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オーストラリアにおける商号の保護

【詳細】

事業名または商号が登記された場合、当該法人がオーストラリアの商事法令の要件を満たしていることを意味する。ただし、事業名または商号を登記しても、以下には注意が必要である。

(1)他者による類似の事業名および商号の登記を阻止できない。

(2)当該事業名または商号を使用するための所有権または排他的権利が付与されるわけではない。

(3)既に同一名称を商標登録している商標権者が当該登録商標を使用することを阻止できない。

(4)商標権侵害等の権利行使に対して防御できない。

 

1.事業名の登記

 2011年11月3日より施行されている事業名登記法では事業名の登記を認めているが、次の場合には登記できない。

(1)既に登記されている事業名と同一またはほぼ(nearly)同一のもの。

(2)使用が禁止されている言葉または表現を含むもの(ASICから同意を得ているものを除く)

(3)次の理由により、ASICが使用できない名称として決定しているもの。

 (a)公衆に不快感を与える可能性があること。

 (b)誤認混同のおそれがあること。(例:政府関係組織であると誤認させるもの。)

 

 ASICが発行する「事業名登記実務」(2015年版)では、既に登記されている事業名と「同一またはほぼ同一」であるかを判断するための基準が示されている。この判断を行う際、事業名登記実務では、次の事項は判断の対象としない。

(1)冠詞の使用(例:a、an、theを事業名の最初に付すこと。)

(2)事業形態の使用(例:協会、組合、合弁会社、有限会社等の使用)

(3)単語が複数形か単数形か(例:Children とChild)

(4)文字の大きさ、フォント、大文字か小文字か、アクセント、スペース、句読点

(5)単語の順序

(6)インターネット・ホスト名の使用(例:www、net、org、com)

 

 事業名登記実務では、既に登記されている事業名と「同一またはほぼ同一」であるかの判断において、同等として扱うべき単語について言及している。例えば、CorporationとCorp、AustralianとAustは、「同一またはほぼ同一」とされている。また、事業名登記実務では、同じ意味を持つため、「同一またはほぼ同一」と判断される単語または表現として、次のような例を上げている。

(1)accom、accomodationおよびholiday accomodation

(2)body care、skincareおよびskin therapy

(3)coffee bar、coffee house、coffee lounge、coffee shopおよびespresso bar

 

 事業名は、発音が同じであれば、「同一またはほぼ同一」と判断され得る。例えば、Creative@Workは、Kre8tive at work と「同一またはほぼ同一」と判断される。

 「同一またはほぼ同一」の判断基準は狭いため、類似の事業名であれば登記される。例えば、ASICは、The Pretty CupcakeはPretty Cupcakesと「同一またはほぼ同一」と判断するが、Mike’s BikesはMike’s Bikes and Skatesと「同一またはほぼ同一」ではないと判断する。

 

2.商号の登記

 2001年7月15日より施行されている会社法第147条では商号の登記を認めているが、次の場合には登記できない。

(1)既に登記されまたは仮登記されている商号と同一のもの。

(2)既に登記されまたは登記保留となっている事業名と同一のもの。

(3)会社法規則により、登記が認められていないもの。(例:不快感を与える言葉を含むもの、あるいは政府関係組織または王室関係組織であると誤認させるもの。)

会社法における上記(2)および(3)の規定は、多少の差異はあるものの、事業名登記法の規定と概ね一致している。

 登記要件に関して、会社法と事業名登記法における根本的な差異は、上記(1)に関する規定である。つまり、会社法においては、「ほぼ同一」の商号は不登記事由となっておらず、「同一」の商号のみ不登記事由となっている。したがって、商号に関しては、ASICにより類似の商号が登記されてしまう可能性が高い。また、会社法は、公衆に混同が生じるおそれがないと判断できる場合、ASICに対して同一の商号の登記を認める裁量権を与えている。

