マレーシアにおける特許の新規性について
1.新規性の判断基準
マレーシアでは、発明が先行技術により予測されないものである時は、その発明は新規性を有すると判断される。ここでいう先行技術とは、具体的には、以下の(a)、(b)により構成されるものをいう(マレーシア特許法第14条第1項、第2項)。
(a)刊行物、口頭の開示、使用または他の方法によって、出願日もしくは優先日前に、世界のいずれかの場所において開示されたもの。
(b) 先行する出願日または優先日を有する国内特許出願に記載されている内容であって、マレーシア特許法第33Ð条に基づいて公開される特許出願に包含されているもの。
マレーシア特許法 第14条 新規性 (1) 発明が先行技術により予測されないものであるときは,その発明は新規性を有する。 (2) 先行技術は,次に掲げるものによって構成されるものとする。 (a) その発明をクレームする特許出願の優先日前に,世界の何れかの場所において,書面による発表,口頭の開示,使用その他の方法で公衆に開示されたすべてのもの (b) (a)にいう特許出願より先の優先日を有する国内特許出願の内容であって,その内容が前記の国内特許出願に基づいて33D条に基づいて公開される特許出願に包含されている場合のもの[法律A1649:5による改正] |
2.特許の新規性喪失の例外(グレースピリオド)
先行技術の開示が、次に掲げる事情(a)、(b)、(c)に該当している場合は、その開示は無視するものとされ(a disclosure・・・shall be disregarded)、その開示により特許出願は新規性を失わない(マレーシア特許法第14条第3項)。
(a) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の行為を理由とするものであったかまたはその行為の結果であったこと。
(b) その開示が、その特許の出願日前1年以内に生じており、かつ、その開示が、出願人またはその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったかまたはその濫用の結果であったこと。
(c) その開示が、本法の施行日に、英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること。
マレーシア特許法 第14条 新規性 (3) (2)(a)に基づいてなされた開示が次に掲げる事情に該当している場合は,その開示は無視するものとする。 (a) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の行為を理由とするものであったか又はその行為の結果であったこと (b) その開示がその特許の出願日前1年以内に生じており,かつ,その開示が出願人又はその前権利者の権利に対する濫用を理由とするものであったか又はその濫用の結果であったこと (c) その開示が,本法の施行日に,英国特許庁に係属している特許登録出願によるものであること (4) (2)の規定は,先行技術に含まれる物質又は組成物の,第13条(1)(d)にいう方法における使用に関する特許性を排除するものではない。ただし,そのような方法におけるその使用が先行技術に含まれていないことを条件とする。 |
上述のグレースピリオドの適用を主張する場合、出願人は、出願時にまたはその他いつでも、上記の各理由によって先行技術としては無視されるべきと考える事項を、付属の陳述書(an accompanying statement)において明らかにしなければならない(マレーシア特許規則20)。
なお、証拠書類を陳述書と併せて提出する必要はなく、証拠の提出に関する具体的な日数制限があるわけでもないが、実務においては、拒絶理由通知を受けた後に補充することが行われている。
マレーシア特許規則 規則20 先行技術との関係で無視されるべき開示 出願人は,出願時に又はその他の何時であれ,自己が認識しかつ特許法第14条(3)に基づき先行技術としては無視されるべきと考える開示事項を述べるものとし,その事実を付属の陳述書において明らかにするものとする。 |
3.審査基準
マレーシア特許審査基準では、新規性に関して、D 7.0「新規性」に記載されている。
