中国における意匠出願の補正
1. 出願日から2か月以内の自発補正
出願人は、出願日から2か月以内に意匠出願書類を自発補正することができる(専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第57条第2項)。ただし、出願時に提出した図面に表れた事項の範囲を超えてはならない(中国専利法(以下「専利法」という。)第33条)。また、出願日から2か月を超えた場合の自発補正は、当初の出願における不備を解消するものであり、かつ意匠登録の見込みがある場合に認められる。
ただし、以下の補正については、当初の出願書類に存在した不備を解消するためのものとは認められず、出願日から2か月を超えているため、自発補正を行っていないものとみなす旨の通知書が発行される(専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第3章10.1)。
(i) 全体意匠を部分意匠に変更する補正
(ⅱ) 部分意匠を全体意匠に変更する補正
(ⅲ) 部分意匠の意匠登録を受けようとする部分を変更する補正
すなわち、審査指南において、出願日から2か月を超えた場合の上記3つの補正は認められないという明確な制限があるものの、出願日から2か月以内にこれらの補正が認められるか、否かについては明確に規定されていない。中国の実務上の運用からすれば、出願日から2か月以内であれば、上記3つの補正が認められると考えられる。
なお、補正書が提出されていたにもかかわらず審査官が補正前の書面で登録査定をした場合のように、自発補正にかかる不備が審査官によるものである場合を除き、登録査定後に自発補正書が届いた場合は、その補正は通常認められない。
2. 拒絶理由通知または補正指令への応答時の補正
中国では、意匠については無審査登録制度が採られているため、意匠出願に対して公知意匠を調査した上での実体審査は行われず、原則的には方式審査のみとなるが、意匠権付与のための要件を明らかに満たしていない場合には、実質要件欠如の審査が行われることがある(実施細則第50条、審査指南第1部第3章3.3)。その結果として拒絶理由通知または補正指令が出された場合、これらに応答する際に、出願人は出願書類を補正することができるが、通常、拒絶理由通知または補正指令を受け取った日から指定期限である2か月以内に応答しなければならない(審査指南第1部第3章3.4、第5部第7章1.2)。
拒絶理由通知または補正指令に指摘された不備と無関係の補正をした場合は、その補正が、出願時に提出した図面に表れた事項の範囲を超えておらず、かつ、出願時の不備を解消するもので、意匠登録の見込みがある場合、一般的には認められている。ただし、下記のいずれかに該当する場合、補正が当初の図面に表れた事項の範囲を超えていなくても、通知書に指摘された不備を解消するための補正とは認められないとして受理されない(審査指南第1部第3章10.2)。
(i) 全体意匠を部分意匠に変更する補正
(ⅱ) 部分意匠を全体意匠に変更する補正
(ⅲ) 部分意匠の意匠登録を受けようとする部分を変更する補正
補正が出願時に提出した図面に表れた事項の範囲を超えているか否か(新規事項追加に該当するか否か)は、願書に添付の図面に表れた事項の範囲に基づいて判断される。なお、優先権主張に係る書類の提出があっても、その優先権主張に係る書類は判断材料にはならないとされている。
3. 物品名、図面、意匠の簡単な説明の補正
次に、補正(専利法第33条)に関する実務上の経験に基づき、「(1) 物品名の補正」、「(2) 図面の補正」、「(3) 意匠の簡単な説明の補正」について説明する。
(1) 物品名の補正
補正後の物品名が、図面に表された物品に一致すれば、出願時に提出した図面に表された事項の範囲内の補正であると認められる。例えば、図面に家屋が表されている場合、これを「おもちゃ」と認識することができれば、物品名を「家屋」から「家屋おもちゃ」に変更することができる。また、部分意匠において、物品名の欄に全体物品の名称のみが記載されていた場合、出願時に提出した図面に表れた意匠登録を受けようとする部分に一致する名称への補正は認められる。例えば、物品名を「自動車」とした自動車ドアの部分意匠出願の場合、物品名を「自動車ドア」に変更する補正は認められる。
(2) 図面の補正
(a) 新規事項追加に該当する補正
・出願時に提出した図面に表されておらず、かつ、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できないものを示す図面を追加する補正は、新規事項追加に該当する。
・該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できない形状を、図面に追加する補正は、新規事項追加に該当する。
・出願時に提出した図面に表された物品の一面に、存在しなかった模様を追加する補正は、新規事項追加に該当する。
・出願時に提出した図面に表された物品の形状または模様が完全ではなく、補正後の図面における形状および模様が完全に表される場合、追加分が、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できなければ、補正は新規事項追加に該当する。
・出願時に提出した図面に、物品の透明性により可視的になったデザインが表れておらず、補正後の図面にそのデザインが表れた場合、当該デザインが、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できなければ、補正は新規事項追加に該当する。
・補正後の物品形状(全体の形状および部分の形状を含め)が出願時に提出した図面と明らかに異なる場合、補正は新規事項追加に該当する。
・補正後の模様が出願時に提出した図面と明らかに異なる場合、補正は新規事項追加に該当する。
・色彩の保護を求める場合、図面に表れた意匠の色彩を大幅に変更する補正は、新規事項追加に該当する。
・物品の視認性に乏しい面、他の面と同一の面または対称の面を示すもの以外の図面を削除する補正は、新規事項追加に該当する。
・出願時に提出した図面に物品の透明性により可視的になった意匠が表れており、補正後の図面にその意匠が表れていない場合、補正は新規事項追加に該当する。
(b) 新規事項追加に該当しない補正
