「原出願発明の単一性について」のコラム参照)
また、同条第2項は、「分割された各出願で求められる保護の範囲が原出願で申請された保護の範囲を拡大するものではない」ことを条件としている。この要件を満たさない分割出願は拒絶される(第63条第1項b号)。この規定は、分割出願の発明が、原出願における出願当初の明細書または図面に記載されていたものでなければならないとする日本の規定に比べて厳しい。(下記、「分割出願の原出願における開示程度」のコラム参照)
<原出願発明の単一性について> 特許法第41条第1項は、「発明の単一性を構成しない複数の発明からなる出願」の分割を認めており、これらの規定を見ると、日本では可能とされている単一性を有する複数の発明、例えば物の発明とその物を製造する方法の発明を分割することは、許されないと解される。 その一方で第63条第1項c号は、「分割出願の発明が原出願と単一性を有する発明とはいえない場合」分割出願を拒絶すると規定しており、親出願の発明が単一性を有しないことを要件とする第41条第1項の規定と矛盾している。 類似の規定は2001年特許法にも存在するが、実際の運用ではインドネシアでの審査は日本等他国の審査結果に追随することが多く、参照国で分割出願が登録されていれば、インドネシアでも同様に分割が認められており、その際原出願の発明単一性の有無はほとんど審査の対象になっていないように見受けられる。 |
<分割出願の原出願における開示程度> 特許法第41条第2項によれば、分割出願は「分割された各出願で求められる保護の範囲が原出願で申請された保護の範囲を拡大するものではない」ことを条件に認められる。 日本では、分割出願の発明が、原出願における出願当初の明細書または図面に記載されていたものであれば足りるのに対して、インドネシア特許法第41条第2項の規定では、分割出願の発明が原出願で申請された保護の範囲に留まることが求められており、より厳しい条件となっている。 類似の規定は2001年特許法にも存在するが、実際の運用ではインドネシアでの審査は日本等他国の審査結果に追随することが多いため、参照国で分割出願が登録されていれば、インドネシアでも同様に分割が認められており、その際原出願の請求の範囲を拡大しているかどうかは、審査においてほとんど考慮されていないように見受けられる。 |
3.分割出願の効果
これらの要件を満たす分割出願は、原出願と同じ日に出願されたものとみなされる。(特許法第41条第3項)
4.分割出願の審査請求
特許法第51条は分割出願の審査請求が分割出願と同時に行われなければならないと規定している(第7項)。もし審査請求が分割出願と同時にされない場合、分割出願は取り下げられたのとみなされる(第8項)。
【留意点】
・分割出願の審査請求は分割出願と同時に行うこと。
・要件として、原出願が単一性を有していないことと、分割出願発明が原出願の請求の範囲に留まることが規定されているが、旧法の運用ではこれらは考慮されておらず、これらの要件を満たさずとも、他国で分割出願が登録されていれば、インドネシアでも分割が認められている。
ニュージーランドにおける分割出願に関する留意事項
【詳細】
1.特許法改正とその適用
ニュージーランドでは2013年に特許法が改正され(2013年特許法。以下、「新法」と称する)、2014年9月13日に以降に出願された出願および国内移行されたPCT出願に適用される。2014年9月12日以前に出願された出願および国内移行されたPCT出願には、1953年に制定された特許法(1953年特許法。以下、「旧法」と称する)が適用される。
分割出願については、親出願に新法が適用されている場合に新法が適用され、親出願に旧法が適用されている場合に旧法が適用される。(新法第258条)
2.新法下の分割出願
2-1.時期的要件
新法下では、分割出願は、親出願が認可(*)される前であればいつでも行うことができる。(新法第34条) ただし、以下の審査請求期限に注意を要する。
(*)ニュージーランドでは、出願が特許法で要求される要件を全て満足すると認可(アクセプタンス)され、認可通知が発行される。認可通知発行後、その旨が官報に公告され、公告日から3か月が異議申立て期間となる。この期間内に異議申立てがない場合、または異議申立てがあった場合でも異議理由なしの決定がされた場合には、特許が付与される。(旧法下でも同様)
