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中国における専利権侵害訴訟手続の概要

専利権侵害訴訟手続フローチャート図

1.裁判制度
 中国の裁判制度は、「四級二審制」とよばれており、全部で四つの等級の人民法院から構成され、当事者が、第1審の判決に不服な場合は、一度だけその一等級上の人民法院に上訴する機会が与えられる(民事訴訟法第171条)。上訴された場合は、一級上の人民法院により第2審手続が行われ、その第2審判決が確定判決となり、効力が発生する(民事訴訟法第182条)。

 なお、確定判決に重大な瑕疵がある場合は、当事者は、確定判決の人民法院の一級上の人民法院に再審を申し立てることができるが、再審手続を行うか否かは、申立てを受けた人民法院が決定するものであり、再審理由はかなり限られている(民事訴訟法第205~207条)。

2.管轄
 特許権と実用新案権の侵害訴訟は、原則第1審は、知識産権法院、省・自治区・直轄市の人民政府所在地の中級人民法院、または最高人民法院が指定した中級人民法院が管轄する(最高人民法院による第一審の知的財産に係る民事及び行政案件の管轄に関する若干規定(以下、「知財案件管轄若干規定」という。)第1条)。意匠権の侵害訴訟は、第1審は、知識産権法院と、中級人民法院と、最高人民法院が指定した下級人民法院が管轄する(知財案件管轄若干規定第2条)。

 土地管轄は、被告所在地または侵害行為地の人民法院が管轄権を有する。侵害行為地には、侵害行為発生地と侵害結果発生地が含まれる(最高人民法院による専利紛争案件の審理における法律適用の問題に関する若干の規定(以下、「専利紛争案件若干規定」という。)第2条)。

 なお、複数の人民法院が管轄権を有する場合は、原告は、いずれか一つの人民法院に提訴することができる。また、複数の被告が存在する場合は、いずれか一つの被告の所在地または侵害行為地の人民法院を選択して提訴することができる(民事訴訟法第36条)。被疑製品の製造者および販売者を共同被告として訴訟を提起する場合、販売地の人民法院が管轄権を有する(専利紛争案件若干規定第3条)。

3.提訴
 訴訟手続は、提訴により開始される。提訴するときに、原告は、管轄権を有する人民法院に、以下の書類を提出しなければならない。

3-1.訴状の原本および副本
 訴状には、原告と被告、請求の趣旨、事実と理由を記載する。

3-2.基本的な証拠
 基本的な証拠は、以下のとおりである。
(1) 専利権の登録原簿
(2) 年金納付証明(領収書等)
(3) 被告の侵害行為を裏付ける公証書類
(4) 原告側主体証明書類
 (a) 現在事項全部証明書およびその公証ならびにApostille認証
  (2023年11月07日より前は、中国在日大使館または領事館による認証が必要であるが、2023年11月07日以降は、Apostille認証だけで十分である。)
 (b) 法定代表者証明書およびそのApostille認証
 (c) 委任状およびそのApostille認証
 (d) 社長印の印鑑証明書およびそのApostille認証
  (委任状および法廷代表者証明書に押印する印鑑について、人民法院から、社印の上に、さらに社長印による捺印も要求される場合、上記証明書類が必要となる。)
 (e) 人民法院に認められた翻訳機関による上記(a)~(d)の中国語翻訳書類
(5)被告側主体証明書類
 家企業信用情報公示システム(https://www.gsxt.gov.cn/)からダウンロードした工商登録情報ページ

4.訴状審査
 人民法院は、提訴されたときは、起訴要件を満たしているか否かを審査する。起訴要件を満たしていないと判断したときは、7日以内に不受理の裁定を行う。原告は、不受理の裁定に不服がある場合は、裁定書の受領日から10日以内(在外者については30日以内)に上訴することができる。人民法院は、起訴要件を満たしていると判断したときは、7日以内に受理して当事者に通知し、受理の日から5日以内に訴状の副本を被告に送付する(民事訴訟法第126条、第128条)。

5.開廷前手続
 被告は、答弁を行う場合、訴状の副本の受領日から15日以内(在外者の場合は30日以内)(以下、「答弁期間」という。)に答弁書を提出しなければならない(民事訴訟法第128条)。