商号が「同一」であるかを判断する基準は、2001年の会社法規則に規定されており、事業名登記実務の規定と概ね一致している。

 ASICは、商号および事業名を調査するためのデータベースを提供している。商号および事業名が登記可能かどうか、あるいは市場において混同のおそれがないかどうかを判断するために、商号および事業名の調査を行うことが推奨される。さらに、オーストラリア知的財産庁の商標データベースを用いて、商標の調査を行うことが賢明である。

 

3.類似の事業名または商号

 会社法および事業名登記法は、「同一」の商号および事業名または「ほぼ同一」の事業名の登記を禁止しているが、類似の商号および事業名の登記は禁止していないため、先行権利者との間で争いが生じるおそれがある。争いが生じる場合には、公衆に混同が生じることによってブラントや名声に損害を与えるおそれがあること、もしくは先行権利を侵害していることが理由となる。例えば、登録商標に対する商標権侵害、コモンロー上の権利に対する権利侵害、または消費者保護法違反といった理由が含まれる。

 

 ある事業名の登記に対して、先行権利者が当該登記の抹消または取消を意図している場合、事業名登記法は次の二つの手段を認めている。

(1)事業名登記法第56条に基づき、先行権利者は、当該事業名の登記に対してASICへ再審請求することができ、ASICの決定に不服の場合は、行政控訴裁判所へ提訴することができる。再審は、当該事業名の登記により相当な損害を被る危険がある場合、当該事業名の登記日より15ヵ月以内に請求することができる。先行権利者が当該事業名の登記に気付かなかった正当な理由がある場合には、再審請求期限の延長が認められる。

(2)事業名登記法第51条に基づき、当該事業名が商標権侵害であることを争った訴訟において、当該商標権者が勝訴した場合、裁判所は当該事業名の登記の取消を命じることができる。

 

 会社法は、商号に関して、上記の事業名登記の抹消または取消の手段に相当する規定を有していない。自己の商号に対する名声を保護し、当該商号の使用に関する排他的権利を得ようとする場合、ASICは当該商号を商標登録すべきであると推奨している。

 

 上記の法的手段以外に、先行権利者は、類似の商号または類似の事業名の所有者に対して、直接警告することもできる。場合によっては、類似の商号または類似の事業名を有する相手方と、相互に許容できる和解条件について交渉することができる。このような警告や和解交渉においては、専門家の適切なアドバイスを得ることが必要である。

シンガポールにおける商号保護

【詳細】

(1)会社法および商業登記法による規定

 下記の場合、シンガポール会社法および商業登記法に基づき、それぞれ会社登記官および商業登記官に対して、特定の企業または事業に名称の変更を命じるよう求める申立を提出することができる。

 

(i)当該名称が他の商号と同一である場合(会社法第27条(1)(b)/商業登記法第13条(1)(b))。

(ii)当該名称がいずれかの商号に「極めて類似している」ため、「今度を生じる可能性がある」場合(会社法第27条(2)(b)/商業登記法第13条(4)(b))。

 

 シンガポール会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority :ACRA)のガイドライン第10項(iii)は、被申立人に関する下記の詳細を申立書に記載しなければならないと定めている。

 

・名称

・事業登記番号

・住所(分かる場合)

・事業の種類

・申立の根拠、すなわち当該名称がどのように類似しているか、または混同を生じているかの説明

・混同の証拠(ある場合)

 

 類似の名称に関する申立は、被申立人が設立あるいは登記された日付から12ヶ月以内に提出しなければならない(会社法第27条(2A)/商業登記法第13条(6))。同一の名称については、申立期限はない。

 

 名称が同一であるか否かを判断する場合、下記の用語は無視される:「The」、「Private」、「Pte」、「Sendirian」、「Sdn」、「Limited」、「Ltd」、「Berhad」、「Bhd」、「Limited Liability Partnership」、「LLP」、「company」、「and company」、「corporation」、「Incorporated」、「Asia」、「Asia Pacific」、「International」、「Singapore」、「South Asia」、「South East Asia」および「Worldwide」(会社(同一名称)規則の規則2(a)/2009年商業登記(同一名称)規則の規則2(a))

 

 ACRAのガイドライン第4項は、下記の通り定めている。

 