ニュージーランドでは、2013年特許法改正により審査請求制度が導入された。(新法第64条)分割出願の審査請求期限は、親出願の出願日から5年と定められている。(2014年特許規則(以下、「新法特許規則」と称する)71(a)) 審査請求制度の導入により、分出願が可能な期間は、親出願の出願日から5年に制限されることとなった。審査請求期間が出願日より5年と定められているため、この期間内に審査請求がなされない場合には、出願は放棄されたものとみなされるからである。
分割出願の出願日は親出願の出願日まで遡る。(新法第34条(3))
2-2.実体的要件
分割出願は、親出願の出願時に開示されていた内容に関するものでなければならない。(新法特許法第34条(1)) 分割出願が、親出願に開示されない内容を含む場合、出願日は親出願の出願日まで遡らず、実際に分割出願が出願された日となる。
分割出願と親出願とは同じ内容のクレームを含んではならない。(新法特許規則52(3))分割出願が認可されるためには分割出願のクレームが親出願のクレームとは異なる必要があり、同様に、親出願が認可されるためには親出願のクレームが分割出願のクレームと異なっている必要がある。
2-3.公開
公開済みの親出願に基づく分割出願がなされた場合、その分割出願は公開される。(新法特許第77条)
3.旧法下の分割出願
3-1.時期的要件
旧法下では、分割出願は親出願が認可される前であればいつでも行うことができる。(1954年特許規則(以下、「旧法特許規則」と称する)23(1))
分割出願の出願日は親出願の出願日まで遡る。(旧法特許規則23(1))
3-2.実体的要件
分割出願は、親出願に開示される内容に関するものでなければならない。分割出願が、親出願に開示されない内容を含む場合、出願日は親出願の出願日まで遡らず、実際に分割出願が出願された日となる。
分割出願と親出願とは同じ内容のクレームを含んではならない。一方の出願のクレームを他方の出願のクレームとは異なるように補正することが要求される。(旧法特許規則の規則23(2))
3-3.公開
旧法下では出願公開制度はなく、旧法が適用される分割出願は特許付与されるまで公開されない。
4.認可期間の延長のための分割出願の利用
旧法下では、親出願が認可される前であればいつでも分割出願を行うことができる。しかも、分割出願の期限はその直接の親出願が認可前であるかどうかで決まる。したがって、分割出願から分割出願を繰り返し行うことにより、全て同じ出願日(最初の親出願の出願日)が与えられた一連の分割出願を作り出すことができる。また、親出願の内容全体を引き継いだ分割出願を行った後で親出願を放棄することにより、出願が認可されるのが保留され、認可されるまでの期間(**)を実質的に延ばすことができる。
親出願の内容全体を引き継いだ分割出願を提出した後で親出願を放棄するという手法は新法下でも可能であるが、分割出願の審査請求期限が親出願の出願日から5年と定められている以上、この5年を経過している場合には、分割出願を行うことにより認可されるまでの期間を更に延ばすことはできない。
(**)認可期間(アクセプタンス期間)
ニュージーランドでは出願日から一定の期間内に出願が認可される必要がある。この一定の期間は、旧法下では拒絶理由通知の発行から15か月であり、新法下では拒絶理由通知の発行から12か月である。
フィリピンにおける分割出願に関する留意点
【詳細】
1.自発的な分割出願
自発的な分割出願は、親出願が取り下げられるか、または特許が付与される前であればいつでも行うことができる。特許に関する改正施行規則規定(IRR)の規則611では、自発的な分割出願が以下のように規定されている。
「規則611 自発的な分割出願
出願人は、親出願が取り下げられる前か、または特許が付与される前に、係属中の出願に基づき自発的に分割出願を行うことができる。ただし、分割出願の内容は親出願の内容を超えてはならない。
自発的な分割出願は、親出願と同じ出願日が付与され、優先権の利益が得られる。(以下、省略)」
2.庁指令に応じて行う分割出願
フィリピン知的財産権局(IPOPHL)の局長は、発明の単一性を満たさない出願に対して単一の発明に限定するよう要求する庁指令(限定要求)を発することができる。限定要求に応じて、出願人は分割出願をすることができるが、その分割出願は限定要求が確定した(*)日から4か月以内に行わなければならない。限定要求に応じて行う分割出願については、IRRの規則604に以下のように規定されている。
「規則604 発明の単一性
(a)出願は、一の発明または単一の発明概念を形成する一群の発明に関連しなければならない。(フィリピン知的財産法(IP法)第38条1)