 当事者は、当該答弁期間内に管轄権に関する異議申立を行い、事件を他の人民法院へ移送することを請求することができる。人民法院は、申立に理由がある場合、事件を当該他の人民法院に移送する裁定を行い、申立に理由がない場合は当該異議申立を却下する裁定を行う。当事者は、裁定に不服がある場合は、裁定書の受領日から10日以内(在外者については30日以内)に上訴することができる(民事訴訟法第130条)。

また、被告、前記答弁期間内に、原告の専利権に対する無効審判を請求し、その無効審判に基づいて侵害訴訟の中止を申請できる。しかしながら、実用新案権または意匠権についての無効理由が発見されない旨の専利権評価報告書がある場合、または、発明特許の場合は、裁判所は中止申請を許可しないことができる(専利紛争案件若干規定第4~8条)。

 その後、人民法院は、合議体を形成して、口頭審理の期日を定め、当事者双方に呼出状を送付する。

6.口頭審理
6-1.冒頭手続
 法廷秩序を読み上げると同時に、当事者の有する法廷上の権利を通知する。その後、当事者、代理人の身分を確認する。また、各当事者に対して裁判官、書記官の忌避または除斥の申請をするか否かを確認する。

6-2.法廷調査
 法廷調査は、事実の認定を目的とする。まず、原告が、訴訟請求およびその根拠となる事実と理由を述べ、被告が、答弁としてそれに依拠する事実と理由を述べる。
 その後、証拠調べを行う。原告が、証拠を提出し、被告は、提出された証拠に対して真実性、合法性、関連性に関する意見を述べる。その後、被告が、証拠を提出し、原告が、提出した証拠に対して真実性、合法性、関連性に関する意見を述べる。証人がいる場合は、証人尋問を行う。

6-3.法廷弁論
 法廷調査の段階で認定された事実に基づいて、原告と被告がそれぞれの主張を述べた後、双方が互いに弁論する。法廷弁論の段階で、新たな事実が判明した場合は、法廷調査の段階に戻ることもある。

6-4.和解の試み
 当事者双方に和解の意思があれば、裁判長は、裁判上の和解を行う。ただし、当事者の一方が和解の意思がないことを表明すれば、この段階は終了する。和解が成立した場合は、人民法院により和解調書が作成される。この和解調書は、確定判決と同等の法的効力を有する。

7.判決
 第1審手続は、国内案件では受理日から6か月以内に終結することが求められている(民事訴訟法第152条)が、法院側は当該案件審理期限を延長することができる。また、渉外案件は、この制限を受けないため、実際は1年以上かかることが多い。各当事者は、第1審判決に対して不服である場合は、判決の送達日から15日以内(在外者については30日以内)に一級上の人民法院に上訴することができる(民事訴訟法第171条、第276条)。

中国における行政部門による専利紛争処理手続の概要

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専利権侵害についての行政取締り手続き

 

 専利権の侵害があったときは、専利権者は侵害訴訟を提起する方法以外に、専利行政部門に対して紛争処理および調停を申し立てることができる。紛争処理手続において、専利行政部門が侵害の成立を認める場合は、被申立人に対して侵害行為の停止を命じることができる(専利法第60条)。

 

 以下、専利行政部門による紛争処理の流れを簡潔に説明する。

 

 専利権紛争処理は、被申立人所在地または侵害行為地の省級行政区(または個別の区を有する市級行政区)の政府が所在する専利行政部門が管轄権を有しており、2以上の専利行政部門が管轄権を有しているときは、申立人はいずれか一つの専利行政部門に申立てることができる(専利法実施細則第81条)。

 

 専利行政部門に紛争処理または調停を申し立てる場合、申立人は、申立書の原本および副本、主体証明書類、専利権が有効である証明、関連する証拠を提出しなければならない。また、実用新案権または意匠権に関わる紛争の場合は、評価報告の提出を求められる場合がある(専利行政法執行弁法第11条)。

 

 専利行政部門は、紛争処理の申立があった時は、以下の申立要件を満たしているか否かを審査する(専利行政法執行弁法第10条、第13条)。

 

