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インドにおける意匠権者による詐称通用の主張に関する判例

【詳細】

 本件は、デリー高等裁判所の大法廷が、意匠権侵害訴訟について判断を下した事案である。同裁判所はこれまで、意匠権者が詐称通用訴訟を提起できるか否かについて、判断の異なる複数の判決を下しており、裁判所としての判断を統一し、今後の判例法とするため、通常は1人の判事が審理するところを、3人の判事による合議制にて審理を行った。

  本件の背景としては、意匠法には、コモンロー上の概念である詐称通用に対して権利者を保護するための商標法にあるような規定がないことである。このため、意匠権者は、詐称通用に対して救済を得ることができなかった。また、意匠は、意匠法に基づき登録されると、商標として登録することができない。意匠法は独立した法規であり、「意匠」の定義はコモンロー上の権利には及ばないとされてきた。

  デリー高等裁判所はこれまでの考え方を否定し、意匠法には規定されていないものの、意匠に関して詐称通用に対する訴訟を提起することができると判示した。詐称通用に対する救済を受けるためには、原告が以下を立証しなければならない。

 (1)原告が提供する商品またはサービスに関連するのれん(goodwill)または信用が存在すること。すなわち消費者が、使用される商標(表装(get-up)、トレードドレス、図柄、パッケージ、ラベル等を含む)により、かかる商品またはサービスを識別できること。

 (2)被告による不実表示の結果、それを見た業界や消費者が被告商品の出所が原告である、あるいは原告商品と関連があると思い込んだという事実。この不実表示が意図的ではなかったとか、詐欺的意図はなかったという主観的な意図は詐称通用訴訟における抗弁とはならない

 (3)被告の行動が損害を生じさせたか、あるいは、損害を生じさせるよう計画されていること。

 

 裁判所は、物品には意匠法と商標法に基づく二重の保護が併存可能との見解を示した。ただし、同一の主題について、意匠と商標の両方を登録することはできない。しかし、ある物品を意匠として登録し、それを商標として使用することは可能である。したがって、意匠権者は、自らは当該意匠を商標として使用しており、それが保護する価値のあるのれんまたは信用を獲得したと主張することが可能である。

  裁判所は、登録意匠権者でも詐称通用に対する訴訟を提起することが可能であるとしたが、意匠権侵害訴訟と詐称通用に対する訴訟を一つの訴訟に併合することはできないと判示した。

マレーシアにおける詐称通用

フィリピンにおける商号の保護

【詳細】

 フィリピンにおいて、商号は、法律により保護されており、事業名称および企業名を保護する事業名称法(Business Name Law)および会社法による保護に加え、知的財産権の一形態としても認められている。商号には所有者が苦労して獲得した名声および業務上の信用が付随しているため、これらが公衆の混同により損なわれないように、保護を受けることができる。

 

 特にフィリピン知的財産法は、事前登録なしでも商号を保護すると共に、公衆に誤認を生じるおそれのある後続のあらゆる商号の使用を違法と見なしている。関連する規定を以下に示す。

 

(フィリピン知的財産法第165条)

商号または事業の名称

165.1 名称は、その性質またはそれらを付した使用により公の秩序または善良の風俗に反することとなる場合、および特にそれらにより特定される企業の性質について当業界または公衆を欺瞞するおそれがある場合は,商号として使用することはできない。

165.2(a) 商号を登録する義務に係る法律または規則の規定にかかわらず、商号は、登録の前であるかまたは登録がなされていない場合であっても、第三者が犯す違法行為に対して保護される。

(b) 特に、商号、標章もしくは団体標章としての使用であるか否かを問わず、第三者による商号の「後追い」の使用、または公衆を誤認させる虞がある類似の商号もしくは標章の「後追い」の使用は,違法であるとみなす。

 

 判例を通じて最高裁判所は、商標と商号を区別しており、それぞれに対して異なる種類の保護を認めている。具体的に最高裁判所は、以下のように判示している。

 

 「一般的に商標は、特定の人または組織により生産または処理される物品と、他者により生産または処理されるものとを区別または識別するための標識、紋章または標章として説明されており、商品または物品に付される必要がある。一方、商号は、自分自身の名前と同様に製造業者または取引業者自身を記述するものであり、その企業が所在する場所の名前を含んでいることも多い。取引上の保護のため、取引上の混同を避けるため、さらに高い名声による優位を確保するため、商号は製造業者または取引業者の独自性を保護対象とする。商号は企業の業務上の信用に対して用いられるものであり、販売される商品に付される必要はない。つまり商号は、厳密な意味で商標とは見なされない。」