香港における商号の保護
商号は、会社または法人の名称または事業の名称となり得る。会社の商号は会社登記の際に会社登記所に登記され、事業名は商業登記の際に税務局に登記される。外国企業が香港でビジネスを行う場合は、現地法人を設立するか外国企業の香港支店として会社登記所に登録しなければならない。また香港でのすべての事業について、その事業開始日から1カ月以内に商業登記をしなければならない(会社登記と商業登記の申請提出は別々ではなくまとめて行うことが可能である。)
商号登記、事業名登記および商標登録は、それぞれ異なる法律および登記および登録制度に準拠しており、異なる政府部門により管理され、異なる目的を果たしている。商号または事業名の登記は、その商号もしくは事業名またはその一部に関して商標権を付与するものではない。商標の排他的使用権を獲得するには、香港知的財産局において、登録対象となる商品または役務に関して当該商標の登録を取得する必要がある。
1.会社登記所に対する商号の登記(会社登記)
会社の商号は、会社条例(第622章)に基づき、会社登記所に登記しなければならない。
商号は、英語名、中国語名、または英語名と中国語名により登記することができる。ただし、英語の文字と中国語の文字との組合せによる商号は認められない。商号は、その名称が英語による場合は「Limited」という言葉で終わらなければならず、中国語による場合は「有限公司」という文字で終わらなければならない(会社条例第102条)。
商号は、既存の名称と同一であってはならず、犯罪に当たるもの、侮辱的なもの、または公益に反するものであってはならない(会社条例第100条(1)項)。省庁、政府、委員会、事務局、連盟、評議会、商工会議所、観光協会、信託、管財人などと同じ名称は、登記の前に登記官の事前承認が必要となる(会社条例第100条(2)項)。
会社の設立時における商号の登記申請に対して、会社登記所は、既存の香港の商号と同一であるかどうかを審査するが、その名称が第三者の財産権と抵触するかどうかは審査しない。言い換えると、他者の登録商標または周知商標と極めて類似の名称を用いて、香港に会社を設立できるということである。このような会社は「影の会社(shadow companies)」と呼ばれており、たいていは中華人民共和国に居住する取締役および株主を擁し、その背後には、商取引において潜在的顧客を欺くために、登録商標または多くの場合は周知商標の所有者の代表であるかのように自らを詐称する個人が存在している。
登記官は、当該名称が既存の商号と極めて類似している場合は、登記日から12か月以内に(会社条例第108条(1)項(a)および(b))、また、その名称が誤解を招くものであった場合は登記日から5年以内に(会社条例第108条(1)項(c)および(d))、また、会社条例第100条(2)項(a)もしくは(b)に基づきその名称を登記すべきではなかった場合は登記日から3か月以内に(会社条例第108条(1)項(e))、当該会社に商号の変更を命じることができる。これらの所定の期間は延長することができる。
登記官は、その名称が会社の営業内容に関して誤認を招き、公衆に被害が及ぶ可能性が高い場合、または会社条例第100条(1)項(c)もしくは(d)に基づきその名称を登記すべきではなかった場合には、登記されている期間の長さに関係なく、当該会社に商号の変更を命じることができる(会社条例第109条(1)項)。
商標権者は、自己が香港で取引しているものと同一または類似の商品もしくは役務に関して、商標権者の登録商標と同一または混同を生じるほど類似の商号が別会社によって使用されている場合には、詐称通用を根拠に、または、状況によっては商標権侵害を根拠に民事訴訟を提起することができる。
登記を求める商号が既存企業により既に登記されているかどうかを確認するために、会社登記所電子調査サービスを利用して、商号調査を行うことができる。
2.税務局に対する事業名の登記(商業登記)
事業名は、事業の運営に用いられるものであり、個人、パートナーシップまたは香港内外で設立された会社により香港で営まれているあらゆる事業とその事業名は、商業登記条例(第310章)に基づき、税務局に登記しなければならない。
下記の場合には、実際の事業が営まれていない場合でも、商業登記が要求される。
(a)香港で実際の事業が営まれているかどうかに関係なく、会社が香港において事業所を設立した場合。
(b)香港において事業所を設立したかどうかに関係なく、非香港企業が香港において駐在員事務所もしくは連絡事務所を有する、または香港において自己の財産を貸し出している場合。
なお、会社は自己の事業を営むために、複数の異なる事業名を使用および登記することができる。商号と同様に、事業名は英語名、中国語名、または英語名と中国語名により登記することができる。
オーストラリアにおける商号の保護
【詳細】
事業名または商号が登記された場合、当該法人がオーストラリアの商事法令の要件を満たしていることを意味する。ただし、事業名または商号を登記しても、以下には注意が必要である。
(1)他者による類似の事業名および商号の登記を阻止できない。
(2)当該事業名または商号を使用するための所有権または排他的権利が付与されるわけではない。
(3)既に同一名称を商標登録している商標権者が当該登録商標を使用することを阻止できない。
(4)商標権侵害等の権利行使に対して防御できない。
1.事業名の登記