・出願時に提出した図面に表された意匠を示す単独図面を追加する補正は、新規事項追加に該当しない。
・該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できるものを示す図面を追加する補正は、新規事項追加に該当しない。
・意匠への微細な追加または削除する補正の場合、その意匠が出願時に提出した図面に表れていなくても、直ちに新規事項追加に該当する補正であるとみなされない場合もある。例えば、下記のような補正は、新規事項追加に該当しない。

・出願時に提出した図面に図面の不一致などの形式的不備があり、このような不備を解消するための補正は、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できるものであれば、新規事項追加に該当しない。
・図面名称の補正は、通常、新規事項追加に該当しない。
・物品の視認性に乏しい面、他の面と同一の面または対称の面を示す図面を削除する補正は、新規事項追加に該当しない。
・内部の構造を示す破線、R(ラウンド)線、陰影線などの不必要な線を削除する補正は、新規事項追加に該当しない。
・意匠に係る物品以外の物品を削除し、この物品の削除により露出した部分の意匠が、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できるものであれば、この補正は新規事項追加に該当しない。
(3) 意匠の簡単な説明の補正
・意匠の簡単な説明の補正が新規事項追加に該当するかどうかは、図面に基づいて判断される。物品名、用途、創作要点、公報公告用指定図面、多意匠一出願の基本意匠、物品の透明な部分、意匠の構成単位の連続形態に関する説明、細長い物品の中間省略、物品が透明材料または特殊材料からなること、色彩請求、組物意匠に関する説明、部分意匠に関する説明などの内容は、図面に基づくものであれば、いくら追加・削除・変更しても、新規事項追加にならない。
・出願時に提出した図面から、意匠の簡単な説明に誤りがあると直接的、一義的に判断できれば、その誤りを訂正するための補正は新規事項追加にならない。
【留意事項】
中国意匠出願における図面の取り扱いは、日本出願の場合と比べると厳しいので注意を要する。
例えば、出願図面の正面図に表わされている一本の線が、左側面図において表わされていないような場合、その不一致が、日本の意匠法第3条第1項柱書における工業上利用できる意匠を構成しない程度のものであっても、図面が一致していることが求められる。その一本の線が必須の線(例えば明らかに稜線を示すもの)であれば、左側面図を正面図に一致させる方向での補正が求められ、その一本の線について出願人の選択に委ねられるものであるならば、補正を選択して不一致を解消することが求められる。
図面の不一致が是正不能と判断され、補正却下されるケースが増加しつつあり、一方、その後の権利行使の際に発見された図面の不一致等の不備が登録の無効理由となることも予想されるため、中国意匠出願を行う際には、出願人の主張したい意匠的要部が正しく表現されているか否かも含め、出願図面の慎重な取扱いが必要である。
なお、現在の運用では、意匠登録を受けようとする部分が、相対的に完全な構成単位(比較的完全なデザインユニット)であるか(勝手に決定された範囲ではないか)についての審査が厳しい(審査指南第1部第3章7.4(10))。そして、前述の「2.拒絶理由通知または補正指令への応答時の補正」にも述べたように、審査段階で意匠登録を受けようとする部分を変更する補正は認められないため、「相対的に完全な構成単位(比較的完全なデザインユニット)ではない」と判断された場合、意匠登録を受けようとする範囲を変更するような補正もできず、その結果、権利化できないというリスクがある。したがって、中国に部分意匠出願する場合、意匠登録を受けようとする部分が中国の実務要件を満たすかどうかなどについて、中国の現地事務所に確認すべきである。
中国における商標の審決の調べ方
1. 商標関連の審決は、国家知识产权局商标局 中国商标网(日本語「国家知識産権局商標局 中国商標網」;以下「中国商標網」という。)のウェブサイトに掲載されている。2016年3月17日から現在までの審決については、全文閲覧が可能である。
なお、従来、「商标评审委员会」(以下「評審委員会」という。)の審決は、国家商工行政管理総局のウェブサイトで閲覧することができたが、2018年11月15日に商標局、評審委員会および商標審査協力センターが統合され、商標の審査業務に係わる事務手続はそのまま国家知識産権局商標局で取り扱われることになり、審決は中国商標網にて閲覧可能となった。また、この組織再編に伴って、評審委員会と商標審査協力センターは、廃止された(【ソース】の「商標局の紹介」および「国家知識産権局第295号公告」を参照)。
以下では、中国商標網における審決の閲覧方法を紹介する。
中国商標網のウェブサイト(https://sbj.cnipa.gov.cn/)にアクセスし、中央のメニューの上段の右から2番目にある「商标评审文书」(図1の赤枠)をクリックする。

なお、初めて中国商標網において商標検索を利用する場合は、中国商標網のウェブサイト(https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/index.html)(図1)にアクセスし、ユーザー登録をする必要がある(ユーザー登録の方法については、JETROが公開している「中国商標網のユーザー登録マニュアル(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/pdf/manual_202405_2.pdf)」)を参照。なお、ユーザー登録に際し、パスワードは、英字の大小文字、数字、特殊文字全てを含む必要がある点に注意が必要である。)。
ユーザー登録が完了したら、改めて中国商標網のウェブサイトにアクセスし、「商标评审文书」(図1の赤枠)をクリックすると、図2に示す画面に遷移する。
2. 次に、画面(図2)の「我接受」(図2の赤枠)をクリックすると、画面(図3)に遷移する。

3. 図3の画面は、新規で使用する際のユーザー登録の画面と同じであるが、改めて、以下の番号順にしたがって必要事項を入力する。当該番号は、図3右端の番号に対応する。