(1)申立人が専利権者または利害関係者であること

(2)明確な被申立人がいること

(3)明確な申立事項および具体的な事実と理由があること

(4)当該部門の受理範囲と管轄に属すること

(5)人民法院に提訴していないこと

 

 申立条件を満たしていないと判断したときは、専利行政部門は申立書の受領日から5営業日以内に申立人に対して不受理の通知を行い、理由を説明する(専利行政法執行弁法第第13条)。

 

 一方、申立要件を満たしていると判断したときは、専利行政部門は申立書の受領日から5営業日以内に受理して当事者に通知する。同時に、3名以上の奇数の専利権侵害紛争を処理する担当者を指定し、受理の日から5営業日以内に申立書およびその付属書類の副本を被申立人に送付する(専利行政法執行弁法第第13条)。

 

 被申立人は、答弁を行う場合は、申請書およびその付属書類の副本の受領日から15日以内に答弁書の原本および副本を提出しなければならない。答弁書の原本および副本が提出された場合は、専利行政部門は答弁書の受領日から5営業日以内に答弁書の副本を申立人に送付する(専利行政法執行弁法第14条)。

 

 専利行政部門は、事件の状況に基づいて、口頭審理を行うか否かを決定する。口頭審理を行う場合は、少なくともその3営業日前に、口頭審理の日時と場所を当事者に通知する(専利行政法執行弁法第16条)。

 

 申立人が正当な理由なく口頭審理に出頭せずまたは許可なく退席した場合は、申立を取り下げたものとみなされる。一方、被申立人が正当な理由なく口頭審理に出頭せずまたは許可なく退席した場合は、欠席したものとして、手続は続行する(専利行政法執行弁法第16条)。

 

 専利行政部門は、侵害行為が成立しないと判断した時は、申立人の申立を棄却する。また、侵害行為が成立し、侵害行為の停止を命じる必要があると判断した時は、処理決定に即時停止を命じる侵害行為の類型、対象および範囲を明確に記載する(専利行政法執行弁法第19条)。

 

 当事者は、この処理決定に対して不服である場合は、処理通知の受領日から15日以内に行政訴訟を提起することができる。侵害者が上記期間内に行政訴訟を提起せず、かつ侵害行為を停止しなかった場合は、専利行政部門は人民法院に強制執行を申請することができる(専利行政法執行弁法第44条)。

 

 専利行政部門は、原則受理の日から3ヵ月以内に処理決定を行わなければならないので、訴訟手続と比べて迅速的な解決を期待できる(専利行政法執行弁法第21条)。ただし、損害賠償については、紛争処理手続で対処することができないため、調停手続などで和解により解決しなければならず、和解が成立しない場合は民事訴訟を行うこととなる。

中国における専利権侵害訴訟手続の概要

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専利権侵害訴訟手続フローチャート図

 

1.裁判制度

 

 中国の裁判制度は「四級二審制」とよばれており、全部で四つの等級の人民法院から構成され、当事者が第1審の判決に不服な場合は、一度だけその一等級上の人民法院に上訴をする機会が与えられる(民事訴訟法第164条)。上訴があった場合は、一級上の人民法院により第2審手続が行われ、その第2審判決が確定判決となり、効力が発生する(民事訴訟法第175条)。

 

 なお、確定判決に重大な瑕疵がある場合は、当事者は確定判決の人民法院の一級上の人民法院に再審を申し立てることができるが、再審手続を行うか否かは、申立てを受けた人民法院が決定するものであり、再審理由もかなり限られている(民事訴訟法第198-200条)。

 

2.管轄

 

 専利権侵害訴訟は、原則第1審は省級行政区の政府所在地の中級人民法院、または最高人民法院が指定する中級人民法院が管轄権を有する(特許紛争事件の審理に適用される法律の問題に関する若干規定(以下、単に「若干規定」という)第2条)。

 

 土地管轄は、被告所在地または侵害行為地の人民法院が管轄権を有する。侵害行為地には、侵害行為発生地と侵害結果発生地が含まれる(若干規定第5条)。

 

 なお、複数の人民法院が管轄権を有する場合は、原告はいずれか一つの人民法院に提訴することができる。また、複数の被告が存在する場合は、いずれか一つの被告の所在地または侵害行為地の人民法院を選択して提訴することができる(民事訴訟法第35条)。