審査基準D 7.0冒頭に、前記特許法第14条第1項の条文を引用し、先行技術により予測されない発明は新規性を有する、と記載されている。
なお、先行技術とは、審査基準D 5.1において、マレーシア特許出願の出願日(または優先日)より前に、書面または口頭による説明、使用、またはその他の方法によって公衆に利用可能になったすべてのもの、と定義されている。
以下、審査基準D 7.1~7.9の各項における主な記載内容を紹介する。
3-1. マレーシア特許法第14条第2項に基づく先行技術(審査基準 D 7.1)
新規性の検討において、先行技術文献に記載された先行技術、または異なる実施形態の別個の項目を組み合わせることは認められない。文献内で明示的に否認されている事項や明示的に記載されている先行技術は、その文献に含まれているとみなされ、その範囲や意味を解釈し理解する際に考慮されるべきである。
新規性を評価する際、文献の教示に周知の同等物が含まれていると解釈することは不適切である。つまり、特許請求範囲に従来技術にはないマイナーな特徴(周知の同等物)が含まれている場合、その請求項は新規性があるとみなすことができる。先行技術からの発展が、技術的な問題を解決しない周知の同等物を代用するものである場合、既知のもの、または先行技術からの非発明的な発展については、独占を認めるべきではない。
3-2. 暗黙の特徴またはよく知られた同等物(審査基準 D 7.2)
発明または実用新案の新規性を評価するために先行技術が引用される場合、先行技術に記載された明示的な技術内容と、当業者が開示内容から直接的かつ曖昧さなく推測できる暗黙的な技術内容の両方が含まれる技術内容が使用される。先行技術に明示的または黙示的に開示されている特徴の周知同等物は、先行技術から「直接かつ曖昧さなく導出可能」とはみなされず、したがって、進歩性の評価のためにのみ考慮される。
3-3. 先行技術文献の関連日(審査基準 D 7.3)
新規性を判断するために、先行技術文献は、関連日において当業者によって読まれ理解されたであろうように読まれ考慮される。先行技術の検討における関連日とは、当該先行技術が公開された日を意味する。ただし、関連する先行技術が先の出願である場合を除く。この場合、関連する日は、当該先の出願の出願日、または特許法第14条第2項に該当する場合には優先日となる。
3-4. 先行技術文献における実施可能な開示(審査基準 D 7.4)
実施可能な開示を提供する先行技術文献は、その時点における当該分野の一般的な知識を考慮して、当業者が請求項に係る発明を実施することを可能にするのに十分な詳細さで請求項に係る発明を記載している場合、請求項に係る発明を予見させるものである。先行技術に名称または式が記載されている化学化合物は、先行技術に記載された情報と、先行技術の関連日において利用可能であった追加的な一般知識とによって、当該化合物の調製または天然に存在する化合物の場合には分離が可能とならない限り、自動的に公知とはならない。
3-5. 一般的な開示と具体例(審査基準 D 7.5)
請求項の範囲に含まれる内容が先に開示されている場合、請求項は新規性を欠く。従って、発明を代替案の観点から定義した請求項は、その代替案の一つが既に公知であれば新規性を欠くことになる。対照的に、先行技術の一般的な開示は、通常、より具体的な請求項を予見させることはない。
3-6. 暗黙の開示とパラメータ(審査基準 D 7.6)
新規性の欠如は、通常、先行技術の明示的な開示から明確に明白でなければならない。しかしながら、先行技術が、先行技術の内容およびその教示の実際的な効果に関して審査官に何の疑いも残さない暗黙的な方法でクレームされた主題を開示している場合、審査官は新規性の欠如に関する異議を提起することができる。
このような状況は、特許請求の範囲において、発明やその特徴を定義するためにパラメータが使用されている場合に起こり得る。関連する先行技術では、異なるパラメータが記載されているか、パラメータが全く記載されていない可能性がある。公知製品と特許請求の範囲に記載された製品が他の全ての側面において同一である場合、新規性欠如の異議を生じる可能性がある。しかし、出願人がパラメータの相違について立証可能な証拠を提出できる場合、請求項に係る発明が、指定されたパラメータを有する製品を製造するために必要なすべての必須特徴を十分に開示しているかどうか、を評価する必要がある。