1) 項目(1)の「非大陆地区用户(中国大陸以外のユーザー)」をクリック。
2) 項目(2)の空欄にユーザー登録したメールアドレスを入力。
3) 項目(3)の空欄にユーザー登録したパスワードを入力。
4) 項目4)の「获取验证码(確認コードを取得)」をクリックすると、「60s后重试」が表示され60秒のタイマーがスタートし、60秒程度で確認コードが登録したメールアドレスに送られてくる。なお、このタイマーは60秒以内に確認コードを入力することを意味している訳ではない。確認コードは、shangbiaoyanzheng@cnipa.gov.cnから、以下のような内容のメールが送られてくる。
「请输入验证码627204完成邮箱验证(5分钟内有效)。如非本人操作请忽略。(認証コード627204を入力し、メール認証を完了してください(5分以内有効)。自分で操作していない場合は、無視してください。)」
上記のメールの到着から記載された制限時間内(上記の場合は5分以内)に、同じ端末から項目(4)の空欄にメールに記載された6桁数字(確認コード)を入力する。なお、制限時間については30分などに変更される場合もあるので留意されたい。
また、月曜日の朝などの混雑時や、何度も「获取验证码」をクリックすると、メールの送信が遅れる場合がある。2分を超えてメールが受信できなければ、日時を変えて、1)から4)の手順を改めて行うことをお勧めする。
5) 項目(5)の右に表示された4桁の英数字を左空欄に入力する。
6) 項目(6)「记住账号(アカウントを記憶する)」をチェック。
7) 項目(8)(「我已阅读并接受(読んで同意します)」)をチェックしてから項目(7)「登录(ログイン)」をクリック。
4. 図3の画面でユーザー情報を入力すると、図4「商标评审裁定/决定文书」が表示される。これ以降は、図1の画面に戻って「商标评审文书」をクリックしても図4が表示される。
空欄に検索対象の審決に関する情報を入力して「搜索」をクリックすれば、審決を検索することができ、出力される下方の審決リストの標題をクリックすれば、該当する審決の全文を閲覧することができる。
なお、検索画面では、「注册号」に出願番号(登録番号)、「商标名称」に商標、「申請人名称」に審判請求人、「裁定/决定时间从」の左右に裁定日(決定日)の検索期間(YYYY-MM-DD)などを入力して検索することが可能である。

本サイトにおいて閲覧可能な審決は、審判請求(中国語「復審」)された案件の審決、すなわち、拒絶査定不服審判、登録不許可不服審判(異議決定の不服審判のこと)および不使用取消不服審判に対して下された審決(中国語「裁定」)ならびに登録商標無効審判に対して下された審決(中国語「决定」)である。
中国における商標に関する審判についての詳細は、関連記事「中国における商標不服審判制度(中国語「申請復審制度」)の概要」の、その1からその4までの各記事を参照されたい。
・その1:拒絶査定不服審判
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/37573/
・その2:登録不許可不服審判
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/14000/
・その3:登録商標無効宣告不服審判
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/14002/
・その4:不使用取消不服審判
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/37538/
5. 例として、「简小姐」(出願番号「13356941」)という商標に関する審決を検索する方法を示す。図5の画面のように「13356941」を「注册号」の欄に入力して、「搜索」をクリックすれば、当該審決(裁定書)の標題が下段に表示され、それをクリックすれば、全文(図6)を閲覧することができる。


ただし、2016年2月以前(2月を含む)の審決は全て公開されておらず、2016年3月から2017年12月までについては一部分の審決が公開されており、2018年1月以降は審決が全て公開されている。“Opencloud”(出願番号「7918522」)という商標について、上記と同じ操作をすると、最下段に「每页30条记录 共 0条记录 第1页」と表示され、該当案件の審決が閲覧できないことがわかる。
中国における専利(特許・実用新案・意匠)の存続期間
記事本文はこちらをご覧ください。
中国におけるコンピュータソフトウェア発明およびビジネスモデル発明の特許性
中国専利法(以下「専利法」という。)および関連規定に基づき発明が特許性を有するか否かを判断するには、通常、専利法第2条(特許の保護を受けることができる発明の範囲に関する一般規定)、専利法第5条(法律・公益に反する発明、法律・行政法規に違反して遺伝資源を取得または利用して完成された発明については特許権を付与しないとする規定)、専利法第22条(特許権が付与される発明が具備すべき実体的要件に関する規定)および専利法第25条(知的活動の法則および方法等については特許権が付与されないとする規定)など複数の観点から判断する必要がある。
以下、コンピュータソフトウェアに関する発明およびビジネスモデルに関する発明について、専利審査指南の改正を中心に解説する。
1. 2017年の専利審査指南改正
1-1. コンピュータソフトウェアに関する発明およびビジネスモデルに関する発明の発明適格性
コンピュータソフトウェアに関する発明およびビジネスモデルに関する発明については、従来、発明の改良の対象が方法である場合、その発明の属する技術分野にかかわらず、いずれも専利法上の特許性の要件を満たさず(専利法第2条、第5条、第22条、第25条)、権利付与されないこととなっていた。しかし、2017年の専利審査指南の改正によって、2017年4月1日から新しい判断基準が採用され、実務に変化が生じた。
中国の審査官は、審査対象の特許出願が専利法の特許性に関する規定に適合するか否かを判断する際、まず発明について保護を求める内容が専利法の保護対象に該当するか否かを判断している。その判断基準は、以下の三つの要件である。
特許出願に記載されているものが、
(1) 技術的課題を解決するためのものであるか否か
(2) 技術的手段を採用しているか否か