 

3.提訴

 

 訴訟手続は提訴により開始される。原告は、提訴するときは、管轄権の有する人民法院に以下の書類を提出しなければならない。

 

3-1.訴状の原本および副本

 

 訴状には、(1)原告と被告、(2)請求の趣旨、(3)事実と理由を記載する。

 

3-2.初歩的な証拠

 

 典型的な初歩的証拠は以下のとおりである。

(1)専利権の登録原簿

(2)年金納付証明(領収書等)

(3)被告の侵害行為を裏付ける公証書類

 

(4)原告側主体証明書類

(a)現在事項全部証明書およびその公証、中国在日大使館または領事館による認証

(b)代表者証明書およびその公証、中国在日大使館または領事館による認証

(c)委任状およびその公証、中国在日大使館または領事館における認証

(d)人民法院に認められた翻訳機関による上記(a)~(c)の翻訳書類

(5)被告側主体証明書類

(a)工商登録情報ページ

(b)組織機構コード証明書コピー

 

4.訴状審査

 

 人民法院は、提訴があったときは、起訴要件を満たしているか否かを審査する。起訴要件を満たしていないと判断したときは、7日以内に不受理の裁定を行う。原告は、不受理の裁定に不服がある場合は、裁定書の受領日から10日以内(在外者については30日以内)に上訴することができる。人民法院は、起訴要件を満たしていると判断したときは、7日以内に受理して当事者に通知し、受理の日から5日以内に訴状の副本を被告に送付する(民事訴訟法第123条、第125条)。

 

5.開廷前手続

 

 被告は答弁を行う場合は、訴状の副本の受領日から15日以内(在外者の場合は30日以内であり、以下「答弁期間」という)に答弁書を提出しなければならない(民事訴訟法第125条)。

 

 当事者は当該答弁期間内に管轄権に関する異議申立を行い、事件を他の人民法院へ移送することを請求することができる。人民法院は、申立に理由がある場合は、事件が当該他の人民法院に移送する裁定を行い、申立に理由がない場合は当該異議申立を却下する裁定を行う。当事者は、裁定に不服がある場合は、裁定書の受領日から10日以内(在外者については30日以内)に上訴することができる(民事訴訟法第127条)。

 

 その後、人民法院は合議体を形成して、口頭審理の期日を定め、双方当事者に呼出状を送付する。

6.口頭審理

 

6-1.冒頭手続

 

 法定秩序を読み上げると同時に、当事者の有する法廷上の権利を通知する。その後、当事者、代理人の身分を確認する。また、各当事者に対して裁判官、書記官の忌避または除斥の申請をするか否かを確認する。

 

6-2.法廷調査

 

 法廷調査は、事実の認定を目的とする。

 

 まず、原告が訴訟請求およびその根拠となる事実と理由を述べ、被告が答弁としてそれに依拠する事実と理由を述べる。

 

 その後、証拠調べを行う。原告が証拠を提出し、被告は提出された証拠に対して真実性、合法性、関連性に関する意見を述べる。その後、被告が証拠を提出し、原告が提出された証拠に対して真実性、合法性、関連性に関する意見を述べる。証人がいる場合は証人尋問を行う。

 

6-3.法廷弁論

 

 法廷調査の段階で認定された事実に基づいて、原告と被告がそれぞれの主張を述べた後、双方が互いに弁論する。法廷弁論の段階で、新たな事実が判明した場合は、法廷調査の段階に戻ることもある。

 

6-4.和解の試み

 

 当事者双方に和解の意思があれば、裁判長は裁判上の和解を行う。ただし、当事者の一方が和解の意思がないことを表明すれば、この段階は終了する。和解が成立した場合は、人民法院により和解調書が作成される。この和解調書は確定判決と同等の法的効力を有する。

 

7.判決

 

 第1審手続は、国内案件では受理日から6月以内に終結することが求められている(民事訴訟法第149条)が、渉外案件はこの制限を受けないため、実際は1年ほどかかることが多い。各当事者は、第1審判決に対して不服である場合は、判決の送達日から15日以内(在外者については30日以内)に一級上の人民法院に上訴することができる(民事訴訟法第164条、第269条)。