(b)単一の発明概念を形成しない複数の独立した発明が一の出願においてクレームされている場合、局長は、当該出願を単一の発明に限定するよう要求することができる。分割した発明についてなされる後の出願は、最初の出願と同日に出願されたものとみなされる。ただし、分割の要求が確定した後4か月以内、または4か月を超えない範囲で認められる追加期間内に、後の出願がなされることを条件とする。更に、各分割出願は、当初の出願における開示の範囲を超えてはならない。(IP法第38条2)」
(*)出願人は限定要求に対して、理由を挙げて、その再考を請求することができる。再考の結果、限定要求が繰り返された場合には、当該限定要求は確定する。(IRR規則606)
3.分割出願における審査請求の期限
IP第44条によれば、分割出願は、実体審査段階の手続に入る前に、IPOPHLの公報において公開される。IP法第48条に基づき、公開から6か月以内に、出願人は書面による実体審査の請求をしなければならない。出願人が6か月以内に実体審査の請求をしなかった場合、分割出願は取り下げられたものとみなされる。
4.更なる分割出願
一つの親出願から複数の分割出願(子出願)を行うことができる。ただし、フィリピンにおける実務では、これら複数の分割出願は全て、親出願の係属中に行わなければならず、分割出願(子出願)から更なる分割出願(孫出願)を行うことは認められていない。
5.分割出願のクレーム範囲および二重特許に関する問題
IRRの規則604および611に従い、分割出願のクレーム範囲は、親出願に開示される範囲、すなわち、親出願の出願時の内容を超えてはならない。
親出願と同一のクレームを含む分割出願は、原則として上記の要件には違反しない。ただし、フィリピンでは、二重特許、すなわち、一つの発明に対して二つの特許を同一の者に付与することは認められていないので、親出願のクレーム範囲と同一範囲のクレームを含む分割出願を行っても、これらの親出願と分割出願の審査は並行して進めることはできない。
したがって、分割出願のクレーム範囲は、親出願のクレーム範囲と重複しないようにすべきである。もし親出願と同一のクレームで分割出願が行う場合には、親出願との二重特許の問題を避けるために、親出願のクレームを補正する必要がある。
インドネシアにおける特許の分割出願に関する留意点
【詳細】
1. 分割出願に関する特許法上の規定
2001年8月1日付で施行された特許法(2001年法律第14号)では、第36条において分割特許出願が以下のように規定されている。
「第36条
- 出願が第21条にいう発明の単一性を構成しない複数の発明を含んでいる場合、出願人は、出願の分割を請求することができる。
- (1)にいう出願の分割は、一以上の出願として別々に提出できるが、各出願において求められる保護範囲が原出願において求められる保護範囲を拡大していないことを条件とする。
- (1)にいう出願の分割は、原出願について第55条(1)または第56条(1)に示した決定が下されるまで請求することができる。
- (1)または(2)に定める出願の分割の請求が、第21条および第24条の要件を満たしている場合、当該請求は原出願日と同じ日に提出されたものとみなされる。
- 出願人が(3)に定める期間内に出願の分割を請求しない場合、原出願のクレームに記載された発明についてのみ実体審査が行われるものとする。」
2. 分割出願における留意点
出願人は、インドネシアでの分割出願にあたって以下の点に注意すべきである。
- 出願が発明の単一性を満たしていない複数の発明が含まれる場合、その出願からの分割出願を行うことができる。一方、発明の単一性の要件が満たされている場合には、製造物クレームと方法クレームの両方を一つの出願に含めることができるが、それらのクレームを分割出願によって分割することも可能である。
- 出願人は自発的に分割出願を行うこともできる(特許規則(1991年政府規則第34号)第7条(a))、審査官が実体審査報告書の中で挙げた発明の単一性欠如の拒絶理由に応じて分割出願を行うこともできる(特許規則第10条(1))。
- 分割出願は、原出願に対して特許付与の決定(第55条(1))または拒絶の決定(56条(1))が下される前であれば、いつでも行うことができる。
- 分割出願では、原出願の開示の範囲の拡大や、原出願に開示されない新規事項の追加は認められない。
- 分割出願では、以下の書類の提出が要求される。
- 願書(特許規則第4条)
- 委任状(特許規則第2条)。委任状について公証人認証は必要ない。署名済みの委任状であれば十分である。新たな(分割でない)出願の場合と同様、この委任状は、出願日から3か月以内であれば出願後に提出することができる。