(3) 技術的効果を奏するか否か
上記三つの要件を全て満たしていれば、他の観点から特許出願において保護を求めるものが特許性を有するか否かを判断する。ビジネスモデルに関する特許出願を例にとれば、従来の審査においては、上述の「三つの要件」についての検討と論理付けが主な着眼点とされ、「知的活動の法則および方法」に該当することを理由として拒絶されていた。しかし、専利法、専利審査指南などの法律や規則においては、従来からビジネスモデルの特許性を明確に排除することは規定されておらず、純粋な知的活動の法則および方法のみがその特許性を排除されているにすぎない。
専利審査指南第2部第1章4.2は、例えば、組織、生産、商業の実施および経済等の分野における管理の方法や制度、コンピュータ言語および計算法則、各種ゲーム・娯楽のルール・方法、統計、会計および記帳の方法、コンピュータプログラム自体などの、知的活動の法則および方法のみに関係する請求項については、特許権を付与してはならないと規定している。
その一方で、請求項で特定されている中に、知的活動の法則および方法の内容が含まれていても、技術的特徴が含まれるのであれば、当該請求項が全体として知的活動の法則および方法にはならないため、専利法第25条第1項第2号を根拠にして特許権を取得する可能性を排除してはならないとも規定されている。
したがって、ビジネスモデルに関する特許出願については、次のように2種類に分けることができる。一つは、完全に自然人の行為によって実現されるビジネスモデル(すなわち、純粋なビジネスモデルに基づく特許出願)であり、もう一つは、コンピュータ、ネットワークなどの自動化手段を利用して実施されるビジネスモデル(すなわち、ビジネスモデル関連の特許出願)であるが、前者は、専利法第25条第1項第2号により特許性が否定されるべきだが、後者については、特許性を有するか否かは個別に判断されるべきである。
1-2. ビジネスモデルに関する特許出願の審査規定
2017年の専利審査指南の改正に伴って、国務院専利行政部門は、ビジネスモデルにかかる特許出願について審査を行う際の判断基準を改めた。特許の保護対象の判断については、技術的手段が採用されているか否かを重点的に考察するものとし、技術的手段が採用されていれば、技術の属性の要件を満たすものとされる。
専利審査指南第2部第1章2には、「技術的解決手段とは、解決しようとする技術的課題について採用する自然法則を利用した技術的手段の集合である。技術的手段は、通常、技術的特徴によって表される」と規定されているため、請求項中に技術的特徴が含まれていれば、技術的手段が採用されていることになる。この意味で、知的活動の法則および方法の内容が含まれるビジネスモデルに関する出願の内容に技術的特徴が含まれていれば、全体としては単なるビジネスモデルの特許出願にはあたらないため、専利法第2条第2項の規定に違反することを理由として特許性が否定されてはならないことになる。
逆に、ビジネスモデルに関する出願に何らの技術的手段も含まれていなければ、単なるビジネスモデルの特許出願にあたるため、特許の保護対象に該当せず、専利法第25条第1項第2号に規定する知的活動の法則および方法の範疇に該当し、また、技術的解決手段の要件(専利法第2条第2項)も満たさない。
1-3. コンピュータプログラムに関する特許出願の審査規定
ビジネスモデルに関する特許出願だけでなく、コンピュータプログラムに関する特許出願も類似した問題に直面する。2017年の改正前の専利審査指南第2部第9章2には、コンピュータプログラムに関する特許出願の審査基準が規定されており、当該特許出願がコンピュータプログラム自体のみに関係するか、または担持体(記録媒体)に記録しただけのコンピュータプログラムであれば、形態を問わず、すべて知的活動の法則に該当するとされていると規定されていた。しかし、2017年の専利審査指南の改正により、上記規定は、「当該特許出願がコンピュータプログラム自体のみに関係するか、または記録媒体に記録しただけのコンピュータプログラムそのものであれば、知的活動の法則または方法に該当する」※と従来の規定が改められた。
※ 2023年の専利審査指南の改正によってこの部分は削除された。しかし、実務上の変更はなく、改正の経緯を示すために当該規定を示した。
この改正の趣旨は、コンピュータプログラム自体、すなわち、コンピュータプログラムを表すコード、例えば、コンピュータ言語で記述されているソースコードまたはオブジェクトコードは、専利法の保護対象から排除される一方、コンピュータプログラムによって反映された技術思想は、知的活動の法則または方法に該当せず、専利法による保護を受けられるということである。さらに、2017年の専利審査指南の改正に伴って、審査実務において、記録媒体に記録されているコンピュータプログラムも、専利法によって保護を受けられると改められ、現在これに沿って審査実務が行われている。
すなわち、コンピュータプログラムに関する特許出願に技術的特徴が含まれていて技術的解決手段を構成する場合は、専利法の保護対象となる。コンピュータプログラムに関する特許出願が技術的課題を解決するためのもので、コンピュータで当該コンピュータプログラムを実行することにより外部または内部の装置等を制御または処理することに反映されているものが自然法則に従う技術的手段で、かつ、これによって自然法則に適合する技術的効果を得ているのであれば、当該特許出願がコンピュータプログラムに関係していることだけを理由にその特許性を否定してはならない。
2. 2023年の専利審査指南改正
2-1. コンピュータプログラムに関する発明の拡充
さらに、2023年の専利審査指南の改正により、コンピュータプログラムにかかる特許のカテゴリが追加され、専利審査指南第2部第9章5.2では、いわゆるコンピュータプログラム製品も権利付与の対象と規定している。また、改正された専利審査指南には、コンピュータプログラム製品を「主にコンピュータプログラムによりそのソリューションを実現させるソフトウェア製品として理解すべきである」と定義付けている。
この改正によって、コンピュータプログラムにかかる特許出願の請求項に、従来の方法、装置と記憶媒体の3つのカテゴリに加え、さらにコンピュータプログラム製品という新しいカテゴリを記載して権利取得をはかることができる。
