インドにおけるブランド保護
ブランディングの中核は、企業のアイデンティティを発信することである。企業は、自社の製品について競合他社の製品との差別化を図り、洗練されたイメージを公衆に印象付けるため、戦略的な事業計画の一環として、ブランディングに多大な投資を行う。企業が自社の製品やサービスを提供する際に使用するブランド名は、一般に商標と呼ばれる。インドでは、商標とは「図形的に表現でき、かつ、ある者の商品またはサービスを他人の商品またはサービスから識別できる標章をいい、商品の形状、その包装、および色彩の組合せを含む」と定義される(インド商標法第2条(1)(zb))。このようにインド商標法は、商標を包括的に定義しており、言葉、文字、数字、図案のほか、音声商標、色彩商標、立体商標など図形的表示できて、商品と役務を識別することができる新しいタイプの商標もカバーする。
米国、英国、オーストラリアと同様に、インドはコモンローに基づく商標権を認めており、先使用主義を採用している。すなわち、登録の有無にかかわらず、最初に商標を採用し使用した者がより強い権利を有する。インドはまた、インドで使用も登録もされていない商標であっても、広く知られており、国境を越えた評判を有する周知商標の保護を認めている。
○ブランド管理
・ブランドの特定と評価:ブランド価値を最大限に活用するためには、知的財産監査(Intellectual Property Audit)を通じて、商標ポートフォリオを構成するブランドや商標を正確に特定する必要がある。これには、登録商標のみならず、使用されているが未登録の標章や、ドメイン名等が含まれる。
・先行技術調査:新たな商標の採用や導入に際して、拒絶や異議申立、無効審判請求等を回避するため、出願前に先行例調査を行うことが望ましい。
・商標の登録:商標登録により、商標権者は、当該商標を独占的に使用し、または他人に使用許諾することができる。また、商標登録により法廷確実性が生じ、訴訟に際しての商標権者の立場が強化される。
・商標の使用:商標権者は、不使用取消審判請求を受けないよう注意する必要がある。インド商標法第47条は、商標が善意で登録されたのではなく、出願日の3か月前までに使用されていないことが立証された場合、または登録証の発行日から5年3か月にわたり継続して使用されていない場合、当該商標は商標登録簿から削除されると定めている。
・商標権の更新:インドでは更新料を納付することにより、10年毎に商標権の存続期間を更新することができ、更新の回数に制限はない。更新を行わない場合、商標登録簿から削除される。
○インド財務省中央物品関税局(Central Board of Indirect Taxes & Customs:CBIC)への登録
2007年知的財産権(輸入品)執行規則は、模倣品や不正な輸入品の悪影響を排除するため、知的財産権(特許、商標、著作権、意匠権、地理的表示)を中央物品関税局(CBIC)に登録する制度を規定している。CBICへの登録により、インドで登録され有効に存続する知的財産権を侵害することが認定され、または侵害が疑われる物品の通関を停止し、差押さえ、押収する権限が税関当局に与えられる。
知的財産権が税関登録されると、データベースに当該知的財産権が登録され、インドの全入港地点で税関当局の職員が閲覧可能となる。税関当局の職員は、データベースの登録情報を確認し、知的財産権保護の観点から、侵害品や模倣品が市場に流入する前に、職権により差し押さえることができる。
税関登録は、登録日から最低5年有効である。ただし、届出人または知的財産権者が、より短い期間での税関の支援または措置を求める場合はこの限りではない。さらに、申請者は1件の申請で、侵害品や模倣品の輸出入が疑われる税関の航空貨物センター(Custom Air Cargo Complexes)、港湾(Seaports)、陸上税関局(Land Customs Stations)のすべてをカバーすることができる。
○商標権の保護と権利行使
以下に、ブランド所有者が、自らのブランドおよび商標権を保護するためイに講じることができる対策の一部を紹介する。
(1)防衛的戦略
・商標、取引標章等の特定と登録
・TMマークやRマークなど適切な商標表示の使用
・ドメイン名として商標を登録し、ドメイン名の不法占拠に対抗する
・登録商標のタイムリーな更新による商標ポートフォリオの管理
・公報モニタリングによる商標ウォッチを通じて、侵害者および競合の活動を把握
・インターネット上での(他社による)商標利用のモニタリング
・レーザーコーディング(レーザーによる刻印)、電子透かし技術、およびRFID等の技術的保護措置を使用した模倣品の検知
(2) 攻撃的戦略(インド商標法に基づく救済)
・侵害の場合は警告状の送付
・異議申立または訂正措置の申請
・民事訴訟または刑事訴訟の提起
○知的財産権が侵害された場合の救済策
以下の図は、知的財産権の侵害訴訟等により得られる救済を示す。
知的財産権侵害に対する救済ルートと救済内容
インド商標法は、誤認表示、不正表示、虚偽表示、侵害、詐称通用に対して、損害賠償、差止、罰金または禁固もしくはその併科による民事救済と刑事救済を定めている。
○まとめ
インド政府は、知的財産環境の更なる構築を表明しており、マドリッド協定議定書への加盟や、国内の知的財産政策により、インドでは様々な政策改革が今後も予想される。