- 英語の明細書(クレーム及び要約を含む)および発明の説明に必要な図面があれば図面(特許規則第17条)。
- インドネシア語の明細書(クレーム及び要約を含む)および発明の説明に必要な図面があれば図面(特許規則第2条、第4条)。新たな出願の場合と同様、インドネシア語の明細書及び図面は、出願日から1か月以内であれば出願後に提出することができる。
- 実体審査請求書。インドネシア知的財産権総局(DGIPR)が2011年9月5日付で発行した通達HKI-77.OT.03.01号によれば、実体審査請求は分割出願の願書と同時に提出されなければならない。
3. 特許出願戦略としての分割出願
分割出願は、発明者や企業にとって、自らの発明を有利な権利として保護するための特許出願戦略としても利用することができる。
例えば、原出願でのクレームよりも広い範囲のクレームに基づき、分割出願を行うことができる。原出願の明細書には記載されているが、原出願のクレームに含まれていない別の発明を分割出願することで、さまざまな観点での権利化を図ることができる。
また、複数の関連する発明を含む明細書で1件の出願として出願し、出願後、特許付与までの期間をインドネシアでの対象製品の市場動向を見極め、権利化すべき発明を選択するための準備期間として利用することもできる。出願人はこの期間に、自発的に分割出願を行うことや、または実体審査における発明の単一性欠如の拒絶理由に対しする応答として分割出願を行うことが可能である。これにより、重要度が高い発明のみを権利化し、出願後に重要度の低下した発明に対しては別途権利化しないという判断を行うことができる。このような手続きの進め方であれば、同時に複数の出願を行う場合と比較して手続き費用の削減が期待できる。
ロシア分割出願における留意点
【詳細】
1.分割出願の時期的要件
ロシアにおける特許出願に関して、単一性欠如の拒絶理由を受けた場合はもちろん、単一性欠如の拒絶理由を受けていない場合でも、出願が係属中であれば自発的に分割出願を行うことができる。分割出願は、遅くとも登録料の納付と同時に行うべきできことを推奨するが、ロシア特許庁は、登録料支払い後でも特許が付与される前であれば、提出する分割出願を受け入れ可能である。また、特許出願に対して拒絶査定が提出された場合、拒絶査定に対する不服申立期間が満了する前までに分割出願を行うことができる。ロシア民法第1381条第4項には、以下のように分割出願の時期的要件が示されている。
(1)原出願が取り下げられていないこと(取下擬制取り下げたものとみなされていないこと)
(2)原出願に係る特許が登録されていないこと
(3)原出願について、拒絶査定に対する不服申立期間が満了していないこと
2.分割出願の効果
ロシアでは分割出願の回数は制限されず、例えば、第1の分割出願が係属中であれば、親出願に特許が付与されていても、当該第1の分割出願からさらに分割出願を行うことができる。分割出願における特許存続期間は、何世代目の分割出願であろうと、親出願(最先のロシア出願)の出願日(国際出願の場合は国際出願日)に遡及される。分割出願の審査請求期限は、“分割出願日”から3年であり、親出願の出願日や国際出願日は、審査請求期限の起算にならない。そのため、狭い権利範囲のクレームで特許が付与される場合でも、より広い権利範囲のクレームにて分割出願を行い、特許出願を長期間係属させる戦略を取ることができる。
3.二重特許問題
分割出願は、親出願(国際出願からの移行の場合は、国際出願)にサポートがあれば、如何なるクレームも加えることができる。ロシアにおいて二重特許は認められないが、親出願にて登録されたクレームと同一のクレームで分割出願を行い、審査過程において、二重特許拒絶を回避するための補正を行えば良い。ロシアでは、特許査定または拒絶査定の前であれば、補正を行うことができる(ロシア民法第1378条)。分割出願の発明者を、親出願とは異なる発明者にすることもできる。この場合、出願人と全ての発明者により署名され、分割出願の発明者が正しいことを主張する宣誓書を、ロシア特許庁に提出しなければならない。
4.拒絶査定への対応方針
ロシア特許庁への出願が拒絶された場合に、分割出願は有用な対応であり、出願人は、拒絶査定に対する不服申立ではなく分割出願を検討すべきである。分割出願では、親出願における独立クレームに対して、従属クレームによる減縮だけでなく明細書に記載された特徴を加えることができるが、不服申立中の補正では、従属クレームによる減縮補正しか行うことができない。