3-7. 新規性の審査(審査基準 D 7.7)
新規性を評価するために請求項を解釈する場合、特定の意図された用途の非特徴的な特徴は無視されるべきである。他方、たとえ明示的に記載されていなくても、特定の用途によって暗示される特徴的な特性は考慮されるべきである。
異なる純度の公知化合物を有するだけでは、その純度が従来の方法によって達成可能である場合、新規性は付与されない。出願人は、新規性を克服するためには、請求項に係る発明の純度は、従来のプロセスでは得られないことを示すのではなく、その代わりに従来公知のプロセスや方法では達成不可能な結果であることを示す必要がある。
3-8. 選択発明(審査基準 D 7.8)
選択発明には、従来技術におけるより大きな既知の範囲では明確に言及されていない個々の要素、サブセット、または部分範囲を主張する発明が含まれる。これらの発明は、先行技術の開示の範囲内、またはそれをオーバーラップするものである。
請求項に係る発明が、具体的に開示された1つの要素リストから要素を選択したものであっても、新規性は立証されない。しかし、2つ以上のリストから選択された要素を、その組み合わせを明示的に開示することなく組み合わせることは、新規性があるとみなされる可能性がある。
従来技術のより広い数値範囲から選択された請求項に係る発明の部分範囲は、以下の場合に新規である。
- 既知の範囲と比較して狭い。そして
- 従来技術に開示されている特定の例および既知の範囲の終点から十分に離れている。
選択発明は、例えば、請求される主題と先行技術の数値範囲や化学式など、オーバーラップする範囲を含むこともできる。数値範囲がオーバーラップする物理パラメータの場合、既知の範囲の終点、中間値、またはオーバーラップする先行技術の具体例が明示されていれば、請求された主題は新規ではない。
先行技術の範囲から新規性を否定する特定の値を除外するだけでは、新規性の立証には不十分である。また、当該分野の当業者が、オーバーラップする領域内での作業を真剣に検討するかどうかも考慮する必要がある。
化学式がオーバーラップする場合、請求された主題が、新たな技術要素または技術的教示によって、オーバーラップする範囲において先行技術と区別されれば、新規性が立証される。
3-9. 数値の誤差範囲(審査基準 D 7.8.1)
関連分野の当業者であれば、測定に関連する数値は、その精度を限定する誤差の影響を受けることを考慮しなければならない。このため、科学技術文献における標準的な慣行が適用され、数値の最後の小数位がその精度のレベルを示す。他の誤差が指定されていない状況では、最後の小数位を四捨五入して最大誤差を決定すべきである。
3-10. リーチスルークレームの新規性(審査基準 D 7.9)
「リーチスルー(Reach-through)」クレームは、生物学的標的に対する製品の作用を機能的に定義することにより、化学製品、組成物または用途の保護を求めることを目的として策定される。これらのクレームは、基本的に明細書の開示事項を超えて拡張され、明示的に記載されていないが、本発明を使用して開発される可能性のある主題を包含する。
多くの場合、出願人は新たに同定された生物学的標的に基づいて化合物を定義する。しかし、これらの化合物が作用する生物学的標的が新しいからといって、必ずしも新しいとは限らない。実際、出願人は、既知の化合物が新しい生物学的標的に対して同じ作用を発揮することを示す試験結果を提示することが多い。その結果、このように定義された化合物に関するリーチスルークレームは、新規性を欠くことになる。
シンガポールにおける特許出願制度
シンガポールの特許制度は先願主義を採用している。また他の多くの国と同様、特許出願における優先権主張を認めている。パリ条約締約国または世界貿易機関(WTO)加盟国において先に出願されると、当該出願を後のシンガポール出願において優先権主張することができる。ただし当該シンガポール出願は、先行出願の出願日から12か月以内に出願されなければならない。
1.出願要件
出願に際しては、以下の情報を提出することが必要である。
1-1.特許明細書
・明細書、請求の範囲、要約および図面を含む、特許出願に関する英語で記載された明細
書
・明細書には、実施例と図面への参照を伴う、請求された発明を実施する少なくとも一つ