2011年11月3日より施行されている事業名登記法では事業名の登記を認めているが、次の場合には登記できない。
(1)既に登記されている事業名と同一またはほぼ(nearly)同一のもの。
(2)使用が禁止されている言葉または表現を含むもの(ASICから同意を得ているものを除く)
(3)次の理由により、ASICが使用できない名称として決定しているもの。
(a)公衆に不快感を与える可能性があること。
(b)誤認混同のおそれがあること。(例:政府関係組織であると誤認させるもの。)
ASICが発行する「事業名登記実務」(2015年版)では、既に登記されている事業名と「同一またはほぼ同一」であるかを判断するための基準が示されている。この判断を行う際、事業名登記実務では、次の事項は判断の対象としない。
(1)冠詞の使用(例:a、an、theを事業名の最初に付すこと。)
(2)事業形態の使用(例:協会、組合、合弁会社、有限会社等の使用)
(3)単語が複数形か単数形か(例:Children とChild)
(4)文字の大きさ、フォント、大文字か小文字か、アクセント、スペース、句読点
(5)単語の順序
(6)インターネット・ホスト名の使用(例:www、net、org、com)
事業名登記実務では、既に登記されている事業名と「同一またはほぼ同一」であるかの判断において、同等として扱うべき単語について言及している。例えば、CorporationとCorp、AustralianとAustは、「同一またはほぼ同一」とされている。また、事業名登記実務では、同じ意味を持つため、「同一またはほぼ同一」と判断される単語または表現として、次のような例を上げている。
(1)accom、accomodationおよびholiday accomodation
(2)body care、skincareおよびskin therapy
(3)coffee bar、coffee house、coffee lounge、coffee shopおよびespresso bar
事業名は、発音が同じであれば、「同一またはほぼ同一」と判断され得る。例えば、Creative@Workは、Kre8tive at work と「同一またはほぼ同一」と判断される。
「同一またはほぼ同一」の判断基準は狭いため、類似の事業名であれば登記される。例えば、ASICは、The Pretty CupcakeはPretty Cupcakesと「同一またはほぼ同一」と判断するが、Mike’s BikesはMike’s Bikes and Skatesと「同一またはほぼ同一」ではないと判断する。
2.商号の登記
2001年7月15日より施行されている会社法第147条では商号の登記を認めているが、次の場合には登記できない。
(1)既に登記されまたは仮登記されている商号と同一のもの。
(2)既に登記されまたは登記保留となっている事業名と同一のもの。
(3)会社法規則により、登記が認められていないもの。(例:不快感を与える言葉を含むもの、あるいは政府関係組織または王室関係組織であると誤認させるもの。)
会社法における上記(2)および(3)の規定は、多少の差異はあるものの、事業名登記法の規定と概ね一致している。
登記要件に関して、会社法と事業名登記法における根本的な差異は、上記(1)に関する規定である。つまり、会社法においては、「ほぼ同一」の商号は不登記事由となっておらず、「同一」の商号のみ不登記事由となっている。したがって、商号に関しては、ASICにより類似の商号が登記されてしまう可能性が高い。また、会社法は、公衆に混同が生じるおそれがないと判断できる場合、ASICに対して同一の商号の登記を認める裁量権を与えている。
商号が「同一」であるかを判断する基準は、2001年の会社法規則に規定されており、事業名登記実務の規定と概ね一致している。
ASICは、商号および事業名を調査するためのデータベースを提供している。商号および事業名が登記可能かどうか、あるいは市場において混同のおそれがないかどうかを判断するために、商号および事業名の調査を行うことが推奨される。さらに、オーストラリア知的財産庁の商標データベースを用いて、商標の調査を行うことが賢明である。
3.類似の事業名または商号
会社法および事業名登記法は、「同一」の商号および事業名または「ほぼ同一」の事業名の登記を禁止しているが、類似の商号および事業名の登記は禁止していないため、先行権利者との間で争いが生じるおそれがある。争いが生じる場合には、公衆に混同が生じることによってブラントや名声に損害を与えるおそれがあること、もしくは先行権利を侵害していることが理由となる。例えば、登録商標に対する商標権侵害、コモンロー上の権利に対する権利侵害、または消費者保護法違反といった理由が含まれる。
ある事業名の登記に対して、先行権利者が当該登記の抹消または取消を意図している場合、事業名登記法は次の二つの手段を認めている。
(1)事業名登記法第56条に基づき、先行権利者は、当該事業名の登記に対してASICへ再審請求することができ、ASICの決定に不服の場合は、行政控訴裁判所へ提訴することができる。再審は、当該事業名の登記により相当な損害を被る危険がある場合、当該事業名の登記日より15ヵ月以内に請求することができる。先行権利者が当該事業名の登記に気付かなかった正当な理由がある場合には、再審請求期限の延長が認められる。
(2)事業名登記法第51条に基づき、当該事業名が商標権侵害であることを争った訴訟において、当該商標権者が勝訴した場合、裁判所は当該事業名の登記の取消を命じることができる。