なお、コンピュータプログラム製品のカテゴリの追加に関して、国務院専利行政部門は、インターネット技術の発展に伴い、益々大量のコンピュータソフトウェアが、従来の光ディスクや磁気ディスクなどといった有形記録媒体に依存せず、インターネットなど通信回線を介して信号の形で伝送、配信、ダウンロードを行うようになってきた状況において、コンピュータプログラムにかかる取引の実情に対応して権利保護の強化をはかるためと解説している。
2-2. アルゴリズムの特徴、またはビジネスルールおよび方法的特徴を含む発明に関する特許出願の審査規定
さらに、2023年の改正によって専利審査指南第2部第9章に、「アルゴリズムの特徴又はビジネスルール及び方法的特徴を含む発明専利出願の審査関連規定」と題する第6節が追加された。この節において、人口知能、インターネットプラス、ビッグデータおよびブロックチェーンなどに関する特許出願には、通常アルゴリズムまたはビジネスルールと方法など知的活動の法則と方法の特徴を含むため、これらの出願の審査について特別な規定を定めると記している。以下に具体的な規定の概要を紹介する。
審査の原則として、請求項によって限定されたソリューションを対象とし、技術的特徴とアルゴリズムまたはビジネスルールと方法的特徴を分けて審査すべきではなく、請求項に記載のすべて内容を一体として、それにかかる技術手段、解決しようとする技術課題および得られる技術効果について解析すべきである(専利審査指南第2部第9章6.1)。
そして、請求項にアルゴリズムおよびビジネスルールと方法的特徴以外に技術的特徴も含まれている場合、当該請求項全体として知的活動の法則と方法に該当せず、専利法第25条第1項第2号によって特許を受ける権利を排除してはならないと規定している(専利審査指南第2部第9章6.1.1)。さらに、請求項に記載の発明が、技術問題を解決するために自然法則を利用する技術手段を採用し、技術効果を得ることができれば、請求項によって限定されたソリューションは専利法第2条第2項に規定の技術的解決手段に該当すると規定している(専利審査指南第2部9章6.1.2)。
アルゴリズムおよびビジネスルールと方法的特徴を含む発明について、新規性と進歩性審査において、請求項に記載されたすべての特徴、即ち、技術的特徴とアルゴリズムの特徴およびビジネスルールと方法的特徴をすべて考慮して審査すべきであると規定している(専利審査指南第2部第9章6.1.3)。特に進歩性の審査において、技術的特徴と相互に支え合い、相互作用をするアルゴリズムの特徴またはビジネスルールと方法的特徴を当該技術的特徴と一つのものとして全体的に考慮すべきであり、アルゴリズムの特徴の技術的解決手段への貢献も考慮すべきである。
また、ここで注意すべきなのは、進歩性の審査において、発明の解決手段がユーザ体験の改善をもたらし、かつユーザ体験の改善が、技術的特徴によってもたらされたか、あるいは技術的特徴とアルゴリズムの特徴、またはビジネスルールと方法的特徴の共同によりもたらされた場合には、ユーザ体験の改善は進歩性の審査において考慮されるべきである。
3. まとめ
上述の通り、2017年に行われた専利審査指南の改正は、出願人の要望を反映し、出願および審査実務に即した形で行われた。これまでに審査の実務で時折物議をかもしたビジネスモデルおよびコンピュータプログラムに関する特許出願の審査基準をより明確に規定し、出願および審査の実情に即し、技術の進歩に寄与できるよう審査基準を改定した。さらにその後行われた専利法第4次改正に伴う2023年の専利審査指南の改正により、コンピュータプログラム製品という新しいカテゴリが追加され、コンピュータプログラムに対する保護を強化するとともに、アルゴリズムの特徴またはビジネスルールと方法的特徴を含む出願の審査に関する規定も新たに盛り込まれた。これによって、人工知能、インターネットプラス、ビッグデータおよびブロックチェーンなどに関わるいわゆるビジネスモデル関連の特許出願の審査基準を明確化し、近年関連技術の進歩に伴う出願の増加傾向に対応している。
新しい専利審査指南の施行に伴う発明の保護対象についての審査基準の緩和により、中国の特許審査の実務において、専利法第22条および第25条第1項第2号に基づく拒絶理由の適用の機会が少なくなり、技術的手段を含み知的活動の法則にも関係する特許出願に対しても、先行技術文献を用いて新規性、進歩性を判断する審査がなされるように変化している。このような審査実務の変化によって、出願人には、審査対象技術が従来技術に対して実質的に顕著な進歩があるか否かについて、より十分な意思表示と釈明の機会が与えられる。これにより、技術の発展に寄与する専利法の立法趣旨に則した審査が促進され、優れた発明に適切な保護を与えられると期待される。
中国におけるコンピュータプログラムに関わる特許出願
1. 発明の定義
1-1. 技術的解決手段
根拠規定:中国専利法(以下「専利法」という。)第2条第2項、専利審査指南(以下「審査指南」という。)第2部第1章2、第2部第9章1~2、6
専利法第2条第2項によれば、発明とは、製品、方法、またはその改良について提案された新しい「技術的解決手段」(中国語「技术方案」)をいう。コンピュータプログラムに関わる発明について中国で特許を受けたい場合、その前提として、当該コンピュータプログラムに関わる発明そのものが、専利法にいう「技術的解決手段」に該当しなければならない。コンピュータプログラムに関わる発明とは、発明で提示する課題を解決するためのものであって、コンピュータプログラムの処理フローが全部または一部の基礎となっており、コンピュータが前記フローに沿って作成されるプログラムを実行することにより、コンピュータ外部または内部の対象を制御、または処理する技術的解決手段をいう。
「技術的解決手段」は、技術的手段、技術的課題、技術的効果をともに備えなければならない。したがって、明細書では、本発明が解決しようとする技術的課題、課題を解決するための技術的手段(技術的特徴)および得られる技術的効果を、できるだけ明確に記載すべきである。
請求項に記載される発明は、専利法にいう「技術的解決手段」の要件を満たさなければならない。請求項に記載される発明は、技術的手段により技術的課題を解決し、技術的効果を奏するものでなければならない。
・「技術的解決手段」に該当する具体例