の方法が記載されなければならない
・発明の保護範囲を定める請求項は明細書によりサポートされなければならない
・図面は、明細書中または請求項中で言及されなければならない
・要約は、特許出願公開において記載される発明の要約である
出願日を確保するためには、特許出願の時点において請求項を提出することは要求されない。これは、一部の国において利用可能な仮出願の概念と同様のものである。しかしながら、特許出願を完了するためには、下記に示す所定期間内に請求項を提出しなければならず、これを怠ると、出願放棄となる。
(a)優先権主張されていない場合、当該出願の出願日から12か月;または
(b)優先権主張されている場合、以下のいずれか遅い方:
・主張された優先日から12か月
・出願日から2か月
1-2.優先権情報の詳細
優先権主張の基礎となる先行特許出願に関する以下の情報
(a)出願国
(b)出願日
(c)出願番号
1-3.出願人の詳細
(a)個人(自然人)である各出願人については以下の情報
・氏名
・住所
・居住する国
・国籍
(b)企業体(法人)である各出願人については以下の情報
・名称
・登記住所
・設立州(米国企業にのみ適用)
・設立国
1-4.発明者の詳細
各発明者についての以下の情報
・氏名
・住所
・永住権を有する国
・国籍
・発明者が発明の創造時のいずれかの時点でシンガポールに居住していたか否か
1-5.権利の由来
出願人が、各発明者から当該発明に対する権利をどのように得たかについての詳細
・雇用により
・譲渡により
・その他
1-6.その他
ブダペスト条約に基づく生物材料の寄託および国際展示会における先行開示が行われたか否かに関する情報の詳細
特許出願時に支払う超過請求項費用はなく、超過請求項費用は登録費用の支払い時点において25以上の請求項についてのみ納付することとなる。
2.出願日通知書および方式審査報告書の発行
2-1.出願日通知書
シンガポール知的財産局(Intellectual Property Office of Singapore : IPOS)が、下記に挙げる出願日付与に関する要件が満たされたと判断した場合、IPOSは、出願人に対して、出願日通知書を発行する。
(i)特許を求めていることが出願書類で示されていること
(ii)出願書類で特許出願人が特定されていること
(iii)明細書、優先権を主張する場合には優先権情報および優先権証明書が含まれていること
要件が満たされていないとIPOSが判断した場合、不備通知書が発行され、出願人は当該不備を回復するために2か月の期間が与えられ、これを怠ると当該出願は放棄されたものと見なされる。
2-2.方式審査報告書
方式審査において、IPOSは以下を判断する:
(i)優先権主張が、当該シンガポール出願の出願日前12か月以内である、先行する関連出願の出願日を特定しているか否か
(ii)図面または明細書の一部が出願から欠落しているか否か および
(iii)出願がすべての方式要件を満たしているか否か
すべての方式要件を満たしている場合、IPOSは方式審査通過報告書を発行する。
いずれかの方式要件が満たされないと、IPOSは、方式審査不備報告書を発行し、出願人は3か月間の応答期間を有し、これを怠ると当該出願は拒絶される。
3.出願公開
出願日が付与されると、優先権主張日または優先権主張がない場合は当該出願の出願日から18か月後に、特許公報において出願公開される。
4.調査および審査手続き
シンガポールにおいて、特許を取得するには4つの異なるルート(オプション)があり、それぞれ以下の通りである。
・オプション1:調査請求後の実体審査請求
・オプション2:調査および実体審査の同時請求
・オプション3:対応出願*1、対応国際出願または関連国内段階移行出願*2の最終調査
結果に基づく実体審査
・オプション4:対応出願、対応国際出願または関連国内段階移行出願の最終調査およ
び審査結果に基づく補充審査
なお、オプション4の補充審査は、2017年10月30日付けで改正された特許法により、2020年1月1日以降の出願では、利用できなくなる(シンガポール特許法第29条(11A)、およびシンガポール特許規則43(4))。
