インドへの事業進出に際しての知的財産関連の留意点
【詳細】
本稿では、インドへの事業進出に際しての知的財産関連の留意点を紹介する。
(1)商標登録
企業のブランド戦略においては、第三者による誤使用や詐取を防ぐため、商標登録することが望ましい。商標登録は、その有効性と所有権に関する一応の証拠であり、商標権者に対し、登録商標を使用する排他的権利と侵害に対する救済を受ける権利を付与する。また、インドでの商標登録のみならず、インド周辺諸国(パキスタン、スリランカ、バングラデシュ、ネパール、ブータン、モルジブ、アフガニスタンおよびビルマ)においても商標登録することが重要である。これらの国々は互いに近接しており、インドはその中でも最大の市場であるため、インドで「のれん」および名声を獲得したあらゆる商標がこれらの市場において模倣されやすく、これらの国々で製造され、消費されるのみならず、インドや世界各国への模倣品の輸出にもつながる。
(2)商標原簿の確認
商標やブランド名の利用可能性を確認するため、商品発売時における他商標との抵触や無駄な費用の発生を避けるべく、先行する同一または類似の標章の存在を確認するため商標登録原簿データベースによる商標調査を行うことが望ましい。商標登録原簿は電子化されており、類似または同一標章について商標調査を行うことができる。
(3)企業登記データベースの確認
提案された商標が、既存の会社名やLLP(有限責任会社)の主要部分を構成するか否かを確認するため、インド企業省のデータベースを調査することが望ましい。このデータベースは頻繁に更新されているが、設立準備中の企業は含まれていない場合がある。
(4)「.in」拡張子を含むドメイン名の確認
提案された商標を含むドメイン名が存在するか否かについても確認するべきである。提案された商標やブランド名が既存のドメイン名と同一または類似する場合、当該商標やブランド名をドメイン名の一部として採用することは薦められない。なぜなら、ドメイン名の所有者は、異議のあるドメイン名の取消や移転を求めて「.IN紛争処理方針(INDRP)」に基づき申立を行う可能性がある。また、類似のドメイン名の使用をもって、商標権侵害で訴えられる可能性もある。さらに、商標権者にドメイン名を売却することにより金銭を得る意図をもって、周知商標をドメイン名で登録する事例も多い。
(5)知的財産権の税関登録
税関は、海外からインドへ流入する模倣品を防ぐ最初の防衛線である。2007年5月8日、中央政府は、侵害品の輸入を防ぐため、知的財産権者が自らの権利を税関登録することを可能とする知的財産権(輸入品)執行規則を公布した。この規則は、意匠権、特許権、著作権、商標権および地理的表示に適用される。インド国内にある30を超える港が税関登録制度によりカバーされている。税関登録の有効期間中、税関官吏は、権利者から受領した情報に基づき、または自らの裁量において、侵害品を含む疑義のあるあらゆる積荷を差し止めることができる。税関登録手続きは、インドへ輸入される侵害品を差止めることを目的とし、知的財産権者が税関と協力するための効果的な手段である。
(6)コモンロー調査の実施
第三者が自身の商標を使用しているか否か、さらに使用している場合には当該使用の範囲を確認するため、コモンロー調査(インターネット、市場調査、職業別電話帳および住所氏名録を含む)を行うことが望ましい。得られた情報に基づき、当該商標が使用可能であるかどうかを判断する。当該商標が使用可能であれば、商標登録出願する。また、混同を生じるほど類似する商標や記述的商標を発見するために、商標公報のモニタリングサービスを使用することも検討すべきである。
(7)商標にかかる広告
使用を通じて「のれん」と名声を獲得した商標を所有している場合、インドで商標出願を行うと同時に告知し、当該商標を広告することにより、関連セクションの公衆に、その商標がインド市場で使用され、あらゆる第三者による侵害からその商標が保護されていることが認識されるようにすることが推奨される。
(8)自らの知的財産権と営業秘密を保護するためのベンダーや事業提携者との契約
後の紛争を未然に防ぐため、ベンダーや事業提携者と秘密保持に関する契約を締結することが望ましい。広義には、企業に競争力を与えるようなあらゆる営業上の秘密情報を、営業秘密と考えることができる。契約上の義務の一部として、秘密を保持する必要のある情報を扱っていることを事業提携者やベンダーに認識させるため、情報に「秘密」と表示することが望ましい。営業秘密を保管しているデータベースやサーバー、電算機プログラムへのアクセスは、限られた人間のみに限定し、サーバーへのアクセスはパスワード等にて管理し、機密情報にアクセスさせる際には、コンピュータのスクリーン上に適切な注意を表示することが望ましい。営業秘密保護の重要性を従業員に教育し、従業員との契約については、適切な文言で作成され、かつ営業秘密の取り扱いの観点においても、問題がないことを確認することが望ましい。また、ベンダーを含む、アライアンスを形成しビジネスチャンスを得るために何らかの事業情報を共有するあらゆる第三者との秘密保持契約を締結することが推奨される。