 「特定の名称が登記簿上の既存の名称と似ており、別の名称と混同を生じる可能性があるか否かを判断する場合、ACRAは、類似の用語が同じ順序で使用されているか否か、識別力のある用語が含まれるか否か、さらに関連する事業の種類といった要素を考慮に入れる。類似の名称の例として、「PQRS Confectionery」と「PQRS Bakery」が挙げられる。二つの名称を比較する際、ACRAは辞書に示された共通の用語も考慮すると共に、用語のわずかな違いでも混同を回避するのに十分と判断する場合もある。」

 

(2)商標法による規定

 シンガポール商標法第55条(4)に基づき、周知商標の所有者は,全部またはその重要な部分が自己の商標と同一または類似の事業標章を使用することが次に該当する場合は、その事業標章を無許可で業としてシンガポールにおいて使用することを、差止命令により禁止する権利を有する。

 

(a)それが使用される事業と周知商標の所有者との関係を示す可能性があり、かつ、当該所有者の利益を害するおそれがある場合、または

(b)当該所有者の商標がシンガポールおいて国民全体に知られている場合には、

 (i)当該所有者の商標の識別性のある特徴を不当な方法で損なう可能性がある場合、または

 (ii)当該所有者の商標の識別性のある特徴を不当に利用する可能性がある場合

 

 しかし、所有者の商標がシンガポールにおいて周知となる前に使用が開始されていた商標または事業標章の場合は、当該商標または事業標章が悪意で使用されていない限り、所有者は上記の規定に依拠してその使用を禁じることはできない(商標法第55条(6))。

 

 さらに、所有者がシンガポールにおける当該商標または事業標章の使用を知りながら、連続する5年間にわたり黙認していた場合は、当該商標または事業標章が悪意で使用されていない限り、所有者は商標法第55条(4)に基づく自己の権利を行使することはできない(商標法第55条(7))。

フィリピンにおける商号の保護

【詳細】

 フィリピンにおいて、商号は、法律により保護されており、事業名称および企業名を保護する事業名称法(Business Name Law)および会社法による保護に加え、知的財産権の一形態としても認められている。商号には所有者が苦労して獲得した名声および業務上の信用が付随しているため、これらが公衆の混同により損なわれないように、保護を受けることができる。

 

 特にフィリピン知的財産法は、事前登録なしでも商号を保護すると共に、公衆に誤認を生じるおそれのある後続のあらゆる商号の使用を違法と見なしている。関連する規定を以下に示す。

 

(フィリピン知的財産法第165条)

商号または事業の名称

165.1 名称は、その性質またはそれらを付した使用により公の秩序または善良の風俗に反することとなる場合、および特にそれらにより特定される企業の性質について当業界または公衆を欺瞞するおそれがある場合は,商号として使用することはできない。

165.2(a) 商号を登録する義務に係る法律または規則の規定にかかわらず、商号は、登録の前であるかまたは登録がなされていない場合であっても、第三者が犯す違法行為に対して保護される。

(b) 特に、商号、標章もしくは団体標章としての使用であるか否かを問わず、第三者による商号の「後追い」の使用、または公衆を誤認させる虞がある類似の商号もしくは標章の「後追い」の使用は,違法であるとみなす。

 

 判例を通じて最高裁判所は、商標と商号を区別しており、それぞれに対して異なる種類の保護を認めている。具体的に最高裁判所は、以下のように判示している。

 

 「一般的に商標は、特定の人または組織により生産または処理される物品と、他者により生産または処理されるものとを区別または識別するための標識、紋章または標章として説明されており、商品または物品に付される必要がある。一方、商号は、自分自身の名前と同様に製造業者または取引業者自身を記述するものであり、その企業が所在する場所の名前を含んでいることも多い。取引上の保護のため、取引上の混同を避けるため、さらに高い名声による優位を確保するため、商号は製造業者または取引業者の独自性を保護対象とする。商号は企業の業務上の信用に対して用いられるものであり、販売される商品に付される必要はない。つまり商号は、厳密な意味で商標とは見なされない。」