*1 「対応出願」とは、米国、カナダ(英語での出願)、欧州特許庁(英語での出願)、英国、オーストラリア、ニュージーランド、日本または韓国における所定の特許庁に出願されたものを指す。進歩性について未審査のニュージーランド出願に依拠することは推奨されない。さらにシンガポール出願は当該外国出願と優先権関係を有し、当該外国出願について優先権を主張するか、当該外国出願が当該シンガポール出願について優先権を主張するか、両出願が別の出願について共通の優先権を主張しなければならない。
*2 シンガポール国内段階移行出願に関する「関連国内段階移行出願」とは、所定の特許庁のいずれかにおいて出願された国内段階移行出願を指し、シンガポール国内段階移行出願のPCT出願から派生するものである。
オプション1について、調査請求は、当該出願の優先日または出願日(優先日がない場合)から13か月以内に提出されなければならない。その後、実体審査請求は、同じ優先日または出願日(優先日がない場合)から36か月以内に提出されなければならない。
オプション2について、調査および実体審査請求を、優先日または出願日(優先日がない場合)から36か月以内に同時に提出されなければならない。
オプション3について、対応出願、対応国際出願または関連の国内段階移行出願のいずれかの最終調査結果に基づく実体審査請求は、優先日または出願日(優先日がない場合)から36か月以内に提出されなければならない。本請求に必要な書類には以下が含まれる。
・国際調査報告書(International Search Report:ISR)または所定特許庁の1つに
おいて出願された特許出願に関する最終調査報告書の写しおよび、
その証明付の英語訳(必要な場合)、およびISRまたは最終調査報告書で引用された
先行技術文献それぞれの写し
・これらにおいて引用された非英語文献のそれぞれに対応する特許ファミリーに対する
参照リスト
オプション4について、対応出願、対応国際出願または関連国内段階移行出願のいずれかの最終調査および審査結果に基づく補充審査の請求は、優先日または出願日(優先日がない場合)から54か月以内に提出されなければならない。本請求に必要な書類には以下が含まれる。
(i)対応する外国の特許付与証の謄本または、その結果において登録可能と言及された請求項を含む最終調査および審査結果、ならびにその証明付き英語訳(必要な場合)および
(ii)シンガポール出願の各請求項が、対応出願の登録可能請求項とどのように関連*3しているかを示す表
*3 以下の場合、請求項は、他の請求項に関連するものと見なされる
(i)2つの請求項が同一である または
(ii)後の出願の請求項における各限定が、先の出願における限定と同一である、または表現のみが異なり、内容が同一である
実体審査に際して、新規性、進歩性、産業上の利用可能性、および、または単一性に関して拒絶理由を有する場合、審査官は見解書(Written Opinion)を発行し、出願人に対して5か月の応答期間(延長不可)を与える。見解書に対する応答は、審査官の見解に対する書面応答、明細書の補正またはその両方の形態を取ることができる。
補充審査の場合において、請求項のサポート、追加事項、および、または二重特許等に関する拒絶理由を有する場合、各拒絶理由を詳述する見解書が発行される。見解書に対する応答は、見解書の発行から3か月以内に提出されなければならない。見解書に対する応答は、審査官の見解に対する書面応答、明細書の補正またはその両方の形態を取ることができる。なお補充審査において審査官は、新規性、進歩性および産業上の利用可能性について検討を行わない。
5.審査の終結:特許付与適格または拒絶意思
5-1.特許付与適格通知(Notice of Eligibility to Proceed to Grant)
実体審査また補充審査が完了すると、審査官は、審査報告書または補充審査報告書を、適格通知または拒絶意思通知とともに発行する。
審査報告書が肯定的な結果である場合、IPOSは、特許付与適格通知書を発行する。その後、出願人は、該通知の発行から2か月以内に登録費用を支払うことが要求される。
5-2.拒絶意思通知(Notice of Intention to Refuse)
審査報告書が否定的な結果である場合、IPOSは、当該出願の拒絶意思通知書を発行する。その後出願人は、当該通知の発行日から2か月以内に審査レビューを請求する、もしくは、さらなる措置を講じないことにより出願の拒絶を受け入れるオプションを有する。