会社法は、商号に関して、上記の事業名登記の抹消または取消の手段に相当する規定を有していない。自己の商号に対する名声を保護し、当該商号の使用に関する排他的権利を得ようとする場合、ASICは当該商号を商標登録すべきであると推奨している。
上記の法的手段以外に、先行権利者は、類似の商号または類似の事業名の所有者に対して、直接警告することもできる。場合によっては、類似の商号または類似の事業名を有する相手方と、相互に許容できる和解条件について交渉することができる。このような警告や和解交渉においては、専門家の適切なアドバイスを得ることが必要である。
香港における商号の保護
【詳細】
商号は、会社または法人の名称または事業の名称となり得る。会社の商号は会社登記の際に会社登記所に登記され、事業名は商業登記の際に税務局に登記される。外国企業が香港でビジネスを行う場合は、現地法人を設立するか外国企業の香港支店として会社登記所に登録しなければならない。また香港でのすべての事業について、その事業開始日から1カ月以内に商業登記をしなければならない(会社登記と商業登記の申請提出は別々ではなくまとめて行うことが可能である。)
商号登記、事業名登記および商標登録は、それぞれ異なる法律および登記および登録制度に準拠しており、異なる政府部門により管理され、異なる目的を果たしている。商号または事業名の登記は、その商号もしくは事業名またはその一部に関して商標権を付与するものではない。商標の排他的使用権を獲得するには、香港知的財産局において、登録対象となる商品または役務に関して当該商標の登録を取得する必要がある。
1.会社登記所に対する商号の登記(会社登記)
会社の商号は、会社条例(第622章)に基づき、会社登記所に登記しなければならない。
商号は、英語名、中国語名、または英語名と中国語名により登記することができる。ただし、英語の文字と中国語の文字との組合せによる商号は認められない。商号は、その名称が英語による場合は「Limited」という言葉で終わらなければならず、中国語による場合は「有限公司」という文字で終わらなければならない(会社条例第102条)。
商号は、既存の名称と同一であってはならず、犯罪に当たるもの、侮辱的なもの、または公益に反するものであってはならない(会社条例第100条(1)項)。省庁、政府、委員会、事務局、連盟、評議会、商工会議所、観光協会、信託、管財人などと同じ名称は、登記の前に登記官の事前承認が必要となる(会社条例第100条(2)項)。
会社の設立時における商号の登記申請に対して、会社登記所は、既存の香港の商号と同一であるかどうかを審査するが、その名称が第三者の財産権と抵触するかどうかは審査しない。言い換えると、他者の登録商標または周知商標と極めて類似の名称を用いて、香港に会社を設立できるということである。このような会社は「影の会社(shadow companies)」と呼ばれており、たいていは中華人民共和国に居住する取締役および株主を擁し、その背後には、商取引において潜在的顧客を欺くために、登録商標または多くの場合は周知商標の所有者の代表であるかのように自らを詐称する個人が存在している。
登記官は、当該名称が既存の商号と極めて類似している場合は、登記日から12ヵ月以内に(会社条例第108条(1)項(a)および(b))、また、その名称が誤解を招くものであった場合は登記日から5年以内に(会社条例第108条(1)項(c)および(d))、また、会社条例第100条(2)項(a)もしくは(b)に基づきその名称を登記すべきではなかった場合は登記日から3ヵ月以内に(会社条例第108条(1)項(e))、当該会社に商号の変更を命じることができる。これらの所定の期間は延長することができる。
登記官は、その名称が会社の営業内容に関して誤認を招き、公衆に被害が及ぶ可能性が高い場合、または会社条例第100条(1)項(c)もしくは(d)に基づきその名称を登記すべきではなかった場合には、登記されている期間の長さに関係なく、当該会社に商号の変更を命じることができる(会社条例第109条(1)項)。
商標権者は、自己が香港で取引しているものと同一または類似の商品もしくは役務に関して、商標権者の登録商標と同一または混同を生じるほど類似の商号が別会社によって使用されている場合には、詐称通用を根拠に、または、状況によっては商標権侵害を根拠に民事訴訟を提起することができる。
登記を求める商号が既存企業により既に登記されているかどうかを確認するために、会社登記所電子調査サービスを利用して、商号調査を行うことができる。
2.税務局に対する事業名の登記(商業登記)
事業名は、事業の運営に用いられるものであり、個人、パートナーシップまたは香港内外で設立された会社により香港で営まれているあらゆる事業とその事業名は、商業登記条例(第310章)に基づき、税務局に登記しなければならない。
下記の場合には、実際の事業が営まれていない場合でも、商業登記が要求される。
(a)香港で実際の事業が営まれているかどうかに関係なく、会社が香港において事業所を設立した場合。
(b)香港において事業所を設立したかどうかに関係なく、非香港企業が香港において駐在員事務所もしくは連絡事務所を有する、または香港において自己の財産を貸し出している場合。
なお、会社は自己の事業を営むために、複数の異なる事業名を使用および登記することができる。商号と同様に、事業名は英語名、中国語名、または英語名と中国語名により登記することができる。