インドにおけるブランド保護
【詳細】
ブランディングの中核は、企業のアイデンティティを発信することである。企業は、自社の製品について競合他社の製品との差別化を図り、洗練されたイメージを公衆に印象付けるため、戦略的な事業計画の一環として、ブランディングに多大な投資を行う。企業が自社の製品やサービスを提供する際に使用するブランド名は、一般に商標と呼ばれる。インドでは、商標とは「図形的に表現でき、かつ、ある者の商品またはサービスを他人の商品またはサービスから識別できる標章をいい、商品の形状、その包装、および色彩の組合せを含む」と定義される(インド商標法第2条(1)(zb))。このようにインド商標法は、商標を包括的に定義しており、言葉、文字、数字、図案のほか、音声商標、色彩商標、立体商標など図形的に表示できて、商品と役務を識別することができる新しいタイプの商標もカバーする。
米国、英国、オーストラリアと同様に、インドはコモンローに基づく商標権を認めており、先使用主義を採用している。すなわち、登録の有無にかかわらず、最初に商標を採用し使用した者がより強い権利を有する。インドはまた、インドで使用も登録もされていない商標であっても、広く知られており、国境を越えた評判を有する周知商標の保護を認めている。
○ブランド管理
・ブランドの特定と評価:ブランド価値を最大限に活用するためには、知的財産監査(Intellectual Property Audit)を通じて、商標ポートフォリオを構成するブランドや商標を正確に特定する必要がある。これには、登録商標のみならず、使用されているが未登録の標章や、ドメイン名等が含まれる。
・先行例調査:新たな商標の採用や導入に際して、拒絶や異議申立、無効審判請求等を回避するため、出願前に先行例調査を行うことが望ましい。
・商標の登録:商標登録により、商標権者は、当該商標を独占的に使用し、または他人に使用許諾することができる。また、商標登録により法的確実性が生じ、訴訟に際しての商標権者の立場が強化される。
・商標の使用:商標権者は、不使用取消審判請求を受けないよう注意する必要がある。インド商標法第47条は、商標が善意で登録されたのではなく、出願日の3ヶ月前までに使用されていないことが立証された場合、または登録証の発行日から5年3ヶ月にわたり継続して使用されていない場合、当該商標は商標登録簿から削除されると定めている。
・商標権の更新:インドでは更新料を納付することにより、10年毎に商標権の存続期間を更新することができ、更新の回数に制限はない。更新を行わない場合、商標登録簿から削除される。
○インド財務省中央物品税・関税局(Central Board of Excise and Customs : CBEC)への登録
2007年知的財産権(輸入品)執行規則は、模倣品や不正な輸入品の悪影響を排除するため、知的財産権(特許、商標、著作権、意匠権、地理的表示)を中央物品税・関税局(CBEC)に登録する制度を規定している。CBECへの登録により、インドで登録され有効に存続する知的財産権を侵害することが認定されまたは侵害が疑われる物品の通関を停止し、差押さえ、押収する権限が税関当局に与えられる。
知的財産権が税関登録されると、データベースに当該知的財産権が登録され、インドの全入港地点で税関当局の職員が閲覧可能となる。税関当局の職員は、データベースの登録情報を確認し、知的財産権保護の観点から、侵害品や模倣品が市場に流入する前に、職権により差し押さえることができる。
税関登録は、登録日から最低5年有効である。ただし、届出人または知的財産権者が、より短い期間での税関の支援または措置を求める場合はこの限りではない。さらに、申請者は1件の申請で、侵害品や模倣品の輸出入が疑われる税関の航空貨物センター(Custom Air Cargo Complexes)、港湾(Seaports)、陸上税関局(Land Customs Stations)のすべてをカバーすることができる。
○商標権の保護と権利行使
以下に、ブランド所有者が、自らのブランドおよび商標権を保護するために講じることができる対策の一部を紹介する。
(1)防衛的戦略
・商標、取引標章等の特定と登録
・TMマークやRマークなど適切な商標表示の使用
・ドメイン名として商標を登録し、ドメイン名の不法占拠に対抗する
・登録商標のタイムリーな更新による商標ポートフォリオの管理
・公報モニタリングによる商標ウォッチを通じて、侵害者および競合の活動を把握
・インターネット上での(他社による)商標利用のモニタリング
・レーザーコーディング(レーザーによる刻印)、電子透かし技術、およびRFID等の技術的保護措置を使用した模倣品の検知
(2)攻撃的戦略(インド商標法に基づく救済)
・侵害の場合は警告状の送付
・異議申立または訂正措置の申請
・民事訴訟または刑事訴訟の提起
○知的財産権が侵害された場合の救済策
以下の図は、知的財産権の侵害訴訟等により得られる救済を示す。
インド商標法は、誤認表示、不正表示、虚偽表示、侵害、詐称通用に対して、損害賠償、差止、罰金または禁固もしくはその併科による民事救済と刑事救済を定めている。
○まとめ
インド政府は、知的財産環境の更なる構築を表明しており、マドリッド協定議定書への加盟や、国内の知的財産政策により、インドでは様々な政策改革が今後も予想される。