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韓国における非アルファベット文字を含む商標の取り扱いについて(前編)

1.記載個所
 標章の類否基準(韓国商標法第34条第1項第7号)については、「商標審査基準」の第5部第7章および第10部第2章に記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。

第5部第7章:先登録商標と同一・類似の商標
1. 適用要件
2. 国際登録基礎商標権との類否判断
3. 判断時の留意事項
4. (以下、省略)

補充基準:商標の同一・類似
1. 商標の同一
2. 商標の類似
3. 各商標別類否判断基準
4. 指定商品の類否判断基準

第10部第2章:外国語商標の審査
1. 規定の趣旨
2. 外国語商標に対する審査原則

2.標章の類否判断に関する基本的な考え方
 日本の商標審査基準(日本)の第3「十 第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標」に対応する商標審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 商標審査基準(韓国)第5部 第7章 補充基準:商標の同一・類似「2. 商標の類似」
 2.2.1「類否判断のための一般原則」
 2.2.2「類否判断要素」
 2.2.3「類否判断のための観察方法」
 2.2.4「類否判断基準」

(2) 異なる事項または留意点
 標章の類否判断基準はほぼ同一と考えられる。
・類否は一般的に標章の要部から抽出することが原則である。
・外国語の類否は英語の発音に応じて代表的な称呼を考慮する。

(3) 代表的な判例
・大法院1992.10.23 宣告92フ896判決(*)
 商標の類否は、同一または類似商品に使用される2つの商標を置き、その外観、称呼、観念等を客観的、全体的、離隔的に観察し、一般需要者や取引者が商標に対して感じる直観的認識を基準とし取引上の商品出処について誤認、混同を起こす恐れが有るか否かにより判別せねばならない。
・大法院1994.5.24 宣告94フ265判決(*)
 商標は自他商品を識別させ、商品出処の誤認、混同を防止するために使用するもので、その機能は通常の商標を構成する全体が一体となって発揮することになるので、商標を全体として観察し、その外観、称呼、観念を比較検討することにより判断しなければならないことが原則であり、ただし商標を全体的に観察する場合にも、その中で一定の部分が特に需要者の注意を引いて、そのような部分が存在することにより初めてその商標の識別機能が認められる場合には、全体的観察と並行して商標を機能的に観察し、その中心的識別力をもつ要部を抽出し二つの商標を対比することで類否を判断することが、適切な全体観察の結論を導き出すための手段として必要なことである。

(*) 大法院の判決は、以下のリンク先で「92후896」(「フ」を「후」に置き換えた番号)を入力して検索できる(韓国語で表示される)。以下、同様である。なお、韓国では全ての判決が公開されていなため、一部の判決については検索できない場合がある。
http://glaw.scourt.go.kr/
関連記事:「韓国の判例の調べ方」(2017.07.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13872/

3.標章の類否判断における(外観、称呼、観念)の認定
 日本の商標審査基準(日本)の第3「十 第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)」「2.(1) 外観、称呼、観念の認定について」に対応する韓国の商標審査基準は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 商標審査基準(韓国)第5部 第7章 補充基準:商標の同一・類似「2. 商標の類似」「2.2.2 類否判断要素」に含まれる。

「2.2.2 類否判断要素」
 商標の類否を判断するにあたっては、称呼・外観・観念の3つの要素を対比して判断するが、いずれか一つの要素の類否に集中するよりは、各要素を通じて商品出所の誤認・混同が引き起こされるかどうかを重点的に考慮して類否を判断しなければならない。

(2) 異なる事項または留意点
  前記「2. 標章の類否判断に関する基本的な考え方」の項を参照されたい。

(3) 判例
 前記「2. 標章の類否判断に関する基本的な考え方」の項を参照されたい。

4.外観、称呼、観念の類否について
4-1.外観の類否について

 日本の商標審査基準(日本)の第3「十 第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)」「2.(1)(ア) 外観の認定」に対応する韓国の商標審査基準は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 商標審査基準(韓国)第5部 第7章 補充基準:商標の同一・類似「2. 商標の類似」「2.2.2 類否判断要素」の「(ii) 外観」に含まれる。

2. 2.2 類否判断要素
(ii) 外観
 『外観』とは、商標に表示された記号・文字・図形等、商標の外観上の形状をいう。外観の類否は、外観上の形状を視覚を通じて観察した場合に、互いに誤認・混同を引き起こすおそれがあるかどうかで判断し、特に、離隔的・直感的に観察して類否を判断することを原則とする。外観の類似性判断は、主に記号、図形、立体的形状またはこれらと色彩を結合した商標間で適用されるが、文字商標間でも、文字の構成と形態を勘案して、外観の類似性も考慮しなければならない。

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

(3) 判例
・大法院2001.12.14.宣告2000フ2033判決

引用商標

登録商標

 (引用商標が)素材として採用した「C」模様の図形2つが左右に交差する形状は構成自体は簡単だがそこから受ける印象が非常に独特で、視覚的に標章の中央に位置する図形間の交差部位に視線を集中させる効果があるので、それと同じ素材と枠がそのまま使用され、・・・全体的、客観的、離隔的に観察するときに両商標はとても類似し、同種商品に使用される場合に取引者や需要者にして、商品の出所を誤認・混同させる恐れがある類似した商標とみなすべきであり・・・)

・大法院2001.11.13.宣告2001フ1198
 本願商標「NUTRACETICALS」、引用商標「NUTRA」
 →外観、称呼、観念が相違

・特許法院2010.03.19.宣告2009ホ8799(「ホ」に対応する符号は「허」)
 本願商標「ROCKETBOY」、引用商標「ROCKET」
 →外観、称呼、観念が相違

4-2.称呼の類否について
 日本の商標審査基準(日本)の第3「十 第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)」「2.(1)(イ) 称呼の認定」に対応する韓国の商標審査基準は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 商標審査基準(韓国)第5部 第7章 補充基準:商標の同一・類似「2. 商標の類似」「2.2.2 類否判断要素」の「(i) 称呼」に含まれる。

2.2.2 類否判断要素
(i) 称呼
 称呼の類否は、取引社会の経験則に照らして自然的・具体的に判断しなければならず、一般的に商標の要部から抽出することが原則である。特に、造語商標である場合、観念による判断が制限されるため、称呼の類否は最も重要な判断要素となり得る。外国文字商標に関する称呼の類否判断は、内国人の慣例上の称呼はもちろん、該当外国人の代表的な称呼も考慮しなければならない。

①文字商標
 ハングルの発音は、文字を読むときに音がするとおりに決定されるので、頭音法則や子音接変現象も考慮して判断する。複数の音節の単語においては語頭部分が強く発音されて認識されるのが一般的であるため、語頭部分の称呼を重点的に比較して類否を判断する。外国語文字商標の場合、英文で表記された商標は、異なって呼称する特別な事情がない限り、原則として英語式発音に従う。ただし、薬品類のドイツ語式発音、化粧品類のフランス語式発音のように、商品に応じて英語以外の発音が通用する場合には、それに従う。

②図形商標
 動物や植物図形等のように、それ自体が普通呼ばれる自然の称呼がある場合には、それに従う。ただし、特別な呼称を呼び起こさない図形のみで構成された商標において、称呼は対比対象とならないため、主に外観によって類否を判断する。

③結合商標
 図形と文字または文字と文字が一連不可分的に結合して構成されている商標の場合には、その全体から発生する称呼を通じて類否を判断することを原則とする。ただし、結合商標であっても、需要者の目を引くことができる主要部が別にある場合、その部分の称呼を重点的に比較して類否を判断する。一つの商標において二つ以上の識別力のある称呼が発生する場合には、それぞれの称呼を対比して類否を判断するようにする。

(2) 異なる事項または留意点
①前記(1)審査基準の下線部に留意されたい。
②日本語や漢字の場合でもITの発達でそれら称呼は容易に把握できるとみられる。

(3) 判例
・大法院1995.6.29.宣告95フ316判決


 本願商標「BLAZERS」は、図形と文字で構成される商標であり、図形部分と文字部分は外観上分離されており、互いに特別な意味で連結されてもなく、これらの結合により新たな観念を生むとも言えず、各構成部分を分離観察することが不自然なほど一体不可分に結合されていると見れず、その文字部分だけで認識されることがあり、そのような場合、引用商標である「블레이저,BLAZER」とは外観は互いに異なるが、称呼において本願商標は「블레이저스」と称呼されることで、これは引用商標と最初の4音節が同一であることが分かり、いくつかの音節の単語においては語頭部分が強く発音され認識されることが韓国の一般的な言語慣行であると見られるだけでなく、両商標の称呼は韓国の一般需要者には概ね不慣れなものであり、特徴的な語頭部分によって認識される点を勘案してみるとき、両商標の称呼は互いに類似音域にあると見られる。