6.審査レビュー(再審査)
出願人は、拒絶意思通知の日から2か月以内に審査レビューを請求することができる。出願人はこの請求を行う際に、意見書と(必要に応じて)補正書を提出しなければならない。
上記と同様に、審査レビュー報告書が肯定的な結果である場合、IPOSは、特許付与適格通知書を発行し、出願人は、当該通知の発行から2か月以内に登録費用を支払うことが要求される。
拒絶意思通知において提起された拒絶事項が解消されないため、審査レビュー報告書が否定的な結果である場合、IPOSは拒絶通知を発行し、これは通知の日から2か月後に効力を生じる。この2か月間、当該出願は依然として係属中であり、出願人は分割出願を行う機会を有する。拒絶通知の発行は、当該シンガポール出願の審査手続きの終了を意味する。
7.付与証明書
特許が付与されると、特許の権利期間は年金費用の納付を条件として、出願日から20年間である。
特許を維持するためには、出願日から4年度目の終了から始まり特許が失効するまでの間、出願人は毎年維持年金を納付する必要がある。維持年金は、出願日相当日の前3か月以内に納付することができる。
出願日から45か月以降に特許が付与された場合、すべての年金は、特許付与の日から3か月以内に支払うことができる。
以下のフローチャートに、シンガポールの特許審査手続きの概要を示す。
特許審査手続きフローチャート
シンガポールに国内移行した国際出願
国際出願におけるシンガポール国内段階への移行期限は、最先の優先権主張日から30か月、または優先権主張されていない場合は国際出願日から30か月である。
国際出願が英語以外の言語で出願・公開された場合、当該国際出願の英語訳を優先日から30か月以内に提出しなければならない。また、優先日から32か月までに翻訳文の確認証明書を提出する必要がある。
シンガポール国内段階に移行した国際出願に関する調査および審査手続は、優先権を主張したパリルートでの出願および優先権を主張しない出願と同一である。
シンガポールにおける特許出願制度
【詳細】
シンガポールの特許制度は先願主義を採用している。また他の多くの国と同様、特許出願における優先権主張を認めている。パリ条約締約国または世界貿易機関(WTO)加盟国において先に出願されると、当該出願を後のシンガポール出願において優先権主張することができる。ただし当該シンガポール出願は、先行出願の出願日から12ヶ月以内に出願されなければならない。
1.出願要件
出願に際しては、以下の情報を提出することが必要である。
1-1.特許明細書
・明細書、請求の範囲、要約および図面を含む、特許出願に関する英語で記載された明細書
・明細書には、実施例と図面への参照を伴う、請求された発明を実施する少なくとも一つの方法が記載されなければならない
・発明の保護範囲を定める請求項は明細書によりサポートされなければならない
・図面は、明細書中または請求項中で言及されなければならない
・要約は、特許出願公開において記載される発明の要約である
出願日を確保するためには、特許出願の時点において請求項を提出することは要求されない。これは、一部の国において利用可能な仮出願の概念と同様のものである。しかしながら、特許出願を完了するためには、下記に示す所定期間内に請求項を提出しなければならず、これを怠ると、出願放棄となる。
(a)優先権主張されていない場合、当該出願の出願日から12ヶ月;または
(b)優先権主張されている場合、以下のいずれか遅い方:
・主張された優先日から12ヶ月
・出願日から2ヶ月
1-2.優先権情報の詳細
優先権主張の基礎となる先行特許出願に関する以下の情報
(a)出願国
(b)出願日
(c)出願番号
1-3.出願人の詳細
(a)個人(自然人)である各出願人については以下の情報
・氏名
・住所
・居住する国
・国籍
(b)企業体(法人)である各出願人については以下の情報
・名称
・登記住所
・設立州(米国企業にのみ適用)
・設立国
1-4.発明者の詳細
各発明者についての以下の情報
・氏名
・住所
・永住権を有する国
・国籍
・発明者が発明の創造時のいずれかの時点でシンガポールに居住していたか否か
1-5.権利の由来
出願人が、各発明者から当該発明に対する権利をどのように得たかについての詳細
・雇用により
・譲渡により