(a) コンピュータプログラムに関わる請求項において、プログラムを実行する目的が、技術的課題を解決すること(例えば、産業上の制御、測定や試験のプロセスを実現すること、または外部技術データを処理すること、またはコンピュータシステムの内部性能を改良すること)にあり、コンピュータでプログラムを実行することにより外部または内部の対象に対して行う制御または処理が、自然法則に従う技術的手段であり、かつこれにより自然法則に適合する技術的効果(例えば、プロセス制御効果、技術データ処理効果、コンピュータ内部性能の改良効果など)を得られる場合は、技術的解決手段に該当する。
(b) アルゴリズムの規定を含む発明(当該アルゴリズムに基づく請求項)が、ある技術分野に適用され、技術的手段を利用してこの分野の技術的課題を解決し、それ相応の技術的効果を得られる場合は、技術的解決手段に該当する。
1-2. 知的活動の法則および方法
根拠規定:専利法第25条第1項第2号、審査指南第2部第9章2
発明そのものが知的活動の法則および方法に該当する場合、特許を受けることができない。
・知的活動の法則および方法に該当する具体例
(a) 請求項を限定するすべての内容が、計算方法あるいは数学上の計算規則、もしくはプログラム、またはゲームの規則や方法のみに係るものである場合には、実質的に、知的活動の規則および方法のみであり、専利法の保護対象とはならない。
(b) 記憶されたプログラムそのものによってのみ限定されるコンピュータ読み取り可能な記憶媒体、またはコンピュータプログラム製品、あるいは、ゲーム規則のみによって限定されており、いかなる物理的な実体も含まない特徴によって限定されるコンピュータゲーム装置は、実質的に、知的活動の規則および方法のみに係わるものであるため、専利法の保護対象とはならない。
ただし、記録媒体自身に発明があり、単なるプログラムが記録された記録媒体に該当しない場合、記録媒体は一般の物を記載した請求項として扱う。
また、コンピュータプログラムのフローにより特定される記録媒体は、知的活動の法則および方法に該当せず、特許を受けることができる。
2. コンピュータプログラムに関わる請求項の作成
根拠規定:審査指南第2部第9章5.2
コンピュータプログラムに関わる請求項は、方法を記載した請求項として作成してもよく、例えば、当該方法を実現させる装置、コンピュータ可読記録媒体、コンピュータプログラム製品などの物を記載した請求項として作成してもよい。以下の点に留意する必要がある。
2-1. 明細書による請求項の記載のサポート
方法を記載した請求項か、あるいは物を記載した請求項かを問わず、請求項の記載は、明細書によりサポートされるものでなければならない。具体的には、課題を解決するための手段を記載しなければならず、コンピュータプログラムが具備する機能、およびその機能による効果のみの記載では足りない。
2-2. 方法を記載した請求項の作成
方法を記載した請求項を作成する場合、方法の手順に従って、このプログラムにより実現する各機能、およびそれらの機能をどのように実現するかを詳細に記載すべきである。
2-3. 装置を記載した請求項の作成
装置を記載した請求項を作成する場合、装置の各構成要素および構成要素同士の関係を具体的に記載しなければならず、ハードウェアだけでなく、プログラムを構成要素に含んでもよい。
2-4.コンピュータプログラムに関わる請求項の作成の具体例
コンピュータプログラムに関する装置に関する請求項の書き方として、審査指南第2部第9章5.2では、【例4】として、次の具体例が挙げられている。
【例4】「画像ノイズの除去方法」に関する特許出願は、以下のように方法、装置、コンピュータ可読記録媒体およびコンピュータプログラム製品の請求項を作成することができる。
【請求項1】・・・取得ステップと、 ・・・算出ステップと、 ・・・読み取りステップと、 ・・・判断ステップと、Yesの場合には、当該画素のグレースケール値を修正せず、Noの場合は、当該画素がノイズであり、当該画素のグレースケール値を修正することにより、ノイズを除去するステップと、を含むことを特徴とする画像ノイズの除去方法。
【請求項2】メモリ、プロセッサおよびメモリに記憶されたコンピュータプログラムを含むコンピュータ装置/デバイス/システムであって、前記プロセッサが前記コンピュータプログラムを実行することで請求項1に記載の方法のステップを実現することを特徴とするコンピュータ装置/デバイス/システム。
【請求項3】コンピュータプログラム/命令を記憶したコンピュータ可読記録媒体であって、当該コンピュータプログラム/命令がプロセッサにより実行されると、請求項1に記載の方法ステップが実現されることを特徴とするコンピュータ可読記録媒体。
【請求項4】コンピュータプログラム/命令を含むコンピュータプログラム製品であって、当該コンピュータプログラム/命令がプロセッサにより実行されると、請求項1に記載の方法のステップが実現されることを特徴とするコンピュータプログラム製品。
2-5. 方法を記載した請求項もしくはコンピュータプログラムのフローの各ステップと対応する機能モジュールを有する装置を記載した請求項の解釈
コンピュータプログラムのフローのみに基づき、当該コンピュータプログラムのフローの各ステップもしくは当該コンピュータプログラムのフローを反映した方法を記載した請求項と完全に一致するように装置を記載した請求項を記載する場合、即ち、装置を記載した請求項の各構成要素は、当該コンピュータプログラムのフローの各ステップまたはこの方法を記載した請求項の各ステップと完全に一致する場合、このような装置を記載した請求項の各構成要素は、プログラムのフローの各ステップまたはこの方法の各ステップを実現するために必要なプログラムモジュールであると解される。このような1組のプログラムモジュールにより特定される装置を記載した請求項は、主に明細書に記載のコンピュータプログラムによりこの解決手段を実現するプログラムモジュール構造として理解すべきであり、ハードウェア方式により技術的解決手段を実現する実体的な装置と解してはならない。
2-6. コンピュータプログラム製品の解釈
コンピュータプログラム製品は、主にコンピュータプログラムによってその解決手段を実現するソフトウェア製品であると解される。
3. コンピュータプログラムに関わる特許出願の審査に関する規定
根拠規定:審査指南第2部第9章6
3-1. 2019年12月31日公表の専利審査指南改正で新規追加された規定
2019年12月31日公表の改正された専利審査指南の第2部第9章6に、「アルゴリズムの特徴、またはビジネスルールおよび方法的特徴を含む発明専利出願の審査関連規定」が追加された。
(1) 中国専利法第25条第1項第(2)号(知的活動の法則および方法)の審査
請求項が抽象的なアルゴリズムまたは単純なビジネスルール・方法に関するものであり、かつ技術的要件を一切含まない場合、この請求項は、専利法第25条第1項第(2)号に規定する知的活動の法則および方法に該当するため、特許を受けることができない。請求項がアルゴリズム要件またはビジネスルール・方法要件だけでなく、技術的要件も含む場合、当該請求項は、全体としては知的活動の法則および方法ではないため、専利法第25条第1項第(2)号によりその特許保護の可能性を否定することができない。
(2) 中国専利法第2条第2項(技術的解決手段)の審査
アルゴリズムまたはビジネスルール・方法を含む請求項が技術的解決手段に該当するかどうかを審査する際に、請求項に記載のすべての要件を全体的に考慮する必要がある。当該請求項には、解決しようとする技術的課題に対して自然法則を利用した技術的手段を採用することが記載されており、かつこれにより自然法則に合う技術的効果が得られる場合、当該請求項に係る解決手段は、専利法第2条第2項に記載の技術的解決手段に該当する。
例えば、請求項において、アルゴリズムに関係する各ステップが、解決しようとする技術的課題と緊密に関連しており、例えば、アルゴリズムで処理されるデータが、技術分野において確実な技術的意味を有するデータであり、アルゴリズムの実行が、自然法則を利用して特定の技術的課題を解決する過程を直接反映し、かつ技術的効果を奏した場合、通常、当該請求項に係る解決手段は、専利法第2条第2項に記載の技術的解決手段に該当する。
3-2. 2023年12月21日公表の審査指南の改正
2023年12月21日公表の改正された審査指南の第2部第9章6「アルゴリズムの特徴、またはビジネスルールおよび方法的特徴を含む発明専利出願の審査関連規定」では、人工知能、ビッグデータおよびブロックチェーンなどの特許出願に関する審査が追加された。
(1) 中国専利法第2条第2項(技術的解決手段)の審査
請求項の解決手段がディープラーニング、クラシフィケーション、クラスタリングなどの人工知能、ビッグデータアルゴリズムの改良に関し、当該アルゴリズムがコンピュータシステムの内部構造と特定の技術的関連性を有するものであり、データ保存量の低減、データ伝送量の低減、ハードウェアの処理速度向上などの、ハードウェアの演算効率や実行効果の向上に係る技術的課題を解決でき、これにより自然法則に適合するコンピュータシステム内部性能の改良に係る技術的効果を取得した場合、当該請求項に係る解決手段は専利法第2条第2項に記載の技術的解決手段に該当する。
請求項の解決手段の処理対象が具体的な応用分野のビッグデータであり、クラシフィケーション、クラスタリング、回帰分析、ニューラルネットワークなどにより、データの自然法則に適合する内的相関関係を発掘し、これに基づいて具体的な応用分野のビッグデータ分析の信頼性や精度の向上に係る技術的課題を解決し、技術的効果を奏する場合、当該請求項に係る解決手段は、専利法第2条第2項に記載の技術的解決手段に該当する。
(2) 中国専利法第22条第3項(進歩性)の審査
請求項のアルゴリズムが、コンピュータシステムの内部構造と特定の技術的関連性を有するものであり、コンピュータシステムの内部性能の改善を実現し、データ保存量の低減、データ伝送量の低減、ハードウェアの処理速度向上などのハードウェアの演算効率や実行効果の向上につながる場合、当該アルゴリズムの構成と技術的な構成が、機能上互いに支え合い相互作用関係にあると判断することができ、進歩性の審査に際して、そのアルゴリズムの構成による発明への貢献を考慮しなければならない。
特許出願の解決手段がユーザ体験の向上をもたらすことができ、かつ当該ユーザ体験の向上が技術的な構成によってもたらされる、もしくは生み出されるものである場合、または、技術的な構成と、これと機能上支え合い相互作用関係にあるアルゴリズムの構成、もしくはビジネスルールや方法の構成との両方によりもたらされる、もしくは生み出されるものである場合、進歩性審査の時に考慮しなければならない。
4. 留意事項
日本においてはコンピュータプログラムを物として保護するが、中国では、現時点ではコンピュータプログラム自体について特許を受けることはできないものの、2023年12月21日に公表された改正審査指南の第2部第9章5.2において、コンピュータプログラム製品を請求項の主題の名称とすることが明確に許容された。
コンピュータプログラム自体が記録された記録媒体は、特許を受けることはできないが、2017年4月1日より改正後の専利審査指南が施行され、コンピュータプログラムのフローが記録された記録媒体に特許権を付与できるようになった。「コンピュータプログラム自体」とは、例えばコード化された指令の組み合わせ(例えば、C言語プログラム)を指し、「コンピュータプログラムのフロー」とは自然言語で記述される方法ステップを指す(例えば、・・・のためのステップA、・・・ためのステップB等)。
主題がコンピュータプログラムである請求項、またはコンピュータプログラム自体が記録された記録媒体に関する請求項については、実務上、技術的範囲が不明確であり、専利法第2条第2項に規定される「発明の定義」に該当しなく、または専利法第25条第1項第2号に規定される「知的活動の法則および方法」に該当するとして拒絶されることがほとんどである。したがって、コンピュータプログラムに関わる発明については、方法を記載した請求項、または物を記載した請求項で保護を図るのが望ましい。
中間処理時において、コンピュータプログラムの請求項が拒絶された場合、当該出願に対応する物を記載した請求項、方法を記載した請求項、記録媒体に関する請求項、コンピュータプログラム製品に関する請求項があるかを確認し、存在しない場合は、それらを削除せずに、物を記載した請求項、方法を記載した請求項または記録媒体に関する請求項、コンピュータプログラム製品に関する請求項に変更する補正を行うことが望ましい。実務上、このような補正は多く認められている。
中間処理時において、請求の範囲に記録媒体に関する請求項がある場合、または明細書にコンピュータプログラムまたは記録媒体に関する内容がある場合は、コンピュータプログラム製品に関する請求項の追加を行うことが望ましい。実務上、このような補正は多く認められている。
中国における専利審査指南改正について(前編)
記事本文はこちらをご覧ください。
中国における専利審査指南改正について(後編)
記事本文はこちらをご覧ください。
中国におけるハーグ協定加入後の運用について
記事本文はこちらをご覧ください。
中国における外国語証拠・参考資料の提出
1. 審査請求時に提出する参考資料
特許(中国語「发明专利」)の出願人は、実体審査(中国語「实质审查」)を請求する際、その発明に関係する出願日前の参考資料を提出しなければならない(中国専利法(以下「専利法」という。)第36条第1項)。また、特許が既に外国で出願されており、審査官から、その国が当該出願の審査のために行った検索または審査結果の参考資料の提出を求められた場合には、出願人は指定期間内にその審査結果の参考資料を提出しなければならない。正当な理由なく提出しない場合、当該出願は取下げられたものとみなされる(専利法第36条第2項)。なお、正当な理由がある場合には、その旨を国務院専利行政部門へ申し出、関係資料を入手した後に追加で提出する必要がある(専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第55条)。
実務では、提出する参考資料等については、外国語資料も認められている。外国語資料の中国語訳の提出は出願人の自由裁量に委ねられているが、審査官に外国語資料の内容をより理解しやすいよう、英語以外の外国語(日本語、韓国語、ドイツ語など)資料については、関連部分または全文の中国語訳を提出した方がよい。
2. 情報提供(中国語「提公众意见」)時に提出する先行文献、参考資料
出願公開日から公告日までの間に、特許出願に対して情報提供する際(実施細則第54条)、外国語の公報や刊行物等を先行技術文献として提出することも可能であるが、この場合も、上記第1項と同様、審査官が提出された文献の内容をより理解しやすいよう、英語以外の外国語(日本語、韓国語、ドイツ語など)文献については、関連部分または全文の中国語訳を提出した方がよい。
3. 無効審判請求(中国語「无效宣告请求」)時に提出する証拠、参考資料
中国では、登録された特許、実用新案、意匠に対して無効審判請求を行う際、外国語証拠(特許公報、刊行物、雑誌、カタログなど)を提出することが認められているが、提出された外国語証拠について、立証期間内(無効請求人の場合:無効審判請求日より1か月以内、被請求人の場合:無効審判請求された旨の通知を受け取った日より1か月以内)にその外国語証拠の全文または部分的な中国語訳を提出しなければならない。立証期間内に中国語訳を提出しない場合には、当該外国語証拠は提出していないものとみなされる(実施細則第3条第2項、審査指南第4部第3章3.8(3)、4.3、第8章2.2.1)。
部分訳を提出する場合、当該外国語証拠における中国語に訳されていない部分は、証拠として採用されない。ただし、当事者が合議体の要求に応じて当該外国語の証拠のその他の部分の中国語訳文を後から提出する場合は除く(審査指南第4部第8章2.2.1)。
外国語証拠の中国語訳に異議がある場合、指定期間内(1か月)にその外国語証拠の中国語訳を提出する必要がある。当事者双方が互いに相手方の外国語証拠の中国語訳に異議がある場合、復審・無効審理部(中国語「复审和无效审理部」)は、翻訳機関を指定し、改めてその外国語証拠の中国語訳を依頼することができる。翻訳費用は当事者双方が折半して負担し、翻訳機構の指定や費用の納付を拒否する場合、相手側が提供した翻訳文に異議がないとみなされる(審査指南第4部第3章4.4.1、第8章2.2.1)。
外国語証拠(例えば、刊行物、雑誌、カタログ等)であって、その外国語証拠が中国以外の国、地域(香港、マカオ、台湾も含む)で形成されたものである場合には、従来は、証拠形成地の国の機関による公証とその国の中国領事館による認証が必要とされていたが、2023年の審査指南の改正によって、当該国の公証機関による証明または中国と当該所在国で締結した関連条約に規定された証明手続を履行したものでよいとされ、認証は不要となった(審査指南第4部第8章2.2.2)。
さらに、2023年の審査指南の改正によって、以下の場合には当該国の公証機関による証明または中国と当該所在国で締結した関連条約に規定された証明手続の履行も不要となった。
(1) 当該証拠は、香港・マカオ・台湾地区以外の中国国内における公式ルートから取得できる場合、例えば、国務院専利行政部門から取得できる外国の専利書類、または公共図書館から取得できる外国の文献資料など。
(2) 相手側当事者が当該証拠の真実性を認可する場合。
(3) 当該証拠がすでに効力発生しており、人民法院の裁判、行政機関の決定または仲裁機構の裁判によって判断される場合。
(4) 当該証拠の真実性を証明するに足るその他証拠がある場合。
4. 留意事項
審査請求時に提出する参考資料に関する専利法第36条の規定は、アメリカのIDS情報開示義務に類似する規定であるが、実務上、アメリカのように厳しく要求されていない。明細書に従来技術がすでに記載されているため、審査請求時に出願日前の明細書に記載されていない他の参考資料を改めて提出する必要はなく、対応外国出願の審査に関連する資料の提出については、審査官に資料の提出が求められた場合にのみ提出すれば足りる。
無効審判請求に用いる外国語証拠については、上記第3項で述べた立証期間内に中国語訳を提出しなければならないことに留意すべきである。また、無効審判の当事者双方は、互いに証拠調べ、翻訳文のチェックを行うため、外国語証拠の中国語訳は原文の意味通りに正しく翻訳されている必要がある。
無効審判請求に用いる外国語証拠の数が多い場合、翻訳費用を考慮して、全文翻訳に限らず、部分翻訳で対応することも可能である。ただしこの場合、翻訳されていない部分の内容は証拠能力がなくなるため、翻訳要否の判断は、慎重に検討するべきである。
中国における画像意匠の保護制度
記事本文はこちらをご覧ください。