・大法院1993.9.28. 宣告93フ237、244(併合)判決
 結合商標は必ずしもその構成部分全体によってのみ称呼や観念が生じるわけではなく、各構成部分を分離して観察すれば不自然で似合わないと考えられるほど不可分的に結合されていない限り、時に応じてその構成部分のうち識別力がある一部のみにより簡略に称呼や観念が生じることもあり、また一つの商標において2つ以上の称呼・観念を考えられる場合に、そのうち一つの称呼・観念が他人の商標の称呼・観念と同一であったり類似していないとしても、他の称呼・観念が他人の商標のそれと類似するときには、2つの商標は類似したものと見なすべきである。
 
 その他の判例を以下に紹介する。

≪参照≫
No.1:「標章の類否に関する商標判例要旨集(2000-2011)」p.51(URL:https://www.korea.kr/common/download.do?tblKey=EDN&fileId=205436
No.2:「標章の類否に関する商標判例要旨集(2000-2011)」p.9
No.3:「標章の類否に関する商標判例要旨集(2000-2011)」p.364
No.4:「標章の類否に関する商標判例要旨集(2000-2011)」p.235
No.5:「標章の類否に関する商標判例要旨集(2000-2011)」p.391
No.6:「標章の類否に関する商標判例要旨集(2000-2011)」p.440
No.7:「標章の類否に関する商標判例要旨集(2000-2011)」p.59

4-3.観念の類否について
 日本の商標審査基準(日本)の第3「十 第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)」「2.(1)(ウ) 観念の認定」に対応する韓国の商標審査基準は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 商標審査基準(韓国)第5部 第7章 補充基準:商標の同一・類似「2. 商標の類似」「2.2.2 類否判断要素」の「(iii) 観念」に含まれる。

2. 2.2 類否判断要素
(iii) 観念
 『観念』とは、商標が持つ意味を言うが、称呼と同様に、商標の要部から出てくるものであり、ある意味を持つ言葉からなる商標において、称呼が類似であれば観念も類似である場合が普通である。ある意味を持つ言葉に形容詞等の修飾語が結合されている場合には、原則として、修飾語がない単語と観念が類似であるものと見る。しかし、何の意味もない造語からなる商標は、観念があるといえないので、観念は対比対象とならず、他の要素を通じて類否を判断しなければならない。図形商標の場合には、図形が一般需要者によって理解されるところにより観念が定められるので、ここから示される観念により類否を判断する。

(2) 異なる事項または留意点
①前記(1)審査基準の下線部に留意されたい。
②日本語や漢字の場合でもITの発達でそれら観念は容易に把握できるとみられる。

(4) 判例
・大法院1993.9.24. 宣告93フ336判決

 本願商標は斧、手、理髪店標章の図形が結合されたものであり、引用商標は「AXE」という英文字でのみなされているものであり外観、称呼において両商標は相異なる。ただし、本願商標は外観上および観念上で見るとき、斧または斧を握っている手を分離観察しても不自然ではなく、引用商標の“AXE”は辞書上斧という意味を持っているので両商標が持っている意味が同一または類似しているとはいえるが、一般需要者が感じる商標の意味内容は、その商標を見て直感的に悟ることができるものでなければならず、審査熟考したり、辞書を探してみて初めてその意味を知ることは考慮対象にならないとするが (当院1992.8.14.宣告92フ520判決等参照)、英文字である「AXE」という言葉の意味は一般大衆が容易に分かるものではなく、よく使用するものでもなく、韓国の一般消費者が引用商標を見て、指定商品に関して直感的に「斧」という意味で認識できるとは見なされないので、両商標はその観念が必ずしも同一であるとは見ることができない。
 
その他の判例を以下に紹介する。

≪参照≫
No.1:「標章の類否に関する商標判例要旨集(2000-2011)」p.131
No.2:「標章の類否に関する商標判例要旨集(2000-2011)」p.127
(No.3、4は前記リンク先で検索可能)

外国語マーク、非アルファベット文字およびカタカナの類否について、外国語商標、非アルファベット文字商標およびカタカナ商標の識別力については「韓国における非アルファベット文字を含む商標の取り扱いについて(後編)」をご覧ください。

フィリピンにおける商標の重要判例

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フィリピンにおける物品デザインの商標的保護とトレードドレス

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