・その他
1-6.その他
ブダペスト条約に基づく生物材料の寄託および国際展示会における先行開示が行われたか否かに関する情報の詳細
特許出願時に支払う超過請求項費用はなく、超過請求項費用は登録費用の支払い時点において25以上の請求項についてのみ納付することとなる。
2.出願日通知書および方式審査報告書の発行
2-1.出願日通知書
シンガポール知的財産局(Intellectual Property Office of Singapore : IPOS)が、下記に挙げる出願日付与に関する要件が満たされたと判断した場合、IPOSは、出願人に対して、出願日通知書を発行する。
(i)特許を求めていることが出願書類で示されていること
(ii)出願書類で特許出願人が特定されていること
(iii)明細書、優先権を主張する場合には優先権情報および優先権証明書がふくまれていること
要件が満たされていないとIPOSが判断した場合、不備通知書が発行され、出願人は当該不備を回復するために2ヶ月の期間が与えられ、これを怠ると当該出願は放棄されたものと見なされる。
2-2.方式審査報告書
方式審査において、IPOSは以下を判断する:
(i)優先権主張が、当該シンガポール出願の出願日前12ヶ月以内である、先行する関連出願の出願日を特定しているか否か
(ii)図面または明細書の一部が出願から欠落しているか否か および
(iii)出願がすべての方式要件を満たしているか否か
すべての方式要件を満たしている場合、IPOSは方式審査通過報告書を発行する。
いずれかの方式要件が満たされないと、IPOSは、方式審査不備報告書を発行し、出願人は3ヶ月間の応答期間を有し、これを怠ると当該出願は拒絶される。
3.出願公開
出願日が付与されると、優先権主張日または優先権主張がない場合は当該出願の出願日から18ヵ月後に、特許公報において出願公開される。
4.調査および審査手続き
シンガポールにおいて、特許を取得するには4つの異なるルート(オプション)があり、それぞれ以下の通りである。
・オプション1:調査請求後の実体審査請求
・オプション2:調査および実体審査の同時請求
・オプション3:対応出願*1、対応国際出願または関連国内段階移行出願*2の最終調査結果に基づく実体審査
・オプション4:対応出願、対応国際出願または関連国内段階移行出願の最終調査および審査結果に基づく補充審査
*1 「対応出願」とは、米国、カナダ(英語での出願)、欧州特許庁(英語での出願)、英国、オーストラリア、ニュージーランド、日本または韓国における所定の特許庁に出願されたものを指す。進歩性について未審査のニュージーランド出願に依拠することは推奨されない。さらにシンガポール出願は当該外国出願と優先権関係を有し、当該外国出願について優先権を主張するか、当該外国出願が当該シンガポール出願について優先権を主張するか、両出願が別の出願について共通の優先権を主張しなければならない。
*2 シンガポール国内段階移行出願に関する「関連国内段階移行出願」とは、所定の特許庁のいずれかにおいて出願された国内段階移行出願を指し、シンガポール国内段階移行出願のPCT出願から派生するものである。
オプション1について、調査請求は、当該出願の優先日または出願日(優先日がない場合)から13ヶ月以内に提出されなければならない。その後、実体審査請求は、同じ優先日または出願日(優先日がない場合)から36ヶ月以内に提出されなければならない。
オプション2について、調査および実体審査請求を、優先日または出願日(優先日がない場合)から36ヶ月以内に同時に提出されなければならない。
オプション3について、対応出願、対応国際出願または関連の国内段階移行出願のいずれかの最終調査結果に基づく実体審査請求は、優先日または出願日(優先日がない場合)から36ヶ月以内に提出されなければならない。本請求に必要な書類には以下が含まれる。
・国際調査報告書(International Search Report :ISR)または所定特許庁の1つにおいて出願された特許出願に関する最終調査報告書の写しおよび、その証明付の英語訳(必要な場合)、およびISRまたは最終調査報告書で引用された先行技術文献それぞれの写し
・これらにおいて引用された非英語文献のそれぞれに対応する特許ファミリーに対する参照リスト
オプション4について、対応出願、対応国際出願または関連国内段階移行出願のいずれかの最終調査および審査結果に基づく補充審査の請求は、優先日または出願日(優先日がない場合)から54ヶ月以内に提出されなければならない。本請求に必要な書類には以下が含まれる。
(i)対応する外国の特許付与証の謄本または、その結果において登録可能と言及された請求項を含む最終調査および審査結果、ならびにその証明付き英語訳(必要な場合) および
(ii)シンガポール出願の各請求項が、対応出願の登録可能請求項とどのように関連*3しているかを示す表
*3 以下の場合、請求項は、他の請求項に関連するものと見なされる
(i)2つの請求項が同一である または
(ii)後の出願の請求項における各限定が、先の出願における限定と同一である、または表現のみが異なり、内容が同一である
実体審査に際して、新規性、進歩性、産業上の利用可能性、および、または単一性に関して拒絶理由を有する場合、審査官は見解書を発行し、出願人に対して5ヶ月の応答期間(延長不可)を与える。見解書に対する応答は、審査官の見解に対する書面応答、明細書の補正またはその両方の形態を取ることができる。
補充審査の場合において、請求項のサポート、追加事項、および、または二重特許等に関する拒絶理由を有する場合、各拒絶理由を詳述する見解書が発行される。見解書に対する応答は、見解書の発行から3ヶ月以内に提出されなければならない。見解書に対する応答は、審査官の見解に対する書面応答、明細書の補正またはその両方の形態を取ることができる。なお補充審査において審査官は、新規性、進歩性および産業上の利用可能性について検討を行わない。
5.審査の終結:特許付与適格または拒絶意思
5-1.特許付与適格通知
実体審査また補充審査が完了すると、審査官は、審査報告書または補充審査報告書を、適格通知または拒絶意思通知とともに発行する。
審査報告書が肯定的な結果である場合、IPOSは、特許付与適格通知書を発行する。その後、出願人は、該通知の発行から2ヶ月以内に登録費用を支払うことが要求される。
5-2.拒絶意思通知
審査報告書が否定的な結果である場合、IPOSは、当該出願の拒絶意思通知書を発行する。その後出願人は、当該通知の発行日から2ヶ月以内に審査レビューを請求する、もしくは、さらなる措置を講じないことにより出願の拒絶を受け入れるオプションを有する。
6.審査レビュー(再審査)
出願人は、拒絶意思通知の日から2ヶ月以内に審査レビューを請求することができる。出願人はこの請求を行う際に、意見書と(必要に応じて)補正書を提出しなければならない。
上記と同様に、審査レビュー報告書が肯定的な結果である場合、IPOSは、特許付与適格通知書を発行し、出願人は、当該通知の発行から2ヶ月以内に登録費用を支払うことが要求される。
拒絶意思通知において提起された拒絶事項が解消されないため、審査レビュー報告書が否定的な結果である場合、IPOSは拒絶通知を発行し、これは通知の日から2ヶ月後に効力を生じる。この2ヶ月間、当該出願は依然として係属中であり、出願人は分割出願を行う機会を有する。拒絶通知の発行は、当該シンガポール出願の審査手続きの終了を意味する。
7.付与証明書
特許が付与されると、特許の権利期間は年金費用の納付を条件として、出願日から20年間である。
特許を維持するためには、出願日から4年度目の終了から始まり特許が失効するまでの間、出願人は毎年維持年金を納付する必要がある。維持年金は、出願日相当日の前3ヶ月以内に納付することができる。
出願日から45ヶ月以降に特許が付与された場合、すべての年金は、特許付与の日から3ヶ月以内に支払うことができる。
以下のフローチャートに、シンガポールの特許審査手続きの概要を示す。
シンガポールに国内移行した国際出願
国際出願におけるシンガポール国内段階への移行期限は、最先の優先権主張日から30ヶ月、または優先権主張されていない場合は国際出願日から30ヶ月である。
国際出願が英語以外の言語で出願・公開された場合、当該国際出願の英語訳を優先日から30ヶ月以内に提出しなければならない。また、優先日から32ヶ月までに翻訳文の確認証明書を提出する必要がある。
シンガポール国内段階に移行した国際出願に関する調査および審査手続きは、優先権を主張したパリルートでの出願および優先権を主張しない